作家でごはん!鍛練場
からすのゆきと

空を駆ける、海を渡る

 
 朝の早い時間ではあったが、道路はやけに空いていて、車はするすると進んだ。出発からしばらくして、小高い道を走っていると、ガードレールのずっと先に朝日にゆらめく海の色が見えた。その海は私にとって恐らく、いや絶対に、特別なものなのだという確信が、私の心に荒波を作った。ああ、身体が熱くなる。心臓が高鳴る。自然と吐く息の量が増え、ハンドルを握る両手が汗ばむ。
「ここに、来たことがあるんだ、昔」
 心配そうに私を横見る昭子には、それしか言わなかった。
 遠くに海鳥が見えた。


それは、久しぶりの旅行だった。
 何年も、本当に何年も、時間という時間を仕事にあててきた私は、ろくに遊ぶ暇もなく、したがって妻とどこかに出かけるなどという事は、どこか遠い国の文化であるようにさえ感じていた。昭子とこんなに長く家を離れたのは、恐らく新婚旅行以来のはずだった。
 会社は、不況の煽りを食らって倒産した。
 私はそれを知ったとき、正直に言えばほっとしていた。ああ、ようやくこの日々から解放されるのだ、ようやく私は深く息を吸えるようになるのだ、そんな思いが胸を占めていた。昭子も、それを聞いて悲観に暮れるでもなく、真っ先に「長い間お疲れ様」と私を労った。幸いと言うべきか、子供も遊び気もなかった私たち夫婦にはそれなりの蓄えがあったため、少なくとも明日の生活を憂うような事態には至らなかった。
「旅行にでも出かけましょうよ」
 昭子は精一杯の笑顔を作って言った。ああ、私はこの人を、労ってやったことはあっただろうかと、少し胸を締め付けられながら、私は小さな声で賛成したのだった。
「ぱーっと、ね」
 昭子の笑顔は、少しばかり自然になった。
 その都度その都度目的地を決め、現地で宿を探し、また飛び回る、という風な、でたらめの旅行となった。お互いそれなりに年を取って、もう昔のようにはしゃいで楽しんだりはできなかったが、何にせよ気の晴れるものではあった。また、長らく会話を忘れた私たちが、無言の中で相手の心情を勘ぐって気を利かせあったりするのは、恋人になる前のような、どこかくすぐったいものがあった。
 その五日目の夜、ゆっくりと風呂に浸かって少しのぼせた頭で、フロントに置いてあった大きな地図を開けた。現在地は地図の中心、のどかな田園風景が綺麗な町だ。北西の方には有名な観光地の名前がある。無難に、次はここかななどと考えていると、ふと地図の右端のとある地名が目に入った。東北南を海に囲まれた半島。数秒、私はそこをぼんやりと見つめ、その町の名前を何度も反芻した。やがて、湿った埃っぽい部屋から何年も放っておいた本を見つけるみたいに、記憶の中心で確かな感触を受けた。ああ、知っている、この場所を。遠い昔、私はこの町を訪れている。あれは多分、母が亡くなってからの事だ。父と二人で、ひと夏を、幼い日のひと夏を、この町で過ごした……
 肩に柔らかい感触がきて、さらさらと髪が私の首をかすめた。昭子が地図を覗きこみに来た。彼女はすぐに例の観光地の名前を挙げようとしたが、私は反射的にそれを遮ってしまった。〝ここに行ってみようと思う〟私がその町を指差すと、昭子は少し不思議そうな表情をしたが、特に反対することもなく、いいんじゃない、と言ってその場を離れた。


 町は閑散としていた。ぽつぽつと民家が立ち並ぶだけで今風な商店は一つも見当たらず、壁の塗料が剥がれた郵便局や、黄ばんだポスターがガラス越しに見える薬屋といった、やけに寂しい印象を与える建物ばかりを通り過ぎた。「泊まれる宿、あるのかしら」その不安は私にもあったが、無理にこの町で泊まる必要もない、海を眺めて帰るだけでもいいかもしれないと、そう思い始めていた。ただ一度だけ、時計台を囲むタイルの広場を見かけたとき、酷く胸が騒いだ。
 ゆっくりと車を走らせて海岸沿いの道にたどり着く。邪魔になることもなかろうと、車を道の脇に止めた。外に出て大きく息を吸うと潮の匂いがいっぱいに感じられた。昭子は子供のように駆け出したかと思うと、岩場まで降りられる階段を見つけて、私を手招きした。昭子は先に降りていき、見えなくなった。私もそこまで歩きながら、この道の先を眺めた。海岸沿いに、ぐねぐねと湾曲しながら、少しずつ高くなっていく。ずっと前方には緑に覆われた崖が見えた。
――あそこには、灯台があったはずだ
 ふっと浮かんできた灯台のイメージに、私は戸惑った。行ったことがあるのだろう、あそこまで。誰かと、誰かと歩いて行った、はずだ。――振り返るその顔は、太陽に隠れて暗く見えた――誰と、行っただろうか。
 昭子が私を呼んだので、岩場までの階段を急いで降りた。昭子はごつごつとした岩の上を少し大げさにバランスを取りながら歩いていた。海水は驚くほど澄んでいて、水中の岩や藻や小さな魚が、離れた場所からでも見えた。
「綺麗ね」
 昭子は振り返って、嬉しそうに笑った。揺れたスカートと海の色が似ていた。
「綺麗だな」
 私は遠いところを見て言った。昭子は軽やかに岩場を進んで、私のところへ来た。
「しばらく歩きましょうよ」
 昭子は私の手をとった。昭子の手を握るのは久しぶりの事だった。その柔らかさと小ささは、知らない人のもののようだった。
――潮の匂い
 ぐらっと、頭の中が揺れた――ああ、知っている――私は咄嗟に昭子の手を離し、その場にへたり込んだ。――この光景を、この感触を、この匂いを、知っている――昭子は驚いた。私も、戸惑っていた。――あの少女に手を引かれ、海岸沿いを歩いた……
 昭子は私の体調を案じたが、私はすぐに立ち上がり、服についた汚れを払った。結局、車に戻ろうという事になった。道路への階段を上がる途中、振り返ると、岩場を歩く男の姿が見えた。彼の服は酷く汚れていた。こんな町にも浮浪者はいるのだろうかと、私は思った。

    ***

 その半島に来たのは父の仕事のためだった。一人で放っておくにはまだ幼かった私を預けられるような親戚はおらず、夏の間私は父とともに海の綺麗なその半島で過ごした。
 ユイと名乗った少女は、私たちの宿の近くに住んでいた。ユイは私より幾分年上で、滞在中は何かと私の面倒を見たがった。ユイの優しさは少し煩わしくもあったが、母親を亡くしていた私にとって、彼女は私の知らない温もりを与えてくれる存在だった。
 海鳥たちの鳴き声が、私とユイとを包んでいた。町からずっと歩いてきて、今は海に向かって突き出ている土地の先端にいる。ここが岬?と尋ねると、ユイは遠く海の向こうを見ながら頷いた。
「ここにいるとね」
 おもむろにユイは始めた。私たちは真夏の太陽に背を向けていた。
「潮風が私を連れてってくれる気がするの」
 ユイの影の中に海鳥が止まった。私の影はちょうど岬にすっぽりはまっていたが、私より背の高いユイの影は頭の部分が陸地に収まりきらず海の波にゆらめいていた。
「どこに?」
 私の間の抜けた調子が可笑しかったのか、ユイは微笑んだ。
「どこかに、ね」
 さ、帰りましょう。夕飯の支度、もうできてるんじゃないかしら。ユイはそう言って私の手を取った。私はもう少し岬に立って海を眺めていたかったが、ユイが繋いでくれた手を離すのが嫌で、彼女について行った。
「あんなふうに――」
 すぐ目の前を通り過ぎていった海鳥を見て、ユイは小さく呟いた。最後の方は聞き取れなかった。

    ***

 昼食をとり、泊まれそうな宿を見つけると、どっと疲れが押し寄せてきた。どうしても抗えそうになかったので、私は昭子に謝りながら横になった。昭子は「いいのよいいのよ」と例のぎこちない笑みを浮かべて、「海まで散歩してくるわ」と、出かけて行った。
 そして私は夢を見た。

 目を覚ます頃には日はすっかり沈み、昭子は一人で夕飯を終えてしまっていた。一度宿に戻って声をかけたらしいのだが、私の眠りは思いのほか深かったようだ。持ってきていたお菓子やなんかを無理やり夕食ということにして、私は夜の散歩に出た。さすがに、そのままでは眠れそうになかったからだ。
外は街灯が少なかった。そもそも人が少ないのであまり必要ではないのだろう。細い道などは本当に暗い。都会に入ると感じられないが、夜は町だって眠りにつくのだと、私は思った。

 蒸し暑い夜だ。
 そして、静かな夜だ。
 起き上がってからそう時間も経っていないので、体を動かす感覚は少しぼんやりとしている。生暖かい風が、私のシャツを揺らした。じっとりと滲む汗が、シャツを背中に貼り付けるのにはそう時間がかからないだろう、そう思った。――コツコツコツ――靴がアスファルトを叩く音がいやに響く。その音は、ご丁寧にも、私がたった一人、孤独に歩いているという事実を強く意識させてくるようだった。風が潮の匂いを運ぶたび、私は今、海の魔物に魅入られて、その大きな口の中へ真っ直ぐに歩いているのではないか、その鼻息を感じているのではないか、そんな風なある種馬鹿馬鹿しい妄想を抱いてしまう。
 要するに、酷く不安なのだ。
 海岸での出来事は、というより、海岸で思い出したあの光景は、官能小説のように甘美であり、それでいて、恐怖小説のページをめくる時のような、不安と焦りを持っていた。真っ暗な、蒸し暑い、静かな夜の中にいると、その不安ばかりが闇を食らって大きくなっていく。私は努力してその不安を頭の隅にやって、純粋にその少女の事を考えるようにした。
 父と訪れたこの町で、私はとある少女と知り合った。私は彼女と随分親しくなり、二人で海岸を歩いたり――灯台まで、歩いたり……?――して、一夏を過ごし、
その少女と、別れた――のだろうか。
 一瞬、強い風が吹いた。古い道路標識の看板が揺られて音を立てた。錆び付いていたそれは、もちろん年月のせいもあるだろうが、潮風が吹き抜けるこの土地も、幾分その看板をみすぼらしいものにしていた。
 私の記憶もまた、錆び付いていた。赤く腐食したそれは、至る所がぼろぼろに欠けていて、取り出そうとすると指先に鋭い痛みが走る。
 三十年程も前の事だ。思い出せないのも無理はないし、むしろ忘れているのが普通というべきだろう。しかし私は、その少女の影が、これまでの人生全体に、覆いかぶさっているような気がしてならないのだ。何か、特別なことがあったように思える……
――記憶の抑圧
 昔友人が語った内容を思い出す。
――人間の防衛機制の一つだよ、それも強力な、ね。自分の記憶があまりにも辛すぎて、真っ当な生活を送れなくなるぐらいの妨げになるとき、脳はその記憶を意識の奥底に閉じ込めてしまうんだ。そうした記憶は大抵、何か別の形となってその人の外面に現れる。体が痛むとか、潔癖症になる、とかね。
――君はどこか、仕事に対して強迫観念的に動いているように見えるし、もしかしたら、何かしらそういうものが、あったりしてね。
 当時は雑学程度に聞いていたが、いざこういう状況になってみると、彼が最後に冗談めいて言った言葉は、そのまま私という存在を言い当てているような気にもなってくる。性格にしてもそうだが、例えば今日、海岸で昭子が振り返る姿には、凄く懐かしいものを感じた――それこそ三十年近く前の。無意識のうちに、私はその少女の面影を、昭子に重ねていたのだろうか。私が昭子に出会い惹かれた事自体が、あの少女の影響なのだとすれば、幼少期の出来事一つが私の人生を支配しているようで、空恐ろしい気分になる。それなのに、少女との具体的な思い出一つ、思い出せないなんて……!
 ああ、不安だ。どうしようもなく不安だ。混沌とする思考も、汗でシャツが張り付いた背中も、時折吹く風も、潮の匂いも、見慣れない道も、私を絡めとる闇も、すべてが不安だ。もう帰ろう。宿に戻ろう。気分転換の兼ね合いもあったこの夜歩きに、こんなにも苦しめられているようじゃ本末転倒だ。早く部屋に戻って、昭子の――少し年老いてしまった――綺麗な顔を見て、安心しようじゃないか……
十字路に立ったところで私はそう決心し、踵を返そうとした。ここに街灯はなく、幽かな月明りだけが私の視界の便りだった。


            ――足音
 

 私は強烈な悪寒に襲われた――ぺた、ぺた、ぺた……引きづるような、重そうな足音。濡れている?水が跳ねるような質感がある。――ぺた、ぺた、ぺた……――水辺の魔物。夜に潜み、大きな口を開けて、私を待っている――そんなまさか。何に怯えているんだ。怖い?怖がっている?違う、これは先程と変わらない、ただ暗鬱な気分になっているだけの……そう、これは――ぺた、ぺた、ぺた……どこからだ?私は十字路の左手の道を見た。
 月明りが照らす、白い影。
 汚れきった、ぼろぼろのシャツを着たそれは、俯きながら重そうに足を運んでいた。それは裸足で、やはり全身が濡れているようだった。
――ただの、浮浪者か
 ゆっくりと思考が冷めていくのを感じた。
――朝にも見かけた、海岸で……
 醜く伸びきった髪と髭。目元が隠れていてその視線は定かではないが、それは俯いたままこの十字路の真ん中までやってきて、何事もなかったように私の前を通り過ぎてようとした。

 その時だった。

 すれ違いざまに初めて気づいたそれに、私の心臓は大きく跳ね上がった。
 大きな風呂敷。浮浪者の服と同様酷く汚れていて、近くに来るまでは一体に見えていた。浮浪者は背中を丸めて、さも大事そうに両手でそれを抱えている。私は潰れた球のようなその形状と、風呂敷の表面に現れる質感と、妙に生臭い匂いに、どういうわけか全神経を集中させずにはいられなかった。私と浮浪者がすれ違うほんの一瞬は長く引き伸ばされ、その間私は風呂敷に視線をくぎ付けにしていた。浮浪者の背中が見えてからも、私は風呂敷のある位置をじいっと凝視していた。
「あの」
 それはほとんど、無意識と言って良かった。声が出ていた。か細い、震えた声だった。私の心臓はさらに激しく脈打った。浮浪者は私の目の前でぴたりと止まり、僅かたりとも動かなかった。その様はまた、私の眼には非常に不気味に映った。浮浪者の服の裾からは水滴がぽたりぽたりと落ちていた――潮の匂い。
「なんですか、それ」
 もう、続きを言わないわけにはいかなかった。私に背を向けて、じっと立ち止まっている浮浪者の肩に、ゆっくりと手を置こうとした。
「それを、見せ――」
 刹那、浮浪者は走り出した。決して速い動きではなかったが、私は呆気にとられてすぐに距離を離された。私も、無我夢中で走り出した。もう、それは理性を離れた行動であった。汗の感触も、生暖かい空気も、辺り一帯が闇であることも意識の範疇になく、ただ、ぼんやりとだけ見えるその背中を、それに隠れたあの風呂敷を――その中身を――私は追い続けた。
 何度目かの角を曲がると、浮浪者が何かの敷地に入っていくのが、ぎりぎりで目に入った。
 急いでそこまで――開いた鉄の門にたどり着いて、私は唖然とした。
 そこは大きな洋館だった。幽かな月明りの下で、それは病的な白さを放っていた。全体は立方体のような形で、来るものを寄せ付けないような威圧的な印象があった。寂れた海の町に、それは酷く浮いていて、文字通り浮かんでいるようでもあった。
 私はそれを目にした途端、急に呼吸が苦しくなった。上半身をぎゅううと締め付けられているような――怪物がその大きな手で私を握りつぶしているかのような――酷い痛みと苦しさだった。それでも、私は門をくぐり、玄関の前まで必死に進んだ。この扉を開けなくてはならない、その予感に似た何かが、私の四肢を支配していた。
 冷たいドアノブに手を掛けたとき、一瞬理性的な思考が蘇り、私はそれがとても非常識な行動であることに気づいた。他人の家に、深夜勝手に入るなど……しかし、既に腕に込めていた力は何の抵抗も受けず、私の理性が止める間もなく、扉は開いてしまった。
 
 屋敷の中から、眩しい程の光がこぼれる――



         ***


 岬からの帰り道だった。
 夕暮れが終わろうかという頃、辺りには優しい赤と静かな青が入り交じり、海は見たことのない表情をしていた。それは普段の景色とほんの少ししか変わらないものだったが、その繊細な色合いの変化は、どこか儚げで、吸い込まれるような魅力を生み出していた。
 海岸沿いの道路の端に立って、私は海を眺めていた。もう少し、もう少し間近で見れたならと、屈もうとした時だった。私は頭上で鳴いた海鳥の声に驚き、バランスを崩した――海はさざ波をたてながら、私を待ち望んでいた。
 瞬間、私の腕が後ろに引っ張られた。私ははっとして、つま先に力を込めて踏みとどまった。もう一度私の腕が引かれ、振り向いた先には緊張したユイの表情があった。ユイはそのまま、私を引き寄せて、力強く抱きしめた。
「気を付けないと」
 凄く、優しい香りが私を包んだ。暖かい野原の中、一面に咲く美しい花の匂いを嗅いだような、そんな香りだった。私はそこで二三呼吸するうち、このまま眠ってしまいたいと思うようになった。
「永遠は、ないから」
 ユイの肩越しに見える空を、海鳥が飛んでいた。

    ***

 扉を開けた先は六畳ほどのホールになっていた。床いっぱいに黒の磨き上げられたタイルが敷き詰められ、そのせいもあるのか外よりも空気は冷たかった。面積としては広いものの、私はどこか閉塞感を覚えた。靴箱らしき棚の上で、獅子の置物が私を睨んでいた。
「誰だ」
玄関ホールから真っ直ぐに伸びる廊下に、大きな影が被さる。声の主はつかつかと私に歩み寄った。
私はそれまでの異常な興奮とまともな現実の間に思考が上手く働かず、私を非難する男の目に、先ほどまでとは違う種類の恐怖を感じた。
「あの……私は、その」
体格の良い初老の男。白髪が混じった短髪の頭は精悍な印象だが、屋内だというのに彼は随分と固い格好をしていた。皺一つない真っ白なカッターに、ぴっしりと締められた濃紺のネクタイ。グレーのパンツは艶消しの上等そうな生地だった。
「浮浪……汚い男が、この屋敷に、入っていくのが見えまして……追いかけていたので、その……」
男は警戒心というよりも見下すような色をはっきりと押し出して、口ごもる私を観察するように眺めていた。
「大きな風呂敷を、抱えていて……濡れていました、その男も、風呂敷も」
 何を、口走っているのだろうか……私は耳から火が出る思いだった。やはり立ち去るべきだと、男に謝辞を述べようとしてもう一度口を開こうとしたが、男は
「なるほど」と短く残して、私に背を向けて廊下の先に消えてしまった。
 私には男の対応の意味が分からなかった。男の消えた先は磨りガラスのついたドアを挟んで、黄色い光が満ち溢れていた。私が呆然としていると、ドアの向こうから「入ってきなさい」と、男の叱責するような声が飛んできた。
 おずおずと、靴を脱いで上がる。

 磨りガラスの向こうに広がっていたのは、豪華絢爛とまではいかないにせよ、家主の豊かさを伺わせるには十分な、華々しい客間だった。天井からシャンデリアが吊り下げられ、室内を山吹き色に染め上げている。手前にはソファが二つ、ガラスのテーブルを挟んで向かい合い、部屋の左手奥には壁から浮き出るようにしてレンガの暖炉が、そしてその上に大きな振り子時計が掛けられていた。いずれも落ち着いた色調でありながら、それぞれが個を主張しつつ、全体として纏まっている。
 広々とした空間には、その他には手前側の壁に面した本棚や、床に敷かれた薄茶の絨毯などがあったが、一番目を引くのは私の向かいの壁にかけられた、一枚の油絵だった。
「座りなさい」男は油絵の前で立ったまま、ソファを指差した。自分の置かれた状況に混乱しないではなかったが、私は言われた通りにソファに腰掛けた。少し硬い感触だったが、上等なものはむしろそうなのだと、思うことにした。男はそれを見届けて、自身も私の向かいに座る。
「この絵が気になるかね」
 男は少し前傾して、私を食い入るように見つめながら言った。それは質問というより、この油絵を語りたくてたまらないという意思の表れのようだった。
 部屋のドアをちょうど半分に切ったぐらいのキャンパスに描かれているのは、美しい女の横顔だった。女は椅子に座り、丸い天板のテーブルに体を少し預けている。女の手が触れているのは、テーブルに置かれた鉄の鳥籠だ。小さな白い鳥と女は見つめ合っている。
「綺麗な女性ですね」
 私はそんな、阿呆のような面白くない感想を言った。男はしかし、少し喜んだようだった。
「これはね。私の妻だよ」
 男の、それまでの役人のような厳しい表情が、一瞬、ニヤリと口元を歪めた野卑なものに変わり、私はぎょっとした。
「奥様の肖像画、ということでしょうか」
「少し違うな。結果的にそうなってはいるが、これは本来私という人間のための絵だ」
 男はそこで懐から煙草を取り出し、私に了承を得るそぶりも見せずにライターで火をつけた。
「時に君は、美しさとはなんだと思う」
 男は元の仏頂面で、芸術家のような質問をした。私は既にこの男のペースに飲み込まれかけていた。この屋敷に入った当初の状況を頭半分に、私は戸惑いつつも返答をひねり出した。
「そうですね。日本的な情緒からすると、儚さとか、一瞬のうちに輝きを放つもの、とか……」
 男は私が言い終わらぬうちに天井の方を向いて嘲るように短く笑った。
「なるほど、誰かが言い出し、誰もが言ってそうな言葉だ。いやもちろん否定はしないさ。桜や夕暮れを楽しむ心は、私にだってあるからね。しかし私が話しているのは、もっと個人的な嗜好の事だよ」
「はあ」
 私はこの手の人間が苦手だった。
「私が思う美しさは」
 男はそこで僅かに左を向いた。視線の先では大きな振り子時計が、時を刻んでいる。
「永遠だよ」
 永遠。その言葉に、ざわざわと、私の胸は揺れた。
「永遠は、ほとんど全ての人間にとって必要がない。人はいずれ飽きてしまう生き物だからだ。だが、時々私のような、非常に執着心の強いものが現れる。そういう人間にとって、永遠に愛しうる、永遠を保てるものこそが、真に美しいものなのだ」
「……しかしこの絵も、いずれ朽ち果ててしまうのでは」
「なあに、そこまで厳密な意味ではないよ。私が死ぬまでの永遠だ」
 男はそう言うと、立ち上がって油絵に近づき、その女性の頬の辺りにそっと手を置いた。
「妻は永遠を形作れなかった。無論、いつかそうなることは分かっていたが、早すぎることだった。妻は病気で死んだ。それも、最期は目も当てられない有様だった。命は儚いなんて月並みなことは言いたくないが、私は時間の無常さと、世界のルールの残酷さを思い知ったよ。一日が過ぎる度、会う度会う度に彼女は醜くなっていった。例えるならそう――」
 男はそこで、ゆっくりと絵を撫でた。
「こんなふうな、美しい絵画の端に、小さな火がついたんだ。最初は気付かない程だったのが、一瞬で全てを灰に変える。そこには人の過去も尊厳も存在しない、ただの燃え滓しか残らないのさ」
 男はまた私の方を向いた。その目は、悲しみというより、鈍い金属の色をたたえていた。
「君の言う浮浪者だが」
             ――足音。
「私に残された、次の永遠――」
 暖炉の右手奥、その時になって初めて気付いたそのドアが、ゆっくりと開いた。
 やつだった。
 浮浪者はのっそりと姿を現し、私たちの方に顔を向けた。醜く伸びきった髪と髭。汚れた顔。ほとんど表情は分からない。
「たった一人の愛する娘を、彼が奪い去ったのだ」

***

 その日、ユイは時計台の下には現れなかった。

〝この町で一番綺麗な景色を見せてあげる〟町の中心の広場にある古い時計台を待ち合わせに指定したのはユイの方だったのに。私は蝉たちがどこか虚しく喚きたてる中、広場の木陰に座って何時間も彼女を待っていた。円形にタイルがしきつめられた広場に、あまり人は来ず、私に話しかける人はおろか、私の存在を認識する人さえほとんどいなかった。夏の暑さよりも喉の渇きよりも蝉の声よりも、そうした時間が続くことに私は酷く不安を覚え、耐え切れなくなってユイの家に向かうことにした。私はユイの家を既に知っていた。
 多少遠回りになりながらも無事にユイの家に着いた頃には、時刻は正午をとうにまわっていた。ユイの家は、昔ながらの瓦屋根の家がほとんどだったこの町の中で、凄く浮いていた。不自然な程に真っ白な、大きな洋館――周りを鉄柵で囲まれている。全体は立方体のように見え、威圧的な印象があった。右手奥には庭に面した小さなテラスが見える。呼び鈴を鳴らしても反応がないので、私は悪いとは思いながらも、周囲に人がいないのを確認して鉄柵をよじ登って中に入った。私の体が小さかったおかげで足場をうまく使えたため、あまり苦労はしなかった。
 玄関の重厚なドアを叩いてもやはり反応がないので、私は右手の庭に回った。ユリやアジサイやその他私の知らない草花が鮮やかに咲き誇っていたが、よくみると所々萎れていた。テラスに足を踏み入れる。天板が大理石でできた高級そうなテーブルと、それを囲む椅子が三つ。あまり使っていないのか汚れが目立った。窓から室内を覗く。電気はついていなかったが、夏の昼間で暗いということはない。誰もいないように思われたが、左奥の方でぐったりと壁に背中を預けて座っている、あるいはへたり込んでいる影が一つ――ユイだった。
 ユイを見つけた喜びと、彼女の様子がおかしい事への不安があいまって、私はどんどんとテラスから窓を叩いた。何度目かに私が彼女の名前を声に出し始めると、ようやくユイははっとしたように顔を上げ、辺りを見回してから窓を叩く私に気付いた。
 ユイはテラスの扉を開いて私を中に招いた。髪は乱れ、服は汚れていた。前日までのユイからは想像もできないような姿だった。
「ごめんね、約束すっぽかしちゃって」
 ユイは取り繕ったように微笑みながら言った。
「どうしたの、それ」
 ユイは私の指摘を笑って誤魔化した。
 彼女はそのまま私を豪華な客間まで連れて行き、ソファに座らせると、どこからか果物やらお菓子やらを持ってきて「食べて、待ってて」と言って去って行った。私は昼食もまだだったので、モヤモヤとした思いを抱えつつもユイの用意したものにありついた。壁に掛けられた大きな絵画が、少し怖かった。
 しばらくしてユイは戻ってきた。
 綺麗な髪、ほんのりと漂う優しい匂い。ユイは、やはりユイであったのだが、着替えてきた白いワンピースの丈の長さに「今日、暑いよ?」と私が言っても、「ううん、いいの」と素っ気なく返すだけだった。
 家を出てから、ユイはしばらく口を開かなかった。ぼんやりと遠い所を見ながらただ歩いている。いつものように、うるさいくらいに構ってくれないのが何だか寂しくて、私は取り留めのない話題を振ってみるのだが、彼女の返事はやはり素っ気ないものだった。
 どれくらい歩いただろうか。高い建物の少ない、つまり日陰の少ない道で、太陽は容赦なく私たちを照り付けていた。ぼんやりとしていたユイの首筋にもうっすらと汗が滲み――私に至ってはうっすらどころではなかったが――その表情も少し険しくなっていた。
「大丈夫、ちょっと休む?」
「ううん、平気」
 一休みしたかったのは、本当は私の方だったが、ユイは全く気付かないようだった。
「そういえば、ちゃんとご飯食べたの?」
「ううん……」
 沈黙。
 じりじりと、暑い。
 どこに向かっているんだろう、それすら聞いていなかった。あとどれくらくらいかかるのだろう。そんな事を考えていると、
「大きくなったら、何になりたい?」
 ユイはそう聞いてきた。
 酷く唐突ではあったが、私はユイから話しかけてくれたのが嬉しくて、少し大げさに考えるそぶりをしてから答えた。
「やっぱり、小説家かな。本読むの、好きだから。面白い本を読み終える度に、僕もこんな話を創って、いろんな人を感動させれたらなって思う。例えばね、この前の――」
 そこまで言ってから、ユイが可笑しそうに私が演説する様を眺めているのに気付き、酷く照れ臭くなった。
「……変かな」
「ううん……」
 彼女は再び前を向いた。
「素敵だなって思って」
 それだけでユイは口を閉ざしてしまったので、私は肩透かしを食らったような気分になった。
「ユイはどうなの。大人になった
ら、何になりたいの」
「今でも君より、大人だよ」
 ユイは冗談っぽく言った。
「そうじゃなくって」
「分かってるよ。うん――」
 ユイは少し先を指さした。寂れた古本屋だった。道沿いに屋根が突き出ていて、日陰になっている場所におあつらえ向きにベンチがおいてある。
 座って話そう、ということらしかった。
「とりあえず、この町を出たい。出来るだけ早く」
「ユイはここが嫌いなの?」
「嫌いっていうか――」
 隣に座っていると、歩いている時よりもユイの優しい匂いが感じられた。長袖のワンピースはやはり暑いようで、手首や手の甲にも汗のあとが見えた。
 私はその時初めて、ユイの腕の、袖が覆うか覆わないかぐらいのところが赤紫っぽくなっていることに気付いた。
「ここにいると、私は死んでしまうから」
 ユイの表情は、とても冗談を言っているようには思えなかった。
 私の不審そうな視線に気付くと、ユイは〝大丈夫だよ〟と言って私の手を軽く握った。何が大丈夫なのか、私にはわからなかったが、ユイは、今度は明るい調子で言った。
「その後は、そうだな。たくさん勉強して、たくさん本を読んで、うん。君みたいに小説に携わるのもいいかな。作家じゃなくても、編集者とかね。あるいは絵を勉強して、本の装丁をしてみたり」
「じゃあ、僕と一緒に仕事ができるね」
 ユイは少し驚いたように私を見て、ふっ、と笑った。
「そうだね」
 ユイは私を握る手を強めた。

 いつの間にか、潮の匂いが強くなっていた。
「ここだよ。この町で一番綺麗な景色が見られる場所」
 林を抜けた先に広がっていたのは、開放的な地面、その先に見える海と空、そして中心に聳え立つ青白い灯台だった。その頂上付近を、海鳥の群れが通り過ぎていく。
 灯台のふもとまで来ると、遠くから見えた印象よりもずっと、それは高く聳え立っていた。小さな窓が縦に四つ、その上に回廊や灯室がある。二十メートル、いやもっとあるだろう。灯台の先は僅かな地面を挟んで崖になっていた。恐る恐る崖の先まで歩いて下を覗くと、波が大きく水しぶきをあげて岩に当たっていくのが見えた。
 ユイが私を呼ぶので、振り返ってみると彼女は灯台の入り口で私を手招いていた。私が向かおうとすると、彼女は追いかけっこでもするように、悪戯っぽく微笑んでから灯台の内部へ――螺旋階段を上って行った。私も急ぎ彼女を追う。灯台の中で、二人の足音が反響する。

 
 そして、ユイは忽然と姿を消した。

    ***

 山吹色の洋間の中、私の目前では、身なりの良い男と、汚れきった浮浪者が対峙していた。
「お前が私の娘を、ユイを奪い去ったのだ」
男はそれまでの淡々とした調子を捨て、声を荒げて言い放った。

 言いようのない喪失感と混乱とが、私を襲っていた。
 男の言葉を引き金に、あの夏の出来事は、ユイとの日々は、私の脳裏にありありと蘇った。それと同時に、目の前の景色が意味するものに、私は酷く混乱した。
 目の前にいる男は、紛れもなく、三十年前と同じ姿の、ユイの父親だ。そしてこの洋館も、あの夏に見かけたのと同じ、ユイの家に他ならない。
――ああそうか。
――これは、夢なのだ……
「ユイを返せ」
 男は躙り寄った。浮浪者は両手で、あの風呂敷を高々と掲げた。その動作に男は身体を震わせ、風呂敷に吸い込まれるようにして浮浪者に近づいていく。
「そうだ、それだ」
 風呂敷から小さな滴が垂れ落ちていく。未だに酷く濡れているようだった。
「それを、よこせ」
 浮浪者はしかし男の呼びかけには答えず、じっと私の方を向いている。
――なんなんだ
「よこせ」
 男は短く叫ぶと浮浪者に飛びついた。二人の体は勢いよく床に倒れて、風呂敷は後方、暖炉の手前に投げ飛ばされたが、男はそれに気付かず興奮した様子で浮浪者の胸ぐらを掴み、何事か叫んでいる。
「あれは、ユイは、……の…なんだ!私に残された…なんだ!」
 それは、あの夏と変わらない光景だった。


〝ユイが消えてしまった″夜遅くに宿に戻った私を叱りつけようとした父に、子供ながらち深刻な表情で言うと、事態は動き始めた。私の支離滅裂だったらしい話ぶりにただならぬ予感を受けて、父は警察を呼んだ。しばらくして警察がやってきて、私への聞き取りが始まったのだが、酷く混乱していた私はほとんど意味のある返答ができず、灯台でユイが消えたという言葉をずっと繰り返していた。
 ユイの母親はその半年前に亡くなっており、父親はその日から仕事で半島を遠く離れていたたため、ユイがどんな場所に立ち寄りそうかという情報が少なく、操作は手間取った。ユイが自宅にいなかったのは勿論のこと、とりあえずは灯台の周辺を捜索することになったのだが、最悪なことにその夜は土砂降りの雨が振り、足跡などの手掛かりさえまったく掴めなかった。
 そうして成果なく一日が過ぎて、ユイの父親が戻ってきた。彼は私の姿を認めた途端、激しい憎しみの目を向け、私に罵詈雑言を浴びせた。当時の私は大人に、それも社会的地位の認められたものに純粋なく敵意を向けられた経験などなく、怯えきって何の反応も起こせなかった。ついに彼は私に手を上げようとしたが、それは周りの警官によって止められた。

 その時と、まるで同じなのだ。
 

 状況を整理しよう。
 まず、私は夜道をおかしな気分で歩いていた。道の途中浮浪者に出会い、導かれるようにこの洋館に入った。そこでは三十年前と同じ姿の人物が、消えた少女の名前を叫んでいる。
 これらの事を踏まえれば、私は今夢の中にいるとしか思えない。そして夢である以上、この場に在るもの、この目に映るものは全て私が元々持っていた情報を頼りに構成されていることになる。ユイの家は勿論のこと、ユイの父親の落ち着いた姿も、怒り狂った姿も、この客間や油絵にも記憶がある。いつからか私は夢を見ているのだ。
 では、あの浮浪者はどうだ……?
 過去、私はやつを知っていただろうか。いやそれよりも男の言う、あの浮浪者がユイを奪ったとはどういう事だ。やつがユイを攫った――攫ったのか?――犯人なのであれば、夢である以上、私はそのことを知っていた事になる。はっきりとその犯行を目撃していなくても、潜在的に「あの浮浪者が犯人である」という結論に至る情報を得ていたはずだ。
 しかし、あの灯台の中には、私以外に生き物の影すらなかった。あるのは回廊へと開かれたドアと、灯質の中のほこりっぽい空気と、潮の匂いだけだった。そこにはあんな浮浪者の、いや人の入り込む余地など決して無かった。
 どうやってユイは消えたのか。根本的な問題はそれだ。ユイが灯台に入ってから、私が灯台の頂上につくまでの時間、つまりユイの姿を見ていなかった時間は、長く見積もっても一分程度だろう。彼女が螺旋階段を上る音が聞こえていた時間も含めれば、それはさらに短くなる。そんな中でユイはどうやって消えたというのだ?
 物理的に不可能とは言わない。灯台の回廊から勢いよく飛び降りれば、ぎりぎりで崖を超えてそのまま海に落ちていたかもしれない。しかし灯台の頂上について僅か数十秒の間に、それを思い立つ理由が有るだろうか。ユイは私に追いかけっこに誘うような悪戯っぽい視線を送っていたのだ。そんな人間が……
 あるいは、突き落とされたか。
 例えば、浮浪者は頂上の灯室に隠れていて、やってきたユイを思い切り突き飛ばして海に落とす。その後自分も灯台から海に飛び降りる……
 意味がわからない。ユイが殺されなければならない理由も、その犯人があんなタイミングで実行をし、瞬時に自害までする、そんな事は常識的には考えられない。
 いや、少なくともユイが殺された可能性は、ある。
 彼女の着ていたワンピースは、今思えば明らかに暴行を受けた痣を隠すためのものだった。加えて、あの言葉、
「ここにいると、私は死んでしまうから」これは自らが何者かに殺されることを示唆していたのではないか。そうならば、私はあそこでユイを引き止めていれば、少なくともあの日ユイが消えることは無かったのではないか。
 暴行……あの日、ユイは家でぐったりとへたりこんでいた。浮浪者があの家に侵入して、ユイに暴行を加え去っていき、それから私がやってきたという事なのか。真っ昼間からあんな浮浪者がただでさえ目を引く豪邸に侵入するなんて、そんな目立ちすぎる事をするだろうか。いや、暴行が朝である必要はないし、あの家の中で行われたという保証もない。何より私は家の中に入ったが、目立つような乱れはどこにも見えなかった。例えば、前日の夜にユイがふらっと家を出たところを、あの浮浪者が襲って……嫌な光景ではあるが可能性の一つとしては捨てきれない。
 いや駄目だ。ユイの父親はあの日の朝に出張で家を出た。ならば暴行が行われたのは朝から昼の間という事になる。
 待てよ、暴行に関しては、ユイの父親によるものとする方が簡潔かつ論理的ではないだろうか。父親ならば、あの日の朝――もしくは前日の夜に自宅でユイを暴行することは容易なはずだ。ユイの父親のある種異常な美意識、が暴力というベクトルに変換されるというのは、ありそうな話だ。父親からの虐待が原因で、ユイは灯台から身を投げた。その可能性はある。
 しかしそうなるとまた、これが私の夢の中であるという第一条件が引っかかってくる。浮浪者が登場してこないのだ。ユイの父親が責め立てる、やつは一体何者なのだ……?

 大きな物音に、私は長い思考を止めた。
 いつの間にか、ユイの父親は立って浮浪者を羽交い絞めにしていた。首を強く絞める左腕、胴体を押さえつける右腕、そしてその先には浮浪者の胸元に突き付けられた鈍い銀色の輝き……
 浮浪者は声を上げることも、抵抗することもなく、自らの心臓に向けられたナイフをじっと見ている。二つの眼以外は黒っぽい汚れと醜く伸びきった髪と髭に覆われていて表情を読むことができなかった。父親は狂気の色を顔面に纏って、その姿勢を崩さない。
「あなた、何を」
 私は思わず近づこうとしたが父親はナイフを私の方向に向け威嚇した。私が怯むとすぐにまた浮浪者の胸に押し当てる。
「動くな」
 父親は浮浪者を引きずるようにしてゆっくりと後ずさっていく。振り子時計の音がやけに響いた。二人のすぐ後ろにあるのは浮浪者が抱えていた風呂敷。あれは、あの中身は――
 浮浪者の体が風呂敷の真上に来たところで、父親は足を止めた。
「今からこいつを殺す」
「……!」
「お前も知っているはずだ。この男がユイを殺したのだと」
 私は知らない。こんな男は決して知らない……
「もう分かっているはずだ」
 父親はげらげらと卑俗に笑い出した。
「これは、お前自身が作り出した幻影だ。この家も、私も、この男も。お前が私たちを知らないはずがないんだよ」
 父親が右腕に力を込める筋肉の動きが見えた。ゆっくりと銀色の鋭い刃先が浮浪者の胸の中に埋まっていく。浮浪者の薄汚れたシャツが、ナイフの先を中心に少しずつ赤に染まる……
 これは夢だ。夢の中なのだ。それは分かっているはずなのに、ナイフの刃先が少しずつ隠れる度、私は酷い焦燥感に駆られた。あの浮浪者に危害が与えられるのを私は恐れている。なのに、《《彼を殺そうとしているのもまた私が作り出した人物》》なのだ。
「私は今、ユイを取り返した!」
 父親は高らかに叫んだ。浮浪者の肉を貫いているナイフを引き抜き、鮮血が溢れる。零れ落ちる血液に、風呂敷が赤黒く染まる。
「この男の血と引き換えに」
 父親は高らかとナイフを掲げた。天井の照明に金属と痛烈な赤が反射される。父親はそれを勢いよく振り下ろして、私の耳にはっきりと聞こえるくらいの鈍い音が生まれた。
「……ァ……ウァァ……ァァァ」
 その呻き声は、浮浪者が初めて喉を震わせて発した音だった。父親がナイフをぐりぐりとほじくるように動かすと浮浪者の呻き声は波打つように強まった。血液は勢いよく飛び散り父親の綺麗なシャツを、絨毯を、レンガの暖炉をを汚していく。浮浪者の真下にある風呂敷は、もう元の色が分からないくらいにべっとりと血に染まっていた。
「はははははは!ユイよ!ユイよ!」
 父親が叫ぶと同時に風呂敷の中にあるナニカはもぞもぞと動き出した。内側から風呂敷を突き破るように、ぽこっ、ぽこっと《《ナニカ》》の手足のような《《ナニカ》》が蠢いている。
 ああ……あれの中身は……あの風呂敷を開けたならば……
「ユイ!もうどこにも放しはしないぞ!」
 父親は用済みと言わんばかりに浮浪者の身体を前に突き飛ばし、床に跪いて顔面を真っ赤な風呂敷にくっつくほどに近づけた。男の下腹部は、遠くからでも分かるほどに膨れ上がっていた。
「お前は母さんを超える……お前は繋ぐ、永遠を……お前はそれ程に、美しい……」
 そこに、ユイがいるのか。あの夏のユイがいるのか。三十年前と同じ輝きを持って私を見つめ、微笑んでくれるのだろうか。もしそうならば。ユイが私を再び抱きしめてくれるというならば――
 あれを開くのは私だ。
「うわあああああああ」
 私は半狂乱になって父親に体当たりをした。父親は勢いよく後方に倒れる。私は風呂敷を奪って立ち上がった。もぞもぞと動く、生の感触。風呂敷は浮浪者の血でずぶずぶに染まっていたが、私は自分の手が赤く染まっていくことには何の関心もなかった。ただ、この風呂敷の中にある生命……その確かな感触に私は酷く興奮していた。
「貴様ァァァ……」
 父親はよろよろと立ち上がり、おぼつかない足取りで私に近づいてきた。私は彼には目もくれず、ついにその布に手をかける。風呂敷は何重かに巻かれていて、一度布を捲る度にその中の鼓動が強くなっていくのを感じた。
「ユイ……」
 これで、最後だ――最後の布に、手をかける……

 刹那。

 風呂敷の中身は勢いよく飛び出した。
 私と父親は呆然と音のする方を見上げた。
 鮮血にまみれた洋間は、振り子時計の他に翼をはためかせる音が響いていた。

 可憐な海鳥は、私たちの頭上をしばらく飛び回った後、浮浪者の開けた扉を抜けて、この屋敷を去っていった。

    ***

「それは、おかしなところが多いと思うわ」
昭子から真っ先に返ってきた言葉がそれだった。
「どうして主人公は、頑なに浮浪者の存在を求めるのかしら」
「それは、どういう」
「だって、あくまで夢の中の人物なんだから、実際に存在するわけじゃなくて、何かしらの象徴として〝浮浪者″という形で現れている、とは考えられない?夢に出るライオンは、権力やエネルギーの象徴である、みたいな」

 昨夜私は、広々とした空き地の中で目覚めた。そのままとぼとぼと宿に戻り、昭子の寝顔に安心しながら、また眠りについた。
「行きたい場所がある」朝、そう言って私は昭子を連れ、灯台まで車で目指した。途中から道幅が極端に狭くなったので、そこからはずっと歩いている。
 私は昨夜の夢――ただの夢なのだろうか――の内容を、昔読んだ小説と偽って昭子に聞かせた。〝少女失踪の真相を忘れてしまったから、当ててみないか″こんな具合で。昭子は元々そういう趣味があったので、気晴らしにと快諾したのだった。

「主人公がまったくその考えを思いつかないのは変よ。まるで真相に思い当たるのを、無意識に避けてるみたい」
――抑圧された記憶は、その核心に迫ろうとするほど、脳がその邪魔をするんだ。どんどん思考がそれたり、何も思い浮かばなくなったりね。 
 昔友人がそんな事を言っていたのを思い出した。
「ユイが消えた理由もそこからわかるわ」
 私は驚いて昭子を凝視した。昭子は私のいささか過剰な反応さえ面白がるように、「答え言っちゃっていいのかしら」と悪戯っぽく微笑んだ。
 私はゆっくりと頷いた。

「浮浪者が実際にその事件に関わっていないとしたら、単純じゃない。ユイは灯台から海に身を投げたのよ」
 
 私は絶句するしかなかった。そんなことはありえない。ユイはその直前まで私と戯れていた。灯台に行ったのだって私に綺麗な景色を見せるためだったのだ。そんな人間が……しかし一方で、〝動機″を覗けば昭子の言葉を否定する要素は、思いつかないのだった。
「納得できない?」
「……動機はあるのか」
「一つはね。でも、状況的には弱いかもしれない。それ以上は流石に私にも分からないわ」
 私は決意を固めて、その先を聞いた。
 昭子はゆっくりと語りだした。
「まずユイの身体の痣だけど、これはほぼ間違いなく父親によるものね。そう判断した理由は、ユイの父親が言ってた〝永遠″の話。妻は早くに死んでしまい、残された美しい娘のユイが永遠を繋ぐという事はつまり、ユイの父親が《《ユイを、母親の代わりに〝最上の美″として愛でる》》という事よ。分かるかしら。そしてユイは、その父親からの暴行を苦に、身を投げた――最も、何故あんな状況で決意したかは、わからないけどね。風呂敷や、浮浪者についても……」


 灯台が見えた。
 そこはこの町で最も昔と変わっていない場所だった。空を海を背景に、高く聳え立つ青白い塔。大海原の揺らめきと、海鳥の群れが飛ぶ姿もまた、幼き日に見た光景と何も変わらなかった。
 昭子とともに螺旋階段を上る。二人分の足音がよく響いた。私はどこか、夢を見ているような気分だった。
 頂上の回廊に出る。崖の上、さらに高い灯台の上から見下ろす大海原は現実を忘れさせた。清々しい空気の中、一面に深い青が広がる。私は一瞬、自分が、海の上を飛ぶあの海鳥たちと同じように、空の上を漂っている錯覚を覚えた。
――あれ
 昭子が私の前に立ち、回廊の柵に手を掛けた。
――ああ
 記憶が渦巻く。
――風呂敷の中身は
「浮浪者の正体は主人公自身だよ」
 私の言葉に、昭子は振り返った。
――あの海鳥は、ユイだ

 全てを思い出した。
      
    ***

 螺旋階段を駆け上がって頂上にたどり着く頃には、私の息はすっかり上がっていた。開かれた扉の外、回廊で私に背を向けて立っているユイに声をかけようとした。
  海鳥が灯台の周りを、私達の周りを囲んでいた。
「ユイ――」
 そして、私はその光景を眼にする。

 ユイは回廊の柵に足をかけ、
 勢いよく、

 飛んだ。

 それは、一瞬だった。
 わけがわからなかった。
 ユイの身体はそのまま上空へと――

――飛翔は、しなかった

 地面から、嫌な音がした。


 私は頭が真っ白になって、一心不乱に階段を駆け下りた。
――どうして
 途中で足を踏みはずしかけたが、危ないなんて思う余裕もなく、
――ユイ
 ただただ下へと足を進めた。
 ユイは、《《地面が途切れるぎりぎりの所、崖の淵》》で、うつ伏せになって倒れていた。私はそれを見ただけで、頭の中が爆発するようだった。ふらふらと、機能しない思考とともにユイの元へ歩み寄る。
「ユイ」
 私は、恐る恐るその身体に触れた。分からない。生きているのか、死んでいるのかなんて、それだけでは幼い私には分からなかった。私は懸命にユイの身体を揺らした。身体が反転し、顔面が露わになった。恐らく、ユイは足から着地して、頭への衝撃は、最悪のものではなかったのだろう。髪の毛を、額を伝って鮮血が流れていたが、ユイの顔は美しいと言えるままだった。
「ユイ……ねえ起きてよ。ねえってば……!」
ゆっくりと、彼女の瞼は開いた。
「……よかった、ユイ……どうして」
 ユイは右手をぷるぷると震わせながら空へと突き出し、まっすぐに指差した。私は空を見上げた。
 海鳥。
「し……」
ユイはぱくぱくと口を動かして、必死に何かを伝えようとしていた。
「お……え……」
ユイの焦点の定まらない眼の奥で、しかしそれは強く輝いた。
「おひえ……」
「何……?」
「おひて……」
 ユイは、ゆっくりと両腕を動かし、這いつくばって自分の体重を支えようとした。そうしてゆっくりと、上手くはいかないのだが、前に進もうとする。
「……動けるの、ユイ……?でもそっちは――」
――崖
「駄目だよ」
「おひて……」
「ユイ、駄目だって」
「おして……」
 
  押して。

    ***

屋敷での夢。
風呂敷の中身。
糾弾される浮浪者。
その血を吸って、蘇った海鳥。
岬で、海鳥を目にしたユイは、こう言ったのだろう。
「あんなふうに《《飛べたら》》」
 ユイは灯台から《《自殺したのではない》》。《《飛ぼうとしたのだ》》。自身を縛り付ける現実から飛び立とうとした。飛べると思った。彼女はその瞬間海鳥であったのだ。
――そして海鳥は墜ちた。ぼろぼろの体で生きることを拒み、私に最後を任せた。
 つまり、《《私がユイを殺した》》。
 あの浮浪者は私の懺悔と穢れの象徴だ。魂を貶めた私の姿なのだ。だから私は糾弾された。だから私はユイの父親に殺された。だから私はユイの死体を――灯台から飛ぼうとして飛ベなかった海鳥の死骸を風呂敷で包んだのだ。だからあの海鳥は、私の血潮を、私の懺悔をもってして蘇ったのだ……
 幼い私はその記憶を封印した。そして私は、何の罪の意識も持たずに、今日までのうのうと生きてきたのだ。

 私はふらふらと回廊の柵に近づいた。
――飛ぼう
 海鳥の群れがすぐ目の前を通り過ぎる。
――私もあの中に
 ゆっくりと足を上げる
――海鳥になろう
「やめて」
 細い腕が、私の身体を引き戻した。
「行かないで」
 昭子の声は震えていた。
「贖罪だよ」
「何の……?私を置いてまで……」
 昭子は思い切り力を込めて私を柵から引きはがした。私は大きくしりもちをついて、仰向けに空を見上げる形になった。
「私と生きてよ」
 昭子は泣いていた。
 視界に映る、空を駆け、海を渡る鳥たちの中に、ユイはいるのだろうか。そんな疑問が湧いた。
 小説を書こうと思った。
――大きくなったら、何になりたい?
 その夢はいつ諦めてしまったんだろう。

 

  彼女の事を、書こうと思った。    






        

空を駆ける、海を渡る

執筆の狙い

作者 からすのゆきと
110.67.207.191

約二万字
自信作のつもりです。
ミステリ要素はありますがミステリではないです。
率直な感想をお聞かせください。

コメント

瀬尾辰治
49.98.90.97

からすのゆきとさん、率直な感想。
一人称で書いているから、主人公目線では、主観を含めてなんでもありだとは思うのですが。
面白く書こうとして、作者が主人公に乗り移っていると言えばいいのか、そんなふうな書き方のように思えました。
しかも、派手に乗り移っている感じがします。

面白い書き方は、普通に書く方が面白くていいと思うんやけど、です。
あと、
 それは、久しぶりの旅行だった。
 その五日目の夜、の箇所など。
それは、そのって必要ですか? 面白く書いているのかもしれんけど、それらを含めた他の無駄も省いた方が、文章の見栄えはいいと思います。──……←これも使いすぎると見栄えが悪いですね。

イイネと思えるのは、当たり前のことですが。
地の文で主人公が動いていることかな。

槙野俊
110.165.188.123

気になるところが多いです。

>朝の早い時間ではあったが、道路はやけに空いていて、車はするすると進んだ。

朝の早い時間なら空いているのは当然では?

>小高い道

意味はわかりますが雑だな、と。

>朝日にゆらめく海の色が見えた。

ゆらめくというよりきらめく? 朝日が発しているのは光で、海面の動きに影響を与えるようなものは発していないので。色が見えた? 色を省いて海が見えたで良いのでは。

>自然と吐く息の量が増え

一人称視点で自己の状態を説明する場合、自分のことなのにまるで他人事みたいに描写しがちで時々違和感を与えます。「自然と」増えて来た呼気の量を冷静に記述していることに違和感。少し細かいですが、身体が熱くなることや、心臓が高鳴ることや、両手が汗ばむことはコントロールできないことですので、一人称視点で自分がそうなっていると記述するのは別に問題ないと思うのですが、呼吸は自覚すればコントロールできるはずですので、認識した後もそれを他人事みたいに書くのは変かな、と。

>横見る

こんな言葉ありましたっけ?

>何年も、本当に何年も、時間という時間を…(以下略)…。

くどいし下手な文章だと思いました。

>悲観に暮れる

「悲嘆に暮れる」の誤り?

>遊び気

あまり聞かない表現のような。

内容云々以前に文章の技術に問題ありだと感じました。
書き手が普通軽くクリアする初歩的なハードルだと思います。
途中で読むのをやめざるを得ませんでした。

夏端月
211.132.64.99

>ミステリ要素はありますがミステリではないです。>
私ミステリ好きなので、読ませていただきました。
まず、この尺にしては前段が長いです。読者を話に引っ張り込むためには、早く本題に入った方がベターかなと思いました。
中盤で浮浪者が出てきます。この時点で、この浮浪者が主人公自身であり、主人公が>ユイを殺したんだろうなーとの予測はつきます。結末―大きくは間違ってはいなかった。要するに、よくある構成ではなかろうか? と、私、思いました。
もうひとひねり二捻りぐらいは欲しかったよー。ありがとうございました。

からすのゆきと
110.67.207.191

瀬尾辰治さん

なるほど。特に凝った文を書こうと意識していたわけではないのですが、少なくとも今の文章は読者からすると「萎える」ということなんですかね。
書き上げてから日が浅く、客観的に見れていないのかもしれません


ありがとうございました。

からすのゆきと
110.67.207.191

槙野俊

御指摘の箇所が全て冒頭なのを見るに、読み始めてから違和感のオンパレードだったようですね……
正直、辛辣なお言葉が心にグサグサ突き刺さっていますが、納得する点もありました。

ありがとうございました。

からすのゆきと
110.67.207.191

失礼しました。槙野俊さん、敬称を付け忘れていました。

からすのゆきと
110.67.207.191

夏端月さん

ミステリお好きなのですね!自分は綾辻行人や京極夏彦や道尾秀介が大好きです。

この小説はミステリ的に言えばホワイダニットを中心に据えたつもりです。ミステリではないと書いたのは、この小説がミステリとしては不出来な事への言い訳も多少ありますが、ミステリ的に読んで欲しくなかったからです。正直浮浪者の正体その他は、察しのいい人はすぐに気付くだろうと思っていました。

が、実際「よくある構成」と言われると凹むものですね。精進します。

ありがとうございました。

富士には月見草
219.100.84.36

画面スクロールして、読むかどうか決める派なので・・


この原稿で、目に入って「???」ってなって、ひとまずやめたところは、

 >扉を開けた先は六畳ほどのホールになっていた。床いっぱいに黒の磨き上げられたタイルが敷き詰められ、そのせいもあるのか外よりも空気は冷たかった。面積としては広いものの、私はどこか閉塞感を覚えた。靴箱らしき棚の上で、獅子の置物が私を睨んでいた。

↑ 洋館で、たった六畳で「ホール」??
あまりの狭さに、シュールすぎて、イメージできなかった。。

ごめん、ウチの玄関が「無駄に吹き抜け式の階段ホール」なんですけども、それよりゃいくら何でも広いです。
そんでもって、壁一面全部収納になってんで、「靴箱」は床面積に入らないし、別に「出窓」もあるから、飾り物はそこに並べる。
この原稿だと、
洋館の玄関あけたら、六畳の閉塞空間で、そこに「靴箱」とか設置されてて、獅子の置物って、ミニチュアサイズの置物になっちゃいませんかね???

からすのゆきと
110.67.207.191

富士には月見草さん

あーーーーーーー。
お恥ずかしながら、御指摘を受けるまで全く意識しておりませんでした……

他の方からの指摘にもありましたが、僕は語の選び方というか正しい使い方というものに無頓着なところがあるのだと、今回の投稿を通じて認識しました。「玄関ホール」という意味で自宅の玄関をイメージして書いたのですが、「六畳のホール」では確かに なんじゃそりゃ となるのも無理はありませんね……

ありがとうございました。

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