作家でごはん!鍛練場
辻武司

遊園地

 ジェットコースターに乗るだって? それ、本当に言っているのかい? 馬鹿だなあ。信じられない。僕には、君の心理が全くもって信じられないよ。君、ジェットコースターに乗るっていうのが、どういうことだかわかっているのか? わからないだろうね、君みたいな人間には。僕が教えてあげるよ。いいかい。まず人間っていうのは、いや、動物っていうのはね、常に危険を予測して生きているものなんだ。これは自分たちが生き残るために身につけた、全ての動物が持っている生存本能だよ。つまり、人間がジェットコースターみたいな危険で、スリルを感じる乗り物に自ら乗るっているのは、動物の生存本能に反した行動なんだ。恐怖や、痛みって言うのは、自分たちが生き残るために必要な感覚なのだよ。だから、恐ろしいからジェットコースターに乗らないっていうのが、人間の当たり前の選択なんだ。君は、自殺願望でもあるのかい? 本当に、僕には理解ができないよ。危険を回避しようとするのが、動物的な本能の筈なんだけどねえ。え? 君も乗らないかだって? おいおい勘弁してくれよ、君、僕の話を聞いてなかったのか? あんな危険な乗り物に乗る筈がないだろう。ほら、今だって、ジェットコースターに乗った人間の無数の叫びが聞こえてくる。あれを聞いて、まだ乗ろうというのかい? それだったら君、一人で行って来な。僕はここで待ってるから。
 お化け屋敷に行こうだって? それ、本当に言っているのかい? おいおい、ジェットコースターに続いて、君の口からお化け屋敷なんて言葉が出てくるとは、夢にも思わなかったよ。いいか? さっきのジェットコースターの話しでも言ったが、動物っていうのは、生きるために、危険を回避しようという本能が太古の昔から備わっているんだ。え? お化け屋敷は別に危険じゃないだって? 君、それ本気で言っているのか? もしも本気で言っているのだったら、君は相当なお馬鹿だな。まあ確かに、お化け屋敷にはジェットコースターのようなスリルはないかもしれないが、問題はあの暗闇だよ。光がほとんど届かない暗闇に長い時間居続けることの危険性を、君はその年齢になってもわかっていないのか。光が届かないっていうのは、つまり視界が奪われるということだ。視界が奪われるっていうのは、つまりいつ敵に襲われるかわからないってことだ。ここまで言えばわかるな。え? お化け屋敷に敵なんていないだって? そんなことは僕もわかってるよ。僕が言いたいのはだね、いつ敵に襲われるかわからないような状況を避けようとする本能が、普通の人間には備わっている、ということなのだよ。だから僕は、お化け屋敷にはいかない。いいかい? 人間っていうのはね、自分の恐怖に忠実でなければならない。
 コーヒーカップに乗ろうだって? それ、本当に言っているのかい? あっはっは。ここまで来ると、笑えてくるよ。あはははは、ああおかしい。しつこいようだが、人間を含め全ての動物はね、自分の命を守るために危険を予測し、できる限りそれを避けようとするものなのだよ。人間は、マンモスと闘ってきた時代が随分と長い。常に最悪の事態を予測し、そうならないための行動を選択してきた。え? コーヒーカップの何が危険かだって? それを今から話すんだから黙って聞け。コーヒーカップにはジェットコースターのようなスリルもなければ、お化け屋敷のような暗闇もないが、目がまわるだろう? 平衡感覚を失った人間のところにもしマンモスが襲ってきたらどうなる? 馬鹿な君でもわかるな? 目がまわってよくわからなくなった状態の人間は、マンモスの牙で一撃だ。もちろん今の時代にマンモスなんて存在しないし、ましてやこんな遊園地に来る筈はない。がしかし、やはりそういった状況を、本能的に避けなければいけないんだ。メリーゴーランドも駄目だよ。身動きができない状態が長いと、イコール自分を危険にさらしている時間が長いということになるからね。だから僕は遊園地に来るのなんて反対だったんだ。君がどうしてもというからついてきたのだけど、やっぱり遊園地になんて、来るんじゃなかった。
 もう行く場所はないな? よし、それでは帰るとしよう。今日は久しぶりに外に出たから、随分と疲れた。ぐっすり眠れそうだ。おや、お母さん、どうして泣いているんだい? 僕には、君の泣いている理由がわからないなあ。僕がいい年して働かず、ほとんど部屋に引きこもった生活をしているという理由で、君は泣いているのかい? だったらそれは間違っているよ。徹底的に危険を回避し、動物として正直に生きようとすれば、普通はみんな僕のような生活になる筈だからね。僕は決して間違った選択はしていないよ。今の時代、間違った生き方をしている人間が多すぎる。本来、人間は僕のような、引きこもった生活をしなければならないのだよ。わかった? まだわからない? そんな求人情報誌を持って来たって僕は見ないよ。働くなんて、恐ろしすぎるだろう? 本当に君は、いや、人間は馬鹿だなあ。僕は絶対的に正しいのだよ。僕だけが、人間としての生き方をしているのだよ。全く、自分に不正直な人間が多すぎる世の中だね。もっと自分に正直になり、恐怖心に忠実に生きればいいのに。わからないなあ。どうして人間は自らを危険にさらすのだろうか。僕には永遠の謎だね。本当に、君たちのやっていることはわからないよ。僕にはわからないよ。本当にわからないよ。笑うしかないね。あははははは。

遊園地

執筆の狙い

作者 辻武司
125.0.49.162

 思い付きで書いたのですが、本当に駄目な男だと思います。こんな男が増えたら、日本は駄目になる!

コメント

ぷーでる
124.154.136.148

ああ言えばこう言う的な、ストーリー。
読みづらいのが、残念。

偏差値45
219.182.80.182

>おや、お母さん、どうして泣いているんだい? 僕には、君の泣いている理由がわからないなあ。僕がいい年して働かず、ほとんど部屋に引きこもった生活をしているという理由で、君は泣いているのかい?

このあたりから、少々強引な展開のような気がしますね。
無理にストーリーを長くさせようとしている?

ジェットコースター、お化け屋敷、コーヒーカップぐらいで止めておいて、
オチを用意しておく程度でいいと思いました。
全体的にぐどい言い方が多いで、違う理由であったり、言い方であったり、多様性があると
より自然に読めると思いました。 

辻武司
125.0.49.162

ぷーでる様、こんちにわ
 読みにくいとはそこまで思っていなかったので残念です。頑張ります。

辻武司
125.0.49.162

偏差値45様、ありがとうございます。
大変参考になりました。多様性、意識しようと思います。

北野一徳
126.33.195.232

辻武司さま

拝読致しました。
伝えたいことは十分に、いや十二分に伝わりましたが、引きこもりには引きこもりの背景があるわけで、その辺りを掘り下げて書いてあれば説得力が増したでしょう。
(ただし、ごく個人的には引きこもりも自己表現、多様性のひとつかと捉えています)

そうげん
119.231.174.167

はじめまして、作品よみおえました。

三度繰り返されるおなじ形式(パターン)は、まるで一番から三番まである唱歌の歌詞のように、とても気持ちのよいテンポがあるようでした。ジェットコースター、おばけやしき、コーヒーカップ。遊園地にあるだろうなかから、この三つを選択して、そこから「恐怖に忠実であるべき」という主人公なりの生きる指針に持っていってる。ひとつらなりに読んでみれば心に入りやすい文言でしたし、そこをひきこもりにつなげるところは、なるほどと思いました。

わたしが思うのは、自分のぶをわきまえるということは、どの恐怖なり、不安なり、未知のものなり、どの部分の本質を知りたいと思うのか、それを探るところからはじまると思います。

わたしはたまたま場違いにも、進路的に職人がひしめき合うようなところをわきから覗いてましたので、むしろ道を究めていくと、ひとりひとり違ったアウトプットになるのだね、とおぼろげながらにわかって、それからそのひとりひとりということに焦点を当ててみれば、わたしがみた分野に限らず、なんでもそうだとあとになって気がつきました。

この作品を読みながら思いました。

「働きたくないでゴザル」
「働いたら負け」

そんな言葉も00年代、はやりましたね。

ちなみに、いまでは文化がランド化しているということについてどのように思われますか。つねに恐怖に忠実であるということ以上に、つねに恐慌状態に陥るような事態が発生する可能性があるといった、ふだんからの警戒意識の側に自分の関心をシフトするほうが健康的だと思ってます。

では、ありがとうござました。

辻武司
125.0.49.162

北野一徳さま、ありがとうございます。
伝えたいことが伝わり、大変うれしいです。引きこもりの背景、確かにちょっとでも書いておけばよかったです。

辻武司
125.0.49.162

そうげん様、長文ありがとうございます。
なるほど、と思いました。大変参考になりました。

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