作家でごはん!鍛練場
ギサラ

黄国復興期 (仮)

 心地よい風の流れと共に程好い満腹感を味わう、敢えて文字に起こすならば『天下泰平』。
 昼食を済ませ縁側で寝転ぶ一人の若者、年の頃は20といった所、まさに精力漲る年齢だが、何とも暢気に寛いでいる。

「今日も快晴哉快晴哉……満腹でのんびり昼寝さえ出来れば、それで良いではないか」

 誰に問うでもなく寝転んだまま縁側で呟く、願わくばこの大平がこのまま続けば良いが……。

「若様……若様!? ……永夏様!? ……聞こえておいでですな!?」

 竹林の静かな清涼感とは対照的な、何とも切羽詰ったがなり声が通り過ぎる。
 若者には関係の無い怒声なのか、最低限の反応なのか寝返りを打って耳を遠ざけようとする。

「いい加減に怠けるのは止めなされ!! 聞こえておるのじゃろう!? ……あぁ、全く埒が開かんわい……」

 錆び付いた声の主は諦めたのか、がなり声は消え気配を消す。
 若者は嵐が過ぎ去ったとばかりに手足を一旦伸ばし、再び微睡みを味わおうとするが。

「ええ加減にせんかあ! この穀潰しめがあ!!」

 竹林に囲まれた庵に大喝が響き渡る、同時に縁側で寛いでいた穀潰しは乱暴に蹴り出された。
 完全に舐めきっていた若者は、何の抵抗も出来ずに軒下に転がり落ちる。

「ごぉっふ!? …………爺よ、幾ら何でもこれは……臣下の分際でお前どういうつもりだ!? 俺を誰だと思っている!?」
「わしの方がそんな事解っとるわい! お主は無き黄国の忘れ形見の永夏じゃ! そしてわしはそのお守り役の最後の臣下、岳仲じゃ! いい加減に怠けてばかりおるでないわ!!」
「ぬぅ……今日の爺は、流石に引かぬか、面倒な」

 今日の岳仲はいつもより一際勢いが激しい、普段はここまでの凄みは見せない。
 理由は永夏にも解っている、つい先日永夏は元服を済ませはっきりと大人になったのだ。
 故国黄国が滅んでよりこの地に落ち延びてかれこれ10年、岳仲は永夏をしっかりと鍛え元服の到来を首を長くして待っていた。
 そして遂に永夏は元服を済ませた、岳仲としては故国再興の為に永夏に立ち上がって欲しい所だが。

「ぁー、爺よ。皆まで言うな……お前の言いたい事は解っている。だが少し考えても見よ、黄国の再興は時流に反しておる、その事は爺も……」
「屁理屈を並べて逃げようとしてもそうは行きませぬ。若には黄国再興という大業がその身に掛かっておるのですぞ!」

 岳仲の勢いは依然衰えない、60近い高齢だというのに益々盛んである。
 だが永夏は知っている、岳仲は話の解らない粗忽者ではないと、そして自身を蹴り飛ばした時に比べ、話が出来る程度には落ち着いていると気付いた。
 少々大げさに振舞いつつ、永夏は岳仲を舌戦に引きずり込む。

「まあまあ聞け、我らが故国黄国は滅んだ、これは嘆かわしい事である……だがそれは、父上の暴政の果てに有ったものだ、暴君が除かれるは世の必然、これは糾されるべくして糾された事だとは思わんか?」
「それは必然じゃ……じゃが例え暴君であろうと、勝ち取った権利を暗殺で犯されるは世の不義である。なればこそ若様の王位継承権は未だ有効であり、それが果たされるのが世の道理であろう」

 岳仲は話に乗ってきた、永夏は内心ニヤリと口端を吊り上げる。
 勝ちの見えている勝負はつまらないという者もいるが、永夏はそれを楽しめるタチであった。

「例え暴君であろうともそれも王か……だが岳仲よ? 父を除いた後に新たに興ったこの文国はどうだろうか? ……とても暴政とはいえぬ、父君の暴政と比して良いというのではない。わざわざ賢君の下に敷かれた善政を暴く様な真似をすれば、それは正しく暴君とは言えぬかな?」
「あくまで若様の正当な権利の履行のための行いならば、大義は立ちまする。その元で兵を集め勢力を築けば、これに異を唱えるは世の条理に反しまする。何も問題は無いでしょう」

 永夏は勝利を確信して更にニヤける、内心でのみニヤけていたが抑えきれずに顔にも出てしまう。
 岳仲はそれに気付きつつも引く事はできない、ここで諦めれば何もかもが水疱に帰す。

「なるほど……兵を集め勢力を、か。だが岳仲よ、今この時勢で黄国の遺児が兵を興そうとして果たして兵が集まるかな? まだ皆は黄国の暴政を覚えている、文国が立った後も目立った反乱は起きぬ程にな。むしろ俺の首を文王に献上しようと、世の義士が大挙してきそうだな。それこそ世の条理であろう。……お前はどこでどういう旗の下に兵を集めるつもりなのだ?」
「それは……一旦は若の身分を隠し、流民や山賊で拵えましょう。然る後、機を見計らって……」
「身分を隠して兵を興すはまさに卑しさの顕れである。それで大義を語るは少々滑稽ではないかな?」

 黄国の暴政を思い返せば、善政の敷かれた文国で人を集めるなどは夢物語である。
 永夏はそれをしっかりと解っていた、少々虚しくもあるが、今はそんなものは放り投げておく。
 岳仲の言い様は明らかに弱々しく言い分は苦しかった。
 流民や山賊の寄せ集めなどで勢力を成すなど、永夏は切り込むつもりにもなれない。

「っ……雌伏の時というものは王者には付きもので御座います。それでも……」
「それでも、どうした? そんなに黄国の復興は世に望まれた事なのか? ならば文国への反乱の一つも起きよう、むしろ俺が世に出るならそれに乗じる方がよっぽど現実的ではないか? ……ならば、この庵で雌伏の時を耐え忍ぶのもまた一計であろうよ」

 勝利を確信して永夏は再び縁側に寝転ぼうとする、雌伏とはよく言ったものだ。
 岳仲との舌戦は昼寝の為の良いスパイスになった。
 だが岳仲も引く事はできない、敗北が見えつつも悪足掻きを続ける。

「ここに隠遁し続けるのも……一計ではありましょうが、しかし……。 文国の王が黄国の遺児を放っておくとは思えませぬ! 必ずや根絶やしの為に刺客を……」
「この10年、何とも平和だったなあ……。ん? 刺客とか言ったか? ならばその刺客さんは俺が元服するまで待っていたのか、いや何とも心優しいことよ。もしくはここは見つかっておらず安全なのか、文国はわざわざ虎の尾を踏むのを怖れているのか、理由は解らぬが目立つような真似は愚策とは思わぬか?」

 言い終えるよりも前に永夏は寝転んだ、これ以上は岳仲への追い討ちになる、そこまでは永夏も望んではいない。
 黄王暗殺後の王族の粛清、それを偶然逃れた永夏を守り共に落ち延びてくれたのは他でもない岳仲なのだから。
 永夏は口には出さないが、岳仲には大恩を感じている。

「……解り申した、ですが日課の鍛錬はきちんとやって下されよ。……わしは村まで出かけてきます。」

 ガックリと肩を落とし岳仲は去っていった。
 少しやり過ぎたかと永夏は、微塵にも思わない。
 なんせ自らの命が掛かっているのだ、どれだけ恩のある人物が勧めてこようとも分の悪い賭けに乗る事はできない。
 岳仲は程好い疲労感と虚しい勝利を味わいつつ、再び微睡みの中に堕ちていった。

黄国復興期 (仮)

執筆の狙い

作者 ギサラ
58.87.135.19

架空古代中国を舞台に、やる気のない亡国の王子とお守りの老将との物語の冒頭です。
具体的な批評やアドバイスを求めています、どうか宜しくお願い致します。

コメント

偏差値45
219.182.80.182

内容は伝わっている。
ただ、物語としては会話だけなので、面白味には欠けますね。
表現力はあると思います。ただ、推敲が甘いかな、と思うところが数か所はあります。
この手の物語は戦(いくさ)が一番の目玉だと思うのでそういう部分を読んでみたいですね。

ギサラ
58.87.135.19

>偏差値45 さん

丁寧なコメント有難う御座います
やはり冒頭から読者を惹きつける要素も足すべきという事ですかね
二人だけで静かな場所ですので、会話しかないのも「動」に欠けてしまってますね
推敲はやはり甘いのでしょうね、これは読み物をしつつ数をこなすべきですかね?
戦は、大雑把な構想だと戦らしい戦はかなり先ですね、小規模な剣戟でしたらこの直ぐ後ですが……こういう点も改善すべきなのでしょうなあ……

夜の雨
180.63.231.105

作者さん、手練れですね。作品、よくできています。
導入部だけでしたが、キャラクターの個性とか、どういった状況になっているかとか、必要な情報はすべてわかりました。
おまけに主人公の亡き王国の若、「永夏」とその臣下、「岳仲」との国を復興させるための意見の違いによる対立があります。

しかし御作はエピソードで進んでいるとはいえ「静と動」のうちの「静」なので、若干、説明調になっているのも確かです。
だからこの流れのまま続けると読者はしんどいので、次は場面を変えて岳仲が村で、ある情報(文国に混乱を起こす)を聴き、この連中は味方だと思って永夏に合わせるために連れ帰ってくるという展開にしたらいかがでしょうか。
ところがその連中は野心がある者たちだった。
という展開で岳仲が良かれと思ってやったことが、永夏にとんでもない災難をもたらす。
永夏は奴らの悪たくみを見抜いていたが、岳仲は国を復興するという思いが強いので、彼らの裏の顔を見抜けてなく、仲間が出来たと喜んでいる。
永夏はとりあえず騙された振りをして奴らと行動を一緒にする。
奴らの隠れ家に永夏と岳仲が行くと、いきなり剣を首に突き付けられ、殺されそうになるが、相手は男装をした美少女剣士(A)だった。
Aは実力ですでに奴らの信頼を勝ち取っていた。(ちなみにAには裏の顔がある。たとえば文国のお姫様で、ある事情で盗賊のような連中と一緒に居る)。(Aは文国のお姫様である必要はないが、とにかくとんでもない裏の顔があるようにする)。
こうして永夏はやりたくもない戦いに巻き込まれていく。

話の展開としては常に複数の問題を主人公に抱えさせて、一つが解決してももう一つが主人公や心を許している者に影を落としているという設定にするとよいと思います。
私が上に書いた設定だと、すでに複数の問題を抱えている状況になっています。
一つは永夏が現在置かれた状況。
もう一つはAの抱えている裏の状況。
問題はもっと増やしてもいいと思います、話のテンポが遅くならなければ。

この手の作品はテンポが大事だと思います。
動と静を繰り返しながら起伏のあるエピソードで進めるとよいかな。
原稿用紙何枚ぐらいにするのか、それを決めておかないと話の広げ方が決まりませんね。


ほか

「!? !! !」 ← こういった記号がかなりありますが、作者さんが読んでいるプロの作品に「ある数に合わせたほうがよい」と思います。


それでは、頑張ってください。

ギサラ
58.87.135.19

>夜の雨 さん
丁寧なコメントありがとうございます

永夏と岳仲を対照的にしたのは指摘の通りですね
この方が話を動かし易く、言い争いで諸々の説明もできたので

話の最初が説明調になってしまうのは意図的ではありますが、どうしても動が欲しくなりますね、同感です
夜の雨さんが示して頂いた内容とは異なりますが、この直後に動の展開になります
しかしここまで動きっぽいものが永夏が蹴り出された事だけというのはやはり反省点でしょうね

感嘆符等の数は、完全に推敲が甘かったですなこれは、しっかり見返せば調整の余地が多いですね

具体的なご指摘ありがとうございました、また宜しくお願いします

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