作家でごはん!鍛練場
マジンガーZ

晩年の恋(未完成作品)

①・・・

 炊き上がった白米を茶碗に盛り、茶漬けにして口にかきこんだ。
 窓の外の庭にはさほど大きくない桜の木の枝に、花が八部咲きで咲いている。
 足田誠一は朝飯を済ませると茶碗と箸を台所で洗い、コップに水を注ぐとそれを飲み干し大きな嘆息を吐いた。
 今日もまた退屈な1日が始まることに対するため息で、毎朝の習慣のようになっている。
 今年83歳の誠一は5年前に妻に先立たれ、2人の娘はそれぞれ結婚して他県で暮らしている。数ヶ月に1回の間隔で親を心配して会いに来てくれる娘達だったが、会いに来てくれても親の健康な様子を確かめるとすぐに帰っていってしまうのだった。
 誠一はここ最近、早く自分もあの世に行きたいと思う日々。
 台所から移動し縁側に腰をおろすと、桜の花に目を向ける。妻が生きていた時はこの時期になると2人でこうして縁側に座って茶を啜りながらお花見をした。あの時の幸せな時間が懐かしい。
 とくにすることもない誠一は、有り余る時間にまた吐息を吐いた。若い頃は24時間という1日の短さに嘆いたが、今は1日の時間の長さに嘆く日々。老後の時間を削ってそれを若い頃に使えたらどんなに充実した人生を送れたことか……。
 突然電話が鳴った。
 誠一は縁側からゆっくりと立ち上がり、居間に設置されている固定電話の受話器を取った。
「はい、足田です」
『お父さん。美紀恵です』
 電話を掛けてきたのは、横浜に暮らす次女の美紀恵からだ。
「どうした?」
『老人ホームの入居手続きが済んだから、来月から入れることに決まったよ』
「どうしても老人ホームに入らなきゃダメなのか?」
 去年の暮れに、2人の娘から老人ホームに入居するように勧められた。娘らの言い分は突然倒れた場合にすぐに気づいてやれないから、老人ホームに入居してくれという理由だった。
 誠一は老人ホームに入居することは嫌だというのが本音だったが、だが娘らが言うように突然倒れて誰にも発見されずに孤独死を迎えるのも嫌だった。
『お父さん、このまえ老人ホームに入居するの了解したじゃん。今さら拒まれてもこっちも困るよ』
「いや、拒んでいるんじゃない。最後に訊いてみただけだ」
 この年になって、赤の他人との共同生活は酷く煩わしく感じる。そのことが一番の気がかり。
『前にも話したと思うけど、お父さんのためを思ってなのよ。老人ホームに入居すれば1日3食、健康的な食事も提供されるし、お友達だってできて楽しい老後になるわよ』
「ああ、わかった。来月から老人ホームに入居する」
『分かってくれてよかった。今度の週末、家族連れて帰省するわね』
 受話器を戻すと、また大きな嘆息をついた。
 姥捨て山に捨てられに行くような心境だった。


②・・・

 姉の好江が13時に来ると行っていたが、リビングの掛け時計の針は13時を20分ばかり過ぎていた。
 立川美紀恵は姉の携帯に電話を掛けようか迷ったのち、もう少しだけ待ってそれでも来なかったら電話を掛けようと決めた。来宅を急き立てるのが申し訳ないと思ったからだ。
 自分の湯呑み茶碗にお茶を注ぎ入れ息を吹きかけながら飲もうとしたちょうどその時、家のインターホンが鳴る。
 美紀恵は玄関に移動しドアを開けると、姉の好江が「ごめん。ちょっと遅刻したね。電車が事故かなんかで遅れたのよ」
 好江が約束の時間にやって来ることはまれで、今回の遅刻が好江の言うように電車による影響なのかどうかは確認するだけ無駄だが、子供の頃から遅刻をするルーズさが姉にはあった。
「うんん。別にいいよ。どうぞ上がって」
 リビングのソファーに腰を下ろすと来客用の湯呑み茶碗に茶を入れ、近所の和菓子店で前もって買っていたみたらし団子と一緒に好江の前のテーブルの上に置いた。
「あら、美味しそう」と言って、好江はみたらし団子を食べる。
「好江姉さん、お父さんの老人ホームの件なんだけど」
 3日前、美紀恵は好江に父の老人ホームの入居手続きが済んだと電話で伝えた。好江は詳しく話を聞きたいからと言って、横浜に住む美紀恵の家に今日来訪した訳である。
「うん。それでどこの老人ホームなの?」
「埼玉県春日部市に建つ、『清流の里』っていう老人ホームなの。周りが自然に囲まれていて長閑だし、それに施設も2年前に完成したばかりで真新しいの。お父さんもきっと入居すれば気に入ると思うわ」
 それはいいじゃないと賛成してくれると思ったが、返ってきた言葉は期待とは違っていた。
「そんな完成したばかりの老人ホームなら、入居費用が高いんじゃないの?」
 お父さんのことよりも、お金の方が大事なんだとげんなりした。好江は子供の頃からお金にけちくさい所があったが、何にも変わってないと心底嫌になったが口には出さない。
「入居金は1000万円。それとは別に月額費用が20万円かかるわ」
 みたらし団子を食べ終え、茶を啜りながら「高すぎる」と好江は言う。「もっと安く入居できる老人ホームを探せばみつかる」
「だけど好江姉さん、私に探すの一任したじゃない。それにもう入居手続きも済んでお金を支払うだけだし……」
「たしかに一任したけど、入居金が1000万円なんて勿体無い。アタシが探してみる」
 姉の身勝手さに怒りよりも呆れた感情が込み上げてくる。美紀恵は「わかったわ。『清流の里』にはキャンセルの電話を掛けておくわ」と言った。
 好江が帰っていくと、リビングで美紀恵は何度も重いため息を吐いた。


③・・・

 牧原好江は横浜に居住する妹の美紀恵の家を出た後、自宅に帰るため横浜駅に向かった。
 歩きながら、老人ホームの入居費用が1000万円と語っていた美紀恵の話を頭の中で反芻する。それほど長く存命できるとは思えない父の年齢を考えると、入居費用に1000万円を支払うことは金をどぶに捨てるようなものだ。
 父には、1円でも多く遺産を残して逝くのを望む。
 横浜駅の改札を通りJR横須賀線の9番ホームで電車を待っていると、携帯電話に着信が掛かってきた。画面には、『岡崎』の文字が表示されている。
 好江は気色がいい声で電話に出た。
「もしもーし」
『どうも岡崎だけど、今から会えない?』
 好江は右手に持った携帯を耳に当てながら、左手首の腕時計で時刻を確かめた。午後3時を少し過ぎているが、今日は旦那の帰りが遅い日なので今から岡崎に会っても平気だろうと考え、「いいわよ」と返事した。
 横浜駅の6番ホームに移動するとJR東海道線に乗車し、数駅を通過した後、大船駅で下車した。大船駅から10分程歩くと、目的地の岡崎が住むアパートに到着した。
 インターホンを鳴らすとすぐにドアが開き、岡崎がボサボサの髪で立って出迎えた。
「こんにちは」そう声をかけて好江がドアを閉め部屋の中に入ると、岡崎は好江の胸を荒荒しく揉んだ。
 岡崎が好江の唇にくちづけし、ねっとりと舌を入れる。好江は女の声を漏らす。
 唇を離したあと2人はシャワーを浴び、そしてベッドで抱き合った。
 岡崎と好江が不倫の関係に発展したのは3年前から。出会い系サイトで知り合い、2人はすぐに意気投合し男女の関係になった。
 岡崎の年齢は好江より2つ年下の53歳で、1人暮らしで日雇い労働の仕事をしている。顔は日雇い労働者のような風貌だったが、体の相性が合っているのか現在も月に数回逢瀬を続けている。
 情交が終わり、ベッドの上で岡崎はタバコを吸い始めた。
 好江は荒い呼吸がまだおさまらず、目を瞑ったまま。
「好江さん、金貸してくれない」
 好江は目を開け「また」と発する。岡崎はお金も無いのにギャンブルにお金をつぎ込む男で、どうせ今回もギャンブルするお金を借りたいのだろう。
「いくら?」
「2万円貸してほしい」
「まったく……」小さくため息を吐き捨て、「シャワー浴び終わったら渡す」と言った。
「明日も会える?」
「明日からはしばらく会えないと思う」
「どうして?」
「父親が入居する老人ホームを探さなくちゃいけないの。妹が見つけてきた老人ホームは入居金が1000万円もかかるって言うから、アタシが探すことに決めたの」
「へー、1000万円ね。俺の知り合いに山梨県で老人ホームの所長している人いるよ。かなり安い費用で入居できることを謳い文句にしている老人ホームみたいだよ」
「ホントに。ちょっとその老人ホーム紹介してくれない」
「いいけど、もし入居することになった場合には紹介料ちょうだいよ」
 好江は老人ホームを探す手間が省けて良かったと思い、岡崎も体の関係以外で役に立つこともあるんだと思った。


④・・・

 土曜日の朝を迎えた。
 足田誠一は朝飯を食べ終えトイレに入ったが、今日も糞便が少ない量しか出なかった。ここ最近ずっと排便で清々した感が無い。便座に座って力み出そうとするせいか肛門が切れ気味で、排泄後にトイレットペーパーで拭うと血がつくことが多々あった。
 偏った食生活が近因なのかもしれないが、だがこんな不摂生な生活もあと僅かで終わる。娘らが老人ホームの入居手続きを済ませてくれたことに、今となっては少しばかり謝意を表さなくてはいけないと思った。
 午前中の有り余る時間を誠一は縁側に座ってただ庭を眺めてやり過ごしたが、正午になりかける少し前に玄関から「こんにちは。お父さんいる」と声が聞こえてきた。
 縁側からゆっくりと立ち上がると、横浜で暮らす次女の美紀恵が居間に現れた。
「おう、元気にしてたか?」
「うん、元気にしてた。お父さんは?」
「相変わらずだ」
「そう、健康で良かったわ。デパートの地下でお父さんの大好物の鯖寿司買ってきたから一緒に食べようよ。今お茶の準備するからお父さんはテーブルの前に座ってて」
 美紀恵は子供の頃から気の利く子で、家事も今は亡き妻に積極的に自分から申し出て手伝うような子供だった。お茶の準備をしている美紀恵に目を向けながら、親の期待どおりに大人になってくれたことに誠一は喜ばしく感じた。
「今日は美紀恵だけで来たのか?」
 お盆にお茶の入った湯呑み茶碗と鯖寿司を載せ、テーブルの前にやって来た美紀恵に訊いた。
「うん。旦那と子供達は仕事で疲れてるから行かないって言ったの」
 たまには孫に会いたい心地だった。孫が子供の頃はよく遊びに来宅したが、さすがに成人を迎えてからはあまり遊びに来ることは少なくなった。
「そうか。智也と康司にたまには遊びに来てくれと伝えておいてくれ」
「うん。わかった」そう言って、鯖寿司とお茶の入った湯呑み茶碗をテーブルの上に並べた。「さあ、食べて。横浜高島屋の地下で売られてる人気の鯖寿司だから」
 誠一は鯖寿司を口に入れ咀嚼した。たしかに美味いと思った。
「美味いな。老人ホームに入居したら鯖寿司も食べる機会が少なくなるな」
「老人ホームの件なんだけど……」と美紀恵は言って、大きくため息を吐いた。「じつは手続きが済んでいた老人ホームをキャンセルしたの」
「なぜ?」
「好江姉さんが、入居費が高いってケチをつけてきたの。私に老人ホームを探すの一任しておいたくせによ。今度は好江姉さんが安く入居できる老人ホームを探してくれるみたい」そう言って、不満気な表情を顔に浮かべた。
 この日、美紀恵が家を出て行ったのは午後3時頃だった。
 3時間近く、美紀恵は姉に対する不満を父である誠一に吐き出した。美紀恵が帰ってしまうと静まり返った家の中で、仏壇にお線香を上げた。
 手のひらを合わせながら亡き妻に向け、美紀恵と好江のわだかまりがこれ以上大きくならないことをお願いした。


⑤・・・

 埼玉の実家を後にすると、美紀恵は横浜の自宅に帰るため三郷駅で電車を待った。数週間ぶりに父に会ったのに、姉の愚痴ばかり聞かせてしまい父にいらぬ気がかりをつくってしまったことに今さら後悔した。
 電話で謝ろうとバッグから携帯電話を取り出すと電車がホームに入って来たため、横浜の自宅に帰り着いたらにしようと思った。
 電車を数回乗り換え東京駅でさらにJR東海道線に乗り換える。東京駅から横浜駅までは直通で30分程だ。
 シートに座った美紀恵は疲労からウトウトし始め、堪えきれず目を瞑った。
 どれほど眠っていたか正確には分からないが、数駅を通過する程度の眠りにはついていたようだ。車窓からは、眩しい夕日が車内に差している。
 ここで美紀恵は「あっ!」と、短い言葉を発した。
「ない。バッグがない……」確かにこの電車に乗った時は、膝の上にバッグの取っ手を握ったままちゃんとあったのに……。
 足下をくまなく探したが、見つからない。夕方5時前なので座席シートは空席が目立つが、近くに座る乗客に声をかけバッグを知らないかと声をかけたが、皆一様に「知らない」と首を横に振るばかりだった。
 美紀恵は気落ちし、盗んだ人間と不用心だった自分を責めた。
 涙が出そうになるのを必死に堪え、心の中で『交番』と念仏のように唱える。
 横浜駅に到着すると、自動改札口横にいる駅員に話しかけた。
「すみません。東京駅からJR東海道線に乗車したんですが、眠ってしまった間に膝の上に置いていたバッグが盗まれたんです」
「確実に膝の上にあったのは確かですか?」
 まだ20代らしき青年は美紀恵の焦りとは正反対に、間延びした調子で応える。もっと親身になって対応してもらいたいと感じつつ、「確かに膝の上にありました」
「発見しましたら連絡しますので、こちらの用紙にお名前とご住所、それに紛失した物とその特徴をご記入ください。それと駅前の交番で紛失届けも出してください」
 用紙に記入が終わると事情を考慮され、切符なしで改札口を抜けた。
 駅前の交番で『紛失届け』を出した後、20分程歩いて横浜にある自宅マンションに到着した。エレベーターで8階まで昇った。
 玄関ドアの前に立った時、ハッとした。バッグの中に家の鍵も入れていたんだった。
 美紀恵はきょう何度目のため息だろうかと考えつつ、新しくため息を追加した。携帯電話もない今、旦那か息子達が帰ってくるのを玄関前の通路に座って待つほか無かった。
 マンションの通路から空を見上げると、赤みを帯びた満月が浮かんでいた。「好江姉さんの愚痴ばかり言ったせいで、罰でも当たったのかな……」と、呟いた。


⑥・・・

 3時間近く電車に揺られ、昼前に甲府駅に到着した。
 ボストンバッグを肩にかけ牧原好江は甲府駅前のタクシー乗り場で1台の黒いタクシーに乗車すると、老人の運転手に行き先を告げた。
 老人の運転手は耳でも悪いのか、何度も「えっ? えっ?」と聞き返す。
「だから積翠寺の積翠寺老人ホームまで行ってください!」
 老人の運転手は左耳のうしろに掌を添えて、
「あっ、あそこね。どうもすんませんね。年で耳が悪いものでして」と言い、走りだした。
 好江はもどかしく感じながら、車窓の外に目を向ける。早く入居手続きを済ませ、岡崎と会いたい心地だった。
 老人の運転するタクシーは、県道31号線を帯那山方面に向け進む。周りは青々とした木立が群がっている。
 乗車して20分ほどだろうか、タクシーは右にウインカーを出し道路を横切った。そこには、だいぶ古い印象の1階建の建物が建っていた。
 料金を支払い車外に降り立つと、改めてその建物の外壁に視線を走らせる。岡崎が言っていたように、ここなら安く入居できるはずた。
『積翠寺老人ホーム』と小さな木製の看板が、入り口ドアの上に飾りつけられている。好江はドアを開け、「ごめんください」と中に声を掛けた。
 しばらくしてピンク色のエプロンをした介護士と思われる若い女性が現れ、「はい、なんでしょうか?」と訊いてきた。
「父の入居の件で、見学に来ました。小石様にはお電話でお伝えしてあるのですが」
 若い女性は、所長を呼んで来ますと言って奥に消えた。
 さらに待つこと数分、「どうもわざわざ横須賀からご来訪頂きまして、ありがとうございます」と言って、中年の小太りの男が姿を見せた。
「こんにちは。岡崎さんからのご紹介で、こちらの老人ホームを見学に参りました牧原と申します」
「ご丁寧にありがとうございます。私は積翠寺老人ホームで所長をしております小石と申します。さっそくですが施設内を案内しますので、靴を脱いでお上がり下さい」
 1時間近く所長の小石に施設内を案内され、ひと通り見学が終わった。入居費は初期費用が必要なく、月額16万円で入居できるとのことだった。好江はその場で入居手続きを済ませた。
 父の最期を迎える場所には、ちょうどいい施設だと好江は思う。
 積翠寺老人ホームにタクシーを呼んでもらいそれが到着すると、小石に向かって好江は「父をよろしくお願い致します」と頭を下げた。
 小石は終始笑顔で頭を下げる。人が良いのが窺える。
 黒いタクシーに乗車し運転手に『青山草旅館』に行ってくれと告げると、運転手は「えっ? えっ?」と聞き返した。
 来た時と同じ運転手かと好江は思いつつ、「青山草旅館!」と少し大きめの声で老人の運転手に伝えると、タクシーは左にウインカーを出し県道31号線をもと来た道に走りだした。
 左手首の腕時計で時刻を確認すると、午後2時ちょうどだった。好江は、もう岡崎は青山草旅館に到着しているだろうかと考える。早く岡崎に抱いてもらいたく、体がうずうずして落ち着かなかった。


⑦・・・

 老人ホームに持っていく荷物を支度していた。
 足田誠一は部屋を見渡し、もう家族の思い出の詰まったこの家に帰ってくることはないのだろうと悲しんだ。
 昨晩、横須賀市に住む長女から電話があった。誠一が入居する老人ホームを見つけてくれたそうで、急だが次の日曜日から入居するようにと要件を伝えられた。
「そんなに急に入居しなくちゃダメなのか?」
『私と美紀恵の都合が、次の日曜日がいいの。私と美紀恵でお父さんを甲府市にある老人ホームに連れて行くから』
「甲府市か……」縁もゆかりもない地で、自分は朽ち果てるのか。
『なに、不満?』好江の声に憤りが混じる。
「いや、また遠い所だなと思っただけだ」
『でもいいじゃない、新しい地で暮らすことができて心が刺激されるわよ』
 確かに若い頃だったら新天地で暮らすことは、心が刺激されて浮き浮きしただろう。だが自分は死に場所を求めて行くようなものだ。心臓が止まるのをただ待つだけの、夢も希望も無い新天地……。
「そうだな、多少は心が刺激されるかもな」
 昨晩の好江との電話での会話は、あっさりと終わったのだった。
 押し入れを開けると、ダンボール箱の中に家族のアルバム写真が納まっていた。思わず手を休めアルバムを捲る。あの頃は幸せだったと、笑みを浮かべて見入る誠一。
 ふと時計に目を向ければ、いつの間にか小1時間が過ぎていた。いけないと休めていた手を再開する。
 老人ホームに持っていく荷物をバッグ2つに収めるようにと、昨晩長女の好江から電話で言われたが、意外に選別するのはたやすくはなかった。
 バッグ2つに迷いながら荷物を詰め終わったのは、午後4時を少し過ぎた頃だった。大きく一呼吸した後、お隣の山田家にだけお別れの挨拶をしておこうと思った。立ち上がった誠一は、玄関で靴を履いて外に出る。
 山田家のインターホンを鳴らすと、すぐに奥さんの山田美津子が玄関ドアを開けた。山田美津子は、誠一と同年代の老女である。
「あら、足田さん。こんにちは」
「こんにちは」
「どうされました」
「ええ。あのー、急きょ次の日曜日に引越しすることになりまして」
「えっ!」美津子は驚きの声を短く発し、目で理由を尋ねてくる。
「じつは、甲府市にある老人ホームに入居することになったんです」
 美津子は大きく頷きながら「そうですか……」と、40年以上に渡るご近所付き合いの誠一に寂しげな声をかけた。
「甲府市の老人ホームですか。遠いですね。どうぞお体にお気をつけくださいね」
「お心遣いありがとうございます。山田さんもお元気で」
 自宅に戻ると、お茶を入れ啜って飲んだ。老人ホームで不自由なく生活できるか不安だった。


⑧・・・

 姉好江の考えが合点できなかった。なぜ山梨県甲府市の老人ホームに父を入居させるのか……。
 水曜日の晩、好江から老人ホームを見つけてきたと電話連絡があり、場所を訊くと山梨県甲府市だと言われた。立川美紀恵は軽い眩暈を感じ、電話を切り終わると姉に対する不信感が膨張せずにはいられなかった。
 なぜ山梨県なのか……。父が住む実家がある埼玉県内でもよかろうに。
 金曜日のこの日、美紀恵は横浜高島屋にいた。
 父を甲府市の老人ホームに入居させることに反感の念は変わらずだが、しかしもう入居手続きも済ませてしまったのでそれに従うしかない。
 下着売り場で父の下着を購入していると、ぐらりと体が揺れた。美紀恵は体の異常を感じとり、ゆっくりとしゃがむと目を瞑る。
 先ほどから動悸もする。『どうしちゃったんだろう』と思ったのを最後に、記憶が飛んだ。
意識が元に戻ると、自分は床に仰向けに寝そべっていた。
「お客様、大丈夫ですか?」中年の女性が言う。
 周囲に目を走らせると、高島屋の制服を身にまとった従業員が数名、心配そうに上から覗きこんでいる。
「大丈夫です。ここは何処ですか?」
「従業員用の休憩室です」
「ご心配おかけしました。でももう大丈夫です」
 上半身を起した美紀恵の背中を、中年の女性従業員が手で擦る。
「救急車を呼びましたので、このままお待ち下さい」
「救急車! 私、大丈夫です」
 大袈裟な騒ぎになってしまい、美紀恵は狼狽する。ちょっと気を失っただけなのに……。
「何かあってからでは遅いですので、救急車を呼ばせて頂きました」
 しばらくして、担架を持った救急隊員が3名やって来た。美紀恵は担架に乗せられるとバックヤードを通って救急車に乗せられた。
 サイレンを鳴らして走行する救急車の車内で、天井を見つめながらうら恥かしい心境だった。
 その後の病院での検査結果によれば、強いストレスが原因だろうと医師から伝えられ、ストレスを溜めないようにとのアドバイスを受け自宅に帰ることを許された。
 自分は何をしに横浜高島屋に行ったのか、今日という日を恥じた。
 その日の夜、美紀恵は旦那の帰りを待っていた。旦那にストレスの原因となっている姉の愚痴を、洗いざらい吐き出したかった。
 早く旦那が帰って来るのを願ったが、深夜11時を過ぎてもまだ帰って来ない。金曜日なので同僚と酒場で飲んでいるのだろうか……。
 美紀恵は大きくため息を吐き、もう寝ようと寝室に向かった。
 ベッドに寝そべりながら姉のことを考えていたら、一向に眠気がやって来ない。デジタル時計は、深夜0時を表示していた。


⑨・・・

 横須賀中央駅から程近いイタリアンレストランで、牧原好江は川口真理子と谷本里美とランチを楽しんでいた。
 子供のママ友として巡り合ったのが最初の出会いのきっかけだったが、子供達が成人した今でも真理子と里美とは月に数回、ランチを食べにいく間柄だ。
 好江は明太子スパゲティをフォークで巻きつけ口に運びながら、自然と会話は父親の老人ホームの話題になった。
「こないだ、父が入居する老人ホームを見学しに甲府市に行って来たの。行ってみたら古めかしい建物の老人ホームで、屋内も薄汚い印象だったわ。でも、入居費用がそこそこ安かったからそこに決めたの」
「入居費用いくらなの?」真理子がワインを一口飲んで言った。
「月額16万円」
「へー」里美が、たまげたような声を発する。「結構な費用じゃない」
 好江は膝の上のナプキンで口元を拭い「月額16万円は安い方よ。妹が探してきた老人ホームは入居するのに初期費用が1000万円もかかるって言うから、私が安い老人ホームを探したってわけ」
 真理子と里美は口ぐちに「大変ね」と言う。
「早くぽっくり逝ってくれたら無駄金を使わなくて済むんだけど、まだまだ元気だから困るの」
 沈鬱な表情を浮かべると、2人は「ご愁傷様」と笑った。
 3人でワインを1本空けてしまったらしい。追加でもう1本注文する。
 3人の話題は、いつしか不倫相手の話になっていた。
「体の相性は文句ないんだけどさ、もっと紳士的な男性がアタシの好みなの」と、好江は不満げに言う。
 好江を含め3人は、それぞれ不倫をしている。好江と里美に出会い系サイトを紹介したのは真理子だった。
 今日と同じメンバーでランチを楽しんでいる時、真理子から出会い系サイトで知り合った男性と不倫をしている事実を聞かされた。もう3年前のことである。
 当時、真理子から不倫の話を聞かされた好江は、自分も不倫をしたいとすぐに思った。真理子という親友の突然の告白に、不倫に対する垣根が一段低くなったように思えた。
 その日、自宅に帰りつくと真理子に紹介された出会い系サイトをさっそく試してみた。自己プロフィールを登録すると、雄が雌を奪い合うように好江に数多のメッセージが送られてきた。
 送られてきた多くのメッセージに、自分が久しぶりに女に戻った感覚に震えたのだった。
「別の男でも探せば」と、真理子が言う。
それもいいかもと、好江は思った。岡崎と不倫関係になって3年が経つが、もっと別のいい男に乗りかえるのも悪くない。
 追加注文したワインをウエイターが運んできた。ウエイターを見て、あら素敵な男性と好江はさりげなくチェックをした。


⑩・・・

 朝8時になった。もうすぐ登君と美紀恵がやって来る頃だ。
 足田誠一は洗面所で顔と歯を磨いたあと仏壇にお線香をあげ、他界した妻に知らせるように目を瞑って心で語りかけた。
『今日から私は、甲府市の老人ホームに入ることになった。もうこの家に帰ってくることはないだろう。お線香をあげられなくなるけど、どうか許しておくれ」
 目を開けると妻の遺影が頷いたように感じ、誠一も小さく頷いた。
 午前8時20分を過ぎた頃、家の外で車が止まる物音がし美紀恵夫婦だろうと察した。
 玄関のインターホンを鳴らし、美紀恵夫婦が家の中に入って来る。
「お父さん、おはよう」と、美紀恵は言う。
「おう、おはよう。せっかくの休みなのに登君にも来てもらって申し訳ない」
 立川登は「かまいませんよ」と言った後、仏壇にお線香をあげた。
「お父さん、好江姉さんはまだ来てないの?」
「好江なら、急用で行けなくなったと昨晩電話があった」
 美紀恵の顔に立腹した色が浮ぶ。
「好江も忙しいから、無理してまで来てくれることはない」
「だけど……」と、美紀恵は眉間にシワを寄せ押し黙る。
 誠一はどうしたらいいものかと憂え、「姉妹は仲良くしなくちゃだめだぞ」と付け加えた。
 家を出る前、誠一は室内を改めて見渡す。
 家族の思い出が詰まったこの家に、心中でねぎらいの言葉を投げかけた。
 登の運転する車は首都高速6号線から中央自動車道を通って、甲府昭和インターチェンジで降りた。途中サービスエリアでトイレ休憩を挟んだが、道路が渋滞することもなかったため2時間半ほどで甲府市までたどり着いた。
 一般道に合流すると「ちょっと早いけど、お昼ご飯でも何処かで食べましょう」と、美紀恵は言う。
 車内のデジタル時計は、午前11時40分を表示している。
 特に腹は空いてはいなかったが、お昼の時間に老人ホームに行ったら職員達の迷惑になると誠一も思ったので、美紀恵の言うとおりにした。
 登の運転する車は、県道31号線沿いで営業している蕎麦屋の駐車場に止まった。
 3人は1時間近く店内に居座り、店を出て積翠寺老人ホームに到着したのは午後1時ちょうどの頃だった。
 車から降り立った美紀恵は老朽化した建物を見て「これ?」と、驚きの声を発する。「ここにお父さんを入居させるの? 可哀想だよ……」
「父さんは、どこでもいいさ。好江がわざわざ足を運んで探してくれたんだから」
 建物は陰陰としている。この老人ホームにはどんな人が住んでいるのだろうかと心細くなったが、美紀恵にいらぬ心配をかけないように努めて明るく奮った。
 美紀恵は、姉の愚痴をぶつくさと独り言のように言っていた。


⑪・・・

 登の運転する車は、甲府昭和インターチェンジから中央自動車道に合流した。昼頃までは晴れてはいたが、いつのまにかどんよりとした灰色の雲が空を覆い、夕方のようなほの暗さで見通しがとても悪かった。
 立川美紀恵は先ほどから、旦那である登に姉好江の愚痴をこぼす。登は自動車教習所で教官から教わる適正な位置でハンドルを両手で握り、これまた模範的な運転姿勢と前方車との十分な車間距離をとって運転している。
「好江姉さんは、本当に自分勝手。自分のことしか考えてない。どうせあの老人ホームに決めたのも、生活することになるお父さんの気持ちは二の次で、お金優先で決めたのよ」
 登は「うん、うん」と頷く。
「好江姉さんって、子供の頃からお金に汚くて自分勝手だったの。一番記憶に残っているのが、私が中学生の時に貯金箱に小銭を貯めていたんだけど、ある時、学校から自宅に帰り着いて自分の部屋に入ったら好江姉さんが私の貯金箱から小銭を抜き取っていたのよ。私、呆気にとられて立ちすくんでしまったの」
 突然、登がブレーキを踏んだ。衝撃で美紀恵の上半身が前に揺れる。
 前方を走る赤い車体の軽自動車が、スピードを緩めたためである。登はウインカーを右に出しサイドミラーを確認したあと追い越し車線に移動して赤い軽自動車を抜き去る。
 軽自動車を抜き去る時に運転手に顔を向けると、スマホを操作しながら運転していた。
 美紀恵は顔を前に戻し、「でね、私、好江姉さんに何で私の貯金箱からお金取ってるのって聞いたの。そしたら好江姉さん私になんて言ったと思う?」
「いいよ」
「いいよ?」登るの言葉に美紀恵は聞き返す。
「もういいよ。ちょっと煩いから黙っててよ」
 登は、再び追い越し車線に入るとスピードをぐんぐん加速する。ハンドルを片手で握り、先ほどまでの模範的なドライバーから荒っぽい運転に変わったのを美紀恵は察した。
 突然、フロントガラスに雨粒が落ちてきた。今朝の天気予報では夕方から雨が降り出すと言っていたはずなのに……。
「ごめん。煩かった?」
「……」登は、前を向いたまま。
 車内に沈黙の空気が流れるなか、登の運転する車は東京方面に向かって中央自動車道を走行していたが、大月インターチェンジを過ぎた辺りで事故渋滞にはまってしまった。
「はあー」と、登がため息を吐く。
 車内の重苦しい雰囲気に耐え切れず、窓を開ける。優しい雨音に幾分か気が紛れるが、美紀恵は早く車が動いてくれと願う。
 しかし、事故車は完全に道路を塞いでいるようで、動く気配するしなかった。


⑫・・・

 改札を抜けると横浜駅西口は雑踏とし、日曜日だけあってカップルや家族連れが多く目立った。
 牧原好江は空を見上げる。雲ひとつない青空からは、夏を思わせる強い日差しが降り注いでいる。
 まだ4月の初旬だというのに、気温は夏日と言っても過言ではない。駅前を行き来する若者の中には、いち早く半袖を着こなす者もいた。
 好江は日傘を持ってこなかったことを後悔した。これでは、顔が日焼けしてしまう……。
 早く建物の中に入ろうと、足早に横浜駅西口に建つ映画館ムービルに向かった。
 ムービルのチケット売り場に着くと、午後1時ちょうどに上映される洋画のチケットを1枚購入した。
 本来であれば、今日は妹の美紀恵と一緒に父を甲府市の老人ホームに連れていく口約束だったが、妹の旦那である登が車で送っていくことになったため、好江は一緒に行くのを急きょ止めた。
 好江は登が苦手だった。登の几帳面すぎる性状が。
 上映10分前に、好江は上映室に入る。チケットの座席番号はH19。
 座席に座ると前列端のため、スクリーンが見えやすい席とはいえない。
 座席の悪さに、心の中で舌打ちをした。
 上映が始まると、好江が慕情を抱いている俳優が主役を演じていた。好江は映画を観に来たというより、この中年の美しい青い目をした男優観たさに来たのであった。
 好江は瞬きも忘れ、男優に見惚れる。
 ストーリーはいつしか、男優とヒロインを演じる女優の濃厚なセックスシーンへと変わった。
 男優の隆起した筋肉に女優は抱かれ、濃密で美しいキスを2人はスクリーンの中で楽しんでいる。
 好江の口は半開きになり、体が火照るのを自分でも感じた。
 もしもこの男優とセックスができるなら、もう他の男とはセックスをしなくてもいいと思えるくらい抱かれたかった。
 上映が終わり上映室を出ると、携帯電話から岡崎に電話を掛けた。
 男優と女優の甘いセックスシーンを見せつけられ、理性では抑えがつかないくらい情欲が膨れ上がり、すぐにでも岡崎に抱いてもらいたかった。
 電話で岡崎は、『待ってる』と言った。
 横浜駅からJR東海道線の電車に乗車し大船駅で下車すると、好江は1分でも早く岡崎に会いたくタクシーで岡崎の住むアパートに向かう。
 料金を払いタクシーから降り立つと、岡崎の部屋のインターホンを鳴らす。
 ドアが開くと、寝癖頭の岡崎が現れた。
 好江はたちまち、先ほどまでの凄烈な情欲がしぼんでいくのを感じた。
 紳士的な男優に心をときめかされた後だったので、寝癖頭の岡崎はひどく無風流な男に好江の目には映った。


⑬・・・

 夕刻になった。積翠寺老人ホーム所長の小石に連れられ、足田誠一は食堂兼談話室に行った。
 そこは4人掛けのテーブルが4つ設置されており、そこに9人の高齢男女が座っている。高齢男性7名に高齢女性2名。
 ある者は談笑していたり、またある者は腕組みをしてただ無言で座っていた。
 ピンクのエプロンをした女性職員が3名、夕食を各テーブルに運んでいる。
「皆さん、新しい方が本日から入居されましたので紹介しますね」と、小石がよく通る声で言う。
 誠一はやや緊張していた。この年になって緊張する場に際会することになるとは、酷く閉口した気分にさせられる。若い頃の緊張は何かへの挑戦が背後に絡んでいたが、いま感じるそれは、ただの不毛なことだった。
「足田誠一さんです。お年は83歳です」と小石は言い、誠一に顔を向ける。
「どうも、足田です。老人ホームに入居するのは初めてで、共同生活の不慣れから迷惑をかけることも多々あると思いますが、よろしくお願い致します」
 各テーブルに座る9人の入居者は、特に関心も無いといった素振りだった。
 挨拶が終わるとテーブルに座り、出された夕食に箸をつける。
『カレイとゴボウの煮付け・きんぴらゴボウ・ご飯にみそ汁』が、本日のメニューだ。
 口にすると、どれもしょっぱい味付けに驚く。ご飯も『べちゃべちゃ』している。
 誠一の正面に座る男性入居者が小声で、「ここの飯は不味いんだよ」と教えてくれた。
 老人ホームに入居すれば美味しい料理が毎日食べられると期待していただけに、裏切られた心地がした。
 夕食後、共同風呂で体を洗い終わると自室に戻った。
 各部屋は2人部屋で、夕食時にここの料理は不味いと教えてくれた安田健一という入居者と同室になった。
 安田の年齢は、誠一より3歳年下の80歳だ。
 安田はベッド横の扉付きラックから、ワンカップの日本酒を2本取り出すと「飲む?」と言って、1本を渡してきた。
「ありがとうございます」と言って、受け取る誠一。
 安田は蓋を開けると、ゴクゴクと水を飲むようにあおった。誠一も蓋を開け、酒に口をつける。
 酒を飲むのはしばらくぶり。思いのほか美味しく感じた。
「どちらから来られたの?」
「埼玉県の三郷市からです」
「また遠方から」と、安田はラックからワンカップ酒をもう1本取り出しながら言う。
「安田さんは?」
「俺は、生まれも育ちも甲府市。あと敬語なんて使わなくていいよ。ここに入居しているのは全員、死ぬのを待っている人間だけなんだから、上下関係なんて関係ないよ」
 安田の言葉に、ここでの生活の不安が払拭したように感じ気が軽くなった。

※執筆途中のため、ここまでです。

晩年の恋(未完成作品)

執筆の狙い

作者 マジンガーZ
125.192.203.149

今まで、2000文字以内のショートショートばかり執筆していました。
今回、中編作品に初めての挑戦中です。

当作品(晩年の恋)は、まだ執筆途中ですが、現時点での作品の感想をお願いします。
①内容についてはどうですか?
②小説として視点の間違いはありませんか?

コメント

偏差値45
219.182.80.182

> とくにすることもない誠一は、有り余る時間にまた吐息を吐いた。若い頃は24時間とい>う1日の短さに嘆いたが、今は1日の時間の長さに嘆く日々。老後の時間を削ってそれを若>い頃に使えたらどんなに充実した人生を送れたことか……。

共感できないかな。個人的には一番退屈なのは生まれて間もない頃だね。そして年齢を重ねるごとに時間は短くなっているような気がしますね。

> 確かに若い頃だったら新天地で暮らすことは、心が刺激されて浮き浮きしただろう。だが>自分は死に場所を求めて行くようなものだ。心臓が止まるのをただ待つだけの、夢も希望も>無い新天地……。

確かに……、そうかも。

>「好江姉さんって、子供の頃からお金に汚くて自分勝手だったの。一番記憶に残っているのが、私が中学生の時に貯金箱に小銭を貯めていたんだけど、ある時、学校から自宅に帰り着いて自分の部屋に入ったら好江姉さんが私の貯金箱から小銭を抜き取っていたのよ。私、呆気にとられて立ちすくんでしまったの」

ここは面白い。

全体的にはよく書けている。ただ冒頭のツカミが弱い。少々魅力的ではないのは損かな。
けれども、丁寧に書いてあるので読みすすむことは出来ました。それに複数のエピソードがあるのはアクセントがあって良い。キャラの性格や体質がよく分かります。

>①内容についてはどうですか?
老人ホームに入るような年齢ではないので興味はなかったのですが、
期待値以上に面白く読めました。

②小説として視点の間違いはありませんか?
間違いというよりは混乱を招くことはありません。
その点は章ごとで分けている為かな。

マジンガーZ
125.192.203.149

偏差値45さまへ

ご感想ありがとうございます。
私にとって初めての中編作品執筆ですが、毎日、連載小説を執筆することは意外に面白いんだなと新発見です。

前日の晩に、翌日に書く連載小説のストーリーを考えるのですが、どんなストーリーに発展しどういう結末になるのか私も分かりません。
ショートショートを書くよりも、中編小説執筆は楽しいです。

118.103.63.151

読みました。

上にもすでに書かれていますが、文章は読みやすく情景や情報を伝えていますし、キャラなどもそれぞれの個性が描き出されていて、誰が誰なのか読んですぐに分かります。なんていうんでしょう、姉妹の名前を憶えてなくても、その考えていることですぐにどちらかが誰か分かる、みたいな感じです。すばらしいと思います。

短い章ごとに視点が切り替わるつくりですが、これも上にあげた分かりやすさから、煩わしさとかはないように感じました。なにげにこういうのって技術がいる気がするので、すごいと思います。

一番気に入ったのは、美紀恵と登の車内のシーンです。御作の、今回の投稿部分の全体に流れている鬱屈感が凝縮されていて、この二人の関係はこれからどうなるんだろう?と読者に思わせる不穏さに満ちています。

つぎに気になった点ですが、一番ひっかかったのは、誠一の主体性のなさです。老人とはいえ頭もはっきりしていて、てきぱき支度して県外の老人ホームに行ってしまうくらいなのに、なぜ自分の子供二人の言いなりになって嫌なことをさせられているのか、その理由がよくわかりませんでした。お金も、誠一のお金で施設に入るんですよね?世間知らずなのでよくわからないのですが、この場合、ふつうは当人がどうするか決めるんじゃないでしょうか。もちろん話の設定としてホームには行かないといけないというのはあるので、その場合は、ほんとうは嫌なんだけど二人のことを思ってまかせている、とか、そういう誠一の心理描写があってもいいように感じました。(ただし、誠一が子供思いなんだということは、読んでて分かりました。)

とはいえ、先に言ったようにとても文章がお上手で、ストーリーもこれから面白く展開させるんだろうなと安心できるような設計の上手さを、御作のこの部分からは感じました。自信をもって作品を書きあげてください。それでは。

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