作家でごはん!鍛練場
朝ユミ

虎と虫

 私は平凡な女子高生だ、というくだりを見ると「ああ、それは異常だよ」と返したくなる口を噤んだ。
 平凡は自称するものではない。
 異常は自覚するものだ。
 その考えを言う度に「お前は疲れているんだ」と彼に言われた。
 忌々しいと内心思う。彼は同性、異性に言い寄られる不思議な色香を漂わせるから、嫉妬で妬ましいとさえ思った。
 ふと、気づいた。
 私は彼の顔を見ようとしたことがない。そんな馬鹿な。声は鮮明に覚えているのに、顔だけは――思い出せない。
 目を合わせようとしたことがないだけだ、チラッと横顔なら、ダメだ思い出せない。
 今は夏だ。会えば良いではないか。会って直接。
 いや無理だ、そこまでの仲ではないし、直接会わなくても。
 私が手に取ったのはアルバム。
 だけど、あと一日待てば登校日で、会える。
 謎は謎で美味しく取っておいた方だろう。
 アルバム見るほどの、存在ではないと私はその時点で区切りを付ける。


 登校日、彼をそれとなく探した。
 人を避けて歩く奴だ。探せば見つかる。そう思った。
「彼奴、来てない?」
 中々、見つからなかった。
 人とぶつかる。不注意であり考え事をしながら周りに気を配らなかった私の責任だが、人並みの隙間に彼を見つけた。
 謝罪を残し、ゆっくりと慌てず距離を縮める。なんだ、なんでこんなに動悸が。
 呼び止めようと肩に手を掛けようとしたが、ひらりと交わされる。
 相手は背を向けている、気配で分かったのだろう、勘弁して「ねえ!」声を出した。
 相手は階段を上る。
「ねえ」
 続いて上る。聞こえてないはずがない。
「ねえ」
「……何か? 大体察しが付くけど」
 彼は不機嫌だった。
「どうして、怒ってるの」
 今日学校に登校する羽目になったから。
 淡々としているが、怒りに満ちた声音。
「分かる、私も学校は嫌い。お願いこっちを向いて」
 彼は言われた通り振り向いた。別に顔に特徴があるわけではなかった。
 傷があるわけでも、美少年でも、印象に残らない顔でも、どちらでもない。
「泣いてる」
 そう、感情が操作出来ない病気の人だった。
 彼はいつも泣いていた。別に泣きたいから泣いてる訳ではない。
 それが普通だからだ。
「俺は異常な男子高校生だ」
 息を飲んだ。
 彼は上ってきた階段を下りて来る。こちらに距離を詰めながら。
「表面は優しく接してくれる人ばかり」
 下りて来る、動悸の音とともに距離が縮まっている。
「だけど内心はどうだ、腫物じゃないか、こんな俺に」
 階段を二歩上がれば彼とぶつかる距離。
「彼奴ら泣き虫と名を付ける」
「違う、泣き虫ではないよ、こんな泣き虫はいない、憎悪と怒気に満ち足りてる泣き虫は泣き虫じゃなくて、強虫だ」
「どうだか、俺は泣いてる顔のせいで、皆が良くしてくれる。だがそれが気に食わない。腫物のように扱い、それを気に食わない奴らが近づく。優しく接してくれる奴も、気を遣ってくれる奴らも――嫌な奴らの区別がつかない俺は、一体どうやって、
復讐すればいい、害虫になりたいんだ、彼奴らが脅えるくらいの」
「訂正させないで、私は、貴方を弱虫と呼びたくない」
「ほら見ろ、弱虫って」
「益虫だと今も思ってる、彼奴らを害虫を相手取る益虫だと」
 彼の呼吸が一瞬止まった。息を飲んだのだろう。
「害虫を引き寄せ、一人で相手取る貴方は益虫だ」
「虫だろ、所詮」
「貴方がいつも何されてるか知ってる」
 カーストが低く、特殊な立ち位置の彼は、目立つ存在、彼曰く悪目立ちだと語る。
「貴方が私の代わり、彼奴らに金を渡してるのも、揶揄われてるのも、私は安心していた」
「……」
「益虫だよ、本当に。ありがとう」
 同じ学校に類は居た、感情を操作できないのは彼だけではない。
 私の顔は醜悪だ。怒りに満ち溢れ、眉尻は上がり、口はへの字だ。
 正直、誰も近寄らない。「彼奴はいつも女子の日」と言われ、泣いてる顔すら怒り顔だった。
 病名を知った時、感情と顔の一致がしないことがやっと分かった。
「生まれ変わったら兎になりたい」
「は?」
「こんな顔だから話しかけてくれるのは、貴方しかいなくて、嬉しかった」
「大分分り難いものだけど、小心者なのは知っていた」
「男子から「虎女」って呼ばれてるんだよ、男子にだよ? 怖がる存在が怖がられてるって最初は誇らしかったけど、ある日ね、私が触った物を男子が取ろうとしたら「殺されるから、やめとけ」って言ってた。もちろん本人たちはジョークだったかもしれない、けど「可愛くない」って言うには十分だった」
「虫も殺せない奴にか?」
「それを知ってるの貴方だけだよ」
 虎と虫か、と彼は呟いた。
「ヘタレな虎」
「怒りっぽい泣き虫」
 彼は笑いながら言った。
「虎は虫、食えないもんな」
 その時、私は彼とやっと目を合わせた。
 確かに、虎は虫を食えないな。
 彼が通り過ぎる。
 私は目で追っていた。
「行くぞ、サボってるのバレたら何言われるか」
「うん」
 こっそりと呟いた。
「願わくあらば、虫が虎を喰いませんように」
「無理だって、お前可愛くねえもん」
「……弱虫弱虫弱虫」
 泣き虫は確かに泣いていた。
 虎は怒っていた。
 だが、二人の声音は明るく、別の感情を見せていた。

虎と虫

執筆の狙い

作者 朝ユミ
126.158.75.218

ライトノベルとか漫画とかも好きで、純文学では無いなと書いてる途中で気づきました
テーマは書いてる内、見えてくるだろうと思ったら
長く書くのは無理だと気付き、ぶん投げたオチ
結局何も解決してないけど

感想下さい

ミステリーを書こうとしたら、恋愛みたいな雰囲気を醸し出した

コメント

偏差値45
219.182.80.182

>嫉妬で妬ましいとさえ思った。
うーん。

>謎は謎で美味しく取っておいた方だろう。
しっくりこない。

>そう、感情が操作出来ない病気の人だった。
そういう人は確かにいるね。

>「男子から「虎女」って呼
会話内の台詞なので『虎女』の方がいいかも。

内容としては同じ病気だからこそ分かり合える、ということかな。
なかなかマニアックな内容だけにオリジナリティーは感じますね。
そこからどのようなストーリーを描けるか? アイデアを出せるか? というのがポイントになると思います。

そうげん
121.87.128.236

こんにちは。作品、よみおえました。

>私は平凡な女子高生だ、~
>平凡は自称するものではない。
>異常は自覚するものだ。

といった部分から書き出されてます。
平凡、普通、一般的、平均、という言葉を自分の形容に使うと、周囲の反応はあいまい、かわりにふと、「変わり者だしなー」というと、うけがいい。これは何だろうと考えたことがあります。

たとえば、新潮文庫の翻訳、トーマス・マンの「魔の山」という作品の冒頭は、

「ひとりの単純な青年が、夏の盛りに、故郷ハムブルクをたって、~」と描かれてます。この「単純」という訳語と、いわゆる「平凡」という形容的な用語とのちがいって、つきつめるとなるほどとおもう面があるんです。

平凡って、まわりから出てもいず引っ込んでもいず、平らかであって、ありふれている、突出はしてない。いわゆるわたしは目立たない存在としていますという宣言になっている。

でも、単純、って、なにか、となれば、たったひとつ。ひとりであって、そこにまじりっけがない。おそらく、イノセントとも近いニュアンスがあるように思えます。だから、単純という言葉は、「平凡」にも「異常」にも(そもそも平凡と異常は他者との比較によって明確になる意味合いですね)、あるいは、弱虫であろうと益中であろうと虎であろうとウサギであろうと、どんなものにも変化することのできる個人としてニュートラルの位置にあるという宣言が、魔の山ではなされている。

「虎と虫」、この二人のなかに、このニュートラルな視点。個人が個人である要の個所をどこかに意識することで、行動にも嘆きにも、あるいは思いやること、いろいろの葛藤、そういう数々の経験のなかになんらかの形でかかわってくれば、描くことの出来る部分はぐっと広がるような印象をもちました。

二人の間でなんとなく心情的に救われてるんだけど、もうすこし広く舞台をみると、なんとか卒業後だったり、この狭い空間から外へ出たときにもしっかり立っていけるようなある種の強さが得られる方向であったほうがいいのかな、とも思いました。

純文学でも、川上未映子さんの「ヘヴン」はけっこう近い感じもあったけど、深刻な部分もあるので、やっぱりちがうでしょうか。三年寝太郎からいいんちょと慕われる『星虫』の主人公。星虫の主人公友美は、クラスの中でたったひとり、問題児広樹の素質をみとめて、ある事件のなかで力強く行動していくという展開で。なんとなく、『虎と虫』をみたときに、ふっと二つの作品の印象を重ねました。

 

朝ユミ
126.197.32.19

偏差値45さん
感想ありがとうございます

参考にさせていただきます

朝ユミ
126.197.32.19

そうげんさん
感想ありがとうございます
知識量に驚き
参考にさせていただきます

そうげん
121.87.128.236

返信ありがとうございました。
過去の投稿欄を見ていたときに気づいたのですが、このサイト「作家でごはん」はいったん投稿したあと、2週間の期間をあけてから次の投稿を行うことをサイトの案内(ガイド)ページに記されてます。


https://sakka.org/training/guide
●ひとりの作者につき、2週間に1投稿のみ可能です。2週間以内の再投稿は禁止とし、抵触した作品は掲載を停止することがあります。


一度ざっとページを読んでおかれるとよいかと思いました。

(わたしもただの一利用者です)
ではでは。

朝ユミ
126.184.23.216

そうげんさん
ありがとうございます
危うく引っかかる所でした
気をつけます

アトム
126.28.180.228

おおまかでいいから、頭の中でプロットを拵えてから書かれたら如何ですか。
少なくとも支離滅裂は防げると思います。

朝ユミ
126.172.134.32

アトムさん
感想ありがとうございます
プロットを考えるのは苦手で、勢いで書く癖がついたものですから、支離滅裂というのはどの辺でしょうか?
不快でなければ教えて下さい

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