作家でごはん!鍛練場

『元お嬢様と暮らす事になったのだが第4話(修正)・第5話』

エア著

自由気ままな生活を送りたい男子高校生と残念系元お嬢様のコメディ。
第4話の修正と第5話の投稿です。
感想はもちろん、添削、助言もお願いします。

今までの話はコチラ。
https://ncode.syosetu.com/n2673ek/

第4話(修正前)
https://sakka.org/training/?mode=view&novno=15927

第4話
 俺は高校に入学した頃から、笹凪アパートというアパートに住んでいる。その理由について、周囲には「よりレベルの高い教育を受けたい」「いずれ、親元から自立しないといけないから」と告げているが、これは建前。本当の理由は、別にある。その背景にはアイツの存在があったからだ。アイツのせいで、俺の小学・中学時代は滅茶苦茶にされ、アイツから逃れる為に一人暮らし(今は違うが)を始めたと言っても過言ではない。
アイツは、俺が通う高校に入れる程の学力は無いし、今後二度と会う事は無いと思っていた。あの時が来るまでは……。

 それはある日の放課後、俺が部活を終えて、自宅に帰る途中のことだった。
 校門の前に、一人の女の子が立っていた。着ている制服からして、ヨソの高校の生徒だ。外見は可愛らしく、こげ茶のお団子が頭に一つ乗っかっており、ぱっちりとした円らな瞳。そして、制服の上から大きく膨らんだ胸が目に付く。何人かの男なら、彼女に一目惚れしても、おかしくなさそうだが、俺は彼女を見た途端、何故か全身に悪寒が走った。何で、アイツがこんな所にいるんだ? アイツは確か、地元の商業高校に行ったはずなのだが……あぁ、そうか。多分、アイツと顔はよく似ているけど、別人か。この学校に来たのも、自分の彼氏が来るのを待っているからに違いない。そう思った矢先だった。
「達也君!」
女の子は、俺を見るなり、明るく大きな声で俺に駆け寄って来て、俺を強く抱きしめた。
「うわー、会いたかったー! 私、今までずっと一人だったから寂しくって、ここまで来ちゃったよー! 達也君を探すのに、結構苦労したけど、それでもこうして会えたんだから、凄く嬉しい!」
俺に会えて凄く嬉しかったのか、かなりギュッと強く抱きしめられているのが……って、あああっ! 俺の胸に彼女の柔らかい二つのクッションが……このままだと、心臓発作が起きて死んでしまいそうだ!
「やめろ、やめろ! こんな所で抱きつくなー! 変な目で見られるから、離してくれー!」
 そう言って、女を突き飛ばす様に身を離すと、女の子はドシンと尻餅をついた。
「痛いですー。せっかく会えたのに、突き飛ばすなんて酷いですー」
 女の子は尻をさすりながら言った。
「酷いです、じゃない! こんな所まで来て何しに来たんだよ、芽衣子」
 俺は女の子の名前を呼んだ。
「だって私、達也君に会いたくて、わざわざここまでやって来たんだもん」
「つーか、お前、地元の商業高校に行ったんじゃなかったのか?」
「そうだけど、達也君がいなくて寂しかったの。でも、私、バカだから同じ高校には通えないし。だから、代わりに近くの恵信高校の編入試験を去年の冬に受けて合格したの」
 何と言う事だ! 近くの高校に編入するというのは、全くの予想外だった。しかも、俺の学校や自宅まで探していたとは! これって、ストーカーじゃないか! だったら、ずっと迷ってくれた方が良かったのに!
ちなみに、恵信高校は自由な校風で有名な私立高校で生徒数も結構多い。学科は、調理科、福祉科、情報処理科、デザイン科がある。しかし、偏差値が非常に低く、「名前を書くだけで合格出来る」とも噂されており、藤澤高校に入れなかった奴が行く所とも言われている。
 芽衣子は俺の腕に抱きながら、上目遣いで甘える様に言った。
「じゃあ、せっかく再会したことだし、達也君の自宅に行きたいな~」
「えっ?!」
 まさかの発言に俺はビクッとした。腕に抱き着く、彼女の胸の感触がダイレクトに伝わってくるのが分かる。他の男なら、ドキドキするシチュエーションだが、今の俺には別の意味でドキドキしていた。本人は無自覚なんだろうけど、こういうことを彼氏以外の男にやるなよ!
「だってぇ~、達也君がどんな暮らしをしているのか、凄く気になるんだもーん」
「さすがに、家には入れられないよ」
「えーっ? 地元にいた時は、家に入れてくれていたのにー」
「最近、ちょっと面倒な事が起きて、ますます忙しくなってな。俺の自宅で一緒に遊んでいる暇はないんだ」
 というか、お前を家に入れると、必ずロクでもないことが起きていたよな。俺の親父とお袋は、それでも優しくしてくれていたけど、こっちとしては大迷惑だったよ!
「せっかく、また会えたのにー」
 そんな会話をしていた時だった。
「ねぇ、あの女の子、一体誰なの?」
「結構、阿見君に親しく話しかけているけど、ひょっとしてあの子が彼女?」
「そういえば、この前も違う女の子が来ていたよね。もしかして、他にも女がいるんじゃないの?」
 皆さん、ひそひそと話をしていますけど、コイツは俺の彼女じゃないですよ。しかも、他にも何か勘違いをしていやがる。このままだと、埒が明かないと思った俺は、
ダッ…!
「あっ! ちょっと、待ってよー!」
俺は、芽衣子を突き放して、猛スピードで逃げた。

「た、ただいま……」
 どうにか芽衣子を撒いて、自宅に戻った俺は疲労困憊になり、玄関に倒れ込んだ。
「どうしましたの。何だか凄く疲れていましたけど」
「帰る途中で、変な女に付きまとわれてな……どうにか撒いてきた」
「それは大変でしたわね」
 口では言っているけど、麗華の反応は冷淡だった。少しは心配してくれたら良いのに。
それでもやっと帰ることが出来たので私服に着替えようと、何とか体を起こした、その時だった。
「達也くーん!」
明るい声と同時に、左から突如板の様な物が、ガッ!と俺を挟みこんできた。
 俺は思わず「ギャッ!」っと、小さな悲鳴を上げてしまった。
「あれ~? 達也君の家はここだって聴いたけど、もしかして間違えちゃったかな?」
 その声は、つい先程聞いた声と同じものだった。おかしいな、上手く撒いたと思ったのに。それに、アイツは結構足が遅いし、極度の方向音痴だ。そんな奴が俺の自宅を突き止められるはずがないんだが。
 声の主は、(ここからは見えないが)恐らく辺りをキョロキョロと見渡していたが、すぐに先程の様子を見て、ぽかんと口を開けた麗華と目が合った。
「あの、すみません。阿見達也君の家を探してるんですけど、どこにあるのか知りませんか?」
 すると、麗華は「阿見なら…」と、俺を憐れむ様な目で玄関のドアに挟まれた俺の方に指を差した。すると、声の主は俺の方に回った。
「あっ、達也君。そんな所にいたんだ」
 ようやく俺を見つけて、屈託の無い笑顔で現れたのは、先程俺が会った女の子・美月芽衣子だった。
 せめて、言うなら俺をドアに挟んだ、お詫びの言葉も言えよと思った。

「ふーん、学校でそんな事がありましたの」
 俺が事情を説明(途中で、説明下手な芽衣子が割り込んで、話がややこしくなったが)すると、麗華は大方事情を理解した様だ。
「それにしても、お前どうやって俺の自宅を見つけたんだよ」
 (一応、来客なので)お茶を出しながら、俺は芽衣子に尋ねた。
「達也君の家を探していたら、たまたま通りかかったおばさんが『達也君なら、ウチのアパートに住んでいるよ』って言って、わざわざここまで案内してくれたの」
 最悪だ! よりにもよって、大家さんが芽衣子に会ってしまっていたとは! きっと、買い物帰りに芽衣子と遭遇してしまったのだろう。きっと、俺は何かに呪われているのかもしれない。今すぐ、近くの神社で厄払いをした方が良さそうだ。
「でも、幼稚園からの付き合いという事は、つまり二人は幼馴染ということになりますの?」
「……まぁ、そういうことになるな」
 芽衣子は、俺とは幼稚園からの付き合いで、俺の近所に住んでいた。少々泣き虫な所もあるが、明るく天真爛漫な性格から近所の大人達からは可愛がられており、当時は俺と芽衣子も他の奴らと一緒によく仲良く遊んでいた。
「そうだよ。中でも達也君はね、私が失敗して落ち込んで泣いていた時も、優しくしてくれるし、困っている時にいつでも助けてくれる王子様みたいな人だったんです」
そう言えば、そんなこともありましたネ。当時は、困っている人を見ると、放っておけなくて、転んで泣いていた芽衣子を俺が慰めたり虐められていた芽衣子を俺が助けたりと、今思うとあの頃の俺は本当に良い子でしたよ。今では、そのことを物凄く後悔しているけどな!
「それにね、達也君はいつも成績が良かったし、絵も上手いし、運動部に助っ人として参加した事もあったし、あと、よく学級委員長に選ばれていましたよ」
「ほぅ、それは凄いですわね」
 それを聴いた麗華が物珍しそうに、俺の方に目を向けた。
芽衣子は、俺をスーパーヒーローの様に言っているけど、こっちは大変だったんだぞ。おかげで、俺は小学一年生にして先生から学級委員長と同時に、芽衣子の世話係を任されたんだから。当時の俺はこれをすんなりと受け入れたけど、後になってこれが大きな間違いだと気付いたよ。
確かに、先生の目論見通り、俺が芽衣子のフォローに回る事で、ある程度の被害は抑えられたし、虐めに遭う事も無くなった。けど、掃除の時にバケツに躓いて、中の水をひっくり返して床をびしょ濡れにしたり、授業中にトンチンカンな回答をして周りをドン引きさせたりと、こっちとしては後始末が大変だった。おまけに芽衣子が失敗したら、後始末は全て俺任せ。芽衣子にもしもの事があったら、必ず世話係である俺の責任として、担任から叱られていた。周りもそれに便乗して、俺に仕事を押し付けたり、「付き合っているの?」「お似合いだね」とからかったりして、散々だった。
同じ中学に上がってからも、俺にべったりでクラスはもちろん、グループも三年間ずっと彼女と同じ。大して絵も上手くない癖に、俺と同じ美術部に所属してきた。そんな中で、次第に芽衣子と一緒にいる事に嫌気がさしていった俺は、何かと理由をつけて断ったが、「だって私バカだから分かんないんだもん!」「達也君がいないと何も出来ない!」と、泣き出す始末で、こっちが泣きたくなったよ。
「ところで、麗華ちゃんって、お嬢様なんでしょ。どんな暮らしをしていたの?」
「そうですわね、私がかつて豪邸で暮らしていた時は、朝になると、執事が用意した、お目覚めの紅茶を飲んで、朝の支度や朝食の用意も、全て使用人がしてくださいましたのよ。そして、学校では誰もが私を敬って挨拶をしてくださいましたのよ。そして、お昼には……」
 そう言って、麗華は自分がお嬢様だった頃の話を始めた。芽衣子は「へぇー」「すごーい」と興味津々に頷いているけど、内容がいかにも自慢げだった。他の奴だったら、イラっとするぜ。
「それにしても、今は麗華ちゃんと達也君って、一緒に住んでるんでしょ。一体どんな関係なの?」
「私と阿見は主従関係ですわ。言っておきますけど、別に恋人の関係ではありませんわよ」
 ズバッと言いやがったな。正解だけど、何かイラっとするな。
「そうなんだー。ところで、麗華ちゃんは、何で金髪に染めているの?」
「これは染めているのではなくて生まれつきですわ。私の母方のお婆様がイタリア人でしたから」
「ふーん、それにしても凄く綺麗だよね。触っても良い?」
「無暗に、人の髪に触るのは、やめてもらえます?」
 麗華はちょっと不機嫌そうに言うが、
「良いじゃん。触らせてよ」
 と言って、芽衣子は麗華の髪を両手で、くしゃくしゃと触ってきた。
「ちょっと、何を……キャッ!」
 麗華が小さく悲鳴を上げている。
「すごーい……髪の毛がサラサラー」
 それでも、芽衣子は凄く嬉しそうな顔をしている。きっと、手触りが良いんだろうな。
「ほっぺたも、ぷにぷにで柔らかーい、えへへ……」
 今度は麗華の両頬を指でつまんできた。
「ちょっほ、はなひなはい!(ちょっと、はなしなさい!)」
その表情に、思わず俺もプッと吹き出しそうになった。
「これ以上、人の身体に触れるのは止めてもらえませんこと?」
「えーっ? でも、手触りが良くて凄く気持ちいいよー」
「だからって……ひゃうぅっ!」
 芽衣子に色々な所を触られて、麗華が取り乱して可愛く悲鳴を上げている。あんな表情の麗華は初めてだよ。
「あのさ、芽衣子。麗華さんがスゲー困っているから、そろそろ止めてもらえるか?」
 俺が芽衣子を強引に引きはがした事で、麗華は解放されたが、すっかり憔悴していた。それにしても、初対面で麗華にこれだけスキンシップをするなんて……俺がやったら確実に怒られてビンタされているぞ。
「じゃあさ。今度は達也君の自宅を見て回っても良い?」
「えっ? 何で俺の部屋を見るんだよ。言っとくけど、俺の部屋は狭いし、この部屋と向こうに風呂場とトイレがあるだけだぞ」
「だって、達也君がどんな生活をしているのか気になるし」
 芽衣子は手を後ろに組んで恥じらいながら言った。くそっ! こんな奴の仕草でも、こんなにときめいてしまうなんて!
「まぁ、良いではありませんこと?」
「えぇっ?!」
 まさか、あの麗華が賛同するなんて、おいおいお前も何であの女の肩を持つんだよ。
「だって、せっかく、かつての幼馴染と再会出来たのですから、部屋の中を案内させてもよろしいでしょ。それに、さっき私の顔を見て笑っていましたし」
 最後、ボソッと怖い事を言った様な気がするが、追及したら更に恐ろしい目に遭いそうな予感がした。
「……分かったよ」
 主人に言われて、俺は観念した。
「では、まずは阿見のリビングを見て回りましょう。私もここに住み始めたばかりで、彼の生活はまだ知りませんし」
 最初に、芽衣子はまず台所にあるプランターを見て指を差した。
「あれ、達也君、何か育てているの?」
「あぁ、高校に入ってから家庭菜園を始めたんだ。それを作って料理をした事もある」
「例えば?」
「そうだな、去年は豚肉と収穫したリーフレタスで冷しゃぶサラダを作ったっけな」
「へぇー、そうなんだ。エプロンを着て料理をする達也君、鍋でお肉をしゃぶしゃぶして、レタスを包んで、ごまだれを掛け……あぁん……!」
 芽衣子が何か変な事を妄想しているが、ここはスルーしておこう。ちなみに、俺はポン酢派だ。
「それと、あのサイトは今でもやっているの?」
「やっているよ」
「ちょっと、サイトとは何ですの?」
 麗華が話の間に割って入って来た。
「あぁ、中学の頃からイラストのサイトをやってるんだよ」
「そう言えば、麗華ちゃんは達也君の絵、まだ見た事ないよね?」
「えぇ」
「達也君ってね。絵も凄く上手いんだよー。絵のコンクールで何度も受賞した事もあるんだから!」
「ほぅ、それなら私も興味がありますわね」
 麗華も芽衣子の話に興味を持った。
「良いよ。イラストは自信があるからな」
 俺はそう言って、ノートパソコンを取り出して、電源を入れた。そして、イラストという題名のファイルのアイコンをクリックした。そこには、俺が今まで描いたイラストがあった。中学の頃からサイトをやっているけど、今までこれだけイラストを描いていたんだな、と思ってしまった。
ちなみに、俺が描いているイラストは、オリジナルのイラストがメインだが、たまにお客さんからのリクエストで二次創作を描いている。タッチは、少年漫画やゲームに出て来る様なシャープなものにしている。
 でも、肝心のご主人様は俺の絵について、あまり良い顔ではなかった。
「私の好みではありませんわね……」
「やっぱり、お嬢様にはこうした絵は好みじゃないか?」
「そうですわね。私としては、こんな幼稚な絵よりも、モネやルーベンスの様な絵を見ていた方が良いですわね」
……予想はしていたけど、やっぱりムカツクな。これでも毎日千人以上のアクセス数があるんだぞ。モネやルーベンスが見たいなら、美術館に行けよ。
「そんなこと言わないでよー! だったら、この絵はどう?」
「うーん、絵の構造が稚拙ですわね」
「じゃあ、これは?」
「うーん……」
 二人が俺の絵を見ながら、どうこう言っていると、
「「「あっ!!」」」
 芽衣子の手が近くに置いた湯飲みに当たって倒れ、何と俺が愛用しているノートパソコンのキーボードにこぼれてしまった。
「ヤバイ!」
 俺は、すぐさま台拭きでパソコンのキーボードを綺麗に拭いた。そして、キーボードが壊れていないか確認する為に、キーを打ってみた。が、画面は表示されているものの、キーボードは全く反応しなかった。
「芽衣子、お前なんて事してくれたんだ?! これを修理するのに、どれだけ金が掛かると思ってるんだよ!」
「えぇっ! そんなにお金が掛かるんですか?!」
「少なくとも、二、三万円。下手したら買い直しだぞ!」
「そ、そんなにするんですか?!」
 真っ赤に怒った俺に対し、芽衣子の顔が青ざめた。
「そんなに、怒る事ではありません事よ」
「怒る事では無いって、俺のせっかくのデータが消失したら、どうするんだよー!」
「……そんな幼稚なサイトが無くなった位で怒るなんて。小さい男ですわね」
麗華の言葉にカチンと来た。
「そんなに高いだなんて……。ごめんなさ……、あっ!?」
芽衣子が頭を下げて謝った勢いで、机が傾き、麗華の服に濡れた台拭きがぽとりと落ちた。すると、今まで余裕を見せていた麗華の顔色がみるみると変わっていく。
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!!」
今にも泣きそうな美月の様子に何とかこらえたのか、麗華は引きつった笑いを作る。
「だ、誰にでも失敗はありますわ……」
そう言いながらも肩はプルプル震えていて、正直怖い。
「ふ、風呂場で染み取りをしようか! そう汚れてないし、まだ何とかなるって!」
「わ、私も手伝います!」
バタバタと三人で風呂場に移動した。
 風呂場に入り、俺が染みを取る為のタオルを持って来た。服の染みを取ろうとした所、
「私がやります!」
と、芽衣子が蛇口を思いきり捻ったその瞬間、
シャアアアアアアッ!
 何と勢いよくシャワーから水が出てきた。アイツ、間違えてシャワーの方に回したな!
「うわあああっ!!」
「きゃあああっ!!」
「ひゃあああっ!!」
 あまりにも勢いよく飛び出るから、ホースが危険動物の様に暴れ出し、芽衣子が思わず掴んだ手を離してしまった。
「ちょっと、何ですのっ?!」
「あわわっ! これ、どうしよう! 達也君、助けて!!」
 女の子が慌てふためき、キャーキャー騒ぐ中、俺は水に濡れながら、蛇口を止めた。
「ふーっ……どうにか助かったー」
 俺が水滴を腕で拭って、後ろを振り返ると、大雨に遭ったかの様に、びしょ濡れとなった二人の少女の姿があった。
芽衣子は制服と髪が乱れて、まるで成人向けDVDのパッケージに出て来そうな雰囲気だ。
麗華も同じく、髪が乱れ、しかもこの前買ったワンピースが水で透けて、桃色のブラジャーとパンツが見える。
「ちょっと、あなた! 何てことをしてくれましたの?!」
 さすがの事故で、遂に麗華は芽衣子に怒鳴りつけた。
「ご、ごめんなさいーっ!」
 麗華に怒られて、芽衣子は慌てて謝った。
「まあまあ、服が濡れたくらいでそう怒るなよ」
「何ですって! この服はこの前、私が気に入って購入した物ですわよ!(第2話参照)」
「そうだけど、服くらい後で着替えれば済む話だろ」
「あなただって、ノートパソコンが故障した時は相当怒っていたでしょう!」
「お前の服がびしょ濡れになるのとは、被害の大きさが違うんだよ!」
 そう言って、言い合っていると、
「喧嘩はやめて!」
 芽衣子が大声で制止した。普段、ポケポケとしているから突然の声に俺も麗華も思わず黙ってしまった。
「あのね……元は私がいけないから、別に宥めなくても良いよ。それに、私なら怒られるのはもう慣れっこだから気にしなくて良いよ」
 芽衣子は話を続けた。
「それに、今日は達也君と久しぶりに会えて自宅に来ることも出来たし、麗華ちゃんとも仲良くなれたから、凄く嬉しかったんだよ。それなのに、二人が喧嘩しているのを見てたら、こっちも悲しくなるよ」
「美月さん……」
「芽衣子……」
 それを言われると、俺らも何も言い返せなかった。
「分かりましたわ。そう言うなら今回は喧嘩は止めますわ」
 観念した麗華がそう言うと、今まで困っていた芽衣子の顔はパアッと明るくなった。
「でも、あんまり失敗ばかりじゃ、こっちも面倒見切れないから少しは気を付けろよな」
「うーん、でも私バカだから、幾ら気を付けても失敗しちゃうから、しょうがないよ」
「それが、いけないのだろうが!」
「それが、いけないのでしょうよ!」
 困った様に笑う芽衣子に、俺と麗華は声を揃えて芽衣子を叱った。

「今日は色々とありがとう。じゃあ、またね!」
「もう良いよ……」
 俺がぐったりしているにも関わらず、芽衣子は笑顔で帰って行った。せっかく仲直りをした後も、芽衣子が風呂場の掃除中にまた水浸しにしたり、壊れたノートパソコンを修理屋さんに渡そうとして転んだりと、トラブルを起こしたからだ。 しかも、こっちは来なくて良いと言っているのに、何を勘違いしているんだか。
 ちなみに、ノートパソコンは修理屋を電話で呼び、直してもらう事にした。
「随分と騒がしい女でしたわね」
 麗華が俺に同情している。どうやら、コイツも芽衣子のヤバさを理解した様だ。芽衣子本人に悪気は無いのだけど、だからこそ余計に厄介なんだよな。
「あぁ、だから俺はアイツから逃れる為に、ここに引っ越して来たんだ」
芽衣子から離れる為に中学二年の秋、俺は芽衣子の学力では絶対に入れない、県内屈指の難関校を受験する事を決意。猛勉強の末、中学三年の冬に、めでたく合格したのであった。
あの時は、これで芽衣子の世話係も卒業だと喜び、これからは二度と誰にも邪魔されない、自由で楽しい高校を謳歌すると決めていたんだけどな……。
「でも、他人への思いやりはある子ですわね」
「まぁな。独り善がりな所はあるけど、それがアイツの良い所なのかな?」
「けど、それはあなたのおかげだと思いますわ」
「えっ?」
「だって、あなたが常に彼女を支えてくれたおかげで、彼女は笑顔でいられたのですから」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、世話をする側としては大変だぞ。アイツのフォローをするのに、どれだけ苦労した事か」
「まぁ、確かに私としてもあんな使用人がいたら、迷惑極まりないですけど、それでもあなたは何だかんだで、彼女を支えてくれたではありませんこと。もし、あなたが彼女の傍にいなかったら、きっと彼女はあんなに明るく振る舞う事は無かったでしょうね」
「……」
 それを言われて、胸が痛くなった。実際、当初芽衣子と一緒に遊んでいた子達も次第に離れていった。本人に悪気は無いとはいえ、自分本位で空気を読まずドジが多くて、度々トラブルを起こしていたからだ。そういや、体育の授業のリレーで芽衣子の班がビリになって、他のメンバーに物凄く怒られて泣いていた時も、俺が慰めていたんだよな。もし、俺が傍にいなかったら、アイツは今頃、どうなっていたのだろうか? もちろん、離れた奴らの気持ちも分かるけど、それでも落ち込んでいる時に傍にいてくれる人がいないのは、とても辛くて寂しい。
「彼女があなたを慕うのは、それだけあなたに信頼を寄せているからですわ。普通の人だったら、彼女を面倒だと感じるでしょうけど、そんな彼女を今まで支えてあげたのは立派な事だと思いますわ」
「麗華……」
 高飛車な彼女から、そんな優しい事を言われて、俺はこれまでの苦労も決して無駄ではなかったのかもしれないと感じてしまった。
「あら?」
 せっかく、良いムードで終わると思ったら、麗華が突然ムスッとした表情になった。
「どうしたんだよ。俺の顔に何か変な物でも付いているのか?」
「あなた、さっき私の事を呼び捨てにしましたわね?」
「えっ? それくらいで?」
「従僕の癖に、主人の事を気安く呼ぶとは、まだご自分の立場を分かっていない様ですわね」
「いや、呼び捨てって……そんな怖い顔で言う程のものでもないだろう!」
「さん付けなら、見逃していましたけど、これはさすがに見過ごす訳にはいきませんわね」
 ヤバイ、麗華の目が恐ろしい事になって、背後から強烈なオーラが出ている!
「ちょっと待てよ、呼び捨てにしたからって、そんな殺気を出す様な……!」
「問答無用!」
 その日の夕方、笹凪アパートからは悲鳴が空に木霊した。

 翌朝、俺達はいつも通りに朝食を食べながら、テレビを点けると、朝のニュースが流れていた。
「昨夜、××市のアパートで火災が発生し、アパートが半焼しました。幸い、このアパートに住む住民は全員避難しており、怪我人はいませんでした。消防署の調査によりますと、アパートの一室のコンロが酷く焼け焦げていた事から出火原因はそこからのものと思われます」
 テレビの中に出ている女子アナが読み上げたニュースを聞いて、俺達は口をあんぐりと開けてしまった。
「うわー、××市って、俺達が住んでいる所じゃないか」
「近所で火事が起きるなんて、物騒ですわね」
そうだよな。幼稚園の頃、火の用心、マッチ一本火事の元、なんて幼稚園の先生から教わったっけ。今改めて、火事の恐ろしさが分かったよ。俺も気を付けないと。
そう思っていた時だった。
ピンポーン!
玄関のチャイムが鳴った。こんな朝っぱらから、一体何の用だろう?
 俺は玄関のドアを開けた。すると、
「達也くーん!」
 現れた女の子は、何と芽衣子だった。おかしいな……何で朝っぱらから芽衣子がこんな所に来ているんだろう? もしかして、俺はまだ寝ぼけているのかな?
「阿見、これは夢ではなく、現実ですわよ」
 麗華が俺の内面を見透かして、言ってきた。
「何でお前が朝っぱらから、こんな所にいるんだよ……」
 すると、芽衣子はえへへ……と頭を掻きながら言った。
「夕食を作ろうと思ったら、部屋を真っ黒焦げにしちゃって……」
 やっぱり、火事の原因はお前か! 可愛く言っているけど、一体どれだけ周りに迷惑を掛けたと思っているんだよ!
「それで大家さんが『だったらしばらくの間、私の家で暮らせば良い』って、言ってくれたから」
 うわー、うちの大家さん、スゲー寛大だなー。俺だったら、料理に失敗してアパートを火事にしちゃう様な危険人物なんて家に置けないって! 変なトラブルに巻き込まれてしまわないか、凄く不安になって来た。
「という訳だから、今日からまたよろしくね。達也君!」
 芽衣子は天真爛漫な笑顔で俺に挨拶した。
こうして、俺の周りに、また厄介者が増える事になったのであった。

第5話
「はい……今月、ちょっと急な出費が多かったので、お願い出来ませんか? ……ありがとうございます。それでは、明日よろしくお願いします」
 俺は電話で話した後、電話を切ると、麗華が尋ねてきた。
「一体、誰と話をしていましたの?」
「あぁ、バイト先の店長だよ」
「そう言えばあなた、この前バイトをしているとおっしゃっていましたわね。一体、どんな場所ですの?」
「『パステル』っていう名前のファミレスなんだ」
「ファミレス? 何ですの、それは?」
「ファミレスって言うのは、ファミリーレストランの略で、家族向けのレストランの事だよ。お前は行った事は無いと思うけど」
「なるほど。それで、先程は何の話をしていましたの?」
「今月、色々と急な出費があっただろ。それでお金が足りなくなったから、バイトを入れてもらう事にしたんだ」
 思えば、俺がコイツを家に入れた時から、俺の出費は急激に増えた。同居人の分の買い物や生活費はもちろん、この前芽衣子が壊したノートパソコンの修理代もあって、俺のお金は破産寸前だ。家賃は、両親の仕送りでやっているけど、それ以外は自分でどうにかしろ、って言われているからな。そう言えば、コイツは俺の家に住んでから、学校にも行ってないし、働いてもいないよな。
「お前も、バイトに行ってみるか?」
「バイト? この私に庶民の元で働けと言いますの?」
 麗華がムッとした表情を見せた。
 あっ、確か、コイツは家が破産した後は、色々な所でバイトしていたけど、どこも不採用にされて、雇われてもすぐクビになっていたんだよな。あんな性格じゃ、無理はないけど、このまま家にこもっているのもマズイしな。という訳で、俺は説得を試みた。
「だって、今のお前は学校にも仕事にもハローワークにも行ってない、ニートだろ。確かに、庶民の元で働くのはキツイかもしれないけど、ずっと家にこもっているばかりじゃ、家の復興なんて出来ないだろ」
 それを言われて、麗華はむむむ……と唸ってしまった。しかし、しばらく考えた後
「分かりましたわ。庶民の元で働くのは不本意でありますけど、ここは家の復興の為だと思って、働かせて頂きますわ」
 元お嬢様も腹を括った様だ。
 こうして、俺のご主人様も、アルバイトをする事になったのであった。

 という訳で、やって来た俺のバイト先である全国チェーン店のファミレス『パステル』。外観は店名の通り、パステルカラーを基調としたデザインである。
「こんな所で仕事をしていますの?」
「そうだよ」
「随分と簡素な作りですわね」
 元お嬢様は店を見ながら言った。
「悪かったな。お前好みの派手なデザインじゃなくて。けど、この店もよく人が来ているんだぞ。それと、今回お前はあくまで店員として働くんだから、客や店員に上から目線な態度は取るなよ」
「あ、あなたに言われる筋合いはありませんわ!」
 麗華はムキになって反論した。それなら良いけど、コイツの事だから何かトラブルを起こしそうだよな。
 そう言って釘を刺した後、俺と麗華は店の中に入った。すると、店には店員が数名掃除をしていた。
「おはようございまーす!」
 俺が笑顔で挨拶した。
「阿見君、おはよう」
すると、短髪の男性が一番先に俺に挨拶した。この人は店長の永田さん。有能で爽やかな笑顔を絶やさず、店員からの信頼も厚い。
 店長が挨拶した後、後ろから麗華が入って来た。そして、開口一番に、
「ごきげん麗しゅう。今日からこの私が下々の元で、働く事を光栄に……」
 言い終える途中で、俺は麗華の口を塞いだ。
「す、すみません……。この人、ちょっと世間知らずなところがあって……」
 口を押えられて、モゴモゴ言っている麗華は俺の手を放して、文句を言った。
「ちょっと、阿見。主人である私に向かって、何て無礼な真似を!」
「無礼なのは、お前の方だ! 店に入る時、上から目線な態度は、止めろって言っただろ! あれじゃ、一発でクビにされてもおかしくないぞ!」
「何ですって?! これでも、丁重にご挨拶したのに。その様な言い方はあんまりではありませんこと!?」
 俺と麗華が言い争っていると、店長が宥めてきた。
「まあまあ、阿見君、落ち着いて。ところで、その女の子は誰なの?」
「あぁ、コイツ……じゃなくて、この人は俺の同居人の花ノ宮麗華です。彼女も今、生活が大変なので、今日だけで良いですから、一緒に働かせてもらっても良いですか?」
そう言うと、店長は「あぁ、そういうことなら」と言って、許可してくれた。意外とすんなり許してくれたな。
「それじゃあ、早速制服に着替えてくれないか?」
「えっ?」
 店長から言われて、麗華の目は点になった。
「せ、制服って、何故私がその様なものを?」
「だって、君は店員として働くんだろ。作業をする時に、もし服が汚れたら困るでしょ」
 そう言われて、麗華は「うっ……」と言葉に詰まった。
 店長から用意された制服を貰い、麗華は無言で女子更衣室に入った。
約十分経過したのだが、一向に出て来る気配が無い。遅いな、そんなに着る事が難しい服ではないのだが……そう思っていたら、扉から麗華の声が聞こえた。
「阿見」
「どうした?」
「ちょっと、中に入って着替えを手伝いなさい」
「おいおい、着替えを手伝えって言われても、俺は男だぞ!」
「良いから、早く!」
 あまりにも急かすので仕方なく、俺は女子更衣室の中に入っていった。そこには、確かに制服には着替えたけど、エプロンの紐を後ろに回したまま動きを止めた麗華の姿があった。
「どうしたんだよ?」
 俺が尋ねると、麗華は恥辱の顔を浮かべて言った。コイツ、お嬢様育ちだから、こうした服は着た事が無いのか。口にしたら、怒られるから言わないけど。
「この紐を結びなさい」
何だ、エプロンの紐が結べないのか。
「良いよ」
 そう言って、俺は麗華のエプロンの紐を結んであげた。
 制服に着替え終えた後、店長は言った。
「あと、髪もまとめてもらえないかな?」
「あなた、私の自慢の髪に難癖をつける気ですの?!」
「そうじゃなくて、髪が長いと抜け毛が増えるんだよ。それが食べ物に混ざったらお客さんからクレームが来るからね。そうならない様に、ヘアゴムでまとめるんだよ」
 そう言って、店長は輪ゴムを取り出して、麗華の後ろ髪を縛った。すると、ポニーテールが完成した。
「おっ、似合ってるね」
 店員の制服を着た麗華を見て、店長が嬉しそうに言った。ポニーテールにベージュ色の制服、そして茶色い三角巾とエプロンを着た麗華は、何だか新鮮味があった。普段、派手な服を好んで着ているから、ますますそう思える。
「くっ……」
麗華は、恥ずかしそうにエプロンの裾を握っている。
「そんな事言うなよ。普通に似合っているよ」
「あなたに言われても、ちっとも嬉しくありませんわ!」
 俺の言葉に、麗華が激昂した。
「そんな風に恥ずかしがらないでよ。すっごく似合っているわよ」
 店長がおだてたことで、麗華が激昂する。
「あなたまで、私を馬鹿にする気ですの?」
「そんな事は無いよ。これなら、客ウケすると思うから。それじゃあ、今回はフロアでの接客をよろしくね」
 そう言うと、店長はその場を去って行った。
「おい、接客なんて大丈夫なのか?」
 俺が不安そうに尋ねると、麗華は堂々とした態度で言った。
「もちろん、私は幼い頃から礼儀作法は、きっちり躾けられていましたから、これくらいのことは問題ありませんわ。来客もきっと私の接客ぶりに感動しますわよ」
「随分と自信があるな。だったら良いけど、多分セレブが学ぶ礼儀作法とは違うと思うぞ。変な事して、お客さんを困らせるような事はするなよ」
 そう言って、俺は店の準備に取り掛かった。

 俺が着替えと店の掃除の手伝いと朝礼を終えた後、開店時間を迎えた。
 開店してすぐ、店に客が少しずつ集まって来た。
「じゃあ、花ノ宮さん。まず、あのお客さんに注文を聴いて来てくれる?」
 店長が奥の席に座っている二十代くらいの眼鏡を掛けた少し暗そうな男性に手で示した。
 そう言うと、麗華は若干嫌そうな顔をしながら、男性客の席に近付いた。緊張しているのか、何だか歩き方がぎこちない。そして、ご注文を尋ねる時の台詞を言った。
「ご、ご注文は……な、何に、致しますか?」
 すると、男性客はメニュー表を開きながら言った。
「そうですねぇ……えーと、オーストラリア産のステーキをお願い致します」
「かしこまりました。オーストラリア産のステーキですわね」
 おっ、意外と出来ているな。これなら大丈夫そうだな。そう思っていたら、
「あっ、でも待てよ。このデミグラスハンバーグやミートスパゲッチィも美味しそうだよな。あと、コーンポタージュも付けたいけど、フレッシュサラダも捨てがたいしな……」
 男性客が麗華を前に色々と迷い出した。そんな中で、麗華がだんだんと苛立ち始め、
「あなた、迷っていないで、何を注文するか、さっさと私に教えなさい!」
 それを耳にした瞬間、俺は即座に麗華の元に掛け寄り、すぐさま彼女を突き飛ばした。
「すみません! この人、今日入ったばかりなので、まだ仕事に慣れていないのですよ」
 俺は必死になって男性客に何度も深くお詫びした。
「い、いえ……気にしないでください」
 男性客が申し訳なさそうに俺に気遣ってくれた。でも、さっきの発言を聴いた時、あなた凄く萎縮していましたよね?
「ご注文が決まりましたら、またこちらの呼び出しボタンを押してくだされば結構なので、よろしくお願いします」
 そう言って、俺は麗華を引き連れて、逃げる様にその場を離れた。
その後、俺が叱る暇も無く、客の苛立つ声がした。
「おーい、注文した料理がまだ来てないけど、どうなっているの?」
「それくらい、待てないと言い……」
「すみません、今料理中ですので、もうしばらくお待ちください」

「すみません、トイレはどこですか?」
「トイレくらい、自分で……」
「トイレなら、向かって右の方にあります」

「ちょっとー、こんなの頼んでいないけどー」
「うるさいですわね! それくらい、文句を言わずに、さっさと……」
「申し訳ございません。今正しいメニューを持ってきますので、お待ちください」

「あのさー、幾ら今までバイトした事が無いからって、さすがにアレはないだろ」
「す、すみません!」
 スタッフルームに呼び出された俺と麗華は、早速店長から叱責されてしまい、俺は深く頭を下げた。麗華は店長にムッと睨んでいたが、すぐさま俺は素手で強引に麗華の頭を下げさせた。ううっ……こんな目に遭うのは芽衣子と一緒に担任から叱られた時以来だよ。
「すみません、この人ちょっと世間知らずな所があって……」
「あれは、ちょっとどころじゃ済まされないよ。今回は、阿見君の頼みで単発で置いてあげているけど、ウチはボランティアでやってるんじゃないんだからね」
「はい……」
 俺が小さく頷くと、店長は小さくため息をついて立ち去って行った。
「ちょっと、さっきの行動は、どういう事ですの? 従僕の癖に主人を庶民の前で強引に頭を下げさせるなんて! あんな無礼な扱いを受けたのは、初めてですわ!」
「仕事が出来なかった癖に、よくそんな口が叩けるよな! 俺はともかく、客にあんな態度を取られたら、店長に怒られるに決まっているだろ!」
「何ですって! 私がせっかく一生懸命にやっているのに、仕事が出来ないなんて、そんな言い方はありません事?!」
「あれのどこが一生懸命なんだよ! あんな事言われたら、誰だって怒るに決まっているだろ!」
「あれこれ、無茶な要求をする客が悪いのですわ!」
 自分の事を棚に上げて、全部客のせいにするのかよ!
 店長はともかく、トラブルの根源にまで、文句を言われるのは理不尽でしかなかった。
 その時だった。
「ちょっと、止めてください!」
 客席の方から女性店員の悲痛な声が聞こえた。俺が声がした方を振り向くと、店員・上山さんが軽薄な男性二人に絡まれていた。
「良いじゃねぇかよ。ちょっとくらい触らせたってさ」
「ここは、そういう店じゃありません!」
「じゃあ、今からそういう店にすれば良いじゃん」
「だから、それは無理ですって!」
 上山は嫌がっているのに、男性はお構いなしだ。
「あちゃー、面倒な客が来ちゃったか!」
 店長が頭を抱えて言った。
 たまに、店にああいう困った客が来るけど、ああいうタイプって、なかなか言うこと聴かないんだよな。こうなったら、俺が行くしか……
「貴方達!」
 俺が向かおうとした瞬間、先に男性客に駆けつけたのは、麗華だった。
「誰だ? 見慣れねぇ顔だな。でも、なかなか美人じゃねぇか」
 男性客の一人がそう言って、麗華の顔に触れようとしたが、麗華は男性の手をパシッと振り払った。
「汚い手で気安く触らないでくださりません事?」
 それを言われて、男性客はカチンと来た。
「この野郎! 生意気なことを言いやがって!」
 男性の一人が殴りかかろうとした。その瞬間、男性の拳が麗華の頬の横をかすめた。
「女性に手を出すとは、何とも非道ですわね。恥を知りなさい」
 麗華が男達を退治すると、店内には歓声と拍手の音が響いた。
 その後、男性客二人はわいせつ及び暴行未遂で警察に通報、現行犯逮捕された。

「いやー、あの時は凄かったね。見直したよ」
 麗華が問題客を撃退した事が店員達に認められ、店長も麗華を褒めた。
「ふふん、これくらいの事、当然ですわよ」
 店長に褒められた麗華は得意げに言った。
「そうかそうか。それじゃあ、今回はそのご褒美だ」
 店長はそう言って、麗華に茶封筒をくれた。封筒には、『花ノ宮麗華様へ』と書かれている。
「何ですの、これは?」
「これは給料袋。この中に、今日君が働いた分のお金が入っているんだよ」
 それを聴いて、麗華が封筒を開けてお金を出すと、中には千円札が四枚と五百円玉一枚、百円玉三枚が、入っていた。合計四千八百円である。
「ちょっと、これだけしかありませんの?!」
 そこへ俺が間に入った。
「これだけとは失礼だな。これでも他と比べたら、まだ良い方だよ。それに、自分でお金を稼ぐ事が出来たのは、良かっただろ」
「そ、それは……そうですけど」
 そう言うと、店長が言った。
「だったら、良いじゃないか。もっとお金を稼ぎたいなら、ウチで働いてみるかい?」
「えっ?」
「でも、接客の態度にはまだ問題があるから、しばらくは研修で働いてもらうけど、君にとっても、きっと良い経験になると思うよ」
 それを言われて麗華は、
「分かりましたわよ。だったら、とことんやってやりますわ!」
 と、啖呵を切った。
 こうして、麗華は俺と一緒にバイトをする事になったのであった。
「でも、そうなったら、バイト先では俺が先輩になるから、俺を従僕扱いするのは禁止だからな」
「ハッ……! そう言う事なら、お断りさせていただきますわ!」

元お嬢様と暮らす事になったのだが第4話(修正)・第5話 ©エア

執筆の狙い

自由気ままな生活を送りたい男子高校生と残念系元お嬢様のコメディ。
第4話の修正と第5話の投稿です。
感想はもちろん、添削、助言もお願いします。

今までの話はコチラ。
https://ncode.syosetu.com/n2673ek/

第4話(修正前)
https://sakka.org/training/?mode=view&novno=15927

エア

202.127.89.27

感想と意見

偏差値45

五話のみの感想です。

>俺のお金は破産寸前だ。
>あっ、確か、コイツは家が破産した後は、
破産するのは、個人か法人ですよね。

>色々な所でバイトしていたけど、どこも不採用にされて、雇われてもすぐクビになっていたんだよな。
言わんとすることはわかるけど、不自然。

>パステルカラーを基調としたデザインである。
具体的ではない。トリコロールカラー、クリスマスカラーというならば、頷ける。

>宥めてきた。
中学生や高校生には難しいかも。

>俺の言葉に、麗華が激昂した。
>店長がおだてたことで、麗華が激昂する。
激昂の意味からすると、不自然。

>「ご、ご注文は……な、何に、致しますか?」
牛丼屋さんならば良いとしても。
ファミレスあたりだと、「ご注文をお決まりですか?」なんて訊かれるね。

>啖呵を切った。
【意味】歯切れよく威勢のよい調子でまくし立てたり、相手をやりこめたりする。

全体としてありがちなストーリー。
さらに理由づけが弱い。

店舗でも必要な人員を用意しているはずなので、急にスタッフが増えても困るのでは?
それに素人を一日だけ働かせる道理がない。
なので…、
本来、来る予定だったバイトの子が風邪で休むことになった。
または給料日後の土日で大変忙しいなんて理由は欲しいところだ。

>客席の方から女性店員の悲痛な声が聞こえた。俺が声がした方を振り向くと、店員・上山さんが軽薄な男性二人に絡まれていた。
このシーンなのだが、、、。
ま、こんな客はリアルではいませんね。
なので…、
酔っ払いの男性二人に絡まれていた、の方が自然かな。
しかもガラの悪いチンピラ風が良いでしょう。

で、面白いか? と問われれば……。
そうでもない。もっとユニークな発想が欲しいところだね。

2018-02-19 09:28

219.182.80.182

エア

>偏差値45さんへ

感想ありがとうございます。

>俺のお金は破産寸前だ。
喩えで書いたのですけど、分かりにくかったですか?

>俺の言葉に、麗華が激昂した。
>店長がおだてたことで、麗華が激昂する。
照れ隠しで怒ったのですが、表現が悪かったですか?

>全体としてありがちなストーリー。
どうにか、ストーリーだけでもきちんとしようとしたのですけどね。
接客が出来ない麗華に業を煮やした店長が皿洗いをさせるけど、そちらも上手くいかなくて、
他の店員から陰口を叩かれるとかが良いですかね?

2018-02-19 16:30

202.127.89.27

偏差値45

>>俺のお金は破産寸前だ。
>喩えで書いたのですけど、分かりにくかったですか?

内容はもちろん、分かるのだが、ニュアンスの問題。
俺は破産寸前だ、でも分かるからね。
俺のバイクのガソリンはガス欠になりそうだ、なんて言わないだろう。


>照れ隠しで怒ったのですが、表現が悪かったですか?
同じ言葉を重ねて使用しているし、意味がズレる。

>「あなたに言われても、ちっとも嬉しくありませんわ!」
> 俺の言葉に、麗華は激しく反発した。
>「そんな風に恥ずかしがらないでよ。すっごく似合っているわよ」
> 店長がおだてたことで、さらに麗華の顔が赤くなった。
自分ならこんな感じかな。

ストーリーはベタなのだが、それは逆に言えば、王道でもあるのだから、
気にすることもないと思いますよ。
面白ければ何でもいい。

2018-02-20 05:24

219.182.80.182

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です(テクニカルサポート)。

:
:
:
3,000字以内