作家でごはん!鍛練場

『無花果』

きょう著

初投稿の者です。
この作品を、所属する文芸部の同人誌に掲載したいと考えています。どれ程の時が過ぎようとも変わらない、夫婦のささやかな愛の形を表現しています。人物の語り口や行動から、性格や感情を表せるよう書きました。題名が在り来りになってしまった自覚があります。
プロになりたいです。ご意見よろしくお願いします。

主人は昔から古風な人です。便利な物が溢れる世の中になっても、あいも変わらず辞書は紙で、朝食は白米と味噌汁、筆記具は万年筆。古きを愛しているのでは無く、自分の馴れ親しんだものが消えていく事が怖かったのでしょう。その態度は、主人が時代に置き去りにされているというより、私が急ぎ過ぎているという気さえしてくる程に、頑なでした。
初めて主人が出張で長く家を開けた時、朝、郵便受けに私宛ての手紙が入っていたのには驚きました。ずしりと重い手紙を受取るなんて、いつぶりだったでしょうか。少し角張った文字が綴られている白い便箋は、温かみをもって私に届いたのです。読みながら、主人の万年筆がたてる小気味の良い音が聴こえてくる様でした。主人の文章は飾り気がなく堅苦しいですが、不思議と美しいのです。内容はいつも取り留めもないものですが、向こうの天気や景色を告げる文章の中に、一人帰りを待つ体の弱い私への心配であったり、気遣いであったり、そうした想いが垣間見えるのです。「元気か」や「会いたい」の言葉はありません。それでもそういった言葉以上に、主人の在り来たりな文章たちは、私の安否を問い、愛を囁くのです。普段は無口でも、手紙だと途端に饒舌になる人がよくいるでしょう。けれど、主人は手紙でもとても不器用でした。そんな、余所余所しささえ感じる堅い文章が、私にはどうしようもなく愛おしかったのです。
先日、庭の無花果に実がなりました。ええ、昔主人が植えたのです。無花果は育てるのが大変です。主人は毎日欠かさず面倒を見て、漸く付いた小振りの実を誇らしげに撫でて、大切にしていました。そんな実を窓から眺めると、私は何時もあの日受け取った手紙の内容を思い出します。
『此処は無花果の良い香りがする』。読めない漢字でした。「無花果。花が無い果実、と書いて、いちじくと読む」と、帰って来た主人は、私に分かりやすく教えてくれました。花が無い、と聞いて私は嫌な感じがしました。今思えば漢字違いですね。それでも私は、無花果にひどく魅力の無い存在であるという印象を抱いたのです。私は主人に言いました。「可哀想な植物ですね。弱くて、儚くて、地味で、不恰好で」言いながら私は居た堪れなくなり、思わず口走っていました。「まるで私の様ですね」と。主人は暫く黙って私を見ていました。ご覧、そう言って主人は傍らに立て掛けてあった紙袋から、燻んだ色の果実を一つ取り出しました。ごつごつした指が薄く毛の生えた果実の表面をなぞり、爪を立てます。芳醇な匂いが一層濃くなり、醜く厚い表皮がぱかりと裂けました。そこには想像すらしなかった、何とも艶めかしい赤があったのです。鮮やかに煌めいて、溢れんばかりの魅力を放っていました。無花果は幾度となく見てきましたが、あの日のあの瞬間の無花果の赤は、他のどんな景色よりも美しかった。「外からは分からないからだ」赤を見つめたまま、主人はそう呟きました。「中に気付かなかったのだ」と。その言葉は強烈な赤と一緒に、深く深く私に染み渡りました。
それから暫くして主人はまた出張へ行き、郵便受けに手紙が入っている日々がやって来ました。主人から受け取った手紙の数は数え切れないほどですが、『じきに帰る。土産は映日果の苗だ』この二文を今でも庭の無花果の木を見る度に思い出します。日に映える果実と書いても、いちじく、と読めるそうですね。その名の通り陽の光に照らされて、まろい頰を赤く輝かせる甘い果実です。無花果はやはり私です。陽無しには輝けない、脆く、醜く、愚かな果実です。
庭の果実が実れば、私はよく見える様にカーテンを開けて、貴方、今年も綺麗に実りましたよと話しかけます。あの日の事も、私の事も、主人はもう覚えていないでしょう。ぽかんと遠くを見る目に、色が映っているのかも判りません。それでも、どれ程の時が過ぎても、あの日の赤は永遠に色褪せる事無く私の中に残り続けます。それに変わりはありません。
もう微笑んでくれなくとも、想いは何時も映日果の良い香りがします。

無花果 ©きょう

執筆の狙い

初投稿の者です。
この作品を、所属する文芸部の同人誌に掲載したいと考えています。どれ程の時が過ぎようとも変わらない、夫婦のささやかな愛の形を表現しています。人物の語り口や行動から、性格や感情を表せるよう書きました。題名が在り来りになってしまった自覚があります。
プロになりたいです。ご意見よろしくお願いします。

きょう

219.164.209.165

感想と意見

二月の丘

破綻なく(ソツなく)まとまっているし、読みやすいです。

文集に活字掲載する際には、【改行】と“改行直後の行頭1字下げ”も徹底されるのであろうし、
そうなればより読みやすくなる。


内容は「いい話」調なんで・・そこは“好き好き”。

私的には、この手の話はやっぱり“30代以降の人”が書いた方が、リアル感出ます。30以降の書き手だと、もっと【読者にダイレクトに伝わる(心つかむ)エピ〜記載】が織り込まれてくるから。

ex. >「元気か」や「会いたい」の言葉はありません。
“シャイな中年男は普通、そんな直截的記載はしない”んで、表現が「ベタでいまさら」すぎ。。そういう細部の記載で、若い人と30以降との「差」が出る……んだと思う。


 >ずしりと重い手紙を受取るなんて、いつぶりだったでしょうか。
とか、「書き手の素の口調そのまんま」な部分が、地の文の「奥様の述懐」から浮いて見えますし、

 >花が無い、と聞いて私は嫌な感じがしました。今思えば漢字違いですね。
ってな、「言いたいことは分かるんだけど、表現としてヘンテコ」な部分もあるから・・

要推敲。


違和感あったのは、
 >『じきに帰る。土産は映日果の苗だ』
庭にはすでに1本あった訳ですよね??
主人公奥様が、「それが枯れてしまったことを憂えて、手紙に書き送った」とかなら分かるんですけど、
現状だと、「作者があらかじめ用意したネタを披瀝するための説明台詞」になっちゃってる。

奥様が・・全体に卑屈で、ちょっと被害妄想寄り〜悲劇のヒロインぶり気質?? に見えてしまった。
自分ってもん(芯)がない感じなんで……
この人に好感持てなかった。


奥さんは、ご主人に手紙の返信出さないのかなー?? って。
(終始受け身で、もらってばっかりなんだもん)

2018-02-14 11:49

219.100.86.89

文緒

私も御作の作風、大好きです。
さりげない描写で作中人物の年齢や暮らしぶり、たたずまいが浮かんできます。
いつかどこかで読んだ懐かしさや安心感がありました。
誉め言葉にならないかもしれませんが、慣れ親しんだ愛着を思い起こした御作でした。

ただ、語り手のあまりな卑下に違和感というか、
どこか患っているのか、夫の長い出張はつまり愛人宅で生活しているということなのか、
それも自分が悪いからだと僻みの裏返しなのか、ただ病弱だという以外に何かあるのか……
いろいろ考えてしまいました。



でも、とても良いお話だと思いました。
ありがとうございました。

2018-02-14 15:36

126.212.165.153

カジ・りん坊

 なんでご主人はわざわざ『映日果』を出して来たのでしょうか?『無花果。花が無い果実、と書いて、いちじくと読む』と、帰って来た主人は、私に分かりやすく教えてくれました。と教えておきながら『無花果』じゃなくて『映日果』を持ち出してきたのには、どんな理由があるのでしょうか?

 これがたとえば主人公のご婦人が、いちじくを気になって調べてみた所『映日果』『その名の通り陽の光に照らされて、まろい頰を赤く輝かせる甘い果実です』『やはり私はいちじくです。陽無しには輝けない、脆く、醜く、愚かな果実』なのだと自覚するなら筋は通ると思うのですが、ご主人が何のために表現を変えたのか疑問に残りました。

 『自分の馴れ親しんだものが消えていく事が怖かったのでしょう』というほどこだわりがあるご主人は、無花果と映日果。どちらに慣れ親しんでいたのだろうか?ころころ変えていいものだろうか?

 このご婦人が『花の無い果だなんて、まるで私みたいですね』と言ったきっかけで、ご主人がひとしきり『中身がどうの』『外から中はわからない』とあって『なるほど。お前は自分が無花果のようだというのだな。それならこちらにも考えがある』とあって、もうその日から『無花果』と書くことは無く『映日果』と書くことになった的な方向性でもいいかと思いますが、何かきっかけがあってもいいんじゃないか?と思いました。

 とても雰囲気はあって、場面の空気感は伝わって来るお話でした。

2018-02-14 16:26

124.110.104.4

二月の丘 様

コメントありがとうございます。
読みやすいように改行するようにします。
よりリアル(30代以降的)な表現が出来るようにしたいと思います。

無花果の苗については、この日に主人が持って帰ってきた苗を庭に埋めて、今まで育っているといった感じです。

返事を書くというのは盲点でした。なるほど、そういう考え方もありますね。参考にします。

2018-02-15 19:34

121.115.213.164

文緒 様

勿体無いお言葉をありがとうございます。今後の励みにしていきたいと思います。
確かに、主人公の性格があまりにも暗いと思いました笑
主人公のキャラが自然になるように推敲していきたいと思います。
本当にありがとうございました。

きょう

2018-02-15 19:40

121.115.213.164

カジ・りん坊 様

確かに、主人の性格と行動に矛盾が見られますね…。
主人が表記を変えたのは、自分に自信の無い妻に「君がいちじくだと言うのなら、「日に映える果実」の方が自信が持てるだろう」という思いを込めてのことです。表現力をもっと磨く必要があると思いました。
主人公の謙虚さが行き過ぎた気がします。

鋭いご指摘、ありがとうございます。
参考にします。

きょう

2018-02-15 19:54

121.115.213.164

かわむら信号機

はじめまして。

しばらくこのサイトには来てなくて、来たところでろくろく読まずに閉じることが多くて、おそらく感想を書くってのは半年以上ぶりになるかと思います。

作品はまるで国語の教科書、ババアが朝日新聞の日曜朝刊に投稿してそうなお話。
国語の教科書、実はほとんど読んだこと無いんですけどね。
好んで読む話でもないけれど、読んでストレスにはならないBGMのような感覚です。
心を揺さぶられるとか、そんな類の読後感ではありません。狙ってもいないでしょうし。
ストーリーに関しては、私の感想なんか屁にもならないので書きません、書けません。恥ずかしくて。文章や構成もしかり。正直すごい上手いし。
このサイトで上手いと言われて喜ぶ程度の作者さんじゃ無いくらいは、私にだって分かる。
初っ端から失礼並べたたてた後で何言ってんだって話ですけど。


文芸部。

理系かつ体育会系だった私は文芸部って存在そのものを知らずに大人になったのですが、どうやら私の母校にも文芸部、あったそうです。
作者さんは現役の学生さん、あるいは卒業間もないOBさんでしょうか。

きょうさんはきっと若い方、その年齢なりっていう私の先入観、思い込みだけですが続けさせてください。

この作品の中で、作者としてのきょうさんの気配らしきもの、きょうさん自身の存在ってこんなにもナチュラルに消せるものなんでしょうか?
本文を読んで、その後執筆の狙いを見たとき。それがちょっとした驚きで思わず感想を書こうと思ったわけなんです。
それは多分に作品の登場人物と作者の年齢ギャップから来るものであり、
きょうさんが自分より年上の夫婦愛を描こうとして、さらにそれがしっかりした文体で嵌め込まれているからこそ生まれた違和感的なもの。
その感覚をなんとかうまく伝えたいのですが、どうにも出てくる言葉が失礼過ぎるものばかりで困ります。
パクリ。写本。こども演歌歌手。
もちろんそんなわけあるはずもなく、的にかすりもしていないの分かっていますが、他に思いつかなくて申し訳ない。
ほんとはこの言葉の対偶を言い伝えたいのです。
もうちょっと考えてからちゃんとしっくりくる言葉で伝えるべきでした。

なんとなくすら伝わっていないですか、そうですかそうですね。私もそう思います。

若い作者さんが、作者より年齢が上の夫婦を古風に書いただけじゃん。
ありがちなストーリーになぞらえて、それっぽい語りで書けば誰だって書けるだろ(書けません)。
って中身はそうかもしれないけどそれだけで片付けたくなかったんです。個人的に。
きょうさんがこの話を書いたってことは。
どうしてこの作品を書こうと思ったのかを教えて欲しいと思ったくらい。
どうしてこんな書き方ができてしまったのか、それを自分ではどう思っているのかって。

こんなことができる人がいるんだなあと、不思議。
作家を志してもしない私が不思議がるってのも、これまた迷惑な話でしょうけど。

隙あらば主人公乗っ取る勢いで「我」をぶち込んでくるってな作品ばかりの中で、
死んだ子の年数えるみたいに学生時代のわずかな思い出にしがみついてはタラレバマシマシ油ギトギトにした学園ものばかりの中で、
なんでか主人公にテメエの悩み押し付けて一日100時間くらい悩ませるばっかの作品の中で、
そんなサイトにあってとても新鮮に感じました。ありがとうございます。
ちゃんと近しい人にも読んでもらった方がいいと思いますよ。あなたのことを知ってる人です。そんな気がします。

ところで全く話は変わりますが、プロ作家ではなくて商業デザイナー目指してみる気はありませんか?
とってもブラックで働きにくい環境ですよ。夜中にトイレから女性の泣き声とか聞こえるんです。毎日ホラー。
さておき、隙あらばデザインに「我」をぶち込んでくるアーティスト気取りのスタッフばかりで胃に穴があいております。
今も仕上がってきたデザインデータ開いてみたら、なんだか変なパスが隠れてて。
なんだと思ったらテメエのイニシャルを隠し絵にして忍び込ませてるっていう。
助けてください。コンペは来週です。


なんてこんなメンタルだからうっかり反応しちゃったのかも。おまけに無駄に長くなる。この辺で失礼。

2018-02-16 15:20

122.20.63.109

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