作家でごはん!鍛練場

『スウィート・BL・トラベラーズ』

香川著

よろしくお願いいたします。

 じん、と痛みが来た。下ろされた右拳には、今殴りつけたあいつの感触がべったりと張り付いている。暴力を振るってしまったという事実が胸に来て、おさまらない怒りと罪悪感が綯い交ぜになった。目の縁に涙がにじんでくる。けれど、自分よりもずっと大きなその相手は、殴られた頬をちょっと手でさすっただけで、眉を歪ませることすらしなかった。
「なに切れてんだよ? お前に本気になるわけないだろ。男同士なのに」
 凶器みたいだった。あいつの言葉はナイフみたいな具体性をもって、オレの存在そのものを否定していた。

     *****

 最後のフレーズが頭の中でリフレインする。
 オレの存在そのものを否定していた。
 胸をきゅっとさせた切なさが目頭にまで上ってきて、涙が溢れそうになる。誰かに見られちゃいけないと思い、頭から布団をかぶった。最近は毎晩こうだ。自分で妄想するキャラクターのやるせない気持ちに胸の奥の琴線を突かれて、涙のスイッチが入ってしまう。
 
 私はいわゆる腐女子だ。ボーイズ・ラブというジャンルが大好きで、綺麗だったり可愛かったりする男子同士の恋愛を、読み耽り思い描き、心をときめかせている。けれど、それを周囲に知られるのは嫌だった。気の弱い私は何をするにも気持ちが先回りをし、周りの人が自分をどんな風に思うのだろうかと、考えずにはいられない。BLが好きなんて知られたら、きっとみんなの空気が変になって、その状態がずっと続く。「こういう人がいると迷惑」という雰囲気が、つきまとうようになる。だから絶対に知られちゃいけなかった。
 
 しん、とした中を人の気配が行き交う。紙をめくったり、ペンを走らせたり、カタカタとパソコンのキーボードを叩いたり。図書館にたちこめる、こういう雰囲気が私は好きだ。周囲の人はそれぞれ自分のことに集中している。だから、私が私の好きなことをしていても、誰にも否定されない。
 この日の放課後、私はいつも通りに図書館へやって来て、机付きの読書席に座り、鞄に忍ばせておいたBL漫画を読んでいた。再会した幼馴染みが心を通わせていくうちに、お互いへの気持ちに気がついていく、という切ないラブストーリー。二人のやり取りが心のやわらかいところに触れてくる。彼らの痛みが、自分のもののようにキリキリと胸を痛める。夢中になってページをめくっていると、
「それ『うっかり開けたドアの先』でしょ?」
 頭上から降ってきた声に、ドキンと心臓が跳ね上がった。とっさに顔を上げる。そこには、見覚えのある女の子がいた。
 同じ高校の生徒だ。廊下でたまにすれ違う程度の、たぶん一番離れたクラスの子。いや、離れているのはクラスだけじゃない。地味で引っ込み思案な私と違って、彼女はみんなの輪の中心にいるタイプだ。それは、時たま目にする賑やかな様子を見れば一目瞭然。見た目もすごく垢抜けている。まず目に留まるのは髪。胸下まで伸ばしたロングヘアに大きめのウェーブがかかっていて、色はカフェオレみたいなくすんだ茶色だ。綺麗にお化粧もしていて、肌には色むらが全然ないし、マッチ棒が何本も載りそうなくらい分厚いまつ毛をしている。彼女が着ていると制服も見栄えがするというか、私のものと同じには見えない。本当に、フランス人形みたいで、なのに見かける時は、大抵両手を叩きながら笑っていて、そのギャップが印象に残っている。
「それBLじゃん。好きなの?」
 飛んできた言葉があまりに直球すぎて、面食らってしまった。ぐるぐる返答を探したけれど、真っ白な中を思考が滑るだけ。どうしようという気持ちばかりが胸でうごめいた。
 でも口ごもる私の様子をどう捉えたのか、彼女はぱっと笑顔を広げた。
「私もBL大好き! 同じだね」
 彼女はそう言い、当たり前のように隣の椅子を引っ張ってきて、そこへ腰を下ろした。
「私ね、結構エッチなのもいけちゃうよ。て言うか、エッチなのが好き!」
 何の屈託もなく、彼女の手は臆病な壁を突き抜けて、私の心へ差し伸ばされた。思いがけず認められた感じがして――戸惑った。
「私の周り、BLに興味のある子、全然いなくて寂しかったんだ。私がBLの話を始めると、みんな『また始まった』って感じの顔すんの。だから、同じようにBL好きな人と話したいなあって、ずっと思ってたの」
 彼女は大きな目が三日月形になるくらい顔をほころばせている。目が細まるとまつ毛が余計に強調されて、昔持っていた目をパチパチするお人形みたいに見えてくる。傾けるとまばたきする、あれ。
「ね、どういうのが好きなの? やっぱり今読んでるみたいなの?」
 彼女の言葉に促され、私は首を縦に振った。
「そっかあ。いいよね。私も好きだよ。好みのど真ん中って言うと、もっとエロいやつなんだけど。でも、これ好きって気持ちは、めっちゃ分かる。なんかさ、お互いに気持ちがあるのに上手く重ならないって言うか、相手のこと大好きで一生懸命なのに、どうしても通じない感じ、切なくてやばいよね」
「うん」
 思わず、力いっぱい頷いてしまった。自分の感じているのと同じことが言葉になって飛んできて、嬉しいとか通り越して感動してしまった。心の中の、今まで埋まったことのない部分が、とくとくとくと熱いもので満たされていく感じ。
 それから、なんだか勢いづいた私は、彼女と長いことBL談義してしまった。心のタガが外れたみたいに。喉がカラカラになるくらい喋り続けている内に外は暗くなり、私の体は高揚感に火照っていて、彼女の顔にもほんのりと赤みがさしていた。
 
 彼女の名前は「ゆめあ」。聞いても全く漢字が思い浮かばず、尋ねてみると「『夢』を『愛』するって書くんだよ」と教えてくれた。夢愛ちゃんか。なんだか名前もすごく可愛い。博子という自分の名があまりにも地味で可愛げがなくて、ちょっと恥ずかしくなる。名付けられた瞬間から、もう差がついちゃってたんだな、と卑屈な思いが頭を掠めた。つい浮かんでしまった嫌な考えにはっとなり、急いで追い払う。こんなこと考えちゃだめだ。
 
 図書館で話した日を境に、私の平凡な日常は少し変わった。放課後、夢愛ちゃんと図書館で会うようになったのだ。夢愛ちゃんは学校でたまに顔を合わせる時も屈託のない笑顔で手を振ってくれたし、ちょっと変わったあだ名で呼んでくれたりもした。「博子」の「博」を訓読みの「ひろ」ではなく「ハク」として、「ハッコちゃん」と言うのだ。これまでずっと、ヒロコ、ヒロコと呼ばれてきた私にはちょっと照れくさいのだけど、他の友だちよりもぐっと距離が近づいた気がして、嬉しかった。
 
「ハッコちゃんさ、絵とかは描かないの?」
 図書館で一緒に過ごすようになって一週間ほど経つと、夢愛ちゃんが切り出した。
「絵?」
 私が繰り返すと、夢愛ちゃんは綺麗な口元に静かな笑みを作って頷く。
「私、描くんだ。漫画読んでると、すっごいきゅんきゅんして来て、色々妄想しちゃうでしょ。そういうのを、どうしても目に見える形にしたくなっちゃって」
 彼女は机の横に置いていたスクールバッグから一冊のノートを取り出した。小学生の頃、大抵の女子が持っていて、思い思いに絵を描いていた白地の自由帳だ。懐かしさと好奇心とが相まって、私は顔を近づけた。彼女の細い指がページを開くと――
 熱が顔面へ押し寄せてきた。耳なんか、じんじんするくらいに熱かった。そこには綺麗な男性が二人で折り重なっている姿があったのだ。お尻はもちろん、屹立した局部までばっちり描かれている。全力疾走した後みたいな激しさで、心臓が胸を叩く。呼吸が乱れる。
「こういうの、いっぱい書いてるんだ」
 いつも開けっぴろげな話し方をする夢愛ちゃんの声がすごく頼りなく聞こえて、私ははたと気がついた。夢愛ちゃんは、きっと初めてこれを他人に見せたんだ。顔を火照らせたものがゆっくり下りてきて、今度は胸を熱くした。指の先にまで嬉しさが広がってくる。
 そして心にある決意を固めた。夢愛ちゃんは大切に、大切にしまってきたものを私に見せてくれたんだ。それなら、私も――。
「私も夢愛ちゃんに見せるね」
 そうして、膝の上に載せていた鞄からノートを取り出す。私のものは横に罫の入った普通の大学ノート。そこへ、私は中学生の頃から密かに綴ってきたのだ。
「私、絵は描けないけど、お話を書いてるの」
 BL好きという隠れ趣味を持ってから、何年も鍵をかけていた扉の数々。その最後の一つを、とうとう他人に向けて開いた。ドキドキした。恥ずかしくて、でも特別な何かが始まるかもしれないという期待もあって。夢愛ちゃんは、一瞬目を見張って、それから溶けそうなくらい柔らかく表情をほどいた。
「ねぇ、すごいよ。私は絵を描いて、ハッコちゃんはお話を書いて――」
 彼女の目は電灯の光を吸い込んでキラキラと光り、じっと私を捉えている。
「私たち二人で、漫画描けるじゃん。BL漫画。ね、書こうよ!」
 思いがけない提案に、私は瞠目してしまった。本当に、特別なことが始まっていた。
 
 その日、私と夢愛ちゃんはノートを交換して持ち帰った。お互いがどんなものを作っているのか、よく知ろうということになったのだ。自分の書いた物語を夢愛ちゃんが読んでいるのかと思うと、全身がくすぐったくなってくる。けれど、夢愛ちゃんの絵を見るのは、また違った意味で緊張した。見てはいけないものを見るような、ちょっとした後ろめたさを伴いつつも、好奇心でページをめくる。
 夢愛ちゃんは本当に絵が上手だ。彼女の描く男性たちは、みんな切れ長でちょっと鋭い目をしている。それに広い肩で、しっかりした胸板で、顔が隠れるくらいの大きな手で。そんな男性たちが、真っ赤になりながら抱き合っている絵とか、微妙に舌を出してキスしている絵とか、見ているこっちにまで彼らの鼓動の速さが伝わってくるようなものばかりだ。だけど、一番興奮するのは、やっぱり裸で絡み合っている絵だ。私が特に気に入った一枚では、背を向ける黒髪の男性と、彼の体へ腕を回し、吸血鬼が血を吸うみたいに首元を甘噛みする金髪の男性が描かれていた。局部は見えていないけど、骨と筋が際立つ肉の薄い男の背中と、そこへ伸ばされる腕のたくましさが官能的な気配を帯びていて、見ているだけなのに動悸がしてきた。気がつくと、ノートをつかむ手が、じとっと汗ばんでいた。
 
 翌日学校で顔を合わせるなり、夢愛ちゃんは私の袖を引っ張って階段の影へ駆け込んだ。
「ハッコちゃんのお話、すごい良かったよ」
「本当!?」
 嬉しさのあまり、声が喉でひっくり返ってしまった。それでも、そわそわと浮き立った気持ちはおさまらない。どこが良かったの? 変なところなかった? 様々な質問が頭に押し寄せてきた。けれど、それらが口から出る前に、夢愛ちゃんが尋ねてきた。
「私のはどうだった?」
 喉まで上がっていた言葉の数々を飲み込み、私は別の言葉を探す。
「すごく、良かった。なんか、ドキドキした」
 絵を見ている時は、お腹の底が熱くなるくらい興奮したのに、いざ感想を伝えようとすると、ありきたりで拙い語彙を並べるしかできなかった。なんとなく申し訳ない気持ちになって、うつむく。でも、少し不安げだった夢愛ちゃんの表情は、一気に明るくなった。
「本当に!? お世辞言ってない?」
 私は顔を上げ、首を振る。
「良かったぁ。気に入ってもらえなかったらどうしようって、ずっと不安だったの。だってハッコちゃんの、すごい良かったんだもん」
 さっき突き上げた嬉しさが、さらに膨れ上がった。私のお話を、あんなに綺麗でドキドキする絵と同等以上に扱ってもらえるなんて。それは思いがけないことで、私はずっと彼女の絵に釣り合うお話を書けているのだろうかと気を揉んでいた。でも「不安だった」というひと言で、夢愛ちゃんも自分と同じだったのではないかと思えたのだ。こんな風に、誰かと――漫画やアニメのキャラクターではなく実際の誰かと、同じ気持ちを共有できるなんて、以前の私は考えてもいなかった。
 夢愛ちゃんはここが図書館であることを忘れたかのように黄色い声で話していたけれど、落ち着いてくると真剣な眼差しを私へ向けた。
「ハッコちゃん、エッチなのは書かないの?」
「うーん……」
 確かに、私はBLにそこまでの「エロさ」は求めていない。それよりも、どちらも男性だからこそ、二人分の萌えを楽しめるところが好きだ。綺麗な男性が見せる、表情や感情の機微へのときめきを、普通の恋愛モノの倍も感じられるのだ。切ない物語と共に。
「読む時も、『エロさ』はあってもなくてもいいってタイプなんだ。お話的に必要があればエロくするけど、必要ないんだったら、あんまりエロくしたいとは思わないな」
「そっか……」
 夢愛ちゃんは、少し残念そうに目を伏せる。
「意味のない『エロさ』はいらないってことは、エロいばっかであんまりストーリーがないようなのって、好きじゃない?」
 好きじゃない。
 私は男性同士のやり切れない感情の動きが好きで、それはストーリーがあってこそのものだ。エロいだけでは、私のときめきスイッチは入らない。
 言い淀む私に、夢愛ちゃんは察したらしい。
「じゃあ、唐突にくまちゃんパンツ履かせたりするのも、嫌い?」
「くまちゃんパンツ?」
 素っ頓狂な声を上げてしまった。くまちゃん……パンツ?
「だってさ、綺麗でかっこいい男の人が、くまちゃんパンツ履いてたら、可愛くない?」
 可愛くない。
 でも、それは言えない。夢愛ちゃんは体を乗り出し、大きな目を切実に光らせて、じっと私を見つめている。絶対に言えない。
「それよりさ」
 話題を変えようと意識したら、妙に声が上ずった。
「どんなお話にするか、相談しない? 設定だけでもさ、決めとかないと。ね?」
 
 この日、私たちはお話の大まかな背景や設定を話し合った。主人公は高校三年生。弟分として可愛がっていた中学二年生の男の子に相談があると言われたのだけど、実は男の子の方はお兄さんのことが好きで――。そんなお話にしようというところまで決まった。

     *****

「利樹くん、オレ、最近ちょっとおかしくて」
 一昨日の夜、ラインで幼馴染みの翔が相談してきた。「幼馴染み」と言っても、オレは高校三年生で、翔は中学二年生。オレたちが住んでいる区域は子どもが少なくて、小学校時代は全校生徒が五十人に満たなかったため、学年を問わず友だちができた。その頃の名残りで、今でもオレたちはラインでやり取りをしているし、たまに会って遊んだりもする。勉強や友だちのことで翔に悩みごとを打ち明けられるのは、珍しいことじゃない。でも、今回はちょっと様子が違った。
「どうしたんだよ?」
 翌日、話を聞こうと家に呼んだら、玄関先で翔が「やっぱり帰る」と言い出したのだ。たぶん、オレの眉間は怪訝そうに歪んでいたと思う。翔は顔をそむけた。
「よく考えたら、利樹くんに相談するようなことじゃないんだ。忘れてよ」
 言い切らないうちに、もう翔は背を向けていた。走り去っていこうとする翔の腕を、オレはつかんだ。
「忘れらんねえよ。気になるだろ」
 手に力を込め、翔をドアの中まで引っ張っていく。パタンという音に、外の喧騒が飲み込まれた。オレたちの間に静寂が落ちてくる。
 そこで、オレは気がついた。手の中の腕。オレの親指と人差し指が作る円形に、すっぽりと翔の腕は収まっている。細い細い腕。でも、女や幼児のそれとは違い、硬くて、筋張っていて、無駄な肉の削ぎ落ちた、翔くらいの少年特有の細い腕だ。なんだか気持ちが変になりそうで、たまらず口を開いた。
「一度オレのこと頼ってきたなら、最後まで頼れよ」
 しばらく、翔は黙ってうつむいていたけれど、そのうちに掠れ声で、うん、とだけ言った。オレはちょっと安心して、翔を自分の部屋へ連れていった。
「で、どうする? オレになんか話したい?」
 翔は、いまだにオレの視線から逃げるみたいに下を向いている。深いため息が出た。
「このまま、ただ側にいて欲しいんならそうするけど、もしそうじゃなくて――」
「利樹くん」
 突然に翔が顔を上げて、視線が重なる。思いがけず、オレの胸はどくんと緊張した。
「最近おかしいっていうのは……あの、オレ、利樹くんのことが、気になっちゃうんだよ」
 翔の言う意味がすぐには分からなくて、オレはしばらく目を瞬くことしかできなかった。でも少しの間を置いて、パズルのピースがぴったりはまるみたいに閃いた。
「自分とオレを比べてるってことか? そんなの、気にする必要ないだろ。オレはオレ、お前はお前――」
 続く言葉は遮られた。一瞬のことだった。翔はオレに向かって身を乗り出し、オレの顔へ顔を寄せ、オレの唇へ唇を重ねてきた。翔はすぐに体を引くと、またうつむく。オレの方は……わずかに触れた翔の唇の感触がまざまざと残り、そのせいか、さっきの、腕の細く硬く筋張ったあの感じまで、蘇ってきた。
「ごめん、オレ、帰る」
 立ち上がって背を向けた翔を、オレの腕は再び引き止めていた。玄関にいる時に駆られそうになった変な気持ちが胸へ突き上げて、止められなかった。細くて無駄のない、大人になり切っていない肉食獣みたいな翔の体。それがひどく欲しくなってしまった。オレは翔の体をぐっと引き寄せ、胸に飛び込んだ彼ともう一度キスをした。

     *****

 私が書いてきたお話を読むと、夢愛ちゃんは図書館の雰囲気を裂くような声を上げた。
「ヤバい! これめっちゃいいじゃん!」 
 彼女の大げさな反応は、嬉しい反面恥ずかしくもあって、私はつい肩をすぼめてしまう。
「声、大きいよ」
 夢愛ちゃんは、ごめん、と言い声を低めた。
「でも、本当にいいよ。お兄さんの方が男の子のどういう所に惹かれちゃったのかとか、ちゃんとしてて、さすがハッコちゃんって思った。この後の展開もめっちゃ気になる」
「私はちょっと強引かなって思ったんだけど」
「全っ然平気だよ!」
 夢愛ちゃんの声が、また高くなる。
「BLって、どうしたって多少は強引になるでしょ? 全然問題ないよ」
 そうかなぁ。喉まで上がってきた言葉を、私は飲み込んだ。夢愛ちゃんは私と違って、BLにストーリーの整合性は求めていないんだから。それよりも――
「これから、エロい展開になったり、する?」
 大きな瞳に期待を光らせて、夢愛ちゃんが聞いてきた。そうなんだ。夢愛ちゃんはストーリーよりもエロさ重視だ。男性同士の絡み自体へ萌えるタイプ。
「どうかな……私、今までそんなに激しいのは書いたことないから……」
 夢愛ちゃんは、うーんという声が聞こえそうな様子で腕を組み、首をかしげている。そうするうちに、彼女は思い定めたらしく、私へ視線を固めて言った。
「ハッコちゃんがエロいシーン書けないのは、そういうのをあんまり見たことないからじゃない? だから……二人で見てみようよ」
 たぶん、私は目玉が飛び出しそうなほど、瞼を見開いていたと思う。
 
 なんでこんなことになったんだろう……? 
 私は、今、夢愛ちゃんの家のリビングで、彼女を待っている。四人でもゆったり座れそうなくらい大きなソファへ、体が沈みすぎないよう注意しながら腰掛けて。もう五分以上経っているのに、夢愛ちゃんは戻ってこない。立派な家具の一つ一つから視線を感じて居たたまれず、早く戻ってきて、と心の中で何度も繰り返していた。
「お待たせぇ。どれにしようか迷っちゃって」
 彼女はソファの前の小テーブルに、どさりと本の山を置いた。ちょっと怖いような、けれどどうしても気になってしまうような、まぜこぜの気持ちで目を向ける。一番上にあったのは、アニメや漫画の絵じゃなくて……実写の、男の、裸の、写真だった。
 火がついたように、顔も頭も熱くなった。
「こういうの見て、絵を描いてるんだ」
 夢愛ちゃんが言っても、私の頭は突如目の前に現れたものでいっぱいいっぱい。彼女の声が、やけに遠くに感じられた。
 しばらくするとソファが沈み、体がやや斜めになった。夢愛ちゃんが隣に腰かけたのだ。彼女が首を伸ばして写真集の山を覗き込むと、私の肩に肩が触れる。ほんのりと体温が伝わってくる。
「ほら、ちゃんと見て勉強しよ」
 夢愛ちゃんは一番上の一冊を手に取って開き、二人の並んだ膝の上へ置いた。
 その写真集は海外のもののようだった。写っているのは端正な輪郭に彫りの深い目とすっと伸びた鼻筋をした綺麗な白人男性だ。彼は首を少し前へかしげ、物憂げに目を伏せている。右肩はやや上がり、体が緩やかなS字を描いて左の腰が僅かに上がっている。重心が片側に寄っていて、力の抜けた印象だ。そこまでは普通の写真なのだけど、問題は腰から下。下着が腿まで引き下げられていて、その上からだらんとペニスが垂れているのだ。根本には男性にしては薄いであろう黒い陰毛の繁みがある。
 恥ずかしさと焦りと困惑で、体中の血が変に動き出したみたいになった。そわそわそわそわして落ち着かない。でも、目は男性の姿に釘付けなのだから不思議だ。
「どう?」
 真横から声をかけられて、肩がびくんと跳ねてしまう。どうって言われても……。
「ど、ドキドキする」
 考える余裕もなく、私はとっさに答えていた。夢愛ちゃんの笑う気配がする。
「家の親、共働きで昼間はいないから、これからは図書館じゃなくて家に来てよ。そしたら、こうやって写真集見て勉強できるでしょ」
 勉強って……。でも、妙なことに、私はこの「勉強」の誘いが嫌じゃなかった。私たち以外の他人には見せられない秘密の勉強。心に忍び寄ってくる背徳的な気配に、私の好奇は思い切りくすぐられていた。

     *****

 あの日、オレと翔の間にあったものが崩れた。友人という関係は、薄く張った氷のようにもろくて、けれど砕いてしまうまでは全くそうとは気づけない。
「最近、利樹、すごい優しいよね。今日もさ、自分から買い物行こうって誘ってくれて」
 高い声を弾ませて、カノジョの玲奈がオレの肘を取り、腕を絡める。体がぴったりと寄り添って、胸が腕にあたる。
「別に。ここんとこ暇だから」
 以前のオレなら、こういう状況にはドキドキした。でも、今は全然心が動かない。そんなオレの素っ気なさを、玲奈は照れ隠しか何かかと思っているらしい。
「どこ行く? 私、少し遠くがいいな――」
 駅へ向かいながら彼女がペラペラとしゃべり続けるのを、オレはかけっぱなしのラジオみたいに聞き流していた。行き交う人々の波に視線を泳がせる。すると、ちょうど電車が到着したらしく、駅へ続く階段からぞろぞろと人の群れが降りてきた。その中の一人の姿が、頭にこびりついて離れない像と重なった。
 さっきまで微動だにしなかった心臓が、大きく跳ねる。
 翔もオレに目を留めて、手を挙げかけた。が、その腕は中途半端な位置で止まり、ゆっくり下りていく。玲奈に気づいたのだろう。オレたちは、周りにいた大勢の他人と同じようにしてすれ違い、遠ざかっていった。
 
 オレたちは、似たような形で何度もすれ違った。そういう時オレの隣には必ず玲奈がいた。お互いに連絡はしなかった。オレは後ろめたかったから。翔の方は、気まずかったからだろう。オレはちょっと安心していた。
 でも、もう数えるのも面倒なくらいそんなことが続いた頃、しびれを切らしたらしい翔が、いきなり家へやって来た。
「なんなんだよ?」
 顔を合わせるなり、翔はまくし立てた。
「あの時、オレに……応えてくれたのに、見せつけるみたいにカノジョとイチャイチャして。嫌なら、迷惑なら、なんであの時――」
「魔が差したんだよ」
 気づいたら言っていた。翔ははっと目を見開き、それから悲しそうに眉を歪めた。たまらずオレは視線をそらす。
「興味本位っていうか、そんなんだよ。お前、まだ体も細いから、オレには男って感じには見えないし、でも、やっぱ女とは違って……オレもそういうの初めてだから、面白いかなって思っただけで――」
 続きは口にできなかった。骨の際立つ薄い拳を打ち込まれたのだ。殴られた皮膚がピリピリする。しかし、そういう物理的な痛みよりも「翔に暴力を振るわせてしまった」という気持ちの疼きの方が強かった。胸がえぐられたようだった。えぐったのは、きっと、オレ自身なんだけど。自分も翔も傷つけて、なのにオレは、気がつくとその傷をさらに深くするようなことを口にしていた。
「なに切れてんだよ? お前に本気になるわけないだろ。男同士なのに」

     *****

 思いつくままに書き綴っていると、バタン、という音がし、私の心臓は縮み上がった。慌ててノートを鞄へ押し込み、別の一冊を取り出して机へ広げる。
 しばらくすると、階段をのぼる音が聞こえ、その気配がドアの前までやって来た。
 姉だった。彼女は数少ない私の自慢だ。頭が良くて、美人で、気さくに誰とでも話せて、それに気配り上手。この時も、友人と出かけた先で私の好きそうなアクセサリーを見つけて買ってきてくれたのだそうだ。姉は小さい頃から私の憧れだ。
 でも、憧れているからこそ、その姉が私に期待するものが重かった。彼女は、私のことを当然自分と同じような女の子だと思っていて、だからか自分の好きなものを買ってくれたり、譲ってくれたりする。でも、私はそういう物が好きではない。それに、たまに姉が他人のことで否定的な発言をすると、私は自分が丸裸にされたような羞恥心に襲われる。それ私も同じだよ、と心の底で思い、同時に絶対に知られないようにしなくちゃ、と決心する。私の中に根づいた自分を隠そうとする気持ちは、たぶんそういうことが少しずつ積み重なってできたものなんだ。あの子みたいに堂々とできたらどんなにいいだろう。
  
「やっぱり、いい感じに切ないね。さすがハッコちゃん! でも――」
 夢愛ちゃんが言い切らないうちに、私は続くであろう不満に答えた。
「エロい場面はもっと先だから、大丈夫」
 さえぎられて驚いたのか、夢愛ちゃんは目を丸くした。それからちょっと肩を落とす。
「そっか、ならいいや。それより――私も、はじめのシーン、描いたんだ」
 夢愛ちゃんはスクールバッグから漫画用の原稿用紙の束を取り出し、机の上へ置いた。一番上のものには、扉絵が描いてある。黒髪の少年と金髪の青年が、互いに背を向け合い、立っている姿だ。うつむく少年の横顔にも、上を仰ぐ青年の横顔にも、微かな笑みの気配があって、照れくさそうな、けれど心を和ませているような、そんな印象を受けた。
「ハッコちゃんのイメージに合ってるかな?」
「うん!」
 間髪入れずに答えたら、調子が外れて変に高い声になった。私の書いたものは、たぶん夢愛ちゃんの期待に沿ってはいない。その後ろめたさから、ちょっと違う、という気持ちをとっさに引っ込めてしまった。
「じゃあさ、」
 夢愛ちゃんは低めた声に、ちょっと艶めいた雰囲気を滲ませて言った。
「『お勉強タイム』にしよ」
 
 私の筆の調子は良く、夢愛ちゃんもどんどん描き進めて、漫画の方は順調だった。私がエロいシーンを書けないのも相変わらずで、一方の夢愛ちゃんも、私の持っているイメージとは少しずれた絵を描いていたのだけど、それは仕方がない。二人で一つのお話を作るというのは、こういうことなのだろう。それより、ちょっと不穏な気持ちになるのは「勉強」のこと。
 夢愛ちゃんの家では、まず彼女の部屋でお互いに書いたものを見せ合い、漫画にした時の台詞やト書きの相談をする。それから、リビングへ降りていき、「勉強」をする。なぜリビングなのかは分からなかったけれど、私はほっとしていた。夢愛ちゃんの部屋に二人きりの状態でエッチな写真を見るのは、なんだかむずがゆい気がしたのだ。夢愛ちゃんとの距離が近くなるから、なおさら。
 「勉強」の時だけ、私たちの間には普段と違った空気が流れた。
 本のページをめくる度、様々な男性の裸体が現れ、私はそれに見入ってしまう。最初のうちは、そこだけ異物のように際立って見えていた男性器も、慣れてくると「男性」という一つの芸術の一部のように感じられた。耽美的な雰囲気が、どんどん私を満たしていく。そういう時、決まって夢愛ちゃんは私の手に手を重ねたり、頬がくっつくくらい顔を寄せてきたりする。彼女の体温が、呼吸の温さや柔らかい髪の感触が、伝わってきて、妙な感覚になる。自分の内の使ったことのない部分が刺激されて、くるくる回り始めるような、そんな感覚だ。たぶん、耽美的な気配にやられたんだと思う。
 
 私たちは学校でもよく話すようになった。廊下でばったり出くわすと、夢愛ちゃんは「ハッコちゃん!」と叫ぶように言って駆け寄ってくる。そして、授業がどうだの、天気がどうだの、髪がどうだのと世間話をして、チャイムと同時に慌てた様子で去っていく。
 休み時間のこういう変化は、すごく嬉しかった。今までの私は、ひたすら誰かに話しかけてもらうのを待って休み時間を過ごしていた。自分からは、なかなかできない。根暗なヒロコなんかに構いたくない。雰囲気が壊れる。みんながそう思っているような気がしてならなかった。そんな中、見かければすぐに飛んできてくれる夢愛ちゃんの存在は、がんじがらめになった私の気持ちを解いてくれた。
 でも、不安も、あるにはあった。夢愛ちゃんがあまりに騒々しいので、周りの子たちは私たちが話すのを、じっと見ていることが多く、私にはその視線が痛かった。夢愛ちゃんが、いつBLの話を大声でしてくるかと、身構えずにはいられなかった。けれど意外なことに、彼女はBLの話には一切触れなかった。
 
「あの子と仲良くすんの、やめた方がいいよ」
 夢愛ちゃんと学校で話すようになってしばらくすると、クラスメイトに言われた。心臓に手をかけられたように、ドキリとする。
「いろいろ、変な噂あるもん」
 噂……? いつも教室の隅の方にいてクラスメイトの会話に入っていけない私は、そういうことに疎い。
「あの子、BL好きで、休み時間に平気でエロい漫画とか読んでるらしくてさ。それにみんなにBL勧めんだって。私の友だちが漫画貸されて、すっごい困ってた。ヒロコだって嫌そうにしてるじゃん。ああいう子って、はっきり言わないと他人の迷惑に気づかないんだよ。早く言っちゃった方がいいよ」
 彼女は一度言葉を切り、声をひそめて、
「レズだって噂もある」
 衝撃が心に襲いかかってきた。頭の中を、二人で過ごした時間が、どんどん過ぎっていく。重ねられた手、触れ合う肌、生温い呼吸。肌が粟だってきて、私は何かをかき抱くような格好で両腕をさすった。
 
 その日も私は夢愛ちゃんの家へ行った。でも、玄関へ足を踏み入れるのすら怖くて、門扉を開けたところで立ち尽くしてしまう。
「ハッコちゃん!」
 グズグズしているうちに声が降ってきた。慌てて見上げると、ベランダから身を乗り出す夢愛ちゃんと目が合った。
「待ってて、今、鍵開けるから」

 夢愛ちゃんの様子は昨日までと全然変わらない。けれど、私には彼女の言葉や動作の一つ一つが気になってしまった。以前から夢愛ちゃんとの間には、普通の友だちとは違う気配が流れていた。それは気づいていた。でも、私は「男性の裸を一緒に見る」という初めての経験のためのものだと……思おうとしていた。これまで見たこともなかった官能的な世界へ、一緒に足を踏み入れていくのが楽しかった。匂い立つような耽美に気持ちが変になりそうで、それが心地よかった。きっといけないことなんだ、という気持ちが、かえって胸の高鳴りを強めていた。だから私は、こういう不穏な空気も当然のことなんだと、思い込もうとしていた。
「夢愛ちゃん」
 私が呼びかけると、夢愛ちゃんは「んー?」と言って手元の原稿から顔を上げた。
「あの、私、学校で変な噂聞いちゃって」
 切り出した瞬間、胸が痛んだ。きっと、私は彼女の心をナイフで刺そうとしている。でも、確かめないではいられなかった。
「夢愛ちゃんのこと、レズだって言ってる人がいて」
 夢愛ちゃんが目を丸くする様子が、コマ送りの映像のように見えた。彼女の黒い瞳は濡れたように輝きを増していて、その中に私の姿が映っている。すると途端に、私は自分で尋ねたその答えを知りたくなくなってしまった。顔をそむけて、
「ごめん、私、帰るね」
 夢愛ちゃんの反応が怖くて、私は急き立てられるみたいにして彼女の家を後にした。
 
 白い天井が、やけに高いところから私を見下ろしている。夢愛ちゃんから逃げ出してしまった私は、一直線に自宅へ戻り、ベッドで仰向けになっている。無機質な天井と見つめ合っているうちに、窓から西日が差し込んできた。細かい網目で構成された織物調の天井へ、ぶつぶつの陰影が作られた。時間とともにその陰影は形を変えて、すっかり日が沈んだ今では、天井は一段と暗くなって、やはり私を見つめている。私はベッドから起き上がった。窓へ向かい、カーテンを閉める。外で立ち込め始めた夜の気配を遮断しようと。
 ひどいことをしてしまった。あんなの、根も葉もないただの噂かもしれないのに。もしそうじゃなかったとしても――夢愛ちゃんを傷つけていい理由になんかならない。むしろ「そうじゃなかった」場合のことを考えると、私の心はキリキリ痛んだ。
 鞄にしまっていたスマートフォンを手に取る。謝ろう。そう思ったのだけど、指は動こうとしない。
 自分でも嫌になるくらい、私は臆病だ。BLが好き、というただそれだけのことさえ、他人に知られるのが恐ろしかった。けれど夢愛ちゃんは、私なんかよりもずっと大きなものを抱えていたかも知れないのに、きっとそれを隠そうとはしていなかった。たとえ他人と違っても、堂々と自分の好きなものを好きと言える。自分はこういう人間だと、見せられる。そういう彼女に私は憧れていたはずだった。だから最初、彼女の名前を知っただけで卑屈な気持ちになったんだ。こんなに眩しい人は、名前まで眩しいんだと思った。なのに、今の私は彼女のそういうところを、たぶん、傷つけた。
 気持ちをうまく固められずに、スマートフォンと睨み合う。そうしていると、唐突に手の中で機械が震えだした。心臓がぎゅっと縮み、肩が跳ねる。見ると、夢愛ちゃんからのラインだ。指が慌ててラインアプリをタップしたけれど、その瞬間、私は胸が痛いくらいに怖かった。メッセージが表示される。心がザワザワするのをぐっと堪えて、読んだ。
 
「不安にさせて、ごめんね。自分でもそういう噂があることは知ってたし、それは本当のことに近いんだ。でも、みんなは面白がって想像してるだけで、私は誰にも話してない。だから、本当に私の気持ちを分かって言ってる人は、一人もいないよ。だけど、ハッコちゃんには知ってほしいから、書くね。
 私が自分のこと、周りとはちょっと違うなって思い始めたのは、中学生の時。親友って言えるくらい仲良くしてた子がいてね。手を繋いで歩いたり、胸触りあって『どっちのが大きいか』とかそんなこともして、すごい楽しかった。でも、ある時その友だちに彼氏ができたの。ずっと片思いしてた相手だって私は知ってたから、良かったねって思ったんだけど、それと一緒に、すごく辛い気持ちになっちゃって。その時、その子のことが好きだったんだって、気がついた。
 気づいた瞬間、なんだか妙に悔しい気持ちになったの。誰にも何も言われてないのに、『私は変なんかじゃない。そんなこと思われる筋合いない』って。それで、ちょっと無理するくらいに自分を主張するようになったんだ。自分がかわいいって思う格好して、周りの目とか完全に無視して自分の好きなものに没頭して。みんなが引いてる空気は感じてたんだけど、そういうのに変に対抗心持っちゃって、『偏見なんかに負けない』って、どんどん『個性的』って感じの女子になってった。
 そういう時に、初めてめっちゃエロいBL読んだの。なんだか、すっごく幸せな気持ちになった。私は『周りの目なんか気にするもんか』って思ってたけど、本当はそれに対抗しようとするくらい気になってて。でも、そのBLの世界には、偏見なんてほとんど存在しないんだよ。みんながごく自然に男同士の恋愛を受け入れてくれて、エッチすることも当たり前で、他人と違う自分をさらしても、おかしいって思われないんだよ。だから、私、BLにすごいはまったの。漫画読んで、自分で絵も描いて、そういう中でいろんな妄想もして、楽しかった。それで、いつか自分と同じようにBLが好きな子と両思いになれたらいいなって、思うようになったの。
 だから、ハッコちゃんが不安な気持ちになったのは、正しいんだよ。本当に、ごめんね」 
 
 ごめんね――。
 最後の一言が私の胸を奥まで突いた。夢愛ちゃんは悪くない。たくさんの辛い気持ちを抱えながら、一生懸命に自分を貫こうとしていたんだ。そんな彼女に謝らせてしまったことが悲しかった。
 でも、これはとても不思議なことなのだけど、救われたような気持ちにもなっていた。
 迷いなく自分の道を突き進んでいるように見えていた夢愛ちゃんが、心の中では悩んだり苦しんだりしていたという、考えてみれば当たり前なことが、私の孤独を癒した。
 たぶん、私は一人でグズグズ考えてしまう自分の心を誰かと重ねたかったんだ。だから臆病な気持ちから前へ進めないBLのキャラクターたちと気持ちが溶け合うような感覚に浸りたかった。
 夢愛ちゃんは辛い現実から解放されたくて、私は現実の自分の心を重ねたくて、BLの世界へ入っていった。だから、同じBLでも正反対の嗜好を持っていて、それでもどちらの心の底にも、あるのは他人とうまくいかない苦しさで。胸の奥の奥にしまっていたものが同じだと分かって、私はとても嬉しかった。
 スマートフォンから顔を上げると、私はすぐさまノートを取り出す。書かなくちゃ。そう思った。夢愛ちゃんのために書きたかった。
 
 ピンポーン。ボタンを押した瞬間、伸びやかな音が無遠慮に響いた。ドキリとして、私はノートを持つ手を胸元へ寄せる。少しして、インターフォンのスピーカーから声がした。
「はい……」
 夢愛ちゃんだ、と気がつくのに、一瞬の時間が要った。その声からは、いつもの溌剌とした雰囲気がすっかり消えていたのだ。また悲しい気持ちがせり上がってきたけれど、それを心の奥へ飲み込む。代わりに、喉のあたりで淀んでいた言葉を押し出した。
「夢愛ちゃん、さっき、ごめんね。……開けて、もらえるかな?」
 なるべく元気な声を出そうとしたのだけど、うまくいかなかった。それでも、夢愛ちゃんは声に少し力を入れて返してくれた。
「ちょっと待ってて」
 
 いつものように夢愛ちゃんに連れられて家の中へ入っていく。リビングまで来ると、
「ここがいいよね?」
 夢愛ちゃんが言った。彼女の部屋ではなくリビングの方が、ということなのだろう。
「うん」
 私が答えると、夢愛ちゃんはソファに座った。それに倣って、私もそっと腰を下ろす。
「あのね」
 切り出した時、緊張で心臓が口から飛び出しそうな気がした。
「私、夢愛ちゃんと話せて、仲良くなれて、一緒にBL書けて、すっごく嬉しかったし楽しかったの。それに、毎日、男の人の裸の写真見て、どんどん知らなかった世界に入っていくみたいで、わくわくした。初めて冒険するみたいな、そんな感じで。それに……」
 口にしようとして声が詰まった。ちょっと喉を鳴らしてから、息を吸い込む。
「認められた、気がしたの。自分とか自分の好きなものが。私はBLが大好きなのに、それを人に知られるのが怖かった。一人でいると夢中になれるのに、他人の中に入った途端、夢中になってること自体が変なんじゃないかって気がして、絶対みんなに知られないようにしなくちゃって、思ってた。それが夢愛ちゃんと知り合えて、ちょっと変わったの。自分の好きなことを誰かと一緒にできるんだってことが、すごく嬉しかった。それに、さっきくれたライン。私は夢愛ちゃんと一緒にいれて楽しかったけど、でも別のところでは自分をさらけ出せる夢愛ちゃんに、ちょっと引け目を感じてた。グズグズ悩んでばっかな私はダメだって。でもあのラインで、いろんなこと気にしてぐるぐる考えて辛くなってたのは私だけじゃないんだって分かって……グズグズ悩む自分が丸ごと認められた気がしたの。そういうのも間違いなんかじゃないって、思えた。夢愛ちゃんにはそんなつもりなかったんだろうけど、でも、あのラインで私は救われたんだよ」
 言葉を切ると、私は顔をうつむけた。夢愛ちゃんがどんな顔をするのか、見るのが少し怖い。胸に勇気をかき集めて、
「だから、もし夢愛ちゃんが嫌じゃなかったら、また一緒に漫画書けないかな?」
 そう言って、ノートを差し出す。先ほど仕上げたお話が書いてあるノート。
 夢愛ちゃんはガラス細工を扱うように慎重な手つきで受け取った。
「本当に、いいの?」
 私は顔を上げた。夢愛ちゃんの瞳が切なく揺れている。
「いいに決まってるよ。だって、私、夢愛ちゃんのこと好きだもん」
 夢愛ちゃんの顔がぱっと華やいだ。いけない、と思って付け加える。
「私の気持ちは、たぶん夢愛ちゃんの『好き』とは違うんだけど……それでも、いい?」
 夢愛ちゃんの表情へわずかに落胆の色が差した。心が痛んだけれど、これは言わなくちゃいけない。夢愛ちゃんは気持ちを切り替えるように明るい声を出した。
「でも、お話の中では全部きれいに上手くいってほしいな」
「うん、そうなってるよ」
 現実はなかなか辛いもので、大切な気持ちが認められなかったり、伝わらなかったり、叶わなかったり。うまく行かないことばかりだ。けれどお話の中くらいは、完全なハッピーエンドであってほしい。そういう気持ちが、初めて分かった気がする。
 夢愛ちゃんはニコッと笑ってページをめくった。

     *****

 あれから、翔はオレに対して他人として振る舞うようになっていた。ばったり出くわしても、顔を背けることすらしない。まるで宙を見るように視線がオレの上を滑っていった。
 親友を失った、というのはもちろんそうなのだが……それ以上に、翔のあの細い腕が頭の中にチラついて、どうしようもなくなった。たぶん、オレはどこかで変な期待をしてたんだ。あいつが心の中でオレのことを想ってくれていれば、そのうちまた――と。でも、オレが突き放した瞬間に、その希望は消えた。
 
 土曜日。翔の両親が弟のサッカークラブの遠征へ付き添っているはずのその日を狙って、オレはあいつに会いに行った。
 インターフォンを押してしばらく待つと、ドアが開く。翔と目が合った。「あ」と言った後、翔は険しい目をした。
「なんだよ?」
「ちょっと入れてくれよ」
「だから、なんでだよ?」
 翔の頑固さに腹が立って、オレは彼を押しのけて家へ上がり込んだ。
「おい、何して――」
 声を荒らげた翔の口を、オレは塞いだ。唇を重ねて。翔がパチパチと目を瞬いたのか、まつ毛が頬を滑った。腕の中で、細い体が強ばっている。けれど、翔はオレを引き離そうとはしなかった。
 ゆっくり体を引いて、翔を見つめる。
「オレさ、こないだお前が切れて、ちょっとほっとしたんだ。お前に、これ以上近づかないで、好きにならなくてすむかもって」
 翔の目からは次第に驚きが消えていった。眉間が歪み、目の表面が濡れて光り始める。
「普通に戻りたかった。自分がホモだなんて信じられなくて、みんなの目も怖くて。でも、だんだんお前を見る度に苦しくなって、お前ともう話せないのが、一緒にいられないのが、それに……触れ、ないのが、辛くなってきて」 
 オレの目にも涙が滲んできた。顔を伏せる。そうだ、怖い。でも怖いと思うことをしなきゃ、オレも翔も辛いままだ。
「オレ自身、自分が本当にホモかどうか分からない。だから、やっぱ女のがいいって、なるかもしれない。でも、今のオレはお前のことが好きで、お前じゃなきゃって、思ってる。だから、もしお前がそういう中途半端なオレでもいいって思ってくれるなら――」
 オレは翔の体へ手を伸ばした。胸までTシャツをたくしあげる。翔は体を引いた。
「やっぱ、嫌か?」
 翔は困ったように視線を下げた。
「そうじゃなくて……ただ、オレ、色々イメージと違うかも……」
 胸がほっと色づいていく。翔は、かわいい。
「それは平気だ」
 そう言って自分のジーンズを下げた瞬間、ハッとした。しまった、今日はくまちゃんパンツ履いてたんだった!

スウィート・BL・トラベラーズ ©香川

執筆の狙い

よろしくお願いいたします。

香川

182.250.46.85

感想と意見

絶望

上手い、オモロイ、最高。

BLって題材がコメディ化させてますけど、創作を扱った少女たちの青春ストーリーになってますよね。

笑えるし、読ませるところは読ませるし、伏線の張りかたも上手でした。

特に物語に求める相違点を登場人物それぞれの悩みに繋げるのには思わず嘆息しましたよ。

いやはや、存分に楽しめました。
あっ、特にアドバイスとかないです。お役に立てず申し訳ない。

それでは、有難う御座いました。

2018-02-12 23:42

1.75.246.137

香川

絶望さん

ご感想ありがとうございます。
まさかこんなに早く、こんなに好意的なご意見をいただくとは思っていませんでした。

コミカルな要素を含めよう、というのは思っていたのですが、ちょっと滑っていないかな、という不安がありました。
だからご意見にほっとしました。

あまり構成が上手くないので、伏線を張るのも下手なんですが、褒めていただけて良かったです。
ただ、今回、あまり捻りはなく、単純な伏線だったと思うので、これから少しずつ複雑なものも書けるように練習していこうと思います。

あと、構成面で言うと、ちょっと途中似たようなことの繰り返しでだれてしまうかもしれないなと思っていたのですが、
そういうこともなかったようで、良かったです。
ただ、物語がなかなか動かないと不満という方もいらっしゃると思うので、そこについて他の方のご意見も伺えたらいいなと思っています。
でも、絶望さんに褒めていただけたことには励まされました。

また、物語へ求める相違点がそれぞれの悩みに繋がっている、というご感想を持っていただけたのは、とても嬉しかったです。
そこはかなり意識していたので。
自分の書こうとしたものを掬いあげてくださる方がいると、書いてよかったなと思います。

ありがとうございました。

2018-02-13 01:29

182.250.46.85

だみあんましこせ

面白かった 主人公の容貌とかもっと知りたかった
なんで彼女はいけてないのかも情報としてほしかった 姉はいけてそうなのに

あと 彼女らが作るBLの話がテンプレすぎてつまんなかった

BL創作でレズ傾向がある二人が仲良くなるのはすごくいいアイデアです

もっと洗練すれば商品になりそう

最後は主人公がほだされて同衾するまでもっていってほしいですが

それじゃないカタルシスもいいですね 二人でBL作家として成功する話でもいい

できれば主人公をいじめるボスの一人だったら もっと波乱ぶくみでいいかなあ

表の世界ではいじめているのに 裏の世界ではBLで結びついているほうが劇的だとおもう

あと 美少女のほうが レズ傾向をもっともっと 恥じて隠しているほうがもりあがるとおもう

あと 主人公はメガネとったら意外に可愛いという 設定のほうが普遍性はありそう

青い花 シトラス あそこらへんみて研究してください

かなり気に入りました

2018-02-13 11:14

210.169.207.233

だみあんましこせ

あと タイトルはダサすぎるのでなんとかしたほうがいい

2018-02-13 11:17

210.169.207.233

香川

だみあんましこせさん

ご感想ありがとうございます。
面白かったとおっしゃって頂けて、とても嬉しいです。

まず、ご指摘の、作中作のBLがテンプレ過ぎてつまらない、というご意見、本当にその通りだと思います。
実は、これ、とある文学賞に応募するために50枚以内に収めなくてはならなかったんです。
ここに出しているということは、途中で落ちたわけですが…。
とにかく、それで作中作まで凝ったものにすると大幅に規程枚数を越えてしまうので、ありがちなものに収まってしまった感じです。
ただ、私の中に、「女子高生が書いているという設定だから、そこまでクオリティの高いものでなくてもいいだろう」という甘えはあったと思います。
短い中でも、もう少しはオリジナリティのある面白いものにできたはずなので、ここはもっと粘らなくてはいけなかったなと思います。

その他、面白いアイディアをたくさんご紹介いただいて、ありがとうございます。
それで書けば、面白いものになりそうだなと素直に感じたのですが、ただ、全く違う話になってしまうような気もします…。
私が書くよりも、だみあんましこせさんがお書きになった方が面白いものになると思うので、
良かったらBLからのレズ展開?BLのようなGL?使っちゃってください。

あと、タイトル、ダサすぎますか…。
もともとタイトルのセンスは本当にないので、もう少しその辺を磨かないとなと思います。
でも技術と違ってセンスというのはどう磨いたらいいかよく分かりません…難しいですね…。

ありがとうございました。

2018-02-13 13:47

182.250.56.63

読みました。

おおー、文章とか書きなれている感じで上手いですね。
すでに似たようなことを指摘されていますが、アイデア良し、でもストーリーが現実篇と創作篇ともにちょっとだけ退屈、という点で公募には受からなかったのかな、と思います。

たとえば、細かい話の運びでは、冒頭で夢愛が主人公の趣味に気づくところで、「夢愛が主人公に話しかけてくる」という展開の前に、「夢愛に本を読んでいるところを遠くから見られてしまう」→「主人公は自分の趣味がクラス等にばれてしまうのではないかと悩む」というプロットをみじかくでいいので組み込んだら、二人のファーストコンタクトがもっと劇的になったのではないか、と思いました。

それから大筋ですが、この手の日陰者的存在を主人公にした友情・青春ものとしては、ちょっとフラットな感じでまとまってしまったように思いました。というのは、「クラスの人気者かと思っていた夢愛がじつはけっこう疎んじられている存在だった」というひねりがあまり演出・強調されずにあっさり示されているため、全体として起伏に乏しい感じになっているからです。「夢愛が一方的に主人公を救い上げる話」かと思ったら、実はそうじゃなくて……というひねりをもっと演出してほしい、ということですね。

とはいえ、全体的にこなれていて、もうすこし磨けば公募でも十分勝負できる腕になるのではないかと思います。
あとタイトルはださいっていうより、内容とあんまり関係ないんじゃないかな?よくわかりません。

これからも頑張ってくださいね。

2018-02-14 19:03

133.5.12.1

ラピス

劇中劇ありの作りですね。最初、ん?と思ったけれど、すぐに馴染みました。
対照的な女の子ふたりがよく描かれています。特に夢愛。光と影の部分が多面的です。
繊細な内面を丁寧に描写してあり、主人公達に共感し、入り込めます。私の技術を褒めて下さいましたが、私などより上手いですよー。

気になったのは、ちと大仰な表現が散見されるところです。私もかつてBLを読んでいたのでわかるのですが、文体がBLの影響を受けてらっしゃる、と。
いや、そもそもこの作品はBLを組み込んだ話なのですが、、女の子ふたりのパートの時は抑えた方がよろしいかと。

あとは劇中劇のBLの内容ですね。私もテンプレだなと思いました。
枚数上の関係だということですが、ここにオリジナリティーある話をもってくれば、一粒で二度美味しい作品になったかもしれませんよ。

タイトルにBLを入れたのは善し悪しですね。わかりやすい反面、普通のBLかと思われ読者を遠ざけた、、勿体無いです。

では、読ませて頂いて、ありがとうございました。

2018-02-14 21:31

49.104.24.235

かろ

 読みました。
BL、本当に読んだ事ありません。
でも、このような感じなら読む人いるだろうな、って思います。
読んじゃいますね。先、気になるというか。どっちも。
女の子同士もありそうで、さらに男二人の創作もどうなるんだい?って。
正直言うと、男同士の会話で少し興奮した気がしました。
読んだ事ないからかなあ。刺激ありました。

2018-02-14 22:14

218.221.94.74

香川

獏さん

ご感想ありがとうございます。

ご指摘は、本当に全くその通りだと思います。
作中作のBLに関しては、他の方からもご指摘があったようにテンプレ過ぎて退屈に感じられてしまうだろうし、
外はまた別に、現実パートは書き方が平坦すぎて退屈、という感じですよね。
たぶんですが、やはり構成のマズさというのが平坦な話運びの原因になってしまっているのだと思います。
出会いの場面も、もっとプロットを練って、細かくステップを踏むべきだったんだなと、ご提示くださったアイディアから感じました。
本当にその通りだと思います。

それから大筋の部分へのご指摘。
これもおっしゃる通りで、たぶん二人の関係(恋愛要素の部分だけでなく)が、BLパートのようにテンプレにハマってはいない、とは思うんです。
ただ、そういう予想とちょっと違った方向へ進む感じを、サラッと書いてしまっているんですよね。
しかも後半に詰め込むように。前半はずっと2人がきゃっきゃしているだけの場面が続いてしまってますし…。
ここはもっと前半にも二人の関係についての伏線を入れていく事で全体の起伏を出して、
後半で突然サラサラと種明かしするのではなく伏線を回収していき、そこでのカタルシスが生まれるようにしなくてはならないのだなと感じました。
ということで、やっぱりプロットなのだと思います…。

もともと、プロットを作らずにいきなり書き始める方法で書いてきていて、そういう時間が長かったせいで、プロットをちょっと書くようになった今でも、全然うまく行きません…。
でも、少しずつ慣れていくしかないと思うので、これから書くものに関しては、短いものでもプロットを作ってから書くようにしていきたいと思います。

公募は一年に一回、出したり出さなかったりくらいで、そこまで積極的ではないんですが、
この作品を出したところには、次回も応募してみようと思っています。
過去2回は一次落ちだったんですが、今回運良く一次は通ったので、ちょっと自信がついたというか。
来年はとりあえず二次通過を目指したいと思います。

タイトルは訳すと「かわいいBLの旅人たち」みたいな感じで、現実パートの2人をさしてるつもりなんですが、旅というほどBL漫画の世界を追究はしてないんですよね。
カタカナ表記に逃げた所もあるので、その辺りも良くなかったのかも知れません。

とにかく、ご意見は的確でとても参考になりました。
課題はとにかくプロットだと思っているので、そこを改善できるように頑張りたいと思います。
ありがとうございました。

2018-02-14 23:52

182.250.48.45

香川

ラピスさん

ご感想ありがとうございます。

あ、作中作、やっぱり違和感ありましたか…。
唐突かなあと心配だったところだったんです。
もう少しスムーズに切り替えられるよう、工夫した方がいいかもしれないですね。

色々褒めていただいて、ありがとうございます。
特に「多面的」とおっしゃっていただけたのが、嬉しかったです。
今回のものに限らず、キャラクターも物事も多面的に書きたい、という気持ちが強いので。

私にはラピスさんの方がお上手に見えてしまいます。
なんでしょう、他の方へのお返事にも書いた通りで、私は構成が下手で、プロットも上手くかけないんです。
それと違って、ラピスさんの作品はとても細かく構成されているように感じたので、すごいなーと感心するしかなかったというか。
間違いなく、私にはああいう風には書けないので。
でも、少しずつ練習して、近づければ嬉しいなと思います。

あと、実は私は、BL小説、読んだことないんです…!
これを書くために、「BLを研究しなくては!」みたいになり、でも小説を読むのは面倒だったのでネットで漫画探して読み漁ったという…。
楽しかったですが。
だから、大仰な表現というのは、BLの影響と言うよりも、ずっとそう書いてきたために染み付いてしまった癖なんだと思います。
なんだろう、語彙とか表現を広げたいと思って、色々試してた時期があるので、それが原因かも知れません。
あまり意識したことはないのですが、気をつけていかないとまずいかも知れませんね。
ありがとうございます。

あと、作中作は、やっぱりもう少し詰めて書いた方が良かったですね。
ここは自分でもうっすら気がついていた部分なので、きちんと改善しなかったことが悔やまれます。
でも、1粒で2度おいしくなったかも、なんて素敵な言葉をいただけて嬉しかったです。

あ、たしかに「BL」と入れたら、そういうものを苦手としてる方には敬遠されてしまいますよね。
そういう理由で読まれてない方もいらっしゃるんでしょうか…たしかにちょっと残念です。
でも、本当にBLが苦手な方は読まない方が良いような気もするので、注意喚起の役割を果たしているんだ、と思うことにします。

なんだかすごく優しい言葉をたくさん頂いた気がします。
ありがとうございました。

2018-02-15 00:27

182.250.48.45

香川

かろさん

ご感想ありがとうございます。

先が気になって読み進めてしまう、という吸引力をかろさんが感じてくださったなら、とても嬉しいです。

実は私も、これを書くまでBLに触れたことがほとんどなかったにわかなのですが、
無料で読めるBL漫画を読み漁りまして、BLって面白いんだな、と思いました。

男同士の会話で…!
ご感想を拝見して気がついたのですが、これ、現実パートの女の子たちは、好きとか好きじゃないとか、そういう気持ちのぶつけ合い方って全然してなくて、
妄想パートの男子たちはそれをずっとやってるんですよね。
恋愛小説を読んでるような感じがあったのかもしれないですね。
これも嬉しかったです。

ありがとうございました。

2018-02-15 00:40

182.250.48.45

ちくわ

こんにちわ、はじめまして。

作品読ませていただきました。

この作品で一次通過されたんじゃね、すばらしい。
あそこは女性限定なので、ちくわは応募するわけにはいかないんだけど、受賞者がかなりの割合で活躍していますよね。大活躍といってもいいくらい。
卒業生には個人的に好きな作家さんもいましてじゃ。
そんなわけですごく注目している賞です。

しかもBLは勉強されたとか(感想欄で知りました)、とても感心いたしました。「小説に使うために知らない世界を勉強するのは楽しい、それは本来の勉強じゃないからなのかもしれない」と小川洋子さんも書かれてました。よい姿勢じゃ。えらいなあ。

でもね、本作はタイトルを見て、当然そのような(BL)お話だろうと、読まずに飛ばしていました。危なかったす。読めてよかった。


さて感想なんじゃけど、良くできていると思いました。
文章が分かり易く書かれていますし、表現も的確で読み易いと思います。
とても大事なことじゃ。
ただ、ストーリ的にはちょっと弱いように感じました。
50枚というのは書いてみると僅かばかりのことしか汲み上げられないんじゃよね、だからこそその中のコア部分を大事に、両手で掬い上げるように据えなければなりません。
このお話は内省的な主人公が、後ろめたいと感じひた隠しにしていた部分にじゃね、光を当てる他者の突然の登場により自らが変化していく様、というのがそれに当たるのじゃと思います。
だとすれば他は枝葉なんじゃけど、今回のお話では枝葉が茂り過ぎて、肝心な部分が見えにくくなっているように感じました。劇中劇にページを取られ過ぎていますし、本筋にあまり関係のない優秀な姉の存在などがそれにあたるような気がします。
また賞の性質からするとじゃね、もう少し外連味を出してはっちゃけて

>「私ね、結構エッチなのもいけちゃうよ。て言うか、エッチなのが好き!」

という夢愛ちゃん側に振ってサービスしても良かったかもしれません。(笑)
もちろんそんなことしますと、本作が持つリアリティの部分を壊すことになりかねないんじゃけど、いかにもありそうな現実感のある小さな出来事から抜け出すことで、得られるカタルシスが生まれるかもしんない。どうするのか、どうしたいのかは作者次第ではありますがじゃね、ちくわとしては博子と夢愛ちゃんのもう少し互いに立ち入ってしまう関係性が(精神性にしろ肉体的にしろ)、より強調されたものの方が大きなインパクトを生むじゃろうと感じました。
というのもじゃな、個である自分と、やはり個である他人、それらが軋轢を産む中で擦れ合い熱を帯びる過程、そういうのがこういうお話の場合大事になってくるはずなんだけど、そこが足りてないのが実に惜しいなと思ったからじゃ。まだなにか緩いというか、浅すぎるように感じられるんじゃよね。
ただし、そういうのやりすぎたら全部が台無しになるので(笑)匙加減なんじゃろうけどね。

生活する中で自分が少数派であること、しかも大っぴらにできないことに傾倒してること、隠れキリシタンみたいにじゃな、そういうことを隠さずに話し合える誰かが現れることというのは、実に有難く気持ちのいいことでじゃね、しかも驚くほど共感を呼びやすいですよね。たぶん多くの人が体験してるはずだからじゃ。ここに目を付けるとはタダモノではないなと思います。

関係ない話なんだけど「日常」というアニメでやね、こっそりBL漫画描いてるみよちゃんが、原稿を見られそうになって、そこにいる目撃者を全部倒してしまう。というストーリーの回がありました。これを読んでそれを思い出してほのぼのとした気持ちになりました。
少数者の権利というのは守られるべきじゃ、他と同じようにじゃな。(グレイテスト・ショーマンというヒュージャックマン主演の映画が今度あるんだけど、やはり社会的マイノリティに焦点を当てています、これからしばらくはこういうのがトレンドになるかもしれませんね、香川さんのは先取りしてます、これもまたすばらしい)

>過去2回は一次落ちだったんですが、今回運良く一次は通ったので、ちょっと自信がついたというか。
来年はとりあえず二次通過を目指したいと思います。 (他の方の感想から)

大丈夫、いけますよ。面白かったですし。本選目指しましょうよ。
どうぞがんばってください。
それではまた。

2018-02-15 12:56

220.221.69.173

香川

ちくわさん

はじめまして。ご感想ありがとうございます。

そうなんです。これで運良く通過できたんですが、あれ?私公募先書いたっけ?と思って、すごい自分の返信を読み返してしまいました。
まだタイトルで検索すれば出てきますね。
ちょっと恥ずかしいので出さないようにしてたんですが、
やっぱりどの文学賞かはっきりさせた方が、その方向でのご感想がいただけるので、良いんだなと思いました。

実はR18文学賞って、あまり自分は向いていない気がしていたんです。
一次で落ちたことも理由だったんですが、以前、最終候補作を読んだ時にピンと来なくて…。
ただ、一昨年、気まぐれでひとつの候補作を読んでみたところ、本当に素晴らしかったんです。
それが、その年に、選考員のお二人がほとんど手放しで絶賛しての大賞受賞となった町田その子さんの作品だったんです。
それで、本当に良い作品は好みとか向き不向きを飛び越えて受賞するんだな、と考えるようになって、
またこの公募に出してみようと思いました。
正直なところ、データで送れるから手軽、というのもあるのですが…。

同性愛を扱ったものには、洋画などで触れることは多かったんですが、
日本のBLって、独特の文化という印象があって、ちょっと読まないとな、と思いました。
特に今回は単純に同性愛を描くと言うより、BLが好きな女子の心情、という部分がメインのストーリーだったので。
でも、読んだ結果、そこで学んだことが作品に反映されると言うより「BLって素敵だ!」とハマる方向に行ってしまいました。
なので、しばらくはガチBLを書いていこうと思っています。
書き慣れていないものになるので、あんまりネットで公開とかはせずにコツコツ書き溜めていく感じになると思いますけど。

BLってタイトル、やっぱり敬遠されがちみたいですね。
でも、偶然であっても、ちくわさんに読んでいただけて良かったです。

ご指摘の内容面の足りなさ、尤もだと思います。
50枚は本当に少ないんですよね。
今回、女子高生が初めて「性」というものを意識したり、そこへ足を踏み入れていったりする瑞々しさみたいなものを出したかったんですけど(自分の「性」を意識する前段階の)、
その意識が物語を描くということよりも先に出てしまって、ストーリー的な起伏に乏しくなってしまったように思います。
あと、仰るようにストーリー面では内省的な主人公が少し変化する、内省的であることや自分の嗜好への否定的な感情から解放される、という所がポイントで、
そこがぼやけてしまったというのは、前述の通りストーリーを語ることへの意識の不足と、ご指摘の多くのことを盛りすぎてしまったことによるものだと思います。

姉の部分は、本当におっしゃる通りです。
実はここ、あとから書き足した部分だったんです。
狙いとしては主人公がどうして内省的になったのかの背景を示したい、ということだったのですが、
後付けですからやっぱり全体から浮いていますし、狙いを十分に消化できるほど描き込むこともできませんでした。
それに、姉本人が本筋には全く絡んでこないので、キャラクターとして無駄だなというのは感じていました。
長編ならまだしも短編ではこういう登場のさせ方は、良くなかったのだろうなと今は思います。
逆に焦点がブレてしまいますよね。

作中作の件も、たしかにおっしゃる通りで、
もともと50枚しかないところを、さらに窮屈にしているので、ここの分量の調整は必要だったと思います。
他の方々のご指摘のように、ここにオリジナリティを出していくなら、本筋のストーリーと全くの別物にするのではなく、
もっと絡めて、プロット的に必要なものに仕上げるべきだったんだろうなと、ちくわさんのご指摘を読んで感じました。
ただ、正直なところ、今の技術的に私にそれができるかと言うとちょっと難しいので、50枚の中で作中作まで描くには、やはりちくわさんのご指摘通りに分量を抑える、という方法が一番あっていたように思います。

個と個が擦れあって熱を帯びる過程に、というご意見は、ああ、まさにおっしゃる通りだなと思いました。
もっともっとお互いを覗いたりぶつけたり、して見るべきだったんですよね。
特に、今回はBLに対する嗜好の違いを扱っているので、その部分に二人のお互いへ対する感情の揺らぎを反映させるべきだったと思います。
たぶん、それをラストへ向けた伏線として描けば、ストーリーとしてももっとしっかりしたものになったのではないかなと思いました。

『日常』というアニメ、たまにTSUTAYAで見かけます。
内容は全然知らないのですが、そんなお話があるんですね。
このお話も1番影響を受けているであろう作品はアニメです。
全然BLではないし、ストーリーも全く違うし、似たシーンもなくて、解釈の部分になってくるので、「全然違うじゃん」って思われてしまうだろう作品なんですけど。
タイトルは控えますが、高校生プロ棋士のお話しです。ほんとに全然違います。

いけるっておっしゃって頂けて、本当にとても嬉しいです。
いろいろと参考になる、そして考えさせられるご指摘をたくさん頂きました。
実は、一つ前に投稿したものが400枚くらいの長編だったんですが、思いのほかたくさんのご意見をいただくことが出来て、それを元に改稿して、だいぶ良くなったと思っているんです。
今回もたくさんご指摘いただいていて、本当にありがたいなと。
それで、一年前くらいに改稿しようと他のサイトから引っ込めた作品があって、でも全然手をつけられずに放置してしまっていて、どう手をつけたらいいか分からなくなってしまったものがあるんです。
今度、それも投稿してみようかなと思い始めています。
読んでくださいとかそういう事じゃなくて、宣言しておかないと、ひよって投稿しなさそうなので。

すごく長くなってしまいました。ごめんなさい。
本当にありがとうございました。

2018-02-16 08:08

27.95.81.7

ちくわ

ちょっとだけ再訪させていただきます。

あんまり丁寧な返信が来ましたのでちょっと驚いています。おおっ! 背筋を伸ばして座り直したとこです。
どうもありがとうございます。

>特に、今回はBLに対する嗜好の違いを扱っているので、その部分に二人のお互いへ対する感情の揺らぎを反映させるべきだったと思います。
たぶん、それをラストへ向けた伏線として描けば、ストーリーとしてももっとしっかりしたものになったのではないかなと思いました。

すごく好いと思います。どうぞ読者を愉しませる工夫をしてプラン練ってください。
絶対に香川さんの力になると思いますよ。
現実の世界では他者に深く立ち入ることって少ないと思います、だからリアルを追求しすぎると小説になりにくい。
そこを秤にかけてじゃね、リアルにぎりぎり踏みとどまれる限界までフィクションで飾る。
そういった小狡さというか狡猾さをポケットに忍ばしとくことじゃ。(そんで審判が見てないとこで読者の額をがしがし攻撃するのじゃ)←反則じゃん。

>このお話も1番影響を受けているであろう作品はアニメです。

意外でした。
棋士のお話、高校生のといえば「三月のライオン」しか頭に浮かばないんじゃけど。たしかNHKで放送されてましたな。(羽海野チカさんは泣かせどころがすげえんじゃよね)
もっと違うアニメかもしれないですけど、なにかに影響を受けることってありますね。
好きだからこそ影響されるわけでやね、だからそういうのがたくさんあると幸せじゃろうね。


>一昨年、気まぐれでひとつの候補作を読んでみたところ、本当に素晴らしかったんです。

町田さんの作品はまだ読んでいませんけれど、ちくわは窪美澄さんの話好きでした、ちなみに妻は吉川トリコさんが面白かったと言ってましたね。
ほんとうにこれだけ生存率の高い賞はいくつもありませんよ。
なんでちくわは女じゃないのだろう。←うわあ。
昨年だったですか、知り合いが大賞に準ずる賞を獲れましてじゃね、そういうこともあってすごく親近感があるんじゃな、R18って。


>今度、それも投稿してみようかなと思い始めています。
読んでくださいとかそういう事じゃなくて、宣言しておかないと、ひよって投稿しなさそうなので。

ごはん、来たり来なかったりなんじゃけど、見つけたならば必ずや読ませていただきます。
それではがんばってください、これ、雑談です、なのでお返事は不要ですじゃ。

2018-02-16 15:50

220.221.69.173

香川

ちくわさん

お返事どうしようかなと思ったんですが、ひとつだけ。
今度、投稿しようかなと思っているもの、ちょっと長めなんです。
その他にも、読みにくいだろうなと思う要素がありまして…。
ですから、お読みになるのも大変だと思うので、キツそうだってらスルーしてくださいね。
途中でバックとかでも大丈夫ですし。
ご無理されませんように。

でも、お言葉はとても嬉しかったです。
本当にありがとうございます。

2018-02-17 07:03

27.95.81.7

昼野陽平

読ませていただきました。

嫉妬するほどよくできてました。こういうがちがちに論理で構築するのは作者さんの良い武器なのでしょう。突き詰めて欲しいです。
作中小説もいかにも平凡な高校生が書いたような退屈さで個人的には良いと思いました。
いろいろな悩みを抱えつつもBLを作る少女たちはなんだか微笑ましかったです。
タイトルはちょっと仰々しい感じです。短編ですし、さらっとしたタイトルが向いてるのではないかなと思います。

大したこと言えないで申し訳ないですが、僕からは以上です。

2018-02-18 16:42

60.71.229.31

香川

昼野洋平さん

ご感想ありがとうございます。

よくできていたとおっしゃって頂けて、とても嬉しいです。
ちょっと思いもよりませんでした。励まされます。
論理で固めていく、というのはあまり意識したことはないのですが、
よく思い返してみれば、今作に限らず、キャラクターに自分語りさせたりすることが多く、それって確かに論理でかためているからだなと思いました。

作中作、好意的に捉えていただけてほっとしました。
こういうのって、面白く書くことも大事ですが、
設定上作者ということになっているキャラクターに合わせた内容、その人物が書きそうな内容にしなくてはいけない側面もあるので、
塩梅が難しいなと、今回書いてみて強く感じました。

タイトルは確かに仰々しいですね…。
ダサいというご意見も、そういうことなのかも知れません。
基本的には徐々に上手くはなってきていると思うのですが、タイトルのセンスだけは劣化している気がします…。

ご感想頂けて嬉しかったです。
ありがとうございました。

2018-02-19 17:01

27.95.81.7

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です(テクニカルサポート)。

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