作家でごはん!鍛練場

『墓前のアンサンブル 1章』

中本著

自分が婚活をしてみたところ、エリートとの結婚を狙っている女性と沢山出会ったので小説にしてみようと思いました。
同じ女子大を卒業し因縁のある女2人と、御曹司商社マンの三角関係を3章に分けて描く予定です。貧しい家に育った劣等感から玉の輿を狙う女、育ちは悪くないもののある事情から恋愛に憶病になっている女、御曹司という恵まれた環境で育ったゆえの優柔不断さから、結婚という決断を前にして二の足を踏む男。三者三様の葛藤を描けたらと思います。長編小説に挑戦したのは初めてなのですがとても難しくなかなか進まないので、ひとまず完成している1章を投稿してみます。

1.
結婚は人生の墓場だという。ならば良い墓に入りたい。例えば、青山霊園のような。



「ピースの位置」

思わずそう呟いた幸子(さちこ)に、横でチークを塗り重ねていた年下の愛がコンパクトのミラー越しに尋ねてきた。

「何言ってんですかサチさん」

ミラーは初夏の陽光を集めて反射し、幸子の薄茶色の瞳を射った。

「いや、何でもない」

目を焼かれた幸子は逃れるように手元のスマホに視線を戻すと、先日行われた大学の同窓会、といっても、同じサークルの親しい仲間だけの集まりなのだが、で撮った写真を再度、茫然と眺めた。カメラに向かってピースサインをする友人たちの手の位置は皆、やや控えめに肩のあたりに留まっている。2歳になる子を連れて参加したメンバーは、我が子にピースをさせた手を優しく握り微笑んでいる。そんな中、幸子だけが高い位置で、頬を隠すようにピースサインを決めている。こうすると、小顔に見えるからだ。20代前半、社会人になりたての頃、飲みの席で上司にこんな冗談を言われたことがあったのを思い出した。

「ピースの位置に年齢がでるらしいよ。女子高生は頭の近く、君たち位の年だと顔の横ら辺、30近くなると胸の辺。どんどん下がってくんだって。胸より下は…もうババアだな!」

その言葉に当時の幸子は同僚らと一緒になって笑ったものだが、今は笑えない。昨日の同窓会のメンバーは、幸子を除いて皆既婚者だった。未だ独身の自分が参加することに引け目はあったものの、腐ってもサチ姫という自負があったため、そんな素振りはおくびにも出さずにいた。案の定、同級生たちはテニスサークルの姫と持て囃された幸子の過去の栄光を知っているためか、フォローと思われる言葉を投げかけた。

「姫は理想高くなってもしょうがないよ」

「引く手あまたすぎて決めかねてるんじゃない、いいよねぇ」

そんな言葉の数々を幸子はフフフと、得意の含みのある笑みで流してみせたが、腹の内は目の前のアヒージョのように煮えたぎっていた。

「平凡な主婦になんて絶対なりたくないよね」

そう共鳴しあった仲なのに、今や旦那の帰りが遅いだの、子どもの幼稚園選びがどうだの、結局普通が一番よねと言わんばかりの会話で盛り上がっている。合コン仕様から人妻仕様にダウングレードした薄化粧の専業主婦、ハイヒールをぺたんこ靴に履き替えた2児の母。皆どこか所帯じみて、落ち着きはらってさえいる。そんななか幸子だけが、変わらず浮ついたようなきらめきを放っていることは間違いない。だからこそいっそう腑に落ちず、不満を悟られまいと皿の上のラスト1個のチョコレートに手を伸ばした。みんな、遠慮なんてしなくていいのに。そう思って口に運んだそれは、空調に晒されたせいで乾燥し、可愛らしい見た目に反してほろ苦かった。目をやると、友人たちは美しくデコレーションされたスイーツには目もくれず、ぐずりだした子供をあやすのに夢中である。そんな友人たちを横目に幸子は思うのだった。

どうして美人の私が、結婚できないの?



惨めな同窓会の光景が蘇り陰鬱な気分に襲われた幸子をよそに、若い女たちはせわしなく手と口を動かしている。

「幹事は北海道出身だってさ。実家何やってんだろ?牧場経営とか?ぷぷぷ。無理無理ー」

横で化粧直しをするメンバーの一人が、スマホを弄りながら呆れるほど短絡的な発言をし、その言葉を聞いているのかいないのか、別のメンバーが

「ねぇねぇリップ濃すぎない?」

とまた別の女に尋ねた。合コン前の0次会、カジュアルな立ち飲みバーに集った女たちは気付けの一杯を煽りながら、仕事終わりで崩れた化粧を念入りに修正する。人目も気にせず、ブラシやペンシル片手に思い思いの言葉を垂れ流すその様は、放課後の部室のようだ。この光景を見れば百年の恋も冷めるだろうが、男たちとて会場への道すがら

「ハズレだったら1人1000円、徴収しような」

なんて、自分たちのステータスを示す社員証を揺らしながらふざけ合っているのだ。今や茶番にも思える合コンだが、しかし出会いの可能性は捨てきれない。この子たちと違って、自分には時間もチャンスも限られているのだ。

「そろそろ行きますか。ほら皆、撮るよ。ハイチーズ!」

愛のかけ声で女たちが肩を寄せ合う。顔の横やおでこ、活発なメンバーは腕を掲げ高い位置で、思い思いにピースサインを決めている。幸子は年下の女の子たちとこんなことをしている自分が居たたまれなくなり、咄嗟にグラスを手に取り口元に添えるポーズを取った。

「これから商社マンと合コン♡っと」

愛がSNSにコメントを添えた写真を投稿したのを合図に、幸子たちは銀座の街へと繰り出した。アフター5の繁華街を闊歩する華やかな一行に、道行く男たちの視線が注がれる。幸子はこの中では最年長の28歳だが、彼女を熱心に眺める者もいる。わたし、まだまだイケるじゃない。にわかに自信を取り戻した幸子は、5月の心地よい向かい風を全身に受けながら、男たちを蹴散らすようにヒールを鳴らし、同じように男の視線を一身に浴びた10年前の春を思い出した。



 大学入学を機に長野の田舎町から上京し、都内の名門明律(めいりつ)女子大の英文科に入学した幸子は、夢と希望に満ち溢れていた。晴れやかな気持ちで臨んだ入学式の光景は圧巻だった。大学の門をくぐると、両サイドにサークル勧誘のチラシを手にした大勢の男子学生がズラリと並び、花道を作っていた。彼らの作る列は式の行われる講堂の入り口まで途絶えることがなく、間を行く新入生に次から次へとチラシが手渡された。幸子の両手がチラシでいっぱいになると、入学祝として母にせがんで買ってもらったコーチのバッグにねじ込んでくる者までいた。

「女子は律女(リツジョ)限定のテニスサークルです、お願いします!」

「サッカー部のマネージャー大大大募集!」

「男子は医学部限定のオールラウンドサークル!ぜひぜひ来てくださーい」

近隣の大学生、特に女子学生の比率の少ない難関大学の男子学生たちが、入学式にサークルの女子メンバーをここ明律女子大まで探しに来るのは、毎年恒例の事らしかった。

「英文科ですか」

なんとか講堂までたどり着き、英文科の新入生の席へと続く列に並びながら幸子がチラシを眺めていると、1人の新入生が声をかけてきた。

「うん。同じ?」

そう答えると彼女は

「そう。ナカノチカです。よろしく」

と名乗るなり〝東京大学 サンフラワー〟と書かれたチラシに覆いかぶさるように身を乗り出してきた。

「サークルどうするー。やっぱり出会い欲しいしインカレ系だよね。サンフラ行くの?チラシ配ってた東大生、結構イケメンだったよね。良かったら説明会、一緒に行かない?」

積極的に話しかけてきた、人懐っこい笑顔が印象的な彼女を傍に置いておけば何かと便利かもしれない。そう目論んで快諾したものの、彼女は直前になって別の有名私立大学の新歓コンパへ行くと言い出した。

「サンフラっていかにも東大生狙いの華やかな人が集まってるし、なんか敷居が高いからやめとく。もっと自分に合ってそうな、マネージャー募集してるバスケサークル見つけて、日にち被ってるから、そっちの新歓に行くね」

あ、この子、セレクに受かる自信がないんだ。私に話しかけてきたのも、きっと美人と一緒にいればオイシイ思いができると思ったからに違いないわ。お気の毒様。幸子は心の中で毒づいた。東大の男子学生と明律女子大の学生のみで構成されるテニスサークル、サンフラワーは、面接と称して、男子は顔と運動神経、女子は顔による選考セレクション、通称セレクを行っていることで有名だった。身の程も知らず果敢に面接に挑む冴えない女子に、後日新歓コンパの詳細を知らせるメールが届くことは無い。幸子の元には、面接を終えた直後に案内のメールが届いた。

「東京大学2男の米田です。さっきはありがとう!ぜひぜひ僕たちの仲間になって欲しいので、新歓コンパに来てください!日時と場所は…」

こうして幸子は結局1人で、サンフラワーの新歓コンパの集合場所である駅前のスターバックスへと向かったのだった。待ち合わせ場所には、女子大生向けの雑誌からそのまま抜け出てきたようなファッションの新入生と、“サンフラワー”とバックプリントがなされたウィンドブレーカー姿の先輩たちがすでに数多く集まっていた。新入生は皆示し合わせたように、派手すぎない茶髪をゆるく巻き、淡い色のインナーの上にデニムジャケットを羽織り、ふわりとしたスカートを履いている。襟元にパールビーズの刺繍のあしらわれたネイビーのアンサンブルニットにオフホワイトのフレアスカートという似たような出で立ち、しかし高校時代から美しいと褒められた黒髪だけは周囲に迎合せず死守している幸子も、駆け寄ってその輪に加わった。全員が集合すると、「東京大学×明律女子大 サンフラワー」と書かれたプラカードを掲げた東大の上級生が先頭に立ち、幸子ともう1人、集合場所で仲良くなった女子学生がその両サイドに、花を添えるように立って出発した。駅前の商店街から会場のダイニングバーまで大名行列のように歩くと、道行く人々がその異様ともいえる光景に注目した。

「わー。東京大学だってさ」

「すげぇ。女子大生がいっぱいいる」

少し気恥ずかしかったが、気分がよかった。高校時代、こうして周囲の注目を浴びていたのは、自己主張が強く流行りに敏感な、男子に媚を売る女子のグループだった。一人一人は大して可愛くないのに、集まって黄色い声で騒いでいると、なんだか仔猫がじゃれ合っているようで魅力的だと、男子には映ったらしい。クラスの中心をなすサッカー部やバスケ部の男子と彼らを取り巻くにぎやかな女子。幸子はそういったグループから一線を置き、控えめな、しかし顔立ちは整った友人と行動を共にしていた。そんな幸子を、お高く留まっているなどと陰で囁く者もいたが、そんなことはどうでも良かった。髪を染めたり、お化粧をしたりして群がってはいないけれど、それは精一杯着飾って束にならなくとも勝負できる美貌があることの裏返し。証拠に、幸子は近所では美人と評判だったし、親戚が一堂に会せば「別嬪さんになってぇ」と皆目を丸くした。通学途中ナンパされることも少なくなかったし、同じ高校の先輩や、教室では大人しい、しかし雰囲気のある男子にこっそり告白されたこともあった。幸子はそれを決して口外しなかったけれど。だって皆、自分には相応しくない。誰もがボーイフレンドを持ちたがる年頃だったが、適当な男で手を打つくらいなら、高飛車と言われようともフリーを通す。そう、今は自分に相応しい男が、周りにいないだけ。幸子の考えは正しかった。自分は今、花の都東京で、天下の東大生に囲まれ、周囲から羨望の眼差しを浴びている。貫き通した黒髪も、18になるまで一度も粉を乗せることをしなかった白い肌も、全て正しかったのだ。可憐で清楚。百合のような香りを振りまく幸子に、エリートの男たちは群がった。でも気を付けて、百合の根には毒があるのよ。心の中でフフフとほくそ笑んでいると、隣の席から朗らかな女の声が聞こえてきた。それがサラとの出会いだった。



「ほらほらー、もっと飲め東大生よ!」

ジーンズにボーダーのトップス、その上に白いジャケットを羽織ったカジュアルな服装のサラは他の女子と違い、カルーアミルクやカシスオレンジではなくジョッキに注がれたビールを飲み、あろうことか酔っぱらって男子学生を煽っていた。このサークルに入りたいというより、新入生無料の飲み会に酒を飲むために参加しに来たとしか思えない。関わりたくないと目を逸らした矢先、面接で幸子を担当した米田という東大の2年生が思いもよらぬ言葉を投げかけてきた。

「君、確か聖花学園出身だよね?長野の。彼女、サラちゃんも聖花なんだってさ!」

全身の血の気が引くのを感じた。しかし幸子の困惑をよそに、サラという女はずかずかと会話に入り込んできた。

「えっ、長聖(ながせい)なの?偶然!私麻聖(あざせい)だったんだ。高2の時さ、長野の聖花と麻布の聖花で合同合宿やったじゃん、軽井沢にある学校の山荘で。混合のグループ作ってミサで讃美歌歌わされたり、あと飯盒炊爨もしたよねー。もしかしたらあの時顔合わせてかもね。でもこんなに美人ならうちの女子たちが黙ってないし覚えてるはずなんだけどなぁ。名前何だっけ」

テニスサークルの中で最もブランド力のあったサンフラワーのセレクでは、公立高校出身者より中高一貫の有名女子高出身者が優遇されるという噂を聞いていた。幸子は罪悪感を覚えつつ、故郷長野随一のお嬢様学校、聖花学園の出身だと、面接でアンケート用紙に嘘を書いた。長野の聖花学園の姉妹校が東京の麻布にもあることは知らなかった。

焦った幸子は

「あ、あの合宿、体調悪くて参加できなかったんだ。こう見えて虚弱で。すごく残念だったな」

と捲し立てるように答え、

「サンフラワーに入って体力付けたいです」

と、サークル代表の4年生に上目遣いで訴えかけた。その媚態が効いたのか、彼は猫なで声でフォローした。

「こうみえても何も、見るからにか弱いお嬢様って感じでしょ。無理しない程度に頑張ってね」

聖花と聞きつけて、別の男子学生も会話に割り込んで来る。

「てか聖花って超お嬢様学校じゃん。幸子ちゃんイメージぴったり。サラちゃんも…意外とお嬢なんだね」

サラはから揚げにレモンを絞る手を止めると、眉をひそめた。

「やめてよー。私はお嬢でも何でもないよ。おしとやかさゼロだしね。高校だって、家から最寄り駅までは原付で通ってたんだから。バレたら停学だけど。冬は寒いからゴキブリみたいな真っ黒な制服の下にジャージ履いてヘルメットにマスク。田舎のヤンキーみたいって、目撃されたクラスメイトにからかわれたな。同じ聖花でもさ、長野はお洒落なブレザーなのに、何故か麻布はだっさいジャンパースカートなの。だからスカート短くするのも一苦労でさぁ。姉妹校なのにこの格差、謎だよねー」

サラという女は、酔いもあってかよく喋る。そのマシンガントークに、サークル代表が便乗する。

「え、そんなに制服可愛いの?あのさ、5月に制服ディズニーって企画があって。まぁ文字通り、皆が出身高校の制服着てディズニーランドに行くっていう、サンフラの恒例行事なんだけど。それに是非参加してよ。やばい、幸子ちゃんの制服姿、楽しみだなー」

男子学生たちが色めき立つ。もうそれ以上話を広げないで!そう叫びたい気持ちを必死で抑えながら、幸子は新歓コンパが終わるのを待った。この調子じゃ、サークルの勧誘チラシを見て憧れていた制服ディズニーとやらに、自分は参加できそうにない。男女混合のグループでディスニーランドに行くのは、長野時代からの憧れだったのに。幸子は忌々しさを込めた目でサラを睨みつけた。そんな幸子の思いをよそに、サラは麻布の聖花学園の近くにある、東京では有名らしい中高一貫の男子校出身の学生と盛り上がっていた。

「えー星野学院出身なの?チャラいチャラい。近寄らないでー」

「うるせぇ。俺はチャラくないよ。星野のチャラい奴らは医学部とか私大行ってゴルフサークルとイベントサークル掛け持ちしてたりするから。あいつら高校時代は聖花の学園祭行って、おたくの女子学生食い散らかしてたのを武勇伝にしてたけど、俺は入場チケットさえ手に入れられなかったんだからな。泣ける…」

「まぁ私も、その食い散らかされたらしい派手系のグループには完全見下されてたしなぁ」

異国の地で同じ日本人を見つけたとばかりに意気投合し、慰め合う2人。その様子を見ていた隣の男子生徒が幸子に囁く。

「あいつら、お嬢とボンボンだな。俺中学受験で星野落ちて地元の公立行ったけど、あいつの言うように男ばっかでむさ苦しい学生生活送るんだったら落ちて正解だったわ。だいたいチケット無いと学祭入れないとか、部外者お断りって感じで高飛車だよな」

置いてきぼりにされ戸惑う幸子をよそに彼はさらに続けた。

「男子校出身と女子校出身の男女は気が合うなんて聞くけど、本当かもな。なんかすでにいい感じだし、新歓コンパで早くもカップル成立か?!」

好奇に満ちた笑みを浮かべた事情通らしい彼は、都立高校出身の1年生だった。地方出身のメンバーが髪を明るく染め、流行りのファッションに身を包み浮ついているのに対し、サラと、星野学院とやら出身の男は何だか地味だ。でも、東京の私立一貫校出身というフィルターを通して見ると、なるほど確かにどことなく上品さが漂っている。幸子は彼らと他のメンバーとの違いに目を凝らした。そして、自分が精一杯努力して手にしたこの地位が、サラやあの男からしてみれば負け組の立場であるということに動揺を隠せずにいた。私は、東京では決して中心に行けない、周縁の者たちの集まる場所でチヤホヤされる程度の女だったのか。するとたちまち、自分なんぞを有り難がっている、地方出身の東京デビュー組の男たちが安っぽく思われた。自分も地方出身で、東京で背伸びをしていることに変わりはないのに。帰り道、幸子はサラに駆け寄り話しかけた。

「サラちゃん、このサークル入るの」

するとサラは大きく手を振って答えた。

「いやぁ、無理だなぁ。大学のインカレのテニスサークルってどんなもんかと顔出したけど、コールとかイッキとか、完全ノリに付いていけない。大学デビュー丸出しで、なんか寒くない?それに何あの、大学名デカデカと書いたプラカード持ってそこのけそこのけってやつ。私恥ずかしくて最後尾で隠れてたよ。あとさ、女の子みんな同じ格好で何か怖いよ。というかミュール履くときはストッキング履くな、ババ臭いから!って思わない?」

幸子は思わず、ミュールの下のストッキングを履いた足の先を猫のように丸めた。酒に酔ったサラは、辛口ファッション評論家よろしく毒舌を加速させ、自分の発言に対しツボに嵌ったのか、アハハと能天気に笑っている。素足にパンプスをつっかけた彼女は完全に千鳥足である。そんな自分が恥ずかしくなったのか、サラは急に申し訳なさそうな表情になると

「ごめん、酔っぱらって調子に乗った。でも幸子ちゃんは別だよ。あの中でも目立ってたしお嬢だから、このサークル合ってると思う。コールやイッキもしてたけど、私が見た他のサークルに比べれば全然上品な方だよ。羨ましいなぁ美人は!とにかく私はパス」

と言い残し、踵を返し去って行った。幸子はサラがサンフラワーに興味が無いことに安堵すると共に、彼女の発言に強い憤りと反発を覚えた。

田舎。大学デビュー。寒い。

飲み会の最中から解散後に至るまで、サラの口から発せられる、どこか自分を見下したような発言。東京育ちだから何よ。お嬢様校出身って言ったって、パッとしないじゃない。顔は私の圧勝ね。でも、サラの口からは軽井沢だとか山荘だとかいう、ハイソサエティに属する者たちだけが共有するお洒落なワードが、ご飯粒を落とすかのようにぽろぽろと零れ落ちるのだ。サラなんて外国人のような名前を持つ生徒も、故郷長野にはいなかった。もっとも、サラはハーフでも帰国子女でも何でもなく、平均的な日本人の顔をしているのだが。それに、彼女は幸子が密かに憧れていた聖花学園の、選ばれし者しか身に着けることのできない制服で原付に乗るなんていう、バカラのグラスで麦茶を飲むくらい贅沢なことを、何ともなしにやってのけていたという。悔しさから、幸子は自分に言い聞かせた。サラの発言はきっと、強がりから来たものよ。可愛いとは言い難い、ありふれた顔。女の子らしさにも欠けるし、華やかさや上品さが求められるこのサークルでこの様じゃ、今日の飲み会を踏まえた2次選考に落ちるに決まってる。ご愁傷様。幸子の口からは思わず、フフフと勝ち誇った笑みが漏れた。

事実、サンフラワー始動後初めての飲み会に、サラの姿は無かった。やっぱりねと優越感に浸ると同時に、幸子はホッと胸を撫で下ろした。聖花学園に詳しい人間に過去を蒸し返されてはたまらない。これでこのサークルも、大学生活も、私の思いのままだわ。そう思いながら、著名な外国人建築家が設計し重要文化財に指定されているという、手入れの行き届いた美しいキャンパスを見渡した。前途洋々な幸子を祝福するように、チャペルの鐘の音が鳴り響いた。


2.
幸子が生まれ育った長野の町は、例えば隣家まで歩いて十分かかるだとか、車に乗らないとコンビニまで辿り着けないだとか、そういった類の気の遠くなるような田舎ではなかったが、笑い話として昇華できるほどの潔さも持たなかった。完成した時は地元民が押し寄せた巨大ショッピングモールは確かに衣類日用品食料品全てが揃って便利だったが、皆がそこで買い物を済ませるためクラスメイトと持ち物が被ることも少なくなかった。それは幸子にとって「あなたもあのショップが好きなのね!」という幸福な共感を呼ぶ共通点では決してなく「あぁ、あのモールで買ったのね…」という諦観の滲む惨めな共通点だった。高校の帰り道、駅のロータリーを歩けばしばしば同じ中学の出身者とすれ違い、話題に飢えた彼らは近況を詮索するように近寄ってきた。国道沿いのドッラグストアやガソリンスタンド、ファミレスを覗けば見知った顔のアルバイト店員に出くわし、彼らは幸子のことを盗み見ながら接客するのだった。同じ町に生まれ育ち物理的距離が近いからといって、必ずしもそれが親密で友好的な関係に結び付くとは限らない。彼らは袋小路に追い込まれても尚、その環境に甘んじて生きる卑しいネズミの群れかなにかのように、幸子には写った。彼らがそんな生活に満足していたか、果たして今でも分からないが、幸子に関して言えば、すぐにでも抜け道を見つけ逃げ去りたい環境であった。

幸子の父は長野の観光バスの運転手をしており、母は専業主婦だったが家計の足しにと長いあいだパートに出ていた。口数の少ない父だったが、幸子の高校卒業後の進路の話題になるとたちまち多弁になった。観光バスの運転手をしていると、サークルの合宿やスキー、スノボ目当てで長野にやって来た東京の大学生の集団を乗せることも多いそうなのだが、チャラチャラと軽薄極まりない彼らを見るにつけ、娘にはそうなって欲しくないと思わずにはいられないらしい。女は大学など行かず、地元の短大か専門学校を出て就職したのち、早々に結婚するのが幸せだという、化石のような意見を曲げなかった。父の寡黙な性格は生来の要素に加え、幸子が幼かった頃のある出来事が関係している。幸子が小学校に上がったばかりのころ、3歳になる弟が交通事故で亡くなった。スーパーの駐車場で、父が目を離した隙にバックしてきた乗用車に轢かれたのだ。父は自分を責め、以来仕事と食事の時以外は、古びた平屋の北側にある陰気臭い自室にこもるようになった。休日になると逃げるように、パチンコをしに出かけた。不謹慎と思われるだろうが、幸子は弟の死をそれほど悲しんではいない。自分が第一子として持て囃されていたのが、弟ができた途端注目がそちらに移ったのは不服だったし、もし弟がいれば、東京への大学進学は諦めなければならなかっただろう。

幸子は一度、母に何故父と結婚したかを尋ねたことがある。母の恵美子は幸子同様美人で、もっと賢いやり方さえすれば父よりも肩書も経済力も優れた男と結婚できたはずだ。そうすればパートに出る必要もなく、その白魚のような手をむやみに荒らすこともなかっただろう。恵美子はドラッグストアで投げ売りされている安物のハンドクリームを肌に馴染ませながら答えた。

「悪くなかったからとしか言いようがないかな。仕事も、まぁ観光県でのバスの運転手はお給料は良くなくても仕事は無くならないだろうし、ギャンブルやお酒も嗜む程度しかやらないし、余計な口も利かない。そりゃあ、お母さんにだってもっと経済力のある男の人からのアプローチはあったけど、高卒の私とは色々と合わなかったから。とにかく、選択肢がなかったのよ。親族がいるならまだしも、たった一人で東京に出るなんて発想、当時は無かったしね」

幸子は自分の美貌を活かさずつまらない男と結婚し、何もない田舎町で満足している無欲な母のことが理解できなかった。幸い、恵美子は一人娘の気持ちを汲んでか、東京の大学に進学するための手はずは整えてくれた。

「きっと東京でいい生活をしてね。お母さん、できることは協力するから」

その言葉を頼りに、幸子は予備校に通い、放課後は自習室にこもった。通っていた高校の偏差値は高くなかったし、元々勉強など嫌いだったが、今の生活を抜け出したいという思いが幸子を駆り立てた。努力するにつれ予備校のクラスのランクは上がり、幸子の志望校の入試で重視される英語は基礎クラスから難関私大クラスまで昇格することができた。そのクラスで幸子は、地元の進学校に通う篠田という男子生徒に恋をした。周囲の受験生の多くは地元の国立大学を第一志望とし、そのまま地元で就職し長野で完結する人生を送る者も少なくないのだが、彼は東京にある、キャンパスがお洒落で美男美女が多いと評判の私立広尾学院大学を第一志望としていた。幸子も広尾学院を第一志望にしていたため、予備校が開催した志望校別説明会の際に思い切って篠田に話しかけた。彼の通う進学校に通う生徒たちは予備校でも常に徒党を組んでおり、自分たちより勉強の不得手な他校生を寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。しかしクールに見えた篠田は意外にも親切で、幸子が風邪で授業を休んだ際にはプリントをコピーして手渡してくれるなどした。幸子は絶対に、篠田と共に広尾学院に通うと決意し、受験勉強に励んだ。ネームバリューがあり、芸能人なども通うその大学は長野の田舎町に住む老若男女にも知られている。受かれば、賢くて美人な幸子ちゃんとしてご近所にも親戚にも同級生にも持て囃されるだろう。まさに自分に相応しい場所だ。その理想郷のようなキャンパスが、大口を開けて幸子を今か今かと待ち構えているような気がした。しかし、結果は不合格だった。幸子は納得がいかず悔し涙を流したが、大学は違えど上京する者同士という事実に変わりはない、無事合格した篠田に告白をした。そしてこちらも広尾学院の受験と同様、見事に滑った。篠田曰く

「悪いけど、君が通ってる高校の生徒とは付き合えない」

とのことだった。篠田の在籍する進学校に進むような生徒は、中学時代から進学塾に通わせてもらい、当たりはずれの激しい公立中学の教師の授業だけで定期試験や入試に挑まなければならない幸子のような生徒と大きく差を付けていた。結局、お金が無ければ良い学校には行けないし、将来的に良い暮らしもできないのだ。それをあたかも自分の努力で勝ち取ったかのように誇り、幸子を見下した篠田への恋心は、一切の未練を残さずに消え去った。そして不本意ではあったが、幸子は予備校のスタッフに進められて滑り止めにしていた明律女子大に進むことになった。東京の大学に詳しくない同級生には

「どこそこ、頭良いの?」

と冷たい反応をされたが、学校の進路指導の教師からは

「良く頑張ったな。うちの高校から明律に行く子なんていないよ。勉強熱心な学生が多いと聞くし、あなたに合った学校だよ。きっと楽しい大学生活になるはず」

と背中を押された。教師の言葉通り、明律女子大の学生は皆真面目で落ち着いており、率先して目立つことが苦手な幸子の性に合っていた。不合格だった広尾学院大学では、付属校から上がってきた内部生と地方出身の外部生の経済格差が浮き彫りになり、惨めな思いをする学生も少なくないと聞く。それが事実ならば尚のこと、付属校を持たず内部外部の派閥の無い明律女子大に進学して正解だったと思えた。何よりもサンフラワーという居場所を見つけたことは、幸子にとってこの上ない喜びだった。


サンフラワーのサークル説明会でアンケート用紙の出身高校欄に恐る恐る“長野聖花学園”と書いたとき、幸子の記憶の底に眠っていたある出来事が鮮やかに蘇った。
中学校の卒業遠足。幸子たち3年生は長野県内のとあるテーマパークへと出かけた。そこで出くわしたのが、整然と列をなした長野聖花学園の女学生の集団だった。前方の上品そうな教員たちの横に“長野聖花学園中等部”と記されたフラッグを持ったバスガイドが佇んでいた。幸子たちのクラスの担当バスガイドは、生意気な中学生の挑発やセクハラめいた発言に気の毒になるほど手を焼き、途方に暮れた表情をしていたが、聖花学園ご一行様担当のバスガイドは、今日は当たりの日ねと言わんばかりの余裕の笑みを湛えていた。聖花学園の生徒たちは、ありふれたセーラー服と学ランに白のソックス、色とりどりのスニーカーやリュックで統一感のない幸子の中学の集団とは違い、仕立ての良さそうなコートの裾からシックな色合いのチェックスカートを覗かせ、それと同系色のネクタイをお行儀よく締めていた。靴も鞄も、黒のローファーと革製のスクールバッグで統一されており、映画で見た海外のプレップスクールの学生を彷彿とさせた。後で知ったのだが、男子生徒のいない長野聖花学園では、卒業式の日に憧れの先輩のネクタイをもらうのが恒例だそうだ。コートの胸ポケットにはハイカラな、しかし荘厳な雰囲気を併せ持つ、校章と思しき刺繍がなされていた。皆靴下ではなく黒のタイツを履いており、それを見た幸子の同級生の男子たちは

「何だよあいつら。葬式みてぇ。気持ち悪りぃ」

とからかった。しかし幸子の目には、同じ中学生、同じ長野県民とは思えないオーラを放つ彼女たちが眩しく映った。観覧車の列を待つ間、聖花学園の集団と背中合わせになった際には、彼女たちの会話に耳をそばだてずにはいられなかった。

「理系コースに行って研究職っていうのも悪くないよねー。あ、でもさ、留学もしときたくない?」

「うんうん、分かるー。でもうちのおばあちゃまが許してくれるかなぁ。叔母さんが国際線のスチュワーデスで世界中をフラフラしてるの、よく思ってないから」

「そーいえば河野さんのお姉さん、バレエの留学でドイツに行くんだって」

「うっそー、凄い!バレリーナー」

お調子者と思われる女学生の一人がそう言って、つま先立ちでくるくると回転してみせた。それを見た友人たちが一斉に花開いたように笑うと、前方にいた利発そうな生徒が俊敏に振り返り

「しっ!先生がいらっしゃるよ」

とたしなめた。その様子を見て、幸子のクラスメイトの女子は

「ぷ!“いらっしゃる”だって~」

と顔を見合わせて大笑いしていたが、彼女たちの目は嫉妬の色を隠しきれてはいなかった。幸子は嫉妬というよりも純粋な憧れから、聖花生たちを食い入るように見つめた。すると先ほど注意を促した生徒と目が合った。彼女は一瞬困惑したような表情を浮かべたが、すぐにキュッと結ばれた理知的な薄い唇の端を上げると、赤の他人の幸子に向かって軽やかに会釈してみせたのだ。まるで聖母マリアが、子なるキリストに慈しみを向けるように。優等生の貫禄、お嬢様の品格、そしてどのようにして培われたのか見当もつかない、他者への敬意。そのすべてに幸子は胸の高鳴りを抑えきれず、その憧憬を恋心と勘違いしたほどだった。自分もあちら側へ行きたい。そう思いながら帰りのバスに揺られる幸子の横では相変わらず、クラスメイト達がお菓子を投げたり歓声を上げたりして、バスガイドを手こずらせていた。この出来事の記憶は次第に薄れていったが、毛並みの良い人間の集まるハイソサエティに食い込みたいという思いは幸子の心の底に野良猫のように居着き、高校時代は華やかな東京のキャンパスライフをひたすらに夢見た。



夢は現実になった。幸子は大学で、主にサンフラワーの仲間と、全てが新鮮な東京生活を満喫した。表参道のカフェのアフタヌーンティにも、代官山のマカロン屋さんにも、渋谷のクラブにも行った。合コンのお誘いも盛んで、早くもエリート大学の男子学生との人脈を築き始めていた。新歓コンパでのあの忌々しい一コマはすっかり忘れていた。同じ大学に通っているとはいえ、学科もサークルも異なるサラと、すれ違うことはあっても言葉を交わすことはあるまい。見た目も性格も正反対の自分とサラに、共通の友人がいるとも考えにくい。きちんと授業に出席さえすれば単位はもらえるし、明律女子大は就職がいいから、ある程度の容姿があれば一流企業の一般職として引く手あまただ。そうサークルの先輩からレクチャーを受けた幸子は、自分なら余裕だとたかをくくり、遊びとアルバイトに精を出た。そして1限目の授業にはいつも眠気まなこで顔を出すのだった。

その日の1限は、第2外国語のフランス語の授業だった。幸子が睡魔に襲われながらうつらうつらしていると、講師が同じ教室の後方の生徒に向かって注意を促した。

「一番後ろの学生。そう、さっきからあくびばかりしているあなた。黒板に書いてある動詞の活用を答えてください」

周りの生徒は振り返ってクスクスと笑っていたが、眠気が臨界点に達していた幸子は隙あり、と目を閉じ、注意を受けた生徒がどんな反応をするか耳を澄ませた。するとその生徒は、講師が意地悪く問いかけた不規則動詞の活用を、スラスラと答えてみせたのだ。幸子は思わず振り返った。そこにはサラが座っていた。相変わらずラフな出で立ちで、新歓コンパの時は下ろしていたストレートロングの黒髪を、ヘアクリップでやる気なさげに束ねていた。しかし、教師と対峙する姿は堂々たるものだった。

授業後、幸子は迷った末、サラに話しかけた。彼女と言葉を交わすのは新歓コンパの時以来だ。もう話す必要などないのに、先ほどの光景にあっけにとられ、話しかけずにはいられなかった。

「久しぶり。同じクラスだったんだ。私のこと、覚えてる?」

そう尋ねると

「あぁ!もちろんもちろん!新歓コンパにいた子ね、長聖(ながせい)の!」

と相変わらずの気さくさだった。頼むからその覚え方、やめてよ。幸子はその言葉をぐっと飲み込み、近くにあった椅子に腰かけた。

「あ、うん。ていうかさっきの凄いね。難しい活用なのに。発音も上手だったし」

「あぁ。あれね…」

サラは弱ったという様子で、後ろ首をさすりながら話し始めた。

「私ね、映画が好きで、特にフランス映画をよく見てたんだ。ゴダールとかレオス・カラックスとか。で、聖花って高校から選択でフランス語があるでしょ?それを履修してたんだよね。女子校ってさ、周りに男がいないからジャニーズとか宝塚とか、あとは冷静に考えたら全然イケてない男の教師とかありえない相手に恋しがちじゃん?私の場合それが『太陽がいっぱい』のアラン・ドロンだったわけ。あ、アラン・ドロンっていうのはフランスの二枚目俳優なんだけどさ。かなり痛いよねぇ。それで、私聖花じゃバカな方だったけど語学だけは頑張ったの。英語もフランス語も、映画にかじりつきながら勉強して。おかげで大学のフラ語は楽勝ってわけ。要は、二外は既に学んだ言語を選んでラクしたかっただけっていうね。なんていうか、勤勉が校訓の聖花生らしからぬ…」

彼女はテキストと筆記具をバッグにしまいながら、自嘲的な笑みを浮かべた。聖花生らしからぬと言われても、幸子にはピンとこない訳だが。

「えっと、名前なんだっけ。あぁ、幸子ちゃん?幸子ちゃんは何でフラ語にしたの?聖花でもフラ語履修してたとか?というかそもそも、あのフランス語の選択授業は麻布と長野、あとは神戸にある聖花の姉妹校共通のものなのかな?まぁそうか。だって高校の時に、全国の聖花生の有志を集めてのフランスへの短期留学があったもんね。幸子ちゃんは、あれ行った?」

「あ、あぁ。私はバイトが忙しくてフランス語は取ってなかったの。だから短期留学も行ってないの。英文科だから、二外はフランス語にしてみたのよ」

「あぁ!英文科なんだ。華やかだよねー。この大学の花形学科なんでしょ?」

高校でフランス語だとか、フランスへの短期留学だとか、幸子はもはや何のことやら分からない。さらにサラは、心底驚いた顔をして尋ねた。

「そんなことより幸子ちゃん、真面目そうだしいかにもお嬢様って感じなのにバイトしてたの!?やるじゃん!」

彼女は憧憬と尊敬のこもったまなざしで幸子を見つめている。いつか中学生の幸子が、長野のテーマパークで聖花生を見つめた時のように。幸子は混乱した。バイトをすることがそんなに凄いの?バイトなんて、履歴書に最低限を記入しただけですんなり、雑貨店のレジ係に採用されたというに。それとも、お嬢様設定なのにバイトというワードはまずかったかしら。困惑する幸子に、サラが答えを示してくれた。

「私の友達、地元のマックでバイトしてるの教師にバレて、こっぴどく叱られて停学処分にされてたよ。聖花の家庭科教師もマックに行くんだぁって、後々ネタにしてたけどね」

なるほど。校則でアルバイトが固く禁止されているのか。幸子の高校は、担任に申請しさえすればアルバイトは許可されていたし、バイトをしつつ無遅刻無欠席を貫いた学生などはむしろ、親孝行だと教師に感心されていた。今後高校時代のことを聞かれた際の参考になるかもしれない。幸子はサラに質問を投げかけた。

「サラちゃんは行ったの?その、フランスの短期留学」

「うん」

「どうだった?」

「暑かった」

え?高校生がおフランスに留学した感想が「暑かった」って…。幸子は絶句せざるを得なかった。

「なんかさー、こっちは映画の舞台への憧れもあって行ったのに、やっぱミッション系の学校だけあってあちこちの教会とか修道院めぐって、信仰がどうだとか平和がどうだとか。フランス語でやるディスカッションの内容もそういうのばっかりだった。日本と違ってカラッとした暑さだったけど、炎天下を巡礼者みたいに歩かされたし、何の修行だよって感じ。ザ・フランスって観光地にはほとんど行けなくて、凱旋門もエッフェル塔も、バスの中から見たんだよ?ひどくない?それにやっぱ、生徒手帳に男女交際禁止って書いてる学校だけあってシスターが目を光らせてて、フランス男を逆ナンする隙さえ与えなかったね」

最初はおあずけをくらって不貞腐れた子供のように愚痴をこぼしていたサラだが、最後にはそんな冗談を言って笑ってみせた。華の女子大生なのに大学にスニーカーなんか履いてきちゃって、すっぴんで、がさつで。そんなサラを幸子は見下していたが、今は自分が見下されやしないかと、内心どぎまぎしている。例のごとく滝のように喋るサラは続けた。

「それでちょっと、興ざめしちゃって、大学は哲学科にしたんだ。フランスはサルトルとかフーコーとか、偉大な哲学者をたくさん生み出してるしね。あ、あと本当は、映画のバイヤーに憧れて語学を集中的に学べる学校に行きたかったんだよね。アテネ・フランセとか。でも親に猛反対されて。学校は学校で、進学実績を気にするから専門学校や下手な共学の大学に行く位なら伝統ある女子大を受けなさいとか指図してきて。それで腹が立って、哲学みたいに実社会では役に立たないものを専攻してやろうって。ささやかな反抗ってやつ?幸子ちゃんは、何で英文科にしたの?」

お嬢様っぽく思われるから、とは言えるはずもなかった。

「何となくかな。私フランス映画ってよく知らないけど、アメリとか、可愛いよね」

「あー、アメリ、可愛いよね。でも監督がグロテスクな映画撮ってる人だけあって時々ブラックだったりお下劣なシーンもあったりして、そこも好き!」

サラは自分の得意分野の話を振られ、目を輝かせている。

アメリって、お洒落映画じゃなかったの?それにサルトルって、フーコーって誰?アテネ・フランセって、何?

見くびっていたはずのサラの知識や教養が到底自分の敵うレベルではないと分かり、幸子はうろたえた。同じ大学に通っているのに、経済レベルだけではなく文化レベルまで天と地の差だ。それに相変わらずのマシンガントーク。おしゃべりな女子って普通、男子に鬱陶しがられるから、慎むでしょ?お嬢様学校に通っていたなら、お淑やかになるんじゃないの?混乱する幸子の横で、サラはバッグをがさごそとあさり始めた。

「良かったらメアド交換しない?同じ聖花卒ってこともあるし。…あ、何か変なの。在学中は校則も厳しいし鼻持ちならないお嬢様もいたし、学校が嫌いで思い入れなんてなかったのに、卒業してばったり聖花のOGに会うと、妙に親近感が沸いちゃって」

サラは納得したように言うと携帯を操作し始めた。これ以上関わったら、ボロが出る。まずいと思った幸子は

「ごめんね、ちょっとお手洗いに失礼するね。今日は女の子の日で」

とバッグからポーチを取り出すと、逃げるようにして教室を去った。

(女の子の日!?)

サラはサラとて、心の中でツッコミを入れながら、姉妹校とはいえ、聖花に絵に書いたようなお嬢様が存在したことに驚きを隠せずにいた。生理を女の子の日と言う奥ゆかしさ。言葉遣いの浮世離れしたような古風さ。それに、確か書店で見たファッション誌の付録のポーチを人前で臆せず使っているなんて、お嬢様なのに意外と堅実である。雑誌の付録のポーチなんてはっきり言って趣味が悪すぎて、細々とした軟膏入れとしてトイレの棚に収まっているというのに。聖花時代、確かに周りにはお嬢様がいたが、おっとりとして上品なタイプは髪形も制服の着こなしもどこか野暮ったく、一方で派手であか抜けたタイプは気が強く、教師がいなくなった途端言葉遣いもびっくりするほど荒くなり、その態度を豹変させるのだった。もし彼女たちに付録のポーチを使っているところを目撃されようものなら、それこそ卒業するまで笑いのタネにされるだろう。美しく、男に威圧感を与えない上品でコンサバティブなファッション。それでいてどこかツンとして高飛車風な所があり、新歓コンパでは小悪魔的魅力で男たちを手玉に取っていた。少女漫画に出てくるお嬢様キャラのような幸子に、サラは違和感を禁じえなかった。

 急いでカフェテリアのトイレに逃げ込んだ幸子は、洗面台の前で息を整えた。下手にサラに近づくもんじゃない。彼女はわざとやっているんじゃないかっていうほど、幸子の痛いところを突いてくる。サークルの上級生が授けてくれた「サチ姫」の名に相応しいキャラを、この大学では死守しなくては。大丈夫、鏡に映った自分は美しい。皆、サラのような女ではなく私に味方するに決まってるわ。そう言い聞かせ外に出たところで、チャペルから昼の礼拝を知らせる鐘の音が鳴り響いてきた。パステルカラーの服に身を包んだ女学生たちが一斉に校舎から放たれ、昼食のためカフェテリアへと向かってくる。ミッション系スクール出身のサラは、チャイムと重なって聞こえてくるクワイアの讃美歌の曲名すら、スラスラと言い当てることができるのだろうか。そう思いながら幸子は、学生たちの流れに逆らって歩いた。昼休みはサンフラワーの仲間と、キャンパスの中央にある芝生の中庭で昼食をとることになっているのだ。幸子を中心に据え、華やかな女子大生たちが白亜の校舎を背に車座になって談笑する様は後に写真に収められ、明律女子大の大学案内の表紙を飾った。故郷の母恵美子はたいそう喜び、近所や親戚に触れて回った。あの不愛想な父さえも、顔をほころばせたという。


3.
商社マンとの合コンは散々だった。あろうことか幸子が女性陣では最年長で、男性陣は皆3つ下、25歳の同じ会社の同期たちだった。はじめは美貌の幸子をチヤホヤしていた彼らも、28歳と答えるなり顔色が曇り、幹事の愛を始めとする20代前半の女子ばかりを構うようになった。しかも若い彼女らに合わせてか、イッキ飲みやゲームのコールが飛び交う騒がしい飲み会へと化していた。そういえば、昔大学の同級生に誘われて行った商社マンとの合コンも、カラオケでひたすら替え歌を歌うバカ騒ぎじみたものだったし、会社の先輩に招かれた、新郎が商社マンの結婚式の披露宴では、若手社員たちが服を脱ぎ必死で場を盛り上げていた。それを見守る先輩商社マン達はご満悦で、出席した女性陣もキャッキャとはしゃぎ携帯で動画を撮っていた。その様は、高校時代の運動部のお調子者たちと、それに群がる姦しい女子たちを彷彿とさせ、幸子はたいそう鼻白んだのだった。確かに商社マンは他のサラリーマンに比べ女の扱いに長けている者が多く、盛り上げ上手で合コン相手としてはもってこいだろう。人を相手にする職業柄からか、もてなし力やトーク力も高い。しかし「お食事会」と称して日頃幸子が参加している、医師やパイロット、経営者らと厳選された美女たちによる集まりの上品な空気に比べると、下卑た雰囲気は否めない。別にこの合コンで勝たなくったっていいし。そんな幸子の思いを知ってか知らずか、商社マンらしからぬ風貌の、いじられ役の青年だけが一人、熱心に幸子を口説いてきた。
「僕、年上の女性好きなんですよね。幸子さん、凄く綺麗だし、色々教えてもらいたいです」

冗談じゃない。どうして女の私が、あんたに指南をしなくちゃならないのよ。男ならリードして当然でしょ。腹が立った幸子が適当にあしらうと、青年は困惑ぎみに微笑んだ。その時の歯並びの悪さが目立って、いくら立派な経歴を持つ一流商社の社員とて、この男とお近づきになるのは御免だとそっぽを向いた。さらにその歯並びの悪さは、否が応にも幸子にある一人の男を想起させた。門倉直哉という、サンフラワー時代ずっと幸子に思いを寄せていた東京大学の同学年の男子学生だ。大学卒業後、財務省の官僚になった彼は未だに、根気強く幸子にアプローチしてくるのだが、やはりその容姿と不器用さに心ときめくことはできない。いつか大学の同級生が、お金持ちは幼少期に歯列矯正をさせられるから歯並びがいいと、そう話していた。門倉の家柄はどうだろうか。興味がないため気にしたことがなかったが、いずれにせよ彼と付き合うのには抵抗がある。そんな事を考えていると、気が付けば幸子以外の女子は皆席を外し、残された商社マン達はカラオケに興じていた。年下の青年にロックオンされていた幸子は逃げるようにしてトイレに立った。そこで、思いもよらぬ光景に出くわした。愛を筆頭に、他の女子メンバー達が幸子について、言いたい放題言っていたのだ。

「タダ飲みって聞いてたのにやっぱ1000円出してって言われたんだけど」

「マジ?ケチじゃない?うちら若くてノリも良くて最強なのにー」

「ウケる!あれだよ、愛がオバサン連れてくるからだよ」

「ごめーん!でもあの人有名な法律事務所の秘書らしいから、弁護士との合コン開いてくれるかもしれないし。格好もなんか古臭くてババアだけど、まぁ美人ちゃあ美人じゃん?」

「まぁね。てか弁護士と付き合ってみたーい。とにかく、次に繋げるためにヨイショしとこっと」

愛とは数カ月前、同僚に冷やかしで行ってみようと誘われ訪れた、ビジネスマンとOLの出会いスポットと言われる銀座のコリドー街で知り合った。花の金曜日午後9時過ぎ、人でごった返す沿道から逃れるようにせせこましいスタンディングバーに入ると、待ってましたと言わんばかりに男たちが声をかけてきた。そこはナンパ目当ての女が供給過多の飽和状態で、幸子達に声をかけてきたサラリーマンがアルコールを取ってくるためその場から離れると、そこは見事に女ばかりの空間になり、即席の女子会が始まった。幸子の横に立っていた愛と目が合うと、慣れた様子で声をかけてきた。

「どうも。いい人いました?」

何となしに会話を始めると、彼女が幸子と同郷であるということが判明し、年は離れていたものの連絡先を交換した。愛は地元の無名大学を卒業した後、やはり東京に出たいという思いから上京、現在はエステティックサロンのスタッフとして働きながら、新卒の身にも関わらず婚活をしているという。

「ここ、エリートと出会えるって有名じゃないですかぁ。長野ってマジいい男いないですよね。顔は良くてもカネ持ってなかったり。そもそもいい大学出て稼いでそうな男は一足先に東京来てますよね。だから東京でそこそこ金持ちと結婚して早く専業主婦になりたいですー。仕事だるいし。まぁまだ遊びたいって気持ちもあるんですけど、早めに動かないとヤバいっていうじゃないですかぁ。もう手っ取り早く、有名企業の派遣社員にでもなってデキ婚狙おっかなー」

反吐が出そうだった。幸子が受験生だった頃、おそらく勉強なんてだるいしと、遊び惚けていたような子。それが今になって、楽をしてエリートと出会って結婚しようなんて、都合がよすぎる。せいぜい遊ばれて終わりよ。こんな頭の悪そうな小娘に、エリートの相手が務まるわけがないわ。一方で私は、名門女子大出の大手法律事務所の美人秘書なのよ。


結婚の二文字を本格的に意識し始めてから2年が経とうとしていた。最初は楽勝と高をくくっていた幸子だが、運命の相手にはなかなか巡り合えない。そもそも社会人になった当初は、入所した法律事務所で結婚相手を探すつもりでいた。しかし弁護士の多くは理屈っぽくてプライドも高く、法律家であるにもかかわらず部下や同僚にはセクハラ、パワハラまがいのことを堂々とやってのけた。加えてスマートさにも欠け、幸子を夢見心地にさせてくれない。それもそのはず、幸子がサンフラワーに入り、東京大学のキャンパスを自分の庭のように我が物顔で歩き、カフェテリアで同じサークルの東大生たちとじゃれあっていた頃、その脇でガリガリと六法全書片手に机にかじりつき、軽蔑の眼差しを向けてきた連中。彼らはあの調子で努力を続け、司法試験に合格し念願の弁護士になれたのだ。性格が捻くれるのも、女扱いに慣れていないのも無理はない。彼らも、そして彼らと肩を並べる女の弁護士も、サポート役に過ぎない秘書に対してどこか見下したような態度を取るのだった。中には小洒落てスマートな振る舞いのできる弁護士もいるにはいて、隙あらば幸子にちょっかいを出してきたが、そういうタイプはどうしようもない女好きで、幸子と同い年で既にバツイチというツワモノもいた。高給取りで慰謝料を払うことに抵抗が無い彼らは、離婚というものに対しても女を口説くようにあっさりとした構えだった。
 幸子は出会いを社外に求めた。秘書という肩書からか幸子への誘いは引く手あまたで、大手企業から士業、医師、経営者に至るまで、相手には困らなかった。美人を連れて行くと自分の株が上がるからか、大学時代の同級生や同僚は幸子を積極的に出会いの場に連れ出してくれた。しかし、その場では美人だと褒めそやされデートに誘われても、数度目で、酷い場合は1度目で、相手の方からフェイドアウトされてしまう。美しいゆえニコニコと笑い適当な相槌さえ打っていれば許されてきたが、年を重ねるにつれ男たちはいつまでもお姫様気分の幸子を甘やかしてはくれなくなった。結果として、女をアクセサリーのように捉える男ばかりが残ったが、彼らは幸子がわがままを言うと不機嫌になり、時に暴力男の片鱗を見せるのだった。あるいは、優しくても洗練されておらず物足りない男。それまでどこへ行っても一人勝ちだったのに、気が付けば同僚や同級生たちは、裏でどのような手を回したのか、手堅い相手と結婚を決めていった。自分は美人なのだから、彼女たちよりもハイレベルの男と結婚して然るべきだ。幸子はいつしか、世間一般ではエリートと見なされていても、東京の真ん中で石を投げれば当たるようなレベルの男を切り捨てるようになっていた。努力して東京に出てきたんだもの、東京でしか手に入らない希少性が無くっちゃ意味がない。その思いは、正月に参加した故郷長野での同窓会でよりエスカレートした。同級生には、有名メーカーの子会社や代理店勤務の男も少なくないのだが、世間知らずの彼らは東京の本社勤務のエリートと前者を一緒くたにするだろう。大手銀行や都庁勤めの男は安定しているが、同窓会では地方銀行員や地方公務員と結婚して得意ぶっている高卒の女だっていた。銀行員、公務員とひとくくりにされてしまえばそれまでだ。東京でしか出会えない男。例えば六本木のオフィスに勤める外資系企業の社員やベンチャー企業の経営者との繋がりが幸子にはあったが、彼らは日系企業のサラリーマンとは比較にならないほど羽振りがいいものの安定を欠いており、何よりワンマン気質が強くお姫様扱いに慣れた幸子とはそりが合わなかった。他には熱心に口説いてくる開業医などもいたが、女の家柄を気にする彼らと結婚まで漕ぎつけるのは、幸子の美貌を以てしても不可能だった。女を夢中にさせることなど朝飯前のエリート達とデートを重ねてきたこと、会食の手配やスケジュール調整など、気配り心配りが要求される秘書という職に就いていること。その2つが重なって、いつしか幸子は容赦なく男を減点するようになっていた。下手なレストランに案内したりエスコートがぎこちなかったりする男を見ると、マイナス点を付けずにはいられなかった。デートの予定で手帳が埋まっても、真剣交際に至るまでの相手は長らく現れなかった。その間幸子の心と体と財布を満たしたのは、仕事で知り合ったずいぶんと年上の他事務所の弁護士だった。既婚者であり50歳を超えている彼はしかし身なりに気を使っており隣に並んでも恥ずかしくない紳士で、既婚者の余裕や包容力がもたらす居心地の良さは手放しがたかった。幸子は不毛だと分かりつつも、不倫関係を続けていた。若い頃は失敗も笑って許してもらえたが、仕事熱心ではない幸子はだんだんと事務所に居づらくなっていた。美しさだけで許してもらえるのは、せいぜい20代まで。30歳になっていよいよ今の事務所に居場所がなくなったら、不倫相手の事務所に事務員として雇ってもらうという話もあった。しかし、その噂とて狭い世界ではすぐに広まるだろう。大手の事務所から個人事務所に移ってきた何か訳アリの独身三十路女。そんな存在が周囲に陰口を叩かれるのは想像に難くない、幸子の身の毛はよだった。幸子の勤める法律事務所では英語と法律の勉強をすれば秘書から法律事務であるパラリーガル職へのキャリアアップも可能で、そのための制度も整っている。試験に受かれば専門職として活躍でき、新しい居場所もできて給料も上がる。しかしそんなモチベーションはもうどこにも残っていなかった。そもそも幸子は勉強が嫌いだ。大学受験の時こそ、どうしても東京でキラキラした生活が送りたいと必死になったものの、大学では与えられた最低限の課題しかこなさなかった。就職活動も、学業成績は振るわなかったにも関わらず、面接でOGに教わったそつのない返しをし、高校の頃から鏡の前で研究に研究を重ねた必殺スマイルを決めれば次の選考へと進めた。夏になってもリクルートスーツを着てキャンパスを歩く学生に、内定を分けてやりたいほどだった。記念で受けた大手航空会社からも、顔採用で有名な超高倍率の一流企業からも、内定を得ることができた。卒業論文もサンフラワーの東大生に甘えて手伝ってもらい、卒業するころにはすっかり、努力することなど馬鹿らしくなっていた。この世の中は、美しいものが正義。美しいものは、しかるべき場所で咲くべきよ。幸子は数ある内定先の中から、勤務地が丸の内で、聞こえも良い秘書という職を選んだ。数年で結婚相手を見つけ、華々しく寿退社を決め東京で優雅な専業主婦生活を送るのが当初の予定であった。今もその思いは変わらない。裕福な暮らしをさせてくれる旦那様と結婚し、雑誌に出てくるような華やかな生活を維持すること。それこそが幸子の人生の目標なのだ。加えて、自らのコンプレックスを払拭してくれる、家柄の良さも備えた相手であれば。しかし無限に膨らむ理想に反し、萎えるような厳しい現実が見え始めていた。最近では、いっそ誰も自分を知らない土地に越してそこでお見合いでもし、楽になりたいという思いさえ頭をよぎった。そんな葛藤を抱え、望みが薄いものの愛に駆り出され参加した今夜の合コンにも、王子様はいなかった。

トイレでの愛たちのショッキングな会話に幸子は踵を返そうとしたが、気配を感じた女の一人が反射的にこちらを振り返り、目が合った。幸子は何も聞いていなかったかのように
「お疲れ様」
と彼女らにほほ笑みかけると、個室へ入った。
「えーそのピアス可愛くない?」
「ありがとー。ディオールの新作ー」
外からは白々しい会話が聞こえてきた。女たちはひとしきり話すと、トイレから去って行った。幸子が部屋に戻ると、そこには体を密着させた男女のペアが出来上がっていた。幸子に言い寄ってきた青年は急用らしい誰かからの電話で席を外し、通路でペコペコと頭を下げていた。戻ってきた幸子の姿を捉えると、愛は先ほどのバツの悪さを隠すためか、必死で幸子を持ち上げ始めた。

「あ、サチさんおかえりなさい!みんな聞いてくださーい!さっさと乾杯しちゃったからちゃんと自己紹介できなかったけど、サチさん弁護士事務所の秘書なんですよー!凄い秘書っぽくないですか?よっ!美人秘書!」

隣に腰掛ける女を口説こうとしていた男たちが一斉に、幸子に目を向ける。幹事の男が目を輝かせながら言った。

「マジすか!どこの事務所?今度後輩の秘書さん紹介してくださいよ!」

思ってもない反応に幸子は動揺した。今まで、こんな屈辱を受けたことなど無かった。惨めさは増し、しまいには不貞腐れてスマホをいじりながら合コンが終わるのを待った。電話をしていた青年は戻ってこなかった。そこにはもう以前のように、機嫌を損ねた姫を構ってくれる下僕はいなかった。



自由が丘のワンルームマンションに帰り、ウサギ小屋のような自室を目にした瞬間、幸子は思わず声を上げてしまいたいような絶望感に襲われた。お洒落な街に居を構えていたって、丸の内のオフィスに勤めていたって、せせこましい空間に閉じ込められた時の閉塞感や当てどなさは故郷長野にいた頃と何ら変わらない。一時は東京で欲しいものすべてを手にし、万能感で怖いものなしだったはずの自分が、気が付けば最も望んでいたもの、つまり自分を袋小路から救い出してくれる白馬の王子様に出会えずさ迷っている。早くここから抜け出したい。ピンヒールを乱暴に脱ぎ捨て、ローンで買ったハイブランドのバッグを置くと幸子はパソコンを立ち上げた。起動中、今日の合コンのトイレでの会話が蘇った。こんなに惨めなことがあるだろうかと泣きそうになりつつ、自分が時代から取り残された存在であることにはっとさせられた。大学時代、周りの女の子たちがまるで制服のように着ていたアンサンブルニット。当時一世を風靡した人気雑誌モデルが、OLのマストアイテムとして着用し誌面を飾ったアンサンブルニット。清楚を演出するこのアイテムは幸子のお気に入りだった。デートや合コンにこれを着ていけば、たいていの男は幸子を育ちの良い上品なお嬢さんとみなし、相好を崩した。時の流れとともに流行も移り変わっていったが、アンサンブルニットは定番商品として、コンサバ系ブランド店の棚に陳列された。今夜の愛やその仲間たちのファッションと言ったらどうだ。肩を大胆に出したトップスや、商売女と見まがうような真っ赤なリップ。それらは皆、手軽な女というメッセージしか発信していないじゃないか。それでいて商社マンや弁護士と付き合いたいなどと軽口を叩くのだから、怒りを通り越して呆れる。幸子は大きくため息を吐いた。インターネットを立ち上げ、ブックマークバーにあるピンク色のアイコンをクリックすると、ウェブカメラに写った自分の顔に向かって微笑みかけた。そして励ますように呟いた。

「大丈夫。私、きれい」

その言葉をかっさらうかのように、スクリーンに男の欲望に満ちた文字が浮かび上がった。

ーのんちゃん、こんばんは。今日もいい太ももだねー

 大手法律事務所に勤めているとはいえ、秘書の給与はたかが知れている。東京圏出身の同僚の多くは実家から通勤しており、稼いだお金のほとんどを自由に使っている。ランチやエステ、ネイルにコスメ、そして年に数回の海外旅行。しかし地方出身、しかも見栄で自由が丘に住んでいる幸子は、とてもじゃないが会社の給料だけでは贅沢できない。本業のほかに、お金を稼ぐ必要があった。学生時代、友人に付いてきてと頼まれ、赤坂の現役女子大生限定の会員制ラウンジに体験入店をしたことがある。その友人の誘いで、金持ちが集まる六本木のタワーマンションのパーティにも何度か顔を出した。そこで学んだのは、金持ちのコミュニティは驚くほど狭く、噂は一瞬にして駆け巡るということだった。だから長いあいだ副業として自宅でチャットレディをしながら、顔出しはしないものの太ももや下着を露わにした際どい格好と丸の内OLの夜の顔を匂わす挑発的なやりとりで、小遣いを稼いでいた。幸子ほどの美貌があれば、例えば銀座の高級店でホステスとして働くことも、羽振りの良いパパを得ることも容易だろう。しかし育ちの良いお嬢さんで通っている以上、そんな行いが明るみになれば全て水の泡なのだ。裕福な家に生まれた友人は夜のバイトを“ほんのお小遣い稼ぎ”“バレても何とかなる”と軽く見ていたが、何とかなるなどとは、周囲が何とかしてくれる環境に生きてきた者だけが言えるのだ。幸子は東京での立場を失えば、故郷長野に戻り、都落ちしてきた人間として醜態を晒すしかない。同窓会で十代の頃から何ら進歩の無い内輪ノリで盛り上がっていたような連中と、話が合うはずもない。どうして、地方に生まれたことで、貧しい家に生まれたことで、こんな思いをしなくちゃならないの?私より醜くても、東京の裕福な家に生まれたというだけで、ぬるい人生を送っている女たちが許せない。そういえば大学にも、そんな女がいたっけ。そうだ、サラだ。剣持サラ。東京に生まれ、小学校から私立に通い、上京しテニスサークルで一花咲かせようと意気込んでいた幸子の横っ面を、無邪気な顔で「ダサい」と張り倒してきた女。あの女が余計なことを言いさえしなければ。幸子は、サラがサンフラワーの新歓コンパに来なかった場合の「もし」を思いめぐらせ、怨念じみた感情をたぎらせた。

サンフラワーのアイドルとなった幸子は、3年生の時、ミスコンに出てはどうかとサークルのメンバーに打診されたことがあった。サンフラワーは過去に何人か、ミスコン優勝者を輩出していた。是非出てみたい。人前に出るのは得意な方ではないが、優勝すれば“ミス律女”の箔が付く。もっともっとチヤホヤされる。それに、先代のミスの何人かは女子アナになっており、キー局で活躍している人もいる。もし、ミスを勝ち取り、女子アナへの道が開けたら。ちょっとしたエリートではなく、野球選手や芸能人との結婚も夢ではなくなる。幸子の可能性は広がった。少しの懸念もあった。ミスコン出場者はステージで、何かしらの特技を披露するのだが、それはどれも子供の頃から習ってきたお琴であるとかバイオリンであるとか、庶民育ちの幸子には決して真似のできない芸当ばかりだった。しかし中には、全然似ていないモノマネや、お世辞にも上手いとは言えない歌を披露する出場者もいた。彼女たちのとぼけた一芸はかえって会場の笑いを誘い、可愛いのに面白い一面もあって良いと、プラスに働くこともあった。何より、幸子が所属していたサンフラワーのバックアップは大きい。東大の中でも有名で、ミスコンを運営している広告研究会とも太いパイプを持つサンフラワーのメンバーであるということは、すなわち組織票を得ることに繋がる。それを出来レースと騒ぎ立てる者もいるが、それは野暮というもので、ミスコンの結果など初めから関係者には明らかなのだ。しかし、関係者にはどうしようもできない問題がはだかった。ミスコンにエントリーした者はインターネット上で、歪んだ正義感に満ちた連中によって、その経歴や素行を事細かに暴かれるのだ。出身地や趣味、身長や血液型程度なら構わない。彼らは出身高校や家庭の事まで追求し、何か問題があれば鬼の首を取ったように糾弾するのだ。もしエントリーしてお嬢様の化けの皮が剥げ、嘘つきのレッテルを張られたら。幸子は泣く泣く、ミスコン出場を諦めた。もちろん嘘を吐いた自分にも否はあるが、お嬢様キャラに仕立て上げられたことも、結婚相手の理想がつりあがったことも、全ての原因はサラに集約された。その悔しさはバネとなって、行き詰っていた幸子を強く上へと押し上げた。女の価値は美しさ。この先勝ち組になるのは、美しい私の方よ。絶対に絶対に、幸せな結婚をしてみせるわ。

 そんな矢先、サンフラワー時代の友人に呼ばれて参加した結婚式で、幸子は老舗食品メーカーの社長を親族に持つ御曹司、健児に出会った。あれは一目惚れだったと、幸子は今でも確信できる。なぜかって、健児と出会った瞬間、向かいの鏡に映った自分は口を半開きにし、傍目にも明らかなほど惚けた表情をしていたからだ。そう、それは幸子が嫌というほど見てきた、自分に一目惚れをした男が見せる表情と見事に合致していた。幸子は思った。やはり条件は大切だ。しかしどんなに条件が良くったって、この全身を駆け巡るような衝撃がなければ、人を好きになんてなれないのだ。結婚適齢期で美人の幸子を、プリンセスのようなカラードレスを着た世話焼きの友人は大いに推薦した。

「こちらサチ姫こと上原幸子さん。長野の聖花学園を出ているお嬢様で、テニスサークルのアイドルだったんですよ。みんな姫!姫!って呼んでて。一度、サークルの王子様的存在だった男の子と姫の関係に嫉妬した女の先輩たちが一斉にサークルを辞めるって事件があって、あれはもうサークルの伝説!それにミスコンに他薦されるくらい美人で目立ってたのに、謙虚だから辞退したんですよ。そういう、チャラチャラしてない育ちの良さも高ポイント!こんな優良物件他にないですよー。予約するなら今!」

余計なことまで言わないでよ。そう思いつつも挨拶すると健児は爽やかな笑みを浮かべ

「奇遇ですね。うちの母も麻布の聖花の出身なんですよ。テニスも好きで、夏は軽井沢に行ったりしてましたよ。良いところですよね、長野」

と言うと、慣れた様子でウェイターから受け取ったシャンパンを、幸子にスッと差し出した。

「ありがとうございます」

幸子は会釈すると

「お嬢様とか姫とか大げさです。私、ぜんっぜん普通ですから!」

と予防線を張った。
「またまたご謙遜を」
横にいたお喋りな安田という上司が、その言葉を皮切りに仲人よろしく健児の紹介を始めた。聞くと、総合商社に勤める新郎の同僚である健児はアメリカ赴任から帰国したばかりで、帰国早々同僚の結婚を祝いに式に出席したという。英語が堪能な帰国子女で、中学時代から大学時代を幸子が憧れていた広尾学院で過ごしたとの話だ。高校時代、予備校で同じクラスだった篠田という男子生徒は、幸子のことを馬鹿校の生徒だからという理由で振り、広尾学院に進学した。しかし彼は所詮、大学入学組の外部生だ。甘いマスクに帰国子女、広尾学院の内部生という経歴。それらはグローバルエリートである商社マンという肩書に加わって、幸子の心に木枯らしのような旋風を巻き起こした。さらに御曹司という響きは、幸子を有頂天にさせた。安田は、お前も30の大台に乗ったし次は嫁さんだなとしきりに結婚を促し、健児と幸子を美男美女のお似合いのカップルだと持て囃した。健児も幸子も、まんざらでもないという様子で微笑み合った。お互い結婚を意識していた二人が、ゴールインを前提とした付き合いを始めるのに、そう時間はかからなかった。



 幸子は麻布にある由緒あるカトリック教会、聖クレメンス教会の聖堂の長椅子に腰掛け、周囲の信徒の見よう見まねで祈りを捧げていた。どうか、健児さんと幸せになれますように。伺うように薄く目を開けると信徒はまだこうべを垂れ、神に熱心に祈りを捧げていた。この教会を訪れるのは人生で2回目になるが、礼拝の作法が分からない幸子は心穏やかでない。神父がやたらと長い主への祈りを唱えているあいだ、大学時代に付き合っていた彼氏と初めてこの教会を訪れた時のことを回想した。大学1年の夏合宿、テニサーの姫と崇められていた幸子は、サンフラワーの女子、特にサークルを仕切っていた2年生の女子たちがこぞって狙っていた、背が高く顔も良い東大の2年生の先輩に告白された。そのことでサークル内に波乱が起き、反幸子派の女子メンバーがごっそりサークルを辞めるという出来事があった。男が絡んだ時の女の怖さに、幸子はあえてサークル内の男子学生とは付き合わず、アルバイト先のスターバックスで知り合った別の難関大学の学生とこっそり付き合っていた。サークル内ではあえて、みんなのサチ姫というスタンスを貫いた。お洒落で優しく顔も良かった彼が通う大学は、クレメンス教会の隣にキャンパスを構えていた。一度桜が満開の時期に、彼のキャンパスを訪問がてら、教会の近くで花見デートをしたことがあった。その日教会では結婚式が執り行われており、桜の花吹雪の中をマリアベールをかぶり純白のドレスに身を包んだ花嫁が幸せそうに歩いていた。幸子は将来の自分の姿を重ね合わせ、背の高い彼の顔を見上げた。幸子に優しく微笑み返してくれた彼はしかし、大学を卒業すると地元富山の役所に就職すると言い、くるりとUターンしてしまった。それを機に二人の交際は幕を閉じた。彼との別れは辛かったが、今思えばあの選択は正解だった。神様は時を待って、自分にふさわしい男を遣わしてくれたのだ。辛かった婚活期間を返上するように、すべてがうまく回り始めていた。

「……アーメン」

その言葉を合図に動き出した周囲の人々の気配を感じ幸子が目を開くと、前方にマリア像が見えた。聖母の足元には、献花の百合が咲いていた。聖なる花、百合。女の子が生まれたら、百合と名付けるのもいいかもしれない。男の子だったら、聖と書いてひじりとか。どちらも古風で、長野の同級生達が子供に付けている今風の軽薄な名前とは一線を画している。式場の候補として、この教会をあげてみるのも良い。幸子はおもむろに聖書を手に取り、適当に開いたページの一節を読んだ。

“神はまたアブラハムに言われた「あなたの妻サライは、もはや名をサライといわず、名をサラと言いなさい。わたしは彼女を祝福し、また彼女によって、あなたにひとりの男の子を授けよう。わたしは彼女を祝福し、彼女を国々の民の母としよう。彼女から、もろもろの民の王たちが出るであろう」。アブラハムはひれ伏して笑い、心の中で言った、「百歳の者にどうして子が生れよう。サラはまた九十歳にもなって、どうして産むことができようか」”

サラとは、聖書に出てくる女の名前だったのか。あの女は今もきっとどこかで、あの頃と変わらず可愛げなく酒を煽っているに違いない。クレメンス教会のすぐ裏手には、憧れと憎しみの入り混じった、かの聖花学園麻布校の小中高の学び舎がある。サラがもし、すでに結婚し、子を設けていたら。それは幸子にとって受け入れがたい現実である。
(あの女にどうして結婚ができよう。)
幸子は心の中で笑った。そして聖堂を後にすると、振り返って小高い丘の上にある聖花学園を眺めた。幸子の横を、麻布聖花学園の女学生が明るい声を上げながら通り過ぎた。サラがダサいとこき下ろした制服は、大人の幸子から見れば清楚で上品であるが、なるほど確かに、故郷で見た長野聖花学園のブレザーの方がスタイリッシュで、思春期の少女がどちらに憧れるかは明白である。しかし今やそんなことはどうでもいい。自分はこの女学生たちが、親から当たり前のように与えられてきた幸せを、自分の手で掴もうとしているのだ。いやもしかしたら、この子たちよりもずっと、格上の幸せかもしれない。せいぜいお勉強、頑張ってね。髪をひっつめ眼鏡をかけ、目前に迫っているらしい試験の話題で持ちきりの聖花学園の生徒たちを、幸子はフフフと、余裕の笑みで見送った。教会の聖堂から鐘の音が響いてきた。それはどこか、大学の中庭でランチを食べながら聞いた、優しい鐘の音色に似ていた。

墓前のアンサンブル 1章 ©中本

執筆の狙い

自分が婚活をしてみたところ、エリートとの結婚を狙っている女性と沢山出会ったので小説にしてみようと思いました。
同じ女子大を卒業し因縁のある女2人と、御曹司商社マンの三角関係を3章に分けて描く予定です。貧しい家に育った劣等感から玉の輿を狙う女、育ちは悪くないもののある事情から恋愛に憶病になっている女、御曹司という恵まれた環境で育ったゆえの優柔不断さから、結婚という決断を前にして二の足を踏む男。三者三様の葛藤を描けたらと思います。長編小説に挑戦したのは初めてなのですがとても難しくなかなか進まないので、ひとまず完成している1章を投稿してみます。

中本

223.132.61.62

感想と意見

クリキントン

面白いです。
長編でしかも第1章だけということで、普段この手の作品は目を通さないのですが、最後まで読みました。
ピースの手の高さとか、エピソードがリアルです。
ただ残念なのは、面白いシーンがほとんど回想だということ。
回想シーンは物語の進行が止まってしまうので、読んでて話が先に進まずちょっとイライラしました。
せっかくだから主人公たちが大学入学するところからスタートして、素直に時系列を追う形で展開を進めていった方が面白くなるのではないかと思いました。

作者さんは女性でしょうか?
幸子、サラ、愛はキャラが立っていますが、男たちが弱いです。誰も印象に残りませんでした。
短い感想ですみません。

2018-02-08 15:11

153.221.132.75

クリキントン

すみません、イライラしたというのはちょっと違いますね。
退屈になった、の方が正しいです。
冒頭で、幸子は結婚願望強いが理想が高いせいで結婚できない、自己評価と他者からの評価が食い違ってる痛い女、ということが明示されているので、女子校や女子大生のエピを読んでいても現在の幸子の状況がわかっているため退屈に感じてしまったということです。
この先どうなるんだろう?というワクワク感が削がれてしまう、というか。

2018-02-08 15:20

153.221.132.75

アトム

>結婚は人生の墓場だという。ならば良い墓に入りたい。例えば、青山霊園のような。

この墓場というのは終焉という意味でいっているのであって、墓・墓地という現物に向けて言っていないのは、作者さんにも明らかと思うのですが?。
とすれば、良い墓・青山霊園のような現物を指して、のようなと締めくくると、没頭にもってきた(結婚は人生の墓場だという)これの意味を取り違えているのでは?、と思えてしまう。

この終焉には、もう終わりだというネガティヴな意味が込められていると認めているなら、『ならば』の接続詞を使うのが解せませんね。
ならばの意は(それだから。したがって)です。 (しかし・だが)の接続詞も使えないのは、良い墓・青山霊園のような。と意味を取り違えた言葉が続くからです。 
結婚は人生の墓場だという、(それだから・したがって)青山霊園のような良い墓に入りたい。これでは意味が支離滅裂になっています。

この一行は文章として破綻していますね。   結婚は人生の墓場(終焉)だというが、しかし・・・と続けるのが正常な文章でしょう。

自分の解釈が間違っているかも知れないので、他の方の意見も聞きたいと思いますね。

タイトルに魅かれて読もうと思ったのですが・・・没頭からこれでは読む気が失せてしまいました。

2018-02-08 16:10

126.28.175.17

クリキントン

アトムさんへ

私はうまい導入だと思いましたが。
「ならば」は、「それなら、どうせならば」と同じ意味で読みました。
同じ墓場(結婚)でも、寂れた田舎の霊園(つまらない男との結婚)より、どうせなら青山墓地(都会の金持ち)の方がいい、と。

解釈は人それぞれなので、押し付ける気持ちはありません。

2018-02-08 17:00

1.75.243.9

だみあんましこせ

なんか今の学生じゃないよね これ。。。全てが10年以上前の風景に感じた 今である必要はないんだけど

いつの時代かは書いてもいいかなって想いました

2018-02-08 17:08

210.169.207.233

二月の丘

冒頭の、同窓会出席場面でのヒロイン:幸子が・・
地の文の口調から、「当然アラフォーだろう」と思って読んでいた。

それなのに、同窓会直後に「合コン」が来てて、そこで「28歳」と分かって、とても吃驚!!

「リップ濃すぎ」「ハイチーズ」とかゆー台詞も、ど〜〜も20年ぐらい前のテイスト? だし、
冒頭で構築された「幸子=アラフォー」印象から抜けられなくて、、、

そこで脱落。。



主人公が28なら28で、冒頭でそこはハッキリ書いといた方がいい。
28で美人! なら、「行き遅れに焦る」必然性は、とくにないんじゃないのかなー??

33歳ぐらいの医師だの弁護士だのを捕まえる可能性が、まだまだ全然あると思うし、
本人もそう思ってんじゃないかしらねー??

2018-02-08 22:14

219.100.86.89

二月の丘

タイトルが、「墓前のアンサンブル」って、、

女性ものの洋装の喪服も、「アンサンブル」って言うんで・・



そのタイトルづけも、冒頭で【ヒロイン=アラフォー】な感じを醸してる元凶なんだと思う。

2018-02-08 22:16

219.100.86.89

クリキントン

再再訪すみません
私も勝手に30代半ばか後半だと思い込んで読んでました
今の28歳はもっと気持ちが若いし、結婚に関しては呑気に構えてますよ
30歳過ぎてから婚活を意識し始めるんじゃないでしょうか
むしろ同級生が、ずいぶん早婚ですね
田舎ならそれが普通なのかもしれませんが

アラフォーという設定なら自然だと思います

2018-02-08 22:42

153.221.132.75

二月の丘

読んでないのに、序盤の記載チラ見範囲で「憶測」かましてて申し訳ないんだけど・・


この原稿って、

今から10年ほど前にニュースになった 【新宿・渋谷エリートバラバラ殺人事件】なのでは??

28で年下医師(三橋さん)と結婚した、高身長のセレブ妻:香織被告〜。

航空会社受けてたり、法律事務所に勤務してたり…… ってあちこちの記載が、「それ下敷きの話」っぽく映った。

だから・・

虚栄の生活の果てに、主人公幸子は、旦那を殺害して、「喪服を着る」展開なんじゃないのかなー??? と。

2018-02-09 00:18

219.100.86.89

二月の丘

ググって再確認してみると、

2006年の事件で、
香織被告(カオリン)は1974年生まれ。ニイガタの進学校を卒業して「白百合」に進学。


それ下敷きだとすると、
ヒロインは【現在】アラフォー。

で、大学描写が古いのも、当時の風潮だとすれば無問題。

2018-02-09 00:25

219.100.86.89

アトム

くりきんとんさんへ

結婚は人生の墓場だという。
墓場ということで、ネガティヴなことと限定されていますね。
墓場というネガティヴな限定から逃れられない制約の中で、良い墓場とは?・・・悪い条件が薄まるということですか。
つまり、マイナスからプラスへ移行。プラスへ移行した時点で制約からはみ出て、すでに墓場(ネガティヴ)でなくなっているのではないかな。
もっと良い墓とか墓場という言葉そのものに矛盾があるからややこしくなっているのでは。もっと良い不幸をと言っているようなものでしょう。

結婚は人生の墓場だという。ならば良い墓に入りたい。例えば、青山霊園のような。
結婚は人生の墓場だという。ならば結婚などしたくない。例えば、くりきんとんさんのような美人であろうと。

私も押し付ける気持ちはありません。

2018-02-09 00:33

60.138.235.169

クリキントン

アトムさんへ

おっしゃりたいことはわかりました

女の人には容姿褒めとけば喜ぶだろうみたいな考え方は改めた方がいいと思いますよ

中本さん関係ない書き込みしてすみません

2018-02-09 09:36

153.221.132.75

だみあんましこせ

クリキントンさんは中本さんのことめちゃくちゃ大事にしていることは伝わる 友情だね

2018-02-09 09:48

210.169.207.233

中本

クリキントンさん

ありがとうございます!
私の単なる思い込みですが、小説って冒頭に何か「つかみ」のようなシーンがあった方が良いかなと思い、
回想の前に「ピースの位置で年齢が分かる」というエピソードを入れ、年甲斐もなく若い子と張り合っている幸子の惨めさを強調しようとしました。
結果として、時系列が前後して読みづらくなった、最初から手の内を明かすことになってしまったということが分かりました。
冒頭のシーンは後の合コンシーンと繋げて、時系列を追う形にしようと思います。

私は独身のアラサー女です。やはり同性の方が描きやすいというのはあります。
2章で商社マンが登場しますが、優柔不断な優男なのでキャラが立っているかは分かりません。
他には、サラの友達のゲイの獣医師、サラの行きつけの居酒屋の大将などが登場します。そちらの方がキャラが濃いかもしれません。

2018-02-09 11:12

223.132.61.62

中本

アトムさん

ご指摘ありがとうございます!
クリキントンさんが私が言いたかったことを代弁してくださっているのですが、
幸子は結婚に強く憧れる一方で、両親を見て「結婚は墓場だ」とどこか諦観している。
なので、どうせ骨をうずめるならしけた墓ではなく青山霊園のような一等地の良い墓に入りたい、と玉の輿を意図する意味で書きました。

「どうせならば」「ならばいっそ」の意味なのですが、書き出しの一文のためすっきりさせたいと思い「ならば」と縮めたところ、
分かりにくく、伝わりにくくなってしまったようです。

2018-02-09 11:23

223.132.61.62

中本

だみあんましこせさん

回想のシーンは10年前です。一応、
「幸子はこの中では最年長の28歳だが」「10年前の春を思い出した」
という記述があるのですが、冒頭で説明していないため読者には伝わりづらいですね。
最初の方で明示しようと思います。

2018-02-09 11:30

223.132.61.62

中本

二月の丘さん

アラフォーに写りましたか…。
幸子は意図的に、お嬢様ぶって変に浮世離れした言葉を使うようにしています。なのでババ臭く思われるかもしれません。
「リップ濃すぎ」「ハイチーズ」等は今の女子大生も使っているので問題ないかと思ったのですが。

それから物語の後半で「アンサンブル」については言及しているのですが、10年ほど前、雑誌cancam(エビちゃんが専属モデル)が全盛期の頃、
アンサンブルニットというファッションアイテムを始めとしたコンサバファッションが流行しました。
今はカジュアルで男受けに囚われないファッションがトレンドなのに、幸子は古い価値観のまま、アンサンブルニットを着続けている。それもタイトルに反映しました。

そして古い価値観に囚われているうちに、周りの美人でない子が着実に身を固めていっている。
幸子は負け犬になりたくない!20代のうちに結婚したい!という思いが強いので、目ぼしき人に出会っていないとまずい年齢という事で28歳にしました。

やはり28歳であること、20代のうちに結婚したいと思っていることははっきり書かないと駄目ですね。直していきます。

2018-02-09 11:53

223.132.61.62

中本

クリキントンさん

少し前まで女性の自立が叫ばれていて、30過ぎで結婚しても遅くないという考えが主流だったように思います。
ただ、今の20代はそんな先輩たちが婚活に奔走したり不妊に悩んだりしている現状を見て、悠長に構えていたらまずいと、愛のように早い段階から真剣に結婚について考えています(現実的で賢い子は特に)。東京で大学を出た知人友人も30前に結婚している子が多く、その半数は母親になっています。アラフォーで婚活している人は本当に終わっている痛すぎる人という認識です。

ただ結婚に関しては年代によって捉え方が大きく変わってくると思うので、今の時代はこれが常識で、ゆえに幸子はこんなに焦っているんだ、ということもしっかり説明しないとと思いました。

2018-02-09 12:07

223.132.61.62

中本

二月の丘さん

「カオリン」の事件は記憶にありますが、あれが下敷きではなく、全く関係ありません。ただ、確かに詳細は似ていますね。
作家の林真理子さんが、地方の公立校出身で大学だけ女子大の女性を「トッピング女子」と揶揄していましたが、カオリンも幸子もトッピング女子です(笑)
今までに数人、お嬢様に憧れて変な上品さを身に付け玉の輿を狙う女性に出会ってきたので、彼女たちがモデルです。
いつの時代も、女子大には航空会社や法律事務所に就職し自分にブランドイメージを付け玉の輿を狙う女性がいるのだな、という印象です。

一方で女子校は早くから自立を促されるので、キャリアウーマンや手に職志向の子が多いように思います。
幸子と対照的な女性として、専門職に就き結婚に無関心なサラという人物を登場させました。

2018-02-09 12:27

223.132.61.62

ゆふなさき

めっちゃ面白いです!
こちら、田舎出身の独身女なのでいろいろ考えるところがあるものの。毒が楽しい。
シリーズなどありましたら、ぜひ読ませてください!

2018-02-09 13:47

49.98.144.227

アトム

再訪しました。

流し読みですが読ませていただきました。

(結婚は人生の墓場だという。ならば良い墓に入りたい。例えば、青山霊園のような。)
これは作品を読んでコンセプトの暗示と知りました。作者の思い込みが、客体を置き去りにしたとも思えるのですが・・・。
文章は書き慣れておられ、ビギナーの私など足元にもおよびません。上手いです。
女性らしく視線が細やかで、見るところを見ていて、やはり男と女は違うなと思わされましたね。(2)の半ばごろまで読んだとき、こんな雰囲気の小説読んだことがあるなあと思い出したのが、篠田節子氏の女たちのジハードです。内容は憶えていませんが、女性をちょっと意地悪く観察しているような作品だったと記憶しています。

ーーーーーーーーー

>昨日の同窓会のメンバーは、幸子を除いて皆既婚者だった。未だ独身の自分が参加することに引け目はあったものの、腐ってもサチ姫という自負があったため、そんな素振りはおくびにも出さずにいた。

ここからの件は面白かったですねーー未婚者と既婚者の間に引かれる線は勝者と敗者の・・・結局どちらが勝者なのか。

>「姫は理想高くなってもしょうがないよ」
「引く手あまたすぎて決めかねてるんじゃない、いいよねぇ」
・優越感を潜ませながらの台詞ですねーー後で陰口を愉しみそうな彼女たち。

>結局普通が一番よねと言わんばかりの会話で盛り上がっている。
・幸子には相槌もうてない会話ですね。嫌みにも聞こえ、幸子の胸のきやりは如何ほど・・・この文章もいけています。

>幸子だけが、変わらず浮ついたようなきらめきを放っていることは間違いない。
・そのきらめきが恥ずかしいものになっているのですねーー若者・同窓会どちらの世代の前でも。胸を圧迫するように、静かに貶めてくる彼女らに・・・。

(3)に入ってから少し退屈でいらつきました。
限りがないのでこの辺で・・・しかし、女性は出来あがったものばかり求めるのですね。一緒に作るとか生み出すとかの方が充実した人生になると思うが。
そんな料簡だからいとも簡単に離婚するのかも。

>長編小説に挑戦したのは初めてなのですがとても難しくなかなか進まないので、ひとまず完成している1章を投稿してみます。

エンタメ長編小説の必須条条件として挙げなければいけないのが展開の妙(ストーリ)ですね。
読者を飽きさせず引き込み、長く話を紡いでいくにはどうすればいいのかと、池井戸潤や高杉良・高田郁など数名の作家の小説を読んで分析した結果の原則らしきものの一つですがーー平たくいうと塞翁が馬をベースに展開を拵えている小説が多いと思えました。 要はマンガ的に つづけている。
一つの解決の中に内包している危うさを表に出し、新たな展開をつくる。内包しているものなかで最も美味しいものを探りだせばよいわけです。
塞翁が馬の継続応用で長編を書いたのですが、アイデアが浮かばず藐然と思い惑うことを思うと随分楽です。ワンパターンにならないように心掛けないといけませんが・・・。

それでは、面白い作品を読ませていただき有難うございました。

2018-02-09 19:48

126.28.190.188

中本

ゆふなさきさん

嬉しいですありがとうございます!
私自身、都会にも田舎にも住んだ経験があってどちらの事情もなんとなく分かるので(両者ともずっと住んでいた人ほど深くは分からないという中途半端さがありますが…)、その経験を生かしてみようと思いました。

続きはブログで更新しているのでURLを貼りました。小説の取材のためにしている活動がバレてしまうのでちょっとお恥ずかしいのですが笑、お越しいただけると幸いです!

2018-02-10 11:52

49.98.158.89

中本

アトムさん

私もビギナーであり、文章には自信がありません。おかしな文もあるかと思います。もっともっと勉強しなくてはと思っています。
また普段は純文学を読むことが多いので、エンタメ小説には疎いのですが、これから色々読んで参考にしていきたいと思います。
まずはご紹介頂いた篠田節子さんの「女たちのジハード」を読んでみます。あらすじを調べたら面白そうです!ありがとうございました。

2018-02-10 12:01

49.98.158.89

黒井太三郎

合コン太郎と呼ばれましたの。今ではしがないデイケア通いでした。

2018-02-11 21:06

121.109.111.65

藤光

読ませていただきました。

面白い。
そして、うまいですね。

とても「書けている」と思います。「ごはん」レベルではない。ここに晒さず、どこかの公募に出した方がいいです。続きが読めなくなるのは残念ですが、作者さんのためにはそう思います。

幸子は取り立てて珍しいキャラクターではありません。
が、そのキャラクターを形作る高校時代、大学時代、そして社会人となった現在のエピソードとその描写が素晴らしい。

また、ゆふなさきさんも指摘している「毒」のある表現――これは好き嫌いが分かれると思いますが、この文章を個性的な小説にしていると思います。いい小説になりそうです。ぜひ完成させていただきたい。

ありがとうございました。

2018-02-11 21:21

119.104.7.77

中本

黒井太三郎さん

合コン王だったのですね!
参考に取材させて頂きたいです。

2018-02-12 01:51

49.98.158.89

中本

藤光さん

ご感想ありがとうございます!
面白いか否か以前に、自分の文章が破綻していないか不安だったので投稿してみたのですが「書けている」との事で安心しました。

仮に公募するとして、どこに公募するのがふさわしいのかさっぱりですが、まずは完成を目指して頑張ります。

幸子が何故東京の家柄の良いコミュニティにこだわるようになったのか、エピソードを通してちゃんと伝わったようで良かったです。

いわゆる「イヤミス」のようなお話を書くつもりはありませんが、綺麗事ばかり並べるのも私のポリシーに反するので、「毒」をスパイスにしながらブログにて書き進めて行こうと思います。

2018-02-12 02:08

49.98.158.89

ポキ星人

 主人公の突き放し方(突き放し切らないところも含め)に好感が持てます。毒が適当にあってよいです。文章も文体がどうとかいう気にならないところが、それはそれでうまいのだと思います。
 この話の「内容」はなんですか、と聞かれたら、「地方出身で上昇志向の強い20代末の美人が東京で結婚相手を見つけようとしてうまくいかない話」と誰でも即答できると思うんでそこは強みです。ですが、この話の「あらすじ」を説明してください、と言われたら今度はよほどの能力者でも大変難しいだろうと思うわけで、これは筋が面白くないとかいう以前に、筋がよくわからないというレベルなのです。
 こういうタイプのコメディ、つまり結婚を焦る俗物的な美女がお見合いを繰り返す類の小説とかドラマはたぶん大昔からあるんだと思うんですが、そういう作品は主人公の美女の性格もはっきりさせてはいるんですけど、それ以上に、彼女の前に現れる男達を書くものなんじゃないかと思うのです。彼らのキャラが書かれているのが面白い、というだけではなくて、彼らのキャラと主人公のキャラが摩擦を起こしてうまくいかない様子それ自体がストーリーだ、というような構造のものなんじゃないでしょうか。
 作者に女性を書きたい気持ちと能力があることは、私なりにわかっているつもりですが、それをしたいのであればなおさら男を重視すべきです。というのも私が今更感想を書いてすでにある指摘と重なるようなことをくどくど述べているのは、リンク先のBoAの写真で不覚にも笑ってしまったからですが、それが笑えたのは彼女の写真やあなたの文章が、女を語っているように見えて結局は商社マンの内面の女性観を語るものになっているからだと思います。同様に、主人公の男性観を描き出したければ、主人公の男性観そのものを説明するより、具体的な男性を出した方がよいのだと思います。
 
 男の私としては、この作品中の、富山の役所に就職する男、財務省の男、あるいはいま不倫関係中の初老の弁護士あたりは、ちょっと存在感があって気にはなります。で、彼らについての文章を拾うと、主に書かれているのは、「主人公が気づいた彼らの(結婚相手としての)欠点」であって、たしかにそこは辛辣ですし説得的で面白いのです。ですが、「小説」として見た場合、より重要なアイロニーは、「主人公が辛辣なので相手の欠点にすぐ気づくこと」以上に、「主人公が辛辣なので相手の長所にまったく気づけないこと」の方だと思います。今の書き方だと後者の印象がかなり薄いのです(目配りを感じるところももちろんあります。例えばもし主人公が本当に不倫相手の事務所に移籍するのだとしたらそれがみっともないのは、単に事務所の規模がダウンするからだけではなくて、彼女が自己中心的で他人を認めることができないという幼さゆえに、年長者から一方的に保護されるべき存在にすぎないことが、誰の眼にも明らかになってしまうからでしょう。こういう事情を作者は少なくとも内心では意識しているように感じます)。
 ここはむずかしいところですが、基本的には男性に(主人公や作者の考えを通したうえでの「商社マン評」「弁護士評」のようなものではなくて)生の言動をさせて、読者に直接ああこの人いいところあるな、と思わせる、というやり方がいると思います。あと定番なのは、主人公を遠慮なく批判したり、主人公がふと自省して本音を漏らす相手として、主人公の本性を知っていて、やさしいが結婚相手としては問題外の幼馴染の男性を脇に置いておく、というやり方もあります(もしかしたら、作者はこれをサラの方に配置するつもりにも見えるんですが、幸子は嘘つきですから、こいつだけは幸子の真の姿を知っている、という存在があるのも面白いと思います)。

 つまりはこの作品でストーリーがつまらない、男性キャラが影が薄いというのは、つながった問題だと私は思います。作者は婚活女子の話といいながらも、本音は女子の半生を描きたいように見えるわけで、そこがどうも主人公の独白による男遍歴懺悔みたいになってる原因だと思いますがそれで作品が平板になってしまうのだと思います。だから、私見ではこの作品を、男が何人も出てくるが結ばれないというラブコメのつもりで構成して、その中で主人公のキャラを書いていくという方が話としてはまとまるように思います。そういうやり方でも現代的な女性のあり方を前面に出して書くことは可能だし、効果的な気がしました。今のままだとリンク先のブログの方が面白い、ということにならざるを得ないんじゃないかと私は思います。

2018-02-15 03:12

153.172.4.246

ポキ星人さん

沢山ご指摘を頂き、またブログも読んでくださりありがとうございます!

あらすじ…難しいですね。一応三角関係を描いているので三人の恋模様、恋愛感情について書いていくのですが、同時に上流/中流/下流、そして東京/地方と異なる階層や環境に生まれ育った三人が出会う話なので、そういった背景を踏まえた上での三人の人生の悩み、葛藤も描いていきたいんです。そうなると「こういうあらすじの恋愛小説です」とシンプルに説明することができない…。

一章は幸子の人物紹介がメインなので他の登場人物の影は確かに薄いです。二章で幸子がロックオンした商社マンの健児についてしっかり描いていきます。
もちろん、健児が幸子とデートを重ねていくうえで生じた摩擦についても触れます。そして健児が幸子と因縁のあるサラに出会ってしまい、むしろサラの方に惹かれていく。
健児(男性)の目を通して、幸子とサラという二人の人物の内面を浮き彫りにしていきます。


やはり一章だけではうまく伝わらないのかと思いましたが、上手い人は一章だけでも違和感なく、完結した面白い文章が書けるのだろう、と思わされました。
それは訓練によって上達するものなのか、それとも才能に依るものなのか…。

また財務省の男は重要人物として再登場しますが、わりとどうでもいいキャラとして登場させた富山に帰った元カレ、不倫相手の弁護士が存在感があったというのは意外でした。
確かに男性の読者からすると、同性の描写が少ないとなると欲深い婚活女の嫌らしさばかりが際立って退屈してしまうかもしれないです。

〝より重要なアイロニーは、「主人公が辛辣なので相手の欠点にすぐ気づくこと」以上に、「主人公が辛辣なので相手の長所にまったく気づけないこと」の方だと思います〟
このご指摘に関しては、まさに婚活で行き詰っている女性の多くに言えることで、彼女たちは「欠点ばかり見ているから結婚できないんだよ!」と既婚者に突っ込まれているように思います。
ポキ星人さんは鋭いので、私が内心で意識しているねらいを汲み取ってくださいましたが、今の書き方だとうまく伝わっていない。それでは駄目ですね。

幸子が様々なエリートとデートを重ねても欠点ばかりが目に付くというシーンは、我ながら説明的な平板な文章になってしまっていると思っていました。長くなってしまいますが、デートのシーン等具体的なエピソードを交えて動きを出した方が良いのかなぁと。

〝あと定番なのは、主人公を遠慮なく批判したり、主人公がふと自省して本音を漏らす相手として、主人公の本性を知っていて、やさしいが結婚相手としては問題外の幼馴染の男性を脇に置いておく、というやり方もあります(もしかしたら、作者はこれをサラの方に配置するつもりにも見えるんですが、幸子は嘘つきですから、こいつだけは幸子の真の姿を知っている、という存在があるのも面白いと思います)〟
ここは、おっしゃる通りで、サラの方に気の置けない友人として「お節介なゲイの獣医師」を配置します。
幸子の真の姿を知っている存在ですか。幸子がその存在に怯えているという設定も面白いかもしれません。私としては、物語の後半、幸子と同い年で実際に長野聖花に通った学園に詳しい女性、もしくは同じ予備校に通い上京して広尾学院に通った、幸子がかつて恋した「篠田」という男性の登場によって、幸子の嘘が暴かれていく。という展開を考えていました。

長々とまとまりがない返信で申し訳ありません。勉強になることが沢山ありました!ありがとうございます。

2018-02-15 15:16

223.132.61.62

ポキ星人

 お返事ありがとうございます。ちょっと老婆心で補足しておきますが内容は一緒ですからべつにお返事はいりません。

 ご存知だったら申し訳ないんですが、「劇的アイロニー」という言葉を検索して、googleだと最初に出てくるコトバンクと上の方にでてくる大岡俊彦という方のブログを見てほしいと思います。私が「主人公が相手の長所に気づかないのがアイロニーだ」と言ったのはこういうレベルのことであって、婚活に失敗している女性の多くにこのような傾向が現実に存在している、という類の「婚活あるある」の話ではないです。婚活に失敗する女性に対する作者の評価が読者に伝わっているか、の問題でもありません。私が述べたのは、単純に、コメディの表現手段として「読者は気づくのに作中人物が気づいていない事柄」を活用していない、という話です。
 私はコメディとか小説とかの手法的な面白さは、登場人物のリアリティの面白さよりも重要な場合があると思っていますし、リアリティを上げればそれで小説として出来が上がる、とはかぎらないとも思っています。主人公は現実の女性たちよりもっと愚かであった方がよいでしょうし(高校詐称がバカすぎるところを私は買っています)、話の筋はもっと類型的なコメディであった方が、結局リアリティが伝わるのではないか、といまのところは思っています(これからの展開をいろいろお考えなのでしょうが)。
 コメディ的な手法とか小説なり「お話」の語り方にまつわる手法を活用しないで書いていけば、「作者が事情通で物の見方が鋭いのでお話を聞いていると興味深いです」、ということに頼るしかなくなってくるだろうが、それではブログ(エッセイ)の文章の面白さを越えることは難しいだろう、というのが私の考えです。

2018-02-16 02:51

153.172.4.246

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