作家でごはん!鍛練場

『延灯』

Yuu著

初投稿です。
進学校に通う友人の話をもとに書いてみました。些細なことで一喜一憂する少年の心の動きを表現できていれば嬉しいです。
因みに、蛆虫の下りはトーマス・マンの「トニオ・クレーゲル」が元ネタです。
拙い文章ですが、アドバイスをいただければ助かります。

最後の同級生が、自習室から出て行った。

バタン、と扉が閉まる音を聞いた如月悠馬は、数学の問題を解く手を止めると、一つ大きな伸びをした。時計を確認すると、なるほど眠いはずである、すでに午前2時を回っている。彼は手元のわずかに中身の残っている缶コーヒーを一息に飲み干し、再び計算する手を黙々と動かし始めた。

如月は全国でも有数の全寮制進学校に通う高校二年生である。この寮では、一日3時間の学習時間の後も、自習室を自由に使うことが許されていた。次の定期考査が3週間後に迫った今日などでは、自習室の利用者は多い。そして如月は、その利用者の常連の一人だった。

自習室は学校の教室より少々狭いほどの広さで、長机とパイプ椅子がいくつも並べてある。これが受験を控えた3年生になると、個々のブースがある学習室へと昇格するのであった。

「よし……合ってる」

10分後、自らの回答と問題集の模範解答を比べ、正解であることを確認した如月はつぶやいた。

如月悠馬は勉強家である。少なくとも、一般的基準に照らせばかなりの勉強家といってもよいくらいであろう。小学校のころから一日2時間は必ず机に向かっていたし、それからも勉強時間は増えこそすれ、減りはしていなかった。そして、全国から優秀な学生の集まるこの寮においても、彼は沢山勉強しているほうである。そう、彼は疑う余地なしに努力家であった。

しかし、如月の自己評価はその能力に比して非常に低いものであった。彼の、いや、彼に限らずこのような進学校の大半の生徒の特長として、自らの優秀さを全く認めない、というものがある。彼らの安っぽいプライドなど、同じ学年の本物の天才たちに叩き潰されて久しい。

しかし、彼らはそこで勉強をやめ、ペンを投げることもできないのである。そうするには、彼らはそれまでの人生で、あまりに勉強に時間を割き過ぎていた。ここでその争いから脱落することは、彼らのこれまでの人生を否定するに等しい。結果、トップ争いなどできないことをわかっていながら、それでも無心に勉強を続けることになる。まさにこの如月がそうであるように。

如月は数学の問題集とノート、筆箱をリュックサックに放り込むと、数時間座り続けて少々座面が蒸れているパイプ椅子から立ち上がった。自習室を出る間際、照明を落とす。これは部屋を最後に出る者の役目であった。

自習室を出た如月は疲れていて、自分の部屋に向けてとぼとぼ歩いた。泊りの寮監ももうとっくに寝てしまっており、真っ暗な廊下を照らすのは非常口を示す緑色の光のみ。たった一人歩く如月の足音が、不気味なほど大きく木霊した。

と、廊下を歩く如月の足が突然止まった。3年生の学習室の電気がすでに消えていたのである。扉の窓から中をのぞいたが、勿論誰もいない。彼はなぜか嬉しくなり、一つ上の階にある1年生の自習室も確認しに行った。当然、すでに暗くなっていた。

これは、今日この寮において最も遅くまで起きて勉強していた者が如月であることを示していた。如月は自分の胸の中に、高揚と自尊が澎湃と湧きあがるのを感じた。それは、彼が久しく忘れていた感覚だった。

再び自分の部屋に向かって歩き出した如月の歩みは堂々としていた。一歩一歩と踏み出すたび、彼は自分を縛っていた縄のようなものが解けてゆくかのような甘美な錯覚を味わった。彼にとってこれは、偉大なる勝利であった。彼は自分の心に月桂樹の冠をそっと載せた。勝利者如月の歩みを妨げるものは一切なかった。

やがて自分の部屋の前に着いた彼は、そっと扉を開け、中に入った。6畳ほどの広さの個室で、机とベッドにクローゼットが一つの簡素なつくりである。部屋の消灯時間はとっくに過ぎているため、電気をつけることはできなかったが、そこは暮らしなれた自分の部屋、迷うことなく部屋の奥の窓にたどり着き、カーテンを開けた。

分厚いカーテンに遮られていた月光が、さあっと部屋の中に差し込んだ。気にしてもいなかったが、今日はどうやら満月らしい。山の中にあるこの寮では、月明かりも随分はっきりと感じられる。如月は、青白いが優しいその光を頼りに、机の引き出しに閉まってあった携帯音楽プレーヤーを取りだすと、イヤホンを耳に差し込み、再生ボタンを押した。流れ出したのは、ドビュッシーの「月の光」。偶然とはいえ、随分と状況に合っている曲に如月は笑みを浮かべた。

勉強の後、消灯で真っ暗な部屋で椅子に腰かけ、ゆっくりと音楽を聴く。これが彼の密かな楽しみであった。

美しく繊細なピアノの音に耳を傾けながら、如月は窓の外に目をむけた。窓からは黒々とした森が見え、その上には、満天の星空が広がっていた。彼は、現代日本でもこれほどの星が見られるのか、と少々感心してしばらくのあいだ星を眺めた。人間、だれしも星を見上げると物思いにふけるものである。彼もその例には漏れなかった。

――しかし、僕はこんな時間まで何をやっているのだ。勉強か。そうだ、勉強だ、確かにそうには違いない。

――星空を眺めると、人間は所詮蛆虫にすぎないことを実感させられる、と書いていたのは誰だっただろうか。なるほど、僕もこうして星を眺めているが、なんだか変な気分だ。結局、こんなに雄大な星空のもとでは人間の営みなど矮小なことにすぎないということなのだろうか。

――僕は今日、この学校で一番勉強した。それは間違いない。だが、それが何だというのだろう。僕が今日、早々に寝てしまってもこの星の輝きは変わらなかった。僕が何をしようと、今後もこれは変わらない。

――結局、勉強することの、努力することの、生きることの意味とはいったい何だろう?いや、果たして意味などあるのだろうか……

ここまで考えが及んだ時、如月ははっと我に返って、苦笑した。勉強や努力の意味を問うて一向に動こうとしない輩など、普段から自分が最も軽蔑し、冷笑してきたものだったではないか。そういうことは、本当に努力してからいうもんだ、と内心常々嘲ってきたではないか。随分とセンチメンタルにさせられたものだ。時間を見ると、もう3時になろうとしている。そろそろ寝ないと、明日の授業が辛い。

如月はイヤホンを耳から外し、ベッドに入ると、すぐに眠り込んだ。夢は見なかった。

先ほどまであれほど綺麗に見えていた星空は、すでに厚い雲に覆われていた。

延灯 ©Yuu

執筆の狙い

初投稿です。
進学校に通う友人の話をもとに書いてみました。些細なことで一喜一憂する少年の心の動きを表現できていれば嬉しいです。
因みに、蛆虫の下りはトーマス・マンの「トニオ・クレーゲル」が元ネタです。
拙い文章ですが、アドバイスをいただければ助かります。

Yuu

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感想と意見

大丘 忍

その昔、受験には関係のない田舎高校で、卓球の国体出場を目指して卓球の練習ばかりしていた私には想像できませんが、本作の受験生にとっては、テストでよい成績をとることが生き甲斐なのでしょうね。
しかし、何でもよい。高校という青春時代に情熱を燃やし熱中した経験は尊いことだと思います。たとえ、懸命に勉強した微分、積分学を卒業後は一切使うことがなかったとしても。
今年のセンター試験、900点満点で900点をとった生徒が居たそうですね。

2018-02-08 10:27

153.190.54.69

Yuu

大丘 忍さま、感想ありがとうございます。
そうですね、今作の如月は勉強にすがって生きてきた人間です。
しかし、おっしゃる通り、青春時代に何かに全力で打ち込むことはとても大事なことなのでしょう。
900点満点、史上初ですってね。見たとき本当に驚きました。

2018-02-08 11:29

118.21.80.33

二月の丘

読みにくい。
起承転結がない。
記載順(説明描写の順序)がおかしい。


「一々わざわざ大仰に書く癖」は、「読みにくくなるだけ」&「日本語おかしいところが露見するリスクが跳ね上がるだけ」なんで、
もっと【普通の言葉で、等身大に書く】ようにしてみて??


 >彼は自分の心に月桂樹の冠をそっと載せた。
とか、『走れメロス』を学校で習ったばっかしなのか?? だし。
全体の地の文が浮いて見えるんで、引用で入れ込む場合は、もっと「自分の中で消化してから」がいいと思うよ??


 >数学の問題集とノート、筆箱をリュックサックに放り込むと、
前の段落で「ペンを投げることもできない」と書いている訳だから、この場合は筆箱ではなく「ペンケース」が、対になってて○なんです。
(前段で「鉛筆」と書いていたんなら、「筆箱」になる)

また、高校生「数学の問題集とノート、筆箱」だけで数学の勉強はしないでしょう??
「教科書」と『青チャート』(シリーズに赤、黄、緑チャートがある)なんかも使うでしょう?? 私らの時代は、『数学の鉄則』数1〜数3 がまあ必携だった。


そして、【数学の何(どこ)を勉強しているのか】は、重要。
その具体的記載によって、リアリティーを出せるし、「主人公の優秀さ」が読者にダイレクトに伝わる・・と思うんで。

先日まで私は、「センター試験に向かう道すがら、ホワイトアウトに巻き込まれている理系女子」のハナシを書いていたんですが・・
そこで「鍵」になるエピ? 素材? として、作中で語っていたのは、【極方程式で描かれる図形】でした。

(作中主人公が、私より賢く・成績優秀なんで……作中登場人物の示唆で「そうなった」んだけど、、、
 書いているうちは「?? なんでやねん?? 極方程式って何なん?? それって、何を表していて、何の役に立つもんなの??」で、
 ググりまくる羽目になった。。
 でも、ググってみたら結構興味深いものだったわー)

なんでもいいんです。作中で説得力持って「それっぽくなる」のであれば。

2018-02-08 12:19

219.100.86.89

Yuu

二月の丘さま アドバイスありがとうございます。
走れメロスに月桂樹の冠って出てきましたっけ?習ったのは随分前なのでよく覚えていません。単純に勝利の意匠として入れてみました。
なるほど、筆箱ではなく、ペンケースとすべきでしたね。
うーん、私が数学の勉強するときは参考書を使うこともありますけど、問題集だけで済ませることも多いですし、わざわざ書くこともないかな、と思っていましたが、そうでもないのですね。
数学の勉強の具体的な内容は、本筋とは関係なかったので煩雑になるかと思い省きましたが、入れた方がよかったでしょうか。
次はもっと上手くできるように頑張ります。

2018-02-08 19:02

118.21.80.33

二月の丘

問題なのはね、
【作中の秀才君がバカっぽい】んだよねー。

秀才の男子っぽさがまるでない。
偏差値55ぐらいの、「日東駒専文系志望の、漫然かつだらだら勉強している、集中力のない女子」にしか見えない。。


がきんちょの同級生の、「他校から見物人来るぐらいだった超美形君で、旧帝大に現役合格した人」とか、
脇目も降らぬ勉強っぷりだったし、
高偏差値な人は、この作中にあるような「無駄でレベル低い思考」は、、、「似つかわしくない」んで、

この原稿に説得力ないし、共感もできない。


地の文、いたずらに面倒っちい言い方を採択して書いているもんで、
【バカっぽさ】が余計に際立ってしまう・・んで、、、

長野まゆみの『ぼくはこうして大人になる』とか『鳩の栖』とか、参照してみるといい・・と思うよ???

2018-02-08 19:38

219.100.86.89

二月の丘

訂正:「脇目も振らぬ」。。

『プレバト』見ながら打ってたもんで〜〜。



「お友達同士で一緒に投稿〜」みたいなんだけど、さー、

高校生って、【普通ーーに書いたら、絶対もっと書けるし、よくなる筈】なんで、、、

どこの高校か知りませんけど、「下手に難解口調で書かず、普通に」書いて〜??


「気取った文書は虚栄心のあらわれ」で、そういうのに走ったら「自分に負けてる」と思って〜〜。

頼みますよ、ホントにもう!

2018-02-08 19:51

219.100.86.89

やまなし

全体的に、淡白な印象を覚えました。
もう少し、起承転結がしっかりとあればいいと思います。

書く前に、メモ書き程度の物でいいので、始まりから終わりを箇条書きで書きだしてみるのもいいかもしれません。

如月の友だち、もしくは理解者のような相手がいるともっと話がふくらむ感じがします。

2018-02-08 19:59

119.224.172.150

ささふら

Yuu様

小説拝読いたしました。浅薄ながら感想を書かせていただきます。
走り続けている人間にとって、ふと足が止まり、耳を澄ます瞬間は必ずあるものです。そのときひょっとしたら人間は人生の分岐点を迎えているのかもしれません。それがただの迷いなのか、疲れなのか、それとも新しい枝道なのか…それがわからないだけでなく、あとから何が正解だったか確かめることもできないところが人生の難しさです。
如月がいつも通りのルーチンをこなしながら深夜に感覚が鋭敏になっている描写からは、しんとして田舎の静けさがよく伝わります。満月や星空がふりまく光が意味ありげに物思いに誘うのは、ドビュッシーもそうであったに違いありません。この特別な時間を過ごした後に、如月が何を見出すのだろうか…と期待したのですが、彼は元の自分に帰っていきましたね。それも感傷的になった自分の感情さえも否定してしまいました。「何も起こらない物語」は我々の終わりなき日常そのものです。しかし、如月の牢獄のような日々に差した一瞬の光が完全に分厚い雲に閉ざされてしまったのは残念でした。作者はひょっとしたら太宰の「トカトントン」のようなニヒリズムを描こうとしたのかもしれませんが、如月がいつかその足を止める予兆のようなものが描かれていれば物語としては印象強いものになったような気がします。
わかりやすい「物語」を排して心の動きを描こうとした意欲は高校生(?)の志として高いものを感じます。次回作も期待しております。

2018-02-09 08:52

115.177.115.102

Yuu

二月の丘さま、重ねてコメントありがとうございます。
作中の秀才がバカっぽい、とのことでしたが……
この如月も、二月の丘さまの言うように、これまでの人生ずっと脇目も降らずに勉強してきた、という人間です。
それが、深夜の静かな空間の中で、ちょっと別な方向に思考が向いた、と。
確かにこれは、勉強という観点だけから見れば無駄な思考でしかないのかもしれませんけれども、思春期の少年ですから、このような思考を巡らせることもあるのではないでしょうか?
勿論、「秀才の男子」というものに抱くイメージというのは人それぞれでしょうから、それがこの物語に共感できなくなっている理由なのであれば、私の描写力不足でした。
あと、私は今作を書くにあたって敢えて難解な書き方を虚栄心から選択したというつもりはなく、ただ単純に書きたかったものの雰囲気がこうだっただけです。
身の丈に合っていないことは承知しています。申し訳ありません。

2018-02-10 23:08

220.220.231.229

Yuu

やまなしさま、コメントありがとうございます。
やはりうまく起承転結がつけられていないですよね……。
おっしゃる通り、主人公の理解者のような人がいた方がよかったのかもしれません。
次回はもっとよい作品が書けるよう頑張ります。

2018-02-10 23:10

220.220.231.229

Yuu

ささふらさま、コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、如月にとってこの瞬間は一つの分かれ目であったのかもしれません。
人生にはやり直す、という選択肢がありませんからね……再出発ならばできるのかもしれませんが。
如月の、このいつもの夜とはすこし違う特別な夜。同じ高校生の私としては、彼にとって、この夜の持つ意味は、たとえいつも通りの自分に戻ったにせよ小さなものではないと信じたいところです。
彼が今後、足を止めて振り返る予兆があれば……確かにそう思います。次回作では、そこのあたりも含めて改善していきたいところです。
読んでくださり、ありがとうございました。また、機会があればよろしくお願いいたします。

2018-02-10 23:18

220.220.231.229

黒井太三郎

なんかこれいいなあ。ドピュッシ―俺も聴きたい
佳作

2018-02-11 21:12

121.109.111.65

Yuu

黒井太三郎さま、コメントありがとうございます。
ドビュッシーは月の光以外にも名曲揃いなのでオススメですよ。

2018-02-12 17:02

27.229.202.35

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