作家でごはん!鍛練場

『ぱしヘロン出す』

ま著

ありがとうございました

 春は病室の日差しのようだった。女のしろい肌には踏み心地がなかった。その日、いつものように昼前に目が覚めた。またね、と言う。
 ぼくは知らない女の、知らない土地の、知らない道にいる。何もすることがない宇宙が、ちょうど無抵抗に午睡していた、ぼくの傍らを小さな子供がひとり歩く、知らない歌をぼんやりと。もぐらさん、うさぎさん、ごりらさん、かめさん……。
 何事もなし。静まり返った地平をカワラバトがスライドしている。違法駐車の自転車群、蛇口の下の半ば濡れた土、ぼくは踏みしだかれて茶色い梅の花のひとつを手に取る沈黙。そしてカワラバトがしろい光のなかに途絶える、途絶えてゆく、途絶えてしまう。それをよく知っている。音のないカミソリだ、あるいは喉に空白がつっかえて、内臓をきつく押し下げているのに血もなにも出ない。持続しているはずの何かが、不意にその足場の拠り所のなさを思う。そんな何事でもない宙吊りを、とうにぼくは知っているはずなのに!
 昨夜の女の化粧は濃かった。揮発性の匂いがした。不慣れなナイトクラブでぼくは出会った。ショップ店員を名乗る女は踊っていた。
「あなたは生活破綻者、みんな踊れる音楽をうまく踊れないんだよ、この糞」
 昨夜ハダカの女に突き刺して溶けたと思った自己は、ただ卑しい形に組み変わっただけだ。右下の奥歯は左下の前歯に、C3の虫歯の痛みだけが、かろうじてぼくには分かる。女、思えば、お前だってそうだろう、青じろく静かな朝方、お前、血が出るほどには蕁麻疹を掻きむしっていたじゃないか。
 ある者の言葉。
「なぁ君たち教えてくれよ、君らの生活の喜びとかそういうの、大地に立つなんて誰でもできる、俺でもできる、なぁ根の張り方まで逐一教えてくれよ、なぁ。そしたら色々と俺もやり過ごせて、君にも恩返し、してやれるんだがなぁ」
 流れ出ふすま店を知っている。今はもうない。流れ出ふすま店は、昔ぼくが住んでいた土地にあった、流れ出さんのふすま屋さんだ。そこの赤錆びた看板を見る都度、ぼくは木枠から飛び出て、空を流れるふすまを思った。そしてふすまの無くなった家からは、父母も、長女も次男も末っ子もまた散り散りに空を流れ始める。
 流れ出ふすま店の長女とセックスしたことがある。長女はぬか床に似た、だらしのない肉の恥ずかしがり屋だった。遮られ、開く、遮られ、開く、そのようなセックスをした。単調な日々の退屈さを長女はよく語った、家がないなら住んでもいいよ、ありがとう、そうする、帰りに洗剤買ってきて、ダウニーのやつ、だらしない肉が開く、夕飯のじゃが芋の大きなカレー、みかん色の蛍光灯と寝室、なんで急に出ていくの、最低じゃん、ごめんね、無理だわ、向いてなかったっぽい、玄関のドアを閉める。
 死ね、と聞こえる、ぼくはその言葉を反芻しているうちに、豚みてぇな面して、ケチ臭く退屈に生きている人間が、ちくちくと攻撃してくるのに苛立ちを覚えた。無理なものはどうやっても今は無理なのだ、てめぇがすぐ死ねよ糞ゴミ共、今落ちぶれたぼくは尚も生きる、尚も破綻する。腐った死骸から湧く蛆虫みたいに、うじゃうじゃして、君とは別に遠回しに……。

ぱしヘロン出す ©ま

執筆の狙い

ありがとうございました

61.44.65.20

感想と意見

偏差値45

普通に意味不明。

2018-02-07 19:42

219.182.80.182

偏差値45さん感想ありがとうございます。どこが意味不明でしたか?

2018-02-07 20:36

61.44.65.20

胃酸

 まるで詩のようですね。
 比喩のし過ぎが心地好い、感じ。

2018-02-11 14:04

58.158.78.120

黒井太三郎

欲求不満の性欲の詩だなあと思いました

2018-02-11 21:16

121.109.111.65

胃酸さん
詩を描いたつもりじゃないんですが、それにしては比喩が多かったですね。節度がほしいです

2018-02-12 12:56

220.144.43.3

黒井太三郎さん
欲求不満と言われるのは嬉しいです。もっと汚くありたいものです。

2018-02-12 12:58

220.144.43.3

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