作家でごはん!鍛練場

『My Dear Jerk』

パラダイス・シアター(仮)著

原稿用紙50枚です。
中途半端に長い話を読んでくださって、ありがとうございました。

執筆上の挑戦は2つです。

・二人称のスタイルに挑戦。
・ミステリー(的なもの)に挑戦。

つまり、この話は二人称「お前は……」で書きました。
一人称「ぼく(私・俺)は……」ではなく、三人称「〇〇(主人公の名前)は……」ではありません。
読みにくいとは思いますが、書いている私は、とっても面白かったです。

また、ご勘弁願いたいですが。
この話に出てくる動物の名前が、昭和の大スターの歌手の人と同じ名前になっていて、主人公がその歌手の「ファンだ」と言っていまして、だとすると年齢設定として、若干ひずみが出てしまうのですが。
まあ、昔のスターが好きな人ってのもいるよな、くらいで大目に見てください。
尚、その名前は「ジャッジする者」という意味でつけました。

北関東の県境に近い国道から山あいに向かって入った道を、さらに枝分かれした山道は狭く曲がりくねっていて、とても追い越せるような道幅などなく、前を走る軽トラックのテールランプが、この時のお前にはだんだん、とぼけたような人間の目に見えてくるのだった。
 ――遅せえな、少しは後ろの車のことも考えろよ――
 お前はくわえ煙草を何度も吹かして、サングラスのフレームを指で押し上げたりしながら、ぶつぶつと前を走る軽トラを罵って、後ろにべったりとくっついてあおり続けていた。
 お前の車は左ハンドルのため、狭い道では追い越すのが難しいのだ。
 緊迫感のかけらもないテール・トゥ・ノーズが、いつ終わるともなく続いていた。
 お前の乗っている車は、イタリア製の真っ赤なスポーツタイプのオープンカーだった。
 鏡のように磨いたボディーやフロントガラスには、五月晴れに萌えたつような新緑が映し出され、まるで早回し映像の雲のようにテールに向かって流れて行く。バックミラーには、どこか恍惚としたお前の顔が映っている。
 道の左側は崖のような急斜面の山で右は浅い谷になっていて谷底には小川が流れ小川の向こう側の岩壁には、あちこちに山吹が咲き、藤の花が下がっていた。
 道にはガードレールすらなく、人工物といえば時々思い出したように出てくる「たぬきに注意」の看板くらいで、その間の抜けたたぬきのイラストがお前を余計に憂鬱にさせた。
 ――この世の果てにでも行けってのか――
 カーナビの表示では「目的地まであと三キロ」と出ている。
 もともと気の進まないドライブだった。お前は出たくもない葬式に出るために、こんな山奥まではるばるやってきたのだ。
 この道をあと三キロ入った山奥に、小さな温泉の集落がある。旅館が三軒あるだけの本当に小さな里村だったが、その中の「せいざん荘」という旅館の主だった故人、青山君江がお前の両親の大学時代の同級生だったとかで、今回の急な訃報に、この頃のお前の父親戸田康雄は妻と一緒に仕事でヨーロッパに出張中だったため、「香典だけでも届けて」と妻でありお前の母でもある妙子がお前に頼んだのだった。
 電話に出たのは妙子だった。
 普段はお互い口もきかないような仮面夫婦のくせに、こんな時に限って何故か一緒に長期の出張に出かけたのだった。
電話で妙子は「そう、君江ちゃんがね……」と言ったきり後はほとんどなにも言わなかった。同級生の若過ぎる死に言葉も出なかったのだろう。
 ――こんなことなら報せるんじゃなかった――
 君江の死を両親に報せたのはお前だった。
 お前は「引田」と名乗る男から電話を受け君江の死を報らされたのだ。
 声の感じからかなりの年配のように思われるその男は、聞き取れぬほど小さな声で、ぼそぼそと自己紹介のようなことを語っていたが、まったく興味のなかったお前は名前と用件以外ほとんど聞いていなかった。
 やがてカーチェイスごっこにも飽きてきたお前はラジオをいじくりはじめた。もともと落ち着きのない性分なのだ。
 ラジオからは流行のアイドルソングが流れ出し、お前はその曲に乗って振り付けのダンスを踊り始めるのだった。
 この時、お前は二十七歳だ。
 関東の人間でも名前を知らないような東京の私大に二浪して入って、その上二年も留年してやっと卒業し、一年前に父親の経営する小さな貿易会社に入ったのだ。
同年代のサラリーマンよりずっと高給を払ってもらっている手前、故人の顔も思い出せないような葬式でも代理として行かないわけにはいかなかったのだ。
 いやいや。本当はそうじゃない、お前は決して断りきれなかったからきたわけじゃない。この葬式にはお前にとって、遠路はるばるやってくるだけの余禄も、ないわけじゃなかったのだ。
 というのも、お前はせいざん荘に行くのは初めてではなかった。これより二十年も前のことになるが、子供のころお前は父親と一緒に、その旅館に一週間ほど泊まったことがあるのだ。
 ――そのときは確か健三さんとかいう旦那の方の葬式だったな――
 道の両脇に迫っていた低い山並みが突然途切れ、視界が田園風景になって開けると、道幅は二車線に広がった。
 お前は口の端に笑みを浮かべながらアクセルに乗せた右足に少しだけ力を入れ、じわりと踏み込んだ。真っ赤な流線型のボディーが一匹の猫科の野獣のように加速して、いとも易々と軽トラックを追い越し、お前は「フン」と鼻先でアンニュイに微笑んだ。
 ――獅子は兎ごときに全力なんか尽くさねえんだよ――
 お前の唇の端からこぼれた真っ白な歯が、きらりと光った。
 雲の流れがようやく速くなった。
 小さな山の裾野を回りこんで橋を渡ると、山の急斜面を背にした三軒の旅館が見えてきて、それはお前が子供のころ見た風景と、全く変わっていなかった。
 せいざん荘の玄関の前にはすでに、喪服を着た老人たちが十人ほど所在なげにうろうろしていて、みな一斉にお前の車を見た。
 お前は注目された嬉しさと、その中に青山理恵子がいるのではないかという期待から、まるで花魁道中の太夫のようにすました顔で車を徐行させながら、サングラスの奥の濁った目だけを動かして彼女の姿を探していた。
 だがそこに群れているのはどれも真っ黒に日に焼けた田舎臭い顔ばかりで、お前はがっかりしながら駐車場に車を滑り込ませた。
すると先ほどお前が追い越した軽トラックが遅れてやってきて駐車場に停まり、中から神主の装束を着た白髪の老人が降りてせいざん荘の玄関に向かって歩いて行った。
――遅えと思ったらやっぱじじいか――
お前は一瞥しただけで、すぐにまた理恵子を探すことに執心した。
 青山理恵子。お前と同い年の青山君江の一人娘。この理恵子こそ今日のお前の、たった一つの「余禄」なのだった。
 記憶力の悪いお前だが、色白で大きな目をした美人だったことくらいは憶えている。
 性格はおとなしく純朴で、父親を喪った寂しさもあったのだろうが、同い年のくせに妹のようにお前の後をついて歩いたものだった。
 ――そうだ、理恵子は今日喪主だったはずだな、こんな時間に外にいるはずないか――
 お前は気を取り直すと、玄関へと急いだ。
 「せっかく弔問においでくださったのに、本当に申し訳ございませんが」
 フロントの女は言葉こそ慇懃だったが、お前の顔も見ずに言った。
 「え、何だって」
 お前もお前で、理恵子の姿を捜して奥の方ばかり気をとられていて、女の説明など全く聞いていなかった。
 「ですから、こちらは満室ですので、隣の新館にお泊りいただきます」
 「ああそう、はいはい」
 お前はそれでも、まだ奥の方を気にしながら空返事をした。
 ――憶えてるぞ、新館は風呂場から遠いってだけで、旧館よりはずっと新しいから、返っていいや――
 新館は君江の夫で、このせいざん荘に婿として入った青山健三の代で建てた二階建ての離れだった。
 健三もお前の両親とは大学の同級生で、お前の両親はお前が産まれる前は頻繁にこの旅館に泊まりにきていたと聞いたことがあった。
 「新館といえば、地下室があったよね」
 お前は面白半分にそうかまをかけてみたが、フロントの女は不思議そうな顔をして首をかしげ、
 「さあ、わたしどもは存じ上げませんが」
 とそっけなく応えただけだった。
 お前も「ああそう、記憶違いかな」といってそれ以上は追及しなかった。
 ――まあ、この旅館にとってはあんまり人に知られたくない黒歴史だろうからな――
 青山健三という男は変わり者で、熱烈な爬虫類マニアで、自分の代で建てた新館の地下室に、イグアナやワニを飼っていたのだ。
 死に方も変わっていて、自分で飼っていたワニに咬まれたのだという。
 ――触らぬ神に祟りなしだ、どうだっていいさ――
 お前は和室の座敷で喪服に着替えながら、今度は理恵子のことを考えていた。
 ――もう結婚しちまってるかな、最悪なのはこの地元に旦那とか彼氏がいて一緒に葬式に出てたりしたら、まあ諦めるしかないんだろうけど、せめて今日明日にかけて回りに男がいなきゃそれでいいんだけどな――
 お前は鏡が好きだ。喪服に着替えた自分を姿見に映して、念入りにヘアスタイルを整え、またじっと鏡に見入っていた。
 ――とりあえず一晩だけでも彼女を連れ出せりゃ、いや、この部屋にでも連れ込めりゃそれでいいんだし、流れによっては俺だって二三日余計に泊まったっていいんだし――
 お前は一時間も鏡に向かって、横を向いたり前髪を気にしたりして、ようやく隣の本館に向かうのだった。
 本館ではすでに玄関の脇に受付が出ていて、香典を出すと、一階の一番奥の部屋に行くように言われた。
 部屋の前では喪服を着た田舎の老人たちが廊下まで行列になっていた。
 宿泊用の客室の中でも広い部屋を選んだらしいその部屋の入り口では、先ほどの軽トラックの神主が紙片のついた榊の枝を弔問客に渡していた。
 神道の葬式で仏式の場合の焼香にあたる玉串奉奠というやつだ。
 部屋は奥の正面に棺が置かれて、その上に故人の大きめの遺影が掛けられてあった。
 ――ああ憶えてるぞ、やっぱ理恵子の母親だけあって美人だな――
 お前は不謹慎にも故人の遺影を見てニヤつきながら、今の理恵子もさぞかし綺麗になっているだろうと、喪主の席に目を移し、そこに座って泣きじゃくっている若い女を見て仰天した。
 ――誰だこいつ、喪主は理恵子じゃないのか――
 顔中をハンカチで覆って泣いているため、顔はよく見えなかったが、女の年齢はどう見ても二十歳そこそこで、明らかに理恵子ではなかった。
 お前は狐につままれたような気分になったため、奉奠の順番を待っている間、更に無遠慮な視線をめぐらせて理恵子の姿を探したが、理恵子どころか年齢的にそれらしい女性の姿すら見つけることはできなかった。
 喪主の女だけが飛びぬけて若く、それ以外はみな高齢者ばかりなのだ。
 ――いったいどうなってんだ――
 奉奠を済ませて部屋から出ると、お清めの支度ができていますからと、宴会用の大広間に通された。
   (二)
 お前は自分の部屋に戻り、やっとの思いで喪服を脱ぐと、畳の上に大の字に転がって、仰向けに寝たままたばこに火をつけた。
 二度ほど大きく吸い込むと、天上がぐるぐる回り出した。
 ――なんで俺が飲まされるんだ――
 狭い山村社会での顔見知りばかりのお清めは、最初から妙な雰囲気だった。
 大広間に入るなり、お前はとにかく目立った、痩せ型で色白で背が高く、喪服とはいえ有名なブランドの高級品を見に纏った芸能人のようなお前に、田舎の老人たちの視線が一斉に注がれたのは当然だった。
 「あんた、どちらさんだっけかね」
 老人たちは、日本のことをよく知らない外国人が撮った日本映画に出てくる日本人のような気持ちの悪い笑顔で、入れ替わり立ち代わりお前に酒を注いでいったのだ。
 しかも理恵子はそこにも顔を出さず、あの喪主の女は相変わらず泣きじゃくっていて、よそ者のお前には近寄ることもできなくて、その上お前は理恵子のことや喪主の女のことなど聞くタイミングすらつかめないほど次々と酒を注がれて、十分ほどでぐでんぐでんに酔わされてしまったのだった。
 お前はよろよろと起き上がり、小さな冷蔵庫からコーラの瓶を出して、大きく息を吸ってからラッパ飲みしてうな垂れた。
 ――いくらなんでも、あの喪主の姉ちゃんを誘い出すわけにもいかねえだろう――
 コーラはお前の胃の中で膨張し、逆流し、お前は慌てて洗面台に駆け寄り顔を近づけるとローマ風呂のライオンの彫刻のように甘い異臭を放つ液体で口から放物線を描くのだった。お前はすっかり打ちひしがれていた。
 理恵子はもう、この村に住んでいないのだろう。母親の葬式に出てこないくらいだから、外国にでも行ってしまったのだろうか。
 外国に支社を持っているような、大きな会社に勤めている男とでも結婚したか。
 ――あれだけの美人だからな――
 顔を洗ってタオルで拭きながら窓の外を見ると、外はまだ明るく、やっと日が傾きかけたところだった。
 胃の中の酒をすっかり吐き出して楽になったお前は、少し外を歩いてみることにした。
 ――そういえば青山君江って人は「あの沼」に落ちて亡くなったって言ってたな――
 それはお前がお清めで小耳にはさんだ、たった一つの情報だった。
 お前はその沼のことは良く憶えていた。
この旅館の裏の山を少し入ったところに沼があって、そこはお前が子供のころ、毎日理恵子と遊びに行っていた沼だったのだ。
思い出すとさすがにお前も少しは懐かしくなってきた。
――まさか幽霊が出るなんてこともないだろうし、出たら話のネタにして後々キャバクラの姉ちゃんと盛り上がれそうだしな――
お前の行動には必ず不埒な動機がはさみ込まれるわけだが、とにかくお前は行ってみることにした。
 新館には本館とは別の玄関があった。
 本館の玄関からはお清めの酒で猿のように真っ赤になった喪服の老人たちが、すっかりいい気分で三々五々帰りはじめていたが、お前はその行列に背を向けて、裏の山に向かってふらふらと歩き出した。
 傾斜のほとんどない、ゆるやかな山道を十分ほど歩くとすぐに沼の畔に出た。沼の周りは遊歩道になっていて「歩いて二十分で一周できます」と、立て札に書いてある。
 子供のころのお前にはもっと大きな沼に見えたはずだったが、子供の足で毎日沼の反対側の岸辺にある「秘密基地」まで、理恵子と一緒に歩いて通っていたのだから、それほど広いはずもないのだ。
 お前はまだ酔いのさめ切らない頭をふらふらさせながら、ぼんやりと沼の反対側に向かって歩いていた。息からは相変わらず酒の臭いがしたが、目が回るような気持ちの悪さはすでになくなっていた。
 死亡事故があったばかりだったが、警官どころか人影はまったく見当たらず、沼を囲む森からはひっきりなしにカッコウや鶯の声が聞こえてくる。
 あのころ未舗装だった遊歩道はタイル敷きになっていて、そのタイルもすでに古ぼけていて、所々ひび割れたり欠けて浮いたりしている。
 その欠けて突き出たタイルの欠片につまづいてふらつき、その瞬間、お前はまた目が回ってきたように目の前の景色が歪んで回り出し、カッコウや鶯や、山鳩や雉の鳴き声が不吉な夢の中のように頭の中で木霊したその時だった。
 「うわっ」
 お前は驚いて、まるで雷に撃たれたように、その場に立ちつくした。
 茂みの陰に隠れてそれまで死角になっていた沼の岸辺に、白いワンピースを着た女がしゃがんでいたのだ。
 ――ま、まさか本当に幽霊じゃ……――
 遊歩道の脇の沼の岸にできた狭い砂浜で、太った体を思い切り小さく畳んでしゃがんでうつむいている女の広い背中が、お前の声に反応してピクリと動いたが、しかしすぐには振り返らず、ハンカチで目のあたりを何度かおさえ、ゆっくりと立ち上がった。
 ――どうやら幽霊じゃあなさそうだ、それにしても太ってるな、まるで鏡餅だな――
女は顔をハンカチで隠しながらお前の横を小走りに通り抜けようとして、すれちがいざまほんの一瞬だけお前と目が合った。
 すると今度は女の方が「あっ」と驚いて立ち止まった。
 「戸田さん」
 お前は驚いて一歩後ろにさがった。見知らぬ女から突然自分の名前を呼ばれたせいもあるが、自分と女の顔が近づき過ぎていたためでもあった。
 「テッちゃん」
 鏡餅は一歩踏み込んでもう一度お前を呼んだ。お前の名前は戸田哲夫だった。
 「どちらさんでしたっけ」
 彼女のつま先から頭のてっぺんまでながめまわすお前の視線は本当に無礼だった。
 それはまるでかびた本物の鏡餅の、食えそうな場所を品定めするような目つきだった。
 女は困ったような顔でうつむいてしまったが、お前の方も困っていた。
 お前と同年齢くらいにも見えるが、顔立ちや髪型が若いというより幼い感じに見え、その化粧気のない顔や流行とはおよそかけ離れた髪型から、年齢並みに世間なれした大人の女の臭いがしてこないのだ。
 お前はしばらくためらったが、とにかく一応訊いてみることにした。
今この集落でお前を「テッちゃん」と呼ぶ女はたった一人だけなのだ。
「もしかして、理恵子さん」
女は何も応えなかったが、その、どこか申し訳なさそうな微笑みがお前を絶望させた。
「ちょ、ちょっとびっくりだったな。葬式にも出てなかったし、もうこの村には住んでないのかと思ってた」
――こんなに変わるものなのか……――
今の理恵子も確かに色白だし、大きな瞳と厚くて赤い唇は、痩せたら美人といえなくもない。しかし二十年という歳月はなんと残酷なんだろう、とお前は身勝手に独りあきれた。
理恵子は沼の水辺をながめ、
「わたし今病気なの」
とつぶやいて振り返り、上目づかいにお前の顔を覗き込みながら、
「それで今日は出られなかったの」
と一歩お前に近づいた。
お前は一歩退がりながら、「大変だったね」とか「ご愁傷さま」などと通りいっぺんのお悔やみを述べた。
「大丈夫なのかい、こんな所にいないで、家で休んでた方がいいんじゃないか」
お前は理恵子の病状や、先ほどの淋しげな後姿の理由も全く興味がなく、ただ単にこんな所で長い話になるのが面倒で、なんとか理恵子を家に帰したくてそう訊いてみた。
「大丈夫、いっぺんに大勢の人と会ってお話ができないっていう程度の病気だから」
理恵子はまた一歩前に出て言った。
お前がさりげなく理恵子と距離を置こうとすると、理恵子が距離を詰めてくる。そんなことをしているうちに、二人は恋人同士が見つめ合いながらどちらからともなく歩き出すような形になっていた。
「それにしても変わるもんだな女の子って、最初誰だか判らなかったよ」
「変わったって、どう変わったかな」
理恵子は心配そうな目でお前の顔を覗き込んだ。お前はちょっとしまったと思い、あれこれと言葉を探した。
「そ、そうだねえ、変わったというか先ず、すごく若く見えたよ、俺、最初君の顔見た時ずっと年下だと思ったくらいさ」
理恵子はまた、少し困ったような笑顔になった。
「そう、わたしあんまり家から外に出てないから、幼く見えるかもね」
「いやいや、幼くは見えないよ、思ったとおり美人の女性に成長してるし、そうか、外に出ないで旅館の仕事を手伝ってたのか、そうだよね、お母さんも……その、お父さんだって君に跡を継いで欲しかっただろうしね」
「お父さん……」
お前が話題を変えようとすると、理恵子はそうつぶやいて押し黙ってしまった。
――めんどくせえな――
「あ、ご、ごめん、無神経なこといって、俺まだお清めの酒で酔ってるみたいだな」
理恵子は「ううん、いいのよ」と首を振ってから、「でもね」とお前を真っ直ぐに見た。
「わたし、なんだかテッちゃんがきてくれるんじゃないかって思ってたの、わたしの予感って昔からすごく当たるんだけど、でもびっくりじゃない」
と悪戯っぽく笑った。
――いや、それはまずいぞ――
「うちの親は二人とも仕事で外国に行っててさ、今日は代理できたんだよ」
お前は襟首から背中に冷水を流し込まれたような気分で、理恵子の反応を観察した。
――こいつは今両親とも喪って、天涯孤独になって困ってるはずだ、万が一にも婿にきてくれなんて言われちゃかなわん……いや、待てよ、一人血縁者らしいのがいるじゃないか――
「そ、そういえば、葬式で喪主をやってた若い女の子は誰なんだい」
お前がそう訊くと、理恵子は返って驚いた顔で、
「誰って、妹の早苗だけど」
と首をかしげてから「ああ」と掌を合わせた。
「テッちゃん知らないよね、早苗はテッちゃんがここに泊まった次の年に産まれたんだから」
お前は万歳でもしそうなほどの勢いで「そうか、妹さんか」と叫んでいた。
――よかった、なら旅館の跡継ぎはいるわけだ――
ちょうどそこへ白樺の林の奥にベンチが見えてきて、お前は抜け目なく話題を変えた。
「もしかしてあそこ、昔貸しボート小屋があった場所じゃないか」
お前がはしゃいだ振りをして指さすと、理恵子も無邪気な笑顔をお前に向けた。
「そうそう、よく憶えてたね」
お前たち二人は、傍目からはどう見ても仲のいい恋人同士のようだった。
お前が子供のころ、ここを訪れた時にボート小屋だった建物は取り壊されてベンチになっていて、桟橋は完全には撤去されなかったのか、水の中から朽ちた柱の頭だけが波に洗われて突き出ていた。
「あのころでさえ、貸しボートはやってなかったもんな」
その誰も使っていなかったボート小屋をお前と理恵子は秘密基地にしていたのだった。
「秘密基地はベンチになっちまったか」
お前はいろんな意味で疲れ果てていたので、ベンチにどっかりと座り込んだ。
「ねえ、テッちゃん憶えてる」
理恵子はそんなお前の横におずおずと腰かけ、桟橋の柱を見ながら言った。
「ジュリーのこと」
「いや、な、なんだっけ、それ」
お前は何のことかわからず目を丸くした。
「ワニのジュリーよ、やっぱ忘れちゃったんだ」
「えっ」
完全に不意打ちだった。それはお前自身ですら忘れていたお前の暗黒の歴史だった。
青山健三という男には変わったところがあって、自宅の旅館の地下室にワニを飼うほどの熱狂的な爬虫類マニアで、お前は子供のころ、あのせいざん荘に泊まった最初の日、理恵子に連れられて一度だけその地下室のプールの部屋に入ったことがあった。
そこまではお前も憶えていた。
――そうだ、思い出した、あの日俺はワニの卵を……――
盗み出したのだった。
もっともそれはお前の意思ではなかった。
「あの子たち、お父さんを咬み殺したから、処分されちゃうのよ、あの子たち全然悪くないのに」
あの日、空のプールを覗き込みながら理恵子は悲しげな目でそうつぶやいた。
プールにはメガネカイマンという小型のワニがつがいで飼われていたらしいが、プールはすでに水も抜かれ綺麗に掃除されていた。
ちょっとした大浴槽ほどの大きさのプールは頑丈そうな金網が蓋のように表面を覆っていて、その一部が扉のように開閉できるようになっており、健三がその鍵を閉め忘れたことと、ワニが産卵直後で気が立っていたのが事故の原因という話だった。
「ちょっときて」
理恵子に手を引かれて部屋の隅に置いてあるタライのところに行ってみると、その中には細い木の枝を鳥の巣のように編んだものの中に、たくさんの卵が入っていた。
「後で水族館の人が取りにくるんだけど、可愛そうだから逃がしてあげようよ」
「だめだよ、タイホされちゃうよ」
「お願い、一個だけでも、お父さんはあの子たちが大好きだったの、みんな殺されちゃうなんていやよ」
卵は鶏の卵くらいの大きさで、少し細長い形をしていた。
お前はリュックにその中の一個を入れ、ちょうど今いる桟橋の下に投げ入れたのだった。
「ねえ、なんて名前つけようか」
理恵子がお前の目をじっと見据えて訊いた。
「名前って」
「ほら、この子が孵ったら」
「か、孵るかな、こんな冷たそうな沼で」
「孵るわ、この沼の底は温泉が湧き出てて、意外と水は温かいって、村の人がいってたもん」
「じゃあ、ジュリーなんてどうかな、俺歌手のジュリーのファンなんだよね」
「ジュリー……かっこいい」
それから毎日、お前と理恵子はこの秘密基地に卵を見に通ったのだった。
それは二人だけの秘密の冒険のようにお前を興奮させたものだった。
――いやいや、ワニの卵なんて欲しがるやつなんかいないだろうし、理恵子だって共犯なんだし、だいたい二十年も経ってんだからもう時効だろ――
お前は小さく首を振った。
「そのジュリーがね」
話しかけられて、我に返って理恵子を見ると、彼女は相変わらず桟橋の址を見ていた。
「ちゃんと孵ったのよ」
「ば、ばかな」
「大きくなったわあ」
「いや、だって餌とか……」
「そして、ちゃんと憶えてたの」
「なにを」
「自分の親と、わたしのお父さんの仇をとるって」
「なんのことかよく解かんねえよ」
「ジュリーがお母さんを連れて行ってくれたのよ」
理恵子の目は、まるで楽しい思い出でも語るかのように安らかな幸福感を湛えていた。
「やめろ」
お前は悲鳴をあげるように叫んで立ち上がった。不思議そうな顔で見上げる理恵子の目は、お前を見ているようで見ていなかった。
――この女の目、狂ってる――
「お母さんって、死んだばっかりの君江さんのこと言ってんのか、いくら自分の親だからって、不謹慎なこと言うなよ」
「テッちゃんには知っておいてもらいたいのよ、わたしのお母さんってほんとは……」
「うるさい、黙れ、俺には関係ねえ」
お前は逃げるように旅館に戻るのだった。
  (三)
――病気ってそういう病気だったのか――
お前は独り、部屋で飲みなおしていたが、今度はいくら飲んでも酔わなかった。
――とにかく俺が卵を盗んだのは時効なんだし、君江さんがどうとかなんて俺には関係ないだろ、明日は朝一番で帰ろう、ほんとにひどい目にあったぜ――
すると入り口の外から「失礼します」と声が聞こえ、お前はビクッと驚いて入り口を見た。
「今日ははるばるお運びいただきまして、ありがとうございました」
そう三つ指をついて顔を上げたのは早苗だった。理恵子の話では、歳はまだ二十歳にもなっていないはずだったが、昼間の葬式で見かけた時の印象よりはずっとしっかりしていた。
「故人が存命中はお世話になったそうで」
「え、いや、俺はただの代理ですから」
――よく見ると利口そうな可愛い顔してるんだな――
病気なのは理恵子だけじゃない、お前も充分病気なのだ。
――まさかな、今日葬式したばっかの喪主に遊んでくれとも言えないか――
「まあ、代理といっても俺も二十年前にこの旅館に泊めてもらって、お姉さんともずいぶん遊んでもらったんだけどね、お母さんのことはお気の毒だったけど、理恵子さんがお元気そうだったのはなによりだよ」
「えっ」
早苗の大人びた三白眼の目が大きく見開かれると、その顔はいっそう色っぽく見えた。
「理恵子……ですか」
「そう、理恵子さん、すっかり大人になっちゃって」
早苗はお前のことをまるで病人を心配するような目で見ながら言った。
「あの、姉でしたら亡くなっていますが」
「ええっ」
「もう十年以上前に、高校生の時に」
「いや、だって今日の午後、葬式の後沼の回りを散歩してたら……確かに自分で理恵子だって名乗ったぞ、白いワンピースを着た女の人が」
お前の説明の「白いワンピース」という言葉で早苗は理解したように何度も小さく頷き、今度はあれこれと言葉を探しながら、
「それはおそらく芳枝さんという人だと思います」
とお前の目を覗き込んだ。
「べ、別人だったのか」
――まあ、とにかく気のふれた幽霊とかじゃなくて良かったか――
「でも、なんで理恵子さんだなんてうそを言ったんだろうな」
早苗は「さあ」と首をかしげた。
「病気とはうかがっておりますが、でも、人を騙したり他人が嫌がることをするような人ではないはずなんですが」
早苗はそれ以上話そうとせず、お前もワニだの卵だのの話題になるのが嫌だったので、そこで話を切りあげるしかなかった。
 翌日の朝、お前はまさかあの芳枝という女が同じ場所にいるはずはないだろうとは思いながらも、念のために沼のボート乗り場に行ってみた。
 「待ってたの」
 驚いたことに芳枝は昨日と同じベンチに座って、お前のことを待っていた。
 「お前、本当は芳枝って名前なんだってな、理恵子さんになりすまして何者なんだ一体」
 芳枝は自分の正体がお前に知れることは予め覚悟していたようだったが、お前が問い詰めても「ごめんなさい」と繰り返すだけだった。
 「ごめんなさいじゃ解かんねえよ、よくもまあ亡くなった理恵子さんの名前なんか騙りやがって」
 「わたし理恵子の姉なんです」
 「でたらめをいうな、二十年前のあの旅館にお前なんかいなかったぞ」
 「そ、それは、その、ですから……」
 芳枝は焦れば焦るほど視点が定まらなくなっていきとうとう泣き出してしまった。
 もともと論理的に物事を伝える能力があまり高くないことくらい、いくらお前でも気づきそうなものだが、この時はお前も冷静さを欠いていたのだ。
 「お前の目的はなんなんだ」
 「ですから、ジュリーが……」
 「なにがジュリーだ」
 お前は足下の石をいくつか拾って、沼に向かって思い切り投げ込んだ。
 「こんな沼のどこにそんな化け物がいるってんだ」
 芳枝は悲しげな悲鳴をあげて、お前にすがり付いてきた。
 「やめてください、ジュリーはわたしも呼んでるの、だからジュリーのところに行く前に、話を聞いてください」
 「なにすんだ、離せこのデブ」
 突然体を密着されて慌てたお前は、反射的に芳枝を突き飛ばしていた。
 気がつくと芳枝は「きゃあっ」と悲鳴をあげて、ゴム鞠のように転がり「痛い」と膝を抱えて体を折り曲げていた。
 ――しまった、怪我をさせたか――
 芳枝の、そのみじめな姿にさすがにお前も憐れみを感じたが、反面怪我などされてこれ以上面倒ごとに巻き込まれるのも煩わしく感じられ、おまえはさっさと背中を向けて歩き出していた。
   (四)
 それから何日か過ぎたころ、お前の家にかかってきた一本の電話がお前を驚かせた。
 かけてきたのは早苗だった。
 「芳枝さんが亡くなったんです」
 早苗はそう切り出した。
 「なんだって」
 「あなたが帰った翌日に、沼に落ちて」
 「いや、だって、俺に連絡されても、俺は関係ないだろう」
 お前は愕然としながらもそう突っぱねた。
 「はい、警察も事故だと言っていました」
 「じゃあなんで」
 「そのこととは関係なく……いえ、まったく関係ないわけじゃないんですけど、あなたのお父さまとお会いしたくて」
 「いや、あいにく親父は外国に行ったきりなんだけど」
 「だったらあなたでもいいんですが」
 早苗は三日後に上京してくるのだが、当面その日しか都合がつかないのだと言った。
 「電話じゃだめなのかい」
 「かなり込み入ったお話なので」
 お前はわけが解らず気味が悪かったが、芳枝についての諸々の不可解な点に対する好奇心もあり、またいつもの助平根性もあって、結局どこか嬉々としながら待ち合わせ場所を決めてしまうのだった。
 
 梅雨にはまだ気の早い雨が降っていた。
 待ち合わせ場所はお前の家からそう遠くない駅の前だった。お前は早苗と落ち合うと、近くの喫茶店を選んで入った。
 「親父に話ってなんだい」
 お前は店に入るなり火をつけたたばこの煙を吐きながらそう訊いた。
 早苗は前に会った時よりやつれた感じになっていて、伏せた目を落ち着きなく泳がせ、
 「その、あんまり変な話なんで、わたしもなにから話せばいいのかわからなくて」
 とため息を吐いた。
 「だったら先に俺の方から訊きたいことがあるんだけど、例えばあの芳枝って人が初対面の俺の顔を一目見て俺だって判ったこととか、君は知ってるのかい」
 「芳枝さんは、あなたが子供のころ旅館に泊まっていた時に、遠くからあなたのことを見ていたみたいなんですよ、それも何度も」
 早苗はバッグからカラフルな装丁の分厚いノートを一冊出してテーブルに置いた。
 「これは芳枝さんの最近の日記なんですが、芳枝さんは二十年前に初めてあなたを見た時からずっとあなたのことが好きだったみたいなんです、人見知りの芳枝さんが理恵子姉さんと仲良くし出したのも、最初はあなたに会いたかったからみたいなんです、姉と仲良くしてれば会えるんじゃないかって」
お前は複雑な気分だったが、日記を手に取ってみる気にはなれなかった。
 「それで二十年後の俺の顔までわかるって、そんなばかな」
 「病気になる前の芳枝さんは気味が悪いくらいいろんなことが良く解る人だったみたいです」
 そう言って日記を指さした。
 「芳枝さんの葬式の後で引田さんという村の神主さんが、この日記をわたしに見せてくれて、知っていることを教えてくれたんです、もういいだろう、って」
 「引田」
 その名前はお前にも覚えがあった。
――引田って最初に俺に電話で報せてきたあいつか。あの神主の爺さんだったのか――
「芳枝さんは引田さんの家で育てられて、巫女さんをやっていたから、わたしはずっと引田さんのお孫さんだとばかり思っていたんですが、その引田さんから聞いて私も初めて知ったんです、芳枝さんが、わたしの姉だったことを」
 「じゃあ、理恵子さんの姉だと言ってたのは本当だったのか、でも、君が知らなかったって、なんでまた」
 「あの村の人たちはみんなお互いに都合の悪いことは例え知ってても他人に話さないんです、それがせまい村で生きていく知恵なんでしょうね」
 「そういえばあの葬式の時も、さっさと俺を酔わせて余計な質問をさせないみたいな雰囲気だったもんな」
 「うちの両親は大学生のころから付き合っていたんですが、母が最初の姉、芳枝さんを身ごもったのをきっかけに二人とも大学を辞めて、父があの旅館の婿に入ったんです」
 「まあ、今の時代だったらよくありそうな話だけど、当時としては、その、進んでたんだね、いわゆる出来ちゃった婚か」
 お前が余計なことを言うと、早苗はちょっと恥ずかしそうに笑ったが、少しは気持ちが軽くなった様子だった。
 「旅館にはあなたのご両親もよく遊びにきて泊まっていたそうです、四人は大学時代の仲良しグループだったみたいで、でも、仲が良過ぎるというか、その、父が芳枝さんのことを本当に自分の娘か疑うようになってしまったんだそうです、あなたのお父さんの子じゃないかって」
青山健三という男は心が優しく内向的で気の弱い性格だったようだが、その反面このての話には一時ひどく神経質になり、君江に隠れて芳枝の血液検査までやったらしい。
 血液型は健三がA型で君江がABで芳枝がO型だった。血液の遺伝というのはごく稀に例外もあるため絶対にO型が産まれないわけではないのだが、検査をしたという事実そのものが君江に感づかれてしまうと、君江は自暴自棄になり突然引田のところに、まだ物心がつかないくらいの芳枝を「預かってくれ」と連れてきたらしい。
 「つまり君の親父さんは現場を見ちまったんじゃないか、仲良しグループによくあるような不倫ごっこを、まあ、昔からあったんだろうね、そういうの、でも、その引田ってじいさんも人がいいね、わざわざ他人の子供を引き取って育てるなんて」
 「引田さんは――わしは菊枝さんに義理があったから――と言っていました」
 「菊枝さん」
 「君江の母、わたしの祖母です」
 引田は早苗に対して、「血は争えないものだ」と、悲しそうな顔で何度もつぶやくだけでそれ以上のことはなにも言わなかった、と早苗は言った。
 ――じゃあその引田のじいさんも、なにか都合が悪いことを隠してるってことか――
 しかも、君江はその後もお前の父親康雄との関係を止めなかったらしく、二人目の理恵子までできてしまったというのである。
 その間健三が村にこれといった友達もできず、爬虫類にばかり夢中になっていたことは君江には好都合だったわけだ。
 「ちょっと待ってくれよ」
 お前はたまらず口をはさんだ。
 「それじゃあ俺の親父も悪いみたいじゃないか、だいたい理恵子さんまで親父の子だっていう証拠なんてないんだろう」
 「理恵子姉さんもO型だったんです」 
早苗は申し訳なさそうな目でお前を見て「それに」と続けた。
 「理恵子姉さんの死は自殺なんです」
 「なんだって」
 「理恵子姉さんはわたしと暮している時は、本当に優しくて頭のいいお姉さんでした、でもお母さんとはほとんど口をきかなくて、高校も遠くの全寮制の学校に行ったんですが、その高校の寮で」
 理恵子が自分の産まれの件に関して知っていたかどうかは判らないが、そのころの健三は君江が養子に出してしまった芳枝のことがよほど堪えたのか、理恵子には普通の父親以上の愛情で接したため、理恵子も健三にはよくなついていたのだと引田は語ったそうだ。
そして恐らく健三は、むしろ理恵子のために、君江に対して康雄とは二度と会わないという約束でもさせたのだろう。
だがそれは最悪の結果を招いてしまった。
 「お父さんの事故には変なところがあったし、お姉さんはなにかを知ってたんじゃないかって引田さんが言っていました」
 「でも、それは……」
 「引田の妄想だろう」と言いかけてお前は言葉を呑み込んだ。お前にも心当たりがあったのだ。
 それはあの時の理恵子が言った言葉だった。
「あの子たち、お父さんを咬み殺したから、処分されちゃうのよ、あの子たち全然悪くないのに」
芳枝からジュリーの話を出されるまですっかり忘れていたが、確かにあの時理恵子はそんなふうに言ったような気がする。
 ――あの子たち全然悪くないのに――
 健三の「事故」には君江もなんらかの形で関与していたということなのか。
 「芳枝さんが病気になったのは、理恵子姉さんが死んだ直後だったそうです、わたしは小さかったし二人は隠れて会っていたから知らなかったんですが、まるで本当の姉妹だと判っているみたいに仲が良かったそうですから、芳枝さんはとても深く心が傷ついたんだと思います」
 「ジュリーがお母さんを連れて行ってくれたのよ……わたしのお父さんの仇を……」
 あのとき芳枝はそう言っていた。
 つまり芳枝も、理恵子から真相を聞いて知っていたということか。
 そして感受性の強い少女のまま大人になってしまった芳枝は、あの時お前を騙そうとしたのではなく、死んだ妹の理恵子になりきっていたのではないか。
 「芳枝さんは、いつ、どうやって自分が理恵子さんの姉だと判ったんだろうね」
 「それは引田さんにも判らないそうですが、勘のいい子だから自分と理恵子姉さんを近づけまいとするお母さんの態度で感づいたんじゃないかって」
 ――皮肉な話だな――
 お前は無意識に芳枝の日記を手に取っていた。最後のページはお前と最初に会ったあの日の日付になっていた。
 五月〇日 晴
 やっぱり会えた、ジュリーがいった通りだった。あの女をジュリーのところに送ったらきっとまたテッちゃんがやってくる。
 ジュリーはそうわたしに教えてくれた。
 ジュリーが奇跡を起こしてくれた。
 ジュリーはみんなの恨みが晴らせて喜んでいる。でも、ジュリーはわたしにもおいでといっている。ジュリーのところへ行く前に、最後にテッちゃんに会えてよかった。
 テッちゃんはやっぱり立派なおとなになっていた。わたしはついリエちゃんになりすましてテッちゃんにうそをついてしまったけれど、せめてテッちゃんには全部ほんとうのことを知ってほしかった。
 でも、もうジュリーのところに行かなければならない。
 ――あの芳枝が君江を……まさか――
 「でも、本当のことはもう誰にも判らないんだろ、親父だって弁護士の知り合いくらいはいるし、いまさら俺にこんなもの見せられてもな」
 お前はそうつぶやきながらも、そのくせ強く拒絶することもできなくなっていた。
 お前には変に人がいいところが確かにある。
 あのとき父親の健三が死んで、悲しみに沈んでいる理恵子を慰めようとお前は一生懸命面白い話をしようとしたし、理恵子の無茶な提案を受け入れて卵を盗んだのだって、お前のそんなお人よしから出ているのだし、そんなお前の姿は理恵子にも芳枝にも魅力的に見えたかも知れないし、そしてその変な人のよさはその後のお前の女性関係にも少なからず作用したことだろう。だが、それはお前にとっても致命的に働いたことも間違いないのだ。
 「ですからわたしだって、なにをどうしたらいいのか解らないんです」
 早苗が目を真っ赤にしてお前を見た。
 「でも、それじゃあ、あの二人の姉は一体なんのために生まれてきたのか、それにわたしだって……お願いです、あなたのお父さまに、康雄さんに会わせてください」
 お前の父親は健三の葬式以来、まるで忘れてしまったかのようにせいざん荘に行かなくなっていた。
 「わたしだって、って」
 「わたしの血液型もO型なんです」
「じゃ、じゃあ君も、まさかあの健三さんの葬式のときに俺の親父と君江さんが……」
君江はお前の父親と会いたい一心から、自分の夫である健三を殺し、そしてその葬式の夜というあってはならない場所で思いを遂げたのだ。そしてその君江の葬式で芳枝がお前と会えたのは、皮肉というより輪廻の宿命とでもいうべきか。
――血は争えないものだ――
顔も思い出せない引田の、いや、あの軽トラックのとぼけた目のようなテールランプが、あの電話口のぼそぼそ喋る声で、お前の耳元で皮肉った。
そしてその時、お前の携帯電話が鳴った。
――なんだよ、こんな時に――
電話をかけてきたのは、会社の同僚の矢島という男だった。
「哲夫さん大変です、すぐに会社にきてください」
「なんだよ、なにがあったんだ」
「社長が、あなたのお父さんが、観光でエーゲ海の周遊をしていた船の中で、突然行方不明になったって、ギリシャの事務所の社員から連絡がありまして」
「なっ、なんだって」
「地元の警察の話だと、航海中の船から海に落ちたんじゃないかってことなんですが」
「うかれて酒でも飲んでたか」
「いや、それが、船には奥さまも同乗していたんですが、今、奥さまは警察から事情を訊かれているとかで、つまり、重要参考人らしくて……」
巨大なワニが。無力な卵だとばかり思っていたワニが、ばかでかい口を開けてお前の父に咬みついたのだ。
 輪廻と言ったのは決して大げさではない。
 私は自分がこの話の中の誰かの生まれ変りなのではと思うことが何度かあった。
 お前はこの後会社を相続して、うかれ、産ませてはいけない女性に私を産ませた。
 いや、「お前にとって産まれてきてはいけない私を産ませた」とでも言うべきか。
 お前は、ワニの卵を放したのが自分であることを忘れている。
 ジュリーはまだ生きている。    
                   了
 

My Dear Jerk ©パラダイス・シアター(仮)

執筆の狙い

原稿用紙50枚です。
中途半端に長い話を読んでくださって、ありがとうございました。

執筆上の挑戦は2つです。

・二人称のスタイルに挑戦。
・ミステリー(的なもの)に挑戦。

つまり、この話は二人称「お前は……」で書きました。
一人称「ぼく(私・俺)は……」ではなく、三人称「〇〇(主人公の名前)は……」ではありません。
読みにくいとは思いますが、書いている私は、とっても面白かったです。

また、ご勘弁願いたいですが。
この話に出てくる動物の名前が、昭和の大スターの歌手の人と同じ名前になっていて、主人公がその歌手の「ファンだ」と言っていまして、だとすると年齢設定として、若干ひずみが出てしまうのですが。
まあ、昔のスターが好きな人ってのもいるよな、くらいで大目に見てください。
尚、その名前は「ジャッジする者」という意味でつけました。

パラダイス・シアター(仮)

60.32.31.76

感想と意見

だみあん

うわあs。。

なんか。。ちょっと読みにくい


でもぼくは、sf弱いからかも

ヤツハカ村的なの狙ったんでしょか!?

主人公がいまいち好きになれなかった。。

sf読んでても、トリックがまったく理解できないんで

コナンも説明されても、意味わかんない

いまいち。。感情移入できるキャラがいないのが

さみしい


あと、お前お前って、自分が呼ばれてみたいで

あんま好きじゃない


がんばyてええ

2018-02-07 20:17

27.120.134.1

だみあん

sfじゃなくてミステリーだった。風で頭おかしい

2018-02-07 20:19

27.120.134.1

文緒

拝読しました。

「お前」にすべき理由? 目的は最後の部分でわかりました。

う~ん……

最近の三作を拝読して、真ん中辺りで退屈を感じたのは初めてです。

私は技術的なことは書けませんので、的外れだったらごめんなさい。

謎があって、私には好きなタイプの謎のはずが、先を読みたい、早く謎の答えを知りたい!と思えなかった。
なぜなのかしらく
台詞に引き付けられないというか、雰囲気がわざとらしくとも説明に頼りすぎとも見えるし、かなぁ……。
単に好みかもしれませんが……。


うまく説明できないくせに感想を入れようなんて、「小説」をわからない者が! と顰蹙をかうのを覚悟で、
ファンの一人として、前々作、前作の流れるような文章の際立ちが、御作では味わえなかったこと、ご報告させてもらいます。

2018-02-07 23:25

126.212.165.153

パラダイス・シアター(仮)

すいません、お礼の前に総括をさせてくださいな。

この小説は、いろいろと実験的な挑戦で書いてみたんですが、やっぱり失敗だったと思います。
「エンタメ作家を目指すなら、一度くらいはミステリーに挑戦しようか」くらいの感覚で書いてみたわけですが。
そもそも、話の設定以前に企画とか配役の段階で無理がありました。
刑事も探偵も出てこない話で、頭の悪い主人公が真相に迫る、という設定がこんなにキツいとは思わなかったですよ。
つまり、説明役も、話を引っ張る牽引役もいないわけですからね。

そのくせひどく手間のかかった小説で、年表を書いたり、話の食い違いを何度も考察し直したり、割に合わなかったです。

でも、二人称って楽しいですよ。
ちょっと病みつきになりそうでした。

2018-02-08 09:29

60.32.31.76

パラダイス・シアター(仮)

だみあんさま、ありがとうございます。

私の回りの人からも、読みにくいとは随分いわれました。
でも、意外と「面白かった」という評価もあったんで、変な自信をつけてしまって、ここに載せてみたんですが。
これは非難を浴びそうですね。

ミステリー作家の人って、やっぱ偉いんですね。

風邪、おだいじにしてください。

2018-02-08 09:33

60.32.31.76

パラダイス・シアター(仮)

文緒さま、ありがとうございます。

二人称の「お前」は、本来純文学の方に向いている手法だと思っています。

例えば、20歳くらいのころの自分の行動を30年後くらいに思い返して、「お前」という俯瞰した視点から昔の自分のバカな間違えを叱ったり、慰めたり励ましたり、自分を客観的にながめながらも、その行動を全て受け入れる責任があるのも、結局自分だけなんですよ、みたいな書き方が効果的なんでしょうね。
今回は、その「お前」を最後のどんでん返しに使う、というちょっと苦し紛れの小道具に使ってみました。

雰囲気がわざとらしく、説明に頼りすぎる、というのは、探偵も刑事も、あるいはそれに代わるような頭のいいキャラを出さなかった結果、説明役も話の牽引役もいなくなってしまい、小説そのものに魅力がなくなってしまったんだと思います。
これは、好みの問題ではなく、私の力不足以外の何者でもないでしょうね。

>うまく説明できないくせに感想を入れようなんて、「小説」をわからない者が! と顰蹙をかうのを覚悟で
とんでもないですよ。
充分好意的な感想だと思っていますし、その上での率直な評価に心から感謝しています。
意外と書いた本人は分からないもんですね。

ファンだなんて、ほんとにありがたいですよ。

ほんとにどうもありがとうございました。

2018-02-08 09:58

60.32.31.76

二月の丘

二人称ミステリーは、近年だと法月さんが『しらみつぶしの時計』でやっていた。

特異な密室で、大量の時計を仕分けしてゆく・・とゆー、舞台設定(情景)そのものが、くらくらするほど魅惑的な短編。
主人公は頭脳を駆使して、鮮やかに時計の群れを仕分けてゆく。
で、ラストに「作者が仕掛けていたロジック」が炸裂。
主人公とともにせっせと時計仕分けを進めていた読者は、99パーセント気づけない(だろう)、「いかにも法月さんらしいオチ(ロジック)」に、
読者は納得せざるをえないんだ。


ミステリーは基本的に、【合理的なものは美しい】という世界なんで・・

ややこしいスタイル(文体)で、
時間軸と経過説明がとっちらかってて、
伏線・鍵が「絶妙な位置に美しく入って」いないものは、
推理小説好きからはそっぽ向かれる。


この原稿内容であれば、
まず「せいざん荘」の様子と、関係者たち、そこで起こった重要な出来事を、【時系列で】説明してゆくのがスマート。
その「経緯説明」を端折ってるから、ミステリーにならない。

冒頭の『頭文字D』もどき描写は、完全に要らない。

2018-02-08 13:21

219.100.86.89

パラダイス・シアター(仮)

二月の丘さまありがとうございます。

ミステリーに限らず、歴史モノ、ファンタジー、SFなど、あるいは官能などもそうでしょうが、マニアの世界に切り込むということは、マニアに喧嘩を売るということでしょうからね。
というか、今作ではマニアじゃない人からもそっぽ向かれる可能性が高いでしょうが。

どうもありがとうございました。

2018-02-08 15:35

60.32.31.76

拝読しました。

田舎の寒村に起きたどろっとしたタイプのミステリーで、
飼っていたワニにかみ殺されるとか、気のふれた女が出てくるとか
道具立ては雰囲気を盛り上げるものがそろっていて、
読みにくい二人称のわけも最後にしっかり腑に落ちる形にまとまっていて、
とてもお上手にできていると思いました。

ただ、創作する側としてみれば
鍛錬上の工夫なんかはよく分かるし、
そのしばりの中で上手に描いてあって、さすがだなぁと思うのですが。

一般読者としてみれば、やはりすごーく読みにくいです。
二人称を語っている「あんた誰よ」なんです。
「すべてお見通しのようだから神さまなの? そんな神さまがどうしてそこまでこの下衆い男に肩入れするの?」
と。
もちろんその苛立ちは最後の最後にあぁ! と、まんまと作者の罠に引っかかってたわけかと納得しちゃうんですが。
でも読んでいる間はけっこうイライラしちゃいます。

あと、たくさんの人物が出てくるんですけど、
その相関図がなかなか頭に入らないんですよね。
君江って誰だっけ、理恵子はえーと・・・って感じで、
自分の記憶力の悪さを棚に上げて
「めんどくさいなぁ!」と、ここでもいら立ってしまったのは確かです。

序盤の
「「香典だけでも届けて」と妻でありお前の母でもある妙子がお前に頼んだのだった。」
の部分ですでに、妻でありお前の母? えーと、妙子ってのは主人公の妻? それとも母? という具合で。

それで、この分かりにくさは、
いわゆる刑事のような人が整理して説明してくれないからだと思いいたりました。
刑事じゃなくてもいいんですけど、
要所・要所で読者の頭を整理してくれる役の人がいるといいなぁと思えました。
一人で行くのは気が進まないからと友人を連れていったって設定でもと思ったけれど
かなり内輪の話なので、
主人公自身がときどき人物相関図を整理するところがあってもいいのかな。


この作品を投稿された理由は、
読者がこのままで、どこまで理解してくれるか、ついてきてくれるかを知りたかったってとこでしょうか。
その答えは、
読むぞって気合の入っている、本を読み慣れている読者ならついてきてくれる。
ただし、いらいらしながら読み進める。
あまり気乗りしないでいる読者なら、序盤で離脱するってとこかなぁと、思いますです。


ちょっと気になったのは、タイトルですかねぇ。


今回もおもしろかったです^^

2018-02-09 10:50

122.133.154.213

パラダイス・シアター(仮)

蕨さま、ありがとうございます。

いや~ほんとにありがとうございます。
面白いと言ってくださって、救われました。
かなり非難轟々浴びるかと思っていましたから。

先ずタイトルの「JERK」ですが、これはかなりきついスラングで「大馬鹿野郎」とか「ゴミクズ」など、他人を罵る言葉なんだそうです。
なので、一応「親愛なるクズ野郎へ」みたいな、意味にしたつもりです。

これ、最初に書いた時は、三人称で、ワニも出てこない話だったんですが、それがまた、陳腐で平凡ですごくつまらなかったんですよ。
それで、私の悪い癖で、その手の話をしつこくいじくり回して遊ぶのが大好きで、散々こねくり回して書き上げたのがこれでした。
ついでながら、最初に読んでもらった、あのつまらない話もその手のやつです。
そのためか、駄作のくせに妙に愛着だけはあって、できれば他人に読んでもらいたい欲求だけは強い小説になってます。

>いわゆる刑事のような人が整理して説明してくれないからだと思いいたりました。
そうです、おっしゃる通りです。
上にも総括というか言い訳として書きましたが、この話は、「説明役」とか「牽引役」がいないんですよ。
それが、最大の欠点なんですが、私としては、それを斬新な「売り」にもしてみたかったというのが挑戦の一つだったです。
でも、そのため、書いていた私も、ひじょーに苦労しました。
なんせ、頭の悪い主人公が事件の真相に迫るという、異様な設定ですから。
結果、説明臭くて、読みにくくて、退屈で、書き手も読み手も誰も得をしない、というひどい結果になってしまいました。
それでも、やっぱり「名探偵が登場して、関係者全員を集めて…」とか「海辺の崖に佇んで、犯人が独白…」みたいな、手垢の付いた紋切り型を打ち破りたかったんです。

実験としては、あんまり成功したとはいえませんが、私としてはいい勉強になりました。
この話を読みきるのは大変だったと思います。
いや~良かった。
一人でもほめてくださる人がいただけでも、収穫がありました。(蕨さんが特別我慢強いだけかも知れませんが)
どうもありがとうございました。

2018-02-09 18:35

60.32.31.76

阿南沙希

 こんばんは、読ませていただきました。二人称の形式についてだけ、コメントさせていただきますね。

 二人称は、この作品では成立していないと思います。

 二人称は「主人公=読者」になるので、主人公と読者の間に隔たりが無いというのが大前提ですが、読みづらいと感じた時点で主人公と読者は同化しきれていません。ほかの方も指摘されていますが、「お前」と言われるたびに「え?」とキョトンとしてしまい、そのまま最後に至ると「え? 私のこと? 主人公じゃなくて? 私にどうこういうよりこの主人公はワニに食べてもらわないと」と、なんだか作者から一方的に冤罪をふっかけられたような的外れ感で終わってしまいます。二人称が成立していて、読み手と主人公が一致しているのであれば、読者に断罪してもそれが技だと理解できていたと思うのですが、この作品はそこには至らなかったと思います。

 原因としては、主人公が個性を持ってしまっているということ、それが読者に「これがお前だ」とつきつけられてすぐに受け入れられるようなタイプではなかったこと。さらに、読者を主人公に同化させるための滑走路的な導入もしていなかったことにあるのではないかと。

 二人称は純文向きとお考えのようですが、形式そのものはプレーンなので、どのジャンルにも書き方次第で応用できることです。
 ゲームだと、事実上の二人称はよくありますよね。ドラクエとか、ビジュアルはあるけどほぼ無個性でしゃべらない主人公なのは、ひとえにプレイヤーとの距離感をなくすことが目的です。
 
 昔やったサウンドノベル(ゲーム)の中に、二人称形式のお話がありました。そのゲーム自体、怪談を聞きながら選択肢を選んでいって、わがままな選択肢を選んだりすると語り手が「じゃあ、今回の話の主人公の名前は、あなたの名前にしてあげる。自分勝手なあなたにぴったりのお話だから」と、以降二人称で怪談が展開されます。この流れだと、怖い目にあわされるのが自分でも、それは「自分が選んだことだから」という前提があるので読者はいやおうなく引っ張り込まれるし、主人公=読者という緊迫感がさらに恐怖をかきたてる…と、さまざまな意味でプラスに働きますよね。意図してやったのか、それともノリでそう作ったのかは不明ですが、こういう使い方はうまいなと思いました。

 頭の悪い主人公が、とイメージまでできているのであれば、素直に三人称で良かったのでは。工夫としての二人称であれば、もっと二人称という形式のメリットデメリットを学んで、技術と創作の意図、それに読者に何を伝えるかなどを総合して、それでもこのお話には二人称が適切であればその時初めて選択すると、もっと作中でこの形式を生かしたくなるし、そこまでして初めて生きる形式なのではないかと。今のままでは、最後のオチも含めて読者に対してよくわからないマシンガンを撃ちまくっている印象を受けます。

 他の部分も気になるところはありますが、二人称について少し達成感みたいなものを持っていらっしゃるようなので、それはちょっと違うと思い、コメントさせていただきました。読者を巻き込む形式を選んだ結果、違和感を多くの読者に残しているのに、作者は謝罪を盾にするかのように、チャレンジに充実感を得ていては、同じような失敗をまたしてしまう可能性があります。その時、プロ作家になっていたら、不必要に多くの人を踏み台にしたり、困惑させたりするような、作家として取り返しのつかないことになってしまうかもしれません。

 はっきり書いてすみません…頑張って書いてるのは皆同じなので、今後の成長に役立ちそうなことをコメントしているつもりです。受け止めて頂けたら有難いです。
 私も二人称については昔、本で少し勉強した程度のことだったので、読ませていただいてコメントする際に「二人称とは?」を考える機会にもなったので、貴重な機会をありがとうございます。怪談ゲームで二人称に遭遇したことあったとか、すっかり忘れてましたし。お互いに上を目指して頑張りましょう。


 

2018-02-10 23:04

126.241.204.233

黒井太三郎

二人称ですが一人称でもよいような気がしました。

2018-02-11 21:24

121.109.111.65

パラダイス・シアター(仮)

阿南沙希さま、ありがとうございます。

いやいや、こんな駄文を最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
おっしゃることは、一応私も理解しております。

この小説は、私の願望丸出しってことでしょうね。
ただひたすら「他人と同じものを書きたくない」とか「同じ書き方をしたくない」という頑なさがよく出ていると思います。

ただ、二人称って、書き始めると病みつきになるんですよ。
今回は、他人目線の二人称でしたが、「未来の自分から見た過去の幼い自分」で書くと、結構ドラマチックになる手法だと思いました。

まあ、お金を出して買ってもらうなら、まず「読みやすい」というのが大前提ですね。

どうもありがとうございました。

2018-02-13 09:39

60.32.31.76

パラダイス・シアター(仮)

黒井太三郎さま、ありがとうございます。

確かに、一人称とか三人称の方がむしろ、解りやすかったと思います。

実のところ、一人称と三人称で、一度書いてみたんですよ。
ところが、ミステリーとしてはちょっと陳腐だったんで、文体でかっこつけてみたんですが、裏目に出てしまいましたね。

ショートショートを書こうとして失敗するパターンみたいな感じですね。
書き上げてみたらオチが甘くて、あせってオチをもう一つ書いて更に墓穴を掘るような感じです。

どうもありがとうございました。

2018-02-13 09:50

60.32.31.76

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です(テクニカルサポート)。

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3,000字以内