作家でごはん!鍛練場

『逸脱』

ド素人著

総合格闘技小説を書いてみました。あとまとめサイトか流行っているのでそんな要素も入れました。よろしくお願いします。

あらすじ。
人一人の心の闇。本当に自殺しなきゃ、悲しいということさえ認めてもらえない世の中。
地上波で放送される格闘技興行。そのリングに立ち、勝利後テレビカメラの前で自殺を人々へ見せつける目的の20代の男。綾瀬達仁。
表では生きられない社会不適合者。地下格闘技で都落ちを待ち、裏社会で情報を得、テレビ格闘技に出る為、画策し実行する者。
傍らにはいじめ犯や虐待親に復讐を果たした天涯孤独の10代の少年、悠真。唯一心の闇•トラウマを分かり合える二人。その生い立ちが女性ライターへ語られる。
前科者など一癖も二癖もある地下の者達と闘いながら、他の地下格闘技の選手と出会いながらも、着実に死へ向かう達仁。
覚悟の証明、見てもらえること、テレビに出る為のキャラ付けの為顔面タトゥーまで入れる。
地下落ちした元プロに勝ち、興行主へ脅しに向かう達仁。闇社会で得た情報で脅しを成功させる。
とうとうテレビへうって出る達仁。
だが興行主の怒りを買い制裁マッチを受けリング上で意識不明。その数日後死亡してしまう。
達仁の唯一の理解者であり、天涯孤独の悠真は最後。自分も自殺を目論む。




唯一、この世に生きるという苦しみから逃れられる手段。
この世からの逸脱。
…自殺。


2000年代中期。
総合格闘技全盛期。
秋。東京。
冬のドームが最後の舞台。

某所。地下にて。
「勝者っ!あやせーーたつーひとーー!」
ヤクザが開催する地下格闘技で、たった今勝利した人物。
名前は綾瀬達仁。
20代前半。175cm。短髪の、精悍な顔つきの青年。
自殺を目論む者。
地上波ゴールデンタイムに中継される、総合格闘技の興行。REAL-1。
その団体で勝利した後、衆人環視の元、テレビカメラの前で自殺する目的の狂人。

傍らには10代後半の少年。
まだあどけなさの残る中性的な顔立ちのミディアムヘアーの男。170cmの、日本人平均身長程度の中肉中背の身丈。

勝って喜ばない。そこが目標じゃないから。
不良というわけじゃなく、戦前きっちりお辞儀はする、が感情はなく、笑顔も見せず、リングを降りる。ふてぶてしいわけではなく、ただ目的に突っ走る、目的しか見えていない人間。

人一人の心の闇、悲しさ。
本当に自殺しなきゃ悲しいとすらも認めてもらえない世の中。うつは甘え。同じ叩かれ方をする者の為にも自殺する達仁。
不幸を産まない為に子を産まない精神性•思想も加えて。
死の直前にURLが書かれたシャツを着ておいて、あと少しの一般人叩き、人間というもの…も加える。
下(げ)じゃなく、中(ちゅう)が作り出す社会の空気。自殺しなきゃ何も聞いてもらえない世の中。
一般人叩きはネット掲示板だろうがテレビだろうがタブー。だから自殺することでやっと注目させてネットで見せる。
多数派である一般人、だから絶対的なタブー。そして公衆の面前で自殺。
二つのタブーに挑む達仁。


東京で行われる地下格闘技。通称アノア。暴力団須賀組が単独で取り仕切るもの。
業界人やヤクザの40代以上の嫁ぐらいしか女性がいない場所。
その地下において、控え室に出入りする異質な存在がいて、目立つ。
髪を後ろにまとめた。中肉中背の20代の女性。
格闘技には興味無し。アウトローネタの為にアノアへ来たライター。
二流三流のどんなジャンルでも扱うゴシップ誌。地下格闘技なんかにも取材に来る、フットワークの軽さ。
だがさして影響力も無い編集部。
だが東京の色々なマニアックな場所へ取材に行けて色んなものを知れて、気に入ってる仕事。
貴崎遥という名刺を、面白そうな話を聞けそうな地下の者に渡していく。
基本30代の男しかいないアノアの選手達。
悠真を見つけ、遥は他の者に聞く。
あの少年もこんな所で闘っているのか?と。
隣りにいる男の名が綾瀬達仁。それについてるだけのガキだと、返答する男。
連勝しているという達仁。だが、そんな青年のことより少年が気になる。

女性ライターが近づいてくる。
一人異質な悠真へ。
「あなたは闘ってないけど、どうして一緒にいるの?ただの友達?」
「…友達じゃない…そんなレベルじゃない…」
軽い返答が返ってくると思ったののに。話しやすそうなその雰囲気とは違う、何か。
「…?」
独り言を呟き出す悠真。
「ん〜…一度達仁に打ち明けたことで、なんか軽くなってるし、女性に聞かせてみたい、意見聞きたいって部分と…ん〜…」
何かがありそうな少年。身の上話などを聞きたがる遥。
落ち着いたかんじの小綺麗な女性。
家庭環境から、姉が欲しかった悠真。母でも兄でもなく…。
なぜか親しみを感じてしまう。
ライターなんていう、根掘り葉掘りして、人のネタ探しして、ご飯食べていくような奴…と、なぜか敵視できなかった。
こんな所に居る理由を、答える悠真。
「言っても、ただのいじめとか家庭環境って普通の理由だぜ?それこそ今まで何…何千万人いた奴らの一人」
「若いし」
「10代後半と20代前半に見える?」
微笑する悠真。
隣に居た達仁が口を開く。
「記事にするのか?地下には10代後半と思わしき、後ろ暗い若者もいた…って、“一文だけ“」
「良く分かってるね」
こんな所で格闘技をやってるような粗暴な連中とは違う雰囲気の達仁。冷めている。冷めているからこそ、不良達とは違い、聡そうな青年。
この二人だけ明らかに地下で異質な、ただこんな所で現実逃避して騒いでるわけではなさそうな。
「達仁の目的、知ってもらうこと、知らしめることと繋がるんだけどなぁ」
ちらりと達仁を見る悠真。
首を横に振る達仁。
察する悠真。所詮ゴシップ雑誌、なんにもならない。それか達仁なりのタイミングがあるのだと。
遥はこちらの関係性を観察している。
「あっそうか、俺の話だけだったらいいけど、遥さんに話すだけなんだから。記事にもならないけど、人に興味あるでしょ?ライターさんは」
達仁は悠真に視線を送り思案する。
随分気軽な悠真。本来なら考えられないが、でも何か思うところがあるのだろう。少しでも甘えたいのかもしれない。いやらしいライター風情とは違うものを感じたのだろう。別に目的には関わらないからいいか。と制止しない達仁。
「達仁は全部聞いたことあるんだから、適当に休んでてよ。席外してもいいし」
ガタンッ。
一旦席から離れどこかへゆく達仁。
「…なんか俺にとっての特別な達仁じゃなくて、普通の人に話すのは恥ずかしいな…茶化されそうで…達仁は絶対に笑わないで聞いてくれるけど」
悠真の独り言を聞き取る遥。
達仁という青年に絶対の信頼を置いているらしいが、なんとなくは分かる。人を否定しなそうな、ちゃんと話を、本質を聞いてくれそうな精神年齢の高そうな雰囲気。

内容が内容なので移動させてもらう悠真。
誰も使っていない一番奥の控え室で二人っきりになる。
「達仁とはねぇ、いじめられた奴に復讐してる時に出会ったの」
予想よりも遥かに異常な告白。
「…本当なの?」
「うん」
あっけらかんと答える悠真。
だが、ヤンキーのようにふざけて、話を盛っているかんじはしない。
「学生間は犯罪じゃなくて、大人になってから復讐したら犯罪になる。人の心を殺した奴らが、のうのうと生きていい訳がない」
一見普通の少年が、何かを抱えているらしい。
「まず俺は虐待も受けてる。それといじめのやつと…体に傷が残っている…」
黙って吐き出される言葉を納める遥。
「本当はもっとヒヨった、30代になった奴らに復讐やりたかったんだけど…耐えられなかったし、それまで生活出来る金もないし…」
30代まですら生きていけない、というところに引っかかる遥。
「俺って家出した…10代後半少年…」
悲しげな笑顔を見せてくる悠真。
「帰れない、マトモに働けない…。復讐後のこと何にも考えてないバカなガキ」
自嘲する。
「ま〜、そこと、今の達仁との関係は順を追って説明したいから後で…」
「…」
反応の薄く見える遥。だが、頭の中で反芻してるだけ。
予想を超える話。ただの家庭環境がちょっと悪かっただけのヤンキー話とは違うもの。
そんな遥を見て。
「本当に復讐したんだよ?」
「…捕まったの?」
「長くなるから諸々省くけど、まずはいじめ犯の男Aから…っていうかつまらなかったら」
遮って遥が。
「聞かせて…!」
取り直し悠真は語り出す。
「まず一人になる所を確認して狙った。だってターゲット複数いるから、途中で捕まっちゃったら完遂出来ないし」
勿論オフレコ的なものなので、手持ち無沙汰で聞く遥。
記事にもネタにもならないただの若者の身の上話、物語、歴史。
「んでさぁ、昔いじめられてたくせになんで勝てるのかっていうと、複数人でリンチするような奴らで、一人一人は弱いって元々思ってたんだよ。んで…」
諸々あって。
「一本骨折って。「まぁこれでも仕事当分出来なくなるし、詫びればいいよ」って言った。でも警察呼ぶってさ。だから「殺人した訳じゃないんだしすぐ出てこれる…その時は全身バラすぞ…俺の今回の行動見てハッタリと思うんならいいけど。後何人か復讐相手残っててさー、今そこまではしたくないし、綺麗に折ったから綺麗に治ると思うし、警察には黙っててくんないかなー?」って言ったんだ」
今は軽く語っているが、勿論そんな異常な状況の中では、興奮状態にある為、顔つきや迫力は段違いであろう。
「「俺は別に正義で戒めてるんじゃくて、復讐鬼になってんだよ…。家族でもいいぜ恋人でもいいぜ、お前なんかを好きになるアホなんだから…」つったら脅し成功したの」
話を信じて、黙って聞いている遥。
「どーせ治ったらまたノンキにそれぞれのハードル低い幸せを感じて生きるんだから、腕一回一本折られた程度、どうせ…ってここが冷めてるんだよなぁー…」
ヤンキーの武勇伝語りとは違う毛色のもの。冷めて諦めている。他の少年とは違う精神性の悠真。
「多感な時期に精神壊されても結局なぁ…ヤクザ程の拷問は出来ないし、中途半端っちゃあ中途半端な復讐だよ」
元は人に狂わされた者。
生まれつき悪人である、性悪説的なヤクザ…とは違う。
自分の喜びの為の他人への拷問じゃなく、自分を守る為の自分の為の復讐。
「一番ムカつくいじめ犯には半年に一回お手紙でも書いて、いつ次来るか分からない復讐に一生怯えさすつもり…それもあるし俺は死なないかなぁ、ずっと生きて、忘れないように忘れ去られないように顔出す」
俺は死なない、に引っかかったが先を促す遥。
「“のうのうと生きられる“が俺にとって一番堪えることだから…忘れるってことが…」
「…」
一際重い空気。
「あぁ…相手が元不良、未だに不良やってる奴らだからこそ、そこまで大事にならなくて良かった分もある」
学校辞めて働いてる内に日和る不良もいる。
「だってお坊ちゃんとかの方が、親が問答無用で警察呼ぶしさぁ。
あっ忘れてたけど、子持ちの奴に、その子供に見せようと思ってた手紙があって、それをいじめ犯に先に見てもらったらいきなり態度変わったってこともあった」
「どんな内容?」
不謹慎だが内心興奮する遥。
「君のお父さんは人を傷つけた、人一人の人生を台無しにした悪人です」
悠真の復讐相手の子供はせいぜい赤子のはずだか、こんなことを数年後もされては敵わない。脅しとしては効果はあるのだろうとあえてつっこまない遥。
「んで〜なんだったかな?ヤンキーの子供はヤンキーにいじめっ子になることとか、ヤンキーほど子を産む、避妊しなかった末のナントカ…で〜」
書いた本人の方が内容を忘れている。復讐心で一杯で殴り書きしたのだろうか?
「俺は一生傷を抱えて生きる。それでも君の父•夫は忘れ生きる。この話を聞いたあなた達も無かったことにする。後ろめたさもなく普通に生きる。お前が間接的に殺す。俺は自殺する。頼むから少しの負い目でも感じてくれ。俺が生きた意味な無かったのか、お前らのオモチャになっただけの使用された人生。子供の頃から狂わされてきた人生は無駄だったのか。ってかんじの内容の手紙。「これを出した後死ぬか、もっと理解出来るようになった数年後のお前の子供に送り続ける」って言ったら折れてくれたんだよ」
「…」
何も言えない遥。悪とか正義とかじゃなく、何も言えない。
「まぁそいつらの為に自殺はしないんだが…自殺はさ…親に対してしなきゃいけない」
真剣な表情でこんな内容を女性に語りかけ続ける悠真。
「…矛盾してる?今生きてることと。なら親が最後のターゲットにならないとおかしいってところと…」
ついて行けない部分もあるが、しっかり頭に入れる遥。
「でも先に言っておきたい。離婚して、子供を捨てて、自分だけ新しい家族作って、そこで普通に暮らすってあるだろ?」
突如青ざめてゆく悠真。震え出す声。
「……自分が産んだのに…人一人産むっていう異常な“責任“…。それを無かったことにする…。俺自身が無理矢理生を受けらせられたのに…。俺が無かったことにされる…実の親にすら…」
いつの間にか部屋に戻っていた達仁。悠真を見つめる。悠真の過去は知っているが、それでも何度でもトラウマとして訪れるもの、を隣りで見届けてあげる。
いじめっ子話の時とは明らかに違う、家族の話の時の悠真。
抑揚もおかしくなり、目が虚ろな悠真。
雰囲気に耐えられなくなる遥。
だがもう悠真の言葉は止まらない。
「達仁も言ってた、親殺しより子殺しの方が…ってやつ。自分で勝手に産んどいて殺す、エグさ…」
「…」
「無理矢理生を受ける側、子供。愛情…唯一の親が愛情を注がないこと。身勝手に産んで好きに殺せる…」
「…」
「俺は無かったことにされて、愛を受けてないんだから、殺されてるようなもんだろっ!!」
一度達仁には全て打ち明けているが、それでも感情の抑えが効かなくなる。
「達仁が言ってる、他人は社会は否定してくるってこと。誰も分かってくれないのに、唯一の親が捨てる…。のうのうと新しい家族•新しい子供と暮らしている…俺は…」
“忘れる、無かったことにする“ということの身勝手さ、都合の良さ、人間の醜さ。
「あれってさ、ドラマなんかでは玄関から子供と幸せそうに出てくる元親を見て、その家庭を壊さないように黙って去るってあるだろ?…壊されたのは自分の人生なのに…会ったこともない、愛情受けてない、実質他人に優しい優しい優しいこって」
歪んで冷静になってを繰り返す悠真の表情。
「これってさあ、達仁が言ってる一般人叩きはメディアはしない、あくまで家庭は壊さず、自分だけ耐えて、それが美談。不倫やクスリは芸能人がやるから擁護の為に溢れかえる不倫ドラマやワイドショーでの擁護。主人公がやる側、最後ハッピーエンド。それが、普通になるようになっ。家庭が本当に壊れるバッドエンドものをテレビはやってくれないんだよっ!」
陰で苦しむ人はいるが、耐えることが美徳。好きに生きている人は
叩かない。悲しい者が更に損する。普通に生きてる者は更に普通に何の問題もなく生きていける。
「普通にそういうのがお茶の間に溢れて欲しいのに、のうのうと生かさない為に、問題提起が毎日放送されるテレビ。後ろめたい奴からクレームくるから、ハッピーエンドしか、奴らにとってのハッピーエンドしか作れないからっ!」
「悠真…」
一歩前に出、なだめる達仁。
遥は何も出来ない。ただ聞いているだけ。
「あっ…俺、入り込んじゃってた?」
一旦深呼吸する悠真。
「スー…ハー…」
軽く落ち着くが、まだ止まらない。
「俺はな…本当に朝、玄関先で子供を送ってるとこ現れて、いきなり目の前でノドかっ切ろうとしたんだよ…オイルも持ってるよ」
遥の表情も青ざめてゆく。
「あ〜遥さん、怯えないでね、これは自分を傷つける為のナイフだから」
右手にナイフを持ち出した悠真。ナイフに視線を落とす。
「なんでまだ持ってる?」
「不良に「死ね」って言われた瞬間、自殺して責任を押し付ける、やばすぎる人生の罰ゲームしてんだよ」
「…」
ナイフを見ても慌てふためいて騒がない遥。
関係のない他人は傷つけない悠真。あくまで自殺を見せつけるのであって、子供や母に向けるつもりの刃ではないのが分かったから。
情緒不安定気味な悠真が、殺された側だから、だから冷めてる部分もあり、理性的なところも分かるから。
物悲しそうにしているから。
「なんか取り留めないよな…興奮してるっとことで許して。えーと、一から順を追って説明するわ」
ナイフを見せても、それでも逃げない遥に最後まで話そうと決めた悠真。
「さっきの説明だと物心つく前に離婚したっぽいけど、あれは例え話で。小学校高学年まで母親はいたよ…愛情注がれてないのは一緒だけど。いわゆるネグレクトで…俺がいじめられてるのも放置。…居ないのと一緒だな。だから父の暴力も放置。んで、中学からは父と二人きり。人一人の目…例え放置でも人一人いなくなって、虐待はエスカレート。…いじめられるか、家で叩かれるかなんだから、人に頼ろうって思いつかない」
誰にも助けを求めず、助けられることもなく、鬱屈した毎日。
「だから俺ってさ…幸せを感じにくいっていうか、感じない。興奮だけはする、それも復讐の時とかだけど…。普通の奴が日中楽しんで家帰ってきて、余韻のまま夜リラックスして心地よく寝る…っていう普通の生活してないから」
普通に平穏に一日が終わることなく、絶対苦痛がある。その苦痛が尾を引いて…。
達仁が口を開く。
「医学的とかでも、セロトニンとかが出ないんだよ。だから悠真も」
「調べてないけど、多分そうなんじゃない?医者にかかってないんだから、何の称号もない」
あえて称号という言葉を使う悠真。
軽い一般人にとって悲しみは生い立ちは称号だから。
軽い悲劇を他人にひけらかせて、気を引く構ってちゃん。人に聞かせたらそれで満足して消える、軽い悲しみ、簡単な痛みだから。トラウマで狂う程の精神は分からないから。
だから結局普通に結婚して子を産む。
「診断してないから、健常者…だろ?」
「そうそう」
「どれだけ時が経っても囚われ、幸せになれない。なぜなら後天的にストッパーがかかってるから。そう、教育されてきたから…周り全てから…」
「普通すらも享受出来ない」
二人で話していく達仁と悠真。
自分はこの会話には加われないから、ただ聞き遂げる遥、
「そんな境遇の奴らいくらでもいるって言われても、生まれつき精神も弱いんだよ。体力で、同じ作業しても倒れてしまう人がいるのと同じで…先天的に精神が弱いのに、後天で更に地獄に」
「幼少期からずっと泣き、重い」
達仁が補足する。
「ほんの少し良いことがあったら、半日後勝手に揺り戻しが来て鬱になってる。体も心も、もうそんな風に変わっちまった」
達仁の方もかなりのものを抱えているのだろう、だから悠真は達仁を信頼しているのであろうと理解する遥。むしろ達仁の方が重いかもしれない、と。
「幸せを感じないから、マトモじゃないから、繋ぎ止めようともしない。守る者もない。だから今も仕事してない」
社会から外れた者。
「そこまでのことは親にされてないよ?腕を一生使えなくされるとか、そこまで酷いのは…。でも、全人類の、この世にいる、捨ててのうのうと暮らす奴らの代表になったんだよ。そりゃあ自分の親だからさ…。余計にブツけられてるとはいえ、そいつらの代表と勝手にされて、本来以上の恨みをぶつけるってことだよ」
「自分の悲しみを相手に伝える唯一で究極の方法…自殺」
達仁が更に補足する。
ふと遥の方へ振り向く悠真。
「…くっくく…遥さん、相槌も打たないから、寝てるかと思った」
「…続き、聞いてもいいの?」
自分とは違う生き方、思想を持った人間に興味を抱く遥。
「えーと、高校はな、一応通ってたんだよ…父に行けって言われて…。絶対的な存在の自分の主、親に言われたし、なまじ中途半端に通えてるのは普通っぽいけどな。んで、プールの授業で体の傷を見られたら…。俺だったら不気味で距離置くけど、周りは…絶対に逆らわない弱者•オモチャを見つけたかのように…周りの周りもここぞとばかりに叩く」
皆がやってれば怖くない集団心理で。
「この辺りの人間の性は達仁が書いてるけどさ、それは置いといて」
一旦お喋りを止めた悠真。
「…ずっと喋ってるから喉乾いてきた。達仁買ってきてよ」
「おー」
ガチャリッ。退出する達仁。
「…」
「…」
二人きりの控え室。
「遥さんさぁ、俺…くらーい、根に持ってる、自分の不幸を人のせいにする、働いてない、自殺願望がある、異常者だけど恐くないの?」
「そうやって自分を卑下して、冷静で、ある意味理性的な…」
「ありがと。でも、俺が今言ったようなことを大半の人に思われる。人に嫌われる才能…」
ガチャッ。
戻ってきた達仁に中断される。
「ほらっ」
お茶を差し出す達仁。
「ん…」
ゴクゴク…。
「興奮して汗かいてたからおいしーわ」
ペットボトルを置き。
「はぁ…俺が大人しく高校行ってたのも、家から逃げなかったのも洗脳…。普通の人は分からないから「んなもん無い!」「住み込みで働けばいいんだ」って、自分が経験してないものは分からない。相手の気持ちになって考えない、優しくないから言うけどさ」
達仁と目を合わせる悠真。
「話逸れるけどさ、こうやって育ってきた俺が、もうそろそろ成人したら普通の奴らと同列にならなくちゃいけなくなる…。達仁は分かってくれるし、もう既に書いてるけどさ」
書いてるという言葉が何度か使われるが、達仁には思想があるのだということは分かる遥。悠真より、何らかの主義があることがあると。でもこんなところで地下格闘なんてやってる謎な人物。
「普通に育った人達は上から目線で、分からない俺達の心も傷も無視して「大人にならなきゃいけない!」って言うんだよ。マトモな生活してない、マトモな教育受けてない、何も出来ない俺。別の歩み方をした20年。何も分からない人が「過去の事過去の事」って、縛られてマトモに生きられないのに…」
悲痛な言葉。
「しまいには「その程度のことで塞ぎこんで」って…。普通の奴らってちょっとしたことで不満顔になるのに、俺らのは大したことじゃない。傷癒えてなくても、またきつい他人に縛られて生きなきゃいけない。自殺しか逃げが無い。優しい言葉なんかかけてくれない」
達仁は悠真をじっと見つめている。
「普通に部活して恋愛して、ちょっと誰かが構ってくれないぐらいで怒る、あいつらの…その一言で、社会に出るのが恐くなるんだよ。なにが起きようが過去って。
自分達がちょっと損しただけで、怒り散らすあいつら。敵側が直接いじめ、間接的に言葉で殺す」
他人の痛みが分からないんだから、平気で傷つけられる。それが一般人。
「未成年の頃も甘やかされてないのに、成人したら底辺から何十倍も努力しなきゃならない。努力してもまた、アイツらに心が殺される。怖いんだよ…。逆にこの世から去ることの方が恐くないのかもってぐらい」
いつまでも終わらない長く暗い空気。
「…遥さん、飽きたら帰ってくれて構わないから…暗ーい話」
「いえ…」
「そう?…なら話戻すけどさぁ、洗脳って大袈裟なもんじゃなくて、教育•世界ってこと。いじめで自殺した子供に「逃げれば、引越しすれば、相談すれば」って言う人いるけど、さっきも言ったけど出来ないんだよ…。周りは敵、一生こんな人生。そもそも会社でもいじめはある。ずっと続く、他人に殺される人生。社会人になっても、まだ人を殺す人がいる事実に、学生の間から気付く。教育されてそういうものだと思ってしまう」
子供にとって、学校だけが世界。嫌なことしかない狭い世界、学校。
その中でしか生きられない、だって周りにおかしくされてるんだから。
親に相談出来ない子もいる。親にすらいじめられる者もいる。
周りは敵、周りは無関心、自分しかいない、だから自殺するしかない。
「俺は…一人で色んな考えや知識を貯めこんできた。人のことも、いじめ問題も考えてきた。だから今も例え話結構するだろ?」
「?」
「なんかずっといじめられてきただけで、ずっと下を向いてきたのに、世間のこともちょっとは知ってるじゃねぇかって言われると思って」
「ニュースとかを見て背景を考えてきたりしたってことね?」
「そこも達仁が書いてるんだけどな。背景も知らず。知ろうとせず一方的に叩く人間、あるいはネット社会って」
そもそも理由なき暴力、いじめ、否定。相手になにがあろうが、自分達の楽しみを優先する人間。

「んでね〜、一旦冷静になったり、また怒鳴られて萎縮して、思考停止したりして過ごしてきた日々…。父、この人を殺そうって気持ちと、教育されて歪まされた、この人が言うことは全て正しい、世の中ってのはこういうもんなんだ。ってのの狭間に居て、でももう耐えられないかもってなって、高2で復讐計画立てた。立てて脳内で狂って、でも実行出来ない」
反抗出来ないいじめられっ子体質。やられる側の人間。
「そんな日々…の中」
顔を上げる悠真。
「あっさりだし、あっさり言っちゃうけどさ、父親が飲酒運転で死亡。お通夜とかお葬式も分からん一般常識の無い俺。一人の俺。…死んでも悲しくないけど、一人になった俺」
言葉に詰まるでもなく、淡々と語る。
「その日、病院から電話があったその日に…」
溜める悠真。
「俺は目が覚めたんだよ。覚めたっていっても良い方向じゃなくて、自分を押し殺さない方へ。父に対して、そんなもんで楽に死にやがって…あっさり死ぬかっるい命だな…そんな軽い命に弄ばされた…」
一人の少年の半生が語られる室内。短いはずの10代の半生。
「自分で殺せなかった、俺が今まで受けてきた苦痛を与えることが出来なかった。愛されなかった。更生することもなかった。ただ避妊せず産んだだけの親失格者を自分で罰せなかった。ただ学費だけは入れ、最後俺を置いて一人死んでいった」
重苦しい空気が漂い続ける。
「今思えば自分で殺せば良かった。その後元親の、母の前で自殺。それが俺がやらなければいけなかったシナリオ…。いじめ犯までは手が回らないんだけどな、それじゃあさ…。まっ、そのおかげでスイッチも入っていじめ犯に復讐出来たから不幸中の幸いっていうか」
達仁は一度聞いたことがある話。人一人の苦境。
「…飲酒運転で亡くなるぐらいの自堕落。父も俺のこと捨ててたかもしれないし、卒業したら「はいさよなら」だったんだけどな…「そっからは一切金渡さん」って言ってたし、ちっさいアパートでお小遣いももらってないからアレなんだけど」
聞いてあげることで少しでも楽になれるんならと、もう一度聞き続ける達仁。
「だからさぁ、両親に、二人に捨てられてたかもしれない。そしたら二人分の新生活への妬み。両親分の重みがのしかかってた」
遥と悠真と達仁の三人だけの室内。
「一般常識はないから、借金の為の財産相続の手続き?とかも分かんないし、親戚にも会ったことなくて葬式もない。何も無い。家にあったお金全部持って飛び出して来た。家出っつったけど帰る家もない。面倒事放っぽって復讐の旅へ…で中卒」
大人は誰も助けてくれない。面倒な手続き、連絡、葬式、学校、市役所などの申請などは捨てて出てきた悠真。
「あっそうそう、いじめ犯は数多いからエグい奴だけターゲットにした。そいつも女、妊娠させて中卒…だから、親死んでんのに、どことも学校とも関わらず旅を続けられて…」
天涯孤独であることが逆に自由にさせる、皮肉。

「それで?あぁ、母親か…目の前で自殺するわけだからラストターゲット。だけど早めに調査しに行った」
住所は知っていた。離婚後の一人暮らしのアパート。
表札が変わっていて大家に尋ねた。
見た目は子供の悠真。10代。個人情報保護なんて気にされず。大家は母を追ってきた少年という美談ぽく話かけてくる。
「逆なのにな…。案の定新しい男出来て引っ越して行ってた。よく喋る大家だから男の名前まで知ってて隣町に引越しのことまで教えてくれた」
探偵使って、男の名前と大まかな場所で、住所発覚。
「流石にその程度、依頼料安かった。興信所だとうるさそうかなって思ったけど、あとで調べたら実質一緒」
ちょっと高くてお堅い程度の違い。
「んで、いじめ犯の前に見に行った。衝動で自殺してしまうかもしれないから、手ぶらでさ…。でも、ふと考えた。また離婚してんじゃねーかって。だって毎日朝、近くで張ってたのに。近くって、近くのマンションの三階の通路からさ…みてたんだけど」
夫と男の子しか出てこない。見送ってない風でもない。
「病気で奥で寝てたら実行出来ねーしなー。つーことで、別に警戒される訳じゃないし、夫に声かけてみた」
暗い話から一転、ドキュメンタリーぽくなり、前のめりに話を聞く遥の姿が。
「「元夫が亡くなって連絡取りたいんです。元息子です。家庭壊しにきたわけじゃないので、連絡先さえ教えて頂ければすぐ帰りますので」って、別に言う必要のない家庭壊さないってセリフつい言っちまった。だって本心では壊しに来てんだから。…まぁしおらしく礼儀正しそうにしてたのさ…。すると夫は「離婚したので分かりません」と答えた。見た目普通の人だし、離婚しても年に一回ぐらい子供と会わすシステムあるんだろ?だから「知らないのはおかしいんじゃないですか?まだお子さん小さいのに、再婚もしてなさそうなのに…って言った。すると、なんか言いにくそうにしてんの…ずっと…なんかトラウマになるぐらい酷い浮気とかされたのかな?この人も振り回されたのかな?結局人間は何人も何人も不幸にしていくなーって考えて俯いてた…そしたら」
新アパートの住所をしぶしぶ紙に書いて渡してきた元夫。
でもどうしても聞きたかった離婚理由…。
「「迷惑かけませんので…」つったのに問いただしたんだよ」
子供に対する愛が無さ過ぎて不気味だった。前夫との子供も愛してなかったと聞いて、子供の将来の為にならない、と。
自分に対しては、男に対しては普通の対応。
だが一番は虐待を見てただけ、という重さ。それで無理矢理離婚した元夫。
「まぁ、その、元旦那さんは普通の人だったよ。離婚した理由もまぁ、子供の為…だから、それに対してはムカつかなかった」
一旦お茶を飲む悠真。
「最初は元子供に理由、他人に理由話せるんだ?って思ったけど、俺のこと間接的に知ってたわけで…。それで話は終わり。でも言いにくそうにしてるのがなんかひっかかった。もう関わりたくないからかなって。それか…元子供が見るにはきついぐらい金髪ド派手とかに変身してんのかなってさ」
そして翌日新アパートへ。
「居ねーっ!また別の表札。かといって元旦那問い質しに戻るとかじゃないし、もう探偵に頼んだ。金もそんなに無いし、なるべく日数早く終わってくれって」
遥が質問する。
「ああ生活費の方ね…。身分証明書いらない方のネットカフェとか24時間営業のカフェで寝泊まりしてたんだよ」
話を戻す悠真。
「んでもさぁ、都内結構探偵業多いし、暇そうな所選んだから早かった。たかが人一人の現住所調べるだけだから、有能高給の探偵なんか使わなくていいしさ」
探偵といっても探し物程度しかしない、フィクションの世界とはかけ離れた業界。
「それでなぁ、言いにくそうにすんのよ。ビジネスライクにサッと伝えたりせずさ…。親を探す未成年に言いにくそう…ってことは?男とっかえひっかえ、その度に子も設けてたのかな?って思ったりもして。「どうせ確認されに行かれるんでしょ?」ってかんじで住所書かれた紙渡されて、事務所出た」
ここで一度溜める悠真。
同じ気持ちを味わわす為、テレビ的な真似をしてバラエティ的に溜める悠真に、ため息をついている達仁。
「皆が言いにくそうにしてた理由、もうさらっと言っちゃうけど、そりゃー自殺してたらな!って」
「えっ!」
今迄黙って聞いていた遥が、流石に声を出して驚く。
「その驚きは「先にされてるじゃんかっ!この人っ!」っていう驚き?」
おどける悠真。
「…悠真くん…」
気丈に振舞っているのか、狂っていて、この話すらもエンタメに出来るのかイマイチわからない遥。
ただ感情移入しかかってまたこんな調子で、少し落胆している。
「おどけちゃってごめんね?」
いつもの躁鬱かと気にしない達仁。
真面目な顔に戻る悠真。
「大人にならサラッと言ってたのかも知れないけどさ」
老けてもいない悠真。未成年。片親と一緒に来るでもなく、一人で来る。何か抱えてそうな、心の弱そうな子供だとでも思ったのか…。
「「お母さんは亡くなられてますよーっ、しかも自殺でっ!」とか
言わない。古い事務所だから、逆に人情味あったのかもしれないけど、そこ濁すから俺、県越えて確認しに行ったんだぜ?」
遥が問う。
「あー、元旦那も連絡取れなかったら諦めるだろ。昔酷い目に遭ってんだし…と思ったのか知らないけどさ」
また話を戻す。
「表札確認したらさ、名前だけは知ってる、会ったこともない祖父の名前」
また遥から確認される。
「東京人だし、あんな親だからマジで会ったこともない。それで、母を産んだ者…俺を何代かかけて…血を途絶えさせることなく、俺…を産んだ元凶。ひいじいさんとかキリないけどな」
父の話からうってかわって、落ち着いて冗談も混ぜる悠真。
「でさ、家の前で、二代の前で自殺すんのもオツなもんだねって呑気に考えてた」
二世代の前で自殺を企てる三世代目。
「中を覗き込んだら。…誰も居ない家。近所に聞いたら誰も住んでないって。また探し回るのか、探偵無能だなって思ってたら、死んだって、祖父と、母も」
するとご近所さんが。
「家は役所が管理してる。頼んだら家に入るぐらいはさせてくれるんじゃない?血縁者なら…」と。
「あれだよ…俺の周り親戚いない奴、頼れる人いなさ過ぎ…引受人がいないから役所が遺品整理させられる物件」
更に、後回しにされてる建物。
「入る必要もない、苗字も違うから説明メンドイしやめた。真隣の人が色々教えてくれるんだけどさ…ちょっと山の方に住んでる田舎のお婆さんだから、井戸端会議的にペラペラ」
東京出身の悠真には珍しかったタイプ。
「祖母も離婚して居なかった。あ〜なんか俺のとこの血筋はそんなんばっか。ご近所さんが言うには、昔から母の泣き声が聞こえてきたんだって…でもそういう時代だし別に普通」
昔の時代だからといって、助け合いの時代でもなく、放置。2000年代に入るまで、虐待相談センターもなく。
「…普通の人ならここで「母も虐待に遭ってて可哀想だから。心壊れてるんだよ…」とか言うんだろうけど、虐待されたから、そこで悲しみの連鎖を止める。子供産まない俺からしたら、そんなの関係ない」
達仁も悠真も“それ“を真剣に、途中で絶対心変わりすることなく遂行する精神性の持ち主。
そこの重みは、本当に正義の為に自分を捨ててまで遂行しようとする常人ではない重さ。
だから繋がっている二人。
そこで損をしたくないから自分も産んでまた虐待する、世間の親。
虐待しなくとも、そんな理由で子供を持てないなんて嫌だから産む世間の親。自分の為に。
生まれてくる子供。人の為に産まない自己犠牲の二人。
「父のこともさ…いくら劣悪でも自分で選んだんだし。まぁ、普通の奴は「男運も悪かったね」って表面上な言うんだろうけど。まっ、その心が壊れてる人が実家帰ってきて、予期してなかった父というか俺の祖父の介護させられてたらしい。いやっ祖父っつっても若いんだけど、体壊したみたい。でも行くとこもない母は一応介護してたんだろう…よく分からんけどな、理由は。財産目当てかもしれないし」
冷めた目で言い放つ悠真。
「ていうか隣りのババアと俺の想像だけど、虐待された親の介護までしなきゃいけない…こんな人生…ってかんじで自殺したんだと思う」
徹頭徹尾厳しい現実というもの。
「詳しくは知らないよ。でももし、その自殺を祖父の目の前でやってたら…」
誰の身にも降りかかってくるもの、不幸。
「その後、祖父もショックでか、更に体力弱って病死らしい」
想像よりも更に酷い現実に言葉が出ない遥。
「だからさぁ、妄想なんだけどな…」
遥の表情を見て。
「遥さん、黙って聞いてるけど…「君がやろうとした大それたこと君の母がやってるー!」とかツッコんでもいいんだぜ?」
「…ユーマくん…」
哀れみを超えたものを感じる遥。
「いや…俺はもう狂いすぎて、この話をおどけて言えるぐらいになってる…ってことなんだけど」
「…」
たまたま取材にきた地下で、こんな境遇の少年と出会い、そのトラウマ、情報量の多さに圧倒され、すっかり遥の気力も無くなってしまっている。
「あーあのさっ、お隣さんさっ、悲鳴も放置、要介護だけど放置、別に祖父に声かけだけはしてくれてた…って訳じゃない、俺の見立てでは…。それなのに噂話だけは俺にガンガン言う。…別に隣人を助ける必要はないけどさ、その情報を自分達のエンタメ•暇つぶしに使うのはさ…」
他人を使用して人生の暇つぶしをする一般人。なにもヤクザや殺人者のように直接的でなくともこれだけいる悪意の人間。
他人を妬み、使い、バカにし、話題にする。
達仁が久々に口を開く。
「そういう奴ほど、自分の為に間髪いわさず警察呼ぶから、一発入れてやることも出来なかったんだろ?」
「はっはは…だって一応俺に情報くれた情報屋さんだし?プロの情報屋、噂話、野次馬、一般人様っ!」
苛立ちをおふざけに変える悠真。
遥は。
「…流石に実のお母様の…その…事の顛末はお父様にも伝わったんじゃ?」
「あー、だから…基本俺の話に出てくる登場人物は、社会不適合者。連絡も取り合わない上京者•東京人の中でもおかしい奴ら。だから父は知らなかった。もし知っていたとしても、子供にショックを与えない為に黙る•隠す…ってタイプじゃない。むしろそれを引き合いに出して俺を責めるよ。「あんな親の子!」ってな。「お前の子だよっ!」ってツッコミは出来なかったけど」
誰とも関わらず遊ばず、ただ仕事場から学校から帰ってくるだけの二人だけの生活。
酒飲んで終わる毎日の父。
「それは都会人っぽくもあるけど、マトモじゃないよな。誰も今何してるか分からない。行く末も分からない。便りをよこさない、頼る人の居ない、貧乏のその日暮らし」
そこら中にいる、貧乏人や社会不適合者の生活、現実。
「あーあ、自殺してやがった。自殺因子だけ遺伝しやがって…父のイかれたとこ、暴力的なとこ。母の訳が分からないとこ、心がおかしいとこ、それを受け継いだ、異常者ハイブリッドの俺」
凄く悲しいことを普通に言い放てる悠真。
「俺みたいな奴がまた異常者•底辺•不良•貧乏同士で子を産んで…って世の中。それは遥さんは分からないだろうけど、達仁は分かってくれる」
ふと悲しげな顔を見せる悠真。
母の死。
「物語だったら、新しい普通の夫の元で子供と普通の生活の中で、ふと我に返り、俺に申し訳なく思った。今の家族を捨ててまで死んで詫びた…ってそんな物語ないか」
少しでも成長して、ややマトモになって、何かを悔いていた。なんてエピソードもなく。
「本当の理由も分からないよ。ただ自分の境遇を呪って…俺と一緒ってか?」
結局何も親から受けていない悠真。謝罪も後悔の念もなく、教育も愛もなく、ただ死なれて。
「…まぁこんなかんじです。だから親が死んでたから、俺は今生きている。有言実行しない日和った、ただの構ってちゃんのほうが面白かった?」
遂げることも出来ず宙ぶらりんの悠真。
「…で、気づいてるだろうけど、復讐を自分の手で出来なかったそのショック。そのショックで止まるかというと…誰にも復讐出来なかったまま終わったら、それこそ何の為に生まれてきたのか。人にオモチャにされるだけの…まさしく物」
不安定な精神。それを保つには。
「やり返すことも出来ないとか…だから止まらない…天涯孤独。マトモに育ってないし、今更どうやって生活していくのか…復讐に狂って終わりの人生。誰も止めない。誰一人として止めない…だって俺、独りだから」
「悠真…お前…」
達仁が切羽詰まった言葉を吐く。が。
「…どんだけ喋ってんだ、もうそろそろ閉館っつうか」
「やべー、俺、入り込んで時間の感覚狂ってたわ」
慌て出す悠真。
「遥さん、これまだ続くけど…未成年のこんな話だから面白かった?」
「…面白いとか、そんな軽い気持ちで聞けるものじゃないけど…」
「達仁のように完璧に理解してくれなくても、女性に話すのも案外面白かったよ…それじゃ」
「あっ、待って」
「ん?」
「続きって聞かせてもらえるの?」
「あー俺、気分屋だから明日また来たとして、分かんない」
戸惑う遥。なんといって約束を取り付ければいいのか。
「えっと…」
「だから文無しの俺は達仁の家に居候させてもらってんの。無茶苦茶な関係だけど、そういうのが続くかなー」
「…ルームシェア、同棲。君たち二人の…」
顎に手を当て、興味深そうな遥。
「俺たちの生活に興味あるんなら、俺たちの家に来る?」
「えっ?」
あっさりとした言葉。
「先に言っとくけど襲わないし。襲うと思うということは、相手を犯罪者扱いしてるってこと…でも世の中ではそれが罷り通ってるけどさ、そんな心の醜いことを遥さんは言うかな〜?」
「それだと退路断ってるみたいだぞ」
「あ、そっか」
「後はホモと思うとか…そーいうのばっかだよなー世の中ってやっぱり。犯罪者•異常性癖者扱い。人様を絶対下のカテゴリに当てはめる。否定する」
勝手に喋り続ける悠真。
「で、どうするの?プライドを取るから、痛みが分かるから、襲わないけど」
あっけらかんと言う悠真。
「行ってもいいかな?」
精神的に潔癖性の二人の男を見て、信頼する遥。女性ライター。興味が上回る。
「OK」
帰路につく三人。
夜の東京。
「俺達は酒もタバコもしないから」
「あ〜、勿論安っすい所だよ。金持ちじゃないし…最低限の生活、ネット環境はあるよ」
「うん」
特に緊張などはしていない遥。記者として色んな連中と接してきた経験で、二人のことを異質ではあるが、危害を加えない、自分なりの正義感のある者と理解する。

徒歩圏内にあるアパートへ着く。
「…このちっさいアパートに住んでる落伍者がテレビ目指してる…まぁそう言うと芸人みたいだけど」
達仁がテレビ出演目指していることは軽く伝えた。
なぜ地下でそれを目指しているのかは理解出来ないが、あえてつっこまなかった遥。二人分の何か抱えた男。情報量が多すぎるから。それよりもこのまま仲良くなって、もっと色んな話を何ヶ月にも渡って聞いていきたい。
「夢を追って上京。ボロアパートで地上波目指してますってか?」
「そうそう」
鍵を開ける。
キィ…。
「お邪魔します」
建物は汚いが中はマシだった。
「…男の人の家なのに片付いてるんだね」
「今時んなこと…精神的に潔癖性だから家も片付いてるんだよ」
精神が外面にも部屋にも影響している達仁。神経質な人間。
「イかれた若者の家見て、知的好奇心満たせた?漫画みたいに壁一面にスプレーや血があるとかの方が良かった?」
「ん…行動は狂ってても、言ってることは理性的ではあるし…驚いてないけど」
見回すほど広くも物も置いてない部屋。
「あの…ね…えと…本当は死ぬはずだった自分から…助かったっていうか、なんか変な言葉選びになっちゃうけど…復讐だけの人生疲れない?達仁君っていう理解者と今、傍にいるよね?」
「あー…感覚がもう、狂ってるから」
笑顔を見せる悠真。
「それと…達仁は馴れ合う関係、助け合う関係じゃないっていうか…俺の考え•闇を全て分かってくれる…えと…分かったフリじゃなくて…俺と同じような感性•感じ方をする。他に絶対いない人。俺っていう別の人間を、闇を哲学を完璧に理解してくれる、運命のような人…だってんな奴いるわけないじゃん。他人に対する捉え方が一緒。悲しみも闇も本当の意味で理解してくれる人…。親でも、血を分けた一緒に暮らした人でも無理なこと」
盲信•妄信でなく、かといって教祖的な捉え方をしているわけでもない、ただの理解者。
ただ心の闇を本当に理解してくれる唯一の他人。だから信奉してしまう。
悠真の一方的な心酔。
達仁はただひとり。
年の差など関係なく、ただ達仁は悠真の精神を内包した上で独り。誰にも理解されず、自分しか自分を理解出来ない側の人間。
だからテレビの前で自殺する、できる。
「だからって、達仁がいるからって、これからは普通に生きていける、一度でも理解されたから生きていけるってもんじゃないんだよ。それに達仁は目的があって、もうそろそろ…半年、一年以内にはお別れするんだよ」
「…」
二人の言葉を理解するのが難しい遥。
「くっくく…愛の告白みたいだった?達仁は俺の中の神様…憐れみでもなく、嘘でもなく、人間の捉え方、心の闇具合が一緒。それでいて俺より…」
ちらりと達仁を見る悠真。
「言葉にすると安っぽくなる…けど俺より狂ってて、暗くて、弱くて、悲しくて、危うい…」
達仁が悠真を遮って。
「悠真が言ってるのは、先生などかやる、自分に酔ってる「俺はお前の理解者だぞっ!」って熱血系じゃなくて。何も分かってなくて、先生っていう普通に生きた存在…それが万人の秘めたる思い、裏側を分かるわけなく…安っぽい心の闇でも、甘えのうつでも、気を引きたいだけのメンヘラでもなくて、憎しみ、本気の憎しみとか、悲しみと怒りは違うとか…やばいぞ…今日二人とも言葉上手く紡げなさすぎ」
苦笑する達仁。
「だって、その説明出来ないもの…だから他人に理解されないんじゃん」
「悠真の心の闇が50だとしたら1しか理解出来ない…だって一般人なんだから。普通の人が分かったフリする。それを出来ると思ってる時点で…」
同じ境遇。傷の舐め合い。
一般人は弱者を叩くか、偽善ぶることしか出来ない。
「遥さんはお茶でいい?はい」
「ありがと」
「はい、クッション」
それぞれ座る。
「それで?えーと、最後のいじめ犯か。そいつヤクザになってた。またそんな奴に限って家庭持ってた」
今生きているのだから問題ないのだが、ヤクザと聞いて心配してしまう遥。
「いじめ犯、不良ほど、バカほど、避妊しない。考え無しの…意味無い子供…たまたま出来たっていうか、自分達で意図してない設定だけど…。出来たら出来たで箔付くとでも思ってんのか」
自分達の忌み嫌う者。
「最後にヤクザぶちのめすから、最後に悪を退治して、良い事で終わりってのも面白いかなって思った。ヤクザっていっても、下っ端中の下っ端。結局すぐ辞めるような…辞めても責任とか取らされないしょっぼい奴」
防犯カメラも無い。雑居ビルの小っさい組事務所。
「だってさぁ、ヤクザもコネだもんな?達仁」
「あぁ、大っきいとこはコネ。下っ端は雑居ビルの中〜上階へ詰め込まれる。表の社会と一緒で上層部はホクホク。下は捨て駒、社畜」
「まっ、そういう訳で特別恐いとかはなかった。そうそう俺が自分を壊れてるって思ったのは、格闘家とか試合後は興奮で眠れない。初めてマジの喧嘩した奴は奇声発してブルブル震え、興奮で余韻収まらないとかいうじゃん?俺、ずっとならなかったんだよ。逆に鎮静してんのよ。「次のターゲットは…」ってかんじで」
現代社会の中で自分を解放するのだから、後を引く興奮状態。それを超える冷め。
「それでね…下っ端さんは。えーと、田辺は。外出てきたとこ声かけた。どうやって人気のないとこに誘うか考えてたら、あっちから移動してくれたんだよ」
達仁が推測する。
「上に迷惑かけたくなかったんだろ」
「そんな気使うんだったら、ギリギリまで高校生活やってりゃよかったんじゃない?今はそのモラトリアムも大学生まである時代だしさ?大学卒業まで好きに酒飲んで、親に頼って、人をいじって、素晴らしい生活して、後も中の中で一生生活して」
「それを女妊娠させたり、カッコつけたりでヤクザになったアホ…か?」
「後、ヤンキーがなるのは車の整備士と土木作業員だけど…いつも通り脱線しちゃった。サッと行くよ?」


路地裏へ移動する二人。
「家庭持ったんだね。ヤクザって人に恨まれるし、君は特にいじめっ子だったからダメなんじゃない?」
「何が言いてーんだこら!?」
相手の怒声に怯えることなく、突然目の色が変わる悠真。入りきる。その、人を憎む、自分で脅すという行為に入りきる。
「あ〜、奥さんっていうか…彼女妊娠してんだろ?今の俺の雰囲気見て何が言いたいか分かる?」
瞳孔が開き、顔は血の気を引き、青ざめているのに、狂った妖しげな笑顔で語りかける悠真。
「は!?お前マジで言ってんのか?美香は関係ないだろ!?それに妊婦だぞ!?」
「はい〜バカ特有の、名前言っちゃう出ました〜。ま、知ってんだけどな」
どこまで調べられてるか分からない田辺は戸惑う。
「お前らよぉ…仲間逃がす時に「浩二っ!お前だけは逃げろーっ」つって警察に名前バラしちゃうタイプのアホだろっ?!」
嘲笑する悠真。
「…お前本当にあのユーマか?」
「因果応報って知ってるか?バカヤンキー。あのさっ、俺は逆に喜んだのよ…二人分殺せると思ったら三人分になったんだから…バカの為に補足しとくけど、三人目って胎児な?」
あり得ない感情•セリフに気圧される田辺。
「なにヒイてんだよ…ヤクザって女子供殺しまくる職業じゃなかったっけ?…あぁ、これも皮肉で言ってんだけどな」
ここまでのセリフを吐く異常者。何をするか分からない。脅しかどうかの判断も出来ない田辺。
「俺って守るモンが無いのよ…だってお前らにマトモな生活奪われたんだからさ」
「なんでたかがいじめごときで家族まで殺されなきゃいけないんだよっ!」
怒りと緊張で顔つきが変わってゆく悠真。
「いじめってされた方が悪いんだろ?んじゃあ、今回のはお前が悪いんじゃないの?」
「はぁっ!?何言ってるか全然分かんねーっ!お前美香に手ぇ出したら殺すかんなっ!」
真正面から田辺を捉える悠真。
「お前にその覚悟あんのか?人殺し、本物の人殺しになる覚悟…。俺はあるよ…お前らはストレス発散してただけの奴。心歪まされた俺。ヤンキー特有の「殺すぞっ!」じゃなくて本当の本当に殺さなきゃさ、止まんない…」
田辺が止まってしまう程の気迫が悠真にはある。
「リンチで一本骨折られたくらいで止まるんなら、ヤクザ相手に乗り込まないだろ?!」
説得力のある言葉と圧力。
「俺の本気度分かるか?警察に頼るでもなく、一人で来たんだ」
「お前っ!…お前っ!!」
パニックになる田辺。それしか言えない。
「今話してみて、俺って…刑務所まで追いかけるタイプ、それか出所後すぐまたやって来る狂人だと思った?思えた?」
言葉責めも好きな悠真。追い詰めることに喜びを覚えるようになってしまっている。
「上には頼めないよな?下っ端だし。俺って、お前もだけど未成年だし。上のヤクザさんは来ないよな?」
「なんだよっ!お前っ!金かっ?金で許してくれんのか?」
「…金で元に戻る人生って…なんだ?」
一際強い怒り。
「…っ!」
(おいおい…こんなヤバイ奴だったのかよ。あのやり返してこない、いじめられっ子ユーマがよぉ〜)
冷や汗をかく田辺。
「あのさぁ、殺さなきゃ止まらん俺…でも殺したら、今の時代、ハクがつくどころか迷惑かかる…詰んでんだよっ!お前はっ!」
ヒザをつく田辺。
「ん?…土下座…ねぇ…。俺のことさ…少しでも怖いと思ってくれた?怯えてくれた?」
おどけ口調にホッとするわけもなく、狂人のコロコロ変わる感情に更に恐怖する田辺。
「あ…あぁ…」
「ネタバラシすると殺しませんっ!ワーッ!」
「…は?」
「いや、態度次第ではヤるよ?でもね?他の奴らもターゲットなの、復讐していってんの」
「…マジかよ…」
「殺さないって聞いて緊張解けた?」
「…いや」
(やべーこいつ、殺人者•変質者的な雰囲気…ヤンキー上がりの方が全然マシだって…)
気づくと、更に脂汗をかいていたヤクザ、田辺。
「かといってこのまま無傷で帰すわけないよ」
(ちっ…)
「俺が折ったらメンドイから…だって流石に折れた理由聞かれて、俺、ヤクザに酷いリンチされるでしょ?面子の為に…一方的にやられた場合はさ?」
一家皆殺しまで行くとヤクザも別問題で関わってこない。
「さっきの話は無抵抗の素人、未成年の俺をお前が殺した場合は…ってやつ」
妖しい笑顔で近づいてくる悠真。
「だからいい案があるんだよ…お前が一人で2〜3階の高さから飛び降りんの」
「はぁっ!?いやいや待てよオイッ!」
「やる前に酒飲んでね?酔って高い所から落ちちゃった馬鹿って設定で…。それをやれたらさぁ…他の奴らにはもっと長い追い込みかけてんだけど、それが出来たらもう一生お前の前に顔見せないから」
「ちっ…」
とんでもない奴に絡まれた、と被害者意識すらある田辺。
「酔ってたら痛覚鈍くなるし、いーんじゃない?酒グセ悪過ぎってことで無駄な飲みにも誘われないかもしれないしさ…」
ずっと笑顔を絶やさない悠真。
「…断ったら?」
「あのさ、そうやって言ったらヤクザもいじめっ子も虐待も許してくれんの?そんなすんなり…」
過去を思い出しうなだれる悠真。
が、すぐ切り替える。
「…もしお前が家族なんて知ったこっちゃない!好きにしろっ!って俺をボコってくるタイプだったらどうしてたかなぁ」
すぐ目の前に、現実にいる異常者。
おどけ口調が癖になってしまっている少年。
170cmのただの少年が、憎悪によって変貌した姿。


ーーーーー達仁のアパート。
「ってなかんじ」
「あーいう奴らに自分で自分を傷付けさせるってのは、痛みが分かって更生させられる…ってのは建前で。見てるの楽しかった!面白かった!…女性の前で言うことじゃないけど」
悠真が入りきってる間、達仁がちょこちょこ擁護をいれてはいるが…先程までの悲しみの少年から加虐のイメージへゆく遥。
「あ〜、言っとくけど達仁は正義寄りだけど、俺は人のことなんて…だって俺は狂わされたんだから、仕方ないだろ?…これ、一般人がよく言う、あいつらの言う正当化の真似。人のせい、人のせい、本当に人のせいかは分かんない…俺はな?でもあいつらの言う自分の失敗を人のせいにして押し付けんの虫唾が走る」
遥は。
(達仁君はつっこまないけど、自分で自分を傷付けさせる、鬼畜さ。それもいじめじゃないの?…でも彼の纏う雰囲気、物悲しさのせいで私も…そこまできつく思えない…)
変質させられた者だと悠真を庇う達仁。自分からは絶対に危害を加えないとも。
「ん…」
「ってわけでさ、ギリ犯罪者じゃない俺。今も生きて表に居る。それも皮肉なかんじだけどさ。…いや、遥さんが密告すれば…」
「いえ…あなた達は歪んでるけど嫌いではないし、勿論内緒、それにあなた達を敵に回したくない」
「えっ…女の人に恐がられるのってショックだな、タツ」
「…あー…」
「…えーと…」
「ああ、普通のリアクションしちゃダメなのね。俺のキャラは情緒不安定で躁鬱病でオドケるかんじだし?」
短期間で理解出来る、浅い若者的な部分と闇深さ。
「ああ」
「話戻るけど、その後下っ端ヤクザさんはさぁ。「こいつ酒弱過ぎてマンションの2階から落ちて骨折したアホ」ってなかんじで、いじられ役に回ってんのかね?自分より強い存在の上のヤクザに対してはいじられ役に回って、その反動で一般人や手下には思いっきり鬱憤晴らしして、また被害者増えんのかな?」
廻り続ける、連鎖。不幸を人に与える人間。
悠真が頭によぎったのは後悔ではなく、人間社会というものへの憂い。
達仁が遥へ向かい。
「記者さん…俺らは憂いて、悟って、諦めて、冷めて」
悠真が遮って。
「記者さん?ノンフィクションルポライター編集記者作家を記者さんって言ってんの?記者って呼び方芸能リポーターっぽくない?」
達仁の真面目な話を下らない話で遮る悠真。ころころ話が変わる。
「君達、本当によく分かんない関係だね。友達でも仲間でもあるような」
年の差のある二人。
「利害関係がある意味ないからかな?この流れで最後の話、俺達の出会いの話始めよう」
最後のエピソード。
「いやっ待てよ。言ってなかったことあった。俺、一度も達仁にすら苗字教えてないんだ。親が嫌いだから。俺を産んだのはこの名字だから…。…かなり深い意味で言ってるんだけど?」
真意を量りかねる遥。
「まっ、いいや、じゃあ続きね」
およそ常人では想像もしない理由。どうせ理解出来ないのだから取りやめる。
そして話の続きへ。

復讐の終わったあと。
空っぽになった自分。目標•希望の無さ。奪われた未来•将来。
だからといって、なんとか下の上で家庭作って生きていける程マトモじゃない。
壊された悠真。
復讐が終わって緊張が解け、突如現実、あるいは“何か“に怖くなって夜の街を叫び走り続ける。
関わらないよう離れる一般人。
東京の街。誰も助けてくれない無関心な冷めた都会人。気持ち悪がるだけ。
警察も「夜だし酔っ払いだろう」と放置。なるべく面倒臭いことに関わりたくない。テレビなどでやっている警察ドキュメントは作られたもの。ネズミ捕りや自転車盗難捜索で点数を稼ぐだけの、たまたま警察を職業に選んだだけの正義ではない者。
二人以上同時に叫んでいれば薬物を疑い職質。
だが、繁華街には今でも腐る程の酔っ払いがぐだり、叫び、吐く。
ストリート芸人が大声で人の気を引く。そんな者をいちいち相手にはしていられない。警察は通報があるまで動かない。

知的障害者と間違われる程の狂った叫びを上げていた悠真。
ただその中で一人だけ、心の闇からくる衝動であると見抜く達仁。
追いかけ走る。
同じ壊れ人の達仁。達仁だけが声をかけてくれ、話を聞いてくれた。
もし警察に呼び止められていたとして、その先に悠真が何をするのか?送り返されるか、解放されてまた無。
達仁は優しく。
「痛みを知ってるから、だから俺は絶対にお前を否定しない」
たったそれだけのことでこの人は自分に冷たくしない、ずっと本当の意味で受け入れてくれると感じた悠真。
人の痛みが分かるから悠真に優しい。その何かを感じとって、全てを話した悠真。
自分の行動を責めないどころか褒めてくれた達仁。
行く所のない悠真は達仁についてゆく。
することもなくアノアに入り浸る悠真。

「でー、俺の生活なんだけど…」
「待て」
悠真を制した達仁が遥を見る。
「おかしくなった人を見て、可哀想と思うんじゃなく、「気味悪い…」となる他人。自分は普通側の人間だから、おかしくなんてならない。なんでなるのか分からない。マトモに生まれて余裕があって、その余裕を何に使うかというと、人をバカにすること。他人だから可哀想なんて思わなくていい、放っておく。そこまで追い詰められた人間、狂った人間を更にバカにして惨めにすることがあいつらのすること。他人だから何も思わないんならまだマシだが、汚物を見るような目で見て拒絶して…」
人間の性質を憎む達仁。
遥は今時社会に何か思うなんて珍しい若者だなとしか思えない。
悠真は。
「あー、俺のこと周りはそう見てたんだ?初耳。まぁ、達仁が手を差し伸べてくれたからいいんだけど…あっそうか」
首をかしげる遥。
「あのまま達仁と出会ってなかったら俺、どうなってたんだろ…。つっても今も社会復帰した訳じゃないけどさ。精神病院行きかなっ?」
明るく言い放てる悠真。
いたたまれないといった表情の遥。
何も持っていない悠真。狂いしか。
「それで、俺の生活費さ、達仁が、全て出してくれてる」
達仁の狭いアパートに居候だから家賃も要らない。ほとんど外にいて電気•ガス•水道代も特に変わらない。携帯代も娯楽費も教育費も交際費も服も要らない。
アノアまで徒歩圏内。
「実質メシ代だけ出してもらってるだけ…って軽く言ってるけど、達仁には勿論感謝してるよ?」
イビツな二人の生活に、本格的に好奇心が刺激される遥。
「うん…分かるけど。じゃあ達仁君は収入は?」
「今はファイトマネー。貯金崩したり。…ある目的があってそこまでの生活費があればいいから、将来の為の貯金とかもしてない」
「…?」
腑に落ちないが、達仁に対してはまだ深入り出来ず、質問はしない遥。
「後は俺も浪費しない。目的の為に突っ走ってるから…」
最低限の生活をしている達仁。すぐ終える人生だから本当に貯金もせず。
「面白い試合をしたらボーナスくれるんだよ、あそこは」
「唯一かけるのは体作りの為の食事•サプリ•プロテインぐらいかな」
「くくっ…驚いたでしょー?男二人が定職に就かず生活出来てて」
達仁のことも自分のことのように笑う悠真。楽しげ。
何か目的がある様子の達仁に問いかける遥。
「でもこんなとこで燻ってる」
「暗くなることしか出来ないのかもな、日陰者だから」
あくまで冷静に自己分析する達仁。他の不良•格闘家のように派手な迷惑行為をせず。
だが悠真は違う。いくら悲しみがあろうが、復讐なんて…。しかもやり方も悪人そのもの。
そこを突っ込んでみる遥。
「正義的じゃないよね?」
「俺の方は暴れてるだけって?虐待をうけた子供は脳が…だから俺がおかしいのはそれってことにしといてくれ、自覚はない」
(自覚がないのが危ないんだけどね)
達仁も方法が無いのか、放任してて治療しようともしない。精神薬など飲んだところで、傷は消えないのだから。
「でもさあっ!」
いきり立つ悠真。
「“奴ら“は人のせいにするなっ!って言うんだよ?何も知らない、何も見てないのに。いざ自分がクビになったら、社会•他人•国•政治家のせいにするくせに、絶対自分は責めない。他人にやられたって。それでも、本当に他人に捻じ曲げられた俺は、黙らされる…。…って興奮しちゃったゴメン」
先程から遥が引っかかるもの。
下(げ)じゃなく、中(ちゅう)に対して怒ること。
一般人やその一般人が作り上げた社会の空気や悪意というものに。

「達仁はね、目的があるんだよ。このまま地下で闘ってたらテレビに出れるらしい。そこで有名になったら訴えたいこと」
「それはなに…?」
「キーワードとしては」
“弱者“を叩く人間。“逃げるな“と言う逃げている人間。 “一日も休むな“。なぜなら、“損、得“だから。“社会、会社“がそうさせるから。その社会を作るのは“一般人教“、と言っていいぐらいの一般人の空気•妬み•他者の否定が作った宗教。奴らはなぜか謎の“誇り“がある。あるから“上中下“を決める。そして自分が下にならないように“ハードル“を下げさせる。これに反するのは“クリエイターや有名人“。

「訴えかけたいことがあるんだよね?物書きになったら?私が勧めるし」
地下で生活するへんてこな若者というフックがある。
悠真が答える。
「っていうか俺ら二人共、本も読まん…し中卒。…嫌な…人間というものだけを見てきただけの経験と知識しかない。怒りしかない。だからマトモな方法じゃダメなんだよ」
流石にライターであり、女性である遥には自殺のことは伏せる二人。
ただのトラウマからくる社会派の言葉を聞いて欲しい二人…程度に留める。
なんでもない人間。学歴すらもなく、勉強も本も読んでない。周りの人間を見てきただけの、“考える“ということをしてきただけの。

「こんな生活長く続けられないって分かってるよ。達仁に養ってもらってて、達仁が死んだら俺はホームレス。仕事探さず、刑務所でも行くんじゃね?」
希望、欲しい物が無いから死ぬ。
幸せがないから生き急ぐ。
「のたれ死ぬさ…それしか出来ないから。何もしない、希望が無いから。絶望と向き合うだけ。今ほんの少しの間、惰性で生きて生きてるだけ…。だから平気で命を捨てられる。守るべき者もいない」
凶悪モードでない、脆い儚いモードの悠真。
するとやはり心が痛む。遥は見た目から、年の差から、悠真を弟のように見えてしまう。
今日初めて会っただけの少年。だが、その半生を聞いたことによって感情移入してしまっている。
悲しいからこそおどけるのか、狂ってしまっているのか。
ふと見える普通の少年っぽさ。
変質させられた者。普通の経験•成長をしてきていない。被虐だけはある。不幸だけは味わわされてきた。
既に未来を捨てている。生きていく情熱のない。
それでも生きたとしてなにがあるのか?
ただ達仁の目的を見届けるだけの、自分を捨てている少年。
今を派手に刹那的に生き、このまま終わる悠真。
遥が元々持っていた夢も無いのかと聞く。
「俺は、俺の方は格闘の才能も無いから、今を生きて終わり」
幸せというものを知らないからマトモな努力をしない。
「何も出来ないよ…」
結局、自殺しなかったところで、死んでるのと同じ少年に憐憫の情を抱く遥。
過去のせいで成長できず、その後も停滞。その先に…。

「達仁は裏切らないから、絶対。数ヶ月の仲だけど…。考えに惚れ込んだんだし」
「俺だけは変わらないでいてやるよ」
途中で日和ることも改心更生することも妥協することもない。
小さな声で言う。
「達仁のは本心だもんな…っていうか死んで、変わることも出来ないんだけどさ…」
されたことを忘れて生きることはない、囚われたもの。

かなり話し込んで夜遅くなってしまっている。キリも良く、今日は帰る遥。

遥の雰囲気。ライターだからというよりは本気で心配してくれてる部分も見せてくれた遥に、姉性を感じる悠真。
両親は敵。母性を感じたこともない。兄がいたとして、兄も一緒になって虐待のストレスをどうせ自分に与えていたんだろう…と想像する。傷付けてくる男。八つ当たり。犠牲。矛先。下の下。
姉が理想。姉を欲しがる。
それだけは、達仁でも察せない。
遥が帰った後も玄関ドアの方を見つめ続ける悠真。



翌日。
達仁の試合まで時間がある。
一人で控え室で休む達仁の元へ、古株っぽい男が近づいてくる。
30歳くらい。180cmぐらいでゴツめのガタイ。
この男もここの選手。見た目は髭を蓄えた粗暴そうな男。ワイルドというか、少し汚らしい風貌。
達仁に話しかけてくる。
「なんで勝った時喜ばない?」
達仁は冷めた目で。
「こんな所で勝ったところで、喜ぶかよ」
怪訝な表情を見せる男。
「ならなんでここで闘ってる?」
「都落ちだ」
最低限の言葉。だが古株の男は理解出来る。
「都落ちって、俺やったことあるけど、あいつら元々スポーツ寄りでやってる奴らだから、しょっぱかったぞ」
表ではしがらみがあって出来ない者。ジムから除籍された者など、爪弾き者が最後に集まる場。アノア。地下格闘技。
「プロ落ちとやりたいんだったら、普通に表のジム通って表の大会目指せよ」
他の腐った者達と違って何か目的がありそうな達仁。が説明を始める。
「格闘技って身一つで出れて簡単に見えるけど、携わってる人間は特殊だし」
ジム同士の遺恨。
スポンサー、タニマチなど探して媚び売る。
チケットも手売りしなきゃいけない。ジムに買い取らされる所もある。
貧乏な、格闘家を目指す者達を更に酷使する。
「不良って友達多いだろ?」
そういう者の方が興行から重宝される。クラブのパー券が格闘技に代わっただけ。
実際、元不良仲間みたいなので会場の1ブロック固まる。が、身内同士で盛り上がってるだけで、仲間が多いタイプの方が純粋な一般ファンってのが付きにくい。
「草野球•地域大会ってかんじで…」
トップ選手は勿論ファンだけで集客できる。自分に価値があるから手売りしなくてよい。
「で、金の事を気にしなきゃいけないから、ファイトパンツにダッセー町工場•町の居酒屋のスポンサーワッペン貼って試合しなきゃいけない」
自分がデザインしたファイトパンツ履いて芸能人みたいにそれも含めて自分•自分の個性っていうセルフプロデュースも出来ない。
男が同調する。
「あぁ、そのロゴのTシャツ作って売れたりするからな、テレビに出れるプロは」
「後は…」
道場に金払っても、個体差無視で学校みたいに同じスタイルに矯正される。
一般人から抜け出す為に格闘技やるのに。
個人競技なのに。
エクササイズ目的の奴らと一緒に練習させられて無駄な時間使って。
選手数に対して興行も少ない。
「スポーツ化も嫌で、セコンド無しで、本当に独りで闘いたいんだ」
こだわりのある達仁。
「それにここの奴らの方が色んなのいて闘って面白いから」
アマチュア格闘技しか経験のないものや、喧嘩屋、パワー自慢、中国人などもいるアノア。
「俺も分かるぜー、総合格闘技ってなんでもありがルーツなのに、今じゃテレビ用に制限されまくってるし、プロはカタい同じ闘いばっか。で、理由はそんだけか?」
「…だから、こんな所でやってるから分かるだろうけど、マトモにジムで練習して色んな人に媚び売って、普段は一般人ヅラして生活とか…出来ないんだよ」
社会不適合の者。
「はみ出し者ってやつだもんな」
「ここで色んな喧嘩屋•プロになれなかった者•目や脳に問題あるけどここで闘わせてもらえるやつ…なんかをぶちのめしながら実戦積む方が性に合ってる」
ヤクザの資金力に依存したもの。
「派手な試合さえすれば、ポンッとボーナス出してもらえて、飲み会付き合わされることもない。ご機嫌取る必要もない。さっと帰れるここがいい」
オーナーの須賀は、必要以上に選手に関わってこない。昔のヤクザのように面白ければ、気前良くボーナスをくれる。地下の者にとって非常に都合のいい者。
「まっ、健康に対する保証とかないし、裏の仕事ってかんじで、羽振りはいいよな」
達仁は古株っぽい男に向かって。
「中途半端なプロ落ちしかこないけど、数年前トップ選手がここで一戦したって」
「え?そうなん?」
達仁よりは長くいるが、かち合ってはいない男。
「マトモな生活は出来ない俺はそれを待ってるんだよ」
寡黙そうな達仁。だが、人に伝えたいことは、知識量はある。
「お前もっと喋らないタイプだと思ってたけど、格闘技詳しいんだな…。他の奴らっていかにも落ちこぼれってかんじで、マトモな受け答えすらもしない奴とか「格闘技知らん。ただ喧嘩したいだけ」って奴も多いしさぁ…格オタ(格闘技オタク)同士もうちょい話そうぜ」
見た目のゴツさと違って気さくなかんじの男。
名は笹田だと言う。
達仁の試合をいつも見ていたが、気難しそうな寡黙そうな達仁に声をかけられずにいた。
達仁の方は他の選手の試合を見るのは気分の時だけ。
笹田のことも見たことあるかも程度の認識であった。
「悠真が戻ってくるまでなら」
「あ〜いつも一緒にいる10代の奴?50代くらいのヤクザとなんか話してたぞ」
「ふーん」
話題を戻す笹田。
「いくら地下のレベルとはいえ、お前ずっと連勝してんじゃん?格闘技好きだからこそ言うがマトモにジムに通ってないのになんで…強い?寝技は絶対スパーこなさなきゃ強くなんないだろ?どうした?」
今地下にいる笹田も昔は道場で真面目に練習をしていた。だからこそ生まれる疑問。
「格闘技•武術って、自分だけが知っている技術が多ければ多い程勝ちやすくなる。だから他のスポーツ•立ち技の何十倍の技術論をまず叩き込んでんだ」
オリジナルの技術も編み出し、真剣にノートに書き出し勉強する達仁。
「だって、疎かにしたら自分が相手に壊されるんだから」
「寝技は頭良くないと無理。チェスみたいなもんってよく言われるよな」
まぐれ当たりでも勝ててしまう打撃•立ち技と違って、道筋のある寝技。だからこそ寝技にまぐれ勝ちはない。非常に細かいシステマチックなもの。
「学力低そうな、あったま悪そうなヤンキーって取っ組み合いしかしないもんな」
相手と自分の八本の手足•首二つ。ここから繰り出される、絡ませる技術。寝技•関節技。
「スポーツ柔術でしか使えなさそうなものも取り入れ、頭の中で新しい技術も編み出し、本や動画を読み漁ってきた。相当な時間が必要だったけどな…」
一見何もしていように見えて関節技極まってるもの、カウンターのカウンターのカウンターまで叩きこんで。
「まぁ、そんな甘いものじゃないって、分かってるからスパー相手は必要だった」
都会住みの達仁。
達仁にとって運良く、浜松に移住してきて、そこでまた落ちこぼれて東京に流れ着いた、片言のブラジル人と数年前に出会うことが出来た。
寝技最強のブラジリアン柔術の国からやってきた者。
静岡や愛知などに出稼ぎにやってくる者。
ブラジルと日本の関係は格闘技的にも、相互移民的にも深い。
日本人が伝えた柔術をブラジリアン柔術へ昇華させたブラジル人。
「柔術紫帯だけど、まぁ黒帯じゃないけど相手さえいてくれれば技の確認出来るから金で雇った」
「そんな金持ってたのかお前?」
「ブラジル人基準だし、一日数時間拘束するだけ…やっすい金だ」
「どうやって競技者って見抜いたんだよ」
非常に素朴な疑問。
「道で飲んだくれて転がって「日本人なんかに何がわかーる、私はジウジツでオマエータチ、コロセールヨ」って言ってた」
「はぁっ?そんな奴でも良かったのかよ?」
「ジムに通うのはどうしても所帯染みてて嫌だしな」
とにかく普通を嫌う達仁。逆に飲んだくれな先生の方が性に合っていた。
「そのカッコツケは分かるけどさ…一ヶ月毎の月謝も高いし。そのブラジル人は今?」
「知らん…紫帯ごときじゃ、ジムも開けないし、刑務所行きか、国に帰ったんじゃないか?言っても片言だし」
本当は紫帯ならセミナーぐらいは、二次的な指導員ぐらいは出来るが、黒帯が世界中にいる以上、競争の世界。ジムが成功するのはテレビに出れるレベルの選手のみ。
「お前の気持ちは分かるよ…あくまで漫画的に独りで鍛錬して強くなったことがかっこいい。スポーツ的に教えてもらって徐々に実力が上がるのじゃ駄目っ…ってそんなだからここ、アノアに居るんだよな」
漫画や映画のような、表のドームと同じ規模ではなく、ビルの地下のひっそりとしたもの。
地下のある程度の広さの空間。
数百人が入れる箱。
ヤクザの有り余った資金でライトや音響などを導入。
悪趣味な金持ちがスポンサーし、下卑た笑いで見世物として見る側面。
裏格闘技を楽しむ、格闘技好きが集まる側面。
理由があって表のリングでは闘えない者の、実力は申し分のないしっかりとした闘いや、元アマ同士の異種格闘技的な闘いなども。
プロレスマスク着用(面白い)で闘ったり、スーツ姿(動きにくい)で闘えばボーナスがもらえる色物枠も、前座試合としてある。
ヤクザは一般人の予想を超える程の金を有している。
レフリーぐらいは表でやってる者を雇える。
表の大会は数週間に一日、日曜に やるだけなので、レフリーは簡単にスケジュールを空けさせられる。
後は子飼いのヤクザ下っ端に仕事を覚えさせスタッフとしても働かせる。
下っ端ヤクザも地下格闘という響きに酔い、率先して手伝う。
須賀の気分で小さなリングでやらせたり、何も設置せず、床がコンクリートの状態で闘わされることもある。
でもその適当さが、地下の住人には堅苦しくなく、受け入れられる。
絶対に投げられちゃいけないと、より集中するし、怪我さえしなければ数日に一回は闘えるアノア。
弱い相手と何十戦することも、怪我なく経験を積める大事なこと。毎回強敵と当たったところで、怪我してすぐ現役引退まで追い込まれるケースもある。
「ここで、不良外国人ともやって慣らしてきたんだよ」
特殊な実力の上げ方。
そして、最後の寝技が強いことへの補足。
「(寝技の)極めが本当に強いのはプロにしかいないし、いざとなったら動物的本能でも逃げるし」
「あーそれと、本番に強いタイプってのもあるんじゃない?」
「本番は本番でもここは、膠着せずに派手にすればギャラup。仕留めることに、殺るか殺られるかの為にやってて、判定でスポーツ的に勝とうと思ってる奴らはいないし、尚更だな」
話の弾む二人。格闘技談義。
「お前はよくボーナスもらってて羨ましいよ。でもここまでくると言われる議論の「金的はない、武器は使わない」ってのに対しては?」
ほぼノールールのアノア。
「単純に嫌いだから…。でも漫画的な価値観•国民性。ブラジルでも日本でも、一対一で武器なし目潰し金的以外なんでもありで勝つのは漢らしい、格好良いって思われてるんだから、そこに甘えるよ」
総合格闘技に提示される議論。総合格闘技ですら喧嘩ではない。だから意味ないと価値を落としてくる。
笹田は漢の矜恃を好む者、同調し。
「だな。ていうかまぁ、アノアやってるヤクザさんに感謝なんだけどな。こんな場を与えてくれて」
東京のヤクザ。須賀組の組長須賀が趣味でやっている地下格闘技。
地下格闘技という、映画的な響きに魅せられ、私財を投じ、自分の格闘技を楽しむ須賀。
ただヤクザ者ならではの自由さがあって。
「まぁ、演出しなかったり、気分でリングアナ呼んで雰囲気作ったり、前倒しでいきなり闘らされたり、あくまで趣味なんだけどさ」
「本当に感謝すべきはソーゴールールってとこだろ。寝技よく分からないから立ち技だけって言われてた可能性もあったんだから」
演出や場以外。ルールはとにかく喧嘩に近い総合格闘技ルールでやらせる須賀。
そこだけは男としての矜恃がある。
「とにかく須賀さん一人で趣味でやってる。余計に関わってこない。金はいい。目潰し無しなので、重大な障害は起きない」
武器ありや、多対一など。漫画みたいに完全にノールールでやったところで、死体処理も面倒。有望な選手も一瞬で壊れる。選手も敬遠して集まらない。
そこはリアリズムで、マトモな総合格闘技をさせる須賀。
「でもレフリーが止めるの遅めで、暴力のカタルシスは長く味わえて、誰も勝敗に文句言わない」
服は裸でも、シャツジーンズでも凶器さえなければいい。床コンクリの試合も半数。
「で、喧嘩っぽいと。俺達には都合良くて、逆に申し訳ない気持ち」
特別な選手として、須賀と口が利ける立場の達仁。
「日本だからだろ…。昔からずっと格闘技をテレビ放送してて、同じ価値観を有してるんだよ」

と、そこへ悠真がやっとやって来る。
「何してたんだ?」
「あー、あのさー、オジサンヤクザにスマホの使い方教えてくれって頼まれてさ…」
「若者だからか?」
「そう「君なら分かるだろ?」って」
一人10代の悠真。
その後、悠真と笹田も案外すんなり打ち解ける。
「お前らが来る前っていうか、綾瀬が来る前」
話に花が咲く。
「父と息子を闘わす、悪趣味なんだか家族愛ものか分からん試合があったんだよ」
「それは…結果次第だろ」
冷めている達仁。
目を輝かせる悠真。
「結末か?やっぱり子を親は本気で殴れないし、花を持たせるから子が勝った…んだけど、試合自体はつまらなかったぞ。それにもうやりたくないってことでもういね〜」
先程までド派手なマッチメイクに目を輝かせていた悠真。だが、「親は子を殴れない」に反応し暗くなる。
達仁の視線に気づき、直ぐに気分を取り直す。
そして質問。
「なぁなぁ、芸能人とかは出なかったのー?だってあいつらテレビで「俺、本当は喧嘩強いから」って言ってる奴いるじゃん?」
「いないな」
「幻想が壊れるのが嫌だから、絶対に奴らは出ない。口で作った幻想というものに、自分が作り出した自分だけの世界に浸ってるのさ、あいつらは」
歯に衣着せない達仁に親しみを感じる笹田。
「俺な、別にやる事なくて暇なんだ。何か話そうぜ」
落ちぶれて地下で友もいない笹田。少しでも人と関わっておきたい。
「話ぃ?」
顔を見合わせる達仁と悠真。
「あぁ…都落ちと闘ったらもう満足して表の社会に戻んのか?」
「都落ちとやった後、テレビに出るつもり…」
「はぁっ?…まぁプロに勝てるぐらいなら、出れるかもな。何?お前有名になりたかったの?」
「…」
答えあぐねる達仁。
「達仁、昨日みたいに知ってもらうのもいいんじゃない?一人ぐらい」
控え室には他に誰も居ない。
「…テレビに出てな…人前で自殺すんだよ…」
真剣な顔で言い放つ言葉。
「…あー、やっぱり地下に居るだけあって、ヤバイのね…」
やはり一癖あったか…とげんなりする笹田。
「…」
「…」
静まる室内。
「え?俺が悪いかんじなの?」
地下にいる若者二人。他の者と違う雰囲気。意志のありそうな目。
「…まぁ、一応聞いとくけど、なんでするんだ?」
「人一人の心の闇を見せつける為だよ…」
言葉の選び方が他の社会不適合者とは違い、何かを感じ取る笹田。
「そのついでに、人間というものも叩くんだよ。一般人叩き。タブーとされてる」
「一般人叩き?…一般人はそりゃあ数が一番多いんだから、タブーなんだろうけど」
狂言のはずのものを聞き入ってしまう笹田。
「なんで、自殺すんだよ?そこまで怖いもの、憎いものってなんだよ?」
「…人」
「おいおい…知り合った奴が死ぬのなんて嫌だぜ?」
こんな底辺からテレビに出るってだけでも世迷い言なのに、初めて会った人間に自殺計画を打ち明ける人間。
だが、そんな人間から目を離せない。

悠真に振り向き。
「っていうかお前さん、毎日こんな話聞いてるのかよ」
「っていうか、俺も同じような立場だから」
軽く言い放てる悠真に辟易する笹田。
「…」


「そもそもなにか思想を持ってたら異常に叩かれんのさ。菜食主義者程度でもだし。自分がバカにされた訳でもないけど、誰かが思想を持ってたら叩きたい、叩き思想教がいる」
「聞いたことあるけどさ。たかがベジタリアン程度で、テレビでも現実でも論争するの」

「絶対この議論は敵に回られるんだから。だから、笹田に聞いて欲しいんだ。順序立てて話すからさ。お願い」
健気な、少年からのお願いを断れず、加わる笹田。
(こいつらは重く取りすぎるんだな…。まぁ、裏を返せば、人というものを重く見てるんだから、ある意味、良い人側か…)

「まずは…。一般人でも分かるのは「ブサイクでいじめられて死にたい」」
「うん」
「「生まれ変われても生きたくない」は?」
「分からん。病んでるな」
「イケメン•金持ちに生まれ変われる程度で、良くなる人生、悩みとは?」
「まぁ、なれるんならなりたいけど」
「その人に話を絞っても、いじめられて人の醜さを知っている。そんな奴らにチヤホヤされたところで…どこかでまた別のブサイクがいじめられているのさ。本来自分だった者がな。それに、火傷が顔に出来たらまた拒絶される。悪意に満ち溢れた世の中で優しさに出会える確立って…」
「うん」
「その世の中でちょっとモテただけで、満足する、幸せを感じる側って?」
「いや、わからん」
「それって、いじめている側の人間の想像する幸せ」
「んー…言われれば…」
「怖いんだよ。痛みを分からない側の人間が「克服しろ!甘えるな!努力しろ!」と吐き捨ててくる。想像してみてよ。努力してなんとか生き抜いても、老いて醜くなり、体も衰え、また邪険にされる。人には一生否定され続ける」
「まぁ、聞いたことあるな。老人を疎むの」
「人の悪意だけに絞ってる話だけど。寄ってくる悪意。関わられること。隔離された場所で一人で暮らすしか平穏がない、自由がないなら…人間って、社会って」
「貧乏じゃなくて、人の悪意ね。それに怯えてんのね。お前は」
「病気は自分の内から来るもの。じゃあ、他の不幸は誰が産み出してるんだよ。他人だよ」

「やり直したい人は、貧乏のせい他人のせいにする人。本当に生まれたくなかった人はやり直したいとは言わない。これが判断方法だよ」
戻りたくも新しくもなりたくもない現実。
「…重苦しいなぁ」
「人に愛されて必要とされて、金も持ってる有名人が自殺する…。この意味がわかるならば」
「それは無理だろぉー。ひとかけらも分からないよ。分かるんなら精神異常者だろ」
少年に対しての忌憚のない意見。


生まれたくなかったに反論する者達。
子供を産まないのを「逃げ」と言う。社会から責任から逃げたって。責任という言葉の重み。
人を不幸に出来るのに、責任とはなんなのか。
「一般人こそ逃げてるじゃねぇかっ!死や不幸を考えないことでっ!」
切迫感のある言葉。
「老いからも将来の不安からも…。もっと小さい話にしても、40代になるまで健康に気をつけない。自分のことすら、病に直面しないと分からない」
かといって、対策もとれない死や事故。だから…産まない。
自分の子供がいつか、死ぬ、病気になる、最愛の人と死別する。それから…逃げてないのか?
訴え。
自分だけは自分の子供だけは、周りに家族•孫がいて、にこやかに会話しながら、寿命全うして痛みなく死ねるらしい。
自分じゃなくて、自分の子供、最愛の子供が不幸になるのに耐えられるらしい。
普通は産むから、流行りもののように産む。産む、じゃなくて作る。
不幸を産み出してるのは。
死生観を人生を産んだ理由を亡くなった時のことを話し合わない。
「たかが一般人に大層に求めるな!」ならば、尚更意味はなく産んだ。

人を「逃げ」と叩き、我慢できない者を「子供」と言う。
離婚した人は叩かない。自分がそうか、将来なり得るから。
我慢出来なかった人。自分の子供の為にすら。
自分が決めた、やったものなんだから、責任とって絶対離婚しないこと。自分が産んだんだから責任というものがあるんだから。
投げ出さないこと。たったこれだけのことすら出来ない人間。
逃げる。投げ出す。
「どう?笹田」
「俺はそもそも既婚者じゃないしな。責任はとれよってだろ?納得したよ」
「結婚したら離婚出来ない制度だったら良かったのにね。それで結婚出来なくなるなら“覚悟がない“ってことだし。でも自分に甘いから絶対その法案通さないよな。”不幸の回避”なのに。超重要なのにね。それが社会」
覚悟。確固たる意志。達仁が大事にするもの。それを悠真も勿論求める。

何も考えない、ことが出来るくらいそんなに幸せで羨ましいぐらいの産む派。
「産む派っていうか超多数派な」
絶対に不幸にならないこと、無感覚以前に…。
「奴隷ほどヤンキーほど産むけどな」
「難民とか10代の母とかだろ?」
「まぁ、否定してくるのは普通の奴らなんだけど」
奴らは自分が努力して幸せを手に入れた設定。こちらを努力しない底辺と決めつけて見下してくる。
普通の家庭に生まれて、余裕があっても考えるということをしない。
幸せを…ハードルの低い幸せを生まれながらに持っているのに、頑張っている俺らは偉い。こっち側は底辺扱い。
子供に聞かれた時、産む側が責任あるんだから、産んだ完璧な理由を子供に伝えられなきゃいけない。そしたらまた大袈裟と逃げる。でもそれは逃げじゃない扱い。

子供に幸せか聞かなきゃならない。
「でもな、どうせ不幸だと子供が言ったところで、絶対自分は責めない。「社会はこんなもんだ、我慢するもんだ。自分は耐えれたから今生きてる。お前も耐えれんじゃねーの?」ってな」
子を守る側が、自分は悪い親じゃないって。子供としっかり向き合ってあげて、幸せになれるよう一緒にがんばろうってしない。
「逃げるのさ。「こういうものだから」ってセリフを繰り返すのさ」
「産むなら産むで愛情注げばいいけど、本当に世間体の為に作っただけで、愛がない。そりゃそーなるさ。意味が意志が無いんだから。でも養ってやってるって上から目線。本当の“教育“というものを分からないし、しない」
止まらない弁舌。自分がそのやられ側だから。
「それでな、酒飲まなきゃやってられない世の中って零すんだよ…。その世の中に子供を産む。なんでだ?」
「いや、わからん」
「その世の中。そしてその負を子供にも当たり前のように押し付ける。考えてないから。自分達だけは大丈夫。不幸が待っているのに」
「分かった。酒飲まなくてよくて、一度も嫌なことがなかったら産んでいいんだな?それと貧乏人じゃなくて、上に搾取されてバカにされなければ。まぁそんな奴完璧人間だけど」
「病•死別は絶対あるのに?それを乗り越えられる自分は偉いって言うんだろうなぁ、あいつらは。人の死に耐えられることが誇りになんだよ」
不幸に耐えられるロボット的な人間。
「最低限の金•愛すら用意出来ない奴らが子を作ってんだよ」
深い怒り。常人では理解出来ないもの。
「なぜ?…なぜ?」
悲痛な叫びだか、笹田はあえて。
「性欲じゃないの?」
「人の不幸を超える程の、自分の喜びの為の…」
家族を作る覚悟。責任。
結婚したこともないくせに…と反論される。
「せずに、不幸な子供を作ってないよ俺は」
わざわざ披露宴やって、永遠の愛を誓って、人の金•時間を使って。
「俺はバツイチじゃないの。その俺を叩くのさ、奴らは」
バツの名の通り悪いことである。周りを巻き込んで。子供を作ったなら、離れ離れにさせる悪いこと。
「俺はそういう事、一切やってないの。それを「結婚したこともない奴がとやかく言うな!」と逃げる」
「失敗を許さないのね」
「普通の失敗じゃないから…」
「そこまで人のこと考えて、不幸な子供のこと考えてんだから、まぁ、お前のこと見直したよ」
おちゃらけた少年の印象が強かった笹田。
愚痴じゃない、不幸を産まないという正義からくるもの。痛みが分かる側だから言えること。
世間には絶対受け入れられないが。
達仁はそれを死をもって証明する。
「まぁ、俺は悪寄りだから、結婚出来たことを誇る一般人もムカつくんだけどな」
「えっ?」
「大多数がする結婚を出来たこと、だけを誇って俺を叩くから」
「まぁ、その普通のことすら出来ないって反論されるぞ。いや、綾瀬と悠真は目的があるけど、底辺の人間は」
「ヤンキーは結婚するのに?」
「こんな生活してるコンプレックスがあんだよ、俺…。まぁ、いいや続けてくれ」
「普通の人達がする結婚。家族を持つこと。それすらも最後まで守り通せず離婚する。誇りである結婚が出来て、普通で、社会に恥ずかしくない自分…すらも守れない」
「恥ずかしくないってのは、国や社会の役に立ってるってやつか」
「俺らは社会に必要とされない側だから」
社会に対して何かしなきゃいけない。それが仕事、結婚、出産。
「その普通のことすら出来ないってさっき笹田が言ったじゃん?離婚した奴らはその普通すらも送れてないじゃん。子供の為に我慢せず、自分のために離婚する」
「子供…ねぇ?」
自分が諦めた夢を子に託して自由を奪う。自分の好きに操作できる所有物•アバター。
「夢を諦めた奴の血を継いだ子供…と言っても運だから成功することもある」
「それは毒舌過ぎんじゃない?」
自分のコントローラー。自分の子が成功して“自分“が満たされる人生。
「子供を褒めるより先にな。勿論才能がなかったら、怒る、叩く」
「それは…子供の自由を奪う親だから多分叩くってこと?」
「そのタイプだよ。あとは「貧乏人なのに産んでごめんね」と言っても許されないけど自分が、勝手に産んで苦労自慢」
「ウチは貧乏なんだから我慢しろって?大家族モノみたいな?」
「あっはは。だからさぁ「自分の命より大事な子供の為に充分な蓄えが出来てから産んだら?」って言うと逆ギレすんだよ。他人の俺に怒るのが優先。子供に謝罪なし」
「ピアノ買うお金あるんだし、防音室作ってから、ご近所さんに迷惑かからないようにしてから弾いたら?とか?」
「あっはは、笹田イイなあ」
他人の迷惑なんて知ったこっちゃない。
人に恥じない、ってうのは結局貧乏になってバカにされない為。気遣いなどではない。
達仁はお喋り好きの悠真に説明を任せて黙って聞いている。

「っていうかよー、大袈裟にしなくても、自分が、病気持ちである。遺伝するかもしれない。そこで産む奴と、自分が我慢して、産まない側。どっちが、正義だって単純な話だよ。産む側は自分達にとってのもっともらしい理由で、逆ギレすんだけど…子供って他人だからな?他人が、産むなと言うな!じゃなくて、自分の意思で新しい命を無理矢理作り出す。それ…他人っていうかさ、自分の子供だから何してもいい、じゃなくて、別の人間、他人…すまん…まとめられない」

謝るのは可哀想と言ってる他人じゃなくて、自分のエゴで作った子供に…。でも子供は所有物扱いだから、子供扱いだから、謝罪も説明もせず、なぁなぁで生きる。結局障害で自分の首も締めて苦しむ。
その苦しみ。自分だけじゃなく、子に受け継がせる。
笹田が。
「あのー無理なんじゃない君達?そういう系はタブー扱いなんじゃ?」
だから死ななきゃ聞いてもらえないから死ぬ達仁。
「だからタブーを、叩く知らしめるために…」
「おお…でも、被害者じゃん?」
「子供を不幸にした加害者だろ…俺は絶対産まない覚悟を持ってるから堂々と、言えるよ」
悠真が。
「笹田ぁ、ちょっとヒイてんじゃねぇよ。お前から話しかけてきてんだろうが」
達仁が口を開く。
「まっ、それが一般人の受け取り方ってことだろ?結局なんとなく、慰めて、なぁなぁで、生きてゆく、絶対自分は責めない」

病気以外の時、忘れて騒ぐ。それをやってる内に年老いて後悔したり、人のせいにする。
酒で逃げる。妥協で逃げる。理由から逃げる。
子供は酒で逃げもSEXもしない。年を取る毎に逃避する人間というもの。

「俺はスマンけど、いつかは結婚して、貧乏でも普通に生きるよ」
「うん」
あっさり返答する悠真。
「格闘技もTVで見てさ…」
「いーじゃん、月並みな幸せ。戻れない側の俺らからしたら」
「あー…メシ食い行く?」
なぞの取り繕い。
「ははっ」
「思想は違えど面白いことやってるお前達から離れたくないんだよなぁ」
「一緒にいられる時間も、短いしな」
「TVに出るまでの命ってか?」
目の前の二人。二人もこの思想を持っていることに恐怖する笹田。
「ヤクザでも家族持つのに、お前らの方が怖いよ」
「だからいきなり殺し合いになっても行くとこまでいける…。これが俺の持っている唯一の特別能力だよ…バトル漫画的に言うと」
「それ以外、守る者も、学歴も、何もない」
「なんかやっぱ、無謀じゃね?」
「エンタメ•格闘技が無かったら手詰まり」
「お前って、妻が亡くなったら独りで生きてくタイプだろ?俺は…新しい奥さん見つける…」
ばつが悪そうな笹田、だが、自分の意見を言う。
悠真が代わりに。
「別にいいよ…仲間でも友達てまもなし、ちょっと喋るだけの間柄だし。別にいきなりお前とは喋らないってないから…それこそが一方的な拒絶こそが…奴らの…」
「ああ…」
「俺たちが今受けている面白いて、話•芸じゃなくて、変わってて興味あるっていう面白い。っていう評価…どーなの?」
「目に留めてもらえるなら」
「これ、テレビの予習ってことで」
「それじゃあ、メシ食い行こう」

その後食事を終え、笹田と別れた帰り。
「達仁さぁ…悲劇のヒロインになれるのはネグレクトの親•病気の妹か弟持つやつだけだよなぁ」
「勝手に生を受けさせられ、同じ境遇の年下、更に病気の、為の金を稼がなきゃいけない、それに人生注がなきゃいけない状況だろ?」
「流石達仁…同じ感性」
「産んでない側、産み落とされた被害者。一人で死ぬことも許されず、妹•弟の為に使わなきゃいけない人生。頼れるのは自分の身体と、それで稼いだ金だけ」
夢を追うことを最初から折られている子供達。

「まー今更言うことじゃないけど、虐待された子は更に自分の子が生まれた時虐待するというデータがある。「マトモな教育受けられなかったから!」って逆ギレするんじゃなく、自分の辛い人生を明るくする為にそれでも、産むんじゃなく…」
一人で止め、一人で悲しむ、自己犠牲の形。
「俺は絶対子を作らないから。そんなニュアンスのこと、前も言ったことあるけどさ」
「尊敬するよ」
「…ありがと…」
真剣。
出会って数ヶ月でも、持っているものが同じだから、深い関係の二人。
「…やべー恋愛のような、家族愛モノの様な、絆の様な雰囲気…。内容は真逆なのに」
笑う悠真。
「俺は一方的に達仁に会えて感謝してるぜ…似たような…この俺らのような、似た考えの人間…。そんな奴に会えたことを」
「…」
「さーて、余った時間で何するかな〜」
夜の雑踏に消えゆく二人。


翌日。
控え室で一人、手持ち無沙汰の悠真。
やっと知り合いが来た。
「おぉ、笹田言い忘れてたことある。昨日の続きだけど」
リュックを降ろす笹田。
「…だから親殺しより子殺しの方がヤバイ」
「勝手に産んどいて更に殺すからだろ?」
合わせる笹田。
「くっはは」
「お喋り好きだよな…とても病んでる様に見えねー」
「あー、本当に悲しい人こそ、皆の前では明るく振る舞うってやつだろ?」
「おう」
「達仁より俺の方が明るいの」
「それは分かる…。結局綾瀬の方が暗くて重いんだろ?雰囲気通り…。だって自分を殺せるんだし」
だいぶ二人のことを分かってきた笹田。
「俺はギリギリ踏み留まった側なの…。最後の最期無理だった俺はあかるいんだよーー!」
悠真の裏側を知らないが、辛気臭い話を聞くのは嫌なので、何かトラウマがあるんだろう程度で留める笹田。
「イカレてるのはイカレてるぞ」
「あっはは。お喋りなのはいっぱい例があるからだもん…」
座り、対面する笹田。
「離婚したせいでベビーシッター雇わなきゃいけなくなったシングルがいてさ…シッターに子供殺された人がいんの…勿論運なんだけどさ、自分が我慢してたら子供死ななかったのにね…って耳元で囁いてやりたい」
「言っても被害者に…ドSだよなぁ〜」
「ドSなのは一般人だろっ!何人妊娠させても罪にはならない。子供を捨てて、国の、施設の負担で保護して、悲しい親失き子供が出来ても犯罪者にならないんだから。産むっていうことは軽いことなんだからっ!」
不幸を作り出す者が罰せられない法律、世の中。
「誰でも出来て簡単!手軽な子供作り〜!」
興奮する悠真。声が大きくなる。
「悠真…お前ってたまに狂うよな…話しかける前にも見たことあるけど」
「あ〜、でも一般人様からしたら、ヒトのせいにしてはいけないから、環境じゃなくて、ただ自分がおかしいからおかしいんですって言わなきゃいけないけどさ」
「お前らの言う一般人て鬼畜だよな」
急に真顔になる悠真。
「そうだよ…敵じゃん…危害加えてくる人間様…俺は虫けら側」
(綾瀬より明るくやや社交的な悠真。だけど、情緒不安定気味だな…)
「あいつらは…施設に預けて本来要るはずだった養育費は免れて、大人になった所を「親だろ!金恵んでくれよ」ってすり寄ってくる奴らだからな。責任果たしてなくても親ヅラ出来る鬼畜ドS様…」
次から次へと出てくる、不幸や人間の醜さ。
「…」
笹田は一人で喋る悠真をよそ目に。
(こいつらのヤバイ所は他人•悪人をひとまとめにして、一般人って言ってるとこだな…なんか悪人って狭めんのは好きじゃないらしい…意味解らんけど)
「金と時間がなくて産めない人が増えてるけど、正義からじゃない…時代性だし、自分の為。結局ゆとり出来て産むし。あぁ、ブサイク過ぎてモテなくて、産まないじゃなく産めない人は仲間かも」
「お…おお…」
「虐げられてきた、持たざる者である超ブサイクは仲間側」
「お、おう…」
「人の醜さを知ってる良い人間」
「…おー」
「やられた側は加害してないんだから優しい側…」
悠真の持論。
「俺、性同一性障害嫌いなのよ」
「へえ?」
生返事ばかりだった笹田が再び興味を示す。

昔からTVは同性愛だけ擁護する。だからLGBTもひいき。
歌詞の中に「チビ」が出てきても抗議されたことないのに。
チビはずっとチビ、変えられない。
ゲイは好みが変わるかもしれない。そもそも自己申告。
好きに生きてる、同性同士でのんびり恋愛してる奴らが被害者•弱者ヅラ。
非性愛で誰も愛せなく、暗く一人 で生きて行く非性愛者。パートナーがいくらでもいるLGBT。
普通の恋愛のように、くっついて別れて、普通に暮らしている人達。
人目を気にせずデートするのに弱者ヅラ。
利己的でどうしても同性と恋愛したいのを自分達の中だけでせず、社会に、認めさせようとする。押し通す。
ips細胞で子供作れたとしても、子供に不幸を背負わせることななる。
例えば女性カップルの場合。どちらの女性が母親なのか?父はどこにいるのか?
子供のことじゃなく利己で自分達が大事。
普通にパートナー作って恋愛楽しんでふ恵まれた人達が、まだ社会に対して文句言う。
ブサイクいじめられっ子は恋愛すら出来ない。でもその人達より被害者•弱者ヅラする。
恋愛は法律で縛られてない。現状出来てる。法を変えさせてまで同性と結婚したい子供残せない人達。
子を作らないと非国民扱いされるのに。
「あーそこに、戻ってくんのね」
納得する笹田。
「社会に貢献してない扱いされる独身。で、この人達も子孫を残せないが叩かれない。ヤンキーが好き勝手孕ませて逃げてるけど、同性同士の場合不幸な子供は産まないけど、たまたまだから。確固たる意志持ってる訳じゃなく同性で子供出来るんならヤンキーのようにバカバカ子供作ってる奴ら」
「はっはは」
悠真の毒舌っぷりに笑ってしまう笹田。
「話、逸れたが」
子供が欲しいのと恋愛は別である。
子供は作れないの分かってる同性愛者。
恋愛は出来ている。これ以上何を望むのか?
結婚とは?
プロレスラー•芸人のように「好きなことをやる!だから誰のせいにもしない!」というスタンスじゃなく、俺らを認めろと喚く。タトゥーのように。
結局「自分は病気」と思ってないから。可哀想な病気でもなく、好きなことをして生きてる。
「同性愛者って重大な縛りがあるんだよ」
「なんだ?」
「絶対に他人を否定してはいけない。一生」
「あー、自分は認めさせてるんだから、絶対自分達もオタクとかを否定してはいけないってことね」レズはホモを嫌ってるのか(その逆も)で分かる精神性。
「男は汚い」と言ってしまったら。
「自分は人の事を受け入れないのに、自分のことだけは優遇させるということだし、これから一生人の事を否定してはいけない使命を背負ってしまうことになるということが分からないのか?」
「がっはは「萌えオタクってキモイよね」ってそいつらは言いそうだなっ!はははっ」
笑う笹田に構わず続ける悠真。
「我慢出来るものを障害と呼んでいいのか?」
醜く生まれ、ずっといじめられて、自殺寸前の心。
性格まで変わらされても、ブサイクには何も、議論されることもない。
報われず、これからもバカにされて我慢して生きていくブスには何の保証も憐れみもない。更に嘲笑するだけ。
何の制度もなく、一生親の介護だけで生きなきゃいけない、我慢の人もいる。
親もブサイクに生んだせいで過去も未来のこともゴメンヨとは言わない。人に嫌われる存在のブスだから、優しい言葉一つもかけられないまま。
「性同一性障害って俺でも演じればなれる」
「確かに」
本当はこれになりたかったって言ってるだけの甘ちゃん。
人にバカにされる差異。趣味だろうが、容姿だろうが。
それを他人を黙らせる為に頑張るのか、独りで閉じこもるのか。
「都合の良い時は結局異性と付き合える。自由ってことだよ」
自由を持てる人間というものの重さを感じる不自由な悠真。
「それに隠しておけば虐められることもない。ブスは隠せない」
当たり障りの無い会話の真逆。
およそ、普通はすることのないであろう話題に食いついて楽しそうに聞く笹田。
「あーあのー、俺だってブサイクじゃなかったら、いじめられなかった。保険で整形してくれるのか?いじめられたせいで人と上手くコミュニケーション取れない。怯えてしまう。それでも社会では認められない。それなのに、俺はこのままの顔で生きてゆく。お前らは人に分かってもらえてよかったな。同性に愛される未来。性別を変えただけ。俺は誰にも理解されないのに。大した実害も無いのにテレビに特集されるもはや勝ち組。本当の障害者にも失礼だし、その人達は一生障害と付き合っていくのに…。戸籍を変えたら悩みがなくなる。どーしても異性の更衣室で着替えたいんです。我慢はしません。でも俺はずっと顔と心に傷を持って生きてゆくって、言ってる人がいたら?」
達仁がいないのでフルスロットル で悪意のセリフも吐く悠真。
「そう言われると、本当はブサイクじゃなかった俺…みたいに…「本当は男の身体じゃなかった。女の体に生まれたかった」ってダダこねてるだけのように思えるけど」
一人洗脳出来てにやける悠真。

「結局マイノリティとか言って、それを力にしてる。少数派はいじめられ、淘汰されるもん、昔から。それを少数派だから弱者だからという理由で世間に何かを認めさせる。認めさせたところで、多数派は心の中ではバカにしてるのに」
人は差異を否定するものなのに。
認めさせること、それは闘いなのか?
自分が他人を気にしない強さが、一番大事なのに。
「あっ、今思いついた。犬しか愛せないから犬と結婚させてくださいって俺が言ったら?」
「あっはは」
「おい…何バカ話してる…」
達仁が現れた。
「折角笑ってるとこ台無しにするが…。ペット飼ってる奴らの大半は、すぐ買うんだぞ」
「えっ?」
「金ですぐ買えて、補充出来る…まさしく物」
「俺も流石にそれは許せねーわっ」
笹田が完全に賛同する。
「おいおい、犬に…はぁ」
ペットの話ならすぐに理解し、賛同する笹田。
やはり人間の話になったら、大きすぎて、 飲み込めないのだと哀しむ悠真。

「お前らって心の病だよな…他のアノアの奴らはただの堕落者だけどさ」
「ああ、そうだよ。精神病だよ、鬱だよ」
「鬱はな、無気力になって何も出来なくなる病気。でも目標があるから、その怒りで体作ったんだよ」
「死ぬ為に体鍛える…訳分からん」
「目標の為に生きてる。そこだけ聞くと普通の人間っぽいけど」
作った体を表の社会で活かすこともなく…。

悪意に晒され、変質していく無垢な人間性•清廉性。
誰にも愛されたことのない…の重さ。
絶対に戻れない、普通というもの。
そもそも戻りたい時…なんてない。
生まれたくなかった側の戻りたい所とは…。
分かってもらおうとしてない。だって死ぬんだから。認められるのが死後だと分かってても、それでも…。
だから本当の孤独。
取れないトラウマ。剥がれ落ちることのない。
自我のみで包装される悲しみ。
生まれたなりのプライド。
殺せる程の…。
自分を守っているのか、狂っているのか。
“お前らにはなれない“
緩やかに腐っていくもの。
過剰な自分にとっての正義。
そこまで追い込まれたもの。
休まる場所がなく、押し潰され続けて生きてきたもの。
歩みたかった理想すらも思い浮かぶこともなく、黒く塗り潰された、決まりきった…。

本当に不幸な人を産まない重さ。
愚痴でも偽善でもない、実行する、しているもの。

未だ死なないでいる…。

自殺すらさせてくれない世の中。
死体処理どうの。
偶然交通事故にでも遭って可哀想な被害者にならないといけない。交通機関を乱す、人身事故。運転手にトラウマを植え付ける、飛び出し自殺。
道端で野垂れ死んではならない。
だって、全ての場所が誰かの物だから。
死ぬ自由もない、場所もない、人間社会。
死に場所は奴隷ロボットやり続けた後の病院でのみ許される。
「許されるってのは、他人•社会に」
憐れまない、叩く、気持ち悪がる。
独りで無人島で生きていくってのは、誰とも関わらない状態。
それは、ある意味死んでいる状態。
でも、不幸を運んで来るのは…。

「俺達とは違う一般人だとしてもさぁ」
トラウマに対する金。された犯罪•傷に対する支払い。解決出来ないのに、金で終わったことになる。
「奥さん殺されて。でも金もらえたから、もういいでしょ?終わりでしょ?って言われ続けるようなもんなんだよ」
「そりゃあ、きついな」
そこから自殺するか、復讐するか。
お金で取り戻せないもの。
「それすらも人は分かってはくれない」
プライドを一生踏みにじられてまで生きて。
ただ愛する人が亡くなっただけでは強く生きる者もいる。
「亡くなっただけって…でも、お前らの中ではそれでも平気に生きていける鬼畜に見えるんだろ?」
それに耐えられなくて、壊れるのが本当にその人を想ってて優しい人。
「それに対する反論あんじゃん。よくドラマで言われる「腐ってても仕方ない。天国のあの人はそれを願ってるのか?」ってセリフ」
それとは逆に、復讐相手という、怒りの矛先を向ける相手がいると生きていける人間もいる。
「それも、ドラマであるな。復讐の時だけ、頭空っぽに出来るってやつ」
「なら、復讐遂げられた後、どうするのか…」

だから、感じ方は違う。人より弱いこと。人と違うこと、差異。
それを分かったフリして「悲しむな!」と言うのか?
一括りにしようとする。そのシステムを使って閉じ込めてくる。
他者の優しさ•痛み•気付くということを。

「じゃあ、ドラマ繋がりでさぁ。喧嘩別れした直後事故で亡くなり「最後に笑顔で終われてれば」って後悔するシーンあるだろ?人はいつ死ぬか分からないのに、甘い。だからこそ自分を抑えて毎日優しくしてればいいじゃん。日本は我慢を美徳とするんだから」
でも、しない。押し殺さない。利己だから。人目の為の我慢だから。優しさからじゃないから。
「とはいえ、日本人叩きしたいわけじゃないぜ?」
日本人。内省的。繊細さ。情緒。侘び寂び。規律。高潔さ。
滅びの美学。護って死ぬ神風。生き恥を晒さぬよう潔く切腹。自分で自分を介錯する。逃げ惑わず。
子孫に語り継がれる精神性。
「守れないならいっそ赤穂浪士や神風のように命を賭けてぶち壊してやるってね」
笹田がつっこむ。
「その日本人は、一般人じゃないぞ。やっぱ、一般人は嫌いなんだな。つーか、綾瀬はその血、受け継いでんな」

「一般人てのは狂えないんだよ。動機もないし。その、狂気で言葉で格闘技で。狂うほど溜められたものを」
極端な世界に飛び込んだ。
どうやっても自由になっちゃいけない、なれない。
逃げてはいけない世の中で…やはり唯一の…。
自由に見えて不自由の…苦悩。
天から与えられた自由•選択。
神が与えし自由•道。
「平等な死•病。現実。でも“殺し“っていう自由はあるんだぜ?」
悠真の軽々しい表情で言い放つ言葉。
「誰を…殺す…自分を…」
この世への究極の拒絶、自殺。
「悠真…お前は…」
少年を心配する笹田。
「俺は…分かるよ…痛みが…」
「お前はまだ間に合うんじゃないか?」
「俺たちには先が無い。守るべきものも。未来が無いから。だから学校に何年も行って更に時間を無駄にせず、刹那的に生き急ぐ。いや、死に急ぐ…」
「学校が無駄…か。死ぬからって…」
「棋士は本当に時間が無駄だから、中卒じゃん?選ばれし者すげー!」
コロコロ変わる感情。
「…」
「え?だって凄くない?学校の時間が無駄って一般人は絶対言えないじゃん」
「…うん」
達仁の方に振り向く笹田。
「抑鬱されてきた俺の唯一の我儘。最初で最後の我儘…」
笹田はこんな狂人二人を気味悪がるどころか、興味を持ってしまう。
「それが自殺って?」
「あぁ」
「もしかしたらやめる可能性は?」
「時間と共に消える痛み。傷ですらない」
ここまで徹頭徹尾暗い人間がいたのだと驚愕する笹田。
立ち上がった悠真が。
「若くして死んだらさー、その時までの写真しかないし、いつまでも思い出には若い姿のままだよ。だから若さにこだわる女性は自殺しましょうっ!…一般人だから若くして死んでも伝説にはなれないんだけどな…」
一人喋り、コロコロ表情が変わる悠真。
「あっはは、ここまで行くとなんか笑えるな」
笑顔で悠真を見る笹田。
「女ってやべ〜じゃん。いつか服だけじゃなく、顔も一ヶ月に一回、流行りの芸能人の顔に整形するんだろな。ファッションのようにコロコロと」

奴らは障害も虐待もいじめも認めない。マイナスを認めない。トラウマなんて知らない。
家に病弱の者がいて看病で休みが多ければ、“休み“という表面だけ見られて、やっかまれる。
相手がどれだけ裏で苦労してるかなんて考えない。
自分が損してると感じる。そして叩く。「もっと努力すればいいだけ」と。
下から努力した訳でもない奴らが、下から中になれるレアケースを人に求める。
他人には100を求める部分と、自分の不幸は平等にさせる部分。
自分が休めない損は平等にさせたい。
勿論介護や底辺から成り上がる努力は平等にしたくない。
絶対弱者を認めない。自分と相手は同じ境遇の人間。

社会の為という建前•歪んだ正しさを他人に押し付けてくる。
正義からじゃなく、損から。優しさじゃないから。他人事だから。
実際自分がその立場だったら人のせいにする奴らが。
「不幸を人のせいにする。それを俺たちはやってはいけない。じゃあ俺たちは誰に被害を受けたのか?」
そいつらが言う、押し付けてくる人生を送らなきゃいけない。
仕事で与えられたストレスが最上であり、それしか知らない。

死別で塞ぎ込む人間は、引きずる人間は煙たがられる。
忘れる人が一番偉い扱いだから、 止まることない労働が一番偉いから。

病気になって仕事中に休憩が必要になったら煙たがられる。
健常者の替えを欲しがる。
病気を見ず、あいつだけ休めて理不尽だと思える感性。
得は同じ条件にして欲しい。勿論病気という不利益を被るのは嫌。ここまで分かってても人を妬む。

上に対してもそう。
努力して一流企業に入った連中を羨ましがる。その人達の裏の努力は見えない。また「あいつらだけ…」

「傷つけられたトラウマほど大袈裟じゃなくても、一般人の普通の生活の中でもさ」
今迄の授業態度•成績は一切関係なく、受験前に家族が亡くなって泣き続けて止まることを許してはくれない。マトモに受験出来なくて棒に振る。
一瞬も止まってはいけない。
人より感受性が強くても、悲しんでもいけない。前に進み続けることしか許されない。
損や一般人教や社会というシステムで閉じ込められる。
何が起きようが動じない、病気にもならない、人間じゃないもの、ロボットが求められる、生き残る社会。

一ヶ月でも休職•ニート•ホームレスすると許されない。
ヤクザ•ヤンキーのように人に迷惑かけてなくとも、犯罪じゃなくとも、一日でも社会から離れると許さない世の中•個人。
優しさじゃないから、自分が損した気分になるから。
有名人の子供が特別扱いされても嫉妬する。
特別さを嫌う一般人。でも苦痛は平等にしたい。一緒に苦しみは味わわせる。

忙しくて滅多に会えない父と、学校を休んで旅行に行くと怒る学校•他人。たかが一日休むことを叩く。
家族とやっと会えることを「学校を一日でも休むな!社会から一秒でも外れるな!」
裏で哀しみがあっても知らない。知らないものは叩く。
「父親となんか会えなくていい」と他人が自由を奪う。人の事情なんか知ったこっちゃない。
自分は休めないのだから嫉妬して叩く。親と毎日会える普通の人間が叩く。
「損した気になるってことだよ、普段親と会えない子は損してないらしい」
社会で学校で受けるストレスを平等に全員味わわなきゃいけない。
一日のゆとりも許さない。
叩く側は恵まれた側。更に叩いて一方的にストレス発散。文句だけは言う。土日以外も休ませろと愚痴だけは言う。
自分しか、自分の得しか見えない。裏側を想像したりしないから。

お金はパフォーマンスの為にかけるものなので、パンダ招聘に何億もかける。
普通に動物園に来れる幸せな子供達だけが楽しめる。
孤児院とか弱者は放置して、中流の人間を喜ばせる、中流の経済を回す為に使う。
弱者扱いじゃなくて、投票もしない社会に貢献しない底辺扱いなので放置される。
「だから俺達が訴えかけたいこと、相手をみてくれないこと」

例えば、同じカッターで同じ箇所切った二人がいるとする。
一人は皮膚が厚くて治りも早い。片方は皮膚が薄くキズが深く治りも遅い。
その時に「この程度でここまでなるなんて、これからも一生弱い体で生きてくの可哀想」と思うんじゃなくて「社会の役に立たない弱い淘汰されるべきゴミ屑」っ罵ってくる。
弱者を想うんじゃなく、”嫌う”ってこと。
健常なだけじゃ駄目で、普通以上じゃないと。社会で生きても機械みたいになるだけだけど。
「それが一般人叩きの部分ってか?他者に厳しい人間が」
「下じゃなく中を叩くんだから弱いものいじめじゃないし、そもそも俺は下の人間だから反骨心だよ」
社会は中(ちゅう)の奴らで構成されてる。中が殺してくる。
「俺は悪だから好きに生きるって、言ってくれた方がマシなのよ。俺はあくまで普通でこれからも普通に、生きて行く。憂さ晴らしの相手はいる。相手が悪い。いじめってそんなもん。って中間にいるフリするから余計嫌なんだよ。中(ちゅう)のフリをするから」
「それがお前らが言う”中”か。ヤクザなどの下が悪なのは当たり前として」
「うん。下の世界から抜け出せたところで中はこうですよってこと」
社会で生きるなら忘れなきゃいけない。
でも二人は、忘れる•無かったことにするということが憎い。忘れられない側の恨み。

中は下を守らないで叩く、叩ける。でも、特別な上、有名人に対して嫉妬する中。
「上じゃないんだから、中も叩かれて当然なのに。怒るんだよ、有名人に対して」
上のことも結局見世物として見る。有名人を見世物小屋の動物として。
それと同じようなこと、一般人の思考回路をエンタメとして叩く。それをする。
一般人が対象の商売社会なんだから一般人叩きはタブー。
一般人叩きが本当にないのかっていうと。
対立煽りはある。男対女とか。少数派のニート•ホームレスなど叩きは一般人じゃないからカテゴライズして叩く。
会社員叩きは絶対ない。
「俺が言ってること全て「言われなくても分かってるよ」って言われても、普段現実でもネットでも人のこと否定してんだから、一般人叩きをなんでしちゃいけない?ってなる」
下には口を開くことも許さない一般人側。
だから手段が、生放送のテレビ格闘技しかない。
「ほー…」
一般人教という宗教。苦痛だけは平等にさせる。
正当化、妄想、捨て台詞。

「一旦逸れたが、本当に伝えたいことは不幸を産まないこと。本当に結婚•出産しないこと。生まれたくなかった者として、負を引き継がせない」
人前自殺でさえなければ、人の清い精神性というものを一人で体現しようとする部分もある達仁。
「幸せを感じず死ぬのかよ?」
笹田も、達仁の真剣さに取り込まれ、マトモに会話してしまっている。
「不幸の予防をして生きる人間のように、不幸の防御をして死ぬだけだ」
ただ奪われて終わらない為に、幸せの為じゃなく。
「生きてて楽しくないだろ。そりゃあ勝っても喜ばないわな」
ただ生きている、死んでいる達仁。
「思い出を失うのはきついんだろ?物語とか漫画でそんなセリフあるだろ?」
その思い出すらもない。走馬灯すらも浮かばない人生。
「格闘技じゃなく…闘いってのは尊いもんだ。死んでも殺してやりたい奴が、空気が社会が…いる」
ただその復讐一点のみに、人生を捨てる。
賭けるんじゃなくて、殺して自分も死ぬという憎悪。幸せは、待っていないのに。

奴隷として生まれ、人のせいにして、他人を引き摺り下ろし、なぁなぁで生きてゆく。社会に合わせられ、自分がない…のをマトモって言うんなら、染まりきってしまっているな。

笹田が突っ込む。
「それを言うんなら自分も清廉潔白じゃないといけないぞ?」
「だから俺は…どうやっても過去は変えられないからこそ、今を綺麗に生きる。気持ち悪い嫌いな人間と関わるのがそもそもおかしい、だからいじめもしない。恋愛もしない。だから浮気も結婚も不倫もしていない。前科も調べてくれて結構。男だから堕胎もAVも風俗もしていない」
それらが多数派か少数派か?
「やられた側だから、関わるのが悪だって分かってるんだから、人に自分から危害を加えたことはない」
悠真も堂々と宣言する。
「モテないから浮気出来ないだけだろ?っと言われたところで、実際誰も傷つけてない事実は変わらない。興味ないイコール人を傷つけない。関わることが悪だから」

不幸な人を増やす。難民が子供を産む、増やすために。自分だけが不幸はイヤ。自分が負のスパイラルから抜けだせないとわかった時点で増やす。

結局社会に出たところで、周りと違うということに負い目を感じながら場に溶け込み、奴らが作り出した空気を読み、自分が失くなって、心が壊されて社会に染まる。それが正しい世。

奴らと同じになっちゃいけないという葛藤。縛られ続ける。自分に制限をつけて。
憎悪が消えないこと。
自分が人にしてきたことを忘れず苦しんで生きる。誰一人として幸せになるべき者はいない。
一度でも人に迷惑をかけたら幸せになってはいけない。

「お前らは自分の潔癖感で自分自身が縛りつけられてるんだな…恋愛、産まないこと、責任感、重さ。生きるのが下手なんだな」
「実際、逃げてるから死ぬんだけどな」
何もかもを諦め、冷めるということは、情熱を失くすこと。生きることへの。

達仁と悠真は怒りで繋がっている。奪われたもの同士。のうのうと生きる連中を許さない同士。
死んでいて、未来のない者同士。

人前で死ぬんだから、迷惑かける悪人と一緒だと言われても、それでも。
「だから、結局自分も一緒だから…それが嫌で死ぬってことにしてくれ」
結局人と関わらなければ生きていけない。
「こうやって、文を書いて…自分しか自分を守ってくれない」
でも結局自分すらも自分を守ってくれない。破滅型の…。
地下で生き、法から外れて生きる。本物のアウト•ロウ。

ネットに書くだけなら誰でも出来る。相手のフィールドに行って、更に衝撃を与える。
「ネットじゃ駄目なんだよ。有名人にならなければ。有名じゃないと、話すら聞いてもらえないから。そうでもしないと見てもられない」
上の人間なら言える、補正出来ること。
有名人だけど自殺する。東大なのにオタク。など。
「選挙で一票入れるのと、有名人になって世論を変えようとすること。どっちが効果ある?」
有名人ってのは代わりがいなくて、経済効果も見込める人間。自分自身に価値があるから、広告になれる。

綾瀬の自殺。極小のテロリズム。
裏を返せば、テロを起こさなければ、誰も聞いてくれない。
結局は聞いても、もらえないけど。

「それで?テレビの前で死んで?」
TシャツにURLを印刷しておく。
カメラ前で自殺するほどの達仁が何を訴えかけたかったのか、サイトをチェックする人々。
”不幸を産まない”という、正義と信じ込んでいるもの。

「それが自分が信じる、俺の作った宗教なんだから」
人を本当の意味で…否定する。
人が言ったことの盲信じゃなく、自分が作りあげた思想。
傷つけられて出来上がった、実質他人が作り出したもの。
「自分がこの生き方で決めるって決めたから耐えれるんだよ」
唯生きられない。

死生観、産んだ意味。
人生から意味から逃げ、死や病から目を背け。自分が成した事も思い返さない。
「そこからまだ、「そんな事考え必要ない、周りも考えてない」って逃げんだけどな」」
一人の命•責任なんてどうでもいい。
生活費さえあればいい。それが立派な大人、人間。自分を食わしてることが偉い。

誰かの特別であること。
だから適当に生きないで、特別さを求めよう。ってメッセージ。
人を傷つけない為の、真剣に伴侶を探して、真剣に生きて…。その先にマシな社会が出来る。
死なないで済む…程度の…。
「そこまでお前らにはこの世が厳しく見えてんだな…」
何があろうが酒で逃げる。妥協。生きる意味。産む意味。責任の押し付け合い。一般論。逃げる。

“許さない“というキーワード。
「自分がやったことは責任とってくれっていう、たったそれだけのことをここまでして言わないといけない。イコール逃げてるからだろ?」

自分の中で時間が使えないから、暇つぶしを他人へのいじりで使う。 叩く以外の、自分だけの価値観がない。闘うほどの。
「闘うのは被害者側の俺らで…。 あいつらがしてることは…」

閉じこもって自殺する人は他人を傷つけない優しい人。
自分の人生なんだったのかと思いたくないから、価値があると思いたいから人が悪いことにする一般人。
楽なのは人を傷つけて自尊心を保つことだから。
他者への発散型が一番多い。
「これが、一般人を嫌う理由」
自分のせいにする人。自殺する人は少数派。
自分の為に他人を殺す一般人。

閉館するアノア。
歯に衣着せぬ部分の楽しさと、異常なネガティブさ。でも何かをやりそうな雰囲気はある…と敬遠せず「また明日な」と去る笹田。
正義からの訴えかけだからといっても、普段は他人に距離を置かれる二人。
「笹田はまた話しかけてくんだな。賛同はしてないけどさ」
「ライターさんと一緒で怖いもの見たさでな…」


翌日。
遥がアノアへまたやって来る。笹田とも挨拶をした遥。
四人でお話を始める。
テレビに出る為に頑張って地下で闘っている達仁、という認識の中。
遥が問う。
「なんで格闘技を選んだの?」
最後の最後、自分を守ってくれるのは警察でもなく、周りでもなく自分だけ。だから格闘技。
「「今の時代、体鍛える必要なんてない、警察呼べばいい」っていう奴いるけど、警察来るまでに負けたら、蹂躙されたら…。そのプライドを守る為に鍛えてる。っていうか護身術」
自分の身も最低限守れない男。
球技なんて、出来なくても構わない。
でもこれは、守る力。銃で植民地を作る、侵略の為の欧米人の言う力じゃなくて、自分を、誰かを守る為の武道、日本の感性。
「だから俺はこの力で自分を守れてるよ。だって危険や不良、自分に害なす他人はこんなにも満ち溢れてるんだから…平等に」
達仁の実感のこもった言葉。
悠真が割り込んでくる。
「それに、運動が無駄って言ってる奴は自分でハードル上げてるってことなんだぜ?」
運動しない分、全部勉学に全振りじゃないといけない。一般人の基準からしたら。
新聞みたいに、「新聞を読めば頭良くなる」って言ってる人は読んでる側だから、よっぽと学力と雑学と人間的な頭の良さ、多角的な視点を持っていなきゃいけない。
「だって、自分でハードル上げてんだから…人がハッとするような何かを言える側なんだろ?って」

「話が逸れたけど」
格闘技。一対一。独りであること。死への緊張感。短い現役生活。刹那的な生き方がかっこいい。
団体競技は夢への挫折ぐらいで、物悲しさ、メッセージ性は醸し出せない。団結して、明るく頑張って、目指してるものが違う。
「結局、社会不適合者が多くて隠にこもるかんじだもんなぁ。まぁKOはド派手で対局だけど。普通じゃない、スポーツじゃない。俺らはそのトガったものに心惹かれる」
「俺はただ殴り合いすげえってだけなんだけど」
笹田は趣味すらも重く捉える二人に距離を感じる。
「どちらにせよ失神するまでやり合うイカれだよ」
一般人が喧嘩すると、顔真っ赤にして叫んで、怒りでマトモに攻撃出来ずコケる。
「でもこっち側の人間は逆に青ざめるぐらいで、確実に相手を壊すため、きっちりと動く」
「テレビのあの選手も?」
遥の素朴な質問。
「現役の凄さ分かるか?人を素手で何分以内かで殺せるプロの格闘家が最も“集中力“がある時だよ。相手を壊す。ただその一点の為の集中がピークの状態、プロ」
メンタルもイケイケ。フィジカルは張りがあって、闘争心ピーク。毎日スパーして、身体作って。
「素人は…一撃でももらうと、ひるんで戦意喪失する」
「そりゃーそうだろ。最後まで行ける奴は素人じゃねぇだろ」
笹田が呆れてツッコム。
ヤンキーも集団だから「自分は殴られないだろう」とリンチの時に偉そうに攻撃出来る。
直面するまで分からないのが人間。
「悠真くんも元々格闘技好きなんだよね?」
「俺が総合好きな理由は、価値観を殺すから。昔ボクシングが最強だと思われてたんだぜ?でも蓋を開けて見たら?」
「総合にもムエタイにもキックにも負ける」
「最強って、格闘技が持つ命題。そこに答えを出したのが、総合。他競技をゴミ屑のように拒絶•駆逐するから総合を愛してるんだよ。価値が無くなる他流派。そこにゾクゾクすんだよ」
「っていうか逸脱だよ。一般社会からの逸脱。格闘家」
達仁が補足する。
「ふーん」
「平和な現代の先進国で生まれて狂えるんだから、タガを外すことが出来るんだから」
「外れることを、逸れることを好むよな、お前らって」
「だって一般人って喧嘩しても途中で止めるじゃん。「カーッとなった」って、普段大人のフリしといてブチ切れたくせにさ。折れよって思う」
「ていうことはお前ら折り肯定派か」
「ん?」
笹田の返答の意図が分からない悠真。
「悠真。テレビで関節技で折るシーン放映されて、それでいいかってことだよ。多少ヒかれても、格闘技の凄さ•恐さが世間に浸透するんだからいい。自分はされてもいい覚悟があるから、こっちも平気で折る」
遥が引いている。
「ライターさん。つってもなぁ、日本人の感性と、同じ趣味の同士であること、格闘業界は狭い、ってことから勿論色々なしがらみがあるし、選手からも煙たがられ、クレーム来てテレビ•興行側から嫌われるから…普通の奴はしないから」
それを言われたところで目の前の達仁は折る派なので、気休めで言ったのかも遥は分からない。
「遥さんにそんな説明したところで、格闘技ってものの行き着く先。怖さを一般人に知らしめたいんでしょ?」
「そりゃあ総合格闘技は、ヴァーリトゥード•なんでもありから、喧嘩から来てんだから、中途半端な終わりじゃ済まされない。たとえばボクシングのスタンディングノックアウト」
「ああー、レフリーが選手立ってるのに勝手にKO扱いにして止めちゃうやつでしょ?」
「そうだよ、俺はヤられてもいい覚悟があるから言ってる。テレビて残虐なものを見たいだけの視聴者と違って当事者側、やる側だしな」
「やらない側イコール見るだけ側がそれ言ったら無責任ってことだよ遥さん」
遥へ補足する悠真。
「でも、テレビって見世物だよね?」
「…そうなんだよっ…所詮奴らのマリオネット」
悠真の謎の感性、自虐、客観視に閉口する笹田。


日は替わって。
達仁の試合を観戦する悠真と笹田。
「冷静で相手の出方次第で動く。人間的だなぁ」
達仁の闘いをそう評する笹田。
「潔癖症のかんじだね」
試合中、達仁が相手の関節を取る。
悠真は。
「外せー!」
隣りで観戦していた笹田は驚く。
「なんで相手の応援してんだよ?」
「あっはははっ。技を外せって意味じゃくて、関節折れ•外せって意味だよ」
「残虐だなぁ。骨折れたら数ヶ月復帰出来ないじゃん」
常識人の笹田。
「それがいいんじゃん…」
人の骨を折ったことのある悠真。だからこそ言える。
その後さらっと達仁が勝利。
お仕事終了。解散。


ある日の試合。
相手の攻撃を全て避け、受け、カウンターを入れる達仁。
素手の相手のパンチを肘で、額で受け止め、相手の拳にダメージを与える。
パンチを振れなくなった相手のローキックにロー返し。
相手のスネにダメージが与えられる。
相手の掌底はヘッドスリップで避け、前蹴りはバックステップで避ける。
ミドルキックの初動へ合わせ、相手の太ももへ足裏を当て、動作自体をストップ。
ハイキックもキャッチし、こかせる。追撃しない達仁。
悔しそうに立ち上がる相手。
破れかぶれで放とうとしたパンチも先に肩を片手で抑えられ動作自体をストップさせられる。
それでも前へ出ようとした相手の前足スネへサイドキック。
相手はつんのめりこける。
追撃せず一歩離れ見下ろす達仁。
その余裕に怒り狂った相手の飛び膝蹴り。
それにもパンチを合わせ、はたき落とす。
だが追撃はせず、ただ冷たく見下ろす。
興奮もせず、実力の差からオモチャ扱い…すらもされず、手が止まる足が止まる対戦相手。

客席で並び観戦する悠真と笹田。
「あー…俺お前のことドSだと思ってるけど、あいつも大概だなー。俺あんなんされたら辞めるわ」
目の前の試合を冷めた目で見つめる二人。
「あー、クリーンヒット一切無く、全ての攻撃見切られて、勝負決めにもこない。それどころか自分の放ったパンチ色んな所で受け止められ、自分だけがダメージ負うってねー、ひどいねータツさんは」
対戦相手に聞こえるように大きな声で話す悠真。
「ドS…」
苦笑いすらも出ない笹田。

リング上。
お互い見合う…見合う…痺れを切らした男のタックル!…が、タイミングと共に真横にいなされ投げ飛ばされる。
転がる男。
近づく達仁。
「ひいっ!」
なんとか正対する男。叫びながらローキック。
それもスネでカット。
痛みでたたらを踏む男。
その瞬間間合いを一気に詰める達仁。
上段前蹴りを相手のアゴ下にクリーンヒットさせ…一撃ノックアウト。
失神しながら地面へ落ち、頭部を更に床へ打ち付ける対戦相手。
近距離で見下ろす達仁。
「いやいや…失神してる相手の後頭部、踵で踏みつける気じゃないよな?」
立ち上がり注視する笹田。
「いやいや、もうレフリー寄ってきてるから…」
対照的に冷めた目で見る悠真。ふと疑問が湧く。
「あんな内容の試合だった上に止めるの遅いし、制裁マッチだったんじゃないの?」
ゴングが鳴り響く。
観客は一撃KOに歓喜し騒いでいるが、冷めた悠真はさっさと控え室へ戻ってゆく。

「達仁…さっきの奴さぁ、なんか指定されたの?」
「あ〜自信無くすようなヒドイ勝ち方しろって。上手くいけばギャラアップ」
「相手さん、なにしたんだよ」
「昔ちょっと格闘技やってた喧嘩自慢。別の組とちょっと関わりあって、叩きのめせない。でも口車に乗せアノアのリングに上げたってかんじらしい」
汗もろくにかいていない達仁。椅子に座る。
「中途半端に暴力使ってくるやつで、須賀組の下っ端が昔殴られたけど大事に出来ない」
気怠そうに答える達仁。
仕方なく自分で補足する悠真。
「ふーん…中途半端に自分を強いと思ってて横柄な奴…。でもコネあってシメられないからアノアへ…。たかが地下の選手に差を見せつけられ、自信は無くすし、須賀組のその下っ端は蹴りで失神させられるとこ見れてハッピーっ、てシナリオか」
悠真ならこんな風に察してくれるから、最低限のことしか話さない達仁。
「流石にさ、動かなさすぎと思ったんだよ。なんか昔の知り合いでムカついてんのかなって。あーでも試合の流れは指定されてないだろ?」
「そりゃー、流動的なものだからな」
「おおっ!オリジナルの方法で本当に心折ったじゃん!ご祝儀貰えんじゃない?」
帰り支度を始める達仁。
お仕事が終わる…。


翌日。控え室。達仁と遥の二人。
「記者さん、格闘技全然知らないんだろ?コンタクト論だけでも覚えたら分かり易いけど」
「お願いするね」

格闘技とスポーツの違い。
一番重要なのはダメージ。スポーツはスタミナでのみパフォーマンスが落ちる。
格闘技は殴られる恐怖でスタミナや判断力が鈍る。
ダメージで頭がボォーッ…として判断力が鈍る頭部。鼻血が出て呼吸がしにくくなる。目が腫れて片目しか見えなくなる。
マウスピースで息が苦しい。かといって外していたら歯が折れ、最悪の場合、歯が口内に刺さる。相手の手足に刺さって化膿する場合も。
グローブが重く、手の筋持久力が落ちやすい。
更にミドルキックで蹴られ、ガードも上げられなくなる。
ローキックで踏ん張りが効かず、移動も出来ず、踏み込みも浅くなる為強打も打てなくなる。
「と、延々出てくるがつまるところ、相手の邪魔をする上に本当にダメージで止めれるのが格闘技」
邪魔イコール接触(コンタクト)。
ノンコンタクト(非接触)というのはゴルフや陸上など、一人でやるだけ、交互にやるだけのもの。
コンタクトして相手のパフォーマンスを阻害するのがテニスなど。嫌な所に球を打って相手の100%を封じていく。
「フルコンタクトってのはまさしく、フルで相手に攻撃して邪魔をする。格闘技がそれ」
相手の全力パンチを自分自身が戦略で止める。
だから実力を全部発揮出来る訳でなく秒殺と怪我もある。
隣りで一緒に走ってるだけの陸上は必ず、自分のメンタル次第で緊張しない限り、100%の実力で動けるということ。
相手のしたいことをさせず、自分だけが攻撃を当て続ける…それがフルコンタクト格闘技。
その中でも総合格闘技は超変速ハードル走のようなもの。
全ての格闘技が混ざったものだから。
手だけのボクシングはただ走ればいい単純なマラソンのようなもの。裏を返すとマラソンと一緒で一つのゴールしなかいから、お年寄りでも観れる、超シンプルなルール。
「スポーツのルールが分からない」「機械に弱い」と老人なら恥じることなく言える世の中。
弱者はバカは叩かれるのに、今迄社会でいたはずなのに、頭が悪いことを恥じない。
興味ないから知らなくてよいと逆ギレして逃げる。
社長の趣味に合わせゴルフ覚えたり、話のネタの為に新聞紙隅々むで読んだりはする。それも一時的なネタだが。
雑学•知識豊富で喋るネタが多くても困らないのに、上司が興味ある物だけ更に奴隷のように頭に詰め込まされる一般人。
格闘技はマイナースポーツ。ということで、やってる側以外はテレビで見ても関節技というものをなにか分かっていない。折れるってことすら分かっていない。
何やってるかわからない足関節技。抱えてるだけに見えて、破壊されててもよく分からんってこと。
ダウン取って上取った奴が下からの関節技かけられて一瞬でタップした場合もよく分からない。上の人が乗っかったから上が勝ちかな?ってかんじ。
人体の構造と物理学•スポーツ力学などが分かっていれば分かるのに…。
先進国で学力高く、大学•高校行ってるのが一般人。
その一般人が総合格闘技ってどうなってるか分からないという。
体育の授業で説明されてないから、所詮マイナースポーツだからの側面もあるが。
球技は複雑なルールがあってどこに当たれば、落ちたら点が分からなくても初見ならいいけど、単純な壊し合い、格闘技でも分からない。
「それがやってる側からしたら悲しい」
凄いことやってる総合格闘技がプロレスとボクシングと見分けつけられてない状況。
なら何を楽しんでいるのか?
混同するもの。よく分からないけどテレビでやってる格闘技。
命を削ってお客さんに何かを魅せる格闘家。
「悲しいんだよ…。古典絵画をレベルが高過ぎてわからない、どう描いてるのか分からない。でもゆるキャラの絵は持て囃すってかんじで」
戻ってきた悠真が開口一番。
「だって最強を本当に決められる格闘技が出来たんだぜ?それなのに」
センセーショナルな出来事。
なんでもありの格闘技の登場。
「そりゃあ一般人って分かりやすいアクション映画しか見ない、複雑なものは見ないよ昔から…」
ダサいぐらい分かりやすいメロディが売れる。フレーズを繰り返すだけの芸人が売れる。
「それで分かりやすくて子供も楽しめていいけど、怪我する格闘技をもっと真剣に見てほしいって勝手ながら思うよ…、オタク側の意見だけどな」
「選手の為を想っての心なんだよ。遥さん…」
「怪我までする、やってる側。選手のことを真剣に見て欲しいのね」
「そうだよ。尊敬なんていらない。ただ真剣に見てくれるだけで…それだけでいい…」


試合後控え室。
「怯んだ隙に耳の下、首の後ろに肘、後頭部に打撃、人体の急所。相手死ぬかもしれねーのによくやんな」
比較的常識人の笹田が問う。
達仁は一瞥して。
「正々堂々、一対一でやってんだから文句は言わないだろ…。だから不幸な事故で亡くなっても何とも思わない。女子供でもない、武器使ったわけでもないんだから」
冷たく言い放つ達仁。
「まぁな、プロでも思いっきり痛めつける奴と、「こいつ戦意喪失してるぞ止めろ」ってレフリーにアピールする奴、どっちもいるしな」
会話に割り込む悠真。
「え〜折角合法的に人を殴れるチャンスで、やっと大暴れ出来るっていう瞬間にそんな損すること」
「またサディスティック発言かよ」
「えー。俺なんか全然。一般人の方が。だって、神輿から落ちて兄が死んだのに、翌年ケロッとして弟はまた祭りに参加してたんだぜ?そんな奴らと比べてみろよ」
「…あっはは…」


激しい試合を魅せる達仁。
観戦する笹田。達仁を遠くから観察する。
普段とのギャップを感じる。
「冗舌なんだか無口なんだか」
いつも思案して黙っている達仁と訴えかけたい、伝えたいことの多さのギャップ。
「面倒臭がらないんだな〜あいつは。全員一々憎んで」
本当なら何もしたくない。それでも許せない、悪人、一般人。
悠真は悪寄りの考え。
隣りにいる悠真を見て。
「不良っぽくないよな」
だからこそ普通だったんだよ…と理解しながら悠真は。
「はは…俺は普通だよ」
さみしげな返答。
考え方以外は見た目も普通の日本人。


ある日。
いつもと雰囲気の違う笹田の姿。
「お前らは曝け出してくれてるからなぁ…俺…」
「笹田の身の上話聞かせてよ。こんな所にいる人の話を」

子供が赤信号なのにいきなり飛び出してきて、殺してしまった。
轢きたくなかったのに。
俺を犯罪者扱いしやがる。
自分の子供のバカさと自分達の教育の質は責めずにな…。
ずっと轢いてしまった瞬間がフラッシュバックする。
罪じゃない罪に引きずられ進む俺の人生は狂わされて、更に犯罪者扱い。
親が「一生恨む」ってよ。
それなのに酔っ払ってぶつかって線路に人を落とし、殺してしまった奴が「あれは立ちくらみだった」って弱者•被害者のフリしたら、そう言ったら無罪になった事件があって…。酔ってたから死の瞬間も覚えてないだろうし…。
「自分の過失で殺した奴は無罪でのうのうと生きて、一方俺はウサ晴らしの為ここにいる…」
トラック運転手の過去を持つ笹田。
トラウマを植え付けられた一般人。
全国各地に移動の日々だった。
「だから色んなジムに体験だけはしたりな。真っ当な人間だったんだよ俺は…。お前らが言う一般人だったんだ」
過去を想い、目を細める笹田。
何も無くなった腐った人間。
「おーいいねぇー、狂わされたんだねー、周りに」
悠真の言葉が嘲笑でなく、お仲間を見つけられて喜んでいるのだと、今は分かる笹田は怒らない。
「お前らの嫌いな普通に生きてただけの一般人だぞ?」
「俺が言ってるのは一般人というか…結局中(ちゅう)が俺らを殺すってことだ…。チンピラっていう分かりやすいからまだ逃げられる下(げ)じゃなくて、中(ちゅう)の社会…空気ってものが自由を奪って殺しにくる…」
立ち上がる笹田。
「ま…意味は分かるよ…俺はまさしくその中(ちゅう)に人生奪われたんだから」
過去話で少し疲れたのか、立ち去ってゆく笹田。
見送る悠真。
思案する達仁。
「殺人者やヤクザっていう分かりやすい下…。一見普通に見えて中流家庭の中(ちゅう)。中(ちゅう)が平均なんだから一番多くて…下(げ)じゃないのに人を苦しめる。押し付けや空気、妥協を人にも押し付けるということで何かを奪ってくる…中(ちゅう)」
達仁の顔を覗き込んでくる悠真。
「やっぱこういうとこにいる爪弾き者は…。ま、笹田以外は悲しみのないチンピラ共だけど…人に狂わされたんじゃなくて、ただのアホ不良共」



アノアの通路。
男三人で移動中。
眉間にデカイ黒子の、顔のやつれた男が立っている。
異様な雰囲気を放つ男。
気になり熟視する悠真。
「ん…こいつ…ナイフめった刺しの奴じゃん…。昔ニュースで見た。特徴的な顔だし間違いないって」
悠真を無視する男。
警戒して遠巻きに見る笹田。
「刑期何年か知らないけど、出て来たんだな。で、元人殺しを地下で闘わせる…と。アノアも趣味が悪いよな〜」
恐れることなく近づいてゆく悠真。
達仁は興味無さげ。
「あーでも、やつれてるしガリガリだよ。そんなんで勝てんの?」
殺人という前科を持つ者を煽る悠真。
ボソッと呟く男。
「俺はな…人殺したことあんだ…強えよ…」
掠れた声。
わざと笑顔を見せる悠真。
「武器が強いだけだろ?刃物様バンザーイ!」
笹田がたじろぐ。
「おいおい…隠し持ってても知らないぞ?」
冷や汗ひとつかかない悠真。
キレて暴れた時用にいつの間にか男の背後に居る達仁。
だが動かない男。
「んー?場外乱闘とかすると思ったんだけどなーだんまりか」
一歩離れる悠真。
「まぁでも、格好良い、強いとこ楽しみにしてます。…達仁の相手?」
「いいからいいから」
男から離れるよう促す笹田。唯一の常識人。
三人で控え室に戻ってくる。
「お前ナイフと闘えんの?」
やや怒っている様子の笹田。
「いや〜、三人もいるから取り押さえられると思ってさー」
悪びれない、危機感の無い悠真。
「こいつちゃんと教育しとけよ綾瀬…。あと、あんないかにもガリガリの弱そーな奴が綾瀬と闘る訳ねーだろ」
「へーそうなん?」
「強い奴と強い奴当てんだよ…秒殺見れればいいってもんじゃないの…」
凄惨な蹂躙劇が見たい客は少数派で、表のように、どちらの方が強いのかを目の前で確認できる面白さの方が上回るもの。
「んだら、あいついつもの色物枠?」
「分かってんじゃねぇか。つーか、お前本当頭のネジ一本飛んでんな…。まぁだから綾瀬の自殺の手助けなんかしてんだもんな」
呆れでもない感情。
自問する悠真。
(闇が深すぎて本当の本当に直面しても俺は無感覚のままなんだろうか?)


本来爪弾き者が来るアノア。
下衆な話題で盛り上がる奴ら。うざったく思い注意する悠真。
「下ネタは他所でやってくれよ」
「なんだぁ…真面目な奴だな。こんな所にいるくせに」
バカ達に我慢ならない悠真。
「それに性器じゃなくて、排泄器だから。子供産まない側からしたら」
重い意味は通じず。
「?こんなとこにいて頭やられたのか…」
「だから大事なとこでもない…アソコなんて」
一つ一つの発言に反論していく。
「なら俺が潰してやろうか?要らないんだろぉ?」
下卑た笑いを見せる男。
「くっそ…俺は弱そうって見られてんのか」
「…」
達仁が無言で男にプレッシャーをかける。
「冗談だよ…。連勝様が恐いもんなぁ〜」
最後まで人をバカにした態度のまま、立ち去りながら、捨て台詞を吐く。
「こんな所にいる親不孝もんがっ!」
バタンッ。扉の閉まる音が響く。
親もいない悠真は暗く。
「親不孝ってなんだよ…。他人を不幸にする奴らが」
「他人すらを」
達仁が補足する。
そんな達仁へ笑顔を向ける悠真。
唯一の理解者。


控え室にて。
「お前ら人間が嫌いなんだろ?格闘家は?」
笹田が突然問う。
「クリエイター•アスリートって一般から逸脱してんだから最高だよ」
「あっ、そうなんだ」

特別になる•有名人になりさえすれば、黒人だろうがアジア人だろうが差別されない。
「あぁ、日本総合トップの選手もアメリカ白人にVIP扱いされてんもんな」
実力至上主義のアメリカ。人にない特別さ•能力さえあれば、一切のしがらみなく、報酬•居場所をくれる。
漫画を30代以上の一般人が見てたらバカにされる。芸能人ならされない。
人目から逃れる為に特別にならなきゃいけない。自由になる為には一般人から脱却しないといけない。逆に言えば、一般人は何もしちゃいけない。趣味の自由すらない。人目を気にしなきゃいけない。
「これが一般人教の制限の証拠だよ」
仕事じゃなく、見た目や趣味すらも制限してくる。
金の為じゃなくて、職業以外でも自分のしたいことをする為に特別イコール有名人にならなきゃいけない。自由のない社会。
お嬢様なら門限あっても恥ずかしくない設定。一般人なら「今時、門限って。破れよ」と言われる。特別なら何しても許される。一般人は一般人同士で出る杭打ち合いして「我慢しろ」

「クリエイターというもの。一番美しいのは」
国民的漫画ドラ◯もん。
子供時代に楽しみ、愛される。その子供が大人になり、また自分の子供に読ませる。何十年経っても自分の作品が愛されるという究極の喜び。人に笑顔を与える素晴らしさ。
「この場合はその誇りも、大金も得られるが。格闘技の場合、稼げはしないが」
自分が作った武道が何百年先にも存在するということに価値がある。
お金じゃなく、受け継がれし文化。
憧れられ、「俺もやりたい」と言われる程の何かを残すこと。それが生きるということ。
才能ある人達が頑張って研鑽してきた技術•文化。
文化こそ人間の意味があるのに。 、単純労働というロボット役をやり続ける。誰かに尊敬されはしない。システムそのものだから。まさしく社会の歯車。パーツに感謝なんてしないように…。先人の歴史•論•技が人に何かを与える。
凡人は何も与えない。クリエイターと違って頑張って一位になろうとするんじゃなく、周り全員を100位に堕とそうとする。そっちのほうが楽だから。下に下に足を引っ張って他人の邪魔をする。

地震で避難した後、自分自身が財産になるクリエイター。
自分の一番大事な物•宝物は自分の脳•経験•知識•技術。
小説家なら津波で原稿を失っても脳内に物語がある。
画家でも一から描き直せる。なぜなら、そこまで技術力を上げた自分の手があるから。
物•宝石じゃなく、人間が財産であるべき。
「人間国宝って言うもんな」
笹田が納得する。
でも一般人は買った物を一番大切な物と言う。
「家族とも言わずにな…」

本当にクリエイターはこちらを傷付けず、癒しだけ、夢だけをくれる。
人間がなぜ生きるのかの答えをここに求めてはいけないのか?
文化の為。それを引き継いでいく美しさ。
「産まないこと、一般人の生きる意味の否定からそこに行くのか…」
基礎だけやり続けるアマチュア。集中力も目的もなく。
上の上になるのは変人か天才。
飛び越えなきゃいけない。
人から外れた、逸脱。

何かを変える。誰かを救う。夢を与える。芸術を産み出す。

目的がある人間は時間が怖い。ない人は暇が怖い。時間はあるけど使う程派手な人生じゃない。
芸術家は死ぬまで最高傑作を追い求める。一般人は自分が勝手に作った家族を食わせる為だけに働く。睡眠時間を削ってまでの目標がない。
生きている意味•輝きが違う。
大学に毎日目的なく行き、モラトリアムという時間を無駄にする。サークルで遊ぶ。同じ趣味の者を必死に見つけ、人生を焦らない。何も変えない。意味を見つけない。本気で生きない。それすらも分からない。
同じ日常だからどんな下らないことも大袈裟に重要視する。人の噂や悪口で人生の暇つぶしをする。暇を潰して生き続ける。

天才には余裕がある。だから夢をくれる。一般人はたとえ中流家庭でのんきに生きてても“余裕“はない。建前上はみんなで助け合う世の中だが、独占しようとし、叩く。皆で余裕のなさを補って美しく頑張っているはずの建前。

目標があって、それのみに力を注ぐ画家•アスリート。夢をくれる。
暇で努力もせず、人をいじる•井戸端会議•陰口。余った時間で関わってくるのは一般人。
2位は1位に嫉妬するが、努力して勝とうとする清いもの。

「俺が言ってる花形•有名人以外でも」
動物好きで飼育員になり「毎日触れ合えて幸せ」や、自分がデザインした建築物がランドマークになるとか一般人でもやりがいのある仕事はそりゃあるよ」
その人達は満たされてるから、人を叩かない。
でも嫌々やってて、他人をストレス発散の為叩く側のサラリーマンなどは、仕事を「やりがいある」って強がりを言うから。
「でも、ペット以外にこの世に共通するのは、競争なんだよ」
勝ちとって建築物を建てる。一流料亭で働けるぐらい技術を磨いた。スポーツ•音楽•人気。競争して勝ち取る。
「サラリーマンや一般人は競争から逃げた人間だろ?」
妥協した、停滞した、嫌なことを仕方なく働く、負け…というか勝負の場にすら立っていない人達。
その人達が自殺者を逃げた人間と叩く。
同じ負け組なのに自分を中(ちゅう)と思い込みニートやヤクザを叩く。自分に不利益が生じそうなら弱者ぶる、下のフリをする。

才能じゃなくても、生き様。人生観。それがないから薄っぺらい。
適当に人生を送る者。だから子を産む理由も、託すものもない。ただ居る…。ただ産むだけの…。

建前は人のため社会のため生きる一般人。
でも実際は自分を食わすためだけの会社員。勝手に家族作って「食わせてる」と言う。
人を救う有名人や新薬開発 、弱者の為の発明は美しい。

達仁が救うのは一般人じゃない。生まれたくなかった人や不幸な人を代表して問いかけのため死ぬ。人の為にも死ぬ。
「他人の綾瀬が死んで誰が何を救われるのかは俺には分からん」
一般人側の笹田の感想。
人を笑顔にする、中(ちゅう)を笑わす芸人•漫画家という、他人への正義じゃなく…下の為のもの。
有名人になって、自分がその表明をして死ぬこと。
誰にも自殺理由が分からない一般人の自殺。遺書を残していないから、成功者のはずなのになぜ死んだかわからない有名人の自殺。
達仁は悲しみを伝える為と表明してからの人前自殺。達仁はこれを正義と信じこんでいる。

他人を妬んで愚痴を吐く一般人。
他人を本当に憎んで、本当に作戦を実行しようとする達仁。執念。
執念にもなり得ない嫉妬を抱えて生きる、他人と自分を比べ一喜一憂する一般人。
そうじゃなくて、冷めてるからこそ、自分と他人は違うということを悟り、壊しに行く。
怒りの装置。ただの機械。他人に狂わされた、ある意味空っぽの存在。何かに突き動かされるまま、進み続け、死に向かう。哀れな。
他人の為だけに生きる一般人と結局は同じ行動をしている達仁。
死ねる覚悟がある。
「お前らとは違ってな」というところを見せつけるところと、一般人叩きのダブルでタブーの内容。
世界を変えることは出来ないから、自分が去る。
誰かを人質にとるのではなく、自分だけが死ぬ。
自分の自分だけの正義。
ネガティブが上回った生き物。
表面上だけを見れない。自殺したいくらいに。
勝ちがない。決まった結末。死が決まっている。
自分で自分の命を目的の為に使用する主人公。
心が壊れているから出来る目•雰囲気。
何を見ているか分からない。何も見ていない。
謎の執着とゴールだけが決まっている。
醒めた目、狂気。

闘っている時だけ解放される。
蓄積された怒りを獣のように発散出来る唯一の方法。
その間だけ、思考するということから離れられ、癒される。
人間だけがする、考えるということが、壊し合いの時だけは…。
殺し合いと違い、格闘技は人間が生んだ文化。
…いまはただの素人の達仁。



本日の対戦相手。
TV格闘を見てかっこいいと思い、軽い気持ちで出てきた、須賀に対するコネ持ちの男の息子。
「もし負けても地下だし全国放送もされないから」と気軽に来た者。
中高生時に少し喧嘩したことある程度の男。
「そんな舐めた奴に…きつく行くよ」
「おぉ…」
試合直前、悠真にそう語る達仁。
自分が無茶苦茶やられてもいい。正々堂々一対一なんだから。という覚悟を相手に求める、格闘技にも潔癖な達仁。
少しでも良い思い出•優勢さを残させない為、ゴングと同時に走る。
面食らって動けない相手に斜め上からヒジを振り下ろす。
切り裂く。
達仁がそうした理由は、縫わす為。
縫う時にも痛み。抜糸まで毎日無様に負けた証を鏡で見ることになる。
抜糸まで痛み、場合によっては傷跡が残ることも。
「って試合前に達仁が言ってたよ。くっくく…楽しみ」
Sな悠真がニヤケ、吊り上がる口角。
「素人相手によくやるよ」
加虐心に呆れる笹田。
「だからぁ!素人が覚悟なく上がること、格闘技を舐めてることがムカつくんだろ?」
リング上では、あえて達仁が距離を置いていた。
垂れてくる血にビックリする男。青ざめる表情。立ち尽くす。
「血が出たくらいで止まりやがって、格闘技をどういうものだと思って出て来たんだ?レフリーがすぐ止めてくれるTV用のスポーツエンタメとでも思ってたのか?」
あえて大きな声で語る。
「殺されない為の、戦争でも戦国でも使われる素手の壊し合いだぞ?」
試合を放棄したわけでもなく、言葉責めしていて面白いので「試合再開しろ!喋るな!」と注意しないレフリー•スタッフ。
鏡もなく、どれだけの長さのカットなのかも分からない男は、試合をまだ降りない。
肘で裂かれた傷は案外痛まないものである。
普段は別室でモニターで鑑賞する須賀(オーナー)が最前列で見ていた。
「くくっ…言葉でも責めて心も体も折りにいく綾瀬…。いい素材だなぁ、全く」
上機嫌な須賀。
コネで上がった格闘経験一切なしの素人。
知り合いだからと試合を止めて丁重に扱わず、娯楽として楽しむ須賀。
いくら自分から志願していようが、息子を血祭りにあげられ逆上する可能性があるが。一人スポンサーが減ろうが、楽しみが上回るヤクザ者。
「金持ちの世間知らずの、万能感溢れるお坊ちゃんを…くっく…」
にやけながらリング上を見つめる須賀。

リング上では。
「折角ここに上がったんだから、良い思い出がないとな。ほら、一発殴らせてやるよ」
頬を差し出す達仁。
逆上した相手が荒く入ってくる。
素人の振りかぶられた腕をキャッチし崩す。
前にこける相手。
四つん這いの所をサッカーボールを蹴るように頭部を蹴る。
傷口のある額辺りを狙って右足で振り抜く。
衝撃音と共に軽く浮き、ゴロリと仰向けで失神する男。
傷口からは血が溢れている。
見下ろした後、去ろうとする達仁。
須賀と目が合う。
笑顔で立ち上がる須賀。
「やっぱりお前の試合は良いわ…。またギャラ上げてやるからな」
「…ども」
自分がプロデュースする大会で、ここまで楽しめることに悦に浸りながら帰ってゆく須賀。
達仁は、本当はヤクザなんかとは 関わりたくない。
だが表で生きていけない達仁には都合のいい地下格闘。
その実力を買われ、用心棒などを頼まれてはたまったものじゃないので、普段より須賀には寡黙に接する。
日本は銃社会ではないので、真に元プロ格闘家は用心棒として重宝される。銃刀法でしょっぴかれることなく、道具を用意する必要なく、いきなり暴力を発揮できる格闘家。体と雰囲気で脅すことのできる存在。


ギャラがどんどん上がる達仁に嫉妬する周りの者。
やっかんでくる。
「ファイトマネー高くしてくれ」というのをガメつい扱いされる。
これ一本でやりたいから、格闘技の練習だけやって高めたいから言ってる言葉。本当にこの競技を愛していて、夢を追えるようにしてくれってこと。
「野球と駅伝以外はサポートしてくれないもんね」
芸人みたいに自分だけ売れればいいんじゃない。
お金の為じゃない。一億もらえたら引退するんじゃなくて、競技レベルを高める為に専業にしたいってだけの言葉。
「それをプロが言ったらかっこいいけど、アマですらないからな」
笹田が唯一ツッコム。


数日後。
控え室で試合までの暇な時間お喋り。
精神病が多いのは先進国。飢餓の心配がなくなると鬱になる。
「じゃあ、人間って何なんだ?ってなるけどさ」
日本人は特に溜め込むから、自分を責めて自殺する。
「外国の奴らは自爆テロで巻き込む」
「…」
あえてあることをツッコマない笹田。
「でもまぁ、その逆に萌えなどエンタメ大国なんだけどさ」
自殺率が高い日本の側面と、お笑いやアニメなどがさかんな側面。
「あっはは、極端だな。最も平和な国で…」
「でもさぁ、こんな世界でよくマトモに生きてられんなって」
いたずらに生を捧げる悠真に笹田 は。
(生き急ぐっていうか、死を早めるっていうか…やれやれ)
破滅願望のある悠真…と達仁。
「最後に笑ったのはいつだよ?あっ悠真じゃないぞ、綾瀬」
「くすりと笑うよ」
「あっそう?」
拍子抜けする笹田。
「普通の人は余命宣告されたら、子供の成長を見届けられないことを嘆く。でも俺は死の痛みが嫌なだけ」
何もないから。何も残ってないから。

何の論理もなく、安楽死は認められない。
正しく家畜だから。奴隷のように働く他者の、下の者が必要だから。
医療も発達した!まだまだ生きろっ!税を払って労働し続けろ!
「年金は引き上げて、俺らはもらえないのにな」
年金を一応払ってる笹田。
「60歳なんか生ぬるい!死ぬまで奴隷し続けろって聞こえる」
「利権の為に癌治療薬隠してる陰謀論とかあるもんなぁー」
「医療の発達って、お偉方を救う為のものと…奴隷の維持の為」

介護だけで人生を終える人。それを申し訳なく思い、子供の未来を奪ってすまない、と言う親。
誰かにしわ寄せが来る。
どうあがいても。
「痴呆症だろうがさぁ、施設送りにすんのさ。親を人任せに出来る鬼畜」
家族の代わりに本当に重病を移せるなら、代われるのが本当の優しい人。
「それを受け入れた側は優しくないんだけどな」
「確かに」
「一ヶ月毎に交代とかがマシかな」
ファンタジー話も一々真剣な悠真。

現実から逃げてんじゃなくて、他人、他人の悪意から逃げてんだよ…。それこそが現実だって言うなら…。
「人のせいにするな!」
何が原因で俺はこうなったのか?生まれながらに純粋に悪で底辺らしい。

「普通の人は分からないから」
鬱で寝れないとする。
「働けば治るよ、疲れれば眠れるよ、甘えるな」と言う。
疲れればってのは体のみを指す。
心は認めない。
本当に働いて疲れても寝れない。 疲れだけ溜まって過労死する…のが本当の鬱。
自分は疲れたら寝れるから、皆寝れるはず、死にはしないよ。
無責任に弱者を働かせ、決めつ け、叩く。でも言葉の責任は負わない。
「「あんな弱い奴どうせ何年か以内に死んでた」って逃げるのさ」

だから本当に死ぬことでしか分かってくれないから人前で死ぬ。死を見せつける達仁。
悲しみや弱さを本当に自殺しなきゃ分かってくれない。
「いや、死んでも何も思わないけど」
「まぁ、そうだろうな」
笹田も沈痛な面持ちで返す。
「俺がそれを訴えかけながら死ぬことによって、一人でも救われればいい」
誰かの為でもあり、自分の為の死。それに熱を入れる。
自己犠牲なのかもよくわからない理論に笹田は返答しない。
「人間てのは軽いから。友達が死のうが恋人が死のうが、また補充するだけ」
誰でもいいという証拠。
自分しか駄目な。相手じゃなきゃ駄目なもんなんて…。
命は、人一人は、軽い。

究極の合理的とも取れる、自殺。

「苦痛に対して報酬なんてくれないんだぞ?」
どれだけ独りで苦しもうが溜め込もうが。
自分が損するだけ。
最後、我慢に見返りはない。
だから流して生きるしかない。でもそれが出来ない。
苦痛•我慢に対しての支払いはない。
でも弱者側は我慢しなきゃならない。やる側はストレス発散出来て苦痛のない人生。
他人が押し潰してくる。
無理矢理忘れたところで、された事実は変わらない。逃げになる。それは損。かといって、忘れなかったら更に苦痛。
妥協を大人という。されたことを忘れて、怒りも無くなって、迎合して。溶かされる。
それを全員に求める。
正義に合わせるんじゃなくて、一般人の社会、なぁなぁの世界に、奴らに迎え合わせられる。

達仁は政治や戦争反対など大袈裟なものでなく、人に訴えかける。
死生観や産み、悲しみ、特別を目指さないこと、逃げる一般人と闘う。



翌日。
笹田が話しかけてくる。
「でも実際運が良かったな、たまたま強くて」
右利きサウスポーの、総合格闘技でも立ち技でも強いスタンスが得意な達仁。
生まれつきウェルター級くらいの体なので骨格はゴツい。
だからそこまで筋トレを、最軽量級の者ほど(サイズアップ)頑張らなくてよかった。
そこで余った時間を、勘の良さ•頭の良さを使って技術論を叩き込んでいる達仁。
総合格闘技は総合なので、他の格闘技やスポーツの何十倍も技術論がある。
喧嘩でしか使えない技術も武道の技もプロレス技も、使えれば奇を衒えればいいので叩き込む。
更に栄養学•筋トレ方法も勉強し、最短で進む。
勘が鋭く、冷静。カウンタータイプ。
更に遠山の目付けをしていて、避けれる。相手の目を見るんじゃなく、全体をボーッと見る技術。
だから目線フェイントにもひっかからない。
下を見てローキックと見せかけておいてハイキックするという技術などにひっかからない。
見返す為なら、変わり者の変的根性でいくらでも走れる、歩ける。
心の力で強くなっていった。
「普通心の力ってのは良い意味で使うもんだけど、死んでも見返す、殺すって精神だ」
それも、そんな状態を壊れてもいい覚悟で格闘に活かしている。
興奮剤と同等の精神異常。イかれてるから脳内興奮物質が普通より出る。
それは寿命削ってるのかもしれないけど、それ程集中してる。
いわゆるゾーンという超集中状態。
俯瞰視点出来る程、本来の動きより素早く、時の流れが事故に遭っている時のように遅く感じられる程の状態。
「そんなのトップアスリートしかなれないけど、イかれてるから入れるんだよ。将来の負担なんて気にしないし」
勿論格闘家など興奮しっぱなしの者の寿命は短い。のんびり生きている一般人の方が穏やかに長く生きられる。
自分の身を守る為の極限の闘い、格闘技はそれに入りやすい。
そもそも痛みを感じないようにドーパミン•ノルアドレナリンなどが出る格闘家。
アルファー、ベータ、シータ波•セロトニン•エンドルフィンなど身体に影響を及ぼす脳内物質は色々ある。
「目の前の相手と動物的本能を限界まで交わす総合格闘技は異常な世界だから…本当に二人きりの世界でどちらかが壊れるまでやるんだから、そういうものが自分に起きんのも分かるだろ?」
一生に一度、ここまでの闘いが出来れば死んでもいい…という闘い。
「んなもん、トップファイター同士じゃないと出来ないけどな…。相手が弱すぎてすぐ終わって暴れ足りない…とかあるし」
笹田が突っ込む。
「普通の人間はスイッチなんて入んねーだろ。俺だって緊張感•恐怖心の方が上回ってドキドキしながら闘ってる」
自殺が出来る精神異常者。
「狂ってるから闘えるんだ…そのまま死ねるくらいに…」
「アドレナリンのオーバードーズ状態じゃねぇか、んなもん」
寿命を本当に削っている極限状態の生活。
悠真が口を開く。
「脳内物質で動きが良くなって、痛みを感じにくくなるんだから、漫画みたいに本当に心の強さ•気持ちの強さが影響するのが格闘技ってことだよな。痛みに強いことも格闘家の条件なんだから」
他スポーツからの転向組が少ないのはその為。
打撃が怖いので、相撲•柔道からすら転向してこない。
尚更負けん気が強いこと、諦めない心で大逆転なども多々ある格闘技。
だがその逆に、どれだけ痛みに強かろうが、急所を突かれて一撃失神などもあるシビアな特性を持つ世界。
相手を折れる•心を折れる覚悟が最初から備わっている達仁。
独りで生きていて守る者がないから、最後まで行ける。


アノア内。
今更ながら心配してくる遥。
「ここ危ない人も来るでしょ?」
「そうだね、須賀組とは関わりなく、薬物やってる奴もいるね」
そこに絡んでくる男。
「お前らもイかれてるしヤッてんだろー?」
ヘラヘラしている。
「んー、舌っ足らずな声…。俺軽犯罪レベルしかしてないのに、一緒にするなよ。お前の方が危険人物」
笹田は。
「そうかぁ?一人でクスリやってるだけの奴と、誰かを殺せるかもしれないお前と」
「えっ?笹田俺の事そんな風に見えんの?一応前科無しなんだけど」
「あっはは」
うやむやになった心配。
だが逆にのんきに過ごせているのだと納得する遥。


夜。達仁のアパート内。
達仁が出かけていて暇な悠真。件のURLを踏んだ際の、サイトでも見る。
いじめについての項目。

学校裏サイト。
生徒だけが見られるコミュニティ。狭い世界。
なのに口頭じゃなくわざわざネットで「コロスコロス」
本人が見てなくても書き込んでスッキリ。見てたら嬉しい陰湿さ。
下を叩く、いじめというもの。上には立ち向かわない。
いじめられてる側が何かした訳でもなく、なぜそこまで憎むのか?
遊びや部活をせず、あるいはしていたとしても、青春がこれ。時間をかけて書き込むこと。
先生が消してもまた書き込む。そこまでして表現したいものが「シネ」本当に理解することが出来ない。
普通は嫌いな人、興味のない人とは関わりたくない。見た目をキモいと言ってるなら尚更。
下を作って悦に浸りたいという精神が既に小•中学生の時点であるという恐怖。それが社会人になっても続いているという恐怖。
無視じゃなく無理矢理関わっていじめる。
犯罪者の方がまだ、利益がある分分かる。
利益…下の者を叩けるという利益が、他人を傷付けてまで欲しい利益。
犯罪者とも少し違う精神性。
犯罪者以外に自分を傷つける存在が腐る程いる世の中。

自分がされる側になりたくないからという理由で「やる側に回るしかない」と正当化する者。

周りにも、加害者にも責められる被害者。
自分で勝手に作った時効で、成人すれば時が経てば許されたと思い込む加害者。
その赦しって、時効って…後ろめたくなりたくない“自分の為のもの“なのに。

許さなければまたこちらを器小さい、人間性が悪いと叩く。そりゃあ加害者側だからそういう感性。
いじめる人間は心広い、人間性が良い。
しまいには「いじめられる程度の取るに足らない人間」と。
罪悪感から逃れる為の自分の為の謝罪。
「根に持つな」結局いじめの時と同じように強制してくる。
それならほっとけばいいのに、自分がやったことなのに、また関わってくる。
いじめて騒いだ楽しい思い出、加害者。
悲しい思い出しかない、戻りたくない、被害者。

いじめをするのは誰?物語の中で。主役じゃない人達。脇役•モブが人をいじめる。
物語を見てもそれでも、それに気づかない。人を叩くんじゃなく、自分を高める存在、人を助ける存在に、主役になろうとしない。悪でいい。正義でいたところで得しないから。

一般人が好きなのは結局スターじゃなくて、優越感に浸れる者、いじめの対象•自慢の対象がいることが喜び。
一般人という括りの中で勝ち組負け組。ママ友同士の夫の自慢のし合い。学歴自慢。同窓会。どんな小さな世界でもそれをする。
一般人なのに承認欲求が強い。
弱者は守る者ではなく、バカにして笑う者。


見ている内にいつの間に帰ってきていた達仁に背中に立たれていた。
「うおっ!…ビビった〜。幽霊かと思った」
普通の若者の会話。だが達仁はそこから。持論を展開する。

霊を怖がれるってのは羨ましいこと。
病気の人はそんなの楽しんでいられない。
現実には痛みか病しかないんだから。
病気というリアリティが絶対に自分を現実に引き戻す。これからも一生付き合っていかなきゃいけない本物の恐怖、不幸に。
病だけが現実を感じられるという、最悪の、人間という生き物。


翌日。
試合後。
たまたまタイミングが合い男三人で外へ。
夕日が眩しい。
「なんだまだ夕方だったのか。地下は窓が無いからな」
屋外の秋の肌寒い空気。
目の前を通りかかるラブラブ高校生カップル。その二人を見て。
「あー、あんな時代あったなぁ俺も。なぁっ?いいよな?」
地下でむさ苦しい男しかいない世界。羨む笹田。
「ない」
「ない」
シンクロするセリフ。
「底辺の俺なんかにはもう無いって意味か、自分に経験がないのかどっちよ?」
「後者」
「後者」
試す笹田。
「…彼女とか「格闘技とか危ないことしないで!」って言ってくるよなー…」
「知らん」
特に弾まないこの会話。
沈黙。
ビルとビルの間に夕日が差し込む。
「俺さぁ、30代だけど久々に恋バナとかしたいのよ…」
どす黒いアノアの連中でなく、若者相手に求める笹田。
真顔で答える達仁。
「手を繋いだこともない」
手を上げる悠真。
「あー俺もキスもしたこともないわ…そーいえば」
「マジで言ってんのかお前らっ!いくら地下にいるような奴らだからって腐りすぎだぞっ!枯れすぎだぞっ!」
一人興奮する笹田。
「俺は…人に好かれたことないから…」
ただモテないと言ってくれた方がマシな、きついセリフ。
苦い顔をする笹田。
「うわーくっらっ!」
「それに、目的の為に恋人作らないアスリートっての聞いたことあるだろ?」
冷める笹田は。
「そんなに余裕ないのかよ。そいつら…アスリート様って」
笹田の肩をポンと叩く悠真。
「まぁ、そっち系の話は俺ら出来ないから…そもそも死の匂いを漂わす奴を好きになるか?」
合わせて達仁が口を開く。
「だから…告白のドキドキも企業内のことも書けない。経験してないし」
「っていうか、お前経験してないことも怒って訴えかけるんだろ?世間に」
ふと気づく笹田。
「ん…?お前童貞のまま死ぬのかよ!?」
平然としている達仁。
悠真は恥ずかしそうに。
「俺は別に一回くらい恋してみたいかなーっとも思ってるよ。相手いないけど」
「生きてて楽しい?」
今更こんな感想を二人に抱く笹田。
「女に甘えて抱かれながら寝たこともないのか…お前らは」
世代間ギャップというよりかは、精神異常者ギャップ。
哀れむような眼差しを二人に向ける笹田。
「ちょっと可哀想だし、メシ奢るわ。牛丼屋行こ」
「おっ?ありがとな。恋愛経験無しのおかげで、得したじゃん」
「はっは」
男三人で移動。

最寄りの店内。
「冷めてる綾瀬の恋愛観ってどうなの?」
笹田の周りには普通に恋愛する奴やヤンチャしかいなかった。
「惚れた方が負け、って分かってるよ。俺は付き合ってもいつか別れるって分かってるから、恥ずかしいセリフとか吐かないし、依存しないかな…」
他者を拒絶してるわけではないが、深く関わらない。
「どこまでも冷めてんなー。のめり込んだりしないんだな、女に」
「えっ?データでは3〜4人目と結婚すんだから、達仁の言うこと合ってるじゃん」
噛み合わない返答に呆れる笹田。
一般常識というか、一般人の精神を講義してあげたくなる。
「統計とかじゃなくて、夢中になるんだよ。まっ、お前らには分からんか…でも美人は好きだろ?」
美人の補正も教授なのに美人!の補正もかからない。付加価値で顔を見ない。誰が作ったか(有名無実のクリエーター)とか友達補正もかからない。
冷めてるリアリスト。
相手に何の思い入れもないし、“持ってない“から。
補正や人の評価で見ないのだからある意味良い人間だが。
「そこまで行ったら感情の欠落じゃんかっ!」
年不相応のツッコミをしてしまう笹田。
本当に自殺できる人間の精神性。人を必要としない、希望の無い。
「あーじゃあさ笹田、自分がブサイクで美女と付き合えるのと、理想の顔になれるけどモテない。どっちを選ぶ?」
自分達でもしやすい会話に変える悠真。
「んなの美女の方に決まってんだろ、なんで?お前、後者とんの?」
「それは…自分のプライドを取るってことだよ。欲じゃなくて…ブサイクだったら何しても周りにバカにされる。…俺って中性顔じゃん?でも自分が格闘家になれるんなら、ヒゲが似合う恐い顔になりたいんだよ。ギャップとか要らないから。これってナルシストの扱いになんのかな?今の自分の顔好きな訳じゃない。ただ人にバカにされない顔になりたい。「よく美人ゲット出来たな、その顔で」って一生言われるくらいなら後者でいいもん」
傷つけられ否定されてきた者ならではの価値観。
会話に加わらず黙々と食べていた達仁が補足する。
「他人からの自己防衛の方が上行く。優先される」
「お前らっぽいな」
箸を休める達仁。
逆に気になる笹田はしつこく。
「本当のところ好みは?」
「所帯染みてない、料理出来ない、人間的に頭良い人。冷めてるサバサバ系が好き。しいて言うなら」
自分と逆のタイプを選ぶ人達もいるが。
格闘家なら、普段緊張しているから、奥さんに癒しを求める。
寡黙ならお喋りで引っ張っていってくれる明るいタイプ。
自分に無いものを教えてくれるからインドア派がアウトドア派と付き合う、など。
相手の能力•見た目には言及しな い、勘が鋭い人が恋愛対象の達仁。
死ぬのだから絶対作らないが。

普通の人は普通の人と付き合うんだから、でも達仁は痛みが分かるのだから、こっち側の女と付き合わなければいけない。逆を欲しがって普通の子は駄目、という縛り。
冷めているリアリストだからこそ、重きを置くからこそ、本当の愛を求める。そんなものはないと分かってるからリアリストの達仁。
「おーん」
やっと本音が聞けたものの、つまらない答えで生返事の笹田。
「お前は顔さえ良けりゃいいんだろ?」
友達同士のような、普通ののどかな会話。
食べるのが遅い悠真が更にお喋りでゆっくり食べていく。
「まぁなー」
「ヤクザとか政治家の娘でも?」
おどけて明るく言う悠真。
「なんかちょっと恐いよな」
バカな会話を続ける二人。
達仁が立ち上がる。
「ん?」
「須賀に呼ばれてんだ。もう行く。ご馳走様。悠真はまだ食ってていいぞ」
「はーい」
出て行く達仁。
「俺もう一杯食うわっ」
ミドル級の笹田は体維持の為、普段三杯は食べる、
そんな笹田を眺める悠真。
「俺は平均身長•平均体重だから、食う量にすらビックリするよ…あんたらの」
「まぁ、いわゆる燃費が悪い、で食費かかんだけどな」
「たかが食費ごときでその体になれんならなー」
プロ志望ではないが通常体型のユーマがデカイ男をうらやましがる。
デカくても虐められる者は腐る程いるが…。
よりより多くの人に勝てる可能性のある高身長。
「俺は怖がられるだけだぜ?別にモテない。女には自分から行くしか…で、お前の方は告白されたことあんの?」
「あるけど…」
いじめといじめの隙間にわずかにあった普通の学生生活。
「思想があって、天邪鬼で絶対相手の思惑にはさせたくない、偏屈のお前は断ったんだろ?」
「でも非恋愛主義の達仁さんには悪いけど一回だけ美人だからOKしたことある」
「ははっ、どうなったんだ?」
「周りが美人と付き合えることにやっかんできたから「お前らが煩いから別れるよ」って目の前で振った」
困惑する笹田。
「周りが小言言うからって理由で振ったの?周りは止めなかったの?」
「…俺は狂ってるからそこで本当にに折れて平穏に戻ったりするのイヤ。お前らのせいで別れたんだぞって犯罪者のように仕立てる方が好き。でも結局俺がオカシイってだけで誰も反省とかしないのな」
人には上から指図出来る一般人。
数の力で人の自由を奪ってくる。
本来の性格も夢も。
たとえ恋愛だろうが。
「卑下してるフリして周りの評価下げてやろう。面白いことをしてやろうって…。俺は絶対美人の方を取るわっ。お前おかしーよ」
「あいつらのいじりに一矢報いることの方が大事なんだよ…。いじりしか出来ない自分達を自覚はしてくれないけど…それでも」
精神異常者の恋愛価値観はぶっ飛んでいて、逆に聞いてて面白くも感じる笹田。
本人は真剣に語っているが。
「相手を拒絶することに喜びを感じるんだよ…。告白とかチラシ配りとか。でも言い訳するとこんな風になったのも周りのせいなんだよ?たとえ「周りをいじめて拒絶する奴らと同じことしてる」って言われても…。達仁は正義寄りだからしないと思うけど、俺はしてしまうの…。達仁には黙っててよ」
「…おう。ていうかお前は思いっきり悪側の人間だろ。言うこととかさ…」
「達仁と違って俺は「されたことを痛みを知ってるからやらない」じゃなくてやってしまうんだよっ!…最初から拒否するんじゃなく、優しくしてから恋愛対象じゃないって振った方がダメージデカイだろなぁ…とか考えてしまうんだよ」
真剣に語る悠真と内容のチグハグさ。
「人間は否定する生き物だからどうしても自分も拒絶してしまう」
「その逃げ、アレじゃねーかっ、ははっ」
「あっ、あと告白の時「大事な話があります」って言うだろ?「お前にとってだけだろ?親が死んだかとと思ったわ!時間返せよっ!」とか」
流石にヒく笹田。
「あー…それ本当に言ってないよな?」
「いやっ、俺よりエグい事言ってた奴いたよ。イケメンが「俺より肌も顔も汚い奴を好きにならない」って」
「あー、イケメンの家族は美人だから目が肥えてて、姉より美人じゃないと嫌、とかいうのテレビで見たことあるかも」
「あと、学内美人ランキング、裏から読めばブスランキングとかな」
毒舌エピソードを次々と重ねる悠真。
「バレンタインチョコ目の前でゴミ箱に捨てるとかも」
「…エグいな」
「いや?あいつらの方がエグいよ?だって「思わせぶりな態度とった」って目に見えない、法から外れた恋愛ならではのルールで自由を奪ってくるじゃん。「自分は悪くない、相手が悪い」って、やった側は守られて、仲間集めて人を叩く」
第三者が「付き合ってあげなよ」と自由を奪ってくる。理由を聞いてくる。断った理由を。興味無いものに対しての理由を。
惚れた弱みよりプライドを取る悠真。これ以上苦しめられたくないから、自分だけでいい。
「一口頂戴と言われ、その後一切手をつけなければ、こっちが叩かれる。自分を汚いと思ってない。一般人は自分を卑下しないから。デリカシーのない間接キス平気の相手は責められない」
「…ほー…」
拒絶•拒否の論理。
「普段色々我慢してそうな大人しい女の子も恋愛には貪欲になる。欲望に走る醜さ。告白した後気まずくなっても、それでも自分の欲望に忠実に。結局自分。周りにも気まずくさせてしまう。相手困らせるから押し殺して告白しないのが本当に良い人。恋愛って自分の欲を満たす為のもの。取り合いも浮気もあるのに、醜い扱いをされてない。だから俺はしない。閉じ込めて終わり。告白は悪である」
「やっぱ、イカレてんなー、病的なまでの精神的潔癖性。そりゃー生きてるの辛いわ」
「他人への気遣いより自分の欲が上回る奴ら」
三杯目を食べる笹田。
メシがまずくなる話という概念はなく、お喋りをつまみに食べ続ける。
止まらない悠真。
「一般人が無かったことにして都合良くするのは恋愛にもある」
元恋人との物を捨てる。無かったことにする。憎む。幼稚。多数派だから言われないが、過去のものをバカにして無かったことにする。相手が悪かったことにする。
一度好きになったこと、楽しんだ時間を捨てる。
「ヤリ捨てられたことを色んな男にモテた扱いにする女とかそれを経験豊富と呼ぶ女は例外としてさ、元恋人との経験で成長出来たことも記憶から消し去る。普段コミュ力って言うくせに。捨てないと「未練があるんじゃないか?」と、自分がそういう人間だからそういう考え。そういう奴らは性行為をあまりしないのも「浮気してるんじゃないか?」とこちらをギクシャクすせることを言う。人を性狂いであるかのように言う。だって自分がそうだから」
人への悪口というか、自分に対して厳しいんだなと思う笹田。

「ソープ嬢もAV女優も戻れない」
物は買い戻せるけど、過去は変えられないから、無かったことにしたい。だから、それを指摘する相手が悪い。「器の小さい」と「変えれない現実を責めるな!」と言う。
自分で捨てたのにやってしまったものは仕方ないと言う。人の目を結局気にするのに。
「他のでもさ、不倫•万引き•いじめ•堕胎とかも無かったことにするだろ?人って」
人に関わらないこと、迷惑かけないことを正しさと捉える悠真。
を傍目に味噌汁を注文する笹田。
「あー俺さー、格闘家なんてやってるくせに家庭持ってるの嫌なんだよ。元々の主義の産まない、もあるけどさ。いつ死ぬか分からないからこそ作んなよって普通の感性とさぁ、そこまで行ったなら独り…怪我しても独り…物悲しさを格闘家に感じてるから、突き詰めてくれっていう第三者の勝手な押し付けだけどさ。女子格闘家も妊娠で引退とかすんだよな。格闘家を目指した程イかれてるんだから最後まで行ってくれ、死ぬまで闘ってくれっていう自分の価値観の押し付け」
「でもそれって綾瀬のことじゃん。だから好きなんだろ?」
久々に受け答えする笹田。
「うん。まぁ折られて家で独りって最悪だけどさ…。誰も励ましてくれなくて独り負けた折られたことの悔しさを感じながら、不便な生活を送る…っていう物悲しさを人に求めてるんだよなぁ…俺は」
格闘家という死の臭いのする、スポーツとかけ離れた現実。
負けという現実。
マトモじゃないこと、を好む悠真。
スカッとするから派手だから格闘技が好きな笹田とは真逆の価値観。
ここまで違うものか、同じ趣味が好きなはずなのに…と思う笹田。

牛丼を食べ終わる二人。店前で別れる。
一人、家へ帰ってゆく悠真。
その背中を見送り、笹田は。
「今の若者は恋愛しないっていうけど、都会で趣味に勤しんでるからであって…」
それに結局30〜40代になったら結婚する一般人。
ペットがいるから結婚しないのも、結局生き物がいないと生きていけない人達。
「心の闇から恋愛しないと決めてる奴らとは違うよな…」
他人ではあるが、10代の少年の、もう始まっている孤独•決意に寂しさを覚える30代。
派手な発言よりも儚さが上回る悠真。


その日の夜。達仁の帰宅後。
ソファーで寝転び、ぐだる悠真。
「タツよぉ…一緒に死んでくれる女がいたら、そいつとは恋愛出来んの?」
「全く自分と同じ価値観じゃないと嫌だな…」
「それってさぁ…自分がもう一人…ってこと?って言ったら自分好きみたいになるよなぁ…まぁ分かるけどさ。自分しか自分を分かってくれない。そもそも他人に絶望して死ぬんだから」
「そもそも自分と同じ感性の奴だったらそもそも恋愛しない…」
「意気投合して終わりだよなぁ…」
「まぁ、海外には思想を訴えかけて集団自殺ってものがあるんだけどな」
自分の為にやる達仁。だが、同じ闇を持つ者に対しての優しさでもある。
「あーでも、日本にもあるじゃん。集団自決…自分の価値観•プライド•道こそが大事で。侍とか、革命者とか…って、あれだな、達仁と武士道だったんだな。己の意思の為に切腹•ハラキリ•自決…侍の魂よ…」
笑顔の悠真。
「そう言われると何か閃きそうだけどな…」
「自分の思想に対して殉じて…死ぬ…」
一転して、天井をただ見つめる悠真。


翌日。
試合待ちの達仁の方へ、男が近づいてくる。
「お前俺から逃げたじゃねぇか、昔っ」
「マジっ!」
信じられないといった様子で椅子から跳び上がる悠真。
「下も裸で闘おうとしたり、息臭いから…」
面白ければなんでもありなアノアの色物前座枠の住人。
笑いが起きる試合。苦笑すら起きない場合も。
それでも裸で試合しようとするマジモンの変人。
「…」
軽蔑を超える目で汚物でも見るかのような目で男を見る悠真。
「達仁が逃げたってことでいいからあっち行って」
「ああ!?」
「金にならないのにここでやるのか?」
達仁がそう制止する。
「あー…そう考えたら損した気分になるな…やめやめ」
変人ならではの頭の切り替えで去ってゆく。
「…やっぱ、こんなとこで闘っててもって気持ちになったんだけど…」
「都落ちがくる気配はあるんだよ」
「?」


ある日。
モメている連中の姿がアノア通路に。
「俺らはお前らと違ってちゃんと社会人してんの。暇潰しにジョーちゃんが一試合するだけなの。君らみたいにここ以外行くとこなさそうな底辺とは違うの」
三人の一般人の男達。
あえてねちっこく説明し、恥をかかそうとしてくる。
ジョーちゃんを指す男は昔スポーツでもやっていたのか、引き締まった体はしている。
達仁が口喧嘩に応じる。
「所帯染みた、覚悟もないサラリーマン様だろ?どうせ弱ぇくせに」
「逃げなかった奴は強い」
「逃げなかったってなんだよ」
逃げ、という言葉に雰囲気の変わる達仁。
「腐る程いる生徒として会社員としての責任から逃げたってか?」
キレている達仁。凄む。近づく。
厄介そうな顔を見せる男達。最初は偉そうにしていたものの、地下なんかに入り浸っている連中なんかにはやはり目をつけられたくはない。
達仁がまだ喋っているにも関わらず逃げる。
「薬物にも酒にも逃げなかった人間だよ、俺は。お前らの言う責任ある社会人ってのはマトモに生きてるはずなのに酒に逃げるんだろっ?」
廊下を曲がり去る男達。
居なくなっても語り続ける達仁。
「…自殺は逃げじゃない」
ボソリ呟く。
と、そこにトイレから戻ってきた悠真。
「ん?どうした怖い顔して…さっき走ってった奴らと関係ある?」
「ちょっと揉めただけだけど、しばけんならしばきたいかな」
「くっく…関西弁なるくらいキレてんのね」
「多分俺の対戦相手じゃないし、他の奴らがノシてくれるだろ」
「万が一勝って偉そうにされたら?」
「俺がやる…」

と言われつつやはり負ける会社員。
だが、不満そうな悠真。
「もっとグチャグチャにしてほしいのに」
殺気が溢れてゆく。
素人がもっと酷い目に遭ってほしいと切に願い、本当に興奮して体温が上がり、顔が強張り、瞳孔が開く。落ち着かない様子。
現場を見てもいない悠真が、人を小馬鹿にする者が痛い目をみるのを真剣に望む。
「どうしたんだよ?」
客席をうろうろしていた笹田が気づき心配そうに声をかけてくる。
「あーなんか人のことバカにするような奴らがいるから苛ついてんの」
「イラつくってレベルじゃないだろ、雰囲気。…あー、もしかして騒音バイクとかにも一々そこまで気が立つの?」
「ああ」
「そりゃー疲れるわ…力を抜かなきゃっ」
年下をなだめる年上。
「自分が慣れた、見逃したからって…一方的に得するあいつらはのうのうと生きるんだぞ?」
「何千•何万人にそれ思うの?」
「だから俺も達仁もこういう思想なんだよ」
あっけらかんと言い放つ。
押し殺さない。人を否定してストレス発散する。好きなことをして生きる人間。
優しさなどなく、人目の為のマナー。
仲間がいることが、恥ずかしくないことの人間。
潔癖感に縛られて生きる達仁。
結婚も死生観すらも。

喋っている内に怒りは薄れ…。
黙って見ていた達仁が。
「痛い目みなきゃ分かんないんだからぶっ飛ばしたいんだろ?体罰と似てるかも」
「くっはは、先生かよお前、悠真っ!」
思わず笑ってしまう笹田。
「それは面白いかもなぁ…どうやっても矯正することないから最終的に殺すしかなくなる体罰…」
「…」
ヒく笹田。
「おいおい、ヒくなよ…ヤバイのは注意されても更生しないあいつらだろ?」
「…あいつらって誰だよ」
階級的に3〜4離れた小さな悠真相手に恐怖を感じる笹田。
本当にナイフを持ってきそうなヤバさを悠真に感じる。
「…悪い奴なら殺していいって法律•ルールだったら…」
ボソッと聞こえない程度の声で呟く悠真。
(そりゃー毎日疲れるよな…殺して殺して…)
自分自身で会話し、納得する悠真。

消えない…。反省したとして、最初にしたことは消えない。こちら側はハードルを上げてるから。
絶対に許すことのない潔癖さ。
それを心の狭いと言われるのか?
歪んだ正義感。
性格が良くてもタバコを吸っていたらダメ。人に平気で迷惑かけられる精神性。自分第一。自分が楽に生きれることが優先の人間性。
そんな人達を絶対に良い人認定出来ない悠真。
騒音バイクだろうが、いじめだろうが。
堕胎•不倫•しごき•前科。
人にしてしまった過去は変えられないと分かってるからこその。
反省などなんの意味も為さないと分かっているからこその。
そこから正当化して逃げる一般人ヅラしてる奴らが許せない。
それどころか人をバカにして生きる。潔癖な人間を、ハードルを下げさせる為にバカにしてくる人間。


ある日の試合。
台風直撃の日。
客もまばら。天気が集客•動員に直結する。
選手達も帰りのことばかり考えている。
そんなダラダラした日に達仁はいつも通り集中して闘う。
試合の中盤。
突然停電する会場。
それでも暗闇の中殴り続ける達仁。
騒がしい会場。
諸々あって。
「今のはアクシデントです!演出ではありません!」のアナウンスが。
復帰し、点灯する照明。
失神した男と、その男にマウントを取ってる達仁の姿が。
達仁勝利のアナウンス。
面倒臭がって適当な判定だが、実際暗闇の中で闘い続けた達仁への尊敬を向ける悠真。

控え室。
笹田は笑いながら。
「停電しても殴ってたろ」
「だってヤらなきゃヤられるだろ。相手は油断を狙ってくるんだから。それで怪我しても自分の不注意になるんだから」
獰猛さじゃなく、冷静さで勝ち上がった達仁。
格闘技とは判定が曖昧になるもので、レフリーのブレイクから再開までにKOされる可能性もある。
レフリーも再開のタイミングが微妙だった場合、反則を取らない場合もある。
人やルールに任せっきりでは自分が壊されてしまう格闘技の世界。集中の世界。
「でも良かった。まぁ達仁が気を抜くとは思ってはなかったけど」
胸を撫で下ろす悠真。
「グラウンド状態だから相手の位置がはっきり分かった。スタンドで離れてたら…。後ろ取られてたかもしれないけど」
「そう考えたらグラウンドって喧嘩では、一対一では使えないとか言う奴もいるけどさ、自分が上から乗っかってるから暗闇でも相手の場所が分かる…。空間把握能力的にも相手の動き大体分かるし…」
「超特殊状況だぞ…それ。まぁ、実際今自分の身を守れたからアレなんだけど」
ツッコミを入れるものの、達仁の運ではない、判断能力を評価する笹田。


夜。アパート内。
物語。自分が創作するから、理想の世界をかけて、自分が神である。
「なのに、ネットではラノベはいじめられ描写多すぎって叩かれてるんだって。「やっぱ元いじめられっ子が書いてんだな」って。自分が神なのになぜトラウマ掘り返すようなことするのかっていうと、あれって、その後いじめっ子をスカッとやっつけるんだって、ファンタジーの力で」
「ふーん」
「でも達仁が物語書いたらさ、最後自分が自殺すんだから、理想の世界に逃げ込んで悦に浸るってかんじにはならないんじゃない?だって達仁は目の前の世界、現実と闘ってんだから」
「そうだな…いじめっ子に妄想の中で謝ってもらえたらOKでもなんでもなく、自分自身が証明しなきゃいけないんだから…自殺出来るって…物語書いて人に見てもらって終わり…じゃないんだから」
「…自殺するのがなりたい自分…」



控え室にテレビを置いてもらった悠真。
たかがテレビ代、儲かりすぎるヤクザからしたらお小遣い程度で設置してくれる。
笹田と三人でテレビのドキュメントを見ながら会話。
「「生まれたくなかった」に今すぐ自殺しろ論とは違うけどさぁ。「自殺したい」って言ってその時点でせず精神薬見せたがってリスカ痕見せたがる奴ら…。あっ、達仁は死ぬタイミング決めてんだからあいつらとは違うよ?」
人に構ってもらえれば、傷が癒える•忘れられる人達に対しての言葉。
ぐだぐだテレビを見る三人。
夢を追う青年のインタビューシーン。
「「人と違ったことをする!」ってセリフ自体がもう被ってるけどお前らは?」
「人と違うことするって言ったことないし」
だらけて適当な返事の悠真。
「綾瀬は?あれ…あるじゃん」
「俺も人前自殺なんて先人にいくらでもいる」
「いくらでも…って、マジかよ。普通に生きられない奴ら…」
「どうしても…ムカつく奴らがいるんだよ…」
一人理解できる達仁。
「毎日怒ってばっかじゃ疲れるだろ?重く考えすぎ、そんな奴おかしい」
笹田が一般側の意見を言う。
「今迄散々言われてきたよ」


翌日。遥と一緒に控え室内。
テレビで殺人のニュースが流れる。
それを見て悠真は。
「普通の人は闘うってのがないから。遥さんももし襲われたらさ、目•金的を本気で潰すんだよー」
答えあぐねる遥。
達仁はその意味を補足する。
「でも自分の命が賭かっても残酷になりきれない一般人。自分に殺意が芽生えるのが嫌で、そのまま相手に殺されて行く奴らも結構いる」
視線を送り、悠真に続きを促す達仁。
「くっくく、自分の命のよりも周り…。目潰しで逃げた、殺意上回らせて逃げたっていうのが“汚れ“で。周りに叩かれるからムザムザ殺される奴ら。目の前の悪人より周りの評価を気にするから。…染み付いてんな…」
「おかしいおかげで、闘うのが日常なおかげで生き残れることもある。悠真のことだけど。微妙にズレるが「バカだからホームレスになったんだ!」と言われるし。だから俺は格闘技やってるんだ。「護身術やってなかったから殺されたんだ」ってバカにされるから、人に」
被害者だろうが叩く人間達。
「あーそれとな、ハイヒール履いてたせいで逃げ遅れ死んだ人とかもいたな」
色々な例え話を出す悠真。
「あっ、付け加えておくと目潰しを喧嘩で使って勝って虚しい…とかじゃないから。強盗に殺される直前、手の届く距離って状況でも目潰し使わない一般人。つまり…死ぬ直前でも人目を気にするってことだよ。自分の命すらも上回る人目ってなんだ?人に左右され束縛され殺される一般人」
「まっ、それだけ世間てのは人を叩くもの。行動を制限するもの。生き残ったところで残虐とか言われて自殺に追い込まれる。それなら、悪人に殺された悲劇の被害者で死ぬ方がマシって訳だ」
「一般人というか、中(ちゅう)の空気が分かった?遥さん?熊だって殺したらクレーム入れられる。他県の安全地帯の奴にね。自分が直面してないことはとにかく知らない、叩く」



またある日。
達仁の試合まで時間があるのでお喋りする男三人。
「お金で買えないものってなーんだ?」
「自分より金持ち」
「それもそうだけど、才能」
「ん?」
「金メダリストにお金があればなれるの?時間も買えないよな」
達仁は冷静に。
「いや、時間は…加圧トレーニングなんか時間短縮になるし。設備でも医療でも金で最新の設備が整う。効率化されてある意味時間も買ってる。それを言ったら現代人全体得してんだけど」
先進国の人間に限るが。
「それとは逆に、自分が劣ってるせいでエステなど無駄な出費が増えるってことも」
「頭が良ければ塾代がいらないみたいな?」
「あぁ」
「生まれつき美肌でエステ代なんて使ったこともありませんわ…って?」
「あぁ」
ズレている論点。
「俺が金持ちだったら、邪魔な路上のキャッチセールスに一億ずつ与えて辞めさせて、歩きやすくするのに」
「ヤクの売人もその方法で解決させたら悪人が少なくなっていくのに」
なら悪人を作っているものとはなんなのか?
「お前らちょっと異常だぞ!?自分の欲しい物の話するだろフツー」
笹田がつっこむ。
「そこは目的があるし冷めてるってことで…いや無欲な素晴らしい人間ってことで」
「ははっ…さっきの才能は買えないってやつだけどバカは買収話持ち出すんだろーな。金払って金メダリストにわざと負けるよう持ちかけて勝ったら、それが才能を買ったことになる…とかさ」
「おぉ…笹田はそっち側だと思ってたけど?」
「だってTVでトップ選手が世界最強の相手とダウン取り合って、ゾーン入って、最後KO。っていう試合見てきてさぁ、あれって競技者からしたら最高の喜びじゃん。まさしく金で買えない体験•経験」
世俗的、俗物的でなかった笹田。
「何かを自分の力で掴み取るってのがないんだろ…。家や車が買えればいい。家が大好きな、そういう趣味の連中なんだろ?」
怒りの感情と共に吐く達仁。
「自分の作品が認められることが大事だからな。金で審判買収して一位になるのでOKってのはスポーツマンじゃないから。努力や競うってことをしてこなかった人間なんだろ。奴隷を金で飼う悪趣味なかんじ。自分に出来ないことの方が多い。金で買えるものしか出来ない。しかも金持ちってミュージシャン•スポーツ選手•芸人、色んな方法でなれるんだから」
クリエイターが大事な達仁。人に何かを残せる有名人だけが好きな達仁。
「結局、金で動くのって下の下の貧乏だけ。そいつらほど生活苦しくなければ、金で殺し屋になってくれない。大人しく会社の元で言うこときくだけ。個人の金持ちにへりくだる代わりに社会•会社に従じてるんだから。手術の割り込みは買えるけど。金持ちより上の政治家とかが結局、更に優先されるからな?」
中(ちゅう)は普通に生活出来るんだから、金で買えるのは下(げ)だけという意見。
「10年連れ添った愛犬を金で売れるか?まぁ、ペットも元々金で買ってるんだけどそれは置いといて。ただ金で買った存在と色んなことを一緒に経験した家族との違い。…買った存在って金に寄ってくる女。愛は金で買えない。金が無くなってもついてきてくれるのが愛」
障害者になった時に疎んで捨てる者もいる。
笹田が横から。
「貧乏アスリートとかを支援してくれる彼女っていいよなー」
「本人を好きだからだろ?金そのものじゃなくてさ」
続ける達仁。
「金で買えるような女程度を買ったことが誇りになる。ペットと一緒だから。相手からの感情は一切なし。愛っていうのは相手から受ける感情。だからそいつらがやってることは家政婦を雇うのと同じ」
ペットを、金に目が眩む精神性の女を買ったことが誇りの金持ち一般人。
有名人じゃないから歴史を見てくれない。
野球選手を「金で選んだんですか?」と言われる女子アナ。社長の時はそんなこと言わないのに。社長はテレビの関係者だから、社長の時は“金だけ“に行ったと言うと失礼にあたるから言わない。
「あースポンサー様ね」
納得する笹田。
「社長夫人といえば、自分自身に魅力がないのに何百万のアクセサリー着けてるオバサンってさぁ、子供が高いオモチャ周りに自慢してるような幼稚さが恥ずかしいわ」
「自分には何の才能もないけど、努力はせず、物に、宝石に頼って自分を着飾る。逆に有名人はTシャツ•ジーンズだけとかよく聞くだろ?」
「有名人様は顔パスでいいし、そのギャップがかっこいいよな」
予想よりもこちらの話に納得し応えてくれる笹田。
「昔の奴らは意味なく高い物買ってたけど、今の若者は本当に興味のないのにテレビでは不況のせいって」
「見栄の為に高モノを買うという意味があるけど」
人の目の為に買うもの。
「見栄張れるのが買った物だけ…ってそこに戻るけど」
「今の奴らは自分が認められるのに必死なネット発表時代。動画•SNSでちょっぴり目立つ…たまたまデビュー出来たラッキー」
「そこだけ聞いたら、今の若者は努力してて、無駄な物に金使わず、成金趣味じゃない、いい奴らみたい」
「楽して稼ぐ為に芸人やミュージシャンになるのをネットに移しただけだぞ?」
否定的な達仁。
「あー、ストリートミュージシャンが動画サイトに自分の歌あげるように。芸人養成所から動画サイトで個人デビュー目指すのに変えただけね」

話題は変わる。
「俺はブサイクだけど、いい女と結婚したいからスポーツで成り上がってやるって最初格闘技始めたんだよ…今落ちぶれてこんな所にいるオッサンだけどさ…。チームスポーツは肌に合わなくて」
「途中でリタイアしたら、ただのブサイク。金が無くなったらただのブサイクに成り下がってしまうのに…結局金で見られんだから。金のフィルターを通して見られんだから」
悠真が冷めたきついことを言うが気にしない笹田。
「あーあ、イケメンだったらどうやってもカッコはつくし、俳優になれんのによ」
「顔が売りなんだから、盗作されることないんだからある意味いいよな」
「金を稼ぐ才能…じゃなくて、金だけを見られるから。人を感動させる程の試合•芸術を見せないと人としては価値がないからな」
選ばれし者至上主義の達仁。
思案する悠真。
「…金持ち…ねぇ?一般人も金持ちにひれ伏すからなぁ」
買われはしないけど、へりくだる一般人。
「金持ち自身も誇り、一般人も特別視する。使ってる物すら」
特別感やプレミア感を欲する人々。
「権威主義ってやつだろ?人の評価、大物が好んだから、で決める。俺がもし富豪だったら、この豆はただの豆じゃない。一粒一万円ですって騙してみたいけどさ。でもあいつら、いっぱいあったら駄目って設定だからな。少ない人間しか持てない特別じゃないと駄目。金で買うのに、金持ちならみんな買える。中流でも背伸びすれば買える物が特別。その特別ってのは自分の能力•オリジナリティじゃないといけないのにな…」
悠真も特別というものを求める者。
中の上以上が買えるタカモノ。ブランド品。
選民意識が強くて、庶民と絶対同じ物使いたくなくて、高級な物がないジャンルまで無理矢理高級にしたり、金持ち用スーパーマーケットがあったり。
「高級じゃなくてもいいものって例えば雑巾とか。スリッパに宝石埋め込んで無理矢理価値上げたり。マヨネーズとかも最高級卵で作らせたり。えっと、高級料理店に行くのはいいけど、普段使いの調味料まで市販のじゃ嫌。市井の者と同じの使いたくないから作らせる。だから…セロテープを無理矢理…ダイアの粉入りにするとか…」
説明しあぐねる悠真。
「意味合いは分かってるからいいぞ悠真。さっきの市販の物を無理矢理高級スーパーに置く為に別の会社に作らせ、値段設定高くさせる。包丁なら切れ味など差はあるが、セロテープごときにもそれをする。付加価値がないと…」
「それを哀れととるか…だってずっと自慢し続けて、金持ち同士でも序列付けあうんだから、ある意味闘ってるよな」
「金が多い方が、無駄使い出来る方が勝ちの戦いな」
「マネーファイト。会社買収とかじゃなく、一個人の成金同士の自尊心の為、闘い合う。どっちの会社の方が売り上げトップになるか…とかじゃなく、自慢大会の為の…闘い」
見下す為の、下を作る為の戦い。
「会社を大きくする…のもしてるんだろうけど、実際金持ちになって上の存在なんだけど…人を見下す為に金持ちになる努力をした人達」
自分を高めるアスリート的でなく、周りから一人だけ抜け出し勝ち誇る為の。
「その稼いだ金で何かを変えるでもなく、自分の趣味をバカデカくやる…でもなく」
「須賀さんって自分の趣味に金使ってるよな。地下格っていう。ああいう思い切った使い方、思い切りのよさは憧れるものであってさぁ〜」
「しかも食わせてもらってんだからな俺ら」
結局金持ちヤクザに食わしてもらってる、で終わる話題。


「自分に対してなら何しても許されるじゃん?自虐だから、誰にも訴えられないから」
「あぁ」
芸人で言ったら、注目される為に異常な強さのツッコミをするなど。それで骨が折れてもそれを売りにできる。
「それで間接的に何かを叩く。自分自身は傷つけても捕まらないから、自分の腕の骨を折って人に関心を持ってもらうとか…って、これ…」
「はぁー…」
心底呆れる笹田。
「達仁の自殺計画と一緒だな…流石」
「天然だったの?お前…ってか似通うんだなぁ、やっぱ」


試合前。
対戦相手が昔ちゃんとした企業に勤めていたことを知らしめる為、名刺を渡してくる。
「こんなとこに居ても昔の名声で…いや、クビになったのに、しがみついてさ」
田中英雄という名刺を見てポツリ。
「ふーん、エイユウだって…さぞかし強いんだろうね。親御さんも人を救うような人になってほしくて名付けたんだろうね」
「自慢するということが出来ない、褒められたことのない俺からしたら羨ましいよ」
「ズレ過ぎ」
笹田がツッコミ役を渋々する。


いつもの控え室にて。
「えっ?次の奴タマ取ったやつなの?あの、さ…たつひと。金的効くか一回蹴ってみてくんない?」
照れ臭そうに、楽しげに言う悠真。
「見たいんだけど」
「たとえアレが無くても反則取られる」
「えーっ!?」
そのニューハーフ選手にサラッと勝って終わる一日。


控え室でお喋りする達仁、悠真、遥。
一旦話題が途切れる三人。
「ライターさんに豆知識でも話したら?」
悠真が促す。
「格闘技の雑学ぐらいしかないぞ…」
最近アノアで試合を見て少し興味が出てきた遥はお願いする。

興奮で試合前日も寝れなければ、試合後も勿論興奮収まらず眠れない。翌日以降も遅れてきたダメージでズキズキ寝れない。酒も飲んでは駄目。
「そんな状態で闘ってるってヤバイよな、寝てなくてって」

絞め技から逃れる為、摩擦•引っかかりを考えてスキンヘッドにする格闘家。
「あれ、怖がらせる為じゃなくて、技術論で語れるんだぜ?」
悠真が合いの手をちょこちょこ入れて補足してくる。

彫りが深い方が顔面腫れにくくて、判定時にダメージ無いように見えて有利。平たい顔だと眉部のクッションがないってことだから、眼窩底骨折しやすい。
皮膚が薄いと切れやすいので出血しやすい。
離れた目は視野角が広いから、横からの打撃を避けられる。
顎やエラの方が頭上部より広いい場合、失神しにくい。
顔が小さい方が打たれ弱いが、的は小さいということ。
打撃で一時的に顔面は腫れるが、鼻だけは曲がったまま。
耳は組み技でカリフラワーのように変形する。
「変な顔の奴の方が強いってことだよな」

試合前は性交しないプロ。
減量中で飢餓状態にあると、闘争本能アップらしいけど、エネルギーもなくて、脱水もして結局…弱い。計量後翌日やっと戻る体調。
緊張•恐怖がスタミナをロスさせる。逆にガンガン行ってる時は興奮で体も軽く、疲れない。分かりやすく言うと楽しい状態だからいつまでも動き続けられる。

傷付けずに制圧する方が難しい。理由は、細かくダメージ与えて動きを鈍らせるのが格闘ってものだから。無傷で捕らえなきゃいけない日本の警察は柔道を習わされる。相手が技術知らないヤンキーならなんとかなるかもしれないが、結局二人以上で取り押さえている。
そもそも格闘技は完全守りで来られたらプロでもKOするのが難しくなる競技。
相手が知らない技術はキマる。だから一子相伝か、隠すのが武道。
お互いを高める為に曝け出して、カウンターのカウンターを研究していくのが、ジムで習うスポーツ格闘技。
「隠せない時代、テレビ•ネット時代。だから武道家なんてもういない。それにスポーツ格闘技で勝てないから、武道家って。護身術だって誤魔化してきたけど、スポーツの世界で競ることが出来ない、ただのトレーナーってこと」
「その辺の田舎のオッサンが「本当は最強ですよ?私しか知らない殺せる技術もありますよ?」って言ってたんだよ昔は。でもテレビの通りキックボクシングなんかをやらないと駄目。スポーツとして競ってきてないただの一般人だったってこと」
「テレビにたまに出る達人さん達のことだよね?まぁ、お爺さんだし…」
「あっはは」

相手の怪我してる箇所を狙わない正義っぽい格闘家もいる。
「でも練習強度間違えただけのプロ失格なんだから、本当は責めてもいいんだけど」
事故にあったけどファンの為に無理矢理出場とかなら、狙わない方が評価高くなる。
「自分の攻撃で開いた傷口は攻めてもいいんだよ。自分が作ったんだから。そこ狙って血を出させて片目を見えなくする。とか、女の人に教えることじゃないか」

声を出すと力が出る研究結果がある。重量挙げなど。
「でもさ、暴力的に見られる格闘家が叫びながら殴ってたらヤバイじゃない?でも幸い、格闘家は何分も闘うんだから「シュッシュッ」って言って、呼吸維持の方を大切にする」
「し、物言わずポーカーフェイスで黙々と仕留めるのがヤンキーと違ってかっこいいんだよ」

格闘技の場合、他スポーツと違って最強を目指さない。
「えっ?そうなの?」
「だって、ヘヴィー級に、185cm以上に生まれなきゃいけないから。だから、負けを少なくする護身術的な考えに寄る。それに同階級じゃないと、カタくいくから試合がスイングしない」
「まぁ、逆に小さい選手が勝ったら会場が爆発すんだけどな」

総合格闘技のグローブは素手に近く痛いかんじ。
「ボクシンググローブは、あれ、おもりなんだから、本当に吐き気とか衝撃が上回るんだよ。痛みより」
「エグいよな…だって本来人間にないもの着けてんだぜ?凶器ってことだよ。誰も言わないけど」
「脚にはグローブ的な物着けないんだよね?」
「あっはは、女性の意見は面白いね」
「格闘技って適当にやってると思われてるけど、危機察知能力、脱力、スタミナ配分、俯瞰、相手の攻め疲れまで耐える根性、作戦の切り替え、冷静さとか技術論も豊富なんだよ。でもそう思ってたろ?」
「うん。悪いけど、そんな深いものとは思ってなかった」
泥臭く見えるもの。
「ま、イケメン選手の場合はスタイリッシュって持て囃すんだけどな」
「格闘技って他スポーツと違ってズタボロにされるから、無様に見えてよりよりバカにされる。勝ってる時は恐れられるけど」
「負けた格闘家はマジで現実でもネットでも叩かれまくるんだぜ?スポーツ選手は、んなことないのに」
「実際バカにしてくる奴らを潰せんのにな」
「脳震盪を起こしている無防備な相手に更に全力でトドメを刺しに行く総合格闘技」
「そう言われたら怖く見えるね」
「一般人はテレビの華やかさとか、レフリーがすぐ止めてダメージ無さそうに見える選手を甘く見てるんだよ」
「さっきのと矛盾してるけどな」

総合格闘技は喧嘩に近いから、見た目も…だから負けた方が全て失う。プライド•市場価値など。
「だから、日本人同士で組まないとかもある。バックの意向でな」
「格闘技の世界にも政治はあるんだね」
「逆に格闘技界の方が他より…」
「ドロドロしてるんだよなぁー」

お互いの流派を信じて闘う異種格闘技だから、負けた方は弱い格闘技のレッテルを貼られ、道場生からも見放され、入門者も一気に減る。
「それの逆もあるだろうし、ギャンブル的だね」
「そうだよ。平等な場なんだよ。総合って。それで勝てない奴らは合理的じゃないんだから、淘汰される」

程よく時間は流れ、達仁の試合時間が訪れる。

本日の試合。
失神しないよう、10%の力で200発殴り続ける達仁。
それを見た笹田は。
「また制裁マッチか…だからギャラいいんだろうけど、綾瀬は」
憔悴しきった相手。自分から関節技でもないのにタップする。
試合後問う。
「でもなんでずっと殴れる?疲れるだろ?」
「別の筋肉に切り替えてる。前腕、三角筋、三頭ってな具合に」
「器用だなぁ」
勉強家であり、応用発明もする達仁を見て、本来表の社会で生きていけそうなのにな、と思う笹田。
「なんか良さそうな技術論教えてくれよ」
年下の達仁に教えを乞う笹田。
リーチ短い側は、2ステップで100%の打撃が打てる間合いに入れる。それを1ステップで1.5来れるのがプロの瞬発力。それに更にリーチまで長いのがトッププロ。
「1だと前のめりになり体崩れる、からいっそのこと細かく2ステップするのもアリかもよ」
「おう、家で考えてみるわ」


秋のある一日。
対戦相手変更などで暇になる悠真。
達仁は須賀に呼ばれている。
笹田が入ってくる。
「あー始まるまで暇だからなんか話してくれよ」
「俺…?」
いじめられてきただけの悠真はあまり人に話せる面白エピソードを持っていない。だからいつもたとえ話などやイかれゼリフを吐く。
「んー…。これ…達仁には言っちゃいけないけど」
達仁にすら言えない話題とはなんだろうと不謹慎にも期待してしまう笹田。
「刺されたオッサンがいてさ…」
「はぁっ!?」
構わず続ける悠真。
「周りに俺しかいないんだけど、無視して歩いて、まぁ、拒絶グセが“つけられてしまっている“から」
その意味は分からないが、流す笹田。
「冷たい目で見ながら通り過ぎようとしてしまったのよ。真顔じゃなくてね」
本当に話の方も意味が分からないが流す笹田。
「んだらさぁ…なんかこっちを、刺した相手じゃなくて俺の方を恨みがましい目で見てくんだよ。そういう所が…人間の…恨む対象を変えるってとこがなぁ」
悠真が指しているのは、メディア•ネット•現実などの対象変え。スケープゴートのこと。
「その人はどうなったんだよ?」
「知らない」
「…」
自分を上げる為の残虐エピソードなのか実話なのか量りかねる笹田。
周りの選手はそれを聞いてヒく…。
これが170cmしかないのに地下で絡まれにくい部分でもある。
喧嘩としても、友達になろう、でも絡まれない悠真。
マトモな話、笑い話というものが出来ない。
「まっ、そのオッサンは追いかけてこなかっただけマシなんだけどな」
「追いかけられるってなんだよ」
「犯罪現場を見てしまった時にさぁ」
普通に言うが東京ではよくあること。だから笹田もそこにはつっこまない。
「「興味無いから口封じする必要ないですよ」って言ってんのに近づいてきてめんどくさかったんだよねー」
関わりたくない!怖い!じゃなく、冷めた目で一瞥して去ろうとした悠真。面白そうなら観察してたが、興味を惹かれなかったのでそうした。
悪か気まぐれの悠真。



控え室にて、テレビから虐待を伝えるニュースが流れる。
達仁は後ろから悠真へ視線を送るが。
悠真の裏側を知らない笹田はテレビに釘付け。
「…自分の子供痛めつけるって、やべぇよな、こいつら。親失格ってレベルじゃねぇ…可哀想に…」
他人の子供に哀れみを抱き、親に嫌悪感を抱く常識人笹田。
悠真が口を開く。
「何かを伝えたり、受け継がせたり、そんなものないから、何も与えない。愛すらも…」
悠真がマトモに育ってないことは感づいている笹田。
「愛が無いって言葉。ドラマみたいだけと。本当に愛が一番大事なんだよ」
「…まぁ…分かるとは言えないけど…俺は子供が出来たら、不幸にしたり放置したりは絶対しない」
「そうだよ。それだけのことすら出来ない奴らが産んでるのさ。不幸な子供を。ひとかけらの愛すらも与えてもらえない子供を。その子供はそのまま大人になる。欠陥のあるまま…」
沈痛な面持ち。
「愛が無いってのは…資格なんていらないから。ヤッたら出来るから、余った金でちょこっと育てるってことだよ」
神妙な顔つき。
「何の愛もなく育てて、まぁ結局ほとんどの子がそのまま無感覚なまま同じように生きて行く。俺みたいに悲しんで、愛がないことにマトモに育ってないことを悲しむ人すら…少数派」
悠真が作り出す痛々しい空気。
「俺の場合じゃなくて、普通の家庭でも」
子供が親の所有物である証拠にスパルタ英才教育。子供のしたいことをさせず命令する。自分の諦めた夢を子供に追わせる、負わせる。
ピアノの為に手の一部を切除させる。
子供を着せ替え人形にする。
「俺さぁ、金髪の子供の親に「金髪はお子さんの方からせがまれて?」って聞きたい」

「あ〜自分の子供がジャニーズ入れるくらいイケメンならなぁ」「野球の才能あったらなぁ」って子供の前で平気で言える。
自分は美人でもない、何の才能もないのに、弱者、自分の言うことならなんでも聞く子供には一方的に言える。
「勿論、子供が逆に言ったら?」
「…あぁ」

あわよくば上(じょう)で生まれて楽させてくれよ。
夫の次に自慢する為の子供。習い事地獄。才能が無ければ叩く、失望する。どれだけ頑張っても芽が出なかったとして、その子供の努力は褒めるのが本当の親。でもしない、愛がないから。
他人は能力でしか見ないんだから。家族しか愛してくれない、守ってくれないんだから。親が努力を褒めなきゃ子供は潰れる。
「今まで言った通り、この世は否定で満ち溢れてるのに、唯一の味方のはずの家族が手を差し伸べなかったら…」
これはただの他の家庭の例であって悠真はそれとも違うのだろうと悟る笹田。
でも悲痛な叫び。
そこら中に溢れかえる、マトモに機能していない家庭。
その中の一人、悠真。
「子供だから当たり屋じゃないだろうって、させてた親もいる」
自分は何者でもなくて、何も与えない親。子供は稼ぐ為の道具。慎ましやかな幸せを求めるんじゃなく、子供という別の人間が一発当てる為に芸能人になってくれることを願う親。
他力本願を実の子に…願う親。無理だったら、自分の血や教育は叩かず、子を叩く。
「所有物だから」
きついセリフ、いたたまれない気持ちの笹田。

エリートはプライドが高いので、まさか自分の子供がいじめられる側とは露とも思わない。
その考え自体が、いじめられる側をされて当然の底辺と差別している証拠。
だから自分の子供を助けてあげられない。察してあげられない。
発覚しても、いじめられるような子供の親が自分、ということを認めたくないから放置する。
自分の子供を可哀想と思うんじゃなく、自分のプライドが上回る。
このタイプは他人がいじめられてても可哀想と思わず、される方が悪いと見下す側。
「自分のことを上と思っている人間だよ」
中(ちゅう)もいじめる。

将来食うために育てる家畜。将来アテにする為の子供。
勝手に産み出したもの。
精神•経済がギリギリの状態で生きてる人が、自分の寂しさを紛らわせる為、自分の歪んだ愛情を向けるべき対象を“作る“為に産んで…でもそのままズルズル落ちて行って…子供に希望を持ってもらえない。
「…それをな…一般人は忘れろって言うんだよ。大人になったなら、何も無かったことにしなきゃいけない。なら…死ぬしかない…ってのが…達仁…だよ」



ある夜。
都会で絡まれる二人。
相手の不良二人は何も語らずニヤニヤして威圧してくる。
面倒臭いが、まず観察する二人。
今時腰パンをしている不良の中の一人。
ハイキック出来ないのにバカだね…。爪先でズボン降ろしたら動けなくもなるのに…。フードの奴も引っ張って締められたり、目隠しに使われんのに…と心の中で思う悠真。
まず煽る悠真。
「目潰し•金的ってもんがあんのに、わざわざ凶器持って来て…しかも最弱のバット。面と点って知ってるか?打撃•斬撃って知ってるか?あったま悪くても暴れれば素人レベルでは通用するのが格闘技の駄目なとこだな」
格闘技の技。マーシャルアーツのアーツ。芸術まで引き上げた格闘技と喧嘩は違うぞ…と心の中で悠真につっこむ達仁。

「なんかくっちゃべってるけど、脅しだと思ってんの?俺ら本当にやっちゃうよ?」
「…殺しはしないのに?」
斜め上ゆく、相手の気を引く言葉。
「皆でいる時だけ、リンチ出来る時しか暴力振るわない。後輩や弱そうな奴にしか偉そうに出来ないのに?」
凶器持ちを逆なでする悠真。
「こいつはいつもよりブッ叩くわ俺…」
「ちょっと待ってー!!最後にこれだけは聞いてー!いざ自分が負けたら警察に泣きつくタイプ?自分は普段無法してるのに頼れる面の皮の厚さ。唯一自分達がする喧嘩ですら負けた時どんな気持ち?」
唯一不良がやること、を強調する悠真。
相手のバット攻撃をかわしながら罵倒する悠真。
「早くそいつ黙らせろやっ!」
「避けんなっ!かかってこいや」
「うわっ出たっ!サケチャダメ、打ち合わないと男じゃない!自分達は武器使ってるのにっ」
ヒラヒラと避け続ける悠真。
元々理論派だが、達仁と出会ってからは毎日スパーの相手をさせられ強くなっている。技術論で教えてくれる達仁。素人レベルに対しては十分。
いつの間にか、もう一人の不良の後ろをとっていた達仁がチョークスリーパー。
「ぐっ…っ……っ…」
顔色も変えずさらっと締め落とす達仁。
意識が無くなり崩れ落ちる不良B。
「ユーマ…こっちは終わったぞ」
集中して聞こえていない悠真。
初速が遅い振りかぶるバットの側面を靴裏で安全に受け止める。
二撃目の前に懐に入り、インパクト前であり、手首よりの部分のバットをあえて体で受け止める悠真。
「これで分かったか?靴裏という分厚い面で打撃を受け止めること。バットはフルスイングで溜め、そしてバットの先を相手の頭部に当てなきゃいけない」
相手の胸ぐらを掴む悠真。
「技の出始めと出し切った後に破壊力は無い。触れただけで傷つく刃物の斬撃。んーゴルフバットの方がバットより弱いかなー」
殴るでもなく、説き続ける悠真。
振り返り、仲間に助けを求める不良A。
「おいっ!タケシッ!…あっ」
「怪我させずに無力化した…。警察呼ばれても面倒だし、ここらでやめとくか?」
「駄目だっ!これいつもヤンキーがやってる多対一が今始まってるんだぜ?普段自分らがしてること、二人がかりに襲われる恐怖たっぷり味わわさなきゃっ!」
妖しげに興奮する悠真。
いつものことなので静観する達仁。
バットを掴み上げ奪う悠真。
「あっあっ…」
刃向かう覇気すら無くなる不良A。
「普段喧嘩ばっかしてる喧嘩の上級者なんだから二人くらいは対処出来るっすよね?先輩?」
更にスイッチ入って怪しげな笑顔を引きつらせる悠真。
別に制したりはしない達仁。
悪人相手だし、どうだっていい。でもまた関わってこられた。あちら側から不幸を運んでくる人間にまた失望し、ため息すら出ない。
自分じゃない人物が悪人を責めてくれる。ならエンタメとして見ようと傍観する。
(言葉責めもするドSか…。こういう不良タイプに体のダメージより心を壊すことの方が効くのか見てみるかな)
「あーあ、お友達失神してさ…早く助け起こしに行ってあげればいいのに。普段お前ら不良は仲間大事大事って言ってるだろー?」
足が竦む不良A。
「ほらっ?行けよっ!助けにっ!たださぁ、背中を向けるってことはどういうことか分かってるよな?後頭部って格闘技でも禁止されてるんだぜ?あーでも俺は一瞬で殺したくない…。絶対痛め続けたい」
「…」
悲鳴もあげられなくなった不良。
「…何か行動してよ…。バックを呼ぶか警察に泣きつくか逆ギレするか…」
達仁の方へ振り向き。
「あのさぁ、タツ。なんでこいつこんなビビってんの?一発も殴られてないのに」
「俺は不良側じゃないから分からない」
「そう…」
捕まえたまま、罵倒を再開する悠真。
「闘いにも来ないって、不良は漢気あるって設定じゃなかったの?」
(まだ続くのか…)
悠真のお喋り好きに呆れる達仁。
「金銭要求された訳でもなし、怪我もしてないのに…」
バット先を揺らし挑発する悠真。
「俺はもう飽きたし帰りたいかな…」
「ここで帰ったら誰も怪我せず終わってみんなハッピー!っていうのとさぁ、今までの被害者さん達の分もやらなきゃっていう気持ちの渦巻きが〜」
目の前で平然と話される不良。
「こういう時なんて言ったら助かるか、許してもらえるか分かんないんじゃないのか?人の気持ちが分からないから平気で人を傷付けられる不良。命乞いしても殴り続ける、金をむしる不良」
「んじゃ〜なんで財布渡すから見逃してって言わないのよ?」
「あの…見逃して下さい…」
あえて笑顔を見せる悠真。
「それ言った相手を許したことあんの?まず許すとかでもないけどさ」
そこから徐々に怒りの形相を見せる悠真。
達仁が傍に寄る。
「あのさ…こいつらはそこまで滅多打ちしてきたタイプじゃないだろ。すぐビビる底辺ヤンキーなんだから。レイプ犯とか撲殺とかする本当の悪側じゃない奴に時間取ってもムダだから、帰るぞ」
ひとりでさっさと背中を見せ立ち去る達仁。
「あ〜待って〜」
そのまま不良は放置し帰る二人。
「マジもんの悪に因果応報する余裕ってないよな〜。脅す程度の、不良じゃないさぁ、人を植物人間に追い込む程の悪…。後ろからどんどん湧いて来て面倒臭いし、警察も面倒臭いし、達仁のやり方。達仁の目的は平和的だよな」
「悪人が数人だったら全員ブチ殺して終わりだけど、世界中にいるからな」
「…その事実にも絶望して死にたくなるんだろ?」
「俺の定義する一般人も悪人も70億の内の大多数。その事実に…」
「全く同じ犯罪する悪人とちょっと違う奴らと軽犯罪といじめと不正とあれとあれと…。終わらない浄化。一人じゃ出来ない…かといって誰もやってくれない。悪人はのさばって、のうのう」
「本当に悪人が一人だけだったら、道連れで俺がやっつけて、みんなハッピー。地球に平和が訪れる。でも人間ってのが70億いる。どうしてもその中に悪人が出てくる。1%だったとしても」

「ていうか、さっきの心折りなんだ?」
「だって「痛かったな、運が悪かったな」で終わるアホなんだから、どうしても言葉で傷を残さなきゃ」
「「自分は負けてないし、悪や底辺じゃない」だろ?俺らが悪人扱い。正義じゃなく」
無傷で帰路につく二人。


翌日。控え室。
達仁は出ていて、暇な悠真。笹田に話しかける。
「昨日さぁ、不良に絡まれちまってさぁ〜」
「俺はないぞ、んなこと」
180cm台でヒゲが生えててゴツい笹田を羨ましがる悠真。
「あいつらってさぁ〜聞いてくれよ〜笹田〜。不良の特に嫌いなとこ」

ドキュメンタリーやニュースで、自分が好き勝手改造したバイク飛ばして事故で死んだ人間を神格化。周りの仲間の成長物語にしたテレビ番組がある。
運すらもない、ただスピード出しただけの、人に迷惑かけただけの人生で終わった、失った信用を取り返すこともしなかった悪人の突然死を、美談にしたがる擁護したがる番組。

自分の子供が族なのが悪いのに、抗争で死んだら相手を恨む親。自分の子供が喧嘩したことと、自分の教育は恨まない。
「自分の子供が殺人側だったかもしれないのにね」
「まぁ、そうだけどさ。えぐいねぇ」

煙草。匂いですぐバレる。買って吸うだけ、何の努力もいらない。
「陰で吸うだけだから副流煙も与えなく、特に人に迷惑かけないからマシだけど」
理由なく吸う。結局不良は皆やる。皆やるからやる。というか皆やってるから派手な行動とならない。
しかも高い煙草。
本当に興味あってやった訳でもない。未成年なのに酒に頼らなきゃ生きていけないわけでもなく、悪ぶる為、酒•煙草をする。
悪ぶるという行動原理。謎のかっこつけ。
構ってほしい、目立ちたい。でも努力はしない。
筋トレもしんどいから嫌。リンチで勝者気分味わう。
結局中途半端だから。
人が今までしてきた特別でないこと、タバコ•バイクをちょっとやるだけ。

目立つ為に、ゲリラライブしてる所襲撃して台無しにして代わりに歌ったり。
十人と同時に付き合って、朝礼ジャックして、いっぺんにマイク越しに全員振ったり。
ヤクザに喧嘩売ったり。
教室までバイクで来たり。
自分の髪、盛大に燃やしたり。
業者レベルの花火仕掛けて爆音で授業妨害したり、屋上から金ばら撒いたり。
あのクソデッカいピアノ、音楽室から盗んだり。
何か弱み掴んで教師を廃業に追い詰めたり。
本当に全国の高校に乗り込んで日本一の不良になったり。
漫画であるようなかっこいい顔の傷跡。それを得る為に自分の顔面ナイフで抉ったり。
「ああ、鼻とかおでこにある歴戦の勇士みたいなキャラっぽい傷痕のことね。それとかー、学校でバンジージャンプしたり。プロレスしたり」
「おい、ユーマ、バカ話長いぞ」
「あぁ…」
笹田は寝てしまっている。
戻ってきた達仁が代わりに答えてあげる。
「だから努力しないから、不良なのにテストは百点とか、学生なのに社長とか、プロ格闘家にならない、とかだろ?だからバラエティ番組に出た時の肩書きが元暴走族リーダーしかない雑魚」
一般人も何児の母とかそんな肩書きしかないが。

ボンタン、短ラン。そうまでして制服は着たい制服フェチ。
制服を着るイコール服従してるってことに気づかない。
改造して反乱した気になってる薄っぺらい奴ら。
卒業式も成人式も絶対出る。大人が用意したものに従っておとなしく出席する。
高校の中で教師と親の庇護の元で不良ごっこが出来る、ある意味上流階級様。
なぜか2人でバイクにまたがるヤンキー。それでそのままバイクを乗り回して逮捕される。
「俺、思うんだけど、たかがバイク乗り回したぐらいで逮捕って逆に恥ずかしくない?人よりエグいこと、派手なことしなきゃいけない生き物なのに。バイク乗っただけ…って。それが将来武勇伝として語られる恥ずかしさよ。まぁあいつらマジで脳足りんだからな。だって、ヤンキーってマジで誰かが豆知識言っただけで「お前すげーな、頭いいじゃん」って言うんだぜ?ただ暴れるだけ。頭を使わないでいい世の中なんて無いのに、そういう生き方ができるコイツラは逆にすげーよ」
中途半端さを嫌う悠真。他人にも100か0であってほしいと願う。
喧嘩自慢なのに努力嫌いだから格闘技も筋トレもしない。
「モテる為に筋トレするバカは一人はいるか…。それで負けそうなら「相手が変な目つきのイかれ野郎だから相手にしなかっただけ」っ自分を守る」
ちっぽけな平民が自分守る。一般人叩きの方と同じように、自分をどうでもいいその辺の人とは絶対思わない。
「だって、一般人も「俺本気でやってないし」アピールするじゃん?例えば…「そんなマイナースポーツ真剣にやる必要なんてない」って逃げたり、テスト勉強真剣にやってないとか軽いものまで、保険かけたり」
自分が勝てそうにないのは「こんなの無駄」って自分が上からのつもりで突っぱねて終わり。
俺は真剣にやってないから負けて当然…かといって、自分というものの底が知られたくないから、一生真剣にやらない。
だから本当は才能あるかもね。でも真剣にはやらないから分からんね…ってナゾの逃げ方。
それを一般人は、これが多数派ですよって同調圧力かけ数の暴力で抑え勝つ。ハブるってことで。同じ考えの者集めて真剣にやらないことを正当化して、比べ合いから逃げる。
でも数で勝ってるから一方的に叩ける。比べ合いから逃げた奴が少数派を。
不良の場合は、一対一で負けても、数の暴力、リンチで叩いて、「俺は負けてません。仲間集めれんのも、俺の能力だ!俺は上なんだ」と威張る。
「友達多いっていっても俺には底辺同士の馴れ合いに見える。目の前に猫が一匹いたらカワイーって認識するじゃん?でも蚊や蟻が10匹いても、外ならどうでもいいだろ?」
家に居たら通報。外に居てもゴミが10個落ちてるだけ、誰にも相手にされない不良。
だから人に絡むのが好き。自分から行かないと相手にしてもらえないから。
「だってさぁ、不良が言う仲間思い•仲間愛ってやつの本質ってさぁ」
自分とバカやってくれるのは、結局不良になるのは少数。それを特別だと思い込む。
全国に不良腐る程いるけど、自分と一緒に不良やってくれる人を、ただのクラスメイトを絆がある、仲間と思い込む。
中•高となっていって自分と一緒に不良やってくれる人が少なくなっって、惨めになりたくない、一人になりたくないからって幼稚な…。
だから暴走族って辞めさせてもらえないルール。去る者を追う。仲間はどれだけ増えてもよく、全員と絆ある設定。
底辺が多い方が自分が生きやすい。
将来の不安の傷の舐め合い。
「自分で好き勝手生きてきたのにね」
努力しなかったから、何も無い。
「だから、自分の居場所がなくなるから、仲間大事って言う…自分の為なのにね」
引っ越そうがその先に絶対不良はいて、すぐ友達になるのに、一般人同士で自分達を特別視する。
しかも目に見えない仲間思いってやつで。
いざヤクザに絡まれたら置いていくような奴ら。自分が一番大事だから。不良っていう好き放題してるイコール自分の欲望が一番大事なんだから。

隣の学校の一般人(不良)に勝てたら喜ぶ。競い合ってない、スポーツじゃないもので隣町の普通体型の不良に勝って喜べる。

先輩には従える。それが出来る。怖い先輩の元でハイハイ言うこと聞いて、もはや一般人よりへりくだったり、上下関係に慣れてる。
でも社会人にはならない。憧れの先輩だから従ってもいい設定。
先輩を芸能人扱いして、内輪で盛り上げる。でも内輪で終わりたくないから、周り巻き込んで騒いでいじめて誇示。
武勇伝も語り出す。一般人の武勇伝を。
「俺はさぁ、折ったことも、ヤクザともヤッたことあるよ?飲み屋で武勇伝語る、過去の喧嘩自慢するやついるじゃん?そういう奴にさぁ…「今まで何本折ってきた?折れにくい骨は?あそこまでやると興奮物質ドバドバ出て気持ち良くなるよね?」とか、刑務所の臭さとか聞いたりしてハードル上げまくってやりたくなるんだよね」
いつの間にか起きていた笹田が。
「ドSだなぁ」
「皮肉も分からず、煽られてるとと分からない。こっちは興味津々で目キラキラさせて相手の言葉待つんだから」
「くっく…」
情景が浮かぶ笹田、笑う。
「でもどうせ「こいつイミワカンネ…」とか言って逃げんだろーなあいつら。中途半端…半端もの」
笹田が更に煽る。
「あれは?海外ではってやつ。銃社会の海外と違って日本はぬるま湯だってやつ」
「海外は銃ですぐ死ぬ。すぐ死ぬんだから命が軽いってことだろ?日本の刃物以下の社会で派手に生きて何が悪いんだか…。だから俺は家に入ってきた強盗を正当防衛扱いで何本も折ってやりたいって、堂々と言えるよ。流れ弾に当たって死ぬ、実際死んだ海外のザコを神格化して、平和な日本人って叩いてくるアホに…言えるよ」
悠真の異常さより痛快さが上回る笹田。笑う。

不良。人から与えられたマイナスでなく、自分から作ったマイナス。

「俺さぁ「覚えてろよ」ってセリフ嫌いなんだよ」
「ほーん」
「捕まえてさ「頼むから今して下さい。今、お願いします」って言う」
「またか…S発言」

「自分が一万円の価値だって言われてんのに怒らない援交女」
「俺らだってギャラ安いだろ?」
「あいつらは自分で決めてんだぜ?女にとって大事な体の値段を」
「はっは」
無茶苦茶な悠真の話題に暇しない笹田。

「バカなヤンキーは一発ずつ殴り合いとかすんだよな」
「一撃で失神させるかタックルでこかしてマウントで嬲るっつぅ冷めたのは駄目なんだろ?」
「そーそー、根性がどうとか言ってるアホよ…飛び膝でアゴ割るか、グラウンドパンチ300発はやんないと気が済まないよなぁ…そんなルール持ちかけられたら」
「相変わらずヤンキー嫌いなのな」
笹田が苦笑する。
「非合理的で冷めてないから。逆の性格だから相容れないからむかつくんだよ」
「嬲り殺したいくらいに…だろ?お前の方が危険じゃねーか」
「いなして、タックルして絶対立たすことなく、相手が泣いても弱攻撃当て続けたい」
ボソッと呟く悠真。
「バンチ失敗したフリして喉元に貫手とかもか?」
煽る達仁。
共鳴する悠真。
「ああ…むかつく奴ら相手なら何倍も力出んのね、君ら」
「そりゃー、怒りを原動力にしてモチベーション上がるでしょっ!」
興奮している悠真。
「話だけでこんだけ興奮すんだから、マジでやんだろーなぁ…素人相手によぉ」
「ここには誰一人プロはいないぞ」
冷静に言い放つ達仁。
「まっ、そーなんだけどさ」
悠真は続ける。
「まっ、だから不良はそういう理由で総合格闘技は好かないってこった。非合理が好きだから…寝技とか嫌い」
漫画みたいな口ばっかで喧嘩中々始めなくて、パンチで相手が吹っ飛ぶ!…そしてなぜか何度も起き上がるのが好き。感動の為じゃなく、根性の為の起き上がりが好き。技術と努力がないから、根性というものに縋る。
一瞬でテイクダウンして、適切に教科書通りに相手を無効化する総合は嫌い。システマチックが嫌いなドラマチック好き。
「つっても、ヤンキーにドラマなんてねーけどな。バカだから技術論も分からない覚えられないから一発ずつ殴り合うとか好きなの…あいつらは」
本当に技術論を頭に叩きこめないから、喧嘩に近い総合格闘技に挑戦しないヤンキー。
喧嘩に近いけど、全ての格闘技の技術を覚えなきゃいけない総合だから逆に嫌悪する。
「ほーん」
生返事の笹田。
「サラベリーは嫌うけど、リンチは好む」
ボソッと達仁が呟く。

クルーシフィクス(十字架)の逆バージョン、サラベリー。
相手の両腕を十字架のようにはりつけ、自由を奪い、こちらだけは一方的に殴りつけられる拷問状態。
「…確かにな、喧嘩動画とかでもすぐ止めるし。リンチは好きなのにマットヒューズポジションで殴り続けんのは止めそうだな、不良って」
突然納得し出す笹田。
「あー、でもヘルメット着けて、腹に鉄板仕込む不良は好きだぜ」
「漫画の中の不良じゃん」

やっぱり空想の方が、突飛な有名人の方がいいよな。と再認識してしまう達仁と悠真であった。
「防御力高いなーその人。どうやって倒す?」
中高生のようにバカ話して終わる一日。



控え室で暇な悠真は他グループに絡む。
「「〜っす」って省略してんだから敬語じゃない。敬ってないんだよ。だから教育したら?今目の前で怒って殴って喧嘩してみせてよ」
真顔で言う悠真。
「こいつやべー」
地下の住人といえど、悠真は別のヤバさに見える。
立ち去る男達。
「ちっ…笑いたかったのに」


ある日。
控え室で他のアノア選手と野球拳をして遊ぶ悠真。
朗らかな時間に、出来の悪い弟でも見るような目で悠真達を見つめる笹田。
悠真が勝ち続け、とうとう裸になる相手。
「おー、終わりだな」
「いやっ、臓器とか賭けたら?」
「はっはっは」
「いや、やらないの?」
やっぱりマトモには終わらないんだな、と呆れる笹田。


達仁のアパート内。夜。達仁と悠真が話し合っている。
「夫婦って同じ寝室で寝る設定じゃん?他人と一緒…で落ち着けて、まぁ、他人じゃないけど。冷めてたら無理だし、あと寝る時間も合わせられるってのが…。」
ふと暗い表情を見せる悠真。
「こんな所でも感じるけど、相手に合わせて過ごせる、寝る時間まで変えられるってのはある意味すげーよな。こんなことすら出来ない俺…って思うこともある」
「良く言えば合わせられる、だし、流されることが出来るというか…何が起きようが適応する、進化論」
「順応できない、淘汰される側の人間、俺らはまさしく地球に世界に適してなくて、世界に必要とされない。あっち側から見れば弱い側の…」


翌日。控え室にて笹田が。
「俺もよぉ、知り合いに「痛くない?なんでそんな無駄なこと、格闘技なんかやってんの?」なんて言われたから俺も「会社員なんてそんな地味な仕事毎日毎日やって頭停止しちゃわない?なんで続けられるの?」って売り言葉に買い言葉しちまったことあるよ」
「へー、やるじゃん!でもどうせ自分から始めたくせに逆ギレしたんだろ?芸人や格闘家は一方的にバカに出来るのに、いざ自分が言われたら」
「そうだよキレて帰ったよ。あーあと「お前より金持ってるよっ!」って捨て台詞吐いてた」
「くっくく…“金が自慢“になるのか。その時に俺は二分でお前を壊せるよとか言わなかったのかよっ!結局使いもしない外国語習いに行っといて何が生産性だよっ!とか」
興奮する悠真。
「あと「リーマンになってなかったら何になってたの?」とか、「社会の歯車に、なってくれてアリガトー。だから俺はこんな風に自由に格闘技やれてます」とか言わなかったのかよっ?」
けたけた笑う悠真。
やれやれ…といった表情の笹田。
「相変わらずだな…お前。喋んの好きだよな。あと、2•3言別の言い回しで相手叩いたり、追い込むの好きだよな。ドSが…」
苦笑混じりで話す。
そんな悠真を別に嫌いではない笹田。
「くっく…駄弁りってのは、駄作の喋りって意味なんだぜー?」
一旦冷静になる悠真。
「つっても、大見得きったくせに、普通の仕事すんだろ?笹田も。」
「そこは許せや」
「まぁ、俺は100か0の人間だから、なんかやるんだったら、生放送テレビ局襲撃くらいはやる…ってそれするじゃん、達仁。テレビ格闘技で」
「つくづくヤベぇな、あっはは」


達仁の対戦相手が消え、試合がキャンセルされる。
暇なので二人で他選手の試合を観戦。
「こいつらって30〜40代じゃん?何の為に闘ってるんだろうな?…ありもしないのに」
悠真が冷たく言い放つ。
達仁が答える。
「今の時代は携われればいいから。昔は野球だけ草野球として続けられたけど、今はマスターズやシニアの部門がある大会が色んなスポーツで開かれてる。夢を追ってるんじゃなくて、細々とでも関われればいいんだよ…。昔の人間は「トップじゃないと駄目っ!意味無い。惨めだからすっぱり諦めろ!」ってかんじだったけどな。楽しむスポーツの時代に。一般柔術(喧嘩の為じゃないスポーツ柔術)のようにな」
「それって結局…才能無かった一般人同士の馴れ合いじゃん…。たまたま先進国で裕福だから落ちこぼれ同士で大会開いてるだけで、下同士でやって優勝しても…」
言いたいことは分かるが。
「そう言うなよ…それで備品とか買って、宣伝もして、業界に間接的に貢献してんだから」
「それって裏方じゃん…。選手になれないからグローブの会社に勤めるみたいなさ…」
栄養士になったりトレーナーになる者も。
「いや…こいつらはいくつになっても闘ってるんだから同士だよ」
「達仁が言ってる一般人同士の相互扶助に当てはまるじゃん」
「スポーツじゃなくて、格闘技やってんだからマシだろ」
渋々納得する悠真。
正義寄りの達仁。悪寄りの悠真。
大して面白くもない試合。早めに帰る二人。


いつもの控え室での暇つぶしのお喋り。
「睡眠と食事は死なない為にする。だから三大欲求とは性欲でなく、生きたい欲だ」
「は?」
きょとんとしてしまう笹田。
「だって死なないように意識して生きるじゃん」
素で言ってるのか戯けてるのか分からない笹田。
「ばか…普通の奴は死にたくならないから、死なない為にがんばってないぞ」
「いや、餓死しない為に働いてるじゃん」
「は?そこを越えたら…あー、やっぱ理解出来ないわ、お前らのこと」



悠真と笹田がいつもの暇つぶしをする。
「オタクってさ、二次元専門じゃん?この世に無い物が好き。だから、人を否定してるってことじゃん。作品こそが美しい。現実と関わらないってとこ」
「そういう捉え方なのか…」
「俺はオタクじゃないけどさ、実はオタクって一般人の醜さや違いの例として出しやすいんだよ。一般人に否定される者だから」
「萌え系を語るんじゃなくて、価値観を見るのな」

人に関わってこようとするヤンキー•一般人。家でインドア趣味楽しんでるだけの関わってこないオタク。
そのオタクって排他主義扱いされてる。一般人こそ、否定•いじめるのに。
「オタクって一般人からしたらいじめられてなった設定なんだから、合ってるよな?」
逆にヤンキーは話するの好きだから、何でも話せる良い奴らって設定。
「なんでも話せるって、下ネタとかだけどな」
ヤンキーって、一度でも牙向けられてても単細胞だから仲間に出来る。敵に友情を抱く。バカであることが、良い人。
一般人は「良い友達に巡り会えなかったんだね」
オタクは「良い作品に出会えなかったんだね」

「オタクも見るだけの側だけど」
一つの物にのめり込む陶芸家や学者。何も産み出さない、人と遊ぶだけののめり込むほどの趣味•情熱のない一般人がオタクを叩く。
「同じ一般人」とは言わないから、叩く為にオタクを下扱いするから。
自分の好きな事が無くて、人と話を合わせるだけの人が自分達はコミュ取れる•出来る側。
自分が嫌われたくないからなだけなのに、自分は空気読める側ですよ。流行りものを見ないオタクは非人間ですよ、と。
人と関わらなきゃ壊れる側。だから一人で平気な、作品という物を愛する、オタクを異常者扱い。
一般人も誰にも何も評価されるわけでもないのに。
何も現実に期待していない、冷めてるから空想に理想を求めるオタク。
「冷めてる方が偉い風潮だろ?90年代から熱血は駆逐されて。だからオタクは偉いんじゃないの?ムキになってないんだから、現実で何も」
それは空っぽという意味だが、ある意味自分達と同じ価値観だと思う悠真。
「その空想が萌えだから叩かれんだろ?」
笹田が意見する。
オタクはキモい。萌え系はキモい。
「見た目ってことだろ?ネットってさあ、なんで議論出来るかって、相手の見た目•職業無視だからだぜ?現実でブサイクな男が何か語ったところで相手にもされない。でも、言葉しか、文章しかないネットの世界では、議論出来る」
本当に自分の思想•文だけで、相手と話し合える、闘えるネット掲示板。
とはいえ、結局「どーせブサイクの癖に、どーせニートの癖に」とネットの中ですら叩いて逃げるが。
それでも、取っ掛かりだけでも出来る、最初の議論だけは出来る世界。
その世界が、”補正がかからないこと”…という皮肉。
差異を叩く、人間というもの。それがないネットという世界。文•思想だけの格闘技的な。
見た目も職業も性別もない世界。ネットでだけ議論できる世の中。
「見た目を抜いて精神性•価値観だけ見たらオタクも良いってか?」
「そうさ、楽しんでる物が萌えだから、じゃなくて」
せめて空想で心を癒すのだから合理的。
現実は痛めつけてくるから、家でいる賢い選択。
関わることが悪だから。


「00年代にオタクステータス時代が来たんだよ。自分は普通の人間なのに、美人なのにオタク系の物好きですよって、上から目線する為の嘘の趣味」
「ギャップがあって凄いでしょ?」となんの努力もせず言える。見るだけだから。
一般人の俺が下のオタク文化を楽しんでやってる。
その人達すら増えきって、その事にすら価値が無くなってもそれでも、オタクヅラする。
皆オタクでも。特別じゃなくなっても。そもそもオタク系が趣味なのは特別じゃないが。見るだけなんだから。
「顔カワイイけど、傷が付くのを恐れず努力して格闘家やってる女の子がいたらそれは特別だろ?」
「確かに」
見るだけの人が、「私美人なのにオタク系も見るんですよ」と誇る。
見ることを…誇る。
暇つぶしをするにも何か一言入れなきゃ出来ない異常なプライドの高さ。
上からのアピールの為に下々の者の下賤な遊びをやってあげてる設定。
こだわりがあるのがオタク。オタクぶるのが流行ったからオタクのフリするって真逆の…。
「そもそもさぁ、日本人として生まれたら絶対漫画とかに触れるじゃん」
「外国人ならまだしも、それを誇る日本人…ってか?」
それがステータスになる。肩書きになる。
人が築き上げた文化で、自分を自慢し出す一般人•にわかオタク。
そもそも好きな物が無い人なんていないのに。
好きな物があることを誇るオタク。とそのオタクの肩書きを自己満足に使う一般人。
タダでテレビでやってるアニメを見るだけ。金すら落とさない。
自分の数ある趣味の一つをみんなに伝えたがるにわかオタク。
「んじゃあ、金かかるから、テレビゲームのにわかはいねぇんじゃねぇの?ははっ」
「そうだよ。あとは、アニメ以外の趣味があることも誇る。友達がいることも」

30代でゲームやってたらバカにするが、逆に60以上だと凄い扱いになる。
「…機械弱そうな、世界狭そうな老人がやれてて凄いっていう見下しだけどな、結局」

「俺は、“関わってこない“から、オタクのことを擁護するよ?」
本来の、オタク叩きに話を戻す悠真。

「いい年して」っていうのは、周りに迷惑かける騒音バイクに言うもの。
それを人に迷惑かけないオタク趣味に言う一般人。人の趣味を制限出来る立場の他人。
いい年して人の趣味を叩く自分は叩かない。
「カウンター系多いな。お前の論」
バカにされるから、イケメンで若くて勉強も出来ないと、オタク趣味できない、ハードルの高い趣味。
「はっは」
イケメンじゃないと許されなくて、中(ちゅう)ですら叩かれる。

普段経済を回せてることが誇りの一般人が、今の時代でも消費してくれるオタクを叩く。消費することすら、下に見てるオタクに上回られ。
「またカウンター」

「台本通りのことしか言わない萌えキャラ」に対しての、熟年夫婦は話しすらもしない。お互いスマホ弄って話しもしない現代。
台本以上のことをしてくれる現実の一般人様。
現実を賛美して、空想を叩く。
娯楽って人を楽しませる為の物なのに、それすら叩く。
「人を苦しませる為の…者…」
「皮肉屋だなぁ」

経済大国2位の日本を「漫画大量に読んでる、大人でも」と、それをバカにする3位以下の外国。
金•経済が全ての世の中で2位であり、余裕を持って楽しむ物を否定する。
金だけあればいいというわけですらなく、人に迷惑かけてない漫画すらもやめさせようとする。
趣味を余裕を否定する者達。

オタク趣味でも普通趣味でもやめたら「無駄な時間を使った」と後悔する人達。
恋愛のように一度冷めたら、楽しんできた時間まで否定。
結局将来バカにするものを楽しんでた自分。
「アニメなんかに時間使うんじゃなかった」って、自分じゃなく、ジャンルのせいにして自分を守る。
努力しなかった自分じゃなく、人様の作品を叩く。

萌えアニメに逃げず「本当の恋愛しろ」と言う妥協して付き合ってる一般人。
たまたまバイト先一緒だっただけの人と恋愛して、それが誇りでオタクを叩く。
「所詮絵だって。本物には敵わない」と。
その辺の一般人に凄い価値がある。目の前の人混みという光景が宝石箱のように見える。
現実は素晴らしい。

その辺の人に欲情する一般人。その辺の人をどうでもいいと思ってるオタク。
オタクは萌えキャラだけに可愛さを感じる。
オタク趣味やってんだから、人の目を気にしない。だから本当に興味無いものには手を出さない冷めた現代人。
「オタクって性犯罪者扱いされてるけど、どっちが本当にしてくるんだか」
「人畜無害だな。そうやって言うと」
ナンパする人達。女が欲しくて仕方ない、誰でもいい一般人。AVを普段見てる一般人。
人のオタク趣味をバカにする人達。
どっちが犯罪者予備軍なのか。
「オタクの擁護っていうか、関わってこない人の擁護だな」
「だから、強姦も盗撮も一般人が犯罪すんじゃん」
弱者と、弱者にされてる者と、悪人と、一般人は違う。

オタクは現実でモテなくて、逃げた扱い。
「オタクが「現実の女性興味無い」って言ったら精神異常者扱い。逆は?」
「興味あるやつ?」
「いや…猫が大事な男性が「現実の女性より猫の相手したいから合コン行かない」って言った場合」
「その場合は強がりじゃないってか?猫とキャラの差ねぇ…ま、俺は区別するけど。実際存在してるネコちゃんを」
「だからね。現実の女性、ペット、知名度高いキャラ、ゆるキャラ、萌えキャラの順に落ちていく価値」
「まぁ、触れないからな」
「触れればブスでも特級なのさ」
「あっはは」
「ネコグッズ集めてる人に「現実の猫飼えばいいじゃん」パターンもあんだけどな」
とにかく現実は素晴らしい。
彼女がいることが誇りでオタクを叩ける自称一般人側。
オタクに彼女が出来たら並ばれるのに。
「だから、下の下しか叩けない。それすらも簡単に並ばれる」

「三ヶ月に一回、アニメ番組交代するらしい。その度にキャラを愛でるオタクを「一人を愛せよ!」って言うんだってさ」
現実の人間をとっかえひっかえする一般人。
別れたら敵視する。ソープ。離婚。浮気で傷つけられる。
実在する人物に対して物扱いする一般人。
「彼女がいるのにアイドルを好きになってはいけない、とかは?」
笹田がふざける。
「あっはは」

萌えキャラを「オッサンが書いた絵」とバカにする一般人。
オバさんが書いた恋愛小説•脚本を楽しむ自分達はOK。男が女々しく唄ったラブソングもOK。スポーツしたことない漫画家のスポーツ漫画もOK。何も人に提供しない自分達もOK。
「普段、ブスが作った料理を外食でも、彼女でもさ、食べてるのに」
「あっはは、毒舌いいぞ、楽しめる」

「「こんな女いない」って萌えキャラを叩くんだって」
「それで?」
「現実で妥協して、ブサイクと付き合ってる人のことを責める人はいない。だって一般人だから」
「そいつらが、こんないい女いないってだろ?萌えキャラって巨乳だもんな」
「そうさ、こんな女いればいいのになーって、美人で巨乳を想像する男は許されるけど、アニメキャラとして具現化させたら駄目。ペットってさ、金で買うし、顔も選んで買う。それは一般人だから許される」
自分達以外は許さない一般人。

「30kg台の萌えキャラがいたら「夢見すぎた」って叩かれるらしい」
「というか、色々仕入れてきたなぁ、お前」
達仁がいない間暇でネット掲示板をまとめサイトを見ていた悠真。
オタクがありとあらゆる角度から叩かれてるのを見て、ネットでも現実でも一緒の“否定“というものに辟易としていた。
「モデルで本当に30kg台いるのに。平凡な自分を叩かずオタクを叩く。現実に存在するのに目を逸らす一般人」
特別じゃないことを恥じない。恥じないけど上からは叩ける。
下を叩く時は特例出すのに、中(ちゅう)の自分達を守る時は「極論だ!」と逆ギレする。

「恋愛しない」を「見栄張るな!モテないだけだろ」と、そこまでして他人を「下の者として卑下してほしい。予め一言入れてくれ!」と言う。
「逆に「私は無趣味で流行ってるものを追うだけのにわか•ミーハーです。薄っぺらい人間です」って言ってくれって喧嘩してたけどな」
「ネットで喧嘩するバカか」
「まぁ、ネット時代だから無視出来ないんだけどな」
気に入らないものを「目立つな、何もするな、弁えろ」と。
「隙を見せる方が悪い」と絶対加害側を悪く言わない。
「現実では当たり障りのない会話をしなきゃいけない。特に日本人は」
「天気の話、メシの話、な」

「モニターに逃げるな」と酒に逃げる一般人が言う。
エンタメに逃げてはいけない。
息抜きの選択肢の自由すら奪う他人様。
趣味に逃げてはいけないと言える人は、何かを成し遂げた人。新薬開発など。
そんな人達は、人の役に立てて、趣味なんかしてる暇あったら人類の発展に役立てている人。
誰も救わず、一般人同士で趣味をバカにしあう時間はある。
無駄に趣味に使わなかった時間で何を成し遂げたかな言わない。同じ何も成し遂げてない同士で下を作ろうとする。

現実が辛いから娯楽に行く。それを他人は逃げと言う。
逃げていない。だって全員に、目の前に現実が控えてるんだから。
数時間程度の遊びも叩く。
逃げは宝くじか死しかないから。
楽な生徒から、客に上司にいびられる側に回った一般人がせめてネットでオタク叩きする。
「まぁ、ガキはいじめ、モンスタークレーマー、ネットで中傷全部やってるから…少年法の甘さもあって最強だよ、子供ってのは」

「まっ、そんなかんじで、脱オタクする奴も多いんだってさ」
人に言われて変える趣味•生き方。
他者を気にしなくていいのが、幸せであり、制限されずなんでも出来る。
「部屋でゆっくり、誰にも邪魔されずにな…。だからオタクは先鋭的なんだって。笹田の世代じゃ分かんないだろうけど」
「まぁな」

現実でモテない逃げオタク設定。
「これ前言った、生まれたくなかった判断と被るけど」
イケメンに生まれ変われるのと、空想の世界に行けるのどっちがいい?で分かる。本物度。
「イケメンでさえあれば、この世で生きられる。この世で満足する。モテれればアニメキャラ要らないって奴」
「そこは狂っててほしいんだろ?そうじゃないと仲間じゃないし」
「そうだよ」
「っていうか…」
オタクの話から、死生観まで持っていく悠真に脱帽する笹田。

「ネット掲示板って結局さ」
自分に都合の悪いことを言う人はオタク•ニート•モテない•童貞認定して叩く。同じ場所に書き込んでる自分は叩かない。
現実と一緒。自分は悪く言わない。他人を叩く。
安全圏から銃のように撃てる。殺せはしないけど、一方的に叩けた気になる。

「一番一般人を追い詰めてたやつがさぁ」
オタクを叩く運動部。「ゲームしてる無駄な人生」と。
それに対して「プロになれなかった無駄な努力した運動部」で喧嘩する人達。
運動部は多数派イコール一般人だから押し寄せてくる。
その辺の学生同士でスポーツしたことが誇り。中(ちゅう)同士の馴れ合い、部活を誇る。
何も実績ない、切磋琢磨も出来なかったけど、自分達に当てはまるから擁護する。
普段意味ないって叩いてるもの。それを自分達に当てはまる時は「思い出になった」と逃げる。
いつも通り、一般人同士で何かしたことは素晴らしくて、作品を楽しんだことは意味ないこと。
暇つぶしの為の部活なんだから、意味ないって言われても平気なはずなのに。
無駄に意味があると言える。結局プロになれなかった暇つぶしなのに。
プロの世界で特別な人達と闘って何か得た訳じゃない素人。
運動部、多数派という誰でもなれるものをオタクに対抗する為に持ち上げる。
こんなこと言う奴は帰宅部だ!といつもの透視を始める。
「透視って?」
「ネットの向こう側の人間のルックス•年収がなぜかわかることだよ」
運動に時間かけて、何も成し得なかった運動部が帰宅部を叩く。同じ“意味ない“なのに気づかない。自分を悪く言わないから。
部活がないと人と関われないから、暇をつぶせないから、辞めることも出来ない。そして「部活だりー、朝練だりー」と言う。
帰宅部も運動部も同じ、才能の無かった者。
先輩からしごかれ、社会をいち早く経験するドM運動部。
夢を諦めた一般人は勉強頑張って一流大学行かなきゃいけない設定。でも東大は諦めた設定じゃない。東大もプロ選手も諦めた者。

結果を残さなきゃいけないプロ。努力が誇りになる一般人。
「就職に有利だから」って捨て台詞残して去る運動部。
夢破れた何者でもない人、無駄な努力した人が有利になる会社。
「過去なんて関係ない」って叩いてくる一般人が「努力はあったと認めろ」と言う。
「また、そこに戻ってくるのか。お前が言ってることって、叩きじゃなくて、カウンターなのな」



今日も試合。
いつもより長くきつく追い打ちする達仁。
勝利し、引き上げる。

試合後の控え室。
着替える達仁。座っている悠真。
「なんか今日イラついてたの?」
「いや…たまには怖い所も見せとかないと、また絡まれるからな」
と、そこへ。
「オラァー!アヤセー!俺の弟分痛めつけ過ぎたなー!」
激昂した男が控え室へ乱入してくる。
「おい…逆効果じゃんか」
達仁へ詰め寄るチンピラ。
ギリギリまで注視する達仁。
目で追うユーマ。
(達仁、試合で疲れてるよな、よしっ)
後ろから全力の蹴り。後頭部へ。
「…!」
どさっ。
特に派手な音はしなかったが、失神させられたことに驚くユーマ。
「おおっ?!一撃だったぞ?」
「不意打ちだったからな」
座った達仁、このぐらい日常茶飯事といわんばかりの冷め。
「それでも階級上だぜ?」
対照的に興奮するユーマ。
「…ん〜俺も一回出てみよっかなっ?自分の才能を試すっ」
やる気なユーマ。
「明日出れるか聞いてこよっ」
「おいっ、こいつ置いてくなよ」
聞く耳持たず去るユーマ。
失神する男が床に放置されている。
仕方なく。
「おい…起きろっ」
チンピラの頬を叩き、起こす。
「ん…っ」
目覚めるチンピラ。
「おい、お前今失神させられてたの分かるか?何の技でヤられたかも分かるんないだろ?だから、絶対敵わないんだから、もう絡んでくるなよ。それに弟分とは反則無しでマトモに試合したの…ん?お前ら地下は初めてなのか…」
まだ意識朦朧としながらも達仁の言葉を聞く男。
意味は分かるが、体がまだ重い状態。
そこに駆ける音。勢いよくドアが開けられ。
「タツー!…ああこの人どうすんの?メンドクサイ」
「俺も面倒臭いよ、代わりに脅しといたぞ」
目だけ動かすチンピラに見られるユーマ。
「今コイツ起き上がれないの?」
「だから今ならプロレス技かけ放題だぞ」
「ひいっ!やめてくれ〜」
ジタバタ暴れ出す男。
「この人と明日試合になったらどうしよ?」
「知らん…今の内に背骨でもバキッとやっとけばいいんじゃないか?」
「やめろやめろっ」
頭を抑えてなんとか自力でフラフラと立ち上がる男。
「降参するから帰してくれよ」
「えっ、自分が喧嘩売りに来たんでしょ?」
「悠真…今はドSモードはいいから…明日の試合の為の作戦練るぞ」
「あー…じゃあさよなら」
達仁の言うことなら大人しく聞く悠真。
「くっそぉ」
大分回復し、マトモな足取りで去る男。
替わって笹田が入ってくる。
「明日やんだって?」
「あぁ」
「どっちに賭けよっかな〜?体見せてよ」
実は筋肉量多いか確かめたい笹田。
「やだよ…めんどい」
「俺に賭けろとはツッコまないのね」
笹田と違い、真剣に悠真が勝つための作戦を練る達仁。
「悠真、初戦なんだし、防御一辺倒でスタミナ切れを狙え…ってのが表の作戦」
裏とは。
「悠真…お前なら頭飛んで、常時火事場のバカ力出るかもな?」
「…負けても失望しないでよ?」
「お前、強いの?」
「いや、達仁のスパー相手やってるけどさ、今は。…だからこそ分かる、勝てないって、俺に才能無いって…不良くらいには勝てるけど」
お遊びで一度出てみる悠真。
格闘技話を続ける三人。
そこへスタッフが近づいて来る。
「えっ?今日?いきなり今から?」
ビビって逃げた奴が出たらしい。
「えっ、準備運動ぐらいはしていい?」
前日オファーならぬ10分前オファー。
「おー、今日早く帰ろうと思ってたけどよぉ、お前の試合見てから帰るわ」
「肩書きは400回自殺未遂の男とかで…」

ストレッチしながら。
「試合前ってどんな気分?」
「別に…社会で生きることよりマシだ。それに…復讐の方がよっぽど勇気要るだろ?」
「ははっ」

空いた会場。
適当な場所に座る笹田。足組んで観戦。
怪我もしなさそうなユーマの対戦相手のオーラの無さ…にリラックスどころか、適当に観る面々。
試合中。アドバイス送るわけでもなく、客席の方からボーッと見つめる達仁。
と、そこへ…。
「達仁くん?なに考えてるの?」
ハルカが隣りに座ってくる。
「…色々」
「調子悪いの?」
「ストレスこそ万病の元、だからいつも調子悪いよ」
「悠真くんが言ってたけど、毎日叫んで起きるって」
「自分が自分に見せる悪夢だから、神経に直結してるから逃げられない…分かるか?」
「…ん〜…」
「どれだけ格闘してヘトヘトになっても、衝動を逃がしても…だから試合で頭打たれるくらいでいい」
「死んだらどうするの」
「それでも悪夢からは解放される」
「…言っちゃあなんだけど…心弱いんだよね?」
「…そうだよ、いくら言葉で取り繕っても…心が雑魚だっただけ、人と比べて」

リング上。
今迄だらだらクリンチし合っていた、しがみつきあってた緊張感の無い試合。
だからこそお喋りしてたわけだかが、ここで急激に試合は動く。
「あっ……やられてるよ?…なんか見てられない」
ハルカと違い、悠真を気遣わない冷めた達仁。
「それは見た目中性的な10代だからか?」
「うん…それに危ういし」
視線はリングから逸らさず受け答えするハルカ。
「なんか母性本能みたいなこと言うな…」
「なんか、必死なかんじが…ただ生きるのに必死な…」
悠真の身の上話を聞いているハルカは余計そう感じる。
「普段フザケてて物憂げなとこは他人には見えないけどな…」
「えっと、アドバイスとか送ってあげないの?」
「もーそろそろ、インターバルだから、その時に」
「…」
真剣な表情で試合を見守るハルカ。
カーンッ!ゴングの音が鳴る。
「はぁっ…はあっ…おいおい、どうしよう」
ゆっくり自陣へ戻る悠真。初試合でスタミナの切れが早い。
達仁が駆けて来る。
「ああ…タツ…」
「やる気スイッチ入ってなくて。スパーぐらいの気持ちで行っただろ?」
「あ〜…アドレナリン出てないのかなぁ…」
いきなり決まった試合。特に相手に恨みがあるわけでもなく気合いの入っていない悠真。
「…相手をな…憎い相手だと思い込めばいいぞ」
「ん〜?…うん」
「殺意を無理矢理引っ張ってきたら、勝手に集中もついてくるから」
息を整えながら聞く悠真。
「というか、相手も攻め疲れでスタミナ切れてるから、強打で滅多打ちにしろ」
「というか、試合中一切指示してくれなかっよね?俺、帰っちゃったと思ってさ」
試合中に余所見などしてる暇はない。目の前の相手だけ見ながらネガティブになっていた悠真。
「余計な事考え過ぎだ…。前も言ったけど、相手と自分だけの二人だけの殺し合いの世界と思ったら気分もノッてくるから」
非日常漬けの格闘家。それでも試合に慣れることはなく、狂える。
「なんか今日は技術的なこと一切言わないのな」
「だって二人とも、そのレベルじゃないし」
「ああ〜、そんなに不恰好?」
それとラウンド制になった今回の試合を説明する達仁。リアリストだからこそ、隠すことなく説明する。
悠真はそれでも傷付くことなく、しっかり説明してくれる達仁に好意を抱いている。
理由なく、怒られてきた人生の中で、きちんと理由などを順序立てて説明してくれる達仁。理不尽なことはしない達仁。
理由なき矯正をしてくる教師。
意味無き折檻をしてくる父親。
「負けても失うものないだろ?」
「それって発破の方か諦めの方かどっちの意味よ」
レフリーがリング中央へ、そして両選手へ。
「はいはい2R始めるよー」
「あの…そのノリで脱力するんだけど」
アノアの演出無しのテキトーな消化試合の時は、レフリー役もおざなりな対応。
「くっそ、俺って前座の色物枠で出されてたのかよ、今気付いた、
入場も無かったし、客もいないけどさ〜」
グダグダ言う悠真。全く緊張感のない試合。
達仁の試合も終わり、早々に帰って言った客。まばらな席の埋まり。よっぽと暇な人だけが、このフリークショーを楽しんでる状態。

客席に戻る達仁。
知り合いを見つけていつの間にかハルカの隣りに移動していた笹田。
「ラウンド制にされたのは、スタミナ無さそうな二人の膠着はきついから休ませてまた打ち合わす為だぞ」
客席でボソリと呟く達仁。
「あ〜そうだったんだ?」
ハルカを挟んだ反対側の席で笹田だ返答。
「相変わらず、裏読みしてんな〜」
「というか勝てそうなの?」
心配そうなハルカの声色。
「格闘技•喧嘩は一発があるから予想はできない」
「えっ?でも復讐の時に、折ったりして強かったんだよね?」
笹田に聞かれないように耳元で囁くハルカ。
「素人同士なんて、気迫で決まるくらいしょぼい闘いだから、判断できない」
「おーいっ悠真ー!女の人も見てるぞー頑張れよー」
クリンチ状態で落ち着いていた悠 真が笹田の声援を冷静に聞き取る。
「あぁ…三人の知り合いに見られてんのか、今…」
横目でチラリと客席を見る。
「格好良いとこ見せたいけどな…こいつのしがみつきウゼエ」
引き剥がそうと力む悠真。
「あー…こんな試合じゃ、次はもう呼ばれないな…」
知り合いの応援という状況でも飽きがきた笹田。
「悠真は格闘自体には取り憑かれてないから、どちらにせよもう出ないだろ」
自由を脅かされない限り、結局冷めで動かない悠真。
自分に反する奴らとの喧嘩でもない限り。
今日で格闘技に全く向いてないことが分かった達仁。
絶対にブチのめしたい奴がいて闘う喧嘩。知らない相手といきなり闘うスポーツ格闘技。
のめり込んで前のめりになるでもなく、だらけて観戦する二人。
「ねぇ二人共、なんでそんなに冷めてるの?」
一人で熱心に試合の行く末を見守るハルカ。
「あーやっぱ、女の人はのめりこんで見るよな〜」
「やる側はこんなもんなんだよ…効いてるのと効いてない打撃の判別も出来るしな」
温度差の激しい面々。
「ん…達仁君はもうちょっと男っぽくて、体も大っきいから、悲壮感無いんだけどね…」
「ライターさん、30代のムサイおっさんの俺は殴られても平気なんだ?ヒデー。記者さん20代でしょ?しゃーねーか」
「子供がおっさんと闘ってるから余計思うんじゃないか?」
「くっかか…見たかんじ確かにそうだな、TVじゃ放送出来ねーか、若者が圧倒してたら売りになるけどなっ」
二人に挟まれ、頭上を言葉が行き交うハルカ。もう言葉は入ってこず…。
「悠真くーんっ!」
「…声届いてんのかね?俺だったら派手な技狙っちまうわ…知り合いが来てたら」
ダベったり、声援送ったり…。
とうとう試合は動く…。
疲れきった相手の入り際、首を抱えこみフロントチョーク。
タイトに締まり、対戦相手はタップ。
「はいはい終わりねー、別れてっ」
レフリーが一応、声かけに来る。
「あー勝ったかんじしねぇ」
結局、集中もスイッチも入らず、駄試合を見せてしまった悠真。
「あー試合が動いたと思ったら、あっさりフロントで終わりか〜…ん?そういえば?」
ハルカを見やる笹田。
無闇に叫んだりせず、ホッと落ち着き、胸に手を当てているハルカ。
「あの調子だと怪我はしてないと思うよ?」
優しい声をかける笹田。
「…ありがとう」
席を立つ一同。
「さっ、控え室で歓迎してやるかっ」
控え室へ向かう途中の廊下。
「あのフロントチョークってスパーで教えてたのか?」
「あぁ…昔から今でも意表をつける絞め技だからな、でもタイトさはきっちり教え込んだ」
「あれはやってる奴の締め具合だったもんな」
控え室の扉を開く。
ガチャッ。
「ん?もう居たのか?って暗ぇな」
タオルを被って顔を伏せている悠真。
「ああ、だってビミョーな試合だったから」
消沈気味。
「一本勝ち出来たんだから喜べよ」
笹田の後ろからハルカが歩み寄る。
「おめでとー…月並みなことしか言えないけど…」
「あっ、ありがとハルカさん」
タオルの隙間からチラリと作り笑顔を見せる悠真。
「もうちょっと話したかったけど、私はもう行かなきゃいけないからっ、じゃあねっ」
立ち去るハルカ。
見送る悠真。
「…俺が長ーい試合したから、慌てて帰っちゃったね」
「もっと話したかったら、秒殺するんだったな」
「強くなれるように、ドーピングでもするかっ?悠真っ」
肩をバシバシ叩き、軽口を叩く笹田。
「ドーピングっていう反則やって一位になれなかった時の恥ずかしさを考えたら…俺だったら自殺するかなー…でも使いさえすれば俺も一位なんだって吹く奴もいるよなー」
「見世物になってどうだった?」
次いで達仁が質問する。
「会社員みたいに、人間に無理矢理調教されて、芸をするぐらいだったら、試合を選ぶけど…達仁がやってることって…」
達仁が答える。
「観客の見世物にはなってるけど、人間に調教されることなく闘って死ぬ。自分の力で闘ってるからまだ誇りがある。芸をさせられるくらいなら、自ら死を選ぶ…ってか?」
「普通の仕事するくらいだったら、ギャンブラーかヤクザか格闘家か」
「まぁ、そう言ってられんのも、若いから…だけどな」
年長者の笹田が自分自身にも戒めるように言い放つ。
「なんだよ、もう衰え感じてんのかよっ」
「俺だってな、好きに生きて行きたいよ…でも30代になったら分かるんだよ。どれだけ強がっても老衰する。むかつく奴に喧嘩売られようが、やっと就けた底辺の職場で自分より若い上司に偉そうにされようが、今みたいに、やるときゃやってやるよっ…て言えなくなる未来が想像できんだよ…」
「…だから自殺すんだろうが…」
ボソリと呟く達仁。
情熱も若さも体力も無くなって、忌み嫌う人間に、すり減らされ、こき使われ、それでも自分の力で立てなくなる、将来、老いた自分。
そこから逃れるために…。

一番前の見えていない10代の悠真は。
「おいおい、俺の勝利祝いの席じゃなかったのかよ?二人して押し黙っちゃってさ」
「お祝いどころか、飲み物すらもねーだろーがっ」
「っていうか、俺も帰るんだったわ、じゃなっ」

笹田と別れた後。
「これが物語だったら、俺を虐めてた奴らがアノアに選手として来て、今日闘ってたんだろうな…」
気だるげな悠真。
「というか、もう復讐したろ?」
自分も座る達仁。
「駄試合…。守る者がないトンパチ。いきなり殺し合いになっても行き着くとこまで行く悠真…と思ってたんだけどな」
「路上だったら、むかつく不良だったら、本当に障害負わしてもいいけどさ。周りに観客がいる状態で、近くにレフリーも居てさ…。達仁はそれだけ…入り込む…って、ことなんだよな」
「そんな奴は素人に居ない…だからこそ悠真はなれると思ったけどな…守る者いないイカレ。っていうか、守る者がいるから死ねるカミカゼとか、国や宗教の為に死ねる奴らもいるか…」
「国とか宗教が何してくれたってんだろうね?自分の命軽くして、自分が自分を殺しちゃってるじゃん」
「それは…奪われるくらいなら特攻して死ぬってのが神風だよ」
「いや、宗教の方だよ。宗教が結局自分を殺してるじゃん、コマとして使われて…まぁ、特攻の方は意味わかるけど…ってその特攻って…」
個人に復讐した悠真。
人間自体を憎んで復讐しようとする達仁。
(俺は数人に復讐した。でも達仁は…)
社会に、もっと多くの人間にトラウマを植え付けたい。死生観というものを本当に見せたい。死から逃げてる一般人に、考えることや思想を植え付けたい。
逆恨み。他人に見せつける。人の日常•幸せを壊しにかかる歪んだ情熱。
コンクールの賞すらも、持ってない何も持ってない達仁。
弟子とか子供に託すもの…そういう事しないで、自分でやって、自分自身で止める。自分しかやってくれる人はいない。

今の時代は全員一緒。少し貧乏なくらいで、ネット時代で統一さやた世の中。
晒しの意味と、ネットのせいで出尽くしたという二つの意味で。
いきなり土下座してプロレスラーにして下さいと、上京するような、独特の価値観もなく、現代の闇も無い。
言葉でも平和でもなく、インターネットというもので統一された時代。
そこを超えて逆戻りする達仁。
「五体満足のくせに贅沢だって言われんだろな…そこまで精神がヤられて病んでる状態。そもそも病気になったら、安楽死したい側の人間もいるのに。それの精神版…んなもん普通の奴らには分かんないんだろうけどな…」
「その「普通の奴らには分からん」ってセリフ。有名人が言ったら上の者の自慢かっ!てなるけど、達仁が言ってるのは下の者が言ってるセリフだからな」
「ま、物語でも、読解力云々ではなく、心の闇が普通の人にあるわけないんだから、憂い•物悲しさのテキストを理解出来ない。そこは素通りで話全体の流れのレビューしかない。まぁそもそも、文章で表現出来るものでもないけど」
「なんかで読んだけど、トラウマ持ちじゃない普通の人でも」

一度病気になって弱者になって、人に甘えた後分かる。またずっと擦り減らす日々。一人身ならある程度の蓄えでゆっくりしてもいいが、圧力かけられ結婚子供でまたお金。休まる時が無い。現代人は甘えられない。だからリフレ•メイド•キャバなとで体じゃなくて心を癒す。
家族しか優しくしてくれない。家族すら作れない時代なのに。
「ってさ」
「心の闇じゃなくて、社会が厳しいって話だな…」

ある日。
駅構内で落ちたヤンキーぽい男を救った達仁。
感謝後去って行く男。
達仁は悠真に振り返り。
「一人でも救えたんなら意味がある気がする」
それを聞いて冷たい目を見せる悠真。
「あんなヤンキーガキっぽい奴、すぐ感謝なんで忘れてのうのうと生きるのに?」
「そんなこと言われても結局自己満足だろ?…役に立てて良かったよ…一度でも…自己否定し続けて来た人生だから」
腑に落ちない悠真だが。
「誰のことも救わず、変えず死ぬ、意味無き人生って言われるからか?じゃあまぁ、良かったんじゃない?」



ある日…。
「あ〜やべ〜俺まで興奮しちまってる」
ソワソワする悠真。
「早く早くっ」
タトゥースタジオ前。
達仁のタトゥー完成日。
「俺の中の神様…」
恍惚の表情を浮かべるユーマ。
ガチャ…バタン…。
そこへ普段通り、落ち着いた達仁が…。
大袈裟なリアクションを取る悠真。
「ああ…土下座できるレベル」
そこにいた達仁の顔面には、赤色で入れられた、血の涙をイメージしたタトゥー。
左目下に涙溜まり…そして頬へ落ちてゆく一筋の涙…。
決して派手ではなく、暗がりでは判別出来ない程だが、他人に対する憎悪が感じられるモノ。
オシャレ目的で入れたトライバルタトゥーなどでもなく、和彫りでもなく。

「達仁っ!あれだなっ!涙って透明じゃんっ?でもこれは見える…女がメイクしてる状態で泣いた時みたいに、血の涙がハッキリ見えるよ」
顔を近づけて楽しそうに観察する悠真。
「一筋の涙だけだったら軽い傷と思われるし、ちゃんと涙が溢れかえって目の下に溜まってて、先は水滴状に膨らんで…イケてるよ」
はしゃぐユーマ、だが達仁は冷静に。
「自分じゃ鏡見ない限り変わらないからな…それに入れたばっかで慣れてないし、余計平常通りだよ」
広範囲に入れられたわけでもなく、彫る時間も金額も少なく済み、試合間隔が空くことなく…。
「普段から格闘技でスリ傷とかしてるから全然痛みを感じない…」
「そうだよな…肘で(試合中相手の肘攻撃)切られたら何針も縫わなきゃいけないけど、それに比べたら確かにかすり傷程度かも」
日常通り会話をする狂人二人。
「珍しい顔面タトゥー…たとえ外国人でも」
「これならギャラも上げてもらえるんじゃない?」
「まさしく見世物ファイトだけどな」
「でもやっぱこの状態だとスミの周り盛り上がってて痛々しいしさ、まだ試合しない方がいいんじゃない?」
「そうだな、今日も休むか」
再度覗き込むユーマ。
「これ目元に入ってるからマスクじゃ隠せないね…」
「ビジュアルバンドのパンダメイクみたいな、目の周りの青タンみたいな…」
「犯罪したら絶対逃げ切れないな」
談笑する二人。だが内容はマトモじゃない。
「いや〜俺はデザイン知ってたからそこまで興奮しなかったけどさ…初めていきなり目の前に現れたら…」
「これでも否定されるぞ俺は…「ちょっとした線が入ってるだけ、もっと大っきい顔面タトゥー入れろよ」って」
「あ〜…自分は入れることも出来ないくせにな…」
「他人には100を求めるから。全部埋まってない、しょぼいってな」
「いやっ、実際もう喧嘩売られないだろ…とうとうマトモじゃないのが可視化できるようになったんだから」
「いや…右側面は同じままだし…」
「右の横顔だけ見たら一般人、左側面は…」
「これどうだ?内面が外に、見た目に反映されてるか?」
「ああ…泣いてるんだね…成人男性が…いい年して恥ずかし〜とか周りに言われそう」
「それを言われた俺の反応も含めて」
狂人達のバカ話は続く…。


カタギに戻る、元ヤクザなんて腐る程いる。何が覚悟なのか?隠せる背中にだけ入れて、何が渡世との決別。
すぐ戻れる。それどころかビジネスヤクザという普通の仕事をする始末。それが出来るなら一般企業に行けばいい。
結局狂わない。派閥間のしがらみ、暴対法。芸能界•イベントの取り仕切りで潤う、ただの上流。
暴力なんてどこにもない暴力団。既得権益を守って吸い上げてるだけ。
「その暴力を使って暗殺とかイかれたことして、革命とか起こしてくれたら面白いのに」
独り言を吐く悠真。
どうせこんな世界なのだから無茶苦茶になってもいいと思っている。


自分が他人に何言われてもいいから「自分のやりたい事する!」で入れたはずのタトゥー。
それを「タトゥーぐらいでとやかく言うな!プール使わせろ!将来変な目で見るな!」とゴネる者。
好きなことは押し通してするけど「その自分を甘やかしてね?」と覚悟なく入れるしょぼい連中が、認めない周りの器の小ささが悪と喚く。
見た目だけの問題にしても、格闘家•音楽家は何も言われない。
ちゃんと一般人の仕事から飛び出した職業をしているから、一般人と違って似合っているから。一般人がタトゥー入れたところで、結局普通の仕事をしているとうダサい落差。
だから有名人になれば許されるのに、ならない。文句言って周りを叩くタトゥー一般人。

とは言っても結局叩かれる格闘家。
とはいえ、叩く側は「年取った後悲惨」としか言えない。
タトゥー入れてド派手に試合した格闘家に将来のことしか言えない一般人。
その時輝きまくった思い出、いつまでも愛される有名人。
年取った後もどうでもいい存在のままの一般人。でも、年取ったら自分が上になれるらしい。自分のたるんだ身体は悲惨じゃないらしい。

翌日…控え室。
笹田が入ってくる。
「よぉ…お二人さん達」
「…」
「…」
押し黙っている二人。
「…?どーした?」
「いやぁ、やっぱり気付かれないか、ってさ…まぁTVに出たらカメラマンが勝手にズームで撮ってくれるんだろうからいいけどさ…なっ?達仁」
「あ?TV?」
訝しげな目で二人を見る笹田。
「んっ?お前いつ切り裂かれたんだよ、ほらっ左の頬から目の下」
笹田の反応を確認するユーマ。
「ふむ…こりゃ〜赤髪とかの方がよっぽど目立つんだなぁ」
「ん?何よこれ、タトゥーシールか?こんなんするタイプじゃねーだろお前」
達仁のタトゥーをなぞってみせるユーマ。
「これって一生消えない…一生消えないって言ったら心の傷みたいだな…うん…心の傷、おかしさを可視化したものだよってかこれタトゥー」
目を丸くする笹田。
「…」
「…あ〜よ〜やく分かったよ…本当にカメラの前で自殺するんだな…お前は…」
「えっ今迄信じてなかったの?」
「そりゃそーだろ、そもそもデビュー予定も無いんだし…イかれてるのは分かったてたけど、本当にシャバとオサラバすんだな」
まじまじと見つめてくる笹田。
「…不良じゃなくて、目的があるお前が入れたんだから…本当に気の迷いじゃないんだろうな」
「これが覚悟ってやつだよ。途中で日和ったりしない、本当に恋愛も結婚もせず、世界を拒絶する為に…なぁ…でもさ…顔面タトゥーまでしなきゃ、声を聞いてもらえないってのも哀しいもんだよ…」
「顔面タトゥーキャラでTVに出れるかもって?」
「…ただ自殺するだけじゃ駄目で、タトゥーまで入れてインパクトを作らないとすぐ忘れさられる…」
「あーあのさ、それなら関連付けすればよかったね…トイレのマークのタトゥーにしてさ…トイレ行く度、マーク見る度、ああ…社会派気取りの自殺した奴いたな…って思い出させるの…」
流石に困惑する笹田。
「…お前ら…正気か?…ってこれ聞くまでもないけどっ!流石にそこまでの色物キャラはやめとけよ」
「笹田もワンポイント入れたら?ほくろサイズの」
のん気なセリフに脱力する笹田。
「お前らのことは一生忘れないだろうよ…」
「それがTVの前の皆さんにも思ってもらえたらな…」
「超有名人になってから入れるんじゃなくて、無名の時に入れる…凄い退路の断ち方だよなっ…つっても死ぬからこの尺度では測れないか」
振り向き。
「悠真、お前は入れねーのかよ?」
「あぁ…俺は無気力な冷めた若者だから、そこまでして入れない」
「あーそ…」
また脱力。
「そーいう、いなすような気分屋なとこあるよなお前」
ダラダラだべる一同。
そこへ、突然のノック。
コンコン…。
「あーハルカさん?」
ガチャッ。
「なんで分かったんだよ」
「誰もノックしないじゃん、ここ」
「おーん…」
「…」
「…」
「…」
「どうしたの?」
男共の珍しい沈黙シーンに戸惑うハルカ。
「やっぱ気づきにくいよなっ」
「ん?」
悠真を観察するも何も見つからない。
「俺じゃなくって達仁がさぁ、タトゥー入れたんだよ。体内に」
視線を移動させるとそこには、血の涙を流した達仁の姿が。
「えっ止血せず、お喋りしてたの?」
「ガッハハ、そういう反応もあんのかよっ」
「…涙?」
「…」
真意を推し量ろうとし、思案を始めるハルカ。
「いやー女性はこういう反応なんじゃない?」
反応の薄く見えるハルカを気遣う笹田。
「だってあれだろ?海外にはチェーンを埋め込んでドレッドヘアーぽくするような奴も、鼻ピアスの奴もいるし、これ軽い方じゃない?」
聞いてもいないハルカが口を開く。
「なんでここまでしたの?」
達仁は視線を合わさず。
「別に…ただ有名人になりたいだけだよ」
ジッと見つめてくるハルカ。
「自分の未来を奪ってまで?」
「ん?」
不思議そうな笹田へ耳打ちするユーマ。
「ハルカさんって女性だし、記者だし、自殺のことは黙ってんの…ってかお前だけ知ってる…けどこんなヨタ話誰も信じないからたまたま気分でお前に教えただけだけど、一応黙ってて」
「おー」
空返事。
「なんだよ?」
「俺、嘘下手だし、口数少なくしとくけどさ、どーせ信じないならいーんじゃないの?」
のん気な返事を吐く笹田。
この男もだんだん感覚がマヒしてきていた。
「いやっ、それがさっ、ハルカさんとは色んな話もしたし、多分信じるんだよね…」
少し離れた所で小さな声で話す二人。
「んじゃーなによ?若者二人が地下で闘ってるけどTVで有名になる為だけに…って?」
「いや、一応世間に伝えたいことがあるって…かんじ」
軽く言葉を交わし合ってる遥と達仁。
話を変える為に無理矢理二人の間に入ってゆくユーマ。
「ハルカさん…俺ってさぁ…ぶっ飛んだ人が好きなのよっ」
笑顔を見せるユーマ。
それをハルカは冷静に…。
「こんな逸脱してまで?」
(うっわ、真顔じゃん…でもそれぐらい想ってくれてるのかなぁ、俺たちのこと…出来の悪い弟ぐらいには)
女性に弱い悠真。
どう言っていいのか分からず。達仁に振り向く。
達仁の顔を見ると余計なことがふっ飛ぶユーマ。目をキラキラさせ。
「お前についてて本当に良かったっ」
子供のようにはしゃぐ。
「大好き大好きっ」
跳びはねる。
それを見て、はぁっ…と溜め息を吐くハルカ。
「悠真くん…君、達仁くんのこと芸能人でも見るような目で見てるよ」
「だって顔面タトゥーはやっぱ凄いじゃんっ」
またはしゃぐユーマ。
(ふぅっ…でも悠真くんは無責任に表面上だけ褒めてるんじゃないいから…信奉する人と一緒に居れて…)
「付き人…」
ボソッとハルカが呟く。
「えっ?それって俺のこと?でも…無名人だよこの人」
ポンっと達仁の肩を叩くユーマ。
離れた所で見つめる笹田。
(死に向かう無名人か…殺されたり、犯罪者になったら誰でも有名人に一瞬はなれるが…自分を殺す…か、成功すんのかね?)
ヤクザよりもまだ覚悟のある、本当の意味で社会との決別。戻ることの出来ない。

「おうっ」
「ども…」
須賀と通路ですれ違う達仁。
「ん?それなんだ?」
自分の顔左側面を指差す須賀。
「タトゥーですよ」
驚きを隠しえない須賀。
「なんで…入れた?」
「顔に広告タトゥーでも居れて人間広告として生きるぐらいしか価値がないと言われたんです…」
本当に理解できず…。
「そう…か…じゃな…」
深入りせず去る須賀。
横に居た悠真が。
「くっく…血の涙の広告ってなんだよ?どんな企業だよ?俺が入れるんだったら0円の値札タトゥーかな」
周りの者も手に負えない…じゃな く、気味の悪いものを見る目で見てくる…。
軽口じゃなく、本当にするイカレが居る…と…。
連勝中でこのままプロにもなれそうな達仁に媚び売って、「俺らこんなとこいんだから仲間だろ?」と擦り寄って来ていた連中も顔面タトゥーを見て、「やっぱり俺ら貧乏でも普通の仕事して生きていくわ…」と離れてゆく。
そのことを気にも留めない達仁。
唯一の取り巻きのユーマ。
ただ喋っているだけの、友達ではないんだろうという認識をされている笹田。
仲間のいない、賛同してくれる者のいない…異常者。

その後も普通に試合をこなしていく達仁。

別にクスリの取り引きなど危ない事はしていないアノア周辺。
ちょっとツテがあれば観戦しに行ける。
怖い先輩にアノアに連れて行ってもらえた不良。
達仁の元同級生。
だらだら不良同士でつるみ今日も人の噂話でヒマを潰す。
「綾瀬かぁ?見に行ったけどよぉ…顔面タトゥー入れてんだ」
「マジッ?!」
「顔にしか入れてねーんだよ…ファッションじゃないって」
「はぁ?」
「あいつイかれてんだ。俺らとはそもそも違う。冷めた目で見られた。俺らのことバカにしてんだ…悪ぶってるだけで将来普通の仕事して結婚するパンピーだって」
「いやそりゃやばいっしょ、社会復帰出来ないじゃん、隠すこともできねーじゃん…俺は怖いから見に行かないわ、絡まれたらヤバイじゃん…っていうかヤクザよりヤバイじゃんっ、お前もう見に行かない方がいいんじゃね?」
「あーそだなぁ…最初は俺のこと覚えてなかったけど、ダントツでヤバかった。格闘技はやっぱTVのでいいわ」
「顔しか入れてないって、裸で
闘ってるから分かったんだろ?マッチョだった?」
「いやっそこまでは」
「お前が見に行けたのって知り合いにヤクザいたからだろ?その人はインテリヤクザ?」
「そうそう、インテリヤクザの時代に、逆行するアヤセって不気味だったよ」
「生き急いで地下なんかでやって何が楽しいんだろうな?」
「俺も思ったよ、こいつ何の為に生きてんだ?って…だから余計俺はもっと女遊びしたいと思った」
「ギャハハッ、反面教師ってやつ?もっと合コン回数増やそーぜっ」


某日。
「須賀さんが佐原獲得したってさ」
地下中を噂が駆け巡る。
向かい合う達仁と悠真。
「タツヒト…とうとう来たな…都落ち。てか、もし運悪く来なかったらどうしてたんだよ?」
「究極、来なくてもい〜んだけどな、俺がずっと裏取りしてることがあるから…」
「ん?」
(俺の力借りなくてもいける程度のことだから別に言わなかったのかな…)
達仁の顔色を伺う悠真。
「それ…俺も知ってていいやつ?」
「ここじゃ駄目だ、家で教える」「うん」
プロに勝った程度では売りが弱いことは分かってる達仁はある事をずっと探っている。
「とはいってもやっぱ元プロかプロに勝てるレベルじゃないとTV前で負けたら終わりだし…プロがどれほどのものか分かるから、まぁ、待ってたんだけどな」
「佐原…か…」
神妙な顔つきの悠真。
悠真が不安を抱え、手放しに喜べない佐原。
メジャー団体、TVに出るレベルの現役プロ。
都落ちした、地下落ちした理由は反則が多いゆえ。
といっても悪質な反則ではなく。ルールによって肘アリ•ナシ。グラウンド状態のヒザ有り•無し。頭突きの有無など複雑な総合格闘技のルール。
選手は咄嗟に出してしまうもの。
団体によって異なり、本能で出てしまった程度ではイエローカードの処置ぐらいで続行されるもの。
佐原は色んな団体で試合する風来坊。
色んな団体で試合する度に禁止技をつい出してしまう佐原。
逆に言えばそこまでの動物的本能で闘える数少ない獰猛な日本人選手なのだが…。
重なりきった上に、TV放映時の試合でサッカーボールキックを出してしまい、相手を流血させ、ヒドイ絵面が撮れてしまった。
もう主催者もかばえず、無期限出場停止処分を受ける。
TVで見る度に、決して悪質な目潰し•凶器などではないが、なにか禁止された技を使って注意されてる選手というイメージを強くもたれる佐原。
一年半程試合をしていないが、停止を受けているだけの、実力が落ちてクビになって地下に都落ちした今までの元プロとはわけが違う“現役プロ“。
流石に血が騒ぎ、試合がしたくなったのか地下(アノア)に応じやって来る。
達仁と同じウェルター級。達仁は連勝中のアノアきっての実力者なので試合が組まれる可能性が高い。
「階級一緒なのは運が良かったな。一階級上ぐらいだったら、プロのレベルを知る為にやってたけど…」
「このレベルの選手に勝てんの?勝てるんだったらもっと早くTV出れる実力だったってことじゃないの?」
「まぁ、TVだからって必ずしも高レベルってわけじゃないし…同レベルの選手同士で試合組まれるけど、ここまで来たら強くなりたい、強い自分を見せてから死ぬ…その方がカッコつくし、目に止めてもらえるから…ってのもあってずっと居たんだよ」
「そだね…強い、選ばれし者じゃないと、意見聞いてくれないからね…誰も…」
所詮日本人はフィジカルが弱く、荒々しくもない人種。
テクニックはあるが、アマチュア•新人プロ•中堅プロは海外と比べてそこまで強くなく、平均身長の問題もあり、軽量級が一番多い。
豊かでハングリーさもなく…だから、最初期はTVに出てある程度の選手に勝った後死ぬつもりだった達仁。
かといって決して舐めている訳でもなく、真剣に努力していたが。
(中量級である為、選手層の薄い部分の穴埋めの為、出易いとは思っていた)
本当に強い者が突然人生を捨てるという内容の為、ずっと試合し続け強くなっていった達仁。
格闘の興奮•麻薬に魅せられている部分もある。
「で?どうなの?」
「一年半のブランクとルールの違い、気合いでなんとかする…」
確実に勝てるとは吹かないリアリスト。

翌日。
控え室へ須賀が直々にやって来た。
達仁の肩をポンと叩き。
「7日後、佐原とやってくれよ」
ただそれだけを言い残し去る須賀。
プロの格闘家と真剣勝負。
達仁よりも悠真の方が緊張していた。


佐原戦決定の翌朝。
「今日は図書館へ行くぞ」
「はぁっ!?プロとの試合前に?」
「行ったことないのか?」
「そりゃそーだろ、マジメ君じゃあるまいし」
「面白いから、行くぞ」
朝から図書館へ向かう平和的な二人。
国立図書館に着く。
「うんっ、デッケーね」
「司書さんを怖がらせちまうからマスクしよ」
「隠すんじゃなくて気配りね?アハハ」
「善良な市民への配慮」
中に入って行く。
スポーツコーナーへ案内する達仁。
「ほらっ」
「栄養学も技術論もあんじゃん…つーかこの場所来る前にチラッと見たけどさ…お堅い本しかないと
思ってたっ!ヤベー、ここで時間潰せんじゃん…タダで…だって娯楽物があるから、つーか普通に漫画もあんのな」
「悠真と出会ってからは来てなかっただけで、ここで散々格闘技の情報入手してたから」
「今日は何探しに来たの?」
「それがな…雑誌の一部とかは奥に置いてあんだ…司書さんにパソコンから予約した紙持って行って十五分程待って受付窓口で手渡し。持ち帰り借りることは出来ない」
「面倒臭そーだなそれ…」
その後お目当ての雑誌を受け取り、奥まった場所で静かに読む。
佐原戦の傾向と対策を練る為に雑誌のバックナンバーを用意した達仁。
昔のインタビューから何かを得る。
理由は、地下というお客さんに対してアピールしなくていい試合で硬く行くのか派手に行くのか、昔ケンカ屋で頭突きなんかも使えるのか、ということを探る為。
後は最近忙しくて来れなかったから単純に読みに来た。
格闘技雑誌にはプロレスなどと違って技術論が載ってある。立ち技•寝技のコツをプロが細かく解説するコーナー。それを吸収する。
トレーニング雑誌で最新の筋トレ方法、減量方法、サプリ紹介なども確認する。
ジムに所属していない独学派の達仁。
「なんかここに来たら、今までお金をムダにしてたって気になるんだけど」
「ここのおかげで少しでも節約出来てお前も養えるんだぞ」
「感謝するよっ、国にっ」

夕方になり帰る二人。
夜、ハルカの編集部へ電話してみる悠真。
実際に働いてるのかを確認する。
「いるってさ」
小声で「俺はハルカさんが嘘ついてるとは思ってなかったけど」と達仁へ囁く。
「あ〜代わってもらえますか?匿名希望なんですけど」
取り次がれる。
「あ〜ども、ハルカさん…いや、特に用はないけど…次アノアでプロとの対戦が決まったから…それだけっ、じゃあね」
答えるより早く切る。
達仁と向き合う。すると。
「脅す時に記者の知り合いいるぞって言える…一々ライターの名前なんか知らんし、もし会社に在籍してるか確認取られてもOK」
「でも危険なんじゃ?女の人だし」
真っ当に女性の心配をする悠真。
「ならハッタリだけでいーよ。それか他のライターの名前教えてもらってもいいし」
一番平和な一日が終わる。


試合当日。
「流石にカタクいくぞ」
「判定狙いとまではいかないけど?」
「ああ…ユーマ、説明しとく」

秒殺が一番怖い。他のスポーツにはない逆転•一発死。
見る側だとただ面白くていいけど、出し切る前に運悪くヤラれる歯がゆさ。
周りにも思いっきりバカにされる負け。
「やる側だときっついんだよな…どれだけ相手を見ようが、調子が良かろうが、意識がトブ時はトブ」
逆に、全局面追い込まれ手も足も出ず、技術力•才能に差があるのを見せつけられた上での、判定負けは有無を言わさぬ、言い訳の出来ない完敗。
「次やれば勝てる」とか言えないもの。
「判定で完敗は他スポーツでいう50対0点とかかな」
負け側が、点差が開き過ぎていて、試合時間内にどうやっても逆転出来ないスポーツ。と違って本当に残り一秒でも、相手を失神させれば逆転出来る格闘技。
バスケットのスリーポイントどころじゃない大逆転劇が。

守りは格闘技にもある。サッカーで一点先取した方が完全ディフェンスで時間切れ狙うように、ダウン取った後、一切打ち合わず距離とって流し続けるとか、グラウンドで上とって抑え込み続けるなど。
折角格闘技を選んだんだから「仕留めに行けよ」って気持ちと、強敵だから仕方ない、ダメージ受けたくない、これからも何戦もキャリア続くんだから。だからこそ安全運転で行くって気持ちも分かるけど。

テクニシャンはつまらな扱い。見た目ゴツく、ブンブン振り回す選手が上の扱いのエンタメ格闘技。
アウトボクシングやスタミナ切れ待ちの選手の思惑を超えてKO出来ないんだから、見た目のマッスル具合を使えないザコ…というイメージにならなきゃいけないのに。
相手のテクニックに競られてるってこと、だからパワーファイターが仕留められないのが悪い。
打ち合う必要なんてないんだから。
スポーツであり勝った方が偉い。
「逃げるな」と野次が飛ぶ会場。小さい方が耐えて勝つ。自分より小さな者をスタミナ切れまでにKO出来ない。それは情けないこと。
「特に俺は素人なんだから、俺の作戦を超えてKOしなきゃいけない
責任はプロの佐原にある。ついでに言っとくと」

不良もボクサーも「立って闘え」「打ち合え」と言う。
殴り合いというスマートじゃないものを漢だと持ち上げる。
勝てないのに。
戦術に負ける。スマートなテクニックに勝てないのに、漢じゃないと上から目線でバカにした気になってる奴ら。
「そうだね、格闘技の技(ギ)って磨かれたもの。芸術だからね」
(英語でマーシャルアーツ、artsと書く)
同意見のユーマ。
「まぁ作戦は分かったけど、勝率は?」
「ザコはすっと倒すだけ、でも相手がヤバければヤバイほど、殺されない為に脳が集中を強化させる…後は表のリングでももう禁止されてるとこもある、シューズ…を着用しといた」
「うん…頑張って…」
全部一人で考える達仁にアドバイスはいらない。
客席に向かうユーマ。

プロなんだから絶対仕留めてくれる…秒殺してくれる…からこそ無制限試合じゃなく、ラウンド制に決められた今回の試合。

普段と違い、早めに席取りに来る客達。
まだまだ試合まで時間はあるが浮き足立つ人々。
やがて溢れかえってゆく会場内。
「佐原なんて大したことねーよ」と強がりを言う者。
「楽しみ」と素直に期待する者。
様々な声が響き渡る。
不意に照明が消え、一瞬静寂が訪れる。
大音量の入場曲が流れ、歓声が戻ってくる。
演出は過去最高。須賀が大枚はたいた。とはいっても地下の短い花道。
だがお手軽にTV格闘技のマネできて興奮する観客。
いつものポーカーフェイスでリングに立つ達仁。
次いで佐原の入場。
色めき立つ観客。
佐原に盛り上げてもらう為に、上半身裸にファイトパンツという、いつものTVスタイルで出てもらうよう頼んだ須賀。
アンチも多く野次も飛び交うが、慣れた様子で堂々とリングに立つ佐原。
向かい合う両者。
初めての現役プロのプレッシャーをひしひしと感じるが、それに対しギラついてゆく顔。
戦闘スイッチの入った身体。
佐原は睨みつけてくるが、別に憎くもないステップアップの為の相手。
目を合わさずやり過ごす。
両名のコールもなされ、いよいよ始まる試合、格闘。
いつもより五月蝿い観客の声に交感神経を刺激されながら、人のエネルギーに刺激されながらも一対一という、目の前の相手だけに集中を促す。
ゴングが鳴る。

試合の立ち上がり。地下の雑魚を一瞬で潰す勢いで前に出てくると思われた佐原。
あえて地下の空気を楽しむ為、軽くサークリング。(サイドステップで円を描く事)
目を離さず集中する達仁。
(はぁ…良かったぜ、圧力や懐の深さをゆっくり観れる)
ほんの少し近づいてきた佐原から一歩離れ距離を取る。
スタミナ浪費など気にしていたらヤラれる。
小刻みなフットワーク。
頭•肩などを細かく揺らし、居着かない。
プロの一撃をマトモに喰らわない為、軽量級並のステップワークを見せる達仁。
佐原が相手の力量を測る為、軽いジャブ。軽いローキック。
いつもより大きくバックステップ取る達仁。
真っ向勝負なんて出来ない、泥臭くても、相手のスタミナ切れを狙ってでもと、カタく勝ちに行く。

リングサイドの悠真と笹田。
「流石にプロ相手にあそこまで慎重にいっても誰もブーイング起こせないわな…」
「そうだね」
目の前の試合に集中しきって空返事になる悠真。
興奮している笹田。
「やっぱ現役プロの雰囲気は凄ぇわ。いわゆる生き物として強いってやつだな。こんな近い場所で観れるなんてアノア様々だな」
ちらりと斜めを見やる笹田。
「流石に佐原の試合は特等席で見てんな須賀さん」
所詮格闘家なんて銃で殺せる…なんて思うヤクザは少なく、TVに出る程の格闘家に純粋な興奮を向ける須賀。
「前科がついて裏社会の人間になってくれないかな。用心棒として雇いたいな」などと思うヤクザもいるが須賀は格闘技を愛している為、一試合でもここでやってほしい、と手厚く扱う•ボーナス支払う予定。
佐原が勝つことを悠真以外が予想している。
賭けのオッズも最小。
ここで一発逆転狙う者もおらず、悠真だけが五万円賭けた、全くギャンブルとして成していない本来中止されていた勝敗予想。
賭けなんかより試合自体への期待だけがある。
盛り上げる為に続行の形がとられた賭け。

リング上。
大きいハイキックを見せる佐原。
当たりはしなかったが、会場にどよめきが起こる。
このレベルの選手相手に不用意にローキックを見せるとカウンターパンチでノサれてしまう…ので、試しにローのフェイント。
やはりストレートが降ってきた。
上体を傾けかわし、またバックステップ。
止まった相手に磨き抜かれた打撃が襲ってくるので細かく体を揺らし、散らす…あるいはゴチャゴチャさせる。
無茶苦茶な軌道で連打するか、思いっきり離れるかの二択。
絶対止まってはいけない。
が、プレッシャーが強く入っていけない。
いい加減焦れったくなった佐原が距離を詰めてパンチ二発放つ。
グローブのアンコ部分で受けて少しでも衝撃を弱める達仁。
佐原が口を開く。
「へぇ〜、ちゃんとしてるな〜、もっとバカみたいな奴しかいないと思った。表で普通にやってりゃ中堅にはなれんじゃないか?」
絶対に目の前の相手から目を逸らさず、打撃にビビって目を瞑ることなく、集中しきって動体視力アップした達仁の心構えを褒める佐原。
(ふぅ…キメじゃないパンチは流石に重くないか…)
一息つく達仁。
またステップを小刻みに踏む。
ヤられない為のステップ。
幸いなことにリーチはそれ程変わらないので、思い切って一番隙の少ない、ステップインジャブストレートを出す。
鼻先に当たる。すぐサークリング•円の動きで斜めにズレる。
驚く佐原。
「そこまでやるか…そこまで俺の打撃を警戒されたのも久しぶりだ、たまには新人と闘んのもいいか…」
とにかく動き続け、ジャブストレートを佐原の顔に必ず一発だけ当てすぐ逃げる達仁。

眉間にしわ寄せ観戦する悠真。
「このまま判定まで行くつもりか?」
「まぁ仕方ないんじゃないか?たったの一撃で形勢逆転される、攻めどきを逃さないのがプロだぞ」
そう答える笹田。

一瞬の隙も見せないよう今迄の闘いで最も集中している達仁。だがその分スタミナもロスしていく。
だが佐原も謹慎中だったこと、舐めてあまり練習してなく、スタミナの切れのはやさを感じていた。
「捕まえて一気に畳み掛けるか」
ジャブストレートを喰らっても無理矢理突進してくる佐原。
脇を差されない為スイッチ(スタンスチェンジのこと。オーソドックスからサウスポーなど)し、一気に払いのける達仁。
焦れったく、それでも前に来た佐原へタイミングバッチリの片足タックルが決まる。
テイクダウン成功し、グラウンド状態へ。
「いよーーーっしっ!」
悠真が立ち上がり叫ぶ。
よっぽど寝技が下手じゃない限り、やはり相手の上になっていることは安全である。
下から暴れる佐原。
絶対に立ち上がらせない為にまずきっちり上半身と下半身どちらにも意識を配り、抑え込む達仁。
スタミナロスは気にせず思いっきり力を入れて抑える。
すると一旦諦め力を抜く佐原。
片足を絡めたハーフガードポジションで一旦休憩する達仁。
手堅い試合運びだが緊張感が伝わり観客は盛り上がる。
さして賭けてもいなく(五百円程度)損もしないので野次も飛ばず純粋に試合が楽しまれる。
日本の表のリングではお茶の間への配慮として禁止されている肘攻撃。(皮膚をカットして流血してしまう為)
佐原も喧嘩でなどでは多少使えるが真剣に練習していない肘。
そこのアドバンテージを活かし、ハーフガードで固めながら、細かく肘を入れていく。
強敵を弱らせる為に、少しでも肘先でまぶたのあたりをカットしてほしい達仁。
打撃ヒジでなく斬撃ヒジを優先させ、肘の出っ張り部分…点で相手の皮膚を切り裂きにいく。
バランスを崩さないよう、頭•両手•下半身•重心をしっかり保ちながら肘をコツコツ入れる。
カットされ血が滲んでいく佐原の左眉上。
傷口がもっと開かれるように同じ場所にパンチ•肘を入れていく達仁。
カット箇所から血が垂れてゆく…目に入ってくれよ…と願う達仁。
とにかく相手の、現役プロの戦力を削ぐことのみに集中した作戦。
舐めていないからこそ、力量が分かっているからこそ、尊敬しているからこその作戦。
だが流石にスタミナの切れがマズくなってきた達仁。
一旦攻撃を止め、膠着状態の中休憩する。そこへ…。
「おい、綾瀬…こんな戦法するなら表へ行けよ…俺は頭突きぐらいカマされるのかと思ってここに来たんだぜ?」
返答しない達仁。
「こんなにビビっちゃって…とか言ってもこんな戦法でくるくらいなんだから、ノッてくれないよな?でもなんだ?地下で戦績に残ることなく俺に判定勝ち出来ればいいのか?こんなんでいいのか?」
黙っていた達仁が口を開く…。
「いや…こんなんじゃ駄目だ…すいません、ここまでしないと怖かったので…今からなら試合をスイングさせますよ」
呆気にとられる佐原。
「なんだそりゃ?ここまでダメージ負わせたら今からは派手な試合出来ますよってか?」
言葉の終わり際、斜め前へパスガードし、そのまま立ち、離れる達仁。
向き合いサッカーボールキック!…は佐原がかわす。
かわしながら立ち上がり正対する両者。

「おいおいなんで解いたんだよ…安心して見れねーじゃねぇか」
達仁の行動にため息をつく悠真。
「え?お前だったら「やっぱり最後は真っ向勝負だよな」って賞賛すると思ったわ」
「…それが身内と思ってるモンとの差だよ…」
冷めた顔で言葉を吐く悠真。
「?自殺は許容するのに格闘技でそこまで心配するのか?」と言いつつ試合観戦に集中する為、話を切り上げる笹田。

打ち合うといいながらお互いぎこちなく打撃を放ち合う二人。
だが少しずつノッていき、打撃が重く速くなっていく。
お互い倒れることなく、重い打撃を交換して行く。
思いきって飛び膝蹴りを放つ達仁。
モロに入ったが思いっきりきついオーバーハンドフックでお返しをされる。
派手な攻防に観客のボルテージが最高潮へと駆け上がっていく。
序盤こそ堅く行ったものの、プロとここま打ち合え、何もかもから解放され、二人きりの世界。
レフリーも視界に入らず、肉体言語のみで語り合う動物状態。
一方的でなく、お互いが全力を出 し合う。そこにファイターのみが感じ得る快感がある。
スイングする試合、美しい瞬間。
試合内容、激闘という芸術作品。
それが地下で数百人にのみ見せられるプレミア感に観客も狂喜乱舞する。
先程まで心配が上回って試合自体をちゃんと見れていなかった悠真も目を輝かせ見入る。
微笑する笹田。
「見ろよ…あいつら笑ってやがる…こんなの地下で見れるなんて…そりゃ現役と将来プロになるかもしれない奴の試合だしな」
金儲けの為ではなく、格闘技を愛してるからこそ、こんなに楽しい試合が出来て、強敵と闘えて、笑顔が溢れてしまう両者。
強敵相手で覚醒する達仁。
打ち合いの終わり際、強烈なヒザをアゴへ当てられるが、ケロッとして前に出る。
「こんな掃き溜めにこんなイカした奴がいたなんてな!地下もいいかもな」
ノリにのって派手な後ろ回し上段蹴りなども飛び出す。
反則を気にせずノビノビと闘える佐原。
大振りでバランスを崩し達仁がコケた所へサッカーボールキック!
両手でガードして喰らいながらも立ち上がる達仁。
口から血が出る。
床へその血を吐き捨てる達仁。
「いい顔だな…」
お互いグローブを合わせる。認め合う二人。
「なんか…TVの試合見てるみたい」
格闘技興行のスペシャルリングサイド(関係者席外の一般客用席、最前列)のチケットは十万円。(芸能人•富裕層向け)その光景をタダで見られ感動する悠真。
現代人の本当の格闘。純粋な格闘を、総合格闘技という喧嘩に近いルールを間近で見られる。
リアルタイムで見れ、応援できることの喜び。数万円出してでも見る価値のある中量級以上の闘い。
格闘技の打撃のバンッッ!!という破裂音。筋肉隆々の選手の取っ組み合いの迫力。
プロの試合に惚れ惚れする格闘技ファン。
痛みを乗り越えて闘う者。
自分が殴った、蹴った時ですら痛いのに戦意喪失することなく、どちらかが戦闘不能になるギリギリまでしあう格闘家。
喧嘩というプライドが賭けられるもの…。男同士のプライドを賭けた闘い。
その試合というものが誰かを感動させられるスポーツへと昇華されてゆく…。

流石に息切れし、手数が少なくなっていく二人。
佐原が止まった所へノーモーションの左ストレート。
見えていない佐原、直撃し、少し後退する。
追い詰める為に達仁が一歩前に出た所を佐原が上段前蹴り。
直撃。
一瞬ガクッとヒザが落ちるがすぐ構える達仁。
振りかぶられたストレートが来る。
久々の思いっきりバックステップで難を逃れる。
興奮が下回り、疲労•スタミナ切れ•ダメージの隠しきれない二人。
肩で息をし、汗が大量に流れ、ややボーッとしてきた頭。
「やべぇ…このままじゃ経験豊富な佐原に押し切られちまう」
距離をとる達仁。
「なんだ?もう打ち合いは終わりか?疲れたもんなっ!しぶといアマチュアだったわ」
顔色は変えない佐原。
「……このタイミングなら」
達仁はキメにかかる。
お互いがジリジリ距離を詰め、射程範囲に入った途端、タックルのフェイントでかがむ。
タックルを切る為に自分もかがんだ佐原に斜め上から打ち下ろしの肘!
モロにこめかみに入る!
一旦お互いが離れたこと、序盤でタックルを見せていたこと、スタミナ切れでまたタックルに来るであろうと予想していて、いち早くタックルを切る動作に入っていた佐原の死角•見えていない•予期していない打撃で腰が砕け、膝をつく佐原。
距離が詰まっていてサッカーボールキックできない達仁。
片手でしがみつき、片手を地面につけている佐原の右手の甲をシューズ着用カカトで踏み抜く。
破壊!
痛みで手を押さえながら後方へ立ち上がる佐原にパンチのフェイント。
そのまま両手で顔面を守る佐原のガラ空きの右ボディーにシューズ着用での三日月蹴り!
モロに入る。
シューズ着用で威力も増し、突き指の心配もなく、思いっきり振り抜かれたレバーへの蹴り。
顔を歪め、くの字に曲がる佐原の体。うずくまっていく…。
お腹を押さえガラ空きの首へ腕をすかさず巻きつけフロントチョーク!別名ギロチンチョーク。(断頭台)
喉•頸動脈に絡みつく前腕。
そのままギロチンが降ろされるように両足を相手の腰へ巻きつけ床へ落ちていく。
完璧に入った状態。その前のダメージもあり、暴れることすらできない佐原。そのまま落ちてゆく…。
タップすることなく失神し、力が抜け、手がぶらりと床に流れる。
一瞬歓声が止まる。
プロに本当に勝った地下の素人。
しかも失神する様を近距離で…。
息つかせぬ連撃からの絞め技でついてこれてない者も…。
一度全観客が固唾を飲んでからの大歓声が地下空間に響き渡る。
失神して完全脱力したことにより、重みを増した佐原の体をなんとかどかすレフリー。
達仁は疲弊しきって、のしかかられたままだが、仰向けで動かず…かといって寝たまま勝利の余韻に浸るでもなくただダメージが上回って頭がボーッとしてレフリーに任せきる。
スタッフも入ってきて佐原を引き剥がし仰向けにする。
蘇生させる為、足を持ち上げ頭に血が戻るよう揺らす。頬を叩く別のスタッフ。
柔道経験者で活法も出来るものが待機しているアノア。
脳へ酸素を送り意識を復活させる。
一方で達仁が立ち上がる。血が出てズタボロの顔。
勝ち名乗りは上げず、気が抜けてフラフラ歩く。
悠真が飛びつき抱きつく。
涙を流している悠真。
本気で闘いきった者に対し感動し、身内が生き残ったことに感動し、ボロボロ流れる涙。
疲れ切って何も声をかけない達仁。
ゆっくりリングを降りてゆく…。

口をポカンと開けたままの須賀。
まさか佐原が負けるなど夢にも思わず、最後一撃で失神させるものと思っていた…。
二戦目もここで闘ってもらいたかったのに、今回の負けで完全引退するんじゃないかと想像し、ボーッと座っている。
当の佐原は負けたものの、楽しく闘えたのでこれからもここで闘うつもりで、蘇生直後の体で、あたりを見回し、雰囲気を感じ取る。そしてゆっくりリングを降りてゆく…。

あれ程の試合の興奮が残る者と、祭りの後の寂しさを感じる者。 徐々に減っていく帰っていく客。
控え室にたどり着き寝っ転がる達仁。
見下ろす悠真。
「あの〜…喜び合ってはしゃぐと思ってたんんだけど…」
「…」
何も言わない達仁。
「心配だから一言ぐらい喋ってよ」
目だけ悠真を捉える達仁。
「一生分の集中と…今迄で一番のダメージ…」
「そっかそっか、お疲れ様…いやっ、TVの格闘家は舞台裏で勝利の美酒に酔ってたからさ…あれだな、トーナメント闘い抜いたぐらいのしんどさなんだな…」
と言って達仁のそばに三角座りする悠真。
お互い何も喋らず控え室外の喧騒に心地よさを感じる。
プレッシャー•ストレスから解放された程良い心地よさ•気怠さ。
数分経ち、まどろみだす達仁。
「ん?あれ?試合後って寝ちゃいけないんだったっけ?えっと、酒は絶対駄目だったよな?」
心配そうに達仁の顔を覗き込む悠真。
「一応病院行く?…ってか今まで怪我してないから使ったことないけど、明らかに喧嘩の外傷だなら表はマズイよな。えっとここの人に頼んで闇医者に連れてってもらうんだったか…」
上半身だけ起こす達仁。
「いや、いい…大袈裟な脳検査できるでもない闇医者ごとき行ったって何の薬ももらえない…それにどうせ死ぬんだ…半年以内にポックリ逝くことはないだろ…」
「あんだけ打ち合える頑強さだから行かなくていいね…って部分とあそこまでやったんだから気になる部分があるんだけど…」
やはり心配そうな悠真。
「とりあえず氷持って来てくれ」
「あっ忘れてたっゴメンッ」
走って出て行く悠真。
もう一度寝っ転がる。
あれ程の脳内麻薬が出た後の今の精神状態、不思議な感じがする…。
ガチャッ。次は笹田が入ってくる。
周りは休ませてくれない。本人以上の興奮で喋りかけてくる。
寝たまま適当に話を合わせる達仁。
悠真が戻って来てアイシングを始める。
「佐原に勝ったからって媚び売ってくるお前らの嫌いな人間…出てくるぞ」
「達仁の雰囲気と強さが寄せ付けないかも」
人当たりよくない雰囲気の達仁。
寝ている達仁の横で興奮からシャドーボクシングを始める笹田。
「シュッ…シュッ…お前はしねーのかよ、悠真?」
「俺は気苦労で疲れてんの」
三角座りで見上げる悠真。
また扉が開く音。
ハルカが入ってくる…。
「えっハルカさん来てたの?」
「うん…いつもより人が多くて壁際からやっと見てたの」
まだ興奮している笹田がハルカに近づき。
「ライターさん、格闘技別に好きじゃないって言ってたよな?でも…どうよ?今日の試合は人を興奮させる程のものだったんだぜ〜?」
「うんっ!技術的なことは分からないけど、二人の選手と観客が生み出すエネルギーが凄かった!人と人がぶつかり合う迫力。目まぐるしい展開…後、音がいつもと違ってたねっ」
「そうそう、プロの打撃は本っ当
にボゴォッていう破裂音がするんだよ」
疲れている達仁と悠真をヨソ目に感想を語らう二人。
達仁に耳打ちする悠真。
「今更ながらなんでハルカさんって自由にここ居んの?」
「それはな…多分、須賀に何か思惑があるんだよ…対REAL-1用とか、宣伝用に「佐原が負ける地下格闘場!」って書いてもらったりすんじゃないか?細かいことはまた今度な」
目を閉じる達仁。
「影響力のない雑誌だけどREAL-1お抱えじゃなくて、でも何も記事にしてなくて?」
自分の知識じゃ分からないから考えることをやめたユーマ。
「二流以下ゴシップ誌ってのは、コネの世界なんだよ」
「あーん…だからね…」
「だから、須賀の昔の不良仲間とかな…」
今度こそ目を閉じ休む達仁。
悠真は移動し、三人で会話を始める。

少し眠った達仁。
起き上がる。
時間が経って腫れ上がったり、青アザの出来た顔。
ハルカがギョッと驚く。
「ん?ああ…腫れた顔なんてTVじゃ見れないからな…トーナメントぐらいか…」
通常、選手はさっさっとリングを引き上げるから。
あとは翌日のインタビューの写真を雑誌で見るくらいしか実は一般人は見る機会がない。
鼻が曲がる者もいるが、どうせすぐ次の試合でまた曲がるので複製手術しない選手も。
「痛いの?」
心配そうなハルカ。
「当日に来る痛みもあれば翌日に来る痛みもある」
平然と語る達仁。
「被弾のリアリティをライターさんに語ればいいか?三角絞めされた翌日は首が筋肉痛、とか」
「ん…豆知識としては面白そうだけど、今は寝なきゃっ」
「そうだな、今日は帰ろう」
達仁へ促す悠真。
「やる側のリアリティを聞きたかったらいつでもどーぞ、記者さん」
解散する四人。


翌日。一日寝てすっかり疲れの取れた達仁。顔は最高潮に腫れているが。
ハルカが達仁のアパートを訪ねてくる。
「どーしたの?」
出迎えるユーマ。
「地下格闘技の迫力を編集長に語ったら、面白い記事かけるなら、格闘技のコーナー作ってもいいって…って言っても1pだけどね…。それで達仁くん、雑学的なもの豊富だから、聞きに来たってところ」
「ゆっくりしていって」
お茶を用意するユーマ。
「人の役に立てるなら」と取材ではないレベルのものを安く請け合う達仁。
「見る側じゃない、やる側しか分からない話とかは?」
提案する。

緊張しすぎる(ネガティブ方面へ)と視野狭窄が起きる。疲れ目の時のような状態になる。
かといってリラックスしすぎると体が100で動かない。集中もしてないってことだから。
精神薬やマリファナキメてから試合すると、リラックスしてダメになるように思えるが、やや打たれ強くなる。ストレスから逃げられる精神薬のフワフワ効果で痛みからも少し逃げられるから。
単純に痛みを感じにくくするドーピングもある。
ステロイド•興奮剤などで、打たれ強くも、ハイパワーも上がる。
それらはパフォーマンス•エンハンシング•ドラッグス(略称PED)(選手の能力の発揮を増すことができる薬)呼ばれる物。
90年代に有名になった馬用のドーピング剤などもある。
利用者はユーザー•ジューサーなどと呼ばれる。
見分け方は僧帽筋の異常な肥大、血管バキバキ、内臓肥大、腹部の潰瘍、女性化乳房、乳首の色、ムーンフェイス、瞳孔の開きなど。自身で男性ホルモンを分泌出来なくなる、好戦的になる、内臓、肝臓へダメージ、心臓病のリスク増大、骨が逆に脆くなる、自殺などの衝動が強くなる、など副作用は多々あるが、通常の医薬品と同じように、倒れる者もいれば、一切来ない者もいる。
相性が良く、一切副作用が起こることなく、筋力が短期間で増大する…ある意味、別の意味で神に選ばれし存在。
検査されない限り、バレない限り、“その反則“で善良な他選手を破壊し続ける悪。
正々堂々のスポーツの価値観から離れた者。
普通のサプリのクレアチン。ハイパワー維持し続けられるので総合格闘技に適しているが、体重が増える副作用があり、減量に向かない。
低負荷の運動は脂質、高負荷は糖質を使用する。だが、総合格闘技は全てやる。だから筋量も打撃系はボクシングなどガリガリで少なくて良いが、組み技系は柔道部はデブなようにフィジカル至上主義。
全て出来て、全ての中間を意識して鍛えて栄養も摂る難しい総合格闘技。
試合中は交感神経が優位になり、尿意など催すことなく動け、瞳孔が開き、目は飛んでいるように見え、興奮状態。

「ん〜…科学寄り過ぎるかな…」
分かりやすいもの、喧嘩腰なもの、珍事件しか受け入れられない世の中。
「それなら、ボクシング叩きをしたら?いわゆる対立煽りってやつで、目を引くかもよ。ボクシング嫌いだし、書いてくれよ」

デカけりゃ、ただ相手をノセば、いい格闘技。それをガチガチに縛るルールのボクシング。
つまるところ、自由を制限するのが、皆のスボーツってこと。
勝手に複雑にして雁字搦めにして、自由な発想•人を潰す。それを全員に強いる。
学校で習わせて押し付ける、それがスポーツ。
運動神経•フィジカルじゃなく、ナゾの圧力で閉じ込められたもの…「一般人と似てるだろ?」
選ばれし者だけが出来る、それがスポーツ…のはずなのに。
見る人が多い、一般人に受け入たもの勝ちの世の中。一般人様、一般人でも分かるシンプルなルールにする。
でもシンプルだからこそ不自由。「だからボクシングは本当は一般人から逸脱してて仲間のはずだけど、敵側だよ」
動くこと•動物的な動き•スポーツ。
自由な方法で相手をぶちのめしさせばいいソーゴー。それでいて護身術でもある、人に必要なもの。

よく議論されるものだけど、走ることと格闘が本来人間に動物に必要なもの。
ゴルフとか卓球とか勝手に人間が作ったルール。フィジカルが、いらない、フォームだけ磨けばいいから、筋トレしなくてよくて羨ましい。
一旦タイム取って話し合えるスポーツ。格闘技は反則でも起きない限りずっと続けないと、同じ状況にならない、一瞬も隙を見せず闘う。
一旦別れてものんびり球を放る、ガム噛みながらボール投げる野球。

ボクシングだって最も減量する格闘技。だからガリガリでもOK。そもそも、パンチの中ですら禁止技を作るボクシング。
オープンブロー、脚へのパンチ、首掴みバンチなども禁止。
非人道的反則でもないものを。
首掴みパンチは、効果があるから禁止される。キックボクシングも、関節蹴りがダメージ凄いから禁止される。
効果的なものを禁止する“スポーツというもの“はなんなのか?
制限して、効果的な技を制限した先に芸術があるとうそぶく。
とはいえ、人間は脆い。攻撃力は限界まで上げれるが、人間の身体は弱いので、防御力の底上げには限界がある。
核兵器と一緒で際限ないのは攻撃力。それに対して防御力は軍事の世界、物理の世界でも分かる通り低いラインにある。

「格闘技とスポーツの違いを先に喋らせてくれ」
防御の為に他のスポーツでは鍛えない首を鍛え、腹筋を鍛えた末に殴らせ打たれ強くする。打撃が当たった瞬間に力を入れて腹筋で衝撃抑える訓練。
自分が殴る時にすら痛い。だから拳とスネを硬いもので叩いて神経を潰す。
ダメージという、他のスポーツに無いものと、通常の怪我。
格闘用の体作り。階級上と闘う為の増量、スピード•テクニック落とさずに。
総合なので組み技•立ち技の中間の体作り。
試合は勿論全ての格闘技の動きをやるので一番疲れる。
動体視力の訓練。避ける訓練。
筋トレとスパーとサーキットトレと動作の為の筋トレ。食事。体が
丈夫であること。脳や目に異常がないこと。
家族の理解が特に必要な格闘技。将来どうなってもいい覚悟。お金。ダメージを抜く為の時間。皮膚も厚くないといけない。血液からの、接触からの感染症の問題。道場内でのケジラミの感染も。
技術論叩きこんで反復して。
ボディービルダーも一度太ってから、脂肪を落とす。面倒な身体•スポーツの世界。
疲れという概念がある中で異常にやることが多いスポーツや格闘技の世界。
それを簡単に超えられる反則、ドーピング。

総合格闘技は全ての格闘技の技術を使うから、頭も良く、全て出来る。より才能が必要な世界。
それを「ただの喧嘩」と叩く人達。
裏を返せば、パンチしか出来ないボクサーというか、マラソンしか出来ないボクサー。
陸上でいう、10種競技の総合格闘技。
ボクシングは昔からあるから喧嘩じゃなく、スポーツ扱い。弱くても。
技術力が高いから正しい古典絵画家。
に対してゆるキャラしか描けないイラストレーターのような、パンチしか出来ないボクサー。
なら、技術力が高い画家がゆるキャラの世界で漫画の世界で100獲れんのか?と反論されても、格闘技は、最強や護身術を求めるものだから、その競技の中で100
を取る必要はない。全ての格闘技を90で出来るのが総合格闘家。喧嘩最強を目指す総合格闘技。
パンチしか出来ないナゾのルールの中で満足出来るボクサー。
もっと例えると、陸上で言ったら、ハードル走が当たり前の世界だとする…だってそこらに木や家があるんだから…その世界で自分達が勝手にハードルどけて「100m走で競いましょう」と言うようなもの。
勝手にルール作って、自分達に簡単になるように作って「自分達が偉い!」と言う。
パンチだけでも総合格闘技と比べて強くない理由がそこにある。
相手の邪魔をする、前話したフルコンタクトで、パンチだけ磨いて結局それ以外の格闘技に潰される。
真っ直ぐ走るだけの単純バカと、狂人から逃げ、ハードルの位置も考えながら、自分は上手に避けながら逃げ切れて、抵抗も出来るのが総合格闘技。
格闘技関係無く、襲われた時に人間は、逃げきること、勝つことが重要でどっちも出来る頭と体がある総合格闘技。
人間は走りと格闘が大事。自己防衛の為に。
だからと言って災害があった時、逃げ切れなきゃいけないから、津波から即座に逃げ切れる50m走のトップスピードも、動物から何時間も走って逃げるスタミナのマラソンも一位になれる人物が居るかというといないけど、それに近いものを目指す総合格闘技。
パンチ以外出来ないから、馴れ合う•妥協するボクシング。

「俺、ボクシングだけやたら叩くけど、まず大前提にボクシングオタクだけ弱さを認めない。そしてネットで工作するようなやつら」
女叩きされる側の女やある民族みたいな精神性。

「喧嘩では強いから」と強がるボクシング側。
喧嘩に近い総合格闘技には挑戦せず。
出ていないから、従って負けていないから、ボクシングは下じゃない論理。

一対一なら確実に寝技師に負ける立ち技。
喧嘩動画を見て、寝技は複数に勝てない。立ち技なら勝てると吹く。一対一ですら勝てないのに、なぜか、その相手が複数人になったらなぜか打撃で蹴散らせる設定。普段立ち技だから、フィジカルも鍛えてないのに、複数人に勝てる設定。
「なら一対一なら無敵だね」
悠真が皮肉を吐く。

とにかく、喧嘩で蹴りや寝技に負けるのが情けない、だから「総合格闘技やろうっ!」とならない。
「捕まってもいいよ、俺が喧嘩で潰してやるよ」と他競技格闘家に言われる。この一言が脅威になる。「パンチだけでやろうや」と喧嘩で相手に指定出来る設定の漫画脳。
路上でハイキック一発でノサレル有名ボクサー。
ボクサーに「総合格闘家に喧嘩売られたらまずどういうパンチ振るんですか?」とわざと聞きたい。

ボクシングだけ自分達は弱いと認めない。相撲も空手もプロレスも、ボクシング以外最強は総合格闘技と認めた。
パンチだけは、上の上というわけでもない。技術論は省くけど。
「ボクサーも喧嘩なら蹴り使うから」と強がる。練習してないものが高いレベルで出せるなら才能あるから総合格闘技に来てください。
練習してなくても出来るなら素人でも成り立つ論理。
プロボクサーが「俺は競技として好きなので、喧嘩で負けてもいいですし、負けるの当たり前ですよ」と言ったら、ボクオタはなんと言うのか?

総合格闘技の中でパンチを禁止されてないのに文句を言う。パンチだけ禁止してるとでも思ってるのか?
「挑戦して本当にパンチだけで勝てたら逆にファンになって応援するのに。だから挑戦しないとこが女々しくて嫌いってことです」

ボクシング業界脅かされたくないから、キックや総合に圧力かけて来た歴史。
元々素手から始まったボクシング。なのにスポーツライクヅラする。
アウトボクシング•クリンチするくせに「殴り合うのが漢だ」と、自分が殴れない、キック•投げ技に負けるのを相手のせいにする。それを超えて殴れない自分は叩かない。

喧嘩でパンチは出来ない。グローブに守ってもらえないから。
人間は元々拳が脆い。それをグローブつけて無理矢理やるボクシング。ムエタイや総合格闘技はパンチ以外の攻撃手段がいくらでもあるから素手でも大丈夫。パンチしか出来ないボクサーが喧嘩で何の技を繰り出すのか?

誰でも芸人でも取れるプロライセンス。
「テレビでよく見るよな」
10カウント待ってくれる優しいルール。

トップ中のトップが稼げるというどの業界でも当たり前のことを誇る。ほとんどバイトしてる選手ばかりなのに、金だけは総合格闘技に勝ってるぞと誇る。
40代以上の大御所や芸人やヤクザやテレビトップやオジサンが好きなボクシング。だから応援される。その人達が必死に守る。
本当は弱かったボクシングを恨むでもなく、総合格闘技を好きにならない、新しいもの嫌いのオジサン達がいつまでも応援する古臭いスポーツ。
特に大阪で人気。昔ヤンチャしてた選手をひいきにする精神性。他の格闘技と比べて圧倒的に元ヤンが多い。

毎回12ラウンド見せられて、つまらないボクシング。でも野球などと一緒で、昔からあるから、つまらなくても見る一般人。

減量辛いわと自慢してくる。
素人はボクサーはスタミナ最も有ると思っているが、パンチしかしない上に組まない。総合格闘技は倒され、起き上がり、相手の体に対抗して実質バーベルを持ち上げ続けている状態である。そこに打撃も加わる。
グローブの上をお互いペチペチしてるだけのボクシングがスタミナ有ると思われる悲しさ。

ボクシングの中で変則スタイルで闘う選手を持ち上げる。蹴りあり、投げありの総合格闘技で変則スタイルできるなら本物。パンチしか来ないボクシングの中でしゃがんだりできたところで。

総合格闘技の打撃を下手というボクサー。タックル警戒してフォームが変わった合理的な打撃を弱いくせにバカにする。
下手なパンチ打つしょぼい総合格闘家に勝って下さい。
「ボクサーは選ばれし者、競技人口も最も多いし」と言う。選ばれし者なら総合格闘技さらっと挑戦して勝って下さい。
ムエタイからの転向組にも王者になられるボクシング。

歴史あると誇っているのに、八百長三昧のボクシング業界。
階級•団体多過ぎて王者も何十人居る。毎回TVで何階級達成、連続防衛と聞くボクシング。
昔から最軽量級は日本人王者ずっといるのに有り難がる。
総合格闘技で外国人に勝つのが一番難しい。

殴られ屋もプロ対素人もパンチだけだから避けられる。蹴り、投げを禁止して動画撮り、自己満足する。
「絶対に相手の両腕からしか打撃が来ないから、避けれる。ハルカさんも今度動画で見たら?殴られ屋のやつ」

ムエタイの下位互換のキックボクシングの下位互換のボクシング。一番下の適性。
目潰し•金的の、攻防覚えたら最強になる総合格闘技。
蹴りから覚えなきゃいけないボクシング。今からどれだけ覚えるんだ?

デカイグローブで、凶器で闘わせるボクシング。本来無い物で。

幻想が無くなったから漫画家も総合格闘技が嫌い。だからなぜか物語の中で噛ませ扱いにする。
漫画ではボクシングを究極の闘いと煽る。三回までダウンしていいルールで。
「まぁ、合理主義だから、創作物と合わないんだよね」

総合格闘技はなにやってるか分からないと言う。「全ての格闘技混ぜてんなから凄いんだろーな」とも言わず、寝技をつまらないと叩く。分からない自分は叩かない。「パンチだけなら分かるよ」とアホ自慢を始める。

他の立ち技もバカにするのに、都合のいい時だけは仲間扱い。

チビしかいなくて、尊敬されてないボクサー。「喧嘩なら勝てる」と素人にもバカにされる。
フィジカルをきっちり鍛える総合格闘家。喧嘩も強そうで、バカにされない。だって折られるし。

つまらない寝技に負けるボクサーは叩かない。しかも本当は折られているのに。
相手の骨を折る為の寝技を抱き合うホモと叩く。立ち技のクリンチという次に繋げない、それこそただの立った状態での抱きつき合いは叩かない。

結局“逃げる“。パンチ以外に負けるボクシングの現実から一般人教的に逃げる。

ボクシングが好きだからパンチの技術だけで総合格闘技で勝とうと挑戦してほしい。それが本当にその格闘技を好きな証拠じゃないのか?
「だって、俺はもう証明されてるけど、自分が好きだから、最強を自分でも証明する為にソーゴーやってるんだよ」

なぜか野球はダラダラやってOK。昔からあるから。
相手にヤられない為の一時的な膠着がバカにされ「見ない」と言われる総合格闘技。
ボクシングも12R同じことの繰り返しでも見る。
総合格闘技は派手じゃないと見ない一般人。だから決着がつきやすいようにルール改正され、安全面なんで知ったこっちゃない運営。筋力増えてKOに繋がるからドーピング検査も無し。検査費用異常にかかるし、選手をコマとしか思ってないから。
テレビの前の視聴者の為の見世物。
新興の格闘技には100を求める一般人。ボクシングと野球はだらだらしてよい。
競技そのものを見てもらえないから有名無実の選手でOK。
嫌われてても、逆に視聴率が高ければ、強いバックがいれば、グローブ細工など反則もし放題。
音楽などのゴリ押しと違って切磋琢磨のスポーツなのに、相手を傷つける格闘技なのに平気で反則できる精神。しがらみばかりの興行。その理由はテレビ型格闘技だから、視聴率の為なら狂えるのが…。

「金が絡むと、大きくなると、面倒になる音楽業界や芸能界と一緒。それでも激闘というものに惚れ込んで格闘技が好き」


話は終わって、総括してみて。
「業界の問題点…暴露系は目を引くけどね…」
「何か掴めたらネタあげるよ、ライターさん」
解散。



翌日。アノア内控え室。
笹田が話しかけてくる。
「プロを倒すんだからプロ…」
「んで?」
「このまま行くと、プロになれるのを嬉しくねーのか?TVにも出れて、お前らが言う選ばれし者にもなれて…道が開けただろっ?こんな底辺から」
「…」
反応の薄い達仁。
「いやっ、だからさっ…そりゃークビになるかもしれないし、負けるかもしんねーけどよ、ここの奴ら…地下の奴らと比べて…人生バラ色じゃないのか?だっていつもと同じポーカーフェイスしてるからよ」
感情の見えない達仁。
「そりゃー闘ってる時は気持ち良かったよ…。でも、一歩ずつ終わりに近づけてるってのは、目的達成の為の進行度上がったってことで嬉しいよ」
ズレた返答。
まさしく別の世界の人間。
抱え込んだ人間と、普通に生きていける人間。
「いやっ、普通に考えたらあそこまでの試合出来んだから、自殺なんてしないで、プロとしてやっていくだろうがっ!それは希望じゃないのかよ?」
それでもプロにならない、プロとして生きていかない重さ。
希望より絶望が上回る。
「お前に送られた歓声聞こえなかったのかよ?」
ただ弱い奴をぶちのめすだけの地下の人員…であったところから、試合を通して何かを人に与えられ、求められ、褒められたにも関わらず…。
目の前の相手に集中していたからか、試合の疲れからか、他人を捉えていないからか、本当に賛美も歓声も聞き取っていない達仁。
「人から愛されたい訳じゃないからな」
笹田が叫ぶ。
「んなもん、どうやったって、バッドエンドじゃねーかっ!」
無表情に、笹田の顔を捉え。
「俺が物語を書くなら、バッドエンドしか書けない、し…けど精神病の心理描写•トラウマなんかは思い出したくもないから書けない…。自分をドラマチックに出来ない。出来るのは、苦悩、批評だけ」
理解出来ない笹田、今更こんなセリフを吐く。
「いやっ、精神病の括りですらないんじゃないかお前?だって精神病の奴なんて現代人で腐る程いるじゃんよっ!でも自殺するのはその中の何割よ?しかも人前で…病んでるっていうか狂ってるよ」
長くいて、少し感情移入したのか、やや踏み込んでくる笹田。
「どしたの?笹田らしくないじゃん」
それでも冷めたセリフを吐く悠真。
「精神病患者数と自殺者数のデータなんて知らないぞ」と吐く達仁。
この話をしてる時以外は楽しく喋れてるし、もういいか…と狂人の説得を諦める笹田。
(敏感なのも考えものだな…)
うつ、自殺から逃れる為に感受性鈍くないといけない。

自分の為に生きる。そんな当たり前のことも出来ない。
人並みの幸せを放棄するほどの闇•覚悟。
生半可なものじゃなく。
遊びに行く友もいない、何かをカワイイと思うこともなく、ふつうの生き方から外れきって、ただ悲壮感を携えて…。
盲信、自分の目的を。止まらない。
何の使命もないからボケる。全うするまでボケれない、死ねない。目的があるからショック死もしないし、独りで大丈夫。
ある意味エゴでラッピングされた人格。ほどけない。ほどくつもりもない。
達仁の物語には感動•見せ場というものがない。ただ心をやられて復讐するだけ、遂げなければ死ねない。
悲しい人生。
終わりの決まった、決まり切った末路。
自分を救うだけの、自分の為だけの物語…人生。
救うといっても最後に人間に“見てもらう“だけ、少し愚痴を言うだけで…それすらもできない世の中でそれをなんとかやって、ほんの少し怒りが和らいで終わり。
悪じゃなく、心の傷でおかしくなっただけ。
社会•環境•人間に殺されただけ。社会•世界が悪を作っている。
言い訳もしないただの悪人•純粋な悪に生まれてきた者もいる。後天じゃない、変質させられたものじゃない純粋な…。
悪人こそ世に憚って長生きし、子を産む。長く生きて、より人を傷付け、子に連鎖させる。
そこから離れる、理から逃れようとする達仁。
この世に生まれて、喜びなく、ただ怒りをぶつけて去るだけの…意味の無い…すでに死んでるような。
逃げて逃げて、嫌なことから逃げるのも、強くあって関わらず生きているのも、鈍くて物考えぬ人も、死んでるのと同じじゃないのか?
ロボットと…苦しみすぎる人と。 逃げることを叩く人間。麻痺したことを誇ってにげる人間。
分かったフリして「悲しむな!」と言う人達。
強く生きれず閉じこもる。それしか出来ない人達を誰も…余裕もゆとりもある人達は人助けじゃなく、自分の稼ぎを増やす為に生きる。勿論それは悪いことじゃないけど、叩く時だけ都合よくなるから。

幼少期からずっと気を使い続け、抑え、耐えても、将来なんの役にも立たない。
ただ損し、心が病む。
それでも時は過ぎ、皆同じ精神年齢になり、大人になり、差がなくなり、自分だけが抑圧されてきたのを引きずる。同じ環境で育ってないから。
一度も報われず大人になり、マトモに生きれてないから心も体も育っていない。
「甘えるな」と同じ人生の歩みをしていないのに、閉じ込められる。
バカな子ほど褒められ愛される。そんなこと出来なかった自分。
これから先も辛いのに、スタートラインが違う自分。
ストレスが溜まり切って、大人になった体。
何も持ってない自分はバカにされ、恵まれた者が、幸せに生きた者が広々と住む、支配する世界。
成人すれば過去も背景もない、甘えるな、取り戻せない、頼ることもできない、生きるのが下手でずっと悩み…その間に周りは…。
ゆとりがあって手を差し伸べてくれるでもなく、ただ人をバカにし、呑気に生きられる、これからも。
底辺であるこちら側を叩いてストレス発散する中(ちゅう)の人間。
関わらないんじゃなく、自分の楽しみの為、叩きにくる。
自分がヤられてきた、下(げ)の人間達と…その後、その境遇を下に見る、バカにしにくる中(ちゅう)の人間。
精神が違う者を一つに押し込める。
所詮普通に生きてきた他人には分からない。
スラム街出身でもない限り認められない。かといって悲惨過ぎても目を逸らされる。
時間が更に自分を苦しめる。束縛する。近づくな。
普通のひとが「昔のこと」と責めてくる。いざ自分が同じ環境だったら、社会•人のせいにする奴らが。
自分の昔の悪行•いじめ•前科•不倫は忘れろと言う一般人。
人に迷惑かけてきたことを「忘れろ」と言う人間。
他人に「昔の悲しさを忘れろ」と言う人間。
忘れるとはなんなのか?
「精神が未熟でどうしようもない」って、成長ってなんだ?
普通の人間じゃない、奪われてきた人間にとっての成長とは?
されたことを無かったことになんか出来ない。
普段損したくなくて「一日も休むな」論なのに、こっちは大損しても忘れなきゃいけない。
「本当の不幸は忘れろ!損は平等にしよう」
精神が潔癖なのを「中二病だ」と、なぁなぁで馴れ合いきった自称社会人か叩く。
仕事程度で弱音吐く、いじめも虐待も経験していない、恵まれた人はつけあがって仕事を辛い辛いと自慢する。
悪意にまた我慢しなきゃいけない、奴らが言う“成長“というもの。

生きている限り、一生逃れられない悪夢。
全てのことが引き金になる。
拠り所もなく、良かった思い出もないから、それに浸ることも出来ない。
叫ぶ•叫ばないの選択。
自分ならでの心の闇、誰も分かってくれない。
死を早める行為、自殺。
誰も分かってくれないんだから、誰にも甘えたことないのと同一。
“本当の自分“。見えていない部分、自分…は家族すらも届かない。血を分けた家族ですら…。
浅くない、深い。自分ですらもキツイ闇。嫌っている。
幸せにならないということ。
それを現実では出来ないから自分がなろうとする。
誰も殺されてないけど、自分の死…普通に生きれない自分の死。でも、この世の中で幸せに生きていくつもりもないけど。
子を作らず、復讐と自殺の目標に生きる。目標がネガティブの極致、死。
他人•一般人が敵。
自分しか自分を救ってくれない。健康もストレスも精神も。
だから自分の脳内に自分をもう一人。同じ思想の自分を産み出し生きていくか、思案だけして生きていくか。同じ知識•考えを持った自分。
敵である他人。
中(ちゅう)同士で馴れ合って「分かり合えるっていいですよ」と綺麗事言われても、単純だからだろ、人間は複雑なものなんだから、結局。
馴れ合いの恋愛、その辺の人を特別視する、理解者と。
本当に自分をわかってくれる人間と出会う確率…。
「って俺は達仁と出会えたんだから、これ言っちゃいけないよな?」
「東京だけで3000万人居るんだぞ?あり得る…」
「はっは!やべーなっ、一億二千万人の内の、その割合は」



12月1日。達仁のアパート内。
「そろそろ向かうか」
「どう?」
「同族だと思ってるし口かりー、前例もなし、そんな奴もなし、俺はユーマと会う前からずっといるし…お前もおじさんと仲良くなってたろ?」
「あー…スマホの使い方教えたおじさんね、身内と思ったら軽い軽いあの人ら」
ヤクザ相手にあることの裏取りをしていた達仁。
「佐原をやったっていう、現役プロに勝った事実、顔タトゥー、…で、脅し、これだけあれば…」
そもそもTV格闘技は人気商売なので人気選手頼り。ある選手が出場出来なければ別の人気選手を、たとえ一週間前だろうが緊急オファーする。(英語でショートノーティス)
視聴率の為に有名人•芸人の試合も組む。看板で上と勝負出来るイビツな世界。TVだから。ミュージシャンのようにコネだけで出る、有名無実…ということも。それで上がれる場…ならそれを利用してTVに出よう、という達仁。
ちゃらんぽらんなように見える格闘技興行。でもだからこそカリスマ性がある。プロレスラー•格闘家はキャラがある。野球などは選手は地味、見た目も性格も。で、二軍三軍など更に日の当たらない。’’プロ’’という名の選手なのに。プロなのに目立とうとしない野球選手。キャラ付けしてそれに沿うプロレスラー•格闘家。目立てばいいTV的な世界観と怪我までするスポーツ格闘技の狭間のイビツなもの。だからこそ達仁のような者でも目指せる独特な世界。面白ければなにしてもよい、人気があればなにしてもよい芸人•TVなどの世界に属するもの。
「まぁ脅しだけでいける…出るだけならな…お前でも今から切り替えてユーマでもいけるよ。でも勝たなきゃ、カッコつけなきゃいけないから…」
「敗者の言うことなんか誰も聞いてくれねーもんな」
お茶を飲み干す達仁。
「さーて、佐原にアポ取ってもらったから行ってくる」
珍しく心配そうなユーマ。
「…格闘技団体代表、ヤクザとも繋がりある、館長。岩瀬のとこ…って言い方したらやばそうだけど、ん〜…ただ直談判、直訴しに行くだけだからなぁ、やっぱ大丈夫か」
「…じゃない、脅しにいく、見誤ったらやばい」
最後の調整、これに失敗するとなにも成せず終わる。
「…俺はバックアップとして待機しとくけど、タツがいないと頓挫だからなっ!行き当たりばったり…」
失敗すれば告発文と個人言論ネットにあげるだけ…誰にも見てもらえず。
「まぁ俺らは持たざる者だからな、結局頼れる者もいず、失敗確立たけー」
一人で。一人で興行に立ち向かう。ナゾの行動力•情念。岩瀬に嘆願するとこまで来た。忙しい社長と取り合える所まで来た若者。終わりに向かう…。
夕方達仁が出かけてゆく。見送るユーマ…だが妙に落ち着かない。気晴らしに自分も出かける。
12月。街中にはクリスマスソングが流れ、クリスマス用の飾り付けがあちらこちらに。楽しそうな風景。
目的もなく歩く。やがて日は落ちてゆく…イルミネーションの明かり•光。色んなイベントが催される都会。
「…俺は達仁と違って完全には…さみしかったり、恋しかったり…」
周りに溢れかえる幸せそうな人達を見て…。イベントとは程遠い暗い日常を送り続けてきたユーマ。お祭りの楽しさ、派手さ、特別感。祭りの後の寂しさ、喪失感も知らない。
日常の中の非日常…普通の幸せを目の当たりにして…涙をこらえる。どこにも行けない。友達もいない。金もないユーマ。
「くっくく…達仁にお小遣いもらう俺…他人」
宙を、何もない宙を虚ろに見つるるユーマ。空を仰ぎ見、息を吐く。
「…格闘技雑誌でも買って帰るか…」
小さな背中•心で去ってゆくユーマ。

東京、某所、ビル内。
「…TV局じゃあるまいし、このぐらいのセキュリティか…」
五階。館長室兼社長室前。
ここまで自分の力でやってきた達仁。緊張もせず…ノック。こんこん…。
「おー、入れ」
扉を開く。初めての対面。
格闘技道場の館長、ならびに興行REALー1を取り仕切るし。岩瀬の姿。背広に身を包み、173cm程の身長。整髪料で髪を整えたTV出演もこなすビジネスマン•仕掛け人。
ゴールデンタイムに唯一中継されるイベントの重要人物。
「おーおー、顔面タトゥー入った奴生で見んのは初めてやっ」
大物ならではの軽さ明るさが見られる岩瀬。
「…どうも…」
(流石に、やり手のオーラがあるな…成り上がり、ヤクザと関係あり、元格闘家、TV局とも渡り合う、金持ち…)
「…」
まずは相手の言葉を待つ達仁。
「…寡黙やな、理知そうでもある。そんな奴が顔面タトゥー。まぁ俺も何十人とおかしい奴見てきたけどな。半ヤクザとか不適合者、格闘技やるやつは、やっぱりおかしい…俺が言うなんて…じゃなくてこの俺やから言えることやけどな」
「そうですね…地下で…プロになれなかった奴ら何十人見てきたんで…」
「くっはは、一般のファンが知らんだけで腐るほどおるからな」
朗らかな会話。
言葉遣いだけでへりくだってはいない無表情の達仁。
「で、自分こんな、タトゥー入れてまで自己顕示欲強いので、TVにどうしても出たいんですよねー」
全く違う目的、死の為のものを
道化師になり、自分をあざけり…。
「もう入れちゃったし、有名人なるしか、生きて行けないんですよ」
目的の為に軽いかんじの若者も演じられる達仁。
雰囲気•理知さ、悪く言えば気難しそうな…それに反したセリフ•行動。イかれてるからこそ演じられる。
ここが最後の踏ん張りどころってわけでもなく、最後試合に勝たなきゃいけない…自分が決めたルール。
「枠買いとか、急オファーとか裏側もろもろ存じております…もう、ちょっとお金もヤバいので今年、大晦日お願いします」
頭を下げる。
TV放映枠の中であれば前座でも構わない。
でも第一試合で事件が起き、中止になる大会。そこは格闘技好きとして申し訳なく思うが…。
というかTVにもお茶の間にも迷惑というレベルを超えたものが起きるが、達仁は怒りの目的でやっているので、人…のことは知らない。芸術•スポーツである格闘技、そのものにしか申し訳なく思わない。
じ っと見つめる岩瀬。
「…」
言葉を待つ達仁。
「…」
思案中の岩瀬。
「いや…外国人ならいけるが、日本人で顔面タトゥー入れてるのTVで放映するのはちょっとなぁ、クレームもあるかも知れんし」
(やっぱ佐原とタトゥーだけじゃ無理だったか。よかった、情報集めてて)
「まっ、よっぽど、欠員が出たら呼んだるわ」
話を切り上げられてしまいそうになるが、まだ低姿勢でいく達仁。「…岩瀬さん、絶対面白い闘い…判定まで行きません、何か魅せます。」
佐原に勝った男の説得力ある言葉…が。
「TV無しのオープニングファイトでも?」
「TV放映枠でお願いします」
面倒臭そうな岩瀬。
「…キミを呼んでも客は来ん、分かってるな?」
ごく一部の地下の者しか佐原戦を見ていない以上、あの試合は無かったことに等しい。
レコードにも残らない闘い。集客も望めない、ただの新人の達仁。「顔面タトゥー男が何かを魅せます」
真剣な眼差しで訴えかける達仁。「…何か…TVで注目されるほどのもの」
そんなもの君にはないだろうと言わんばかりの、量るどころか下の者を見る侮辱の目を向けてくる岩瀬。
(ちっ…枠は余ってないのか、ならなんでアポに応じたんだ )
苛立つ達仁。
「…すまんな、いつか空いたらコマとしては使いたいからな…たまたまプロに勝ったからって、君がプロレベルな訳じゃない…一応、囲い込んでおきたいんで、今日あったんだけどねぇ」
上流独特のいやらしい笑顔を見せてくる岩瀬。
「…岩瀬さんは現実主義者•金タイプで、土下座とかお涙頂戴じゃ」「ああそうやな、君が何かバックがいる、何かの信者であるなら動員が期待できる…それか、視聴率取れるほどのなにか…タトゥーごときじゃ一日で忘れられるぞぉ」「…確かに私には何もありません、頼る所も」
須賀に媚びるでも頼るでもなく、ただ場所を借りて利用しただけの達仁。何のバックも持ち合わせていない。
「…」
表情を変える達仁。ややギラついていく…。
(とうとういくのか)
「…何考えとんやっ」
雰囲気の変わった達仁へ怪訝な表情を見せる岩瀬。
口を開く達仁。
「…岩瀬さん…闇ギャンブル…」「…!……何が言いたいんや、俺を儲けさせられんのか」
達仁からすると的外れなことを言う岩瀬。
(いきなり人のリングに上がって片八百する訳ねーだろうがっ)
「選手の裏側、宗教も派閥もなくただ平等に行われる闇の賭け事」「…それが?」
高級椅子にもたれかかる岩瀬
「…片八百やるってか?そんな程度のはした金…はぁ…君なら分かるやろうが、極端な賭けは怪しまれるから無理」

片八百とは、片方だけ八百長の略で、片側だけが本気でやらず、ある程度試合を成立させた後、わざと負ける特殊八百長のこと。
片側が正義感の塊の場合や、片側は真剣に試合するから素人目には分かりにくい、という理由などかなり特殊なやらせ。
ボクシングではタイ人が多いが、ジャブで倒れてしまうなど、演技•プロレスなどの実力もないような者がほとんど。
空気読めるようなエンターテイナー•プロレスラーなどと違う、お金でいきなり頼まれただけの演技下手選手。
白人なども貧乏人なら八百長の依頼をすんなり受ける。
片八百の場合、合図•仕込みが無いので玄人にはすぐ分かるような動きをする。
お互いダメージ負うことなく関節技ですぐ終わって楽な場合や、TKOされたはずなのに「ゴング鳴ったしお仕事終わったー」とすぐダメージ無さそうにすぐ立ち上がってぱっぱと帰っていく者なども。
決まり手だけ決まっていてその技で終わらせる為に、相手が手順失敗しても何度も頭を差し出す者なども。
万が一怪我したら馬鹿らしいので関節技で負ける場合かなり早めにタップする者も。
絶対自分が勝ってはいけない、失神させてはいけないので、ジャブだけ、ボディーブローだけしたり、派手に見せる為にタックルから持ち上げだけはしてゆっくり叩きつけたり、攻めあぐねてるフリしてグラウンドで抑え込み続けたり。
ボクシングならグローブの上だけ叩いたり、色々方法はある。

賭け試合で八百長行われては困るので色々な所から監視•注意がいく。
そもそもTV局は公正であることを好むので禁止させられている…が、バラエティ番組的な価値観で黙認する部もある。
格闘技という分かり易い1対1の勝者の賭け。
外国なら普通にあるが、にほんでは裏しかない。
岩瀬の言う極端な賭け…とはいってもヤクザが取り仕切っている為、通常でも数百万は賭けられる裏ギャンブル。
ビッグマッチでも注目されてもないのに、余りに極端に何千万も賭けると不正(そもそもギャンブル自体違法だが)を疑われる。
「その程度の片八百のはした金でTV出られない、なんだかんだTVってのは強いし、コネの世界だって、だから俺なんか出れないってわかってます」
「…ん?」
何を意図したいのか分からない岩瀬。
「…相撲や野球の様に連日報道されて大事になりたくないですよね?」
「…そんな脅しに負けるんやったらこの地位にはおらん…」
顔色一つ変えない冷静なままの岩瀬。
「ええ…」
その表情を歪ませるため、突きつける…。
「闇社会の住人として、東京在住の者として生きて…決定的な証拠を掴んでます…お抱えの週刊誌じゃなく、敵対する、今負け側の週刊誌(二位以下の週刊誌は独占スクープを欲している)にリークするコネも作りました。だからここぞとばかりにネガキャン(ネガティブキャンペーン)始めてくれますよ」
「…」
目線を外さない岩瀬。
畳み掛けるように。
「…相撲や野球と違って所詮エンタメTV格闘技…潰れるのは早い」
勿論一大コンテンツなのだが、歴史の古い他スポーツと比べるとやはり立場は弱い。
10年後に続いているか分からないTV型格闘技。
静かに口を開く岩瀬。
「それをやったら君がどうなるか分かっとんやんね?」
「…そりゃあ殺される、動く金が大きいから」
「…」
思案する岩瀬。
何が狙いなのか量る。
脅しの対価。
「一試合だけTV枠で使って下さい、その後は別の業界で生きます」
「その別の業界がルポライターとかやったら困るんやが」
微笑する達仁。
「…こんなに目立つ顔してんだから、逃げ切れないし大丈夫ですよ」
「…はぁ?…逃げ切れないんならリークも出来んな…たかがTVに出るためだけに命賭けるアホウはおらん」
「…逆で、こんな顔になるぐらいだから死ねるんです」
自殺できるくらいなんだからヤクザも怖くない、とは当然岩瀬にバレてはいけないのでいえるはずのなく…。
死を盾にこんな脅しをしていることを知っているのはユーマだけ。
人前自殺出来んだからこれが証拠だよ、覚悟だよ、脅しじゃなくて本当に潰せるぞ…と凄みたかった達仁。
自殺隠しながらのイビツな問答。
善良な選手をいやらしいギャンブルの目から遠ざけることが出来る正義の行為、告発…だから何かを救うことは出来る…と自殺のついでに犠牲に、なるつもりの達仁。
自殺騒動があった後の格闘技界のことは…都合良く頭から消しさる。
試合内で何かする訳じゃない、タトゥー男がいきなり人の多い場所、ドームで自殺しただけ…と都合いい解釈をする狂人。
脅しておいていきなり物思いに耽る気味の悪い若者…を見て。
「だーかーらー、一度でも許したらつけあがるのがヤクザなんやっ!お前みたいな素人にまで舐められ、弱み握られてちゃこの世界でやっていけんのやっ!」
激昂する岩瀬。
「お前、一緒にいて、あいつらのえぐさ知っとらんのか?」
「私はたまたま、放任なとこだったので…でも人間の醜さ、いやらしさは十二分に…」
「…俺は仕方なしにヤクザと関わってるだけ、TV上層部に媚び売ってるだけなんや」
「…私も同じ状況です」
「俺がどれだけの思いしてここまできたとおもっとるんやっ!」「館長…お金は要りません…ノーギャラで、ただ一試合TV向けの…刺青青年が闘う、面白キャラ枠でいいんです」
「そこまで言われたら、何か裏があるとおもうてまうやろ、普通は」
(素人に脅されたんは初めてやっ、なんやこいつはっ!)
「チケットも売れるさない、ファンもいない…けどどうしてもTVに出たいんです。…試合後、顔も名前も衆目に晒されるわけで…だから圧力かけてもらって全ての場所出禁にしてもらって構いませんからっ」
でもそれじゃなんで一試合の為にタトゥーまで入れたんだ…とまでは今は頭が回らない岩瀬。
「…今、君を上に頼んで拘束してもらうことは可能なんやが」
「…仲間がいまして…私よりイカれてるそいつもいつ死んでもいいっていう者…そいつが合言葉ありでどこかに潜伏してるっていう状況です」
面白いこと、派手なことの為なら人一倍やる気を出すユーマを盾として…とはいえはったりにもならなそうな言葉。
だから岩瀬が敏感ないつまでも関わってくることをエクスキューズする。
「…試合後から館長の前に顔を出すことはありません。さっきも言ったとおり、この顔なんで下手なことは出来ませんし…TVに出たという証拠でコネ作ってどこかでミュージシャンでもやるので。アノアの連中も関係ないですし、場が用意されてるだけの奴らなんで二度と俺みたいな奴も現れないです…」
細かく説明する達仁、だが。
(こんな若造の言うこと聞いてたまるかっ!俺が作り上げた団体やぞっ!俺の思う通りに行く俺の箱庭…それを荒らされるなんてっ!)
「…俺を納得させたかったら、よっぽどの上のコネが必要やったな、大晦日TVは無理や」
強情にならざるを得ない脅され側の岩瀬。
(ちっ…めんどくせー)
「…たかが若者一人に潰れさせられる、大物。TVから外され、ヤクザから責任取らされる、週刊誌に叩かれ、復活の確約もなし…」
順序立てて細かく説明する達仁。
ひるまない岩瀬。
「たかが一試合、今迄も芸能人使ってたろ⁈」
とうとう達仁まで声を荒げる。
二人の男が狭い室内で、全く違う位の無職と社長が…。
「…君が言ってる通りコネコネ、しがらみの世界、利害、動く金の大きさ、お礼のし合い、バーターのし合い。君も若いんだから、何年もかけてコネ作りゃいい」
ヤクザなんかに頼りたくなく、須賀をバックにつけない孤高の達仁。
「…貧乏で、もう戻れない」
「自分が、やったんやろうが」「これを超えるキャラはいないと思って」
「平然としとるっ…やっぱマトモじゃないわ」
やれやれといった様子の岩瀬。
「その証拠の為に地下で戦って、ヤクザから情報得たんだから…マトモな方法じゃない、自分でやったんだよ」
誰にも頼らず、翻弄されず、自力で勝ち取った舞台。
「…一代で成り上がった起業家の俺もな色んな奴に取り入ったよ」(館長すまん…間接的に殺してしまうことに…せめて館長が、悪人であれば…ふと思い出す…)と頭の中で冗談を言う達仁。
オタクの達仁は館長の悪行を知っている。…金で、買う。
バックもつけて他の団体潰してきた。
気に入ったやつだけ生き残らせる。
格闘技を見世物にして、芸能人なども闘わせる。
TV映えの為に毎大会ルールも都合良く勝手に変更。エンタメの為に何階級も上の選手と闘わせる。王者と新人を闘わせる。
発言力ある、上の人間なのに、助け合いの精神もなく、元格闘家のくせに辛さ分かるのに選手を切り捨て路頭に迷わした過去。
怪我も知ったこっちゃない、選手はコマ、後遺症がある選手も捨てる。
仕方なくヤクザとT付き合ってるというが結局自分の金の為。
業界をよくしようとしてないので保険もない、救済もなく使い捨てる。業界側なのに。選手が怪我しても治療費なし、試合だけはさせる。
ケガした状態でも無理矢理試合させる。その結果酷いことになっても切り捨てる。
ブラック企業。格闘技な分ブラック企業よりたち悪い。
「選ばれし者好きなんですよ」
「はぁ?有名人のことか?んなの当たり前やろっ?」
偉大な日本人選手がいた。善人、愛される選手を生贄にして、コネのある選手を反則させてでも潰した、勝たせた。
反則も運営がもみ消した。メリケンサック、ステロイド、体にオイルを塗って関節技がかからないようにする、レフリー買収。サブレフリーもジャッジもなにもかも敵。
格闘技業界の為頑張ってきた偉大な選手をセコンド以外全てのスタッフが裏切る、敵しかいない会場で酷く叩き潰した事件。
選手、選ばれし者を潰す悪、不正を許す岩瀬。
佐原みたいな突発的にでてしまった軽い反則とは違う重大なもの。
達仁もユーマも一番好きなその選手は重大な反則をされた。
のちにネットでもおかしな部分を指摘された。
愛された選手だったので、クレームが寄せられ、運動も起きた。
なまじTVでゴールデンタイムで放映されるだけあり、無視できなくなった運営。
でも賭けを成立させるためにノーコンテスト扱い。
反則裁定もなく、口止めもし、ファイトマネー没収もなし、お咎めなし。
裏に、バックに強いタニマチがいるから。ヤクザ、宗教、ある民族団体、それに連なる企業。REAL-1。
他にも反則で終わっても賭けの為にノーコンテストにする試合も多々。
命を賭けて闘っている選手は捨て駒。
金を産み出すギャンブル、ヤクザの為に裁定も変える。
「選ばれし者だけが好きなんですよ…その選手を衆人環視の元、恥かかせた岩瀬さん…あんたを許せない…」
「…まさか君、なんか証拠掴んどんのか?その当時も、今も関わってないはずやのに…」
「散々ネットや雑誌で情報得て、昔匂わせられてたものと今、数年後確定したもの照らし合わせて、推測して、闇社会の人物に色々聞き込みして…今の、闇ギャンブルの脅しのようにやってきたんですよ」
雑誌を眉唾と言う人もいるが、数年後その噂が本当で実際に捕まった人物がいる…など照らし合わせは素人でも出来る。
内部のリーク者が正義感で書き込むこともある。
とはいえ達仁の言うことにはハッタリも多分に含まれているが、ここまでの行動力がある達仁のセリフに真実味を感じる岩瀬。
今回のことでまた色々嗅ぎ回られては敵わない。
佐原と仲良くなられたり、須賀の元で本職になられたり、他のREAL-1のスタッフに取り入れられたりしても敵わない。
(蛇のようにしつこい奴や、素人のくせに…無職のアウトロウがここまで…佐原もこんな奴相手だから負けたのかねぇ?)
得体の知れない達仁。
かといって封じ込めるのも難しそうな存在。
(ちっ、俺のケツ持ちヤクザ以外のヤクザ共がどんな情報交換し合ってんのかは分からんっていう俺の弱いとこ、調べるなんてそんな時間もなし。更に記者とも知り合いってか?)
「…記者…」
声に出てしまう。
「ヤクザや裏側、宗教、政治家、すっぱ抜き、ルポライター、ノンフィクション作家の情報の集め具合から考えて…」
「死を恐れん君、タトゥーまで入れてマトモな世界からおさらばしてる覚悟、その姿勢を気に入ってよくしてくれる人、人脈、コネ…ペンは剣よりも強しってか?」
「死を恐れたり、知識がないと喰われますから…善人のあの選手は黙らせられたかもしれませんが…」
ヤクザももみ消しできる程の力も恐れない達仁。
(こいつが今どんな人脈を持ってるか分からん…が今決断しにゃならん。半グレらみたいに人脈あったとして…)
本当は独りの達仁。
頼らず馴れ合わず、無力な素人•個人。
そもそもコネがあれば今脅しも直談判もしていないのだが…それが人脈がない証拠。
正義感でここまでやってくる個人。
記者の知り合いがいそう…本当はただそれだけの存在なのだが…世論というものは唯一ヤクザや政治家を黙らせるもの。
週刊誌は本当に圧力に負けず闘う所もある。
地下でやってきて、汚らしいファンはおり、佐原に汚い手使わず勝つ達仁と放火しそうと噂される危険人物ユーマ。
正直、面倒臭くなってきた岩瀬。
「あーなんか本職よりしつこそうやなぁー、だって俺を脅して金をむしろうってんじゃなくて、TV出たら消えるんだもんな?金じゃ動かんもんな?大金やるから辞退しろって言ったら?」
「勿論いらない…さっきの揉み消しの件であんたを許ささないって言ったけど、あんた以外の所が動いたから起こった事件だから…ま、ゴーサイン出したのはあんただけど…その事は忘れる…ただメジャー格闘技に出演したいだけだ」
揉み消し事件は、他の企業や団体との戦いになるので、証拠もないので諦めている達仁。( 風俗やパチンコを潰せないように)
「しゃーない…わかっとるやろうけど判定ならカットされる」
「ここにきて判定ならそれまでの人間」
「ふぅー」
緊張の解けた岩瀬、またソファーにもたれかかり。
「なんやようわからんが、生活の為やのうて、一度TVに出にゃいかんみたいやな」
「知り合いの病気の子供の為です」
脱力する岩瀬。
「はぁ、古くっさい話やのぉー、今更理由なんかどうでもええけどな、正攻法の情報脅しできたかと思えば顔面タトゥーの人生捨ててる謎のお前…ここまでの交渉に来といてTVって、たがかTVなんか俺は何度出演してることか…」
持つ者。汚いことして成り上がってきた者の、下の者の望み、努力を知らないからこそのセリフ。
(そこまでしてなんでTVに出たいのか…って…まぁ分かる訳ないんだけどな、常軌を逸してるから)
「俺は格闘技オタクなんで潰れてほしくない、だから一試合だけ出られたらほんとに関わらないから。これからもTVで見たいんで」(見れないけどな…)
「しゃーないしゃーない、分かったからもう今日は帰ってくれやっ、記者会見とかも出んでええからな、あっ宣材写真だけは撮っていってくれ、後は連絡先な」
「いや、長いことお時間頂戴したみたいで…」
別に今更取り繕ってるわけでもないのに会社員のような言葉を吐く達仁に嫌悪感を催す岩瀬。
脅す、敬語になる、タメ口になる、何を考えてるかわからない…。
「対戦相手はメディアで知ってくれやっ、当日までもう会わんで、お前とは」
「小物だから会見もなく写真でちょこっと紹介されるだけ、ビッグマッチの宣伝だけがCMなどでされる…で、雑誌もインタビューもなし、当日リハーサル時に早めに来ればいいだけですよね?」
「分かっとるんやったら、黙ってとけやっ。それだけやっ!…ちょっと入場して負けて帰って終わりの人生やぞ?」
これ以上話したところで得るものもなし、帰る達仁。
帰り際スタッフに呼ばれ、宣材写真を撮らされる達仁。
裸でファイティングポーズを取る…雑誌やTVの選手紹介時に使われる画像。
有名選手は芸能活動、宣伝などもあり、マネージャーや契約が必要。
TVやドームという大舞台なので絶対穴を空けてはならない、ほんとはマネージャーが必要だが逃げる訳ないのと、メール一本よこして、ドームに来させればいいだけなので、余ったスタッフに連絡先教えるだけの達仁。
ファイトマネー調整などもいらない達仁。
後日契約書にスタッフ前でサインだけしに来ないといけないが、岩瀬が細工してないか契約書を目を凝らして確認しなきゃいけないのが億劫な達仁であった…。
ジムに所属していないので、しがらみも仲介料もいらないが、何のサポートもない。
保険もない、保険外の団体からの救済措置もない格闘技界。
タニマチ、スポンサー、コネがないと、苦労する人気商売、スポーツ選手、格闘家。
究極契約書のいらないプロ格闘技興行の実態は省く。

達仁の退出…のすぐ後。
「何か対策せんと…クソガキャッ…痛い目見せんといかんな…だって、出すっていうだけで後は何の条件も提示してきてないんやから…そーやなぁ…」

結局物語とノンフィクションの違いは人のしがらみ•配慮…。
物語とは違う、インタビューの場合、実話の場合、裏話•舞台裏などで引き込まれる。
創作とは別の面白さで。創作の悪い所、裏側、人の動きを補完するから…その裏とは結局人と人、バックの強さ、コネ。
物語は主人公のしたいことを押し進めて無視して進む。
現実はどこか立てなきゃならない。
あの人物が裏で実は動いていた。奔走していた、話をまとめてくれていた、など。
しがらみがあるからいきなりは殺さない実話、現実。
ギャングは勢いで殺っちまうこともあるが…。
メリット•見返り•立ち位置を気にしながなら進んでいくのがリアル、現実。

夜、帰宅する達仁。
平静を取り戻しているユーマ。「いけたの?」
苦笑する達仁。
「ヤバかったぞ、強情強情」
やっとリラックス出来る達仁。一息つく。
お茶を出すユーマ。それを一口飲んで。
「いや本当は、自殺出来んだから怖くないよ、脅せないよ…って言いたかったんだけどな」
「それは言ったら絶対駄目なやつ…そこバレたら…って言ってもそんなことやる奴いない、頭おかしいと思われるだけ…か?」
「かといって危険人物ではあるから出禁だろうな」
寝転ぶ達仁。
約束は取り付けた。
自力…というか“独学“でここまできた。
人に教えてもらうでなく、ありきたりな方法論でもなく、自分の、自分の為の、自分しか出来ないことの為に、独学という手段で来た。
枠の中の80点を目指す、養成所や専門学校的なものでなく、枠を超えた、逸脱したことの為の独学。

喋りたがるユーマ。今日のこともあって…だが、基本喋るのが好きな性格。
今迄の人生抑圧されて喋れなかった分、達仁に甘え喋る。
聞いてくれるから、受け入れてくるから。
「もしダメだったら…のパターン。古典的だけど目玉選手を路上で潰す。んで枠開けるとかあったよなー、警察が面倒臭いけどさ」「というか、補充人員全部倒していくのか…」
漫画脳に呆れる達仁。
「後は、普通にマトモに出て、片八百の証明のために、それか天邪鬼さの証明のために、勝つ直前にわざと自分がタップするとか…」「普通のファイターは絶対やらないが…自分はTVの前の民衆と闘ってるから…出来る。それで目を引いてURL見せつける…か?」
「そうそう」
「ifの話しても成功したから…」
疲れてる達仁。
「ん…対戦相手ってさ、新人じゃなくて、中堅当てられんじゃね?だって佐原に勝ってんだから」「そうかもな…今日は寝る…」「うん、お疲れ…」
ドーム出場可能になったことに興奮し色々ひとりで妄想するユーマ…を横目に部屋を出る達仁。寝室へ。
扉を閉め、ベッドにつき、寝転がる。
一人になりたかった。
一人で考え事を始める。

夢物語が実現に近づく…。
成就という夢。それとは別の…。
佐原に勝って…このまま格闘家として生きて行く未来…一般人から脱却して、好きなことを仕事にする未来。
いつ人生が終わるか分からない格闘家のまま、そこだけはヒリヒリしたまま生きてゆく未来。
「つっても、退路は断ってんだけどな…一試合で干される約束…」
普通に生きてしまったら、変わってしまったら駄目なんだ。
夢で…「結婚して満足か?怒り•悲しみはどこへいった?あの苦しさを無かったことにして忌み嫌う一般人のように、なぁなぁにしてあの時の気持ちは?あの時の情熱はどこ行った?…つまらない奴だ…」って昔の自分に毎日言われそうだから。

戻れない所まで来たんじゃなく、戻る所なんて最初からない。
元から弱い脆い儚い、消えうる存在。(本当に自殺する)
過去はない、ただ人より弱い。その雰囲気を感じさせる。
自分という、狂って壊れて離れてしまった存在に対する究極の自己犠牲。
本当の犠牲。依存せず、他者に取り憑かれた。

誰かと心通わせることもなく、恋人も作らず、誰にも甘えることなく、心許すことなく死ぬ。(何者も、自分すらも)
何も持ってないから、殺されそうになっても人生を諦められる…それはユーマ。
達仁は青春を死への努力に使った。
受け入れてもらおうとせず、死ぬ為に努力をする。
すでに人生を諦めている、無。
ただ、最後に目的だけは果たす…。

翌朝、ドーム出場のお祝いするでもなく、いつも通りの朝食時。
「死んだら伝説になるのかなぁ」
「俺はただの一般人だぞ?一日で忘れられて終わりだ…人の死すらも捨てられる大衆という醜い奴らの目の前で見世物になるだけだ…」
一際冷めた言葉を吐く達仁。
目の前しか見えていない、よりより精神が未熟なユーマが驚く。
「ならなんで…」
「俺がここまで忌み嫌ってる連中が考えを改めてくれるって本当に思うか?…それなら自殺なんてしないさ…止まらなくなっただけの…人の死というものを見せつける…ただそれだけの」
黙って箸を置き、聞きいるユーマ。
「どんでん返しも、感動物語もない…だって現実だから」
ユーマと目を合わすでもなく、ただ喋り続ける達仁。
「描かれてないその後に、病死が待っていたとしても、幸せのみで全うした扱いになってる、物語のハッピーエンド…と違ってこれからも苦痛を受けて生きていくだけ…その現実が待ってるだけなんだから…バッドエンド確定の未来」
これしか道がない不器用な自分、不自由な世の中。
「お前なら分かるだろ?ユーマ」
やはりもっと深い…深く狂ってる達仁を見て、トラウマ持ちの自分より遥かに深い思案•諦めの境地を持つ達仁を見て…自分が結局出来ない、本当に自殺する者の異常な冷め、物の考え方の重さに…半分エンタメとして見て「伝説になれるのか」なんて発言してしまった自分の浅はかさを恥じ…何も答えられないユーマ。
見ないフリをしていた自分にも訪れる未来。
現実の辛さは二人共分かっているが、達仁はただ現実だけを、シビアさだけを見る。
半分エンタメとして何もかも軽く見てしまう自分を、環境のせいにせず、恥じ、もっと考えよう、と決断するユーマ。
定まらない方向性を持つ、ただ達仁について行ってるだけの子供。

食事が再開される。
ふとTVにピアニストが映る。作曲科に移籍するらしい。
達仁を刺激する。
「人に教わる作曲って?ピアノ弾くだけだから最効率を人に教わってサポートしてもらう弾く専門の物真似ピアニストと違って、0か1を産み出すのに…“自分だけの物“自分が産み出す子供•作品。それを人に教えてもらうって…絶対独学しない奴ら…」
たかがTVに映っただけのピアニストにキレる達仁。
「そうじゃないんじゃない?絶対自分しか作れない、自分を癒す為の物…を求めてないんだろ…この人達。レゲエ好きだからレゲエっぽく聞こえる曲を作るってだけの」
「それじゃあ、誰がやっても一緒の凡百だな…芸術もちょっとやってるだけの一般人だな…」
病的なまでに特別というものを求める達仁。
今更ながら、生き辛そうだな、と思うユーマ。
自分を解放する為の自分だけの道…を情熱かけてやってる頭のおかしい達仁。
それは裏を返すと、自分しか出来ないから…自分しか自分を救ってくれないから…。
普通は他人に救われ、笑わせてもらい生きる。
そこから外れきった狂ったモノ。

REAL-1事務所内社長室。
「一戦だけすればいい?一度でも弱味見せたらつけこまれるんはヤクザ共で経験してる。なんとか
止めたい」
ため息を吐く岩瀬の姿。
「ヤクザに殺してもらって口封じ…で貸し作るのは嫌や。自分で始末つけらんな」
しかめっ面で思索する岩瀬。
「ヤクザ共…何が用心棒じゃっ!それにすらまた金いんのにっ!」
過去を思い出す…。
「今はな…金の生る木だから話し合いは出来る。でも最初の頃は」
やはり思い出したくもない。
「金で渡り合わんにゃならんのやっ!ただ渡すだけじゃのうて、条件練って、コネも作って…芸能界の裏とも政治家とも」
金を渡せばいいだけの政治家や芸能事務所と違い、暴力脅しの概念もある面倒なヤクザ。
「関わってくる。一度切りの関係じゃ絶対終わらせてくれんねん、あいつらはっ!」
上流と一緒で養分としか他人を見ていない暴力団。上層•特権階級と同じ思想。
…その“上“とは?
闇の仕事で金持ち、表の仕事で金持ち。
どちらもボディーガード持ち。
どちらもプライド•面子が大事。
どちらも人に恨まれる。
人を食いものにし、自分の富を得る。
ゲーム脳はこっち。人を人と思わない。死んでも架空のようにゲームのように補充するだけ。
人を虫のように思う。
クリエイターのように人を救わず、王のように振る舞い、ただ居るだけで、奴隷から富を得る存在。
その上流という輪の中に生まれた勝ち組子孫達。脈々と受け継がれる。
結局最後は暴力で解決する、高級スーツ着込んだヤクザ。
タトゥーをスーツで隠す部分と、大袈裟にエンコ詰めさせる部分。
100%合理的には行かない、ナゾのヤクザ映画的思想を持ち合わせた団体。
失脚した場合、よっぽど金をプール•裏金持っててコネあり、復活の可能性もあるならチャンスをもらえる。
とはいっても、相当な額、謝罪料として取られるが。
たまたま一旗当てただけのような者は無一文にされ、自殺として処理される他殺をされる。

「俺の場合、俺一人の失脚と違う。裏ギャンブル露見したら絶対にタマ殺られる。ここまであの男に来られてることもバレてはいかん」
苦悩する岩瀬。
「とはいっても綾瀬は変な奴やからなぁ、ヤクザとは毛色が違うけど」
深いため息を吐く。
「…王者によって痛めつける。人前で恥をかかせる。アノアの連中の牽制にもなるし、それでええか…?プロとの実力差を見てもう関わってはこんようにする…腐っても武道家だろ…」
二度目があることを異常に嫌う岩瀬。
舐めた地下の連中にトッププロの怖さを教え込みたい。
丁度怖さのある王者が達仁と同じ階級にいる…テクニシャンやスポーツマンシップを感じさせる清潔感のあるファイターでなく、荒々しい王者がいる。
「折角総合ルールなんだからストップを遅らせて殴り続けてもらおうか…」
三回ダウンすれば強制で試合が終わる立ち技と違って、総合格闘技は失神しない限りは本当にいつまでも嬲れてしまう。
「普通はなにかしらおる。スポンサーとかジム関係とか後ろが…。んなもんない綾瀬は殺っても〜ても構わん…家族もおらんやろ?ある意味ヤクザモンやな…周りが…守ってくれる人がいないから、制裁マッチに放り込まれる」
誰もいないから簡単に殺される•捨てられる達仁。
あえてコネを作らなかった事が悪状況へ。
「佐原にやられない程のタフさがあるなら半殺しを見せられそうやな…秒殺負けなんかじゃ許さん…何百発も打たれて顔面変形してもらわんと、見せしめにならんからな」
少しは溜飲の下がった岩瀬。
表情が柔らかくなり、マッチメイカーを社内コールで呼ぶ。
「館長、おはようございます」
「おー、綾瀬って奴おるやろ、あいつウォルバーと闘らす」
「は?」
「0戦0勝対王者やっ」
ミスマッチに唖然とするマッチメイカー。
「強過ぎて誰も名乗り上げてこん外国人王者に、顔面タトゥーの恐れのない男が挑むっちゅうアングルやっ」
アングルとは、プロレス用語で、試合の意味合い、試合が決まるまでの抗争の流れなど、TV向きの味付けのこと。
「あえて女性でなく、ヤクザやチンピラなどをターゲットして、顔面タトゥー男の挑戦を見守るっちゅう、闇社会の視聴率を稼ぐっちゅう方向性やっ」
REAL-1は岩瀬のワンマンなのでマッチメイカーは表の人間。
岩瀬の言うことを断れる者もいなく。
「まぁ今迄も変わり種路線は成功失敗半々ぐらいですし、一試合ぐらいいんじゃないですかね?」
結局あっさり了承し立ち去って行くマッチメイカー。
「お前も知ってるTV格闘技の自由さ、怖さ…見せたるわ、綾瀬」

連絡もなく、ネットや格闘技番組などで自分の対戦相手を毎日確認する達仁。
「たかが新人の試合、さっさと発表してくれよな」
くだを巻くユーマ。

12月上旬。
佐原とビッグマッチをおさめた余韻もまだ残るアノア。
大した対戦相手もいなく、REAL-1出場も伏せ、試合を休んでいる達仁。
佐原の二戦目の決定もあり、しつこく試合には誘われない。
だからあれからロクに顔も出してなかったが、今日は用がありアノアへ寄る。
「っていうかタツが買いたいって言ったら普通に売ってくれんじゃね?」
「絶対条件じゃないからな、他の方法でも死ねる」
11月にヤクザ同士の抗争があった日から、ヤクザの胸元を確認していた達仁。
抗争なくても下調べもしていて達仁にはザルになってる須賀組のセキュリティ。
銃が最も早く邪魔されることなく自殺出来る。
死後、銃の出処も分かってヤクザが検挙され、最後に良い事をして終われる。
笹田は自殺するかも…としか思ってない上に発言力もなく、銃を手に入れても打ち明けないので邪魔されずチクられず本当に遂行出来る。
銃が手に入らなくとも闇医者から致死量の注射をもらう、ナイフなどで死ねる。
「でも銃で死んだら、恩を仇で返しやがったって言うんだろうなぁ、須賀組の奴ら…ってあのさぁタツは“死“で逃げるからいいけど、俺ヤバくない?」
「今気づいた」
「マジ…?よく言えば目的に真っすぐってことだけど…そもそも途中から養ってもらってるだけの俺だけどさ…」
ややパニックになるユーマ。
「いや…お前は一緒に死なないだけで…」
「まぁその内死ぬかもだけどさぁ…あーどーしよ…人に殺られるのは嫌だなぁ」
「ドーム戦は他県でTVで見るってのは?」
かなり軽い達仁。
ここまで来てただの他人のように離れるのは…と深く思案する悠真。
「…」
「いや…俺も闘う…実際ヤクザとは闘わないけど…見届けるし、バックアップはする…」
「…」
見つめる達仁。
「…あー、俺って実際…達仁の役には立ってないんだよなぁ…ただの相互理解者で…達仁一人で遂行出来る計画だし…今だってこう思ったところで…やっぱり何も出来ないし…」
何も返さず、ただ見つめる達仁。
「俺は…理解してもらったっていう究極の感謝があるけど…」
「俺もだよ…本当に復讐遂行したんだから特別だし…いや…」
ユーマが遮って。
「一緒には死なない…から…死んでたら俺の評価変わる?」
「いや、変わらない」
「ありがとな」

帰り際、最後に立ち寄るアノアの控え室。
「こんな所が思い出の場所ってな?」
地下の狭いロッカールーム、ベンチが置いてあるだけのしみったれた場所。
ここに来るのは最後。変人達との試合、控え室でのお喋りが思い起こされる。
「さっきあー言ったものの、達仁一人だったら、どうやって死ぬ為の道具持ち込むんだよ?」
「外国と違って持ち物検査もないし、二重底の鞄に道具入れる…で、勝利後、鞄の中に道場生達が書いてくれた寄せ書きとかタオルがあるんでそれを持ったまま、リング上の勝者撮影でカメラマンやTVに映されたいです…って」
「顔面タトゥー入れといて善人ぶんのかよっ」
いつものバカな会話を続けていると。
ガチャッ。
「おーお前ら久しぶり」
笹田が入ってきた。
「よっす」
「綾瀬対佐原に触発されて試合数多くしたんだ」
試合終わりの汗をかいた上気した男。
だが疲れた様子より気持ちよさの方が勝ってる模様。
「笹田に教えていいの?」
「お〜…というか俺は須賀さんに会いに行かなきゃいけないから」
退出する達仁。
「忙しそうだな…綾瀬」
「あー…そりゃ〜忙しいよ…笹田だったら言いふらしたりさなさそうだから言うけど、REAL-1出るから」
「マジかよっ!?」
立ち上がり驚く笹田。
「大晦日?」
「うん」
「いや〜佐原に勝ったから出場出来るとは思ってたけど年内とはまさか…」
知り合いがTVに出るというニュース…それよりも。
「あ〜俺の分の招待客用チケットももらってくんねーかなー綾瀬」「どうだろうね」
「結局の所、俺はお前らと喋ってきたけど、友達とまでは思ってないし、興味…だけかも」
「そっちの方がよっぽどいいんじゃない?達仁には」
「お前らが言ってる一般人だよ俺は…。学校での、クラスでの暇つぶしの為の一時的な友達、他人。お前らのように目的も真剣なトラウマもないし、これっきりでサヨナラ」
とドライに語る笹田。
「でもなぁ…そう言いながら実際綾瀬が死んだら、俺もしかしたら泣くかも。思う所もある…美しい意味じゃなくて、お前らが嫌う一般人…他人が死んでも、有名人が死んでも泣くことの出来る奴ら…そんなかんじになるかも。実際目の前で見たら…ただちょっと喋っただけのキズナのない相手に泣いてしまうかも。いや自殺するかは今でも半信半疑だけどさ…試合を見て、有名人のように見てしまってる部分もあるからなぁ…綾瀬には。ま、その時はすまんな」
「その時は俺しか居ないんだから謝らなくてもいーよ」
軽く言うが重い状況。
子供である悠真を見。
「お前は心底綾瀬に惚れ込んでるじゃん……お前は…」
「やめてくれ、そこは考えたくない…今は尊重するってことだけが…」
暗くなる二人。
「俺の方こそ…万能感ある自分だけは大丈夫、想像も出来ない、目の前で起きない限りのんきにしてるような…わかんない…マヒしてるから…達仁の意志の尊重って名目で目を逸らしてるだけかもしれないし…どーせ止めたって独りで行動するだけなんだからあいつは…達仁って俺の力もお前の力も一回も借りてないよな?考えるのも闘うのも自分」
REAL-1出場を喜ぶでもなく、終わりを感じ重苦しくなる雰囲気。
「だから…その時がくるまで自分がその後どうなるのか分からない…今はそれから背けて世間に喧嘩売ってやるっ!メジャー団体に出るっ!って興奮で誤魔化してりゃいいんだよ…」
真剣な表情で真正面に来る笹田。
「…追わないのか?」
「俺は自殺、今更する覚悟はないから…別にいきなり吹っ切れたりしないし」
視線を逸らさずまっすぐなままの笹田。
「もう一度聞くけど、綾瀬が死んでもいいって?」
上手く表現出来ず、言葉を探すユーマ。
「今の時代にこんなセリフもなんだけど…思想に共感したから…」
力無いセリフ。
笹田は…見た目も内面も子供である悠真のことを心配してしまう…。
達仁と違い、庇護欲、母性を少しくすぐる少年。
勝手に動き続ける精悍な青年の達仁。
復讐以外さして動いていない悠真。
「まぁまだ時間あるし色々考えといたら?俺はもう帰るけど綾瀬にチケットのこと言っといてくれよ〜」
最後は軽いかんじで去った笹田。


ドーム戦も決まって、作戦会議を立てる面々。
セコンドが「今だっタックル!」という予め決められた言葉を叫び選手は打撃を入れるというセコンドフェイントというか、異次元フェイント。
「英語バージョンも作らなきゃ」

「TVにパーソナルデータ出るじゃん?「寝技に弱い」とか、そこに「ウィークポイント、心が弱い•ストレスに弱い」ってやっともらえるようにTVスタッフ班に頼んだら?」
「まだ軽口叩いてんのかよっ、少しぐらい緊張しろよっ」
突っ込む笹田。
構わず続ける悠真。
「サンドバック抱っこして入場は?」
バカ話でも、それでも達仁は黙って聞く。
「相手がコールされてる時にお辞儀して、日本語解らないキャラ…は?」
いつまでもおどけるユーマ。
「音楽が嫌いだから入場曲無しってキャラは?」
「天邪鬼過ぎんだろ」
「無音って前衛的じゃね?」
「おいおいおどけっ放しじゃなくてさ」
達仁に向き返る笹田。
「アウェイで野次とか飛ぶぞ」
「家族や仲間に見てもらってきたわけでもないし…逆にざまあみろってする為に力入るよ」
他人を拒絶することに慣れたものならではのズレた返答。
「俺はやだ、黄色い歓声とか聞きたい」
笹田の言葉を無視してユーマが。
「なんで同じ人間なのに俺に負けろって野次を飛ばすんだよ…ってナーバスんなって力が出ない…ってやつよく分からんのだが…」
達仁が答える。
「目の前の相手と自分二人だけの真剣勝負じゃなくて、応援されたい、かっこ良く勝ちたいとか、余計なこと考えるんだろ、そいつらは」
「それが分かんないんだよ…やっぱスポーツの奴らって周りの為にやってるってかんじなのかな?」
「分からん…」
相変わらずの二人を見て笑う笹田。
「はっは」
構わず続ける二人。
「人間って邪魔しないぞ…虫や鳥の方が乱入してくる」
「観てくる…見てくる置物と思えばいいのか…って不気味だけど」
「見世物にされて品定めされるだけ」
「それが嫌なんだろうがっ!やっぱずれてんなぁ」
ツッコミを入れる笹田。
「入場前の選手紹介煽りVTRにさっ、この選手には何のバックグラウンド•バックボーンもアマチュア経験もありません。青春も、思い出も、キャラもないのでVTRが作れませんでしたってやってもらうのは?」
呆れる笹田。
「あー…写真だけ撮ってきたぞ、事務所で…多分写真の上にテロップ載せて終わりの超短いVだよ」
「そう、か…どうせスタッフに対戦相手けなせって言われるだけだし…関係ない一般人けなしてんじゃないよって言われるもんなっ」
アクビをする笹田が。
「お前らよくそんな妄想話ばっかできんな…」

衣装決めを始める。
「いや…TVコードとか禁止ワードは分かってるよ」
立ち上がり思案する達仁。
同じように立ち上がりアゴに手を当て考えるユーマ。
「ガウン…って今の時代ダサいよな」
「シンプルじゃないといけないぞ…いや…もう決めてるんだけどな」
「はいっ!今からそのTシャツとか作るって間に合うのか?」
笹田の単純な質問。
「今は素人でもオリジナルシャツ作れるキットがある…それでユーマに作ってもらう。一枚でいいんだしな」
応援団用のシャツも作らなくていい達仁。
軽い笑顔を見せるユーマ。
「今日買ってくるから一万円頂戴っ!」
手の平を差し出す。
さらっと渡す達仁。
それを見る笹田…脱力。
「あのさーTVに出る。自殺するって言ってる奴らの会話と雰囲気かよっ!」
盛大につっこむ。
「お前らの旅ももう終わるんだろ?俺、お前らの会話でどれだけ脱力してきたか!ヒリヒリしてんのか、呑気なのかどっちだよっ?」
二人から視線を送られる笹田。
「それが分かんないから他人なんだろ…俺と達仁って言葉交わさなくてもお互い通じる時あるぜ?っていうか笹田も今まで話し相手になってくれて、ありがとな」
呆気にとられる笹田。
「数週間前に言われても…しかもお前は死なないんだろ?」
不意に悲しそうな表情を見せるユーマ。
「俺は…まだ…決められてないんだよ…」
空気の変わりように慌てて取り繕う笹田。
「あー、後数週間もあるんだし、こんな所で生き延びてきたんだしさぁ」
真顔になるユーマ。
「生き延びたって、それお前もだろ…別にここ死人一人も出てないし」
逆に諭される笹田。
「笹田こそ30代じゃん?どうすんの?」
「いーよいーよ俺は、嫁もいないし、今まで好きに生きてこれたから細々と生きていくよ…っていうかアノアにはもう来ないよな?大晦日になっ」
手を振り立ち去っていく笹田。
「Tシャツ作成キットってどこに売ってんだよ?」
呑気な締めくくりがされ、日が落ちる。

その日の夜。達仁のアパートにて。
雑貨店でゲット出来たキットで一人で黙々と作るユーマ。
達仁はシャワーを浴びている。
「ちっ、失敗したか…」
軽く丸め、部屋の隅っこへ失敗作を放る。
「ここを気をつけて…と」
10分後。
「完成、後は数十分乾かして…と」
風呂上がり、ソファーで寝転がり体を癒す達仁。
ソファーのフチへ座る悠真。
「あー、俺達っさぁ、逃げてるよなぁ…いや…俺だった…いや」
要領を得ない言葉。
「何が?」
目を瞑ったまま答える達仁。
「いや、達仁が自殺成功したあと…っていうか自殺成功って凄い言葉だな…じゃなくて、その後…俺さ…無一文で頼るとこなくてさ、それを忘れて、達仁との異常に濃密な時間で本当に忘れられてさ…」
悲しさと楽しさの入り混じった表情。
「俺はお前の親でもないし、遺産は残せないぞ」
「それ…軽口なのか真剣なのかわかんないぞ」
憂いを帯びた笑顔。
「っていうかただでさえ死が前に迫ってる達仁に無駄な心配かけたくないって思ってて」
一筋の涙がこぼれる。
だが達仁の側からは見えない。
「でも今言っちゃった…やべえ、メンヘラ女っぽいな」
「…」
沈黙。
起き上がる達仁。
「別にお前のことは軽蔑してないぞ…死なないってだけで絶対結婚しない。復讐もやり遂げたお前は…もう一人の…」
「おいおい、ドラマのセリフじゃん、もう一人の俺だ…って、くっくく…」
(なんとか耐えれた、泣きじゃくるとこだったぜ)
立ち上がる達仁。
「もう誰にも一生甘えられないかもしれないんだから今、思いっきり泣いていいぞ」
その言葉が耳に入った瞬間。
堰を切ったように涙が溢れ出る。
狂ったように叫び上げ、達仁という、他人の胸元で泣きじゃくる年下の悠真。
心…というもの、方向性が同じ二人。
達仁の方がより狂ってて冷めて、涙も出ない、甘える気も起きない、本当に死を選ぶ者の…。
「ぐすっ…ぐすっ…タツ…ヒトはっ!優しいなぁっ!」
その達仁が死ななきゃいけない…重苦しさに怒り、またその気持ちがしぼみ、泣き、ぐるぐる回る頭の中。
達仁が思い直し、なんとか二人で生きてゆく世界を…初めて期待してしまった瞬間。
だが、それを想像しても、30代以上で結婚もせず馴れ合う狂人二人が周囲から嘲笑•中傷•否定•誹謗され、バカにされ、また同じことの繰り返しかとすぐに悟る…。
一瞬で悟り、冷静に戻るほど…やはり社会も重い、心の傷も重い。
理解者が、本当の理解者が現れたところで、息苦しさは変わらない…そこでまた気付く…この苦しみから逃れる方法は結局一つしかないと…。
結婚•出産出来ない悠真の詰んでる人生。
そこまで考えてまた自己防衛の為に吹っ切れる心。
吹っ切って、忘れて、閉じ込められたもの…。
殺された心。
マトモには生きていけない心。
人間の居ない世界、死後。
“生まれてしまったもの“の…苦悩。
生まれたくなかったという重み。
弱い精神、心。
欲しかった物が、“生まれなかったこと“…欲望も夢も将来もなく…せめて自分で死を選ぶことしか出来ない、世間では精神異常者と呼ばれる、社会不適合者の二人の最後の濃い時間。
何を考えてるかも読み取れない達仁。
(…やっと落ち着いてきた…あーあ、子供みたいに泣いちゃった…よしっ)
切り替えて。
「あっ、シャツ出来てたよっ、今もう着てみてよ」
両手でシャツを持ち、拡げる。
「…」
着てみたものの。
「この家全身鏡、姿見がないからよくわからないぞ」
「いやぁいけるよっ」
Tシャツの胸部分…そこにはアルファベットが並べられていた。
「やっぱシンプルイズベスト、海外の奴らにも分かるように英語」
黒地の上に、PLEASE DIE…と描かれていた。
「これでも…アホヤンキーはただの普通の、英語ロゴが入っただけのシャツと思うんだろなぁ。頼むから死んでくれっていう、超切実な一文、一言なのになぁ」
あっさり切り替わり再びこの世を憎む…テレビゲームの悪役のような「世界よ滅んでほしい」という思いを真剣に願う二人。
「これってさぁ、アホがプリダイとか略したらどーするよ?はっは!」
狂ってる反動で躁にもなるいつもの会話。
「ASSISTEDSUICIDE、自殺の手助け…でも良かったかな?」
「それなら頼むから外れてくれっえ意味をこめて、ESCAPIST、TRANSGRESSION
、ABBERATION、perverse、DEVIANT、OUTLAW」
「ちょい待ちっ…そこまで行くとただのバンドシャツになるんだよなぁ」
二人ならではのオカシな会話は続く。

翌日。まだ話の続き。
「あの、さ…本当は左腕にPLEASE、右腕にDIEってあって、それを腕組むように前に見せつけるっていうの入場でしてほしかったけど、流石に漫画キャラっぽくて恥ずかしいし、達仁のキャラには合ってないなって」
「そうだな、パフォーマンスはせず、どんより暗く現れて歩いてリングに上がって、顔面タトゥーしてるにも関わらず、暗くうつむいてコールを待つ死人だよ…陰気ってバカにされんだろうけどな」
「普通タトゥー野郎は、ニヤニヤして舌とか出したりするイメージだな、くっく…」
「ポエトリーリーディング入場で流すのは?」
ポエトリーリーディングとは、詩を朗読すること。メッセージ性が強い。
「文字があんのに…それに録音するの照れくさいぞ」
「えっ、テレビに出る人が照れくさいの?」
この後に及んでまだのんきな談笑を続けられる二人。
「あ〜もう一つ、皆のスターをTVの前で壊すってのもあるけど」
「奴らにとって暇つぶしだからな、暇つぶしのTVの“今“ほんのちょっと楽しみなだけのスターだから、結局…結局人は自分だけ」

「シャツにURL入れるの忘れてた」
一時間後、二作目完成。
「このURLを踏むとこれが出る」
カチッ。
心の闇や、悲しみ。それを作り出す社会の空気というものなどの文章。
「文武両道。達仁さぁ、文章と武道、どっちもやってんじゃん」
「俺は学がないって言われるよ。浅いって。武道だって、喧嘩格闘技だし…」
ここにきて自分を卑下する達仁。

その後早めに就寝した達仁。せめてものサポートの為に誤字脱字の確認をする悠真。

サイトの目次に、産まないこと。一般人教。いじめ。社会の空気。自分の苦痛の平等化。逃げ。ハードルを下げること。などの文がならぶ。
下から中に上がれたとしても待っている人の悪意。一般人の悪意。

眠くなってきた悠真。パソコンの電源を落とし、就寝する。


翌日。
「笹田っ」
「よぉ」
「ほらっ、このシャツで入場するよ」
「ん…?頼むから死んでくれ…か?不良が言いそうな言葉だけどお前らが言うと…なんか…」
「これは俺の願いかなっ!あははっ」
屈託無く笑う悠真。
(訴えかけたい、弱者達の気持ちを…ってのは建前か…)
「じゃあなっ」
楽しそうに去る悠真を見て。
それでも、何も…。


12月中旬。
ネットニュースを見る…と衝撃の文が…。
王者ウォルバー•レスク対綾瀬達仁。
「やられた…」
考えるヒマもなく携帯電話に着信。
須賀の文字。
達仁の電話中、食い入るようにパソコンの画面を見入るユーマ。
電話を終えた達仁。
「はぁ…とりあえずアノアへ行くぞ、ユーマ」

アノア控え室、兼溜まり場。笹田と悠真の姿。
そこへ須賀との用が終わった達仁が合流する。
まずおさらいする三人。
勝つつもりだったのに。
もう発表されてしまったもの。
チャンピオンシップではなくワンマッチ扱い。
10分10分5分の3ラウンド。試合順はまだ決まっていない。
勿論ルール変更も相手変更も出来ない。
新人〜中堅とやるつもりが、急に変えられる。
発表されたものに注文つけて、逃げたと思われたくない心理をついたもの。
「マジか!?ってかんじだけど日本格闘技界にはいくつも前例あるけどさ」
ハメられた形の達仁。
「自由、自由を好むから、このやり方も…まぁいいけどな。良く言えば最後に世界レベルと闘れるんだから」
でも勝てない。
しかしもう脅した後。
もう他に選択肢はない。
「せめて判定負けの時にTシャツ着るのか?カッコつかないぞ」
しかし一戦しかTVに出れない。他のことも出来ない、格闘しか出来ない達仁。
考える時間もない。
急オファーならぬ急発表。
強制。
だが反則で勝つのも正義的にありえない。
「岩瀬はこれ、匂わせてなかったのかよ?」
尋ねる笹田。
「いや、ニュアンス的には下同士で組むってかんじ…というか流石にプロデビューと王者は組まないと思ったんだ…」
芸能人がリングに上がった時には中堅のパワーファイターとのマッチを組んだREAL-1。
パワーファイターという穴のある相手を当てることでもしかしたら?を想像させるマッチメイク。
それか、パワーに蹂躙され、すぐ自らタップする芸能人と格闘のプロの凄さを見せつける意味合いの試合か。
「だから俺が派手に負ける所を見る為にパワーファイター当てられると思ってたんだよ」
「そしたらパワーも何もかもある王者と当てられるってな?」
他人事の笹田。
「まぁどっちにせよ制裁マッチってことだな。岩瀬を怒らせたんだから」
ユーマは達仁へ期待の目を向け言葉を待つ。
悠真に向き合う達仁。
「勝てない…」と呟く。
落胆の色を見せるユーマ。
「リアリストで技術論で見てるからこそ「勝てない」って言うんだよ」
もう一度ユーマにそう語りかける達仁。
「俺はそういう細かいの抜きに単純に勝てないと思うぜ」
忌憚のない意見を吐く笹田。
「…」
かといって何も言えない悠真。
達仁がまた呟く。
「“壊し“のプロのトップ…」
「頭回らないのか?それだけどうすることもできないってことだよな…。そりゃあ中量級は人類最激戦区って呼ばれる場所だからな。いっそのことお前が最軽量級だったら選手層も薄くて、そこまでレベル高くなかったのにな」
笹田の言葉を無視して…。
「負けて自殺はありえない」
心ここにあらずの達仁、呟き続ける。
「だかもう決まっている相手…逃げることはしない。だけど勝てない…次は無い」
「あの、さ…勝てよっ!!」
腑抜けている達仁へ喝を入れる悠真。
「…」
「だから勝つ以外に成就する方法はないんだろっ?」
「…」
「今迄で一番弱気じゃんっ」
強敵相手に怯えるのではなく、作戦遂行出来ないこと。対戦相手の指定をしなかった、甘かった自分に対して深く猛省している達仁。
失敗自体にではなく、腑抜ける、熱の無い達仁に対して憤りを覚える悠真。
「このままだと…マジで無策で行くのか…」
「元々無策だろっ、地下でちょっと闘ってるだけでTVに出られると思ってたんだから」

その後、帰宅。
縋るような目で見てくる悠真。
「そうだなぁ…悠真が強かったら、俺をドームで殺してもらったのに、共作として…」
「えっ?俺が格闘技の才能あったら…ドームで俺と達仁が闘って…ってなんで俺が殺し役なんだよ、破綻してんじゃん…今日はもう寝たら?一度眠って頭リセットさせて…」
「そうだな…」
早々に就寝。

翌日。
結局アノアへは、用があって何度も訪れる二人。
「マジで載ってんじゃん名前…」
「アヤセ…タツヒト…」
など、参戦は地下でも噂になってる模様。
その中には敵意など、嫌な視線もチラホラ。

アノアからの帰り。
路上。
アノアの選手が二人程道を遮ってくる。
恨みつらみをぶつけてくる者達。やっかみの言葉、達仁がメジャー団体に上がれることへの…。
自分達は結局ゴミクズ、成り上がることも出来ない。
底辺の中から一人輝く者が出てくると、自分達の置かれた状況を知らしめられ、ムカつく…と。
達仁の成功…というか目的をこんな奴らに邪魔されるなんて…と悠真はブチ切れ、目が飛んでしまっている。
「こんなとこでヤんのか?」
凄む地下の男。
ブツブツ言い出すユーマ。
「絶対殺すっ…道路に投げて車にブツケル…」
目が据わるユーマ。
「走ってる車に投げつけたら電車みたいにバラバラになるかな?」
と目はそのままでじゃあくな笑みを浮かべる。
そもそもアノア最強の達仁に勝てる訳もなく。
怯えて逃げる地下の男達。
溜め息をつく達仁。
「はぁっ…絡まれたり、頼み事されたり…考えるヒマもない…」


数日後。
須賀に呼び出され、所属名をアノアにしろと命令された後。
夜。アノアからの帰り。
繁華街近くの公園を通り抜ける二人。
…と、そこに、不良らしきニヤニヤした連中。
「おいっ!待てよっ」
「ん〜…高校生ぐらいか」
冷めた目で振り向く悠真。気分だったので。
「はいっ!なんでしょうか!!」
「くかかっ!こんな下手に出てくるアホ初めて、もっと怯えろよっ!今から金、奪られんだからよぉ〜」
「どこの高校の方ですか?」
「んな足のつくこと、言うわけないだろっ、俺らのこと舐めすぎじゃねーかっ?」
「今ので高校に通ってるってことだけは分かった」
「なんだよ、学校にチクられたくなかったら見逃せってか?なんか余計ムカつくわ」
「あのさぁ〜、親の金で高校行ってるような普通の奴は人に喧嘩なんか売っちゃいかんよ?それかお父さんヤクザで好き放題やらせてもらってんの?」
「はぁ?ヤクザ?ヤクザって言葉出したらビビると思ってんの?」
「だってほら、やっぱいきなり殴ってこないし…言葉で脅して金出したら見逃す穏健派じゃん?君ら今迄、何本、人の骨折ったことある?お金渡すから聞かせてください」
「骨なんか折ったことねーよっ!ってか、金出すとか骨折ったとか、こいつ不気味じゃない?」
仲間に視線を向けて同意を求める不良。
「あの〜格闘技のチョークスリーパーで落として失神させたとこ殴りまくって、その衝撃で起きた相手をまたスリーパーで失神させて…っとかの遊びもしたこないですか?」
「なんだよ…そんな話して俺達の方が残虐です、だから逃げろってか?お前らこそ喋ってばっかで口だけなんだろ?オラ!」
俺は喋ってないだろうが…と、思う達仁。
悠真は。
(あーあ、やっぱりこういう、しょぼい奴らか…弱そうなリーマン、ガリガリのオタクばっかターゲットにして金出さすか、ちょっと小突いて終わりのしょっぱい奴らか…。そりゃーそーだよな、そんなヤバい奴いるかくりは低いもんなー…ってかそれ側が俺か)
「どーしたよオイオイっ!べしゃりも出来なくなったのかー?」
「ハハハッ」
嘲笑してくる不良達。
元々ユーマが喋ってるだけで、暇そーな直立不動の達仁。
それをビビって動けないとでも思い込んでるのか、気にしない不良共。
一人楽しむユーマ。
「あーあの、お金はお渡ししますんで、最後に一つだけ聞いてください」
「おおーっいいぜっ」
「ウケなかったら一発増えるぞ?オイイッ!」
フゥッと息を吐き一歩前に出る悠真。
先程までのフザケ口調からはうって変わり、冷徹な声へ…。
「お前らザコそうだから、逆に絶対負けたくない。だからどんな手段使ってでも勝って、勝てたら何本も折る…」
雰囲気の変わった悠真。
狂人の言葉に初めて気圧される不良達。
それをエンタメとして見つめる達仁。
格闘者だが、ピチピチの服を着ているわけでもなく、服越しに筋肉が膨らんでいる訳でもない、175cmの一般人に見える男…だが一言も喋っていやい不気味な存在…。
いつ殺し合いが始まっても応じる狂人悠真。
ナゾの雰囲気を持つ。
真顔で…。
「折られたら、親に泣きつくんだろ?不良は親と仲良くするの恥ずかしがるのに、いざとなったらみっともなく甘える」
徐々に顔が歪んでくる。
「なぁっ!関節って一回外されたらさぁ、外れやすくなるし、雨の日は痛む」
ユーマの一人スピーチ。
「お前ら…お前らこそ喋ってばっかだろっ!?口だけなんだろっ?」
とうとう反論するが、弱々しい。
「目は失明するし、睾丸なら子供も作れない、男性ホルモンも分泌されなくなって大変…。喧嘩ってノールールだよなっ!?やろうぜっ」
雄叫びを上げるユーマ。
「ちっ、だからもっと大人しそうな奴にしようって言ったんだよ」
「うっせー、俺こんな奴らとヤンの嫌だよっ」
仲違いを始める不良。
近づいてくるユーマ。
「ひいっ!逃げろ!」
「くっそ、こっちの方が人数多いのにっ」
「障害なんて負いたくねーよ、くっそ」
ドタドタと逃げ去る者たち。
追うフリをするユーマ。
「ちぃっ、置いてくなよっ!バラバラに逃げんなっ!」
「後で電話かけてこいよっ!」
全員走り去り、静寂が訪れる。
「やっぱ公園の方は静かだよな」
遠くに見えるネオンの光。
「…えっ?もしかしてアイツラが喧嘩買ってきた場合って…俺一人で相手しなきゃ、いけなかったの?」
振り返ると達仁はベンチに座っていた。
「俺は文が長いけど、お前は話が長いから」
「…」

取り直し、仕切り直し、帰り道…。
「っていうかもうプロなんだから喧嘩しちゃ、マズイじゃん」
達仁が答えるより早く。
「あーでも、試合当日まであと少しだし、アゴ割ったら治るまで口利けないし、いーかっ!…あっ筆談があった…なら追加で手のあたり、両手首、指折ったら大丈夫かっ!」
悪びれず異常な話を嬉々として続けるユーマ。
「万が一があっても須賀組が黙らせるだろ…俺を通じて岩瀬と仲良くしたいみたいだし」
ユーマの興奮を気にも留めず淡々と話す達仁。
「あ〜、政治的に使われてんのね…でも須賀のおかげで生活出来たからな〜。別にヤクザに非道いことされたわけじゃないから、元からそこまで拒否感ないけど」
「アノアが無かったら何も出来なかったんだから、ある意味、俺という刺客を生んだのは須賀だな…」
「ある環境は利用しなきゃだもんな〜」
王者戦のストレスもあり、イラついていた達仁。
もし喧嘩が始まっても、自分も手を出していたかもしれない。
そんなこんなで絡まれてる内に当日へ近づく。
ここまで来ても、ドーム直前まできても、人の悪意や嫉妬に晒される達仁。


メインイベントに決まってしまった達仁の試合。
それは格上げではなく、テレビ中継の都合であえてメインレベルの試合が中盤あたりへ移行することとある為で、期待されてるからなどでは決してない。

銃は勝利後、喜び柵近くまで来た仲間に対しリングを降り抱きつきに行くタイミング…でユーマが渡す作戦。その銃をタオルで隠してリングに戻る手立て。
「俺は一応TVに映んない方がいいし、セコンドにつかない」
「失踪した、天涯孤独の家出少年が地上波テレビに映るなんて逆に…面白いぞ」
「あはははっ」

「本当に死ねんのか?」
「そもそも格闘技はいつ死ぬか分からない、死に向かう競技。死んでも悪い意味で伝説になれる」
「えっ、前…」
「いや…格闘技ファンの中でだけな…珍事件扱いで」


ドーム戦前日。
ベッドの上で寝転び、考え事をする達仁。
たまたま目を引いてカルト的な伝説となるか、ただの心の弱かった下(げ)の人間の評価になるのか?
ここでヒヨッて何もかも辞めます。
忌み嫌っていた一般人に戻って、染まって生きますって言うのか?
俺の覚悟って、自殺したくなるほど心を壊された…怒り悲しみ復讐心。
ここで止まったらただの人、構ってちゃん、有言不行。
ザマアミロお前らっ!俺は本当にやってやるっ!ってもんだろ…。
自殺を選んだのか、選ばされたのかで意味合いは変わるけどな。
誰かに直接殺される、間接的に殺される、心を壊されるこの世の中で、自分で死を選んだんじゃあない。
苦しくて死ぬバッドエンドだよ…。
なにも残せず、誰かを変えるでもなく。
ヤクザや殺人者っていう誰かを傷付けて出来た肩書き•看板を持っていない俺が…。
何者でもない俺が…。

絶対に完遂させなきゃいけない俺の物語。
狂った目的。
変わらない思想。

死を賭けて闘う達仁。
命を燃やして、人生を賭けるほどの…死合い、果し合い…世間との。


当日…。
心配そうな悠真。
「寝てないよな…?」
「ははっ、これで寝れるようなバカさがあったら…こうなってない」
カーテンを開ける。
サミシゲな空。
まさしくジャッジメントデイ。
冬の物悲しい、ただでさえ感傷的になる日。
終わりが近づく…。
「俺にとって初の大舞台ってわけじゃなく、死に場所だよ」
「…自分で打ち首されに行くって?」
複雑な、入り交じった感情。
達仁と一緒に家を出る。
選手は勿論、開場より早くドームに来て、入場のリハーサルや、手順、リングの感触を確かめる為、開場前の客のいないドームで、裸足でシャドーを各々始める。
一応バックステージパスをもらえた悠真も達仁につきっきり。
ヒマっちゃあヒマだし、審判の日で頭が追いついてない部分も。
リング近くで他の選手のリングチェックが終わるのを待っている。
セコンドもトレーナーも入り乱れていて、顔面タトゥー男は特に目立たない。
特に話もしない二人。
「…」
「おっ?達仁の番だぜ」
リングに近寄るユーマ。
初めて触るロープの感触に「思ってたよりかてえな」
達仁は…シャドーボクシングするでもなく、コーナー際から天井や客席を眺める。何かを想う。
周りの選手達は新人が遠慮して端にいると思っている。

その後、時間は経ち…。
当日、控え室で待機。
別選手に話をしにきた岩瀬の姿が…。
「ん?お前か…」
面倒臭そうに近づいてくる岩瀬。
「もーそろそろメディカルチェックじゃないのか?」
「ちょっとドタバタしてて手配出来てない…お前以外の選手は今迄の大会でチェック済みやからええんや…」
無責任な言葉。
「そういうチャランポランなところがこっちにも都合がいいからTVエンタメ格闘技は否定しないが…俺の脳に異常があっても知らないぞ…」
「はっ」
鼻で笑う岩瀬。
「お前みたいなイカレてんのはしぶといやろ…それに地下で何十戦やってきたんやろ…それとも全ての打撃避けてこれたっちゅうんか?」
まだまくしたてる岩瀬。
「それにな〜格闘技よりモータースポーツの方が死亡件数多いんや、全速力の事故と比べてみ?
たかが殴られたぐらいでは人は死なん」
「知ってるよ、あいつらの方がエンタメ重視の殺人興行だよ…」
達仁を見つめる岩瀬。
「俺と似たような冷めた思想を持ってるよなぁ、お前って…合理主義やろ?…つっても行動は真逆やけど」
本当は勘が良くて相手の求めることが出来る達仁。
感受性が豊かな方が芸術的にはいいが、現実で生きるには鈍い方がいい。
「稀代の仕掛け人、館長にお褒めに預かり…光栄ですよ?」
視線を合わせる。
「思想家の雰囲気滲み出てるぞ…なんで普通の社会で頭に獲らない?」
「心を殺されに行けっていうのか…?」
ボソッと呟く。
顔を上げ。
「っていうか中卒ですよ?」
「…マジか…でも学力は悪くないんやろ?」
「…」
学力などどうでもいい達仁は沈黙する。
「お前が金至上主義で俺の言うことを聞くやつやったら、まぁまぁの役職を与えても…違う知り合い方でタトゥー無かったらな」
目は合わせたまま。
「冷めた思考を成り上がりに使って、ちゃんと合理にだけ使って、そのタトゥーいれる行動力を社会で使ってたらなぁ…なんでこんな事言ってるかっちゅうと…俺の下はな…道場の指導員しか、飲食店しか出来ない体育会系バカしかおらんのや…冷めてない、人の裏も読めんのよ…あいつらは」
腕を組み宙を見やる岩瀬。
「そりゃー館長はTV•興行、全ての世界で上と渡り合ってきたんだから…それも特別ですよ…」
緊張の解けてゆく二人。
「なんや、俺のことそんな評価してるんか?」
「なんだかんだいって格闘家やってるのは社会的な要領悪いのが多いですからね…地下はもっと酷いけど」
話を続ける達仁。
「ただヨイショするだけじゃなくて、自分で行動して成功した館長…テレビマンやヤクザに対して投資家な対してへりくだってたのかどうかはこっちの想像なんですけどね…最初にある程度のコネとまとまった金がないと異常に下手に出なきゃいけないでしょ?」
怪訝な目を向ける岩瀬。
「なんや〜見てきたように…経験あるんか?」
あっさり。
「いえ…」
「いきなり俺の太鼓持ちなんぞ始めよって…今頃ご機嫌取りか?二試合目もオファーして下さいってか?」
精神的な距離が取られる達仁。
普通のファイターなら大会場を前にし、スケールのデカさに憧れ、確かに二戦目も熱望していたであろうが。
「今日出れたら、それで充分な思い出が出来ますから…俺は一般人が嫌いで…だから有名人の館長は凄いねってだけですよ」
脱力する岩瀬。
「お前との話は要領を得んわ、そのフラフラしたかんじ…やっぱり自由人やな」
館長と談笑するナゾのタトゥー男をジロジロ見る、セコンド•トレーナー•選手達。
それを一瞥してから…。
「地下出身なんで本当に知り合い一人もいないんですよ…それでまたコネかって陰口言われてて…でも館長とこれだけ喋ってるから、親戚と思われてるかもしれませんね?」
ふと思い出す岩瀬。
「あぁそうや、お前無所属やからウチのモン一人セコンドにつけとくって話しにきたんやった」
「どうも」
(こんなのんきな終わり方じゃ駄目だよな…よしっ)
突如真剣な表情を見せる達仁。
「ん?」
「俺のことを叩き潰す為に王者当ててきたのはそりゃあ恨んでますよ、しかも直前オファー、発表済み…まぁ逆に流石に成り上がったやつのやり口は凄いな…とも思ったけどな」
「その俺を脅す奴の方がよっぽど凄いぞ…素人に脅されたんは初めてやからな…俺に、俺凄いヤンチャでしたよアピールの為に睨んでくる小物とか、入門時に舐められないよう大声出しまくるようなアホの小物はおったがな」
ふぅーと息を吐く岩瀬。
「どうあがいても勝てん試合、逃げるかもとも思ったけどなぁー」
会話が始まる前からパイプイスに座ってる達仁を見下ろし、更に。
「逃げたかったら逃げてもええで…その代わりとんでもない額の違約金払ってもらうことになるがなぁ」
今から侮辱が始まるのかと思いきや、急に溜め息を吐く岩瀬。
「あーあ、須賀組のせいで、須賀のお遊びの地下のせいでこんな厄介事抱えることになってしもて…見に行ったこともないし、須賀も直接関わりないからええと思ってたんやけどな…」
いつの間にか他の者はリハーサルの為呼ばれていて、控え室の中は二人きりに。
突然怒気を孕んだ声で。
「お前と会った日かやな…須賀が関わってきよるんやっ!なんも知らんアホがなっ!」
自分を使って関わりたいだけの須賀と思っていた達仁。直接会ってるとは。そんなことは露とも知らなかった達仁は耳を傾ける。
「もっと選手派遣させろって、もっと選手を地下によこしてくれってなっ!…そもそも佐原だって勝手に落ちぶれて流れ着いただけで俺は関わっとらんのにっ!」
「そうだな…だからアポも取れなくてこんなに遠回りしたんだけどな」
岩瀬を見上げ微笑する達仁。
「なんやさっきまで普通に話しとったけどな…人がおったからやっ、お前は俺にとって疫病神やっ!」
憎悪を向けてくる岩瀬。
「知らんよ…ヤクザはうざいね、ってか?…あんたんとこの組に言えばいいだろ?」
「俺は金渡してるだけや、賭博だって勝手にやられて…」
うつむき息を吐く岩瀬。
「分かってるよ…団体大っきくする為に仕方なく関わったんだろ?」
間髪入れず。
「そうやっ!あいつらに頼み事すればするほどズブズブ深みにハマって抜け出せんくなるっ!」
イライラして落ち着かない岩瀬。対照的に冷静な達仁が。
「だからなるべく上納金は渡すからそこまで介入せんとってくれってやってたのか?…それに今日も選手派遣程度の頼み事だから無下にも出来ない…だって利益食われない限り、結局ヤクザは何もしないから…ナワバリって言葉は別の意味だし…」
達仁に振り返る岩瀬、一際大きな溜め息をつき。
「はぁーー…そこまで分かっとるんやったら…」
「…」
更に溜め息を吐く岩瀬。
「はぁー…もうええわ」
意気消沈する岩瀬、今更綾瀬に愚痴を言ったところでなにもならないことに気付き、合理的さに戻るために、今日の業務に戻る為、去ろうとする。
達仁はすかさず立ち上がり。
「岩瀬さんさぁ…こんな終わり方じゃダメでしょっ、もっと憎しみ合わなきゃ気合い入んないだろ?」
達仁の言葉を無視して扉の方へ歩いてゆく岩瀬。
「ウォルバーのこと流血させまくってリングのスポンサーロゴ見えなくしてやっからよー!スポンサーに謝って、血でTV局•PTAに怒られて、ヤクザにむしられて」
まくしたてる達仁。
接近してくる岩瀬。
すっと真顔になり、いつ襲いかかられてもよいよう、構えず気構えだけはする。
「あーあ、ヤクザに貸し作ってでもやってもらえばよかったわ…流石に佐原を倒す奴と今はやれんわ」
173cmの元格闘家、10年前まで現役だった男の闘争心は近づく間にすら消え…。
「俺も老いたなー、昔は弟子をバカスカ殴っとったんやで?もし当時お前が門下生やったらガチでやっとったやろうな」
牙の抜かれた男。
「今まで都会でこんな業界でやってきて疲れたんだろう…」
労わるような言葉。
「あかんあかん、お前感情無茶苦茶やなー、多重人格者ちゃうか?お前がリング上で無様な醜態晒すの楽しみにしてるわ」
今度こそ去って行く岩瀬。
一人取り残され、リハーサルもなく、セコンドもなく、ただその時が来るのを待つ達仁。
その瞳は達観していた。

「アノアの最強綾瀬がグチャグチャにされれば身の程知ってまた地下に閉じこもるやろ…ウォルバー呼んできてくれ…臨時ボーナスやるってな」

関係者扉付近、最後の挨拶をする二人。
「ハルカさんはB席買ったって」
悠真と笹田、二枚しか運営からタダチケットをもらえなかった。

別れ際、笑顔を見せる達仁。

客席側。
隣り合う席の悠真と笹田。
広いドーム内、席ぐらいは余っている。
関係者席の後ろ、一般客用の最前列の席を用意される。
理由はテレビで会場が映る時、席が埋まってる方が見栄えがいいから。だから普段もスタッフなどか座る。

「他の奴らの試合なんて頭に入んねーよ」
そわそわ。
「顔面タトゥー気持ち悪がって会場から「コーローセー」コールとか起きんのかなぁ」
試合を見ず喋る悠真。
「周りは、客はエンタメを楽しみに来ているのに…俺って…くくっ…」
笑ってはいるが異常な緊張感の悠真。
(何考えてるかイマイチ分かんなかったなぁ…死の怖さを上回る、ストッパーの外れた心なのか、それとも恐がっているのか)
もはや客席にいる悠真に確認の術はない。
「タトゥー以外はフツーの新人と思われるのかなぁ…」
独り言の多い悠真をよそに真剣に試合に見入る笹田。
メインイベントに近づいて行く…。

数試合が終わり、イベント自体の約三十分の休憩へ。
ドーム内のモニターがCMを流す。
小さなBGMが流れ続ける会場内。
トイレは大混雑。
感想を言い合う者や、電話をする者、試合の速報をブログに上げる者。
流石に何時間も達仁を気にかけて座りっぱなしだった悠真も、一旦会場を出て外の空気を吸い、ストレッチをする。
もう既に夜になっている。
東京のネオン、交通量。騒がしい。
他に何をするでもなく、席へ戻る。
後半戦へ。
疲れてきている悠真。
目の前でどれだけの派手な攻防が行われようが、頭に入ってはこない。
いつの間にか、最終試合へ…。

照明が消え、リングアナウンサーがリング中央へ立ち、選手をコールする。
無意識状態から目覚める悠真。
まずは挑戦者側、キャリアの浅い側の達仁が呼ばれる。

無音の中入場してくる達仁。
だがドームの広さが足音すらも奪ってしまう。
例のシャツ着用で入場してくる達仁。
もはやその目は…。
観客の目や顔が入ってきても…謎の悲壮感に包まれた、入りきった者。
「なーんか目も表情も違うな」
「そりゃそーだろ、死ぬんだから」
「俺は…まだ、結局はしないんじゃないかと思ってるし…佐原と闘って楽しそうだったじゃん。それに試合の緊張と責任でかそこまで、今日もフツーだったじゃん、あいつ」
「あー流石に精神薬でも飲んでたんじゃない?」
「試合前に?」
「なんかメディカルチェックも無かったみたいだし、そもそもドーピング検査とかもしてないから、飲もうと思ったら飲めるっ、て言ってたけど」
「というか、精神安定剤持ってるの初耳」
初出場の顔面タトゥー男の入場に歓声はなし。それどころか…。
「なんかムカつくよな、顔タトゥーごときで偉そうに入場してきて…お前声デカイじゃん、代わりに大声で野次ってよ」
ニヤニヤする男。
「おおっ行くぞー」
隣の男がすぅっと息を吸い込み。
「オラータトゥー野郎ーどうせ弱いんだろー!?目立つ為だけにタトゥー入れる、しょっぱい奴よー!」
「タトゥー入れたら強くなる訳じゃないんだぞー、ギャハハッ」
仲間がいればなにしても怖くない、恥ずかしくない連中がここぞとばかりに騒ぐ。
静かなドームに響き渡る野次。
「ちっ…あっこの席の奴ら…なにがタトゥーごときだよ…一般人が出来ない、超越の証明だろうがっ」
いきり立つ悠真。
「おいおい…身内の試合ほっぽり出して喧嘩しに行くのか?」
なだめる笹田。
「あーそーだった」
一瞬で切り替え笑顔を見せるユーマ。
「でもさぁ…相手が王者だから、楽しみ…とはならないのよ…心配の方が上回って…そのストレスもあって今やばかった」
ドームの長い花道で、まだ入場シーンは続いてる。
真っ直ぐ歩く達仁。
「結局代替案見つかんなかったもんな…」
「王者がプロ一戦目の相手に思いっきり油断してくれるのを期待してるよ俺は…」
手を組み、祈りを客席から送るユーマ。
ドームという広い敷地の中でちっぽけなユーマとタツヒト。
リングに上がった達仁へ大きな声援を送る。
「タツヒトー!!」
だが達仁は客席を見やるでもなく、ただコーナー際でうつむき立っている。
「…」
変わって王者の入場が始まる。
煌びやかななライトの光の演出。メタルのサウンドがドーム中に轟音を散らす。
「ウォルバー!今日も派手なKO見せてくれよー!」
「ウォルバー!!」
うってかわって観客のボルテージも上がり、もの凄い声量の一万人以上の歓声。
「…でっけえ…やっぱ外国人は違うなぁ」
感嘆の声をあげ見入る笹田。
対照的にストレスでイライラし、不機嫌そうな顔で貧乏ゆすりを始める悠真。
それに気がつく笹田。
「お気に入りの選手の応援…どころじゃねーもんな、ほとんど家族がリングに上がるくらいの気持ちだろ」
「分かってんならわざわざ言うなよ…」
微笑する笹田。
「いや、それでいいと思うぜ?だって今日死ぬってことでお前ら異常な暗さ見せんだろーな、居心地悪そーだなぁと思ってたんだぞ俺…」
花道の上を堂々と歩む王者から目を離し語りかける。
「王者っていう相手のおかげで、本当にそっちだけへ意識行ってるし、いつも通りにダベれて楽だよ俺ぁ」
笹田を軽く睨むユーマ。
「ちっ…こっちはそれどころじゃねーんだっ」
ソワソワし続ける。
「兄貴が目の前で試合するってか?」
笹田の冗談。
だがユーマは真剣に捉え…。
「兄…か…そんなの考えたこともなかった…他人…他人だからこそ有名人のように崇められ…親友でもなく…」
ブツブツ言ってる悠真をよそに、リング上に上がった王者へ更なる歓声。
「う…やっぱオーラあんなぁ」
その存在感に舌を巻く笹田。
「俺…ミドル級だけどこのウェルター級に瞬殺されるわ…っていうかリングサイド席は初めてだしさぁ」
メインイベントの今になって、今更興奮しだす笹田。
「分かるけどな…ヤバイくらい強そう」
冷めきった悠真。
照明が点けられ、リングアナが中央へ。
「只今よりっ!本日の最終試合、十試合目っ!メインイベントを行いますっ!ウェルター級ノンタイトル、ワンマッチッ!」
達仁に対し片手を広げ。
「赤コーナー、175cm70kg。無所属、日本、あやーせー…たーつーひーとー!」
軽い歓声。
「知り合いがコールされてるってのも中々アレだな」
いよいよ始まる…。
うつろな目でリング上を見つめる悠真、声援も送らず上の空。
「青コーナー、180cm77kg。ブラジルスクワッド所属。ブラジル。ウォルバー!…レスクー!」
ラスト試合に向けての期待で盛り上がる観客。
終わりで大会自体の評価が決まることもある格闘技業界。
「…7kg差かぁ…綾瀬はナチュラル(適正階級)ウェルターで、王者はミドルから落としてきてるから、今はもっと重いだろうなぁ」
より有利に闘う為に、リーチの短い者と闘う為に、大幅に減量する格闘技。
軽量後に一気に食べて飲んで、水分も含めて、体重一気に一階級分戻るのが、7キロぐらい戻るのがザラな状態。
人によっては減量と相性が良く、一日で10キロ増減するものも…。
健康を損ねてまで、内臓にダメージを与えてまで、下の者と闘わなければいけない。
なぜならナチュラルで出ようとしてもリーチ10cm体重10kg差の上から落としてくる選手に蹂躙されてしまうから…。
減量なんてしない方がいいとカッコつけることもできない程の差…単純な元々のサイズ差…骨格差というもの。
階級上のパワーで破壊されてしまう。
選手寿命がただてさえ短い格闘技の選手寿命が、更に縮められてしまう。全ての階級は実質一個上からである。
従ってウォルバーは昔基準、ナチュラルでいうミドル級の体格。
時間も無い、増量もできない達仁は運悪くライトとウェルターの間の体重だった。
岩瀬が強制的にウェルターギリギリを指定してきた為、従うしかなかった達仁。
相手がライト級なら軽い減量で同じくらいの体格の選手と戦えるはずだった。
「つーか、王者は今84kgぐらいだろうな…でも岩瀬がウェルター指定してきたんだろ?メジャー団体基準のさ」
押し黙っている悠真。
「つーか綾瀬も73kgじゃなかった?なんか心労で痩せたのかね?」
口を開く悠真。
「お前は最近会ってなかったから…」
「そりゃーありとあらゆるプレッシャーに押し潰されるよな…何十万人が見るTV。四方八方からの一万人の視線を感じるドーム。最強の相手。自殺。上手くいかない作戦」
「…」
本人でもないのに憔悴しきった悠真が呟く。
「今からはお前と話してる余裕はないから…」
「おぉ」
リング上でスポンサーからの賞品説明などが行われ…準備運動することなく佇む達仁の姿。
中央奥にいたレフリーが一歩前へ出…。
軽い口頭でのルール説明•確認の為、選手を中央へ…たがボーッとして微動だにしない達仁。
「おいっ中央へっ綾瀬っ」
レフリーが呼びかける。
ハッとするでもなく、ゆっくりトボトボ中央へ歩いてゆく。
「ノーヘッドバッティング、ノーエルボー…」
英語で禁則事項が伝えられる。
達仁は対戦相手の目を見ていない…王者と対峙しているにも関わらず、どこか虚ろな宙を見つめる視線。
一方ウォルバーは。
(おーおーこんな体も出来てないしょっぽい奴をまたブッ飛ばせて大金もらえんだ、興奮すんなぁ)
格下相手にニヤついていた。
心など関係なく強い者は強い。
金の為にだろうが、性格が悪かろうが強ければ偉い。
説明が終わりコーナーに戻る両者。
徐々に盛り上がっていく歓声。
小さく見える程、気力のない達仁と悠真。
広いドームの中で頼れる者のいない、ちっぽけな存在が…人の力にプレッシャーに押し潰される。
弱い淡い光。
圧力の、オーラの無い、ただの人間。
きついリング上の照明に晒され、ケーブルTVでのPPV(ペイパービュー)生中継で全国に、世界に晒される、弱い、心の弱い人間。
その後、地上波でも中継され、翌日以降も各媒体•専門誌•スポーツ新聞•ネットニュースなどで取り上げられる人気格闘技。REAL-1に分不相応の形でデビューを果たす達仁。
ただ人に対して怒りを持っているだけの…大舞台に喜び跳びはねるわけでもなく、ナゾの物悲しさを持ち、リングに立っている日本人の男。
その表情からはなにも読み取れない。
走馬灯がよぎっているのか、後悔しているのか、頭が真っ白になっているのか。
誰も、誰一人として感情移入できない。
まだなにも成し遂げていない存在。
およそ格闘家とは思えない、弱い存在。
20万字制限。終。

逸脱 ©ド素人

執筆の狙い

総合格闘技小説を書いてみました。あとまとめサイトか流行っているのでそんな要素も入れました。よろしくお願いします。

ド素人

220.145.41.26

感想と意見

読んでみようと試みましたが、途中で心折れました。

ですが、下記の3点だけはお伝えします。

①どこからどこまでが「あらすじ」でしょうか(((;°▽°))。本文のはじまるところをわかりやすくしてもらいたいです。

②「体言止め」はあまり良いものではありません。名詞で終わってしまうと、写真をフラッシュカードで見せられているようなものです。

見せ場の格闘シーンとしてリズムをつけて強調したい場合には効果的ですが、ストーリーを語る上ではちゃんと周りの風景の描写をしたり、主人公がどんな生い立ちでどんな考え方をして、どういう風に行動するのかを書く必要があります。

③会話だけでは小説は成り立たないです。②の繰り返しになってしまいますが、裏付けがないと「おはよう」「はよっ」「なんだよ、元気ねーな」「そんな事ないさ」と書かれても、読者は主人公のほかに一人いるのか、二人いるのか、なんで主人公が元気がないように見えるのかがさっぱり分かりません。

2018-01-14 01:07

116.0.177.37

ド素人

奏様 ありがとうございます。

本を読んだこともなく、体言止めすらも知らなかったので勉強になりました。
漫画やギャルゲーのように会話劇だけではいけないのですね。
ご指導ありがとうございました。

2018-01-14 17:42

220.145.41.26

ド素人さん

とはいえ、会話を中心にここまで書けるのはすごいですよ。

ちゃんと頭の中で映像めいたものはご自身の中にあると思いますので、それをどう言葉で表現するかだと思います。

最初の何行かのプロットめいたあらすじのところは面白そうな設定だなと感じたので、なんで主人公が試合に勝った上で自殺を選ぶに至ったのかをどの角度で抜いてくるのか再度考えて見るのがいいかも。

わかりやすい例えとして「あしたのジョー」で言えば、あの最期のシーンが印象的なのは、それまでのジョーの活躍があってこそだし、現実世界でああいったことが起こればセコンドが流れ込んできて心肺蘇生にうつったり、救急車を呼ばなきゃならなかったりと騒然とするはずのところ、ベタ塗りの黒の静寂の中でジョーが満足そうな表情のまま白く灰になってるからこそだと思うんです。

いっそ、あのあらすじというかプロットで切り取るなら、主人公が勝ってベルトを掲げ、死を覚悟するところから始まって、走馬灯のように今までのエピソードに触れて、最終的に息絶えるシーンで終わるっていうのもいいかもしれません。

ベルト掲げてから死ぬまでのほんの一瞬を切り取って、その中にギュギュッとエキスを凝縮すれば面白くなりそうだなと感じました。

2018-01-15 08:46

1.75.239.252

ド素人

奏様 本当にありがとうございます。
的確なご指摘で勉強させてもらっています。

主人公の心の闇の表現。顔面タトゥー入れてヤクザの覚悟と対比する場面。本当に天涯孤独で誰も頼れる者がいないサブキャラの物悲しさの描写。自殺を止められない為に一瞬で死ねる拳銃を用意するなどを後半に詰め込みすぎていました。

中盤には格闘技をよく知らない人の為に豆知識などを長々と書いていたりもするので、見せ場が後半にしかないという弱点が分かりました。

初めての作品なので、前半はかなり読みにくいことも発見しました。
アドバイス通りアレンジしてみたいと思います。ありがとうございました。

2018-01-15 12:49

220.145.41.26

ド素人

二作目としてこんな物を書いていましたが。

あらすじ。
いつも悲しげな、心の底からは笑っていない主人公悠斗。大人びた冷めた発言や独特の価値観を持ち合わせる少年。現在高2。勘の良さから本当はモテるのに誰にも深く関わらない。
それでも傍にいる、悠斗がずっと好意を寄せられる幼なじみの年下の少女、あかり。高1。
一見普通に高校生活を送る主人公。女友達もいる。学園祭の準備で他校の年上高3女子とも知り合う。一見恵まれた者。
ならその憂いはどこから来るのか?踏み込みすぎた者に打ち明ける裏側。
元プロの両親。芸能人赤川ヒロムに壊された家庭。舞台女優の母を取り合い、妬まれ、舞台上の事故として父を意識不明に追い込まれる。
人気者であり権力を持つ赤川に巧妙にもみ消され、父は病院で寝たきり。赤川はその後も家族に関わってくる。気分でふらっときて、言葉で嫌な追い込みをかけながら、医療費、生活費を置いていく。
そこまで儲かる芸能界。そこでもやはり勝てないと思わせる。有名人に脅されて機能不全にされた家庭。
恋愛の制限をつけられた主人公。父と自分の男組が縛られる。結婚などしたら妻が赤川に殺されるという脅し。恋愛の不自由を押し付けられ、何もかも奪われる主人公。親も恋人も対象も奪われて、冷め悟り憂い生き続ける毎日。
そこに植物人間状態だった父の死が加わり、赤川に復讐を遂げることを目的として動き出す。色々と事故死に見せかける方法を画策するも成功シーンが見えない。
そんな中、赤川から呼び出され、自殺の手伝いを持ちかけられる。恨みの対象。仇を半分自分で殺せる夢のような話。だがその死すらも自分に取れないトラウマを植え付ける為のもの。人一人の中に一生生き続けようとする歪んだ作品を作りたがるクリエイター赤川。
その後本当に学園祭で事件は起き赤川は亡くなる。
自殺の後押しをする自分。半分自分が殺すというシナリオを作ってきた赤川。
人前で自殺する。人に、悠斗にトラウマを残す惨劇が現代日本で行われる。
赤川によって何かを植え付けられた悠斗。解放された後、待っている表面上の平穏、自由。恋愛の自由。三角関係。昔から支えてくれる年下のあかりに助けられながらも生活していく。だが…。
誰も選ばず独りでいようとする。消えようとする。トラウマを植え付けられた者。歪まされた、変質させられた者。だが姉妹は友達は消えいらないように優しく支えてくれる。最後とどまれた主人公。生まれて初めての嬉し涙が零れる。

最低限の小説の基礎も出来ていないので、小説の勉強することにしました。
奏様以外にも読んでくださった方いらっしゃいましたら、ありがとうございました。

2018-01-15 16:52

220.145.41.26

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