作家でごはん!鍛練場

『逆回転時計』

冬はっぱ著

 人それぞれのクリスマスのドラマを描きたくて書きました。大事件はないですが。。。
 
 コーヒータイムにサラッと読めるものを書きたいです。

 よろしくお願いします。。。

「もう一時?」と一瞬思ったけれど、実際は十一時になる五分前だった。部屋の壁に掛けてから三日も経っているというのに、この逆回転時計の文字盤にはなかなか慣れずにいる。
 三日前、会社で毎年恒例になっている「年忘れ社内ボウリング大会」で、わたしは思いのほか個人戦三位という成績を収めてしまった。そのときの景品でもらったのが、この逆回転式の掛時計だ。見まちがえるたびに、いちいち「うっ」となるのだけれど、世の中の流れに逆らって動いているような、ささやかな抵抗っぷりが、どこかかわいくて憎めない。
 クリスマスイヴ。わたしだって特別な日だ、っていうことぐらいわかっている。わかっているけれど、特別なことなんてなにもない。
 さっきから強くなってきた風が、また窓ガラスを震わせた。今年はまだ雪が降っていない。今降ってきたら、「ホワイトクリスマスだ」と言って騒ぐ人もいるだろう。そういうちっぽけな感動もまた、今のわたしには鬱陶しい。時計ばかり気にしているのは、早く今日という日が終わって欲しいから。そう思っているのなら、さっさと寝ればいいのに。だけど心のどこかでなにかを待っている自分が、そうはさせなかった。
 それにしても、クリスマスという全国版のお祭り――サンタとか、プレゼントだとかケーキだとか言って、家族もカップルも、すべてを巻き込んで、クリスマスという色に染まっている。なんかバカみたい。妹のアキも昨日彼からプレゼントもらって喜んでるし。
 今日の朝、彼とケンカしてしまった。彼の急な仕事の都合で、前々から予定していたデートがなくなってしまった。ショックのあまり、たくさんの文句を彼に浴びせた。彼は、わたしの聞き分けのなさに呆れてしまい、「もういいよ!」と言い放って電話を切った。それからは連絡もない。

 翌日。仕事を終えたわたしは、気を紛らわすために買い物でもして帰ろうと、電車に乗って繁華街へ向かった。
 駅から外へ出た瞬間、すぐにクリスマスの光景が目に飛び込んできた。駅から真っ直ぐに伸びている大通りは無数の光が散りばめられていて、クリスマス本番を迎えた街を活き活きとさせていた。実際に目の当たりにするこの光景は、ここにくるまでのイメージを軽く覆してしまった。確か、十二月の初めに足を運んだときには、すでにたくさんのショップやレストランが、うちが一番乗りよ、と言わんばかりにクリスマスの準備をしはじめていたと思う。早いなぁと思ったけれど、遅れをとってしまってはクリスマス商戦に負けてしまうのだろう。そういう競争心の集合体が街全体のクリスマスムードを創っている。少しずつ少しずつ、街はクリスマスを迎えるため、日を重ねるごとに変化していく。街だけじゃなく、本当は世の中全体なのだろうけど。
 とりあえず駅から小さく見えたクリスマスツリーを目指そうと、光が連なっている街の中を歩きはじめた。するとすぐに、足元からじわじわと嫌な感覚が込み上げてきた。自分で決めてここに来たくせに、早く抜け出したいという衝動に駆られた。
 こぼれ落ちそうなくらいに笑顔が絶えないカップル、冬の冷たさを寄り添うことで暖かくさせてしまう家族の姿。見たくなかったはず。ひとりでいるわたしにとって、その光景すべてが嫌味に映った。他人のしあわせなんて今は見たくない。だいたいクリスマスだからって、そんなに浮かれなくてもいいのに。
 早足で歩いたせいか、すぐに目標まで辿り着いた。間近で見上げた大きなクリスマスツリーは、さっき遠くからみたものとはまるで違っていた。大きさはもちろんだが、青や白、赤、金、緑などの多種多様な飾りが集まり、様々な角度で重なって輝いている。その色とりどりの光を、夜の空が効果的に際立たせていた。
 ――きれい。
 まぶたが熱くなった。この涙は一体何なのだろう。悔しさなのか、寂しさなのか、わからない。
 もう帰ろうと思った。ここにはいたくなかった。急ぎ足で歩く途中、街のイルミネーションは目に入らなかった。駅に着いたところで立ちどまり、後ろを振り返ってみたけれど、さっき見たツリーはその場に立ち尽くしたままで、わたしを追いかけてきてはくれなかった。小さくなったツリーは自分の存在をアピールするように精いっぱい光を放っている。
 僕はここにいます、と。
 わたしはその場で立ったまま、部屋に掛けてある逆回転時計を思い浮かべながら悩んだ。
 鞄から携帯電話を取り出して、深呼吸しながら空を見上げた。やっぱり雪はまだ降ってこない。
 少し震える指で、通話ボタンを押した。
                                     〈了〉

逆回転時計 ©冬はっぱ

執筆の狙い

 人それぞれのクリスマスのドラマを描きたくて書きました。大事件はないですが。。。
 
 コーヒータイムにサラッと読めるものを書きたいです。

 よろしくお願いします。。。

冬はっぱ

120.51.77.75

感想と意見

やどく はなつ

読ませていただきました。自分も真似したいと思うほどしっかりした描写で、とても分かりやすかったです。

しかし、一つ気になったことがあります。
タイトルにもなっている『逆回転時計』がだい大事な役割を担っていないように思います。ハッキリ言ってしまうと、無くてもいいのでは?と思っています。
もし、間違っていたら申し訳ありません。理解力の乏しい私に教えていただけると幸いです。

2017-12-07 17:37

202.156.243.214

冬はっぱ

やどく はなつ様

読んで頂きありがとうございます。
力量不足で申し訳ございません。

「逆回転時計」ですが、実はこの作品、タイトルを先に決めて構想しました。
私の思惑としては、普段の自分じゃない(勇気をだして行動する)めずらしい自分を、逆回転時計にかけて書いたつもりでした。

まだまだ文足らずでわかりにくいですよね。勉強になります。

ありがとうございます。

2017-12-07 19:06

120.51.77.75

かろ

 拝読しました。
まぶたが熱くなった。が、なんでかわかりませんでした。
ツリーよかったです。遠近的なとこ。いただきです。ドロボーかろです!
もっとクリスマスっぽかったらよかったなって。でもきれいでした。でももっとみたかったです。
逆時計、違う意味にとらえてました。
ありがとうございます。次回作読みたいです。

2017-12-07 23:26

218.221.94.74

最後の辺、駅前広場(ビルでも可)の大時計がショーウィンドウに反射して逆回転時計に見えて、とかにすれば多少は繋がるかな?

2017-12-08 20:57

123.219.100.156

カジ・りん坊

 これ、どうせなら最後、日付が変わること家に戻ると彼が合鍵を使って部屋で待っていて、メリークリスマス♪でも、クリスマス過ぎちゃったね。って言うと、でも見て、時計。まだ五分前。二人して時計を見て笑った。風に終わってみるとどうだろうね。

 逆回転時計を引っ掛けるなら『わたしはその場で立ったまま、部屋に掛けてある逆回転時計を思い浮かべながら悩んだ』と取って付けるような逆回転時計の登場のさせ方よりは、しっかりと印象に残るような見せ方を考えてみてはいかがかと思います。

2017-12-08 21:07

112.137.227.226

阿南沙希

はじめまして、読ませていただきました。タイトルと、重要モチーフの逆回転時計が「世の中に逆らってる感じが憎めなくて好き」という部分は表現としてとてもよかったです。

が、その後のストーリー展開がちょっと平凡すぎます。クリスマス前にけんか、街の明かりに心が洗われて仲直りしようかな、だけでは弱いです。

逆回転時計をもっと活用して、たとえばクリスマスキャロルのように思い出を遡る、とか、最後は逆回転を超えて未来へ…という流れにもっていくなど、「憎めない愛らしさ」がある時計がモチーフなら、もっとミラクルな方向に展開できると思います。

クリスマスって、そんな奇跡もなんとなく許せる特別なシチュエーションなので、是非その風に乗っかってステキなお話に昇華させてみてください。

抽象的なアドバイスですみません。お互い頑張りましょうね。

2017-12-08 23:49

126.241.194.79

ダミアンマシコセ

ぎゃくかいてん時計そんな生きてないけど、雰囲気はすきどす。よみやすうてええどすな

2017-12-10 13:11

118.238.215.143

冬はっぱ

かろ様

読んで頂きありがとうございます。

「まぶたが熱くなった。」は、涙が出てきた的な意味で書きました。

「ドロボーされる」ほどのものは持ってませんが。。。
また気が向いたらクリスマスをテーマにチャレンジしてみたいと思います。

2017-12-11 00:15

120.51.77.75

冬はっぱ

熊様

読んで頂きありがとうございます。

「反射して」というのは思いもつかなかったです。

また取り入れてみたいと思います。

2017-12-11 00:17

120.51.77.75

冬はっぱ

カジ・りん坊様

読んで頂きありがとうございます。

タイトルに「逆回転時計」と付けた割には、そのものが確かに薄いですね。
ちょっとしたアイテムで使うべきだと、皆様の意見で感じました。

勉強になります。

2017-12-11 00:21

120.51.77.75

冬はっぱ

阿南沙希様

読んで頂きありがとうございます。

ご意見ありがとうございます。
なかなか現実離れした考えが出なくて。。。
平凡が好きっていうのもあるのですが。。。
もっと感性を磨かなくてはいけませんね。

勉強になります。

2017-12-11 00:25

120.51.77.75

冬はっぱ

ダミアンマシコセ様

読んで頂きありがとうございます。

「読みやすい」っていうのはありがたいお言葉です。
目指してますので。

またがんばります。。。

2017-12-11 00:28

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