作家でごはん!鍛練場

『第二回 オマージュ文学祭』

解けかけの氷著

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第二回 オマージュ文学祭 ©解けかけの氷

執筆の狙い

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解けかけの氷

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感想と意見

解けかけの氷

『モーターサイクル』 上
オマージュ作品:BUMP OF CHICKEN:モーターサイクル
https://www.youtube.com/watch?v=WRSNKvc9NpY
 今日は十月十二日である。
 何故なら、昨日が十月十一日であるからだ。至極真っ当な論理である。
 しかし、なぜだろう。窓の外は雪が降っているように見えた。結露するガラス戸をスエットの袖で拭いてから向こう側を目を凝らしても、戸の鍵を開けてベランダから一歩踏み出して外を覗いてみても、やはり雪は確かに降っていた。むしろ、肌寒さという実感によって、十月中旬の冬模様という異常気象を文字どおり肌で実感した。
 とりあえず、このままで凍え死んでしまいかねないと、備え付けだったエアコンのスイッチを入れようと、リモコンに手を伸ばした。すると、その手に暖かい風が吹き付ける。風の吹く方を確認すれば、黄緑色をしたエアコンの電源ランプがすでに点灯していた。どうやら寝ぼけていたのか、一度起きて暖房をオンにしていたようだ。
 人間の無自覚な生への執着に関心を抱きながら、寝ぼけた頭を切り替える。
 この異常気象についての情報を何か得たい。しかし、スマートフォンは昨日川に投げ捨ててしまったし、パソコンを繋ごうにも昨日引っ越したばかりである安アパートの一室には通信ケーブルを差す端子すら見あたらない。
 都内で十月に雪が降るのはおかしい。いや、日本国内であればどこであってもおかしい。だとすれば、間違ってロシアあたりにでも引っ越してしまったのだろうか。しかし、昨日僕は引っ越し業者のトラックの助手席に乗せてもらってきた筈だし、船にも飛行機にも乗った覚えはない。確かに、途中から到着まで眠っていたが、トラックが知らずの内に飛行機や船に乗ればさすがに気づくはずである。
 トラックから身体だけ移され、飛行機などに乗せられたという可能性もないだろう。僕は確かに、このトラックの助手席から出た。そして、ベッドとソファー、ローテーブル、それから、段ボールの数々をどこに置くかを業者に指示した。
 まず、僕はそんな大規模な寝起きドッキリをかけられる身分でもない。別に芸能人でもなんでもないのだ。
 仕方ないので、近所にコンビニくらいはあるはずだ。ちょっと、新聞を買いにでも外に出かけてこよう。
 冬物のコートを段ボールの山から探し当てようとしたその時だった。
 ピンポーンとインターホンが室内に鳴り響く。
 客を呼んだ覚えも、郵便物をこの部屋に配達した覚えもなかった。ここの住所は誰にも教えていない。宗教の勧誘か、そうでなければ、誰にも知られずに消息を突然消そうとした僕の目論見を察知し、ここまで嗅ぎ付けた知り合いかもしれない。
 考えすぎかもしれないが、さわらぬ神に祟りなしとも言うし、ここは伝家の宝刀を抜くべき時だろう。つまりは、居留守を決め込むという意味である。
 ワンルームの玄関は部屋のどこからでも、入り口の扉が伺えた。エアコンの前で物音を立てぬように身を固めながら、固唾を飲んでドアの方を睨んでいると、カチャリという小さい音が響いたかと思ったら、ドアノブが捻られ、立て付けの悪いドアがキィッと悲鳴を上げながら呆気なく開いた。
「お父さん、元気ぃー?」
 間延びした、女性の声が響いたかと思うと、十代前半くらいの少女が姿を現した。
「だ、誰だい君は」
 と驚いて、声を上げる。空気の乾燥で喉をやられたらしく、喉の調子が悪いことに今気づく。声はガラガラに嗄れていた。
「お父さんの妹のスミレよ」
「…」
 情報の処理が追いつかない。落ち着いて状況を整理してみよう。不明点は大きく分けて二つ。まず、見知らぬ少女である彼女が何食わぬ顔でこの部屋に訪れ、僕に親密そうに話しかけているこのシチュエーション。そして、彼女の口にした台詞。
 彼女は僕をお父さんと呼んだ。その後、自分をお父さんの妹だと言った。聞き間違えでなければ、確かにそう言ったのだ。お父さんの妹、もしくは、お義父さんの妹とは一体どういう間柄のことを言うのか、全く検討がつかない。
 呆然と突っ立ち、頭を悩ませている間に、敷居を跨いだ少女は靴を脱ぎ、部屋のローテーブルの前に席をついた。そして、手に持っていたらしい紙の束を机の上に広げ、その上にボールペンを放り投げた。
 彼女はピンク色のスエットを着ている。どうみても部屋着である。同じアパートに住んでいるのだろうか。
「お父さん、今から私の言うことを落ち着いて聞いてね」
「待て、君の話を聞く前に僕から質問させて貰わないと。そうしないと、困る」
「オーケー。何でも、どうぞ」
 そう言いながら、彼女はポケットから小型の電子機器を取り出して机の上に置いた。どうやらレコーダーのようだ。僕の質問を録音するつもりらしい。了承も得ずに不躾な行動に移る彼女に不快感を抱きながらも、それには言及はせずに先に思考を絡ませる疑問を口にする。
「君は誰」
「さっきも言ったわ。お父さんの妹のスミレよ」
「意味が分からない」
「性格には、貴方の娘で、妹よ」
「それじゃあ、もっと分からない。まず、僕に娘はいない。それに、君の年の娘がいるような年齢でもない」
続く

2017-10-12 12:24

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解けかけの氷

『モーターサイクル』 下

「ええ、だから、貴方の娘で妹よ。ね、お兄ちゃん。これで、いいかしら」
 唖然とする。少女の返答はあまりに飛躍し過ぎている。しかし、そうでありながらも、まるで、僕の質問を先回りして煙に巻くような語り口だった。まるで、彼女は僕の心が読みとれるみたいな、そんな被害妄想に捕らわれる。
 だが、呆気に取られて口つぐんでいては、彼女の手中にまんまと乗っかってしまう。彼女のペースに乗せられてはダメだ。僕は、彼女を一刻も早く、無理矢理にでもこの部屋から追い出さなくてはいけない。僕にはその権利がある。というより、彼女がここにいるという権利がない。僕はこの不可思議で不条理な状況を許してはならない。
 安寧の日々を追い求めた結果、僕はここに居るのだから。他人の私利私欲に付き合っていることに辟易して、ここに居るのだから。
「僕を、からかっているのかい?」
 ポーズとして、僕は彼女に高慢で冷酷な口調でそう口にする。いい加減にしないと、力づくで君を追い出すぞという気配を漂わせるように。
「生憎、僕には妹も居ないんだ」
「でも、せめてお兄ちゃんと呼べと言ったのは、お父さんよ」
「へぇ、いつ言ったというんだい」
「ずっと前。昨日も言っていたわ」
「嘘を吐かないで欲しいな。僕と君は初対面だろう」
「いつになく、不機嫌そうね。やっぱり、お父さんは寒いのが苦手なんだわ」
「人を小馬鹿にするのも、いい加減にしろ!」
 僕は怒号を放った。しかし、彼女は少しも怯んだ様子をみせない。どころか、子供を相手にするように、肩を竦めてため息を吐いた。
「百聞は一見に如かず」
 彼女はポケットから掌サイズの長方形をした物体を取り出すと僕に向かって床を滑らせた。足下に滑り込んできた物体を拾ってみると、緑色の蓋がついた手鏡だった。
「覗いてみて」
 彼女がそう施す前に、僕は鏡の蓋を開き、すでに鏡を覗いていた。見知らぬ老人と目があった。
「貴方の世界は二十五年前の十月十一日を境に、脳の一部の昨日とともに連続性を失ってしまったの。貴方はここに引っ越す前日、出勤先で気に入らない上司を殴って、手酷い返り討ちを浴びたわ。貴方は務めていた会社を辞表も出さずにある日突然、辞めようと決意した。そして、無断欠勤を決行しようとした前日に、パワハラを受けていた上司に報復しようとして」
 彼女の落ち着いた声を耳にしながら、ありありとその情景が思い出された。僕が上司を殴りつけて悲鳴の上がるオフィスと、その直後に一瞬にして、視点が回転し気づいたときには床に突っ伏させられていた記憶。
 そういえば、あれだけ引っ越しのトラックの中で苦しまされた頭痛が消えている。
「貴方は、上司からの反撃によって、脳に損傷を受け、記憶障害に陥った。そして、二十五年前の十月十二日以降の記憶を、半日以上は上書き出来なくなってしまったの。そして、二十五年前に貴方と貴方の遺族は運ばれた大学病院で母と、ある契約をした。一生貴方の生活を面倒見る代わりに、貴方を脳医学の臨床実験のサンプルにさせてもらうという」
「今日は何日だ」
「一月二日。休日は時々、私が母の代わりに、貴方の実験データを取るの」
「そうか。そういつはご苦労様」
「いいわよ、父さん」
 そこから、スミレはいくつかの質問を僕へとした。それらの質問へ答えることは、僕は自分がどういった人間であったかを徐々に明白していった。
 僕は有名人になりたかったのだ。富よりも名誉や名声が欲しかった。それは、子供の頃からそうであったし、大人になってからも年々その欲求は強くなっていった。就職の際に無理矢理抑圧した反動か、又は勤め先でいつまでたっても、一人前だと認められないことへの反発だったのかもしれない。
 僕の承認欲求はひどく漠然としていたもので、具体的に何者になろうとしていたのかは自分でも分からなかった。分からないまま、そして、それを本格的に追求しようとした矢先に、僕はどう足掻いても何者にもなれない状況へと陥った。
 だけど、今なら分かる。その欲求を解消させるのは、僕が思っていたよりもずっとハードルが低かった。
 僕は自分の娘が居るという事実を知って、その欲求が一気に失せるタイムトラベラーの気持ちが分かったのだ。
「じゃあ、今日の診断は終わりね。お疲れ、お父さん。待ってて、朝ご飯持ってくるから」
「ちょっと待ってくれ」
 ローテーブルから席を立とうとする、少女を手で制し、たんまをかける。どうにも、気にかかることがあるのだ。
「なあ、スミレ。急激に老けた自分を認めたくない。やっぱり、お兄ちゃんと呼んでくれ」
「はいはい、お兄ちゃん」
 彼女の呆れ顔に、ちょっと気恥ずかしさを覚える。しょうがないだろう。浦島太郎だって、そう言うに決まっているのだ。

2017-10-12 12:26

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