- 天才
2021/10/03 22:38
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中野太郎へ
俺の妄想の世界にみんなを案内しよう。
君たちにはわからないだろうが、あえてエリートの家庭を避け一般人の家庭に生まれ、法政大学を目指すのが真のエリートなのだ。そこの君、全く間違えている。
決められた事しかやらないエセ秀才ではなく、真の天才が世に受け入れられる事を彼らは極端に恐れる。俺の矛盾数学がいつか炸裂する事を彼らは恐れる。1+1=3ばかりではないぞ、10でも100でも1000でも259,569,668,341だつて良い訳だ。つまり、必ず同じ答が導き出されると言う数学の真理を俺は見事破って見せたのだ。どうだ、俺はコペルニクス以来の天才だろう。
そんな妄想を体現しながら田舎道を歩いていたら、肥溜めに落ちた。これは、真の天才の出現に寄って、エリート官僚の全てが実は英才塾に大金を払って作り出された凡人集団だった事が暴露される事を恐れる、国家権力の陰謀だと俺は思った。 耐え難い糞尿の匂いと共に汚物が口にも鼻にも目にも耳にも入ってくる。 ああ、かくして不世出の天才である俺は、国家権力によって抹殺されるのかと覚悟を決めた。 しかし、その瞬間、俺は気付いたのだ。現代に肥溜めなんて有る筈がない。俺は、人類初のタイムスリップをしたのだと。
完全なる有機農業を目指して農業をしている大久保ニ郎は青ざめた。化学肥料は使わず、人糞こそが理想的な自然肥料だと考え、自宅のトイレを水洗から落とし込み方式に改造して集めた糞尿を、畑の隅に穴を掘って溜めて置いたのだ。 まさか、そこに人が落ちるなんて! ああ、なんと言う日だ! 大久保は頭をかかえた。
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