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古文に親しむスレッド
2020/11/22 11:51
加茂ミイル

古文の読解を通して、文学の教養を深めたいと思います。
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加茂ミイル
 2020/11/22 12:01

古文に親しむスレッド
<原文>
いにし安元三年四月廿八日かとよ、風烈しく吹きてしづかならざりし夜、戌の時ばかり、都のたつみより火出で来たりていぬゐに至る。

<現代語訳>
あれは安元3年4月28日のことだったかなあ。
風が激しく吹いて、やかましい夜だった。
午後8時頃、都の南東の方角から出火して、西北西まで延焼した。

加茂ミイル
 2020/11/22 12:12

古文に親しむスレッド
<原文>
はてには朱雀門、大極殿、大学寮、民部の省まで移りて、ひとよがほどに、塵灰となりにき。
火本は樋口富の小路とかや、病人を宿せるかりやより出で来けるとなむ。

<現代語訳>
しまいには、朱雀門、大極殿、大学寮、民部省にまで燃え広がって、一晩の間に焼け野原になってしまった。
出火元は樋口富の小路とか言われている。
病人が寝泊まりしていた粗末な小屋から出火したものと思われる。

加茂ミイル
 2020/11/22 13:02

古文に親しむスレッド
<原文>
吹き迷ふ風にとかく移り行くほどに、扇をひろげたるが如くすゑひろになりぬ。
遠き家は煙にむせび、近きあたりはひたすらほのほを地に吹きつけたり。
空には灰を吹きたてたれば、火の光に映じてあまねくくれなゐなる中に、風に堪へず吹き切られたるほのほ、飛ぶが如くにして一二町を越えつつ、移り行く。
その中の人うつつ心ならむや。

<現代語意訳>
吹きつけてくる風に煽られて燃え移るにしたがい、火の手は扇を広げたような形状に燃え広がって行った。
火元から遠くにある民家は煙に巻き込まれ、近い所では炎がすごい勢いで地面をはいずり回っていた。
灰が空に舞い上がり、雲が火の光の反射で真っ赤に照り輝いている中、風に押されてちぎれ飛んで行く火の粉は、100、200メートル先まで一瞬で燃え移って行った。
その渦中の人々は、悪夢を見ているような気分だったろう。

加茂ミイル
 2020/11/22 12:52

古文に親しむスレッド
<原文>
あるひは煙にむせびてたふれ伏し、或いは炎にまぐれてたちまちに死しぬ。
或は又わづかに身一つからくして遁れたれども、資財を取り出づるに及ばず。
七珍萬寳、さながら灰塵となりにき。そのつひえいくそばくぞ。
このたび公卿の家十六焼けたり。ましてその外は数を知らず。
すべて都のうち、三分が二に及べりとぞ。男女死ぬるもの数千人、馬牛のたぐひ邊際を知
らず。

<現代語意訳>
ある者は煙を吸い込んでその場に倒れ、ある者は炎に巻き込まれて焼死してしまった。
またある者は、命からがら逃げ切ることが出来たけれども、家財は家に置きっぱなしだった。
ありとあらゆる財宝が、ことごとく灰塵に帰してしまった。その損失はどれほどの額になるだろう。
この火事で、公卿の家だけでも16件焼失してしまった。まして、それ以外の人々の被害件数は、数えきれない。
被害は、都全体の実に3分の2の範囲に及んだらしい。
男女含めた死者数千人。
失われた牛馬の数は、際限もない。

加茂ミイル
 2020/11/23 13:57

古文に親しむスレッド
冒頭部分の現代語意訳。

川の流れが途切れることなんてないし、
流れて行った水は二度と戻って来ない。
流れがせき止められている場所に浮かんでいる泡は、
すぐに消えて、またすぐに新しいのが浮かび上がって来る。
世の中の人も住まいも、それと同じだね。
宝石を敷き詰めたような華やかな都会に、
金持ちや貧しい人たちの家が、
棟や瓦を競い合うようにして建ち並んでいて、
いつまでも廃れないように見えるけれど、
本当にそうなのかって尋ねてみたら、
実は昔からそのままの形を保ち続けている家ってそれほどないんだよね。
去年傷ついた家を今年建て直したり、
大きかった家が崩れて、小さくなっていたりする。
住む人もこれと同じで、
場所も変わらず、たくさんの人で賑わっているけれど、
昔からの顔なじみは、
2、30人の中に、せいぜい1人か2人くらいのもんよ。
朝に誰かが亡くなったかと思えば、夕方に新しい命が誕生する、
この世の有り様は、水の泡にそっくりだ。
生まれたり、死んだりする人たちが、
どこから来て、どこへ行くのか、誰も知らない。
それなのに、誰の目や心を喜ばせるために、
仮の住まいに過ぎない家の建築に苦心するんだろうねえ。
その家主と家とで虚しさを競い合っている様は、
朝顔の露と何一つ変わらないね。
露が落ちても、花びらだけ残っていることもある。
残っているって言っても、朝日の中で枯れてしまうけどね。
花がしぼんでも、露だけ消えずに残っていることもある。
だけど、それすらも、夕方までには消えてしまうよね。
物心ついてからこれまで、40年ちょっとの月日が経ったけど、
世の中の不思議をたくさん見て来たよ。

加茂ミイル
 2020/11/23 13:54

古文に親しむスレッド
<原文>
人のいとなみみなおろかなる中に、さしも危うき京中の家を作るとて寶をつひやし心をなやますことは、すぐれてあぢきなくぞ侍るべき。

<現代語意訳>
人間のすることなんて、どれもこれも非効率なことばっかだけど、これほどまでに高いリスクが潜んでいる都に家を建てようとして、財産をつぎこんだり、あれこれ悩んだりするのは、コスパ最悪。

加茂ミイル
 2020/11/23 13:55

古文に親しむスレッド
<原文>
また治承四年卯月廿九日のころ、中の御門京極のほどより、大なるつじかぜ起りて、六條わたりまで、いかめしく吹きけること侍りき。
三四町をかけて吹きまくるに、その中にこもれる家ども、大なるもちひさきも、一つとしてやぶれざるはなし。
さながらひらにたふれたるもあり。けたはしらばかり残れるもあり。
又門の上を吹き放ちて、四五町がほどに置き、又垣を吹き払ひて、隣と一つになせり、
いはむや家の内のたから、数をつくして空にあがり、ひはだぶき板のたぐひ、冬の木の葉の風に乱るるがごとし。

<現代語意訳>
また、治承4年4月29日頃、中御門京極の辺りから、大きな竜巻が起こって、六条通りのあたりまで、ものすごい勢いで吹きまくったことがあった。
3、400メートルの距離にかけて猛威を振るい、その一帯の民家は、大きな家も小さな家も、ことごとく破壊されてしまった。
ぺしゃんこになった家もあった。桁や柱だけ残った家もあった。
門の上部分が吹っ飛んで、4、500メートルくらい向こうまで行って落ちたり、垣ごと吹っ飛んで、隣家を隔てる境がなくなって、ひとつながりの土地みたいになってるのもあった。
家の中の財産は全部宙に舞い上がってしまうし、檜皮葺の屋根なんかは、冬の風に吹かれて乱舞する木の葉みたいになっていた。

加茂ミイル
 2020/11/23 11:56

古文に親しむスレッド
<原文>
塵を煙のごとく吹き立てたれば、すべて目も見えず。
おびただしくなりとよむ音に、物いふ声も聞こえず。
かの地獄の業風なりとも、かばかりにとぞ覚ゆる。
家の損亡するのみならず、これをとり繕ふ間に、身をそこなひて、かたはづけるもの数を知らず。
この風ひつじさるのかたに移り行きて、多くの人のなげきをなせり、
つじかぜはつねに吹くものなれど、かかることやはある。
ただごとにあらず。さるべき物のさとしかなとぞ疑ひ侍りし。

<現代語意訳>
塵が舞い上がって煙みたいになったので、全然周りが見えない。
耳をつんざくような音にかき消されて、人が何か叫んでいても全然聞こえない。
地獄で吹いている大暴風だって、これほどひどくないと思う。
家が崩壊するだけじゃなくて、これを修繕している間に怪我をして、障害を持つはめになった人も数えきれないほどいた。
この風は、南西の方角に移動して行って、そこでまたたくさんの人に悲劇をもたらした。
竜巻ってもんは、そりゃあまあ、いつどこで吹くか分からないもんではあるけれど、それにしてもこんなひどいことってある?
ただごとじゃないよ。神仏の祟りとしか思えない。

加茂ミイル
 2020/11/23 13:49

古文に親しむスレッド
<原文>
又おなじ年の六月の頃、にはかに都うつり侍りき。いと思ひの外なりし事なり。
大かたこの京のはじめを聞けば、嵯峨の天皇の御時、都とさだまりにけるより後、既に数百歳を経たり。
異なるゆゑなくして、たやすく改まるべくもあらねば、これを世の人、たやすからずうれへあへるさま、ことわりにも過ぎたり。
されどとかくいふかひなくて、みかどよりはじめ奉りて、大臣公卿ことごとく摂津国難波の京にうつり給ひぬ。

<現代語意訳>
また、同じ年の六月頃、突然、遷都することになった。青天の霹靂ってやつ。
おおざっぱにこの京の都の由来を尋ねてみたら、嵯峨天皇の時代に首都となってから、もう数百年も経ってるんだって。
よっぽどのことでもない限り軽々しく遷都するべきじゃないのに、突然遷都することになって、世間はそりゃあもう大パニックよ。
だけど、もう決定事項だからどうしようもなくて、帝を先頭に、大臣公卿一人残らず福原京に移り住むこととなった。

加茂ミイル
 2020/11/23 13:50

古文に親しむスレッド
<原文>
世に仕ふるほどの人、誰かひとりふるさとに残り居らむ。
官位に思ひをかけ、主君のかげを頼もうほどの人は、一日なりとも、とくうつらむとはげみあへり。
時を失ひ世にあまされて、ごする所なきものは、愁へながらとまり居れり。
軒を争ひし人のすまひ、日を経つつあれ行く。
家はこぼたれて淀川に浮び、地は目の前に畠となる。
人の心皆あらたまりて、ただ馬鞍をのみ重くす。牛車を用とする人なし。
西南海の所領をのみ願ひ、東北国の荘園をば好まず。

<現代語意訳>
朝廷に仕官するほどのエリートが、旧都に残ったままでいるはずもないしね。
高位高官に望みをかけて、帝の権力に媚びへつらう世渡り上手は、一日も早く転居しようと先を争っていた。
その一方で、出世競争に敗れて、もう先の望みを絶たれてしまった人たちは、嘆きながら旧都に留まることを選択した。
所せましと立ち並んでいた住宅街が、日が経つにつれて荒廃していった。
家屋は解体されて淀川に流され、そうして無人となった土地は瞬く間に畑として利用されることとなった。
人々の価値観は様変わりして、乗り物は実用的な馬ばかり重宝されるようになり、貴族向けの牛車は必要とされなくなった。
皆、こぞって武士の地盤となっている西国の土地ばかり欲しがるようになり、東国方面の貴族の荘園は見向きもされなくなった。

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