どんぶり先生の原稿作法


記号


ごはんちゃん:「次は何を教えてくれるんですか。」
どんぶり先生:「では、記号について教えることにしよう」

 外国人の名前などで使う点があるだろう。
「ジョージ・ワシントン」とかで使う「・」
のことだ。これは「中黒(ナカグロ)」と呼
ぶ記号で、行頭禁則文字に該当する。
 無言を表す点々を、この中黒を重ねて表現
する人が非常に多いのだが、これは残念なが
ら完全に間違いだ。考えてもみたまえ、中黒
を三つも四つも重ねたら、それだけで三文字
分も四文字分もスペースが必要になる。記号
でも一文字分のスペースを使うのが日本語の
原則だからね。試しにやってみようか。
 ・・・・・・。
 なんだか間が抜けてしまうだろう。
 こうした無言の表現には「三点リーダー」
と呼ばれる記号を二文字重ねるのが原則だ。
「…」が三点リーダー。点が三つあるだろう。
だから三点リーダーというんだね。実際に使
う時には「……」という風になる。
 ……。
 というわけだ。
 この他「二点リーダー」あるいは単に「リー
ダー」と呼ばれる記号もあるが、こちらは普
通使わない。点が二つしかないヤツだ。
 ちょっとだけ注意を促したいのは、この
「リーダー」という記号の名前は、出版や印
刷の業界での命名であって、日本語としての
呼び名は「テンテン」つまり点々という。
 さて無言や空白の時間の表現には、リーダー
以外の記号を使うこともある。
 ――。
 というヤツだね。これを「ダッシュ」と呼
ぶ人もいるが、正確ではないようだ。日本語
としての呼び名は「ナカセン」つまり中線だ。
 ちなみに、本来のダッシュは「’」と「−」
の二つの記号の呼び名だ。「−」はハイフン
ともまた違うからややこしいんだが、それは
この際、おいておこう。
 ともかく、無言や間を表す記号はこれらの
二つだ。二文字分重ねて使うということを忘
れないようにな、ごはん。
 かっこについても触れておこう。
 セリフなんかで使われるのは「かぎかっこ」
というかっこだ。かぎかっこにはもう一つ
『ふくろかぎかっこ』というものもある。二
重かぎかっことも呼ぶな。これは小説では、
主にセリフでないことを明らかにするために
使われることが多い。店の名前のような固有
名詞に使われることが多いみたいだな。それ
から、回想シーンなどの『現在のその場所で
はない』セリフを表現するにも使うことがあ
るようだ。また、セリフのかぎかっこの中に
さらにかぎかっこを入れる場合に、区別のた
めに使う。「こういう『具合に』なる」。
 その他〈やまかっこ〉や《二重やまかっこ》、
“ダブルクォーテーション”や‘シングルク
ォーテーション’といった記号も、かっこと
して使われるね。
 たくさん種類があるからって、どれを使っ
ても良いというわけじゃない。出来るだけ自
分のルールを作って、それに則った使い方を
心がけるべきだ。
 記号には、あと、「〜」つまり波線もある
な。オンビキの代わりに用いられることがあ
るんだが、大人向けの小説ではそうした使い
方はあまり見かけない。というより、これは
そもそも小説に使われるべき記号ではないん
だね。
 さて、最も頻繁に使われる記号というのは、
たぶん「!」と「?」じゃないかと思う。そ
れぞれ正式な名前は「感嘆符」と「疑問符」
だ。英名では「エクスクラメーション・マー
ク」と「クエスチョン・マーク」になる。
 これは、文中に書かれた場合には、その次
に一文字分の空白を空けることが規則になっ
ている。例えば! こんな具合だ。分かるか
な? ごはん。
 ただし、空白を空けてはいけない場合もあ
る。それは、記号のすぐ次に、閉じるかっこ
が来ている場合だ。小説なら、主にセリフの
中ということになる。
「助けてくれ!」
 とか、
「どういうこと?」
 といった場合だな。
 時折、「!?」といった具合にこれらの記号
をくっつけている人がいるのだが、これは、
あまりおすすめ出来ない。プロの作家がやる
ならばとにかく、アマチュアがこれをやると、
記号に頼って文章に力がなくなってしまうか
らだ。それにそもそも、これらの記号を二つ
並べるなんて、日本語の正しい使い方ではな
いんだ、今のところは。この先どうなるかは
分からないがね。

ごはんちゃん:「大変です先生、大変です。」
どんぶり先生:「どうしたんだごはん」
ごはんちゃん:「ぼ、僕の頭が煙を噴いてます。覚え切れません。」
どんぶり先生:「なんだ、それは煙じゃなくて湯気だよ。安心したまえ」
ごはんちゃん:「もう冷めてますって。」
どんぶり先生:「じゃあ、レンジで温めてやろう。こっちへおいで」
ごはんちゃん:「やめてください先生、僕、死んでしまいます。」
どんぶり先生:「じゃあ大人しく勉強を続けるんだ」
ごはんちゃん:「しくしく・・・・・・」
どんぶり先生:「こら、ごはん」
ごはんちゃん:「あ、間違えました。」
どんぶり先生:「やり直し」
ごはんちゃん:「しくしく……」
どんぶり先生:「よろしい。少しは分かってきたみたいだな」
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