薄い灰色の雲が空一面に広がっていた。雨粒が絶え間なくグラウンドに降り注ぎ、水溜りが出来ている。窓を締め切った教室の空気は、湿り気を帯びていた。気流も無いため、どんよりとして重い。
少女は狼のような鋭い目で窓の外を見つめていた。一五五センチの中背で、首筋まで自然に伸ばした髪を七三に分け、飾り気の無いヘアピンで留めている。肉付きの薄い体に紺の半袖のセーラー服を纏っている。少女は両腕を組んだままで微動だにしない。
壁に掛けられた時計の針は、四時四十五分を差していた。教室は人気もなく静まり返っており、ブラスバンド部の楽器の音が雨音に混じってかすかに響いている。
「黒澤さん、僕になんの用ですか?」
黒澤と呼ばれた少女が振り返ると一人の少年が立っていた。一七〇センチ、男子高校生としては平均的な身長で中肉中背だ。陽だまりで眠っているような穏やかな猫を思わせる細い目に微笑を浮かべていた。教室の後のドアに手を掛けて黒澤を見つめている。
「清水、わかってると思うが」
少年の目を見据え、抑揚の無い静かな声で黒澤は問い掛けた。清水といわれた少年は表情を変えることなく頷いた。
「私も他人の恋愛事情にまでは口出ししたくないが、相澤は親友なんでね」
狼が獲物に迫るように、黒澤は清水との距離をじりじりと詰めていく。その声も少しづつ強くなっている。清水は後ずさりすることなく、腕組みしたままだ。
「何で断った。君に恋人はいないはずだが?」
容疑者を取り調べる刑事のような詰問口調で黒澤は問う。清水は顔色一つ変えない。口元に薄笑いを浮べたままだ。
「付き合うっていう気持ちになれなかったんですよ」
「嘘はやめろ。私が何も知らないとでも思っているのか」
清水の言葉を遮るように、黒澤は言葉を発した。抑えていた怒気がすこし漏れていた。黒澤は人さし指を刀の切っ先のように清水の鼻先に突きつけていた。清水は息を吐くと黒澤を見つめている。
「面倒だからですよ。うざったいじゃないですか。僕の静かな生活を乱して欲しくないんです」
あっさりとした口調だった。何の感情も感じない平坦な声、悪びれる様子は全く無い。
「相澤の気持ちを知ってたんだろ?」
「知ってましたよ。でも自分を押し殺して付き合うの耐え切れないんです。相手に合わせてもボロが出ます。互いに失望するくらいなら付き合わないほうがマシですよ」
問いただすように語尾を強めるの黒澤とは対照的に落ち着き払って清水は返答した。下から突き上げるような視線で睨み付けている黒澤を、清水は悠然と見下ろしている。
「相澤の事は?」
「一女子生徒、僕とは何の関係も無い存在ですし、関係して欲しくありません。邪魔なんです」
大きな物音が、教室に響いた。黒澤は教卓に視線を移す。視線の先には一人の小柄な少女が立ちすくんでいた。雨に打たれた野良犬のような弱々しい表情だ。
「相澤」
黒澤の言葉と同時に糸の切れた操り人形のように相澤は床にへたり込む。
「同じことが言えるか?」
「だと思った。満足ですか?」
相澤をちらりと見ると、最初から全て知っていたかのような冷静な口調で清水は呟く。何の感情も篭っていない無期質な声だった。
「清水、一発殴ってもいいか?」
「どうぞ、それで気がすむ」
清水の言葉を遮るように、黒澤は平手で清水の頬を張った。乾いた音が響くが、清水は動じることなく薄笑いを浮べたままだった。能面を着けているかのように表情は変化しない。
「満足ですか?」
「失せろ」
蔑み、見下すような低い声だった。清水は鼻で笑うと背を向け、ゆっくりと教室を出る。相澤の両目からは涙がとめどなく溢れていた。声を押し殺していたが相澤の小さな体は小刻みに震えていた。黒澤は近づくと相澤を包み込むように抱きしめた。
「大丈夫か」
相澤の嗚咽が雨音に混じって教室に響いている。教室の空気は重く、雨は止む気配も無く降り続いていた。
『雨』©リュート
三人称多元視点で語り手は作者です。俗に言う神の視点です。
この駄文は神の視点になっているでしょうか?
また、改善点はあるでしょうか?
教えてください。
リュート (08/01 09:30)
こんにちは。作品、拝読しました。
>三人称多元視点で語り手は作者です。俗に言う神の視点です。
この駄文は神の視点になっているでしょうか?
この作品はあくまでも神の視点の勉強のために書かれたのでしょうか? もしそういうことであれば試みは成功していると思います。三人称で書くと、要所要所で主人公の心理を書き込みたくなるのですが、うっかりすると、全体のリズムを壊してしまいます。この作品では作者様が筆を滑らせることなく、冷静な筆致で最後まで描けていたように思います。
その分、作品そのもの(ストーリー)の質はどうなのでしょう。あらすじのみを書くと、親友がフラれた、主人公は親友をフッた男性にその理由を問う、というものですね。
もともと相澤と清水が恋人同士で、これといった理由もないのに別れを告げられた、というのなら、黒澤が憤慨する理由も分かるのですが、片思いの相手に告白したら断られた、というだけでは、なぜ黒澤がこんなに怒るかわかりません。清水が他に好きな相手がいようといまいと、その時誰とも付き合う気がない、というのも充分断りの理由になるはずです。すっかり悲劇の主人公になりきっている相澤に同情して自分に怒りをぶつけられても、清水も困るだけだと思うし、ニヒルな性格なら黒澤の態度に呆れるだけでしょう。
実際その通りにストーリーは進み、黒澤の見当はずれな友情だけがクローズアップされる結果になってしまいました。
……と、ここまで書いて、もしかしたら作者様は思春期の女の子にありがちな見当はずれな正義感を書きたかったのかな、と思い当たりました。そうだとしたら、これは上手い作品というべきですよね。狼のような鋭い目、とか妙にオーバーな描写も計算の内なのかも、と思うとこれはこれですごいことです。
できれば最後に、黒澤と相澤の友情ごっこを皮肉るような清水の台詞があったら、読者の気持ちもストンとオチることができると思うのですが。
では、失礼いたしました。
08/02 10:20
ドリーマーさん
この駄文は神の視点の勉強で書きました。
ストーリーはあまり意識しませんでした。
日常的なワンシーンを書いただけです。
神の視点で客観的に書いて何を感じるかは読者の自由です。
作者の余計な意図を排除しようとしました。
オチも無理やりつけようとは思いませんでした。
08/02 19:37
リュートさん、初めまして。読ませて頂きました。
まず初めに、私が文章が下手の部類だということを理解してから読んでもらえると幸いです。
三人称多元視点。語り部は登場人物と距離を置いて、なおかつ心の中を覗けないので台詞と動作、表情などで心理描写を代弁しなくてはならない。さてリュートさんの作品……本作に限って言えば、意図的なのでしょうが指示代名詞が少なく、接続助詞が見当たらない。この鍛錬所の多くの作品が、これでもかこれでもかと多用しているのにまったくない。しかしです、だから文体が硬質……入り込めない要因を作っているかもしれません。
それと台詞が短すぎる。これでは作者が分かっていても読者には伝わらない。多くしろとは言いませんが、せめて1、2箇所ぐらいはこの10倍ぐらいの台詞の長さにして思いの丈を吐き出さないと、心理描写ができないのだから……深みが出ないということです。
つまり要約すると、本作は登場人物との距離感が近いわりには単一視点ばりの心理描写が混じっていて、本来の三人称多元視点ではないということです。
最後に、自分で駄文といっていますが、そんなことまったくありませんね。かなり上手な部類だと感じました。
指摘が的外れかもしれません。その際は流してください。
08/02 22:14
りょうさん
文章を読みやすくするため短文を書きました。
そのため、接続助詞は排除しました。長文は読みにくいですから。
台詞を短くしたのも無駄を排除するためです。
台詞は短くしろとシナリオの書き方本に書かれていますから。
それに長い台詞はリアリティがないと思います。
今回は心理描写は排除しました。
08/03 20:44
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