作家でごはん!鍛練場

『コンクール(短編)』 霧島來都著

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 先生が私たちを見回し、ゆっくりと手を上げた。
 私の視線が譜面に移る。
 チューニングのぼおんというホルンの音がし、体がふわりと浮いた。
 …ような感じがした。
 目をつむって、上がる息を整える。
 スティックを持った手をきつく握り締め、ぱっと目を開ける。
 まぶしいくらいのライトと大きな拍手に圧倒されながらも、私はスティックを振り下ろした――

 「お疲れさま、ななこ」
 スネアを片付けていると、同じ三年生の絵美が話しかけてきた。
 「ああ」私は顔を上げる。「絵美もお疲れさま」
 私は吹奏楽部に所属していて、パートはパーカッションだ。みんなの支持を受け、二年生のときに部長に抜擢された。私自身、性格からいってもみんなをまとめる側だったし、大好きな吹奏楽部のトップに立ってみんなを引っ張っていけることが嬉しくてたまらなかった。部長候補の私に反対する人はいなかったし、先生からの推薦も受けて無事部長になることができた。
 中学校生活も早いもので、気づくと私は三年生になっていた。相変わらず部活では楽しくやっていたが、一生懸命になりすぎて勉強のほうは大変なありさまだった。けれど親は自分のことは自分で決めなさいと言ってくれたし、何よりも私が吹奏楽部の部長として頑張っている姿を応援してくれているようだった。一時期つらい時期もあったが、背中を押してくれたのはいつも両親だった。
 そんな私も、今日のコンクールで引退だった。次の部長はもうすでに決まっているから、その後の部活は心配しなくてもいい。だが、部活がない自分の生活を、私は想像できなかった。できれば卒業まで部活を続けていきたかった。けれど引退は引退、他の三年生もいやいや引退するのだ。私だけが引退しないわけにはいかない。
 とても悲しいし、心残りはある。でも、そんな気持ちは心の奥にしまっておいて、とにかく今日のコンクールを頑張ろう…そう私は決めていた。
 毎年私の学校は、このコンクールで金賞をとっている。もちろん今年もとるつもりで、このコンクールに向けて死に物狂いで練習してきた。衝突もあったし、投げ出したときもあった。だけど金賞をとるという目標は、部員全員が一緒だった。その一つの目標に向かって、みんなで一生懸命練習をしてきたのだ。
 絵美は腕時計を見て、あと五分だよと言った。
 「もうすぐ発表だ、緊張するー!」
 「大丈夫だよ、きっと今年も金とれるよ」
 「私たちこれで引退だからさ、金賞の思い出つくりたいよね」
 「だから、大丈夫だって!自身もちな、ななこ」
 絵美は私を軽く小突くと、笑いながらパート場所へと戻っていった。
 私はスネアを片付け終え、パートのみんなを呼んだ。
 「片付け、みんなもう終わった?」
 聞くと、後輩が片っ端から楽器を見て回り、はいと返事をした。
 「みんな、お疲れさま。もうすぐ発表が始まるから、各自の席に戻って」
 「はい、先輩」
 私は自分の席に戻り、近くの同級生と談笑した。その表面の私とは裏腹に、心臓が飛び出そうなほど緊張していた。どうしよう、と手を握り締める。金賞、とれなかったらどうしよう…。
 いきなり照明がおち、空気ががらっと変わった。今から発表だ。私は顔が強張るのを感じた。どこの学校もみんな、張り詰めた空気の中で平然を保とうとしている。
 「では、結果発表です」
 マイクをもった審査員が、静かに声を発した。
 「銅賞、・・・中学」
 嬉しいのか悲しいのか微妙なところの弱い歓声が、右側で起きる。
 「銀賞、・・・中学」
 わあああと後ろで歓声が起こり、ハイタッチする音が聞こえた。
 「静かにしてください」
 審査員が言い、一瞬にして会場は静かになった。
 「そして、金賞は――」
 私はつばを飲み込んだ。どくんどくんと心臓の音が自分の耳まで聞こえる。
 「・・・中学です!」
 っ――――。

 頬から流れ落ちる涙を、私は止めることができなかった。
 私は思わず立ち上がり、みんなのほうを向いた。
 みんな、泣いていなかった。
 微笑んでいた。
 「みんな…っ」
 座りなさいと叫ぶ審査員を無視し、私は頭を下げた。
 「ごめんなさい…っっ」
 私は下を向き、どんどん濡れていくカーペットをただ見ていた。
 顧問の先生が飛んできて、崩れ落ちそうになる私の体を支えた。
 「あなたのせいじゃないわ」
 私は思いっきり首を振る。
 「あなたは部長として、みんなを引っ張ってきたじゃない」
 「違う!」私は叫んだ。「私が努力不足だったんだ…絶対に金をとれた!」
 副部長も、絵美も、誰も私を止めなかった。涙も流さず、みんな前を向いていた。
 「どうして…っ」
 先生は嗚咽を繰り返す私を支えながら会場を出ようとした。
 みんなが座る席の横を通り、つれられていく。
 私は足が段差にひっかかり、転んでしまった。しゃがみこんで足首を押さえていたとき、何気なく見たみんなの足元に、絶句した。
 みんなの足は、がくがくと震えていた。顔は微笑んでいるのに、涙も流してないのに、足が震えていた。ハンカチを握り締めている子もいた。
 みんなは私を思って、感情を出さないようにしていた。
 私が、私を責めないように。
 私はまた、新しい涙を流した。
 悲しくないはずがない。
 みんなは泣いていた。
 本当は、全身で泣いていたのだ。
 
 「金賞、・・・中学!」
 きゃあああという歓声とともに、会場のドア近くで結果を待っていた私と絵美は、ガッツポーズをした。
 「すごいじゃん、さすがだね」
 「もう一年経ったのかあ」
 絵美がつぶやき、私は頷いた。
 見ると、部長がこっちに手を振っていた。
 私に次ぐ、新しい部長。
 去年二年生だった人は三年生に、去年一年生だった人は二年生になっていた。先輩に助けてもらってばっかりだった後輩は、しっかりと先輩になっていた。
 涙を流しながら喜ぶ部員を見て、絵美と微笑みあうと、静かに会場を後にした。


 
 

 

コンクール(短編)』©霧島來都

執筆の狙い

こんにちは、霧島來都です。

吹奏楽部の話です。部長の目線で書いてみました。
私は吹奏楽部の経験があるので、コンクールでの表現はある程度出来ていると思います。

背伸びをせずに、自分と同じ年代の、今しか書けない作品を書くことにしようと思い、投稿しました。
即興で書いたので至らない点もたくさんあると思いますが、今後の参考にしていくので、ご感想・ご指摘よろしくお願いいたします。

霧島來都 (07/31 11:28)

感想と意見

タニグチ

霧島來都さま

『コンクール』拝読しました。

悪くないです。非常に良いと思います。
学生さんなら分からないと思いますが、学校って素材に溢れているんですね。
これからも臆せず日常のことを書き続けて下さい。きっと学生じゃなくなった
ときにそれが大きな財産になるはずですから。

ちなみにこの作品を他の同年代の方が読むとどう感じるのだろうと思いました。
大事なのは、大人達がどう感じるかではなく、そういった気持ちですね。
もっと同世代の人達との共通項を見つけていって、出しても良いと思いますよ。
大人には分からないだろうなと思うようなディテールを出して欲しいなと思いました。
もちろん大人の目線を無視するのではなくて。自分がフィルターのつもりになって書く。
良いフィルターは、曇らせるのではなく、よりくっきりと浮かび上がらせる効果があるから。
若い人で注目を浴びる方っていうのは、このフィルターが優れている方だと思っています。
霧島來都さんにも少なからず、そのセンスが備わっていると思いました。
もっと表現することにこだわっても良いかもしれないと思いました。
自分なりの表現でよいので。

> 本当は、全身で泣いていたのだ。

とか感情に溢れていたと思いますよ。けど文脈とは合っていなかったけどね。

あととりあえず心理描写はほんの少し増やしてもいいかもしれないですね。
それからどういう主人公なのか。もっと細かく(今よりも10倍くらい)書いても良いかもしれない。
どういう家で生活しているのかとか、普段考えていることとか、将来のこととか、いろんな方位から
主人公を見つめられると思いますんで。

それでは失礼します。

07/31 17:38

たつひこ

はじめまして。
作品読ませていただきました。

実は私も吹奏楽経験者なので、妙に懐かしい気持ちになって読みました。
文章は読みやすく、最初に緊張感のある演奏シーンをもってきていたのもいいなと思いました。
等身大の話ということなので、まさに作者様は青春を謳歌されているときなんでしょうね。

ただしおそらく私が経験者でもあるからかもしれませんが、大きく気になるところがありました。
(生意気言って申し訳ないです)
これは吹奏楽部に限らずだとは思うのですが、こういう大会に出る部活の強さに関してです。
主人公の学校の吹奏楽部はどうやら毎年「金」の常連だったようなのですが、主人公の代だ
けが「金」はおろか「銅」にすら入賞していないです。そしてまた次の代では「金」に返
り咲いているようです。(ですよね??)
大体強い中学っていうのは常連で、だからってもちろんいつも同じように金や一等賞をとれる
わけではないと思うんですが、この主人公の代だけ入賞すらできないという結果は私には
かなり納得しがたいものでした。
弱小チームが奮起して「銅」をとったとか、いつも上位の強豪チーム同士が争って今年は
金取れた、とかなら「なるほど!」と思うのですが……。
なので、ストーリー運びとか文章とかが普通にいいなあと思うにも関わらず、なんとも腑に
落ちないという変な気持ちになってしまいました。

気の利いたことが言えずに申し訳ないです。
以上です。

07/31 21:59

霧島來都

タニグチさま

ご感想、ありがとうございます。
前の作品では、表現がなっていない!とたくさんのご指摘をいただいたので^^;
褒めていただいてとてもうれしいです。
ご意見いただいたとおり、これを長編にしてみたいと思います。
部活のことだけでなく、学校での友情や恋など…完成したら投稿しますね。

霧島來都



たつひこさま

ご感想、ありがとうございます。
即興で作ったものなので、ストーリーと文章を褒めていただけるなんて思ってもみませんでした。
入賞できなかったことに対しての、?は、ご指摘いただいて気づきました。
たしかにおかしいと思ったので、そこはすぐに直させていただきます。

霧島來都

08/01 09:49

ドリーマー

こんにちは。作品、拝読しました。

作家でごはん! には吹奏楽部出身という方が多いですね。ちなみに私も中・高校と吹奏楽部でした。他の方の感想欄でも、吹奏楽部でした、とかバンド活動をやっていました、といった音楽関係に携わっていた方を何人か見かけました。

だから文化部でありながら体育会系のノリの部活の様子や、コンクールの雰囲気なども手に取るように分かります。部員たちの気持ちなどは充分伝わってきますし、この辺りは経験者だけあってよく描けているな、と思いました。
その一方で、吹奏楽部やコンクールの雰囲気を知らない人に伝えるには、やや描写不足かな、とも思いました。コンクール会場、と聞いただけで、私などは自分が演奏した会場の様子(座席数がどのくらいで、壁や緞帳が何色だったか、なんてことまで浮かんできます)を思い浮かべることができますが、普段コンサートホールなどに行く機会のない方にはイメージが伝わりにくかったのではないでしょうか。

また、これは私もついやってしまうのですが、

>そんな私も、今日のコンクールで引退だった。次の部長はもうすでに決まっているから、その後の部活は心配しなくてもいい。だが、部活がない自分の生活を、私は想像できなかった。できれば卒業まで部活を続けていきたかった。けれど引退は引退、他の三年生もいやいや引退するのだ。私だけが引退しないわけにはいかない。

2行の間に引退という言葉が5回も出てきます。おそらく、引退したくない、という主人公の気持ちをアピールするために、同じ言葉が重複してしまったのだと思いますが、部活を卒業する、とか、お別れ、など別の言葉に置き換えた方が、読みやすく、主人公の気持ちを描写するうえでも効果的だと思います(私も過去の作品で同じようなことを指摘されたので、人のことは言えないのですが)。

学校は卒業してしまうと、リアルタイムの描写をしようと思っても、なかなか思うようにいきません。このまましばらくは、今しか書けない作品を書くことは(別に学園物にこだわる必要はないですが)、後々きっと財産になると思います。
この作品を読んで、学生時代を思い出すことが出来て、楽しませていただきました。

余談ですが、作品が1面にあるうちは、SM欄に「○○様、返信しました」といった書き込みは不要ですよ。作者も感想を書いた人も、作品の反応や感想の反応は気になるでしょう? まめにチェックすると思うのです。一方、2面以降に移ったり、作品投稿後1週間以上経過すると、チェックを怠るようになりがちです。私も5面に移った自作に感想が寄せられていて、あわてて返信した、という経験があります。こういった場合は、SM欄に一言「○○様、X面に感想を書きました」という書き込みがあると助かるのです。
SM欄の使い方について、ラウンジBBSで何日か前に意見が交わされていました。気になりましたので書かせていただきました。

では失礼いたしました。

08/01 11:28

雲桜マル

こんにちは。
作品を拝読させて頂きました。

私は吹奏楽部ではなかったのですが、校内の合唱コンクールでこのようなことがありましたので違った意味で凄く懐かしかったです。
最後にOBとして後輩を見ている気持ちはなんとなく分かりました。

こういう小説もいいですね。参考にしたいと思いました。
因みに私は水泳部でした。

08/01 19:07

霧島來都

ドリーマーさま

ご感想、ありがとうございます。
コンクール会場の描写,「引退」の言葉の数など、ご指摘いただいたことはすぐに直そうと思います。
SM欄のことは、了解しました。

霧島來都


雲桜マルさま

ご感想、ありがとうございます。
参考にさせていただくほどの作品ではありません(泣)!
でもとてもうれしいです^^

霧島來都

08/02 11:47

水生

霧島來都様

読ませて頂きました。


クライマックスが良かったです。
以下引用を交えながら、感想を。

>みんなの足は、がくがくと震えていた。顔は微笑んでいるのに、涙も流してないのに、足が震えていた。ハンカチを握り締めている子もいた。
情景が目に浮かびました。着眼が素晴らしいです。

>みんなは私を思って、感情を出さないようにしていた。
>私が、私を責めないように。
>私はまた、新しい涙を流した。
リーダーの辛さが分かります。

>悲しくないはずがない。
>みんなは泣いていた。
>本当は、全身で泣いていたのだ。
この表現がすごく良いです。


私も学園物を書きたくなりました。
それでは失礼します。

08/02 18:23

霧島來都

水生さま

ご感想、ありがとうございます。
表現を褒めていただきとてもうれしいです。
今まで3つほど作品を書きましたが、こんなにいろんな方に褒めていただけるのは初めてです^^
この作品を長編にする勇気がでてきました!

霧島來都

08/04 10:57

桜木樹音

私も吹奏楽部です。
ホルン担当なので最初にホルンがでてきて若干テンション上がりました 笑

私の学校はコンクールに出たことがないので分かりませんが会場の雰囲気は伝わりました。
いろんな方もコメントしていますが

>本当は、全身で泣いていたのだ

の表現好きです。

素人の意見すいません

08/05 22:45

霧島來都

桜木樹音さま

ご感想、ありがとうございます。
私もその表現気に入っています^^
桜木さんの作品も見させていただきますね

霧島來都

08/07 13:50

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