つくづく、僕には運が無いと思った。
小学生の時の遠足は全て雨で中止、中学生の時には修学旅行の前夜に高熱でうなされ、高校生の時は興味本位で初めて吸った煙草で停学処分、厳格な父親に朝まで殴られた。そして、大学への進学が決まり、何とか親元を離れ念願の一人暮らしがスタートしたと思えば、いきなりこんな目に合うなんて。
僕は、どこからどう見ても、普通の男だ。身長は高いわけではなく、太っても痩せてもいない。端正な顔立ちというわけでも、醜悪な顔でもない、と思う。運動は中学生まではサッカー部に所属していたが、補欠要員であり、試合経験は数回ほど。高校生活ではろくにスポーツもせず、勉強もせず、不良と呼ばれる存在への憧れは抱くも一歩踏み出せないといった、さして珍しくない学生生活を送った。
唯一の趣味といえば、音楽鑑賞。勿論、楽器の演奏は出来ないのだが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの名曲、アザーサイドの歌詞を丸暗記していることが秘かな自慢であった。
父親は地方公務員をしており、母親とはお見合いの末の結婚らしい。一人目の息子、僕の兄にあたる亮介は中堅アパレルメーカーの営業。一人目の娘、娘は一人だけなのだが、僕の姉にあたる由香は花屋でアルバイトをしながら白馬の王子様が現れるのを待っている。そうそう、あまりにも平凡な名前で紹介が遅れたが、僕の名前は鈴木健太。「健太」は僕が生まれた当時最も人気のあった名前だそうだ。
高校の卒業を目前に控え、僕には一つの計画があった。それは、地元から離れた大学へ通うこと。そして一人暮らしを始めることだ。
そうすることで、何かが変わるかもしれない、と考えていた。
「お前の思うようにしなさい」
父の言葉は意外だった。猛反対を受けると覚悟していただけに少し拍子抜けではあったが、何はともあれ、うまくいったと思った。反対していたのは母で、子を心配する気持ちからだろう、涙ながらに僕が思い直すよう訴えていた。少し大袈裟な気もしたが、長い話し合いの末、週に一度は家に電話を寄越すことを条件に許しを得た。
大学にはあっさり合格した。けして一流ではない、二流とも言い難い、それこそ誰でも受け入れてくれるような大学だ。しかし、学園祭などの催し物は盛んで、繁華街は近く、キャンパスもそこそこ綺麗で、自分が新たな人生をスタートさせるには申し分無い環境だった。
大学から自転車をおよそ一〇分程度走らせたところにあるアパートに住むことになった。
近くには広い公園があり、昼時になると子供連れの女性や近所の子供達、仕事に疲れた風のサラリーマンや若いOLで賑わう。テニス・コートが一面だけあり、同じ大学だろうか、同年代の男女をよく見かけた。アパートはワンルームで築二十年ということであったが、思いのほか小奇麗で、特筆すべき不満は見当たらない。入り口のドアが色の抜けた淡いピンク、ということ以外は。
僕は完全に自由だ。七畳ほどの空間ではあるが、自分の城を手に入れた。これから大学で新しい友人と出会い、遊び、呑み、時には争い、分かち合い、そんな有意義な時間を過ごすのだ。女性が僕の城に訪れることもあるだろう。そして、きっとその女性は可愛いに違いない。
入学式までは一週間の時間があった。これほど何かを待ち遠しいと感じたのはいつ以来だろうか。小学校の遠足以来か。遠足?雨の映像が頭の中を駆け巡る。僕は頭を左右にぶんぶんと振り、苦い記憶を打ち消すと、まだ開けていない荷物の入ったダンボールに手をかけた。
ピンポン、とインターホンが鳴った。続いて、ドアを軽く叩く音が聞こえる。こんな時間に誰だろう?時計は夜の二十三時を示している。僕がここへ移り住んだことは両親と大家しか知らない筈なのに、新聞の勧誘だろうか。せっかく気持ちの良い時間を満喫しているというのに無粋な輩だな。追い返してやろうか、と思ったが、本来の自分はそんなことが出来る人間ではない、と我に帰り、恐る恐る玄関の淡いピンクのドアを開けた。
「夜分遅く申し訳ありません」
黒いスーツを着た三十歳代前半と思われる男の二人組だった。一人は長身で、整った顔立ちをしている。にこやかな表情が僕の警戒心を少しだけ和らげた。もう一人の男は伏し目がちで、よく顔が見えない。背は高くないが、がっちりとした体格のようだ。
「ここは空家だったと思うのですが」長身の男が丁寧な口調で尋ねた。
「昨日から住んでいるんです」
「成る程、そうでしたか」
「どうかしましたか?」僕が尋ねると、長身の男が、実は、と切り出した。
「実は最近、この辺りに強盗が出没しているのです」僕は言葉に詰まった。返す言葉も見つからない。
「ですので、近隣の住民の方に注意を促して回っているのです。ベランダの戸締りは大丈夫ですか」長身の男が玄関から見えるベランダの窓を指差して言った。僕もその指を追ってベランダに目をやる。
突然、伏し目がちな男が僕に体当たりをした。僕は一メートルほど後ろに飛ばされ、仰向けに倒れた。伏し目がちな男は手馴れた動きで僕の口をタオルのようなもので塞ぎ、ロープのようなもので僕の動きを封じた。長身の男がゆっくりと淡いピンクのドアを閉じ、玄関で靴を脱いで、部屋に上がった。そして、伏し目がちな男に靴を脱ぐよう指示したあと、僕に、大人しくしていれば大丈夫ですから、と人差し指を口元に立てながら告げ、優しい表情をした。そして、雨の映像が僕の頭を駆け巡った。
『ハード・ラック・ヒーロー(仮)』©M
初めての執筆、投稿です。
まだ、ほんの序盤だけなのですが、、、。
感想や、改善点など、何か頂ければ有り難いです。
宜しくお願い致します。
M (07/29 22:38)
はじめまして。
ちょっと伺いたいのですが、この作品はどの程度の長さを予定しているのでしょうか。
この作品は中編~長編を予定しているのでしょうが、話の行く末が全く見えないので、作品の感想を述べることはできません。
改善点だけ簡単に申しますが、この作品は無駄な説明(主人公や家族の身上など)や、贅肉の多い文章が羅列されている状態だと思います。
>父親は地方公務員をしており、母親とはお見合いの末の結婚らしい。一人目の息子、僕の兄にあたる亮介は中堅アパレルメーカーの営業。一人目の娘、娘は一人だけなのだが、僕の姉にあたる由香は花屋でアルバイトをしながら白馬の王子様が現れるのを待っている。そうそう、あまりにも平凡な名前で紹介が遅れたが、僕の名前は鈴木健太。「健太」は僕が生まれた当時最も人気のあった名前だそうだ。
本文より引用させていただきましたが、こういう描き方は改めるべきです。
上記を要約すると、「主人公は父・母・兄・姉との五人家族、父親は地方公務員・母親は専業主婦・二人はお見合い結婚、兄はアパレルメーカーの営業・姉は花屋でアルバイト、主人公の名前は鈴木健太」ということですよね。
この家族関係その他が、題名の「ハード・ラック・ヒーロー」と、これから先どの様な係わり合いを持つことになるのでしょうか。
短い作品で構わないので、完成作を投稿し意見を求めた方が、将来に繋がる有益な何かしらを得ることが出来ると思いますよ。
それでは失礼します。
07/30 17:08
よういちろう様
はじめまして。
ご意見有難うございます。おっしゃる通り、冒頭の一部分だけを投稿したに過ぎないので、感想を求めるのも無茶でしたね。申し訳ありません。
自分としては、表現の部分の指摘を頂きたかったので、非常に参考になりました。余分な説明と感じられた部分は後の話につなげるつもりでしたが、全体を書き上げて、表現方法を再考してみます。
有難うございました。
07/30 23:21
Mさま
「ハード・ラック・ヒーロー」拝読しました。
初めての執筆ですか~。まだお疲れ様でしたじゃないですね。
まだまだ頑張ってくださいね。
ワクワクさせる展開だと思います。
けどこの文量だと何とも言えないですよね。起承転結の起も終わっていない感じなので。
ちなみに冒頭は半分くらいはカットした方が良いと思います。ずっと説明調で、単行本として考えたとき
2頁目には物語に突入して、ちょうど見開きを終えたくらいで、何らかのアクションがあれば理想なんですよね。
冒頭としては冗長、事件(強盗が入る)が起きるには早すぎです。その辺のリズムは大事にしていただきたいなと
思いました。
ただセンスはあると思います。エンタメ気質の方みたいですし、続きが楽しみです。
長篇でも人に見せてもらうときは原稿用紙30枚くらいにした方が良いですよ。
ちょうど起承転結が一周する頃合いですから。
あとは、おっとろしいことを書く癖を付けてもらえばなと、人が死んだり、生き返ったり常に非日常を意識して
書けるようになれば面白くなるだろうなと思いました。ちなみに青春小説ものだとしたら、腐るほどあるので、
凡庸にならないように常に大きな枠組みで書ければよいかなと。
それでは失礼します。
07/31 16:56
はじめまして。普段の私なら『序盤だけを読んで感想くれ』などという、読み手を舐めきった姿勢の投稿者様へは「どうか、ちゃんと最後まで書き上げてから作品晒しておくんなましあそばせ」と、それこそキレてキレてキレまくったお怒り※ントを真っ先に贈るところなのですが、今回はめずらしく、序盤だけだけど拝読しました。
なので、気づいたこと。
文章、筆致は典型的なあっさり系ゆえ、まあまあ読み易いほう、だったと思います。ところどころ言葉を端折り過ぎている部分もあるけどね。その一例↓
>これから大学で新しい友人と出会い、遊び、呑み、時には争い、“分かち合い”、そんな有意義な時間を過ごすのだ。女性が僕の城に訪れることもあるだろう。そして、きっとその女性は可愛いに違いない。(注:“”石野)
「分かち合い」……ん? 分かち合うって、一体何を?
また、同箇所では文章表現面以外で、もうひとつ引っ掛かったことがありまして、それは、主人公がまだ見ぬ彼女について言及するクダリ。事あるごとに自らが極めて凡庸かつあまりツキの無いタイプだと自覚しているような主人公に、どうして突如「きっとその女性(=未来の彼女)は可愛いに違いない」と言えるほどの“確信めいた自信=淡い願望等ではなく”が漲るのだろうか? ってね。たとえ彼の心がその時、ずっと夢見ていた新生活への第一歩を踏み出した高揚感にすっぽり包まれていたせいだとしても。
だからたとえばココが「きっとその彼女は、それなりに可愛いに違いない」とか「僕にとってはとびきり可愛いに違いない」とかだったら、主人公のキャラともより巧く馴染み、結果、読む側の私とて一層すんなりと納得できたはず。
08/01 00:11
タニグチ様
ご意見有難うございます。
おっしゃって頂いたアドバイス、全て参考になります!
青春系の物語にするつもりはありませんので、教えて頂いたことも踏まえ、より良い内容に仕上げたいと思います。
有難うございます。
08/01 00:44
石野モアイ様
ごめんなさい、、、。でも読んで頂いて有難うございます。
しかも、注意を頂いた部分、確かにおっしゃる通りですね。主人公の人間性を深く掘り下げた上での文章作りに励みます。
有難うございました。
08/01 00:48
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