作家でごはん!鍛練場

『マザーレスチルドレン』 カノウマコト著

執筆の狙いsite

  


マザーレスチルドレン
         

       Chapter 01



ハルトはいい加減疲れていた・・・
何の為に生きるのか・・・
誰のために・・・



「君は何故此処に来た?」
 ベッドに横たわったままの老人がハルトに問いかけた。老人と言っても見た目はそんなに年老いた感じはしない、ただ異様に痩せて肌は荒れてカサカサだっが目付だけは鋭い男だった。「他にすることもないから」ハルトはそう答えた。
「今は大変な時代だからね。でも多くの若者は政府の生活支援プログラムで遊んで暮らしてるじゃないか」
「別にそれでもいいんですけどね、人を探してるんです」
 確かに人間のする仕事じゃないよ、とハルトは思った。国立老人介護センターの仕事は過酷だった。寝たきりの老人達の食事と排泄の世話。一日平均十五時間労働。支払われる給料は政府の失業者対策の支援金とさほどの代わりはなかった。それでもハルトがこのセンターの仕事に就いている理由は十年前に生き別れになった母親を探すことだった。ハルトの母親は生きているなら四十五歳になっているはずだった。たった一人の家族と呼べる人だった。

 先程の老人に食事を与えると今日の仕事は終わりだった。ハルトが働いているこの施設は常時約百五十名の老人を収容している。老人とは言っても施設入居者の平均年齢は四十七歳であった。この国の国民の平均準用は五十歳に満たない。劣悪な食事事情と医療制度の崩壊によってこの二十年で平均寿命が三十年縮んでしまった。世界中のあらゆる食べ物には放射性物質が含まれていた。それが体内に蓄積されてほとんどの人々は癌細胞に犯されていた。被爆していない人工的な食料で育った十五歳以下の子供たちを除けば。
 ハルトはセンターの建物から出ると駐車場に停めてあった電動バイクに股がった。左腕につけたデジタル表示の腕時計を見た。午後八時半。今夜は行きつけの食堂で食事をするつもりだった。


「いらっしゃい。おおー久しぶりだねぇ」
 ハルトの顔を見るとマスターは笑顔になった。
「どう、調子は?」カウンターの中の椅子に腰掛けてマスターは言った。
「別に変わった事はないよ。マスターの方はどう、忙しい?」
 この街の中心部に当たる東和町にある東和食堂、ハルトはこの店の常連だった。店のカウンター席の一番奥に腰掛けながらハルトは携帯電話を取り出した。携帯電話には着信の履歴も新着メールの表示もなかった。
「相変わらず暇よ、今日はハルが初めてのお客。そろそろこの店も潮時かな」
マスターは頭巻いたバンダナをとりながら立ち上がった。
「最近ご無沙汰だったけど元気にしてたの?うちの嫁さんも心配してたよ」
「うん、最近なんだか疲れ気味で何をするにも億劫になっちゃってね。何かやっぱ内臓が腐ってきてるのかな」
「あはは、ハルはまだ若いから大丈夫だと思うよ、オレはもう歳だからあちこちガタが来てるはずだけどね。でも全然大丈夫よ。元気元気」
「マスターは、子供たちの為にまだまだがんばらなきゃね。ところでレイコさんは元気にしてるの?」
「最近蒸し暑いからね。実はオレもちょっとダルくて参ってるよ。レイコは元気にしてるよ。今は子供たちを迎えに行ってる。マキのクラスの友達の誕生会かなんかでタクも呼ばれてね、一緒にね、ほら駅の向こうの団地あるじゃん、あそこまで」
「マキとタクともしばらく会ってないね、どうしてる最近は?」
「うん、まあ元気に学校通ってるよ。最近は生意気になってね、二人共。レイコも大変よ。まあ、オレは子育て放棄してるからね」
「そっか、でもマスターは偉いよ。子供育ててるから、二人もね」
「あはは、でもいつ放り出すかわかんないよ、この店ももうヤバイもん」
 マスターは笑いながらプレイヤーにCDをセットした。
「いつものでいい?」
「うん、いいよ。お腹減ってさ。あ、先にビールね」
「あいよ!」

 The Bandの演奏するアイ・シャル・ビー・リリーストが壁に埋め込まれたスピーカーから流れてきた。ボーカルの搾り出すようなファルセットが淀んだ店内の空気を僅かに震わせた。


 すべてのものは置きかえられるという
 でも、すべての距離ははっきりしていない
 だからおれはすべての顔を覚えている
 おれをここに置いたすべての人の顔を
 おれの光が輝いているのがみえる
 西から東へ
 もういつでも、もういつでも
 おれは解き放たれるだろう


 この国は今から二十年前に破綻した。
というか二十年前に先進国と言われていた殆どの国が債務不履行に陥った。行き過ぎた資本主義社会の崩落だった。各国の株価は地に落ちて主要通貨は暴落した。凄まじいインフレが起こってあらゆる国で暴動が勃発した。この国の当時の政府も暴徒を鎮圧するために強硬手段を投じて軍隊を派兵した。
多くの民衆の血が流れた。 それでも食料に飢えた人々は当時の政府と戦った。ついには政府は核兵器を使い国民を攻撃した。長い間国家間の争いにも使われることのなかった悪魔の兵器は自国の国民を焼き殺す為にその長い封印を解かれる事となった。
 
 五年間に及ぶ泥沼の戦いが終わると勝利した民衆の若きリーダーが新政府を立ち上げた。
一億二千万人いた人口は半減した。六千万人の飢えた人々がなんとか新時代の幕開けを迎えることが出来た。希望に満ちた新しい世界が訪れると誰もが信じていた。しかし実際にはそうはいかなかった。各国で乱発された核爆弾の放射能は全世界を覆い尽くしていた。

「いただきます」
 ハルトは運ばれた料理に箸をつけた。一応肉料理だが何の肉かはわからない。マスターだって多分知らないはずだ。業者がドブネズミを繁殖させて食肉用として闇でさばいているという専らの噂だった。でもハルトはマスターが作ってくれるこの料理が大好きだった。今の子供達は完全食と言われるドッグフードみたいなまずいクッキーと何種類かのサプリメント、人工ミルクだけしか与えられていない。放射能物質の入っていない安全な食べ物なのだが味気なくてハルトは可哀そうに思ってしまう。でも 子供たちの健康を維持していく為にはそうするしかなかった。
「やっぱりマスターの料理は上手いよ」ハルトはお世辞じゃなくそう言った。
「うれしーね、そう言ってもらえると。でもね、材料が高くなってね。いつまで出せるかわからないよ」
 肉を頬張りながらグラスに注がれた生暖かいビールを飲む。みんなはビールと呼んでいるがこの泡立った黄色い液体は本物のビールとは多分程遠いものだろう。ハルトは本物のビールを飲んだことがなかった。
「どうお袋さん見つかりそう?」
「うん・・・なかなか難しいよ。手掛かりが無いから」
「そうねえ、別れてから十年以上か・・・顔だって変わってるだろうしね。ハルだってもう子供の頃とは全然違ってるだろうからね」
「うん、そうだね」
 ハルトも母親の記憶は曖昧になってきていた。ただ一緒に写った写真だけが記憶の頼りだった。もう会う事は無理だろうと内心は思っている。生きているか死んでいるか、もし生きていたとしても母親に残された命はそんなに長くはない筈だった。
でも時々たまらなく母親に会いたくなる時があった。もう一度会って話して抱きしめてあげたかった。

 入り口のドアが勢い良く開かれて一人の男が転がるように入ってきた。大きな黒いショルダーバッグを肩にかけたもう四十過ぎの老人といっていいくらいの男だった。ハンチング帽を被ってヨレヨレの半袖シャツに汚れが目立つジーンズを履いていた。すでにかなり酔っているようだった。
「また来たよー」
「いらっしゃ・・・なんだカジさんか」
「悪かったね、マスターオレで」
 カジさんと呼ばれた男はおぼつかない足取りで三席あるテーブル席の一番入口に近い椅子にドカッと腰を下ろした。
「またかなり出来上がって・・・一体どこで飲んできたんですか?今日は早めに帰ってくださいね」
 迷惑顔でマスターは言った。
「うんうん、分かってるよ。昨日は悪かったね。朝まで付きあわせて」
「そうですよ、オレも随分酔っ払ってたけどあの後でレイコと大喧嘩だったんだから」
「すまんすまん、今夜は少しだけ飲んだらすぐに帰るからさ」
「もう、カジさんはかなり酒癖悪いんですからね、昨日も絡みまくってましたよ。覚えて無いでしょうけど」
「分かってる、分かってるって、マスター、じゃ、とりあえずビールね」
「あいよ」
 マスターは冷蔵庫から瓶ビールを取り出すと慣れた手つきで栓を抜き、グラスと一緒にカジさんの座るテーブルに置いた。カジさんは手酌でビールをグラスに注ぐとその泡立って不自然に黄色い液体を一気に飲み干した。
「ふぅぅー、仕事が終わっての酒はやっぱ最高に旨いね」
「よく言うよ、仕事なんてしてないくせに」
 マスターは苦笑いしながら呟いた。
「聞こえますよ、カジさんに」
 ハルトが心配してマスターに小声で言った。
「あー、ハルちゃんいたの、 わかんなかったよ。そんな隅っこにいるから。大丈夫ちゃんと聞こえってから。オレはねえ昔から耳はいいのよ。だってさあ、昔ミュージシャンやってたから。まあ、今でも現役のバンドマンだからね」
 カジさんは大声でハルトに話しかけた。
「ハルちゃん、オレはねぇ、ちゃんと仕事してるよ。そうだ今やってる仕事のお金入ったらさ、ハルちゃんを寿司屋に連れていってやるよ。旨いよ、寿司は。こんなしけた店のわけの分からない食い物と違ってさ」
「ちっ、悪かったね、カジさん。わけの分かんない料理で。そんなこと言ってるとまた出入り禁止にしますからね」
 マスターは、苛立たしそうにそう言った。
「わかったって、マスター。ちゃんとマスターも連れて行くから」
 カジさんは少し焦った様子で言った。
「いいよ、オレは行かない。行きたくないもん。水銀だらけのサカナで出来た寿司なんか食えたもんじゃないし」
「分かった、じゃあハルちゃんと二人で行くわ」
「勝手にして下さい。っていうか、カジさん仕事して無いじゃん」
「失礼な!マスターよぉ、オレは建築家だぜぇ、それも超一流の。一級より上、言うなら特級建築士だぜ。仕事のオファーは腐るほどくるけど気が向かない仕事は一切受けない主義なの。安売りはしないんだよ」
 カジさんは得意そうにまくし立てた。
「けっ、またその話。聴き飽きましたよ、いい加減。うちのツケも払えないくせによく言うよ」
 マスターは呆れた様子で嫌味を言った。
「まあまあ二人とも、もういいじゃないですか、やめましょうよいい加減で」
 ハルトが仲裁に入った。
 マスターはまだ不機嫌そうでカウンターの奥の椅子に腰をおろすと、前掛けのポケットからハイライトを一本取り出して口に咥えると棚においてあったオイルライターで火を着けた。
「あれ、マスター煙草止めてたんじゃなかったっけ?」
 ハルトが言うと、マスターは美味そうに煙を吐き出しながら、
「ああ、また禁煙失敗。仕方ねえな、オレ意志が弱いからさ。大体さあ、健康のための禁煙なんて意味無いじゃん。俺達はどうせ長生きなんてできないんだから」
「でも子供たちのために少しでも長く生きていたいって言ってたじゃない。マスターもレイコさんも」
「まあ、そうなんだけど。いろいろあるんよ生きてるとさ。ストレスっていうか」
マスターは灰皿に視線を落としてそう言った。
そして何気なくカウンターの横の小窓から外を眺めた。
「げ、あいつらまた来てるよ」
「昨日いたガキどもか?」
 カジさんが身を乗り出して言った。
「昨日なんかあったの?」
 ハルトが尋ねた。
「うん、ちょっとハルもこっち来て見てみなよ。気味悪いから」

 表の通りで街灯の下、迷彩のアーミー服に身を包んだ五、六人の少年達がたむろしていた。先頭で大きめの黒いサングラスを掛けた少年がこちらを窺っていた。
「昨晩もあんな感じであそこで集まってたんだ。ねえ、カジさん」
「うん、マザーレスチルドレンとかホームレスチルドレンとか言われてる奴らだよ。可哀そうな連中なんだろうけど、あちこちで悪さしてるらしいよ」
 カジさんが顔をしかめながら話した。
「マスター、一応黒服隊に通報したほうがいいんじゃない?」
 ハルトが心配そうにいうと、
「でもあいつら何もしたわけじゃないし、ただ集まってああやってるだけだしね、今のところ」
 
黒服隊とは、現政府の下に配置された武装行動隊の俗称であり旧体制の警察と自衛隊の役割を統括再編した組織で正式な名称は国防義勇軍といった。
 
「黒服の連中はあてにならないよ、通報してもまともに来た試しがないし最近は電話にも出ないらしいよ。奴ら交通違反の取締には躍起になるくせに俺たち善良な市民が困ってる時には見て見ぬふりだとよ」
 マスターは吐き捨てるようにそう言った。

その時、ドンっと大きな音がして店の奥にあるトイレのドアが勢い良く開いた。

「あーあ、まざーれすちるどれんはさあぁ。あいつら子供さらうらしいよぉ」
 
 ハルト達三人は一斉に振り返った。
「先生いたんですか!」
 ハルトとカジさんは声を揃えて叫んだ。

 その男はヤマサキという年齢不詳の男で、でっぷり太った体躯に顔は丸々と膨れ上がり西遊記に出て来る豚の怪物を連想させた。先生というのはいわゆるニックネームみたいなもので、実際に何の先生だか知る者は誰もいなかった。この店、東和食堂のもう一人の常連だった。

「ああ、忘れてた先生はさあ、三時間前に来たと思ったらすぐにトイレに入ったきりだった」
 笑いながらマスターは言った。
「ヤマサキ先生、三時間もトイレの中で何やってたんですか?」
 カジさんが言うと、
「うん、ボクは、、ちょっと、しぇいくすぴあの四大悲劇が、、何だったか急に思い出せなくなってここのトイレ借りて考えていたんだよぉ」
 ヤマサキは、遅回しでレコーダーを再生しているような喋り方でそう言った。
「三時間も?ずーっと?」
「うん」
 ヤマサキは、頷くと、ニヤニヤと微笑みながら大きな金縁メガネを掛け直した。そして
真夏だというのに何故か着込んでいるステンカラーコートの襟を正した。
「まざーれすちるどれんは、さあ、ひばくしていない子供の臓器を闇ルートに売りさばいてるんよ」
 ヤマサキはポケットから携帯電話を取り出すとディスプレイに表示されたネットニュースをハルトに見せた。
「マジかよ!先生、じゃあ外の奴らここの子供たち狙ってるのかよ!」
 カジさんが声を荒らげた。
「どうやら先生の言うことは間違いないみたいだ・・・」
 ハルトは、携帯電話の画面から目を上げてマスターのほうを見た。
「マジかよ、ハル。やばいじゃん、うちの子供が狙われてるってこと?」
「多分間違いない」
「冗談じゃない、マキたちを殺されてたまるか!」
 マスターは空に向かって叫んだ。
「マスター、レイコさん達そろそろ戻る頃じゃない?」
 マスターは青ざめた顔で
「そうだな、取りあえず黒服に電話だな」
 そう言うとハルトから取り上げた携帯電話で9629番に電話した。
 数回の呼び出し音の後、無常にも回線は一方的に切られてしまった。

「くそっ!役立たずの黒服が!」


Chapter 01 END





       Chapter 02


 ケンイチは母親達による虐待を受けて育った。物ごころがついた時からまともな食事は与えてもらえなかった。一日の食事がカップ麺一個というのが日常的だった。いや何も食べられない日が一週間のうちに何日かあった。五歳になったケンイチは本当の父親を見たことがなかったが、母親が連れてくる何人かの男達によって暴力だけは与え続けられた。男達は理由もなくケンイチを殴った。パチンコに負けた腹いせに横腹を加減なく蹴りあげられる事もしばしばだった。古くて日当たりの悪い二階建てのアパートの一階の角部屋が親子の住み家だった。母親は無職だったが親子は母子家庭に政府が支給するベーシックインカム(基礎所得補償)で生活していた。母親にとってケンイチはその所得補償を受け取る為だけの存在に過ぎなかった。男が泊まっていく夜には母親はいつもケンイチの両手両足をナイロンの紐で縛ると体ごとケンイチを洗濯機の中に押し込んだ。彼は蓋を閉じられた洗濯機の中で首まで水に浸かりながら一晩過ごした。母親はケンイチ一人を残して平気で2、3日帰ってこない時もあった。そんな時は隣に住んでいる醜く太って精神を病んだ女がケンイチに手料理を食べさせた。代わりにケンイチはその女の妄想話を延々と聞かされた。それだけが彼が口にするまともな食事だった。

 ケンイチは小学校に通うようになったが、先生や同級生とは一言も口を聞くことはなかった。誰もケンイチが言葉を話す姿を見たことがなかったし、クラスの子供達に至ってはケンイチは口が聞けないものだと思っていた。それにケンイチの両腕の内側にある煙草を押し付けられて出来た無数の火傷の痕を気味悪がって誰もケンイチに近づく者はいなかった。もちろん友達はいなかったし、いつも一人で遊んでいた。ケンイチは給食だけが楽しみだった。食糧事情は日を追うごとに悪くなっていたが、学校に行けば放射能に汚染されていないトウモロコシで出来たパンと人工牛乳だけは必ず給食として食べることができた。ケンイチはまずくてみんなが食べ残したパンをこっそりカバンの中に隠して持ち帰った。相変わらず母親からまともな食事を与えられる事はなかったが、彼は盗んだ給食のパンのおかげでお腹を空かす日々から抜け出すことが出来た。

 ケンイチが十二歳になった小学校最後の冬休みにそれは起こった。その頃になると学校が休みに入って給食が無い日などは彼は近くのスーパーで食料品を万引きして飢えを凌ぐことを覚えていた。その冬初めて雪が降った十二月のある寒い日、母親は昼過ぎに起きると男と出かけたまま夜になっても帰ってこなかった。ケンイチはスーパーで万引きしたクッキーを食べながらいつものようにテレビを見ていた。テレビでは黒い軍服をきた小柄な男の演説がもう一時間以上続いていた。まだ若いこの軍服の男がこの国の新しい首相だった。ケンイチは退屈してテレビのチャンネルを変えてみたが放送があっているのはこのチャンネルだけだった。ケンイチはテレビを消すと風呂場に向かった。浴室の棚には母親が飼っている金魚の小さな水槽があった。ガラスのケースの中で一匹の金魚がゆらゆらと泳いでいた。母親が可愛がってる金魚だった。金魚は美しかった。ケンイチは母親に隠れてこの赤くて綺麗な金魚を眺めるのが好きだった。ケンイチは手に持っていたクッキーのカスを金魚の上にパラパラと落としてみた。クッキーのカスは水面に落ちるとゆっくりと水槽の底に沈んでいった。金魚は腹が膨れているのかそれには見向きもしなかった。ケンイチは無性に腹がたった。今度は一欠片のクッキーを水槽に落としてみた。金魚はするりとそれを避けた。ケンイチは金魚に殺意を覚えた。ケンイチは水槽の中に手を突っ込むと金魚をつまみ出した。彼の右手の中で金魚はピクピクと蠢いた。ケンイチは思いきり右手を握りしめた。体中に電気が走ったような感じがした。頭がしびれて足の感覚がなかった。頭のしびれはだんだんと快感に変化していった。ケンイチは初めて射精をした。

こわごわ握り締めていた手を開くと金魚は無残に潰れていた。ケンイチは金魚の死体をトイレに流すと、いつも寝ている奥の部屋の布団の中に潜り込んだ。体の感覚はまだおかしかったが頭はすっきりしていた。金魚を殺してしまったことを母親に知られたら自分は確実に殺されるだろうとケンイチは確信した。

明け方近くになって母親は男と一緒に帰ってきた。泥酔状態の母親を残して男はすぐに出て行った。寝たフリをしていたケンイチは起きだしてきてリビングルームで酔いつぶれている母親を見下ろしていた。ケンイチは用意していた電気コードを母親の首に慎重に三回巻きつけた。それでも母親はだらしなく横たわったままだった。ケンイチは床に尻をつけると電気コードの両端をしっかり握りしめた。そのままの姿勢で両足を母親の肩に乗せて固定した。足を踏ん張るとコードの両端を渾身の力で引き上げた。さすがに母親も目を覚まして激しく暴れたがさらにケンイチは力を込めた。長い時間のような気もしたが、あっと言う間の事のようにも思えた。母親はがくがくと痙攣した後動かなくなった。ケンイチは二度目の射精をした。

 母親の死顔を見てると可哀そうになった。でも悲しくはなかった。母親のことが大好きだったという事が初めて分かった気がしたが今更どうすることも出来なかったし、殺す前にそれに気付いたとしても同じ事だっただろうと思った。ケンイチは家を出た。初雪が積もった街はやけに眩しかった。

Chapter 02 END

マザーレスチルドレン』©カノウマコト

執筆の狙い

はじめまして。カノウマコトと申します。初投稿です。
初めて小説(らしきもの)を書いてみました。
今回初期衝動、勢いだけで書いてます。
読み物として成立してるか自分ではわかりません。
稚拙な文章でお恥ずかしい限りですが
よろしくお願いいたします。

カノウマコト (07/27 14:54)

感想と意見

タニグチ

カノウマコト様

『マザーレスチルドレン』拝読しました。
と言っても星空文庫の方ですが、面白かったです。
公募にチャレンジできるかどうかというとよく分からないのですが
(ですが良質のエンタメでした)物語として良質なものを感じました。
できればラストまで読みたいというのが本音ですかね。

途中まででしたら、まずは書ききることだと思います。
文章はそのあと推敲すればよいと思います。
というかここまでブレない文章なら心配はないですかね。
それでは失礼します。

ではでは。

07/27 16:36

カノウマコト

タニグチ様

はじめまして。感想とご意見いただき誠にありがとうございます。
良質のエンタメ。私の目指すところですので素直にうれしく思ってます。
これはまだ途中までのお話です。プロットも頭の中でぼやけてます。
お言葉通りに取りあえず一作書ききる事を目標にしてみますね。
それでは、心より感謝しつつ失礼いたします。

追伸 3章のさわりを星空文庫の方にアップしてみました。
(1章、2章も誤字脱字の修正と若干の加筆を試みてます)

07/28 16:59

緑川

 拝読しました。

 初めて書かれた小説で、初期衝動、勢いだけで書いてますとのことですが、実際、そう感じさせる作品でした。例えば世界観が大雑把なまま、登場人物をぐいぐいと書きすすめていく点とか。

 僭越ながら、最初はそれでいいのかも知れないです。
 小説で大切なのは人間ですし、書かなきゃ何も始まりませんから。で、それからお話しの舞台設定も、やっぱり詰めていって頂きたいです。

07/28 23:14

カノウマコト

緑川 様

はじめまして。読んでいただきありがとうございます。
そうですね、確かに世界観、舞台設定は今後詰めていく必要はありますね。
なんか今は取りあえず書けるだけ書いてみようかと思ってます。
読み易くて面白い話に仕上げられたらいいなと思ってます。
ではでは、失礼いたします。

07/29 12:02

怜人

はじめまして。拝読しました。と言っても、正直なところやや飛ばし読みになってしまいました。

他の方の感想にかみつく、というような気はさらさらないのですが、僕は初心者だからといって「これでいい」とは全く思えませんでした。
まず、基本的なところから指摘させていただきます。
「・・・」と表記されていますが、一般的な小説は三点リーダ「…」これをふたつでひと固まりとして扱います。なので「……」とするのが正解です。
また、「!」や「?」の後は一マス空けるのが一般的です。詳しいことはこのサイトの「執筆の基礎」で大変わかりやすくまとめていますので、一読することをおすすめします。
後は、とにかく出来るだけ多く小説を読んだ方が良いと思います。お前に何が分かるんだと思われそうですが、圧倒的に読書量が足りないと思います。

内容に関してですが、正直なところ、ここまでで投稿されても判断のしようがない、というのが正直なところです。完成してみたらこの冒頭の印象が一変するぐらい面白くなることは大いにありえますし、そもそもまだまだ導入の設定を一通り明かした段階でしかなく、これからどうなるかさっぱり分からない状態で「評価しろ」と言われても、感想の書きようがありません。
きっちり完成した作品を投稿すること。文章を書く人間として、今後守るべきマナーのひとつだと思います。今後気をつけていただけたらと思います。

それを踏まえて、現段階で気になった点を指摘させていただきます。
まず、世界観の設定が圧倒的に練り込みが足りません。資本主義の崩壊云々、はどこかのやたらと危機感を煽る経済本やワイドショーのコメンテーターが話す胡散臭い内容のトレースに思えます。暴動を鎮圧するためにわざわざ核兵器を使いました、というのも、いやそれはないでしょう、という話になります。
そもそも、たった二十年やそこらで四十代の男性が「老人」と呼ばれるようになるのはちょっと無理があると思いますし、放射能に関する知識もあやふやなまま書いている気がします。
そもそも、これらの設定をいきなり長々とただ説明してしまうのは、芸がない、と言わざるを得ません。この手の設定を踏まえて、じゃあどんな人間がいるのか、どんな考えをするようになるのか、どういう生活を築くのか、考えていった末に、背景の大きな世界観を感じさせるように書いていくのがベターだと思います。
然るべきタイミングでおおまかな世界観を語らせても良いとは思いますが、いずれにせよ「なぜこんな世界になったのか」という部分で、どっかで聞きかじったような資本主義の崩壊、なんてテーマにはせず、もう少し独創的なアイデアが欲しいところです。

一度無政府状態になり、核戦争後の世界という設定の割には、なんだか今の世界とあまり変わらないイメージです。お好きなのは分かるのですが、The Bandの楽曲がこの時代になっても当たり前に聞ける、というのはちょっとありえないのではないでしょうか。もし聴けるのであれば、著作物はデータベース化されて政府が一括管理している、だとか、何かしら物語世界を感じさせるような設定を付与して描写すればいいのではないかと思います。

チャプターが変わると主人公が変わるのですが、このケンイチの描写はなんだかありきたりな狂人の生い立ちを通り一遍描いただけでしかなく、イマイチ面白みが感じられませんでした。生い立ちを描いたのであれば、現在どうなって、何をやっているのかを描かなければ意味がありませんし、チャプター2では生い立ちだけを描くのであれば、もっときっちりエピソードを書きこむべきです。行頭の一字下げも出来ていません。

最後に、タイトルの「マザーレスチルドレン」。これは改題した方が良いと思います。ただ単に「母親のいない子供」を直訳して英語にしただけで、はっきり言えばこどもっぽいセンスです。父親はどうなんだ、という疑問も湧きます。
書き始めてすぐということで、英語タイトルの格好よさに惹かれてしまうのかもしれませんが、なじみのある英単語以外は、原則としてタイトルに使い過ぎない方が良いです。あくまで一般論ですが。

初めて投稿して高評価を受ける人なんてそうそういませんし、このサイトの言う「鍛練」は長い時間かけておこなわれます。指摘された箇所を最大限意識しながら、自分のこだわりは守って、これからも作品を書き続けていってください。気が向いたら、他の人の作品を読んで感想を書いてみてください。その際はただの褒め言葉の羅列ではなく、一読者として率直な意見を交わしてください。このサイトを今後も利用し続けるかどうかは作者様次第ですが、必ず役にたつ、と僕は考えています。

以上、説教くさいことばかり書いてしまって失礼いたしました。厳しい意見ばかりで不快に思われたら申し訳ございません。何かの役に立てば幸いです。

08/01 11:59

タニグチ

 ちょっと横レスさせていただきます。

 怜人さま

 作家でごはん!からデビューされた方の中に桂修司さんという方がいらっしゃるんですが、宝島社主催の『このミステリーがすごい大賞』で『呪眼連鎖』というタイトルで優秀賞を取られました。そのとき全編まるごとを鍛錬場には掲載せずに、冒頭の一部だけを提出して感想をもらっています。そのときは一切クレームは出なかったです。
 全編を書ききる前にリサーチの意味で冒頭のみ投稿するのは私はありだと思います。
 長篇の場合、もし公募に投稿するのなら全編を出すとせっかくの応募資格が剥奪させられる場合もありますし、人それぞれだと思います。
 マナーではなく、そういった事情など鑑みていただいても良いのではないかと思った次第。
 ご理解いただきたく。

08/01 21:29

カノウマコト

怜人 様

はじめまして。読んでいただきありがとうございます。

>僕は初心者だからといって「これでいい」とは全く思えませんでした。
>一般的な小説は三点リーダ「…」これをふたつでひと固まりとして扱います。なので「……」とするのが正解です。
>また、「!」や「?」の後は一マス空けるのが一般的です。
>とにかく出来るだけ多く小説を読んだ方が良いと思います。
>圧倒的に読書量が足りないと思います。

ありがとうざいます。「執筆の基礎」読みました。はい、基本的な事が出来てませんでした。
以後気を付けたいと思います。小説は作者の観点で読んでませんでしたね、読者として普通に読んでただけです。
これからは読み方は変わると思います。なるべく多く読んでみますね。

>これからどうなるかさっぱり分からない状態で「評価しろ」と言われても、感想の書きようがありません。
>きっちり完成した作品を投稿すること。文章を書く人間として、今後守るべきマナーのひとつだと思います。

はい。どうなるかわからない状態ですね。。まずは描き上げてみます。

>資本主義の崩壊云々、はどこかのやたらと危機感を煽る経済本やワイドショーのコメンテーターが
>話す胡散臭い内容のトレースに思えます。
>暴動を鎮圧するためにわざわざ核兵器を使いました、というのも、いやそれはないでしょう、という話になります。
>たった二十年やそこらで四十代の男性が「老人」と呼ばれるようになるのはちょっと無理があると思いますし、
>放射能に関する知識もあやふやなまま書いている気がします。

そこら辺は、確かにそのとおりです。。
でも世界観というか設定は、荒唐無稽な路線(うーん、どんな路線なんだか……)
で行こうかなとは思ってました。例えば、映画なら「時計じかけのオレンジ」「キル・ビル」、漫画なら「20世紀少年」
村上龍なら「コインロッカーベイビーズ」みたいな感じというか。あえて設定があやふやな感じみたいな。
そういう突っ込みどころ満載の世界のお話で、これでSFです。って言うとすごく怒られると思いますが。
まあ、グロテスクなファンタジー路線というか。

>The Bandの楽曲がこの時代になっても当たり前に聞ける、というのはちょっとありえないのではないでしょうか。
>一度無政府状態になり、核戦争後の世界という設定の割には、なんだか今の世界とあまり変わらないイメージです。

はい。。まあ時代は一応パラレルワールドって事で、現実の時間の流れと正比例してなくてぐちゃぐちゃしたような。
歪んだ世界というか、悪夢をみている感じで……。ちょっと卑怯ですかね。。

>このケンイチの描写はなんだかありきたりな狂人の生い立ちを通り一遍描いただけでしかなく、

確かにそうですね、「ありきたりな狂人の生い立ち」はいよくありがちです。自分でもそう思います。
うん、確かにもうちょっと独創的な狂人生い立ち、を描かなければと。はい。。

>タイトルの「マザーレスチルドレン」。これは改題した方が良いと思います。
>はっきり言えばこどもっぽいセンスです。

はい。。これはクラプトンでした。

>このサイトの言う「鍛練」は長い時間かけておこなわれます。
>指摘された箇所を最大限意識しながら、自分のこだわりは守って、これからも作品を書き続けていってください。
>このサイトを今後も利用し続けるかどうかは作者様次第ですが、必ず役にたつ、と僕は考えています。

はい。ありがとうございます。今後も精進してまいりたいと思います。

>説教くさいことばかり書いてしまって失礼いたしました。
>厳しい意見ばかりで不快に思われたら申し訳ございません。何かの役に立てば幸いです。

いえいえ、不快だなんて。ご丁寧なご指導に本当に感謝しております。
これからも是非ともよろしくお願い申し上げながら、失礼いたします。
ではでは。


タニグチ 様

こんにちは。先日からありがとうございます。
えー、今回小説を書こうと思いついたのは、「電子書籍」に対する興味というか、
(IpadユーザーでもiPhone使いでもないですが)
たまたま、タニグチ様のブログの記事をみて「星空文庫」と「作家でごはん!鍛錬場」の存在を知りました。
(作家でごはん!はなんとなく知ってはいたのですが)
「星空文庫」と「作家でごはん!鍛錬場」の連携、「星空文庫」作品がブログやtwitterによってどのような
広がりを見せるのか。うんうん。素晴らしいぞと。是非参加しなければと、、思った次第です。
今年は、電子書籍時代元年もしくは前夜というか、これから革命的な何かが起こりそうですね。
タニグチ様の今後のご活躍楽しみにしてます。

それでは、失礼いたします。
ではでは。

08/02 09:51

タニグチ

再度横レス失礼します。


怜人さん

ラウンジまで書き込んでいただきありがとうございます。
いちおうラウンジでの活動を自粛している身ゆえ、
こちらで返信させて頂きます。(ご返信にかなり苦慮しました)


まず私が、あそこで怜人さんに横レスさせて頂いたのは、
ただ一点、怜人さんがマナーとして言及されていたからです。

怜人さんの意見は正論だと思いますが、ルールとして明記していない以上、
マナー(暗黙の了解)にしてしまうのは危険かなあと思い横レスさせていただきました。
あくまで作品のみに言及すべきだと思います。
そして鍛錬場の使い方は、最大限、各人(作品投稿者)に任されるはずです。
以上簡単ですが、返信とさせていただきます。
ご理解いただければ幸甚です。

08/02 21:05

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