作家でごはん!鍛練場

『ループ&バウンス』

浦河ろに著

薄っぺらいセックスと薄っぺらい関係性を書こうと試みました。
よろしくお願いします。

恋人に振られた。麻里奈という女で、1年ほど付き合った女だった。お互いすごく盛り上がって、何度も何度もお互いの体をまさぐっていた。でも、ある日コンドームが破けアフターピルを使う騒ぎになった。そこから関係は急激に冷えきった。涼しい顔で甘い言葉を放つ以外の交渉術を知らなかった俺は、あっさりと振られた。悪い状況を止める術を、知らなかった。

中学3年生の冬から6人ほどの女をシームレスに乗り継いで、20歳の冬まで来た。俺は突然1人になった。キスやセックスをする相手がいないことのつらさを、俺はほとんど初めて知った。誰かと体をつなぐことの心地よさを知っているのに、それを得られないのはとても辛いことだった。とにかくセックスをしたい、と俺は考えた。思い返すと、最初の1人から麻里奈まで、ずっと、俺はただセックスがしたかっただけだった。麻里奈とは、たまたま1年続いただけだった。そして、体の相性が良かっただけだった。

麻里奈には、一度浮気をされた。元彼とまだ話がついてないから、と彼女は地元まで20代後半のSEに会いに行った。俺は止めたが、彼女は行った。そして、東京に帰ってきた彼女は「ごめん、やっちゃった」と泣いた。泣きたいのは俺の方だったが、彼女に嫌われたくなかった俺は「いいよいいよ、そういうこともあるよ」と言って許した。許したフリをした。

そのあとは、麻里奈がケモノのように鳴いても、心の底からの充実は得られなくなった。セックスという根源的なコミュニケーションがうまくいかなくなることは、日常のコミュニケーション全般がうまくいかなくなることに直結しているようだった。東京はなんでもあるのに、麻里奈と一緒に行きたい場所が無くなった。そして、アフターピル事件が起こり、俺達は別れた。それはすごくあっさりとしていた。喧嘩の最中に「これもうだめだよ。別れよう」と事も無さげに麻里奈は言った。そして、「これからも応援してる、ありがとう」と続けた。何を言っているのか全く分からなかった。

からだの寂しさを埋めるのは簡単だった。お金を払えばいいのだ。仕事で行ったつ池袋のファッションヘルスで、気立ての良い可愛い女性と。旅行で訪れた仙台の格安ソープで、太った女性と。裸で抱き合うことはすてきなことだった。ただ、そのとき限りであるということだけが問題ではあったのだが、セックスに愛とかなんとかを求めなくなっていた俺は、それでもよかった。

出会い系で知り合ったYUIさんを抱いたのは、そんな頃だった。いや、抱いたというよりは、買ったと言う方が正しい。掲示板に暇だ、と投稿していた彼女に声をかけると、「割り切りだけど良いですか?」と言われ、何を割り切るのかも解らぬうちに、五月雨に「ほべつ位置語ごむありでいいですか?」という呪文のような言葉を投げられ、意味も解らぬままにいいですよ、と言った。知ったかぶりで事を進めて行くのは得意だった。
鶯谷のコンビニで彼女を待っている間、プロフェッサーGoogleは彼女の呪文の意味を教えてくれた。曰く、「ホテル代は別の15000円、挿入はコンドームを使うこと」。俺は少しだけ後悔しつつ、ホテル代も含めATMで2万9千円ほど引き出した。「メガネをかけて、ジャンプを立ち読みしていて、白いイヤホンをしていて、赤色のリュックを背負ってます。着いたら教えてください」と出会い系サイトからメッセージを送った。メッセージを送るためのポイントが足りなくなったので、サイトからコードを発行しコンビニの中にあるよくわからない機械にその番号を打ち込み、2千円を払ったりもした。コンビニでは、女を抱く以外大抵のことができるようだった。

YUIさんは、自分で指定した待ち合わせ時間の23時に、30分遅れてやって来た。ちょうど、宅配便の時間指定配達が再配達になってしまう率の高さが社会問題になっていたころで、俺は現代人の時間感覚の適当さを嘆きたくなった。でも、彼女の人間性や時間感覚を指摘できるほど、俺はよい人間ではなかった。彼女は自称している通り、小柄でスリムな童顔の女性だった。だから、どうでもよくなったということもある。

「容姿は良い方だと思います」と書いていた彼女のプロフィールからは、自信満々な上から目線の女を想像していたが、実際は全く逆だった。話下手だった。俺に色々質問をしてきた。丁寧に答えたつもりだったけれど、特に会話を広げるつもりはないようだった。雪がすごいですね、見つけたホテルにすぐ入りましょう、という内容のことを何回も話した。

セックスはとてもあっさりしていた。いっしょの布団に入ってから僕はしばらく手を出さずに雑談をしようとしたけれど、彼女としては「さっさとやることやって金をくれ」という考えに至るのは自然なことで、ずっと困惑した顔をしていた。仕方がないのでキスと愛撫から始めた。YUIさんは見られるのがすごく恥ずかしいらしく、あんまりこっちを見ないで、と何度も言った。初対面であっても恥ずかしそうにしている女性は最高に可愛いので、僕は見続けた。もしかしたら、気持ちの悪いやつだと思われていたかもしれない。
彼女はしばらくしたところで「いいですか?」と言って僕のものを口にふくんだ。慣れた動きだった。迷いがなく、ペニスのどの部分を舐められると気持ちが良いのかを知っているようだった。そしてしばらく舐めたところで「そろそろ、挿れていただいて」と落ち着いた様子で言った。この一言で、彼女にとってこれは業務なのだと俺は再認識した。
指を入れた時すごく狭くきつかったのに、彼女は俺をスムーズに受け入れた。有り体な言い方をすれば、締まりがよかった。彼女は声を我慢していた。ラブホテルにおいて声を我慢するという選択をする女性がいることに俺はカルチャーショックを受けたけれど、それはきっと今までに寝た女たちがおかしかっただけなのかもしれない。
早漏ってわけでもないのに、俺はすぐに導かれてしまった。5度ほど大きく脈を打って、さみしさを吐き出した。慎重にペニスを引き抜いて、ゴムが破れていないのを確認した時、少しだけ安堵した。

ピロートークもとてもあっさりしていた。俺の年齢を聞いて、今年成人式だったの?私の方が少しだけ年上だ、と言っていた。サイトには20歳と書いていたので、あれは嘘だったのだろう。そもそもYUIという名前が本当の名前かなんてわからない。デスノートが大好きな俺も「Lです」としか名乗っていなかった。お互いふざけている。からだは知ったのに、本当の名前は知らない。

「こういうことはよくするんですか?」

YUIさんが俺に問うたとき、あなたほどではないですよと返しかけた。が、今更俺がYUIさんより素敵な人間ぶったところで全く意味がなかったから、やめた。
「ほとんどはじめてですよ」
「友達とはよくお酒飲むんですか?」
「はい、それなりに。YUIさんは?」
「わたしは、あまり」

かみ合わない宙に浮いた会話を終えて、YUIさんはシャワーを浴び、俺から1万5千円を受け取って、フロントに「先に女性ひとり出ます」と電話をして、手を振って出て行った。まだ午前1時だった。朝まで数時間ひとりだ、と思うと、また、やりきれなくなった。俺はどうしてYUIさんがホテルに泊まると思ったのだろう。何を期待していたのだろう。俺がしたかったのは勃起したペニスを膣に沈める行為だけではなかったのだと、自覚した。俺が求めるものは、きっと出会い系サイトには無くて、しばらくはお金を払っても得られないものだと悟った。カードのCMで言ってたような、プライスレスなものがあることを、俺はずっと忘れていた。でも、それはもはや手に入らないような気がした。

テレビをつけると、普段インターネットで探し求めているアダルトビデオの数々が無料で見られた。麻里奈に似た女優が4人くらいいた。しかし驚くほどに心は惹かれず、マイナーな邦画のタイトルを一通り斜め読みした。興味を引くものは何もなかった。

夜はまだ、始まったばかりだった。

ループ&バウンス ©浦河ろに

執筆の狙い

薄っぺらいセックスと薄っぺらい関係性を書こうと試みました。
よろしくお願いします。

浦河ろに

210.191.208.166

感想と意見

偏差値45

>シームレス
継ぎ目のない状態

>SE
システムエンジニア?

>デスノートが大好きな俺も「Lです」としか名乗っていなかった。
知らない人もいると思うので、あそびの文章としては良いけれど……。

>からだは知ったのに、本当の名前は知らない。
そういうことはよくあるね。
手順が違うという意味で。
B’zの歌詞で「キスは交わしたけど名前も知らない♪」なんてあった。

>薄っぺらいセックスと薄っぺらい関係性
内容も薄っぺらい気がした。

一般的に知っている情報は美味しくはない。
知らない情報は美味しい。もしかしたら関心があるかもしれない。
そういうネタを提供してくれたらいいかも。

2017-11-14 20:35

219.182.80.182

一歩夢

拝読させて頂きました。

主人公が「女性、ではなくメスに飢えている」というのが伝わってきました。

「からだは知ったのに、本当の名前は知らない。」
↑個人的にこのフレーズがとても好きです。主人公はただのケモノ、という今までの描写から、ふと冷静になり人間と化した。この緩急?が心に残りました。

とても面白かったです^^*

2017-11-14 21:03

119.173.237.61

浦河ろに

偏差値45さん
題材としてはありふれていたかもしれないですね。読んでいただきありがとうございました。

一歩夢さん
そこが1番書きたかったところなので、気に入っていただけて嬉しいです。読んでいただきありがとうございました。

2017-11-15 00:09

60.112.103.147

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