作家でごはん!鍛練場

『愛分かち、別れる時』

一歩夢著

ここ最近恋らしきものをしていたのですが、ふと自分の心情を読み返すと、この話の男側の発言と遜色ないものでした。
つたない文章ですが、ご指摘等頂ければ幸いです。

 僕は彼女と居る時、大袈裟なまでに喜び、笑い、楽しんだ。そうしている間なら、幸せでいられると幸せを定義化していた。そんな幸せのフローチャートにすがり、心を満たしていた。
 表情を作って幸せを得られるなら安いものだ、とすら思っていた。
 いつしかその心持ちは、愛する人への等閑を晒させた。
「僕から言い出したのに、ごめん。僕は君を愛せない」
 そう告げた時も、彼女は和やかな雰囲気と、愛嬌のある笑顔でベンチに佇んでいた。
 まばゆく照りつける満月と、太陽のごとく屈託のない表情の彼女の共演は、僕には余りにぜいたくだ。「最期にいいものを見せてやろう」と言われ、この情景を用意されても、文句はつけないだろう。
 泰然とした態度から彼女は発した。
「嫌われた、わけじゃないよね? 」
 笑顔は崩れずも、非情な哀訴を物語っていた。
「もちろんだ。でも、僕は君を心から愛せていない、それが変わる兆しも」
「大丈夫、言わなくても」
 せき止める彼女。けれど柔和な態度を変えず、続けていった。
「あなたと居た時間、ほんのり暖かかったなぁ」
 一瞬、世界がうすぼんやりとしか見えなくなり、おもむろに目を逸らした。
 二人きりで居られるよう敷いた憩いの場から、逃げ出したくなっていた。
「君を好きになった理由、覚えている? 」
「一緒にいるととてつもなく幸せを感じるから、だよね」
「うん、その通りだ。でもそれは立派で稚拙な建前なんだ」
「本当はどう思っていたのか、聞かせて欲しいな。あなたの最期の演説」
「だから、演説なんて大層なものじゃないってのに」
 彼女は、僕が一方的に熱弁する時を演説と称する。その時間中は口をはさまず、嫌な顔一つせず、すべてを聞き入れてくれる為、大変心地がいい。その点は評価できるが、どうも「演説」という言葉の響きに、皮肉が込められているとしか思えない。
 しかし、今日ばかりは演説ではなく、供述だ。僕の犯した罪を、目前の女神様に淡々と告白しなければならない。審判はどう下るか、なんて考える暇もなく僕は話し出した。



「君と居られた時に感じた幸せ、そこに一抹の偽りはなかった。けれど、それは<君と居られることによる幸せ>ではなく、<君が僕のそばにいることによる幸せ>だった。この時点で、僕は君を装飾品としか見ていなかった。そう、僕の恋情の動機ってのは、とても野卑で無計画なものなんだ。
 まず、僕は高校生の間にやれることを好き放題やりたかった。
 高校生と恋に溺れることが許されるのは、高校生だけだ。高校生と体を重ね合わせることが許されるのも、高校生だけだ。僕はそれを存分に味わいたかった。我ながらなんとも汚らわしい心構えだった。高校生の間に、という観念に焦燥を感じ、損得感情によって、恋らしきものに興じた。若さとはいえ、許されがたい事実だ。
 そして、その甘美なる高校生活というのも終わりを迎える。君と僕はもちろん、多くの人が異なる道に進むだろう。僕はそれが面倒だった。そんな新しいコミュニティの中から新たに、気の置けない人を発掘するのが面倒だった。そんな怠慢を大義名分に、近場の人間、君に手を伸ばした。僕にとってもっとも無害な君に。
 しかも、そんな怠惰による行動が順風満帆のごとく手を取り合ってしまうんだ。
 刹那に、幸せ者だとか、恵まれているとか、自惚れた。誰よりも自惚れたよ」
 少し息を置き、彼女を見つめてみた。気色ばむ様子もなく、首をかしげもせず、殊勝な眼差しで話を聞いていた。正直、本当に可愛らしいんだ。愛くるしいんだ。けれど、僕は彼女を愛する資格を有していない。
 蠢く情欲に鞭を打ち、続きを話そうとした。そこで彼女は遮るように
「私はあなたの彼女でしかなかったんだね」
と言った。返す言葉も浮かばず、失意に包囲された。
 滅私奉公、とまではいかないが、相手に尽くそうと言う気概はまるでなかった。断言しよう。好きという気持ちさえあれば、すべて補完され満たされると思っていた。しかし、その気持ちさえ作り物なら、弁護もなく、情状酌量の余地もなしに、極刑に処されるだろう。ならば、猶予の時を存分に使おうと再び口を開く。
「僕は、周りが羨ましかった。仲睦まじく密着して、蜜月を表したかのように信頼しあっているペアに、羨望の眼差しを向けていた。僕はその幸せの残り香に耐えきれなかった。思考までも恋愛に埋め尽くされてしまう程だった。誰かを愛することを夢に見て、そんな窮屈な義務感から君を好きになった。
 君の前では少しでも明るく振る舞い、君に対する好意を僕自信に深く刻もうとした。
 例えば、君のことを「姫」「傾城の美女」と綺麗事を呈して自慢したりした。本当に素晴らしい人だと信じたかった故に。結果、鵜の真似をした烏だ。恋の真似事なんかして、自分だけが幸せを占め、本気で恋い焦がれている人々を無下に侮蔑した。純愛の下にある思慕の念を抱いている者達を。
 恋とか愛とかいう言葉を丁重に扱いすぎて、それらを意識せずに君を思いやることができなかった。だから、僕はもう恋には関わらない」
 暗澹たる景色にまぎれる喪心状態の僕。沈黙を裂き、包み込むように彼女は言った。
「恋をしないってのは嘘だよ。好きになるかなんて、心のさじ加減で決まるものじゃないんだから」
 叱責が訪れ、今日初めて彼女の感情が乱れた。
「人を好きになるかなんて、本来意識するものじゃないよ。例えば、私は初めてあなたと話した時、好意も嫌悪感もなかった。恋仲になるなんて尚更。
 あなたは女性を見るとき、最初から恋愛対象かどうかで判断してるんだよ」
 僕の心は八つ裂かれるも、川のように麗しい指摘だった。
「それにあなたのいう恋人って、いつもそばにいて、言うことを聞いてくれる人でしょ? 膝枕してくれたり、抱きついてくれたり、キスしてくれたり、癒してくれるような人でしょ? あなたから動いてよ」
 次第に声は薄れ、秋の虫に負けるくらいになり消え、浸透した。
「君と居た時は楽しかった。けれど、僕は誰かを幸せにできるほど立派じゃないようだ。はたまた大成しないかもしれない。だから僕は、今できることをする。君や、周りの人を応援して、祝福する。皆の幸せの為に動いてみるよ」
「勝手な解釈しないでよ! 」
 激昂が一閃、辺りに轟いた。ふと彼女は愁眉を見せつけ、泣き崩れそうな顔で抱きついてきた。
「私のこと、愛せるようになったら、また来てほしいな。あなたに、わたしのこと、しあわせに、してほしいから… 」
 震えた声で語り、僕の胸元から離れようとしなかった。
 扇情なる肉体、蹴っ飛ばしてやりたい理性。しかし、この蠱惑に惑わされ彼女を抱き返してはならない。そう全てを抑え込み、告げた。
「どれだけ掛かってしまうか不明瞭だけど、待っていてくれるなら」
「一応言っておくけど、あなたより好きだと思える人がいたら、そっちに行っちゃうからね? 」
 涙ぐんだ上目遣いは、あまりの幼さに忠告すらもかき消してしまいそうだった。そんな僕を危惧したのか、僕の腹にねじ込まれる拳。いくらか細い女性のパンチとはいえ、不意打ちでゼロ距離から殴られた為、膝を屈し、腹を抱えた。
 苦悶している最中、彼女は居丈高に言った。
「これぐらいしないと、おばかなあなたには伝わらないかもだから、一応ね? 」
 小さく頷きはしたが、困惑と鈍い痛みが身体中を駆け巡っている。
「ほ、本当に大丈夫? 結構強く殴っちゃったみたいだけど… 」
 流石に心配したようで、うろたえつつも僕の腹を撫でる彼女。これもまた新鮮で可愛らしい。
 実は僕はものすごくもったいないことをしたのではないかと、今更ながら不安を覚えた。こんな方を手放そうなんて、けれど振り返りはしない。
「ご心配どうも、可憐なお嬢さん」
「どこはかとなく嫌みを感じるんだけど」
「純粋に君を表現しただけだよ。さぁわかったらその拳をほどいて、もう暗いから送っていくよ」
「ありがとう、優しいのね」
「体裁ってのもあるからね」
「そこは素直に頷けばいいの」
 いつものような何気ない会話をしながら夜の街を歩いた。
 今、目前に起こっていることは全て夢で、消えてしまうのではないかと、疑ってしまうくらい今を惜しんだ。けれど僕がするべきは過去の改変ではなく、未来への進歩だ。
 彼女を幸せにする為、己を磨く。それに努めよう。
 抱きつかれた時の衝撃は、まぎれもなく恋によるもので、今も尚ビリビリと痺れている。

愛分かち、別れる時 ©一歩夢

執筆の狙い

ここ最近恋らしきものをしていたのですが、ふと自分の心情を読み返すと、この話の男側の発言と遜色ないものでした。
つたない文章ですが、ご指摘等頂ければ幸いです。

一歩夢

119.173.237.61

感想と意見

偏差値45

>【等閑】
ものごとをいい加減に見過ごすこと。なおざり。

>どこはかとなく
「どことなく」と「そこはかとなく」を混同したもの、あるいは意図的に混用したものか。「どことなく」も「そこはかとなく」も、どこがと明示することはできないが全体的にある傾向を感じるさまなどを意味する表現。

>それは<君と居られることによる幸せ>ではなく、<君が僕のそばにいることによる幸せ>だった。
なんとなく共感できる内容です。
アクセサリー、演出、悪く言えば、偽物。そのような感じだね。
つまり、、あそびだったということかな。
だが、あそびが本気になることだってあるからね。その逆もある。
とはいえ、義理人情は大切。

文章としてはしっかりしているのだけれども、それが仇になっている部分もあるかも。
理論的過ぎる。もうちょっと人間の泥臭さがあってもいいのかな、と思いますね。
かしこ過ぎるんだね。高校生ってこんなに賢いのかな。分からない。

2017-11-13 00:52

219.182.80.182

ペンニードル

一歩夢 様 はじめまして

ぞっ、としました。((((;゜Д゜)))))))

3日後には多分、女の子には別の好きな人が出来ているんでしょうね年上の。しゃぶ葉で肉食べながらみんなでこのやり取りをネタにしちゃって。実はこっそり録音とかしてて欲しいな。
彼女が若かったわー。で済ませて先に進む中、この男はいつまでも自分に酔い続けるんでしょうねー(^_^;)

読者に”イタさ”を伝える文章としては秀逸だと思います。

個人的にはこういう人間臭い文章は大好きです(o^^o)人間が書いてるなぁー!って思う。ここから始まる主人公の転落と救いを書いて欲しいなって思いました。

2017-11-13 01:20

59.128.82.6

大丘 忍

なんだか、理屈っぽい感じがしますね。僕も若い頃に恋愛経験が有りますが、こんな理屈なんて無かったような気がします。彼女が好き、彼女と一緒になりたい。それだけでしたね。

2017-11-13 11:05

221.242.58.46

一歩夢

偏差値45 様

ご指摘ありがとうございます。
覚えたての言葉が入り交じり、不適切なものとなってしまいました。もっと勉強します…

「理論的すぎる」…これは深く考えすぎてしまう私の悪癖なのかもしれません。より素直な心で描けるよう頑張ってみます。
改めて、ありがとうございました。

2017-11-13 11:48

119.173.237.61

一歩夢

ペンニードル 様

ご感想ありがとうございます。
そういった後日談を描くのも面白いですね!確かに私自身も、このまま話を終わらせるか悩みました。けれどその先が浮かんでいなかった為、一旦話を締めました。
その後の話、考えてみます!

改めて、ありがとうございました。

2017-11-13 11:56

119.173.237.61

一歩夢

大丘 忍 様

ご感想ありがとうございます。
まさに仰る通りです。私はなんでもかんでも、まず理屈で整理をしようと考えてしまいます。それがこんな所にも現れてしまいました。
そういった点、理解はしているのですが、治せずにいます。
「好き」という単純なものを、自分で複雑にしているのではないかと省みました。
改めてありがとうございました。

2017-11-13 12:03

119.173.237.61

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です(テクニカルサポート)。

:
:
:
3,000字以内