作家でごはん!鍛練場

『本物であるがゆえに(ショートショート)』

スピネル著

オチは題名につながっているのですが、上手く伝わっているでしょうか。

原稿用紙5枚の某コンテストを狙って書き上げた作品です。

 情けないほどに緊張している。二十一年間生きてきて、こんなのは初めてかもしれない。
 舞台袖から覗き見ると、数百人には入る客席はほぼ埋まり、俺を紹介するアナウンスに拍手が沸き起こっている。この緊張は今に始まったことじゃなく、昨日、いや数日前からすでにじわじわと圧し掛かってきていた。
 昨日の夕食時、彼女に言われたことが思い浮かぶ。ふと胸の内を漏らすと彼女は、
「緊張? お客だと思うから緊張するんだよ。そうだ、客席にカボチャ頭が並んでいると思えばいいじゃん」
 視線をホットプレートの上の肉に向けたままの軽い軽い言葉。だが今はそんなものにも頼るしかない。
 目を閉じて、客席にずらりと並ぶカボチャを思い浮かべてみた。俺を見ているのはカボチャ。カボチャ。カボチャ。
 よしっ。覚悟を決めて舞台へと足を踏みだそうとした。だが、その足が震えている。緊張するのも当然といえば当然なのだ。俺はプロでもなんでもない。路上で小遣い稼ぎにマジックをしていただけの大学生なのだから……。


 駅前の広場には休日を楽しむ親子や若い男女、小金を振りまいてくれそうなおばちゃん、おじちゃんが二十人程集まっている。いくつか見せた簡単なマジックで、空気は程良く温まっている。
 さあ、メインといきますか。
 俺は手にした薄茶色の紙袋を掲げ、「さあ、ここに紙袋と五つのピンポン球があります」
 紙袋をひっくり返し、何も入っていない事をアピールしながら球をそこに入れた。そして、開いている口をひねり閉じた。
「さて、今からここに入れた球を果物に変えてみせます」
 微かなざわめきと、ほぉー、という感嘆の声。上々の反応だ。前にいる五歳くらいの女の子は目を輝かせている。彼女に声をかける。
「おじょうちゃん、どんな果物に変えて欲しいかな?」
 さぁ、イチゴか? リンゴか?
「う~んとね、ドリアン!」
 ド、ド、ドリアンって……このマセガキが。ドリアンってどんな果物だったかな。フルーツの王様っていわれているやつだよなあ。
思い浮かべようとするが、どうもピンとこない。
「ごめんね。ドリアンさん、今日はお休みみたいで~す」
 おどけて見せると人の輪に笑いと和んだ雰囲気が広がっていく。まあ、ここは少し笑いをとりまして、クイズ式誘導作戦といきますか。
「ほら、赤くて、甘くて、ケーキと仲良しの――」
 すると、女の子から大きな声が、「イチゴ!」
 よしよし、素直でいい子だね。
 ニコニコの女の子に頷きで応える。それから目を閉じ、紙袋の中にあるイチゴを思い浮かべた――大粒で真っ赤な三角形・『紅ほっぺ』が五つ。
 紙袋を軽く振ると、微かな音が聞えてくる。
 目を開け、意味ありげな笑みを浮かべて見せながら、「それではみなさん、よろしいですか?」
 ここで、女の子と彼女の両親、近くにいる若いカップルに手を皿のようにしてもらう。
「さぁ、いきますよ。まずは、おじょうちゃんから」
 ひねった口を開け、取りだしたものを彼女の手にのせた。
「うわぁ!」彼女の目が大きく見開いた。
 たたみかけるように他の人の手にも、思い描いたとおりのイチゴをのせていく。そして、五つ全てを渡し終えると、袋を破ってみせた。勿論五つのピンポン球が落ちてくる事はない。どこからか拍手が起こり、人の輪全体に広がっていく。その誰もが笑顔を浮かべている。
 鼻にイチゴをあてた女の子が、「うわあ、甘い匂いがする。本物だ!」
 俺に向けた瞳が、まるでスーパーヒーローを見るように光り輝いている。周りかの拍手が大きくなり、俺の足もとに置いてあるシルクハットが、チャリンチャリン、時にはヒラヒラと満たされていく――「ありがとうございます!」
 その後片付けを済ませ、駅へと向かっている時だった。スーツを着た中年男が現れ、名刺をだしながら声をかけてきた。
 イベント会社の社長だという男は言った。「この素晴らしいマジックを、もっと多くの人に見てもらいたくはありませんか?」

 足は震え続けている。それでも、やる、と言ってしまった以上やるしかない。
 足元を見つめ、一歩一歩踏みだしていく。そして、舞台の真ん中までいき、頭を下げた。
 やけに静かだ。拍手も聞こえてこない。さぐるように顔を上げてみた。
「あっ!」
 思わず声が飛びだす。視線の先には思い描いたとおりのカボチャ頭がずらりと並んでいる。


 やっ、やってしまった。

本物であるがゆえに(ショートショート) ©スピネル

執筆の狙い

オチは題名につながっているのですが、上手く伝わっているでしょうか。

原稿用紙5枚の某コンテストを狙って書き上げた作品です。

スピネル

175.135.104.135

感想と意見

偏差値45

大丈夫です。

伝わっています。
面白いですよ。オチもいいです。


>「この素晴らしいマジックを、もっと多くの人に見てもらいたくはありませんか?」

そこまで褒められる程とは言い難いかもしれない。

2017-10-05 21:51

219.182.80.182

岡田寄良

拝読しました。
面白かったです。
ある意味偽物の手品師の話ですね。
途中、女の子に対し答えを誘導することで、読者をうまく騙していると思いました。
最後のオチは考えようによってはとても恐ろしいと思いました。
元に戻せなかった場合大量殺人になるわけですから。
しかし元に戻せたとしてもその人は元の人間と同じなのだろうかという問題もありますからどっちにしても怖いですね。

2017-10-05 22:08

182.250.248.230

七篠

おもしろかったです
少し意地悪なことを言いますと、手品とはもともとそういうものですし、『手品とは思えない手品』でないとイベント会社の社長の目にはとまらないと思います。『手品に見せかけられる魔法』より『魔法に見せかけられる手品』の方が見栄えがありますしね。

2017-10-05 23:05

180.145.187.31

カジ・りん坊

 イベント会社の社長だという男は言った。「この素晴らしいマジックを、もっと多くの人に見てもらいたくはありませんか?」だけでは弱いと思います。

 もっとちゃんと驚いたほうがいいと思う。『いやぁ、あなたは本物だ!』とか一言あって『この酢晴らしい~』とか、肝心なところがあっさりしている感じでした。

 振りが弱い分オチも弱いと思いました。

2017-10-06 17:54

124.110.104.4

マジックより、マジシャンの卵くらいの言葉が前半にあれば、オチが失敗までコミで綺麗に繋がりそう。

2017-10-06 19:52

153.188.109.247

スピネル

偏差値45さま

お読みいただきありがとうございました。

伝わったようで、ひと安心です。

となると逆に、タイトルでネタばれしてないかと心配になります。

2017-10-06 20:26

175.135.104.135

スピネル

岡田寄良さま

お読みいただきありがとうございました。

あらためてオチの部分を考えると、作者ですら恐怖を覚えます。
彼の能力からいって、元に戻せるかどうかは・・・。

女の子との部分は楽しみながら書き、うまく伏線にもできたようで嬉しく思います。

2017-10-06 20:31

175.135.104.135

スピネル

七篠さま

お読みいただきありがとうございました。

言われてみて、なるほど、と気付かされました。
俺(主人公)としては、あくまでもアルバイト感覚でやっているわけであり、力を知られたいわけではない。だから、より手品らしく見えるように演出している。
となれば、おっしゃるとおり、『魔法に見せかけられる手品』より見栄えは劣るわけで、この程度では目に止めてもらえないのかもしれない。

深いですね。

2017-10-06 20:46

175.135.104.135

やまださちこ

ちょっとわかりづらかったかな、私は。バカで申し訳ない。

>目を閉じて、客席にずらりと並ぶカボチャを思い浮かべてみた。俺を見ているのはカボチャ。カボチャ。カボチャ。

観客をカボチャに変えてしまう↑の魔法詠唱の文章を何らかの形で最後の方のオチの直近に持ってきた方が親切かなと個人的には思ったり。

あと、「実は〇〇でした」っていうラストのほのめかしで、現実世界が急にガチ魔法使い実在のファンタジー世界に変わってしまうところがあんまり好きじゃないかなぁなんて。現実世界のことだと信じ込んでいたぶんその世界観の中で完結して欲しかったっていう。実はファンタジー世界ですよ、ということに後から気づかせる印象的な伏線があって、ラストでそれが「はっ!」と思い出されればこんな文句もでなかったと思うんですけどね。そんなわけで、現実からファンタジーに逃げるには伏線が弱すぎたといえるかも。

2017-10-06 22:56

111.64.107.171

スピネル

カジ・りん坊さま

お読みいただきありがとうございました。

正直いって、ご指摘の辺りは深く考えていませんでいた。
でも、オチへとつながる部分でもあるので、どうしたほうがよかったのか、考えてみます。

2017-10-07 09:48

175.135.104.135

スピネル

熊さん

お読みいただきありがとうございました。

俺(主人公)は小遣いかせぎに、マジックをちょっとしているという設定で書きました。あくまでも大学を卒業したら、普通に就職して、普通に暮らしていきたい。そんな感じです。

ですが・・・
本当は(特殊な力を)おおっぴらにはしたくないけど、スマフォを買いかえたいし、彼女との旅行もあるし、今月はお金がいるんだよなあ。けっこう出演料もはずんでくれるし、今回だけ。

ということでマジシャンの卵ではなく、ごく普通の大学生ということにしています。

返答になっていない気がします。すいません。

2017-10-07 10:01

175.135.104.135

スピネル

やまださちこさま

お読みいただきありがとうございました。

確かに現実にはありえないのでファンタジーなのですが、狙いとしては現実世界まま受け止めてもらえれば面白いかと思って書きました。
最後にカボチャ頭が客席にずらりと並ぶ光景はコメディーのようだけど、実は恐いことになっているというオチにしたかったのです。
ですから、ファンタジー的伏線は張っていません。

わかりづらいという点は、自分でも不安に思っていたので、改善したい思います。

ご意見をいただき、考えながら読み返すといろいろ見えてくるので、ありがたいです。

2017-10-07 10:20

175.135.104.135

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