作家でごはん!鍛練場

『楽園』

とりごえ著

夢で見た青い世界がとてもきれいだったので、肉付けしてみただけです。本当はもっと続きますが、こういった物語はありきたりだと思います。
興味もないのに長編だと無駄なエネルギーを使わせてしまうので、さらっと冒頭だけ載せました。ご意見頂ければと思います。

 30XX年。ある人間の僕が目覚めるとそこは白い部屋だった。どこもかしこも白、白、白。思わず手を見ると陶磁器のような白さ。自分の姿を確認しようにも、この部屋に鏡はなかった。というより、何一つなかった。がらんどうの部屋の中に、白い僕だけが一人。
 物音がして誰か入ってきた。壁に穴が開いている。あれはドアだろうか。
 入ってきた人も白かった。目だけが黒くて、唇がほんの薄く色づいているように思える。その人は僕の手を取った。ちんまりしたドアから外に出る。僕は自分が小さくなったような気がした。

 風が吹いた。
 白いシャツの裾がはためく。ここはずいぶん高い場所のようだ。強い風が身体をさらっていく。
 「見てごらん」
 口を全く動かさずに、その人は言った。
 どこまでも青い海が眼下にあった。太陽はあるのか分からなかったが、眩しかった。海はずっと続いていて、途中で空になっている。白い道が消失点まで遠く遠く伸びて、あるところでは交差して、海の上に柔らかなカーブを描いていた。
 ――あおい、青い、碧い……。
 僕はぼんやりとその、だだっ広くて無駄のない風景を眺めていた。空白の部分はなかった。すべて青で塗りつぶしてあった。たまに白い建物が、青を切り裂いたように建っている。
 「BE01-11778」
 横の誰かの声が聞こえた。
 「君の名だ」
 その日、何の意味もない数字の羅列が僕の名前になった。





 「お父さん!お父さん……助けて」

 「どうして……」

 さざ波のような声が聞こえて、僕は夢から覚めた。誰かが助けを呼んでいたように思うけれど、何一つ思い出せなかった。あのがらんどうの部屋以前の記憶が僕にはなかった。あの部屋を出た時隣にいた誰かは僕の名を告げただけで、他のどんな問いにも答えてくれなかった。ただ、君の部屋だと小さなベッドのある空間を僕にくれた。
 僕は怖い。
 なんでこんな所にいるのか分からない。なんでこんなに色がないのかも分からない。この空間も真っ白だった。部屋の隅に小さな手洗いボウルが据え付けてあり、その横にトイレがある。ベッドはシングルサイズ。無駄な物は何もない。何の音もしない。鳥の声も虫の声もなく、ただ無音の空間だった。
 僕は服の裾で顔を拭いて、ベッドから立ち上がった。空間を出ると廊下が続いていて、その奥にもスペースがある。僕はとりあえず歩いてみた。
 「やぁ」
 奥のスペースには誰かいた。同じ背丈の白い子供。もしかしたら僕らは、みんな見た目が同じなのかもしれない。
 「やぁ」
 僕も挨拶した。うまくできたかわからない。ここに来てから笑う、ということが難しくなったような気がする。
 「新入りだね?」
 「わかるの」
 わかるさ、と彼は言った。
 「僕はAG03-33256っていうんだ。みんなからはジゴロって呼ばれている」
 それはまた下世話なあだ名だと思った。僕はそれを彼に伝えようとして――その言葉の意味をすっかり忘れてしまっていることに気づいた。それなのに僕は別段、動揺したりしなかった。
 「僕はBE01-11778」
 まるで脳みそにインプットされているみたいに、名前はすんなりと口から零れていった。
 あれ、僕は何か彼に違うことを言おうとしていたはずだった……。
 「じゃあお前はナナバだな」
 「ナナバ……」
 ジゴロは笑ったように思えた。表情はあまり変わらないが、少しだけ目を細めたような気がしたのだ。紹介するからおいでよと彼は僕の腕を引いた。引っ張られるままついていくと、奥に向けて部屋が放射状に大きく広がっている。
 そこにはたくさんの子供がいた。
 ある者は座ってパズルをしていた。ある者は立って歌っていた。ある者は絵を描いていた。各々が自由にしていた。そして部屋には巨大な窓があった。切れ目のない大きな窓は透き通っている。まるで近づけばそこから落ちてしまうと思うほどに。
 ああ、また青だ。ブルーの光が部屋に差し込んでいた。彼らの真っ白い身体に影が浮かぶ。海底の白砂に光が反射しているみたいだった。とても綺麗だ。
 「みんな、ナナバだよ」
 さっと視線が集まる。彼らは一言も声を発しないが、僕には無関心なことが分かった。顔をそらし、それぞれがしていた作業へ戻っていった。
 「みんなはなにをしているの」
 「忘れない作業だよ」
 床に転がっていたぬいぐるみをジゴロは拾い上げる。
 「ここにいると、毎日自分が何を言いたかったのか何をしたかったのか、忘れていく。持ち主を失ってしまったぬいぐるみは、きっと悲しかろう。僕が返しても、あの子はもう受け取ってくれなくなってしまった」
 僕はそうはなりたくない。だから誰かと話すようにしているとジゴロが言った。
 「だからナナバ、君も僕と話してくれるかい」
 僕は頷いた。
 「ジゴロはさっき、みんながそう呼ぶって言っていたけど……今でも誰か名前を呼んでくれるかい?」
 「いいや。みんなもう忘れてしまったんだと思う。他人のことを一番に忘れていくからね。自分を失ってしまうのはそれよりずっと先さ」
 僕たちは大きな窓辺でお喋りをした。ジゴロにも、あのがらんどうの部屋以前の記憶はないらしかった。でもジゴロは僕と違っていた。
 僕より手が大きかった。合わせてみたから間違いない。背も少しだけ高い。
 「同じ顔かたちの人間がいたら怖いものね」
 「そうだな……そうだったかもしれない。ほら、僕はまた忘れかけているんだ。人に違いがあるって事を」
 「でもさっき、僕が新入りだって分かったじゃないか」
 「それは君が君の顔をしているからだよ」
 ジゴロの言葉はよく分からなかった。僕は立ち上がって、他の子たちが何をしているか見て回った。パズルをしていた子は、もう後ワンピースはめ込むだけだった。だというのに、そのピースを持ったまま止まっている。
 「なんで完成させないの」
 「私はまだ…かんせいしたくない」
 その子はパズルをひっくり返して、また組み立て始めた。僕は横切った。
 同じフレーズを何度も歌っている子がいた。
 「なんでそこばかり歌うの」
 「終わりが怖いから」
 また繰り返し歌い始める。僕は横切った。
 絵を描いている子は、床に直接描いていた。何とも言えない曲線が床に刻まれている。球体のようないびつな形。
 「何を描いているの」
 「私」
 「とてもそうには見えないけれど」
 その子はじっと僕を見た。
 「私の形、貴方知ってる?」
 答えられなかった。僕は横切った。
 ジゴロの隣にまた腰を下ろして、空を眺める。
 「あんまり見るなよ」
 「どうして?」
 「心を持って行かれる」
 あんなに綺麗なのに。ああでも確かに吸い込まれそうだ。どこまでも突き抜けている。
 「そういえば今、何時なんだろう」
 僕が呟くと、ジゴロはこちらに目を向けた。
 「時間なんてモンは、ここにはないよ」
 「それじゃ困るじゃないか。食事は?仕事は?寝る時間は?」
 「好きな時にすればいい」
 好きな時に……、と僕は呟いた。そんなものなのだろうか。ここは、それが許される場所なのだろうか。
 パズルを完成させない女の子が、いきなり立ち上がった。一度ひっくり返されたピースは多少繋がり合ったまま、あちこちに散らばっている。少女は一時ぼうっとした視線をさまよわせて――こちらを見た。なんの感情もない瞳だと思った。だけどそこからころりと零れた涙が、それは違うと叫んでいた。
 ジゴロが手をあげる。おいで、とこちらへ誘っている。少女は拳を握ったまま、近づいてきた。髪の毛が長いだけで僕たちの顔はやっぱりよく似ていた。
 「何か思い出せたかい?」
 ジゴロの声色は優しかった。女の子はぺたりと腰を落とす。
 「うん……音楽。とても、きれいな」
 「それは歌?」
 「メロディーだけ。苦しい時に、よく聞いた。ぱずるがね、やっぱりだめなの」
 「彼女はAI07-21318」
 いきなり話し始めた彼女を僕が見ていると、ジゴロが言った。
 「サイハ」
 彼女は名乗って僕の目を見た。綺麗な顔だった。
 「僕はナナバだ。よろしくね」
 「ナナバはパズルをしたことある?」
 「あるよ」
 一度、2000ピースの大作を仕上げたことがある。
 「同じ形にしか、ならないの」
 僕はちょっと呆れた。形が変わってしまったらパズルにならないじゃないか。一生完成させることなど出来はしない。だから僕は言ってやった。
 「君の時間が止まっているから」
 うつむいていたサイハが顔を上げる。
 「パズルは元の形にしかならないよ。ピースは増えないし減りもしない。ここにいる限り」
 彼女はまだ完成したくない、と言ったんだ。
 「君はそのままで、いいのか」
 「嫌、嫌、嫌……」
 服を握りしめて、首を振った。
 「私、戻らなきゃ」
 彼女は顔を上げた。その顔は紛れもなくサイハだった。他の誰でもない。僕はその時、ジゴロの言葉の意味がわかった。彼女は立ち上がる。どこへ戻るというのだろう。
 「ナナシに会いに行け」
 ジゴロはそう言って、走り出した背中に手を振った。

楽園 ©とりごえ

執筆の狙い

夢で見た青い世界がとてもきれいだったので、肉付けしてみただけです。本当はもっと続きますが、こういった物語はありきたりだと思います。
興味もないのに長編だと無駄なエネルギーを使わせてしまうので、さらっと冒頭だけ載せました。ご意見頂ければと思います。

とりごえ

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感想と意見

黒とかげ

拝読させていただきました。
自分を棚に上げて厳しいことを書かせていただきます。

文章について
 ・登場人物の名前が全員カタカナで三文字というのは良くないと思います。
  途中で誰が誰なんだが分からなくなってしまう危険性があります。特に「ナナバ」「ナナシ」。
  あと途中の描写で「誰かが助けを呼んでいたように思うけれど、何一つ思い出せなかった。」で
  ああなるほど、主人公は記憶喪失なんだと思う訳ですが
  「一度、2000ピースの大作を仕上げたことがある。」。あれ?記憶喪失じゃなかったの?
  なんだか矛盾してるようなのでどちらかの描写を修正した方がいいでしょう。

物語について
 ・この主人公の年齢はいくつなのでしょうか?
  自分は勝手に10~12才だと推測しましたが、それにしては思考が大人のものです。
  それ加えて主人公から見た風景の描写も小学生が使うにしては難しい言葉が多いです。
  読んでいてどうにもアンバランスに感じてしまいます。
  それが子供を主人公にする場合の難しさで、じゃあ自分が出来るかと言われれば
  まったく出来ないのですけど…

以上です。お互い文章書きとして頑張りましょう。

  

2017-09-14 12:20

124.86.172.187

とりごえ

黒とかげさん

感想ありがとうございます!名前ですね…数字の下三桁を取ってそう呼ばせているので、全部三文字になってしまいました汗 
ナナバとナナシは確かに似ています。これ以上人間は増えないのでこれでいいかな…と思ってしまい;;
ネタバレですが主人公は実はおっさんです。見た目は子供、頭脳は大人ってやつです。なので少年らしくない描写をいれてます。
「お父さん助けて」ではなく、「お父さんを助けて」が本当の台詞の意味で、おっさんは子供を助けようとして逆におぼれてしまい、死にかけて夢を見ているという設定でした。なので違和感を持って貰えるということは、思惑としては嬉しいことです。
何にせよやはりこんな短い文ではダメでしたね…申し訳ないです。
次は完結したのを載せたいと思うので、よければまたお読み頂ければ嬉しいです。

2017-09-14 15:08

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