作家でごはん!鍛練場

『優先座席』

三毒著

習作です。厳しいご批評をお願いします。

 七月下旬の午後二時ごろのことでした。前の晩から猛暑日の予報が出ていましたが、まさに的中。気温はうなぎのぼりに35度まであがっていました。
 大阪天王寺にある司法書士事務所に勤める私(48)は、外出先から事務所に戻ろうと梅田駅から地下鉄御堂筋線に乗りました。
 まだ梅雨が明けきらないむし暑い日で、私は冷房車に乗るとすぐにハンケチで汗をぬぐい、ほっと一息つきました。と、その途端、
「バシっ」という物を叩く音がすぐそばの優先座席の方から聞こえてきました。私はドアの横に立ちながら、その方向を見ますと、くすんだ浅黄色の薄手の着物を着た70代ぐらいのおばあさんが右手を振り上げていました。彼女は優先座席の前に立っていて、そこに腰かけているサラリーマン風の30代ぐらいの男性の肩を叩いた直後のように見えました。続いて、
「ええ若いもんが年寄りの席に座るな」
 というおばあさんの大声が飛びました。目が異様に大きく、凛とした声が車内に響きわたりました。叩かれた男の人は、突然の出来事にポカンとした様子でしたが、おばあさんは向かいの優先座席にどっしり腰を下ろした後、男性を睨みつけ、
「こういうのがいるから世の中がみだれるんじゃ」 
 と、非難がましく言うと、
「すいてるんだからいいじゃないですか」
 と、男性はか細い声でぶつぶつ言うのが精いっぱいでした。
 電車が次の淀屋橋駅に停まると、大学生風の若者が乗ってきてそのサラリーマンらしき男の隣に大股開きで座りました。すると、おばあさんは身軽な足取りで二、三歩前進、若者の前に立つと、
「パシーン」
 と、彼の頬をひっぱたいたのです。そして間髪を入れず、
「お前は年いくつや?お年寄りの席と分かって座っとるんか」
 と、怒声を浴びせたもんですから、若者はあわてて立ち上がり、車両の反対側に逃げました。サラリーマン風の男もそれを見て、顔をひきつらせながら若者に続きました。おばあちゃんは自信に満ちた様子で席に戻りました。びっくりするような光景でした。関西の中高年の女性が個性的で、時には暴力的でもあるという話は聞いたことがありましたが、まさかこれほどとは……
 そして、電車が本町駅を過ぎると、おばあちゃんは不気味な表情で、私にも話しかけてきたのです。正直震えました。
「あんた座りなはれ。しんどいやろ」
 耳を疑いました。
「いえ、結構です」
 と断りましたが、
「まあ、そう言わんと。あんたぐらいの年の人なら座っていいんやから」
 と言って、無理やり優先座席に座らせたのです。
 まだ50歳にもならないのに老人扱いされた私は、天王寺で電車を降りた後、
「周りにはもっと年配の人もいたのに」
 と思いつつも、これに懲りて、以後はもっと派手めの服装をするよう心がけています。

優先座席 ©三毒

執筆の狙い

習作です。厳しいご批評をお願いします。

三毒

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感想と意見

山口 夕

七月下旬の午後二時ごろのことでした。その日の前のテレビでは猛暑日の予報が出ていました。残念ながら予報は的中し、気温はうなぎのぼりに35度まであがっていました。これはそんな日の記録です。

       *
 大阪天王寺にある司法書士事務所に勤める私(48)は、外出先から事務所に戻ろうと梅田駅から地下鉄御堂筋線に乗りました。まだ梅雨が明けきらないむし暑い日で、私は冷房車に乗るとすぐにハンケチで汗をぬぐい、ほっと一息つきました。と、その途端、バシっという物を叩く音がすぐそばの優先座席の方から聞こえて私はたいそう驚きました。私はドアの横に立ちながら、その方向をそっと覗いてみますと、くすんだ浅黄色の薄手の着物を着た70代ぐらいと思われる目が異様に大きなおばあさんが右手を振り上げていました。彼女は優先座席の前に立っていました。先ほど私が驚いた音というのは、そこにちょうど腰かけていたサラリーマン風の30代ぐらいの男性の肩を叩いたときのもののようでした。続いて彼女の口からは
「ええ若いもんが年寄りの席に座るな」
 車内にいる人全員に聞こえるような大きな言葉が飛び出しました。凛とした声が私の乗っていた車両に響いておりました。叩かれた男性は、突然の出来事に目が点になっていましたが、おばあさんは向かいの優先座席にどっしり腰を下ろした後、男性を睨みつけ、
「こういうのがいるから世の中がみだれるんじゃ」 
 と言ったのです。あのような目で見られては蛇に睨まれた蛙と言いますか、「カラスは白い」と言われてもそれを否定できたものではありません。
「すいてるんだからいいじゃないですか」
 男性は蚊の羽音ようなか細い声でぶつぶつ言うのが精いっぱいでした。
 電車が次の淀屋橋駅に停まると、「イマドキの男子学生」らしい若者が乗ってきてそのサラリーマンらしき男の隣に大股開きで座りました。すると、おばあさんは身軽な足取りで二、三歩前進、若者の前に立つと、
「パシーン」
 と、彼の頬をひっぱたいたのです。そして間髪を入れず、
「お前は年いくつや?お年寄りの席と分かって座っとるんか」
 と怒声を浴びせたもんですから、若者はあわてて立ち上がり、車両の反対側に逃げるように席を離れました。サラリーマン風の男性もそれを見て、顔をひきつらせながら若者に続きました。おばあさんは自信に満ちた様子で席に座りました。私にはこれまでの光景が現実だと思えませんでした。関西の中高年の女性がとてもユニークという話は(「ユニーク」で片付けていいものではありませんが)聞いたことがありました。しかし、私が目撃したものについては、まさに想像を絶しており、理解しがたい出来事でした。
 そして、電車が本町駅を過ぎると、おばあさんは急に笑顔になり、私に話しかけてきたのです。それが不気味で震えました。
「あんた座りなはれ。しんどいやろ」
 私は耳を疑いました。
「いえ、結構です」
 と一度は断りました。そのとき私の顔はきっとひどいものだったでしょう。筋肉が突っ張っているのがはっきりと分かりましたから。
「まあ、そう言わんと。あんたぐらいの年の人なら座っていいんやから」
 と言って、無理やり優先座席に座らせたのです。私に向けられた声は別人のそれでした。それが恐怖心をさらに煽ったのは言うまでもありません。
 まだ50歳にもならないのに老人扱いされた私は、天王寺で電車を降りた後、周りにはもっと年配の人もいたのにと思いつつも、喉元過ぎればなんとやら、終わってみるとあまり悪い気はしませんでした。それでも、周りの人の目が痛かったなど利点とは言えないものが大部分を占めていましたので、これ以後は「同類」と思われない格好をしています。



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 軽く手を入れました。
 日記風かと思いましたので、冒頭をそれを匂わせるものにしました。さらに、「おばあさん」だったものが「おばあちゃん」になっていたので、その点は修正しました。最後の「これ以後はもっと派手めの服装をするよう心がけています。」はついてですが、ステレオタイプの「大阪のオバちゃん」の服装は派手ですから、余計に「同類」と見られるのではと思いました。

 
 これからもがんばってください。

2017-08-30 22:17

124.240.230.118

カジ・りん坊

 このままだと、新聞の投書欄に投稿して、優先席をめぐってこんなことがありました。としては面白い文章かも知れませんが、習作としては振りの部分だ足りないと思います。

 最終的な〆を『まだ50歳にもならないのに老人扱いされた私は』でいきたい場合、頭の部分で

『前の晩から猛暑日の予報が出ていましたが、まさに的中。気温はうなぎのぼりに35度まであがっていました。私の勤める大阪天王寺にある司法書士事務所でも、若手職員はエアコンのきいた部屋から外には出たがらず、どうしても外に出る場合はタクシーを呼ぶ始末です。そんな中、四十八歳になる私は、そんな若い奴らに発破をかけるべく、自分の足で外回りです。まだまだ若い者には負けません!』などと、自分では若さを追求している『振り』を入れておくべきではないでしょうか?

 それで、自分では若いつもりだったのに元気なお年寄りに心配され、若さっていうのは、このお年寄りのように振舞える人のことなのかも知れないな風な風刺が利くんじゃないかと思います。

2017-08-30 22:58

112.137.227.226

三毒

山口さま。ご丁寧な添削ありがとうございました。ひとつひとつ頷けることばかりでした。

特に、>日記風かと思いましたので、冒頭をそれを匂わせるものにしました。
・高等テクニックですね。参考になりました。

>ステレオタイプの「大阪のオバちゃん」の服装は派手ですから、余計に「同類」と見られるのではと思いました。
・ご指摘の通りですね(笑)

>関西の中高年の女性がとてもユニークという話は(「ユニーク」で片付けていいものではありませんが)聞いたことがありました。しかし、私が目撃したものについては、まさに想像を絶しており、理解しがたい出来事でした。
・ここは書きながら内心違和感を感じていたところなので、直していただいてありがたかったです。

その他、直したり、書き加えたりしていただいて、本当にありがとうございました。

2017-08-31 10:11

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三毒

カジ・りん坊さま、的確なアドバイスありがとうございました。

>習作としては振りの部分だ足りないと思います。
・ううん、振りが足りないですね。一番の弱点です。

>『前の晩から猛暑日の予報が出ていましたが、まさに的中。気温はうなぎのぼりに35度まであがっていました。私の勤める大阪天王寺にある司法書士事務所でも、若手職員はエアコンのきいた部屋から外には出たがらず、どうしても外に出る場合はタクシーを呼ぶ始末です。そんな中、四十八歳になる私は、そんな若い奴らに発破をかけるべく、自分の足で外回りです。まだまだ若い者には負けません!』などと、自分では若さを追求している『振り』を入れておくべきではないでしょうか?
・振りのお手本ですね。ありがとうございます。参考にさせていただきます。

2017-08-31 10:23

112.70.178.160

蠟燭

大阪LOVERが好きなんで拝読しました。

何ですかこれは。作者はこの小説から何を伝えたいんですか?老け顔の主人公なんて知ったこっちゃないです。性別も通勤時に派手な服なんて書いてあるのでああ女なんだろうなってことが理解できました。しかも派手は若さの象徴なんでしょうか。

そもそもこんなおばあちゃん大阪にいないです。すごい偏見ですね。大阪蔑視の印象操作かなんかですか?ケンミンショーよりタチ悪いですね。

優先席が空いてないから怒ってるのかと思ったら、向かいが空いてたんかい。ますますいないこんな人。優先は字のごとく優先なんで空いてるのに座っていけない道理はないです。それを勘違いしてるおばあちゃんとゆうキャラ設定にしても不快。

習作ならなんでも許させると思ってるんですか。不快な時間でした。

2017-08-31 12:38

180.31.191.27

山口 夕

>関西の中高年の女性がとてもユニークという話は(「ユニーク」で片付けていいものではありませんが)聞いたことがありました。
→関西の中高年の女性の中にはとてもユニークな人がいるという話は(「ユニーク」で片付けていいものではありませんし、そういった方は関西に限ったことではないのですが)聞いたことがありました。
 蠟燭さまの意見を聞いてこの部分の一般性を消す作業を忘れていることに気が付きました。ありがとうございます。
 私も修正する際にステレオタイプ以上だなと思って読んでおりました。せめて私の修正したものでは確率的に低いように書こうと思いまして、大阪で勤めている主人公がその日たまたま遭遇したようにしました。慣れていないように描写すれば、ある頻度が少ない、かなり少数と見ることができるのではないかと思いましたが、やはり厳しかったようです。奇怪な行動をされる方はどの地域にもいない訳ではありません。数えるほどですが、私も遭遇したことがあります。許される行為ではありませんが、そういった方をネット上に晒す方もいてそうした動画を目にしたこともあります。そのため、ありえないわけではないと思っていました。それでも、文章中に地域性が残ってしまったことは問題でした。上記の部分のような修正しなかったことが大きいと思い、多少なりとも緩和されることを願って、修正案を提示します。

 

2017-08-31 13:56

124.240.230.118

三毒

蝋燭さま。感想ありがとうございました。

>習作ならなんでも許させると思ってるんですか。不快な時間でした。
・全く返す言葉もございません。深くお詫び申し上げるとともに、今後このようなものを晒さぬよう気をつけて習作に努める所存です。すみませんでした。

2017-08-31 16:50

112.70.178.160

三毒

山口さま。

小生の軽率な駄文で、ご迷惑をおかけしたこと、深く反省しております。本当に勉強になりました。

2017-08-31 16:57

112.70.178.160

藤光

読ませていただきました。

細かい部分については、すでに他の方々が助言されているようなので、単に感想だけですがおもしろいですよ。

作中のおばあさんの振る舞い、わたしには「痛快」と読めました。優先座席に我が物顔で腰をおろしている若者っていますよね。

特に通勤時間帯の「優先座席」って有名無実化していて、お年寄りや体の不自由な人が乗ってきても、すでに腰をおろしている人は知らぬふりをするのが「常識」だったりします。

作中のおばあさんの振る舞いが常識的かといえば、そうでなく非常識なのでしょうが、これは小説ですからね。「優先座席」が「若いもん」に占拠されている現実を打ち破るキャラとして、この程度の破天荒さはあっていいと思います。

2017-08-31 20:17

119.104.25.89

三毒

藤光さま。感想ありがとうございました。

小生は気が弱く、他人から批判を受けるとすぐ落ち込んでしまい、食事も喉を通らなくなる性格なので、これまでの人生は正直みじめなものでした。とにかく全てのものから逃げ続ける毎日でした。本サイトはそういう弱い自分を叱咤激励するつもりで、厳しいご批評をお願いするなんて書きましたし、実際その通りにしていただいているのに、がくっときておりました。実に情けない話です。

しかし、人にはいろんな考え方、感じ方があるわけですし、それを実感してこそ、進歩もあるのだという事を藤光さまのご感想から、いまさらのようにさとらせていただきました。なにより面白いといっていただきましたので、今後も頑張ろうという気持ちが湧いてまいりました。ありがとうございました。

2017-09-01 08:03

112.70.178.160

アフリカ

拝読しました

習作との事で深いところの場所を探っていらっしゃるのかも……

僕には、御作法とかの指摘出しを御作には見つけ出せなかったのですが

終始、「ふーん」って感覚で面白い何かを見付ける事が出来ませんでした。

いや、良いんです。
書き物すべてに愛情や責任を持てってのは違うと僕も感じる派なので良いんです。

ただ、面白いってことにはならなかった……

いや、良いんです。
前作の感覚で触ったのは僕の方ですから勝手に触ったのは僕の方ですから……

ただ……


ありがとうございました

2017-09-01 10:13

49.104.8.27

三毒

アフリカさま。含蓄のあるお言葉ありがとうございました。

>書き物すべてに愛情や責任を持てってのは違うと僕も感じる派なので良いんです。

ただ、面白いってことにはならなかった……

・小生は大阪人です。大阪人にとっては、おもろいと言われることが最高の誉め言葉なんで、こちらの方面を追及していこうと思っているのですが、今回みたいに同郷人に不快感を与えてしまったら最低ですね。十分気をつけて精進したいと思います。

2017-09-01 10:51

112.70.178.160

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