作家でごはん!鍛練場

『ビギナーズ/月夜のうさぎたち(熱風残暑京都編)』

地獄極楽丸著

■登場人物

吉本:僕  外見も内面もとても繊細な京都の大学生。血液型がA型であること。ひとりっ子で伝統的な集落の跡取であること。父親が死んでいること。
  
宇佐見鮎子:うさぎ、うさちゃん、エイユー(呼ばれることはない)小学校4年の夏休み明けに吉本の近所に引っ越してくる。以降小中高と吉本と過ごし、大学は違うが京都。
      しっかりものでかなり聡明。将来の進路のことで悩んでいる。吉本の一番の理解者。

■内容
「僕」は、ペットボトルの派手なキャップを宿にしている滑稽なヤドカリで、おっぱい星人である。
「僕」が優しい?女子との出会いを通して成長していくお話。
基本的にオムニバスかつ、少しの時代考証とくだらない話の複合交差体であることに留意すること。
■シリーズ
1.月夜のうさぎたち(星空の晩夏編)
2.月夜のうさぎたち(熱風残暑京都編)
3.月夜のうさぎたち(京都先斗町それぞれの秋編)(未) 
4.夕暮れどきのうさぎたち(完) 

 

京都上七軒。
規則的な織機の音がする。
クーラーもなくひたすら暑い。暑苦しい。うだる。
ベットに横になり動かない。
生きてはいる。

部屋の外のピンク電話が脅迫的に鳴っている。
誰もいないのか?
20人ばかりの下宿である。

「もしもし……」
「あなた、少し冷たいんじゃないの?」
誰でもよかったのかと思うくらいのレスポンスでうさぎの声がした。
「こっちに帰るときに声をしなかったことか?」
彼女の大学は休みの前に試験があり、僕はあとだった。
「ちょっと出てきなさいよ」低い声で彼女はうなった。
「帰ってきてるのか?」

「あした、いつもところに来れる?12時はどう?」僕は適当に取り繕った。
「わかったわ」
気が済んだようである。

水を打ったようにしらけた空間に大音量の蝉が鳴いた。
かまびすしい。
首に巻いたタオルでいやな汗を拭いながら、しばらくぽつんとしていた。
受話器も拭いた。

大学の図書館前12時。
風の抜ける木陰のベンチ。
若者たちがテニスをやっている
のが見える。
理屈なくここが好きだ。

「あなた、少し冷たいんじゃないの?」うしろからあの声がした。
「いつ帰ったの?」僕が聞いた。
「きのう。でもよく考えるとすることがなくて」僕の横に座りながら言った。
彼女は学校の女子寮に住んでいた。
それで暇つぶしに僕のところへ連絡してみたということか。
自販機で買ったカップのジュースを手渡した。
「ありがとう」
僕は、儀式に成り下がったルーティーンをこなした。

「お昼は?」
「まだ」
「ビールでも飲みに行く?」僕は尋ねた。
「お昼から?」「いいわよ」
彼女は男前のところがあった。

欅並木の大通りの雑居ビルの地下にアルクホール(alcohol)というバーがある。
映画や流行のミュージックビデオ、ジャズなんかが雑然と流れていて混沌が気に入っていた。
友達とたむろすることが多かった薄暗い店に彼女を連れて行ったことがあるかどうか記憶になかった。

「ビールとソーセージでいいかな?」
ドイツ人になってみた。
「いいわよ」
ザワークラウトはあまりにも予定されてる感じがしたのでハラペーニョを頼んだ。
そもそもザワークラウトなんてなかった。
ビールはピッチャーで注文した。キリンである。

「あなた、いつもこんなところで飲んでるの?」
とりわけ関係性が変わったわけでもないのに苗字からあなたに2人称が変わっていた。
違和感があったが僕は自分のホームでリラックスしていた。涼しい。天国に近い。
「まあね」
たぶん嫌味なしたり顔していたと思う。

前々から感じている悩みを思い切って打ち明けてみようと思ったのは、二杯目のビールが空いたころである。
常々自分の感情を誰かに吐露することは負けに等しいと思っていたが、このときは、二人称あなたに話してみようと思った。
また、なぜか彼女には聞く義務があるように思えた。

「僕ねえ、ひとの心が手に取るように読めてしまうんだ。最近悩んでいる。オカルトじゃないよ」
念押しまで一息で話した。
「知ってるわ」彼女は落ち着き払って言った。
意外な答えだった。
そして続けた。
「私の周りの子、みんな、あなたのことが好きだもの。幼児的万能感というやつね」
笑みを含んでさらに続けた。
「こっちに来て間なしのころ、三条の駅で待ち合わせしたときのことを覚えている? あなた、誰かに間違えられて女子高生に囲まれていたでしょう。
 田舎での慎ましやかな過小評価とこっちでの万能感をこじらせてしまったのね。かわいそうに」心底同情された。

「そう、ピンクのシャツ着ただけで村八分にされそうになったな 違う!」
僕は、顔を赤くして心の中で叫んだ。
「君のそのM134ガトリングガンで肉片(Minced)にして下さいな。できれば痛みを感じないように。アーメン」気を取り直して落ち込んだ。
ハラペーニョを一気食いしながら、ガチャガチャと煙草に火をともし、ロンリコをショットで頼んだ。わかりやすい自虐に及んだ。
巧妙にできたパズルをワンフレーズで言い当てられて動揺していた。何かが壊れた。
彼女は「アイスが食べたい」と言った。まさかの凱旋パレードか。
僕のサーカスの列には土砂降りが振り注いでいた。
いつもの行進曲が響いた。

道化と狂言回し。王様と奴隷。親方と丁稚。
メキシコの風に吹かれる大きな毛玉みたいなやつが僕の前を転がった。
卑屈な僕を人工衛星が大気圏外から鳥瞰した。かなりの引き具合である。

彼女はアイスクリーム用の卑猥な曲線のスプーンでバニラアイスを口に運びながら、滑らかに続けた。
「あなたは彼女いるの?自分以外の他人を好きになることはあるの?人間を愛したことはあるの?だから性的な問題があると陰日なた問わず言われるのよ」
「ヴぇええ? 性的な問題!?」言語にならない変な音がした。
とどめを刺しにきなすった。
「ハンバーグにして野良犬の餌にでもしてください。おいしくはないかもしれないけど成仏させてください」
冷静に考えれば当て推量の冗談だったのかもしれない。
このときばかりは、僕の闇のヴェールを切り裂き、鼻っ柱を何度もへし折った。
青コーナーにいやというほど頭を叩きつけられた。
放たれたクロスカウンターは、僕のガラスのハートを的確に打ち砕いていた。
「誰かタオルを投げてください」救いはなかった。

前略
モビーディック。白く燃え尽きたぜ……。

「アイス食べる?」
彼女は言いすぎたことを確信してアイスを差し出した。
色彩を取り戻した。

僕は、アイスに残ったロンリコをぞんざいに掛け、ライターで火を付けた。親指が熱かったがなんとか堪えた。
これ以上、かっこ悪い様を見せるのは、命にかかわると思った。
ほの暗い店内で青白い炎を見ると少し落ち着いた。
放火犯の心境に辿りついている。
ラム酒とバニラビーンズの甘ったるい南国の香りが広がった。

彼女は大きな瞳で炎越しに僕のほうを見ながら「綺麗ね」とつぶやいた。
少し潤んでいた。
僕は、この非日常の蹉跌を反省した。
キャタピラ・エクスペリメント。

ギクシャクした見当違いなアプローチも
呆気なくマウントポジションを取られてタップした。
誰かと思い出すと恥ずかしさで今でも身もだえする出来事があるかどうかについて話したことを思い出した。
羞恥心に服従しようと思った。

「もしかしてこれが初恋というものなのか!?」
「いや違うだろ」親切な小人がささやいた。
「今のはノーカンで」

晴れクッション晴れクッション
クッションクッション晴れ晴れ
ハレルヤハレルヤ

三蔵法師と孫悟空に秋がそこまで来ていた。

ビギナーズ/月夜のうさぎたち(熱風残暑京都編) ©地獄極楽丸

執筆の狙い

■登場人物

吉本:僕  外見も内面もとても繊細な京都の大学生。血液型がA型であること。ひとりっ子で伝統的な集落の跡取であること。父親が死んでいること。
  
宇佐見鮎子:うさぎ、うさちゃん、エイユー(呼ばれることはない)小学校4年の夏休み明けに吉本の近所に引っ越してくる。以降小中高と吉本と過ごし、大学は違うが京都。
      しっかりものでかなり聡明。将来の進路のことで悩んでいる。吉本の一番の理解者。

■内容
「僕」は、ペットボトルの派手なキャップを宿にしている滑稽なヤドカリで、おっぱい星人である。
「僕」が優しい?女子との出会いを通して成長していくお話。
基本的にオムニバスかつ、少しの時代考証とくだらない話の複合交差体であることに留意すること。
■シリーズ
1.月夜のうさぎたち(星空の晩夏編)
2.月夜のうさぎたち(熱風残暑京都編)
3.月夜のうさぎたち(京都先斗町それぞれの秋編)(未) 
4.夕暮れどきのうさぎたち(完) 

 

地獄極楽丸

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感想と意見

蠟燭

衝撃の問題作を誰もコメントしてないので、拝読しました。

難解にして難解。文学的すぎる。
わかりやすいはずの内容説明すら難解。
かまびすしい。蹉跌。料理名?、色々ワードが工夫されていてオシャレなんだけど、何だろう、読者を突き放してる感じ?、これがお前に理解できるのかと試されているような、難解さ。

オリジナリティの点では群を抜いてると思いますが、この自分の書いたものを自分で面白いと思うのか?と作者に問いたい。

僕は嫌いじゃないんですが、う〜ん。

2017-08-31 18:40

106.139.7.147

地獄極楽丸

蠟燭さん

気を使わせた感じすいません。
もちろん群を抜いて面白いと思ってますよ。なんてね。
一応、いろいろ調べるので発見の連続ですね。
流石になにもないものを投稿する強いハートは持っておりません。
挑戦的であるとは思いますが、ふざけているつもりもないし最後は割り切りですよね。
まま、突き放してるつもりはありませんし、ネタバレもさせてますし疑問にはお答えしてるつもりですし
不親切と言われたところはあとで補強もしてますし、悩んでしまう(笑)

いつもありがとうございます。

2017-09-01 21:01

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maco

地獄極楽丸さま
はじめまして。

おもしろかったです。おもしろかったのでアップされてる作品遡ってぜんぶ読んだけどぜんぶおもしろかった。
これ文庫本で持ち歩きたいなと思った。

ビフォーアフター。
読むと気分がよくなった。楽しくなった。生きようって気になった。死んだら死んだだな、って気になった。そんな感じで動かされた。薄い文庫本ならポケットに入れておきたいなまじで。

作者さんのこだわりはきっとたくさんあるんでしょうけど、そこは透けず作品を邪魔する雑音にならず、こだわりは作品そのものに、吉本に結晶していて、吉本を通じてみる世界は明るくて、いいなと思った。吉本は精神のニュートラルポジションみたいなものを見失わない(あるいは見失えない)ひとなんだろうな、きっと。

名詞も固有名詞も分かんないのがいっぱいあって、分かんないまんま読んでるんだけど、吉本ならこう言うんだろうなという説得力があって。そもそも意味分かんないかっこいいタイトルに惹かれて開けた。メキシコの風に吹かれる大きな毛玉みたいなやつ見たいなと思った。

>何かが壊れた
は吉本的に違和感がありました。吉本はここでこうは言わない、んじゃないかなー。

冒頭の上七軒が効いていてほかに京都の描写なんてないのに京都の話として読まされた。でも上七軒の巧さだけじゃないななんでかなと思って、間合いが京都ぽいんだろうなと思った。クール&はんなりって感じ。このまんまたとえば陰陽師とか平安時代小説に次の場面から前置きなしでするっと移行しても驚かない。

ラスト(およびそこへ至る最後の数段)がとくによかったけど、こんな着地を決めることができるってのは、ニュートラルにいることの証で、どの方向にも動き出せるしその動きをキメルことができる、んだろうなここは吉本じゃなくて作者すげって思う。

情景はもうすこし入れてもいいんじゃないかと思った。この少なさこそが吉本なんだろうけど、バランス的にもう少し入れても吉本を損なうものではないと思う。情景の名詞思い出したようにいっこ入れるだけで、今の方向性のままよりカラフルにふくよかになるんじゃないかと思った。

ごちそうさまでした。

2017-09-02 23:55

220.254.87.43

地獄極楽丸

macoさん

ベタ褒めありがとうございます。
照れくさい。
同じような感覚の人もいるんだなと少し安心しました。
的なことを未投稿部分にも書いたような(同級生にキャッチャー・イン・ザ・ライを引用して叱責された場面かな?)
吉本はふたなりやアンドロギュノスのシンボルで血中心の伝統的社会を忌避するところでうさぎと繋がっていて
(今はLGBTとかいうのですか?要するに多様性のシンボルということです)
うさぎは男性恐怖症で吉本には心を許している。
みいは外見は現代的であるが、内面は男に隷従する典型的な日本の愛される女性。
のちに恋愛依存症の女性が登場して「共依存」なのか「愛」なのか悩む予定になっております。(書くことが可能であれば)
端境・潮目、初潮とか「何かが大きく変わる瞬間」に対する破壊的感覚と再生、郷愁が古都京都で表現できればいいなあ。
ザックリ言うとOK!バブリー80's

ありがとうございました。

2017-09-03 17:55

223.223.104.177

藤光

読ませていただきました。

「よくわかりません」と「まったくわかりません」の間くらいの感想です。「とてもわかりません」とか「大変わかりません」って感じでしょうか。

こうした文字を並べることで、読者に伝えたいことは伝わるものでしょうか。

また、書き手にとっては、自分が伝えたことを受け取ってもらえる(書き手が思う形でなくとも?)存在が読者であると思うのですが、受け取ることを投げ出してしまいたくなるような(失礼)文章を書いていて、読者は得られるものでしょうか。

理解が及ばない小説を読みといつも考えてしまいます。失礼しました。

2017-09-03 20:25

182.251.251.2

真奈美

こんにちはー。拝読しました。
連作なんですね。せっかくなんで7面から追いかけてみました。

ごはんでは、こういう文章スタイル珍しいですね。感性フォワードでなかなか良い感じです。
読者おきざりでも、ある程度許される手法というか、感覚があえば一定の読者層をつかむことができると思います。
昔の高橋源一郎を思い出しましたよ。

失礼ながら、作者様はあまりお若くはないとお見受けしましたが、今後もこのスタイルでお続けになられるのでしょうか。ああ、すいません。大きなお世話ですよね。

今後とも何物にもとらわれることなく邁進していってくださいね。

2017-09-03 21:29

180.14.162.93

地獄極楽丸

藤光さん
たぶん動機が全く違うんでしょうね。
書いてみてわかったのがマイノリティや弱いほうに付かないと文芸・芸術なんて成立しないということ。
つまり商業的成功と真逆なんですよね。
俺をわかれというつもりもないけど最初から変な妥協をするつもりもなくて。
居酒屋トークのどこがわからないんですか?
書いてる自分すら楽しくないものが人を楽しくさせるとも思えず。
すべることを恐れず。筋は通す。そんなひとになりたい。
ありがとうございました。

真奈美さん
年齢と性別とスリーサイズは秘密です。

高橋源一郎 検索しました。
読んだことないけどサブカルチャーを書きたいな
と思ったところが似てるのかな
全然レベル違うんだろうけど
いろいろ文体は駆使してるつもりなんですけど
身の丈にあわない絢爛豪華な修飾はやめて必要最低レベルに抑えようとすると散文みたくなってしまって。
いろいろやってみます。
ありがとうございました。

2017-09-04 17:41

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