作家でごはん!鍛練場

『夢祭り』

17著

鍛練のために、楽曲をモチーフに小説を書こうと思い立ちました。

 檸檬色の閃光が次々と破裂する。生ぬるい暗闇の中で弾け散る光の連鎖を俺はうっとりと眺めていた。ずいぶん綺麗だ。ほうけている俺の周りに儚い火花が散らばる。ふいに、自分はまぶたの裏を見ているのだと気付く。
 重たいまぶたを持ち上げると、瞳が少しずつ清潔な白を捉えていく。衣擦れの音が、窓の外の蝉の声が、耳に届く。ここは年寄りばかりの静かな病室だ。
「おはようございまぁす」
 ひょい、とやって来た小太りの看護師から笑顔が降り落つ。彼女の闊歩に会わせて空気が揺れ動く。順にベッドを巡り、決まりきった朝の応酬を終えると、看護師は丁重に笑みを残してから部屋から去って行った。隣の部屋にでも行ったであろう彼女の白っぽい残像だけがもやのように残る。しばらくそれを眺め、俺はまたまぶたをおろした。じいじいと耳をくすぐる蝉の声が大きくなり、小さくなり、ゆっくりと意識も沈んでいった。
 今度はきっと夢の中だ。色とりどりの光が見える。遠い遠い闇の果てから地響きのような音も聞こえる。どおどおと不安を煽る音だ。胸にわいた焦燥感から目をそらし、辺りを見渡すと、濃紺の空間にざわめきが生まれていることを知る。楽しそうに言葉を交わす浴衣姿の人々が、ゆっくりと道を往来している。そのど真ん中に俺は立ち止まっているのだが、なるほど同じように浴衣を着ていた。前から来た人影にぶつかられそうになったとき、悪いはずの足が簡単に動いた。そっと脇によける。不思議な心地でそこに立っていると、ぱ、と空中に明かりが灯った。いくつも並ぶ赤提灯の下に長い道が出来上がった。誘われるように俺もその道を進んでいた。
 前方にひときわ明るい光が現れる。それは屋台の列であった。ゆっくりと近付き、もれ出る光を浴びながら、金魚すくい、という文字を認める。
「金魚すくい、したいな」
 水に濡れた夜風が吹いて、あどけない声が俺の耳にかかった。振り返ると、当然のように君がいた。淡い桜色の浴衣を着て、艶やかな髪を結って、一心に俺を見ている。その視線を屋台の方にずらし、君はそっと首を傾げた。考える間もなく俺は頷いた。君は巾着から財布を出し、流れるように屋台の向こうに手を伸ばしたかと思うと、もうポイを受け取っていた。こちらをちらりと横目で見ると、薄く笑う。水飛沫があがる。冷えた空気に熱が混ざる。そして俺は、袖を濡らしながら金魚をすくう君から、どうしても目が離せなかった。
 目映く光る屋台の並木の間を二人で進んだ。夜と喧噪に包まれながら言葉を交わす。綿菓子をおごると、君は雑貨を売る屋台で小さな鈴を買って渡してくれた。高揚していた。道はいつの間にか石畳に変わり、下駄の音がからころとこだましている。徐々に人影が少なくなっていく。あ、と声をあげた君に続き、俺も気付く。暗闇に浮かび上がるあの朱は鳥居だ。今度は俺が首を傾げ、こちらを見上げる君が頷く。二人で鳥居をくぐり、その向こうの石段に腰掛けた。不思議と、浴衣で隠れた膝は痛まなかった。
「これ」
 君が差し出したのはマッチと数本の線香花火だった。密やかな儀式のように、二人きりで線香花火に火をつけた。火の玉がとろりとろりと姿を変えていく。静かだった。いつの間にか俺も君も口を結んでいた。ただ、赤い光が揺れている。
 最後の線香花火から光が落ち、君が視線をあげた。俺は俯いたままであった。無音で、夏の夜風と時間が二人の間を過ぎていく。
 まぶたが開いた。普段通り、清潔な白い部屋がそこにあった。蝉の声がうるさい。強ばる体を、ゆっくりと動かした。
 花火のような力強い音が、耳鳴りが、耳の奥で鳴り始める。
 やまない音の真ん中で、小さな鈴が、ちりりと鳴った。

夢祭り ©17

執筆の狙い

鍛練のために、楽曲をモチーフに小説を書こうと思い立ちました。

17

60.114.45.172

感想と意見

八月の鯨

>いくつも並ぶ赤提灯 小説的には、赤提灯=飲み屋 なイメージがあるので、微修正した方がいいと思った。


「起承転結」の「起承」でぶっつり! って感じで、雰囲気だけざっと描いて、オチまで行っていない。

“雰囲気だけ”“物語のさわりだけ”なら、誰でもある程度それっぽく描けるものなので、
【しっかりオチをつけ、決然とそこまで書く】癖をつけた方がいい・・と思う。


ごはん鍛錬場に上がって来る「一件短編」っぽい原稿、起承転結で、しっかりオチまでつけてる原稿、【1割ない】から。


この原稿のような状態で、「雰囲気は出ていると思います」と、物語前半部分のみ評価で評価してくれる優しい読者さんも、ここにはまま居らして・よく遭うんだけど・・

ワタシはそうは思いません!! ってことで。(オチまで到達してない原稿は、全部「作者の怠慢」だと思ってる)

2017-08-13 00:50

219.100.84.60

八月の鯨

訂正:“一見短編っぽい原稿”。。

   だけで1マス使うのもアレなんで、、、追加で書くと〜、


この原稿、別段“厳しい文字制限に縛られていた”って訳ではないのでしょう??

なら、病室場面と、夢に入った箇所 とで、境目に一行アキ入れた方が、「転換」が分かって親切??

せっかく“台詞僅少”にして書いているのに、
その数少ない台詞が、
 >「おはようございまぁす」
 >「金魚すくい、したいな」
 >「これ」

↑ 3つしかないのに、その1つを“小太りの看護師”の、さして意味もない挨拶に割り振ってしまうのは、、、「えええ〜〜…」
なんか厭だった。
浴衣の彼女の貴重な台詞と【完全同格】な扱いだし、それより文字数多いし、先に出て来るんだよ?? たかだか“小太りの看護師”の挨拶が〜〜。


「まさか……浴衣の彼女=この小太り看護師の若かりし頃の姿、とかじゃないよなー??」と、「絶対アリエナイ…」と思いつつも、看護師登場の下りだけ再度確認してしまった。。

2017-08-13 01:03

219.100.84.60

かもみいる

短い分量ながも、作者様の文章に対するこだわり、洗練された技法などを感じられる作品でしした。

2017-08-13 16:36

60.34.120.167

17

八月の鯨さま

オチまで書くことが出来ないので、ならばすでにあるストーリー(歌詞)を利用しようと考えました。それでもやっぱり書けていませんでしたね。
ご指摘ありがとうございます。セリフについては考えもしなかったです。


かもみいるさま

こだわりを感じ取られることは、悪いことなのかも知れませんね。
ありがとうございます。

2017-08-13 23:16

60.114.45.172

ぎぎぎ

すこし肩に力が入ってる感じがするなぁと思いました。ただぼくは楽しめました

2017-08-15 03:22

153.209.76.27

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