作家でごはん!鍛練場

『小説の一部です』

nobel_no_bell著

現在書いている小説の一部です。
テンポがよく読みやすいけれど、読者の心にずっしりと居座るような小説を目指しています。

何かアドバイスなどいただければ幸いです。

五 校外学習

 緑坂高校の校外学習は、他校と比べて風変わりであることで有名だそうだ――情報源は晴人だ。
 その晴人の情報源がたとえなかったとしても、校外学習の内容を聞かされれば、誰もが「変わってるな」と感じると思う。
 長々と引き延ばしたが――校外学習に乗り気でない俺が現実逃避しているわけでは決してないことをここに明言しておこう。
ずばり、緑坂高校の校外学習は――
 天体観測である。
 しかも、午前中は地元の科学館で天体について学習した後に、午後から山に登り、夜まで宿泊施設で睡眠時間を設け、夜通し星空を眺めるといった内容らしく、これは途中に休憩を挟むとしても、なかなかハードなスケジュールなのではと思われる。
 校外学習というから、もう少し楽な内容だと考えていたのだが――。
 
 俺は校外学習を明日に控えた夜、ベッドの上で、そんなどうしようもないことを考えていた。
 スマホで明日の天気を確かめると、晴れ――今日で何度天気予報を確認したのか分からない。
 ――いや、いい方法があるじゃないか。休めばいいんだ。 体調が悪いのでお休みします、と学校に電話すればいいだけではないか――俺、ナイスアイデア。
 その思考を遮るかのようにメールの着信音が鳴った。
「春樹、明日家まで迎えに行くね――くれぐれもサボろうだなんて考えないようにね」
 ……明日に備えて、今夜は早く寝よう。
 俺はスマホのアラームをセットし、布団にもぐりこんだ。

 翌朝、約束通り、晴人が家に迎えに来た。
「おはよう! 今日もいい天気だね!」
 ……朝からテンションが高い……ついていけない。
「……昨日は、雨だったけどな」
「さあ、これで全員揃ったね。行こうか! 校外学習へ!」
 俺の言葉はスルーされた。
 ん? 何か引っかかる言葉があったような――。
「おっはよーう! 春樹」
「おはようございます」
 扉の影から、秋月と冬川が飛び出してきた。
「……どうしてこいつらが」
 朝ということもあり、頭が全然追いつかない。
「もちろん、僕が呼んだからさ。春樹を迎えに行こうってね。どう? 朝から女の子二人に起こしに来てもらえて?」
 冗談交じりの声を出す晴人。
「……ちょっと玄関に上がって待っててくれ。五分ほどで準備する」
 晴人をスルーして、二人には玄関に上がってもらう。晴人も当たり前のように玄関に上がって、俺を待つつもりのようだ。
「……髪、整えていてよかった」
 そう独りごちて、俺は部屋に学校かばんを取りに行った。

 学校かばんと共に玄関に戻ると、もう一人の人物がそこにはいた――俺の妹、夏希である。
「お二方は、お兄ちゃんとどういう関係で?」
「相談部ってどういう活動内容なんですか?」
「今度一緒に遊びませんか?」
 夏希が、秋月と冬川に色々と話しかけ、二人も楽しそうに答えてくれている。
 俺が来たのに気づいたようで、夏希はこちらを振り返ると、パタパタとスリッパを鳴らしながら近づいてくる。
「あんなに可愛い子が二人もいたなんて……どうして教えてくれなかったの?」
 俺にそっと耳打ちをしたかと思うと、夏希は玄関にいる二人――正確には、晴人を入れて三人だが――に向かって、
「では、お兄ちゃんをよろしくお願いします」
 と頭を下げて、リビングへと戻っていった。
「すごく可愛いね、夏希ちゃん」
「……ほしい」
 ……後半の怪しげな発言はスルーしようか。
「まあな」
「春樹は、シスコン、だからね」
 晴人め、余計なことを言いよって――事実だから否定はしないが。
「でも、私もあんな妹がいたら、シスコンになっちゃうかも」
 フォローしてるのか、本当にそう思うのか、何とも分かりづらい調子で秋月が独白めいた風にそう言った。
「とにかく行くか」
 みんなを促して、家を出る。
 これ以上、夏希のことを褒められたりしたら、お兄ちゃん、感涙にむせんじゃう。
 ――やっぱり、シスコンだな、俺。

 集合場所の日生中央駅、到着!
 日生中央駅は、田舎の駅にしては立派に造られており、さびれた感じがしない。特に、日生中央駅を際立たせているシンボル的な存在として、駅の広場には時計塔が建てられている。この時計塔の鐘が、あるきまった時刻になると何とも美しい音色を奏でるのだ――俺の地元お気に入りスポットの一つである。
 そんな日生中央駅の広場には、俺たちの他にも生徒がぼちぼち集まっている。
 そんな中に見知った顔が一人いる――彼女は生徒ではないが。
 向こうもこちらに気づいたようで、やってくる。
「この間は、お世話になったね」
 吹奏楽部顧問の雨宮先生だ。
「あの出来事があってから、フルートを始めとして、みんなのやる気が上がったり、団結力も深まったんじゃないかと感じているわ――本当にありがとう」
 何か私でも力になれそうなことがあれば、相談してね。これでも先生だから――そう言って微笑みながら、先生はもといた場所に戻っていった。
 集合時刻の九時を告げる鐘が、広場に鳴り響いた。

 一時間ほどの移動時間の後、俺たちは大阪市立科学館へと到着した。この施設で天体について学ぶらしい。
 ここからはクラス別行動なので、俺は秋月と共に三組の集団へと向かう。
「美空! おっはよーう!」
 俺たちの後ろから声がしたかと思うと、女子生徒が秋月に抱きついていた。
「……そちら、彼氏さん?」
 彼女は俺の方をじっと見つめると、そんなことを言った。
「ち、ちがうって。おんなじ部活なの」
 彼女は、へー、というと、何部入ってたっけ、と二人で話を始めた。
 俺はそんな二人に気づかれないように距離をとる。
一組から順番にプラネタリウムの会場へと入っていく。ここのプラネタリウムは世界でも最大級の規模だそうで、しかも学芸員による生解説で行われるらしい。個人的にとても楽しみだ。
 座席に座ると、視線は自然と天井付近を見るように設計されている。椅子も柔らかく、俺の体を包み込んでくれる――気持ちいい。このまま寝たいと感じさせてくれるような座り心地だ。
 ――緑坂高校の皆さん、本日は星空の世界へとようこそ。私は学芸員の――。
生解説が始まった。
 俺は目をつむり、この星空を創り出す空間に意識を埋没させた。

 ――大きい。
 施設を回り始めて俺が抱いた感情の第一号がこれだ。
 プラネタリウムは地下一階にあったため、この大阪市立科学館の全体像を掴めていなかったが、施設を散策すると、この科学館がとても大きいことが分かる。
 一見、四階建てと聞けば、それほど大きな施設ではないように感じられる。しかし、一階一階のフロアが広いのだ。その広いフロアを活かして、多種多様な展示がなされており、客の琴線に触れる展示がどこかにはあるだろうといった印象を抱かせる。展示を理解するのが難しい子供たちに向けては、サイエンスショーが開かれており、子どもたちも楽しそうに学芸員の科学実験を見つめていた。
 俺の琴線に触れるものはあったのかと聞かれれば、それはもうたくさん、と答えるだろう。小学生の頃に天体の大百科を読んでから、天体の神秘性や壮大さに心惹かれ、今では、自前の望遠鏡で天体観測をすることも時々ある。マニアではなく、趣味人って感じだ――マニアではなく、趣味人。いかにも中途半端なところが俺らしい。
 一人になり、楽しみにしていたプラネタリウムも終わった。俺は改めて、今回依頼された相談について考えを巡らせていた。確か、相談事が持ち込まれたのは――三日前だったな。

 五月も中ごろに入ったその日、俺は部室で読書をしていた。一昨日書店で購入した文庫本で、これがなかなか面白い。九人の天才たちが孤島に集まり、次々と何者かによって殺されていく。一見、ただのクローズドサークルものに聞こえるが、トリックが秀逸で、思わず昼夜問わず読み進めたくなる内容だ――授業中は読んでいませんよ。僕は真面目な学生ですから。
 誰に向けたともわからない心のつぶやきを、そっと心にしまい込む。
 休憩がてら部室を見回すと、読書に夢中で気が付かなかったが、どうやら全員――晴人と秋月と冬川――揃っているようだ。元部長の桜井先輩は、俺たちが推薦した――押し付けたわけでは決してない――冬川にいくつか伝言をした後、じゃあ後はよろしく、といって部活を引退した。一緒に活動した時間は短かったが、というか一度もなかったような気もするが、とにかくあっさりとした感じがいかにも桜井先輩らしい。あれから部活見学に来る新入生もおらず、俺たち相談部は四人で活動している――といっても、あのフルート事件(晴人が命名)以降、相談事は全く持ち込まれていないのだが。
 冬川は生徒会役員を務めているので、週に一、二回部室に顔を出している。晴人は、クイズ研究会と料理研究会にも在籍しているらしく、顔を見せるのは不定期だ。一週間全く来なかったかと思えば、次の週は頻繁に顔を見せる、といった感じで、まあ、各々好きなように活動している。秋月はと言えば、意外なことに――これを本人に言ったら怒り狂うだろうが――皆勤賞らしい。ちなみに、俺は時々なんとなく休んだりするから、秋月に最近頭が上がらない。これは冗談としても、こんな感じの出席状況なら、秋月が部長の方が良かったんじゃないのかと、秋月に尋ねたら、いや、私はそういうの向いてないから、と取り付く島もなかった――本人に不満がないのなら別に構わないのだが。
 そんな感じで今日一日も何事もなく、相談事も持ち込まれず、平穏無事に終わるのが当然だと考えていた怠惰な俺に天罰が下ったのだろうか――その日、部室にノックが鳴り響いた。

 訪ねてきたのは、男子二人組。青の校章――一年生か。
「山内くんじゃないか! これは都合がいい」
 晴人の知り合いか。しかし、晴人は、誰だっけ、といった顔をしている。
「同じクラスの武田だよ。こっちは田辺」
 背が高い方が武田、低い方が田辺か。
「あ、そうだったね。武田君、田辺君」
 基本、晴人は興味ある人の顔しか覚えていない。以前、お前が興味持つ奴ってどんな人なんだ、と聞いたことがある。あのとき晴人が何と答えたのか、上手く思い出せないが、驚きを感じたのだけは覚えている。そんな考えもあるのだと。今回の二人組は、その晴人の興味ある人の範疇に入っていないということなのだろう。
「それで、都合がいいというのは?」
 晴人が話を進める。
「うん、そうだな。まずは、相談事について聞いてもらった方が話が早いか。……実は、田辺がクラスの女子に告白をしたいらしくてな。その手助けをしてもらえないかと思って――」
 ……告白の手助け?
「なになに? 告白? 誰に?」
 さっきまで、来訪客につゆほどの興味を示していなかった秋月が、身を乗り出して話に加わってきた。
「……同じクラスの田口さん、なんだけど」
 恥ずかしいのか、詰まりながら答える田辺。……田口、田辺か。名前の頭文字が同じで席が近くて仲良くなって――みたいな感じか。
「まだ、一度も話したことなくて」
 ……話したことはないらしい。
「わかるわかる! 好きな人と話すのって、すごく緊張するよね」
 なぜか男の気持ちを分かった気になっている女、秋月。
「そういうわけで、是非、田辺が田口さんとお近づきになって、告白して付き合うところまでお手伝いしてもらえないかなと思って、相談したんだ。――都合がいいというのは、今度、俺たち新入生には校外学習があるからさ」
 武田が相談内容をまとめて説明する。
「なるほどね、校外学習を機会にね……どうする?」
 相談を受ければ責任が生じる。相談に乗り、相談者の望まない結果となれば、部活は廃部。
「……俺たちはどこまで責任をもてばいい? そもそも田口さんにその気がなければ、告白してもフラれるぞ。告白が上手くいくところまでの責任は持てないぞ」
 少し厳しめの言い方をしてみる。
「それはその通りだ。君たちに責任をどうこう言うつもりはない。僕が君たちに望むのは、もし田辺と田口さんがお近づきになれるような機会があれば、可能な限りその場をつくるサポートをしてもらうってことだけさ。つまり、特に達成目標はないってことだ。手助けの努力だけしてもらえれば、俺たちはそれで満足さ」
 事前に田辺と打ち合わせはしていたようで、武田の言葉に田辺も首を縦に振っている。……こんなに内気で、告白なんてできるのか、田辺よ。
「なるほどね、達成目標は強いて言うなら、努力ってところかな。君たちをサポートするように努めるっていう――改めて、どうする?」
 晴人の言葉に、首を縦に振る秋月。冬川は、《告白の仕方、教えます》という文庫本を読んでいる――いつ、どこから取り出したんですか、冬川さん。恋の悩みでもあるのでしょうか。
 俺も賛同の意を込め、片手を挙げる。
「じゃあ、具体的なプランを考えようか! プロジェクトコードは、《田辺と田口の恋愛物語》でどうかな!」
 晴人のセンスのかけらも感じられないネーミングはスルーして、俺たちは当日――三日後の計画を立て始めた。

 三日前の出来事を思い出していると、肩を、ちょんちょんとつつかれる感触がした。振り返れば、秋月が耳にささやいてくる。
「どうかな、プラネタリウムではうまくいったかな」
 プラネタリウムは、クラス別で席が決められており、三組の俺たちでは役に立てないため、同じクラスの晴人が上手くやることになっていた。
「席は隣だったな」
 上映中に確認したが、田辺と田口さんは席が隣だった。
「そうなんだ! 私、見つけられなくて。よかったー」
 会場が暗く、二人が話をしていたのかまでは分からなかった。少しでも二人の仲が近くなっていればいいと思うのだが。
「じゃあ、次に行くか」
 次はサイエンスショーだ。

 俺たちが次に目を付けたのは、サイエンスショーだ。子供向けの開催が主だが、実は大人向けイベントも行われている。そのイベントの中で、観客の二人に実験の協力を申し出る場面があり、それに田辺と田口さんに出てもらう作戦だ。
 そんな都合よく二人を指名するなんてことが起きるのかと疑問を呈したが、どうやら大阪市立科学館と緑坂高校の天文部はつながりがあるらしく、さらに晴人は天文部に頼りになる先輩がいると言って、そこは何とか田辺と田口さんを指名してもらうように交渉してみるとのことだった。
 そして、もう一つクリアしなければならないのが、田口さんがサイエンスショーにそもそも来てくれるのかという点だ。田辺には事前に伝えてあるので来るに違いないが、田口さんが来てくれるのか。秋月が田口さんの友達と仲が良いらしく、事前にサイエンスショーの面白さをアピールしたそうだが……。人事を尽くして天命を待つ状態だ。
 現在、サイエンスショー開始十分前――会場に田辺は来ているが、田口さんの姿は見当たらない。周りを見渡して落ち着きのない田辺のところへと歩み寄る。
「落ち着いて座ってろ。田口さんが来たら合図してやるから。……そんな怪しい動きをしてたら警察に捕まるぞ」
 最後のジョークにくすりと笑う田辺。
「ありがとう。少し楽になった」
 その言葉を聞き届け、俺は秋月のいるところへと戻った。

 まもなくショーが始まるといったところで、田口さんが友達と思われる女子生徒と一緒に現れた。片手を挙げて、田辺に合図を送る。これで役者は揃った。
「みなさま、ようこそ、サイエンスショーへ! 本日の内容は――《超えろ! 表面張力》です。自分のネーミングセンスの無さは重々承知していますので、どうか温かい目で見守ってください。それはさておき、この実験は観客の方々の中から二名にご協力を願いたいのですが――そうですね、そこのお兄さんと、あちらのお姉さんはどうでしょうか」
 白衣をまとった学芸員は、田辺と田口さんを指名する。
「はい、壇上に上がるときは気を付けてください。ここに来ればあなたたちは研究者。研究者というものは、一歩間違えれば――例えば階段で躓いて、危険物質をこぼしてしまったりすれば、大惨事につながるかもしれませんからね。どうか慎重に壇上へとおあがりください」
 冗談といった口調で、二人を壇上へと誘導する学芸員。
「さて、ではまずお二人には、こちらのお皿のようなもの――正式には十五センチディッシュと呼ばれるものですが――これを一緒に持っていただきます。そしてあちらの場所まで、中に入っている水をこぼさずに運んでもらいたいのです」
 五メートルほど離れた場所にあるテーブルを指さした学芸員は、さらに説明を重ねる。
「水をこぼさずに運ぶことができれば成功です! では、実際にやってみましょう。どうぞ!」
 その掛け声とともに、田辺と田口さんは、そのプラスチックでできたお皿状のものを二人で持ち、ゆっくりと五メートル先のテーブルまで運び始めた。始めは二人の歩くスピードが上手く合わなかったりしたためか、何度か冷や冷やする場面もあったが、それでも後半になるにつれて二人の呼吸も合ってきたのか、割とスムーズにテーブルへと到着した。
「おめでとうございます! 一回目から成功だなんて、お二人相当息が合っていますね!」
 わざとらしいくらい大げさに褒める学芸員。
 ――計画を知っているから、そういう風に感じてしまうのだろうか。
「では、次はさらに難易度が上がりますよ! 過去に成功したペアは一つもない――超高難易度ミッションです!」
 学芸員は懐から何やら容器のようなものを取り出した。
「じゃじゃーん! この中には、なんと――洗剤が入っています。これを水に少量垂らします」
 水の入ったビーカーに、洗剤を垂らした学芸員は、その水をディッシュに入れた。
「では、今度は成功なるでしょうか! 成功率ゼロ%の超難易度ミッション、始め!」
 ……遠くからなので水の状態まではよく見えないが、さっきよりも苦戦している様子だ。歩く速度がゆっくりだし、何よりペアの相手の動きに合わせるような姿勢が多く見受けられる気がする。
「ねえ、さっきよりも時間かかってるよね」
 聞いたことがある。詳細なメカニズムまでは知らないが、洗剤の成分には表面張力を弱くする作用を持つ成分があると。その影響で水がこぼれやすくなっているのだろう。
 先ほどの倍近くの時間をかけて、二人はテーブルへと到着した。水をこぼすことなく。
「おー! 成功です! 成功しました! 水を一滴もこぼすことなく、この二人は成功させました! 観客のみなさま、彼と彼女に盛大な拍手をお願いします!」
 しばらくの間、拍手が鳴りやむことはなかった。

「さっきのすごかったね! 成功率ゼロ%のミッションをクリアするだなんて。感動!」
 両手を胸の前で組んで感動に打ち震えている様子の秋月を横目に、俺は違う感情を抱いていた。おそらくだが、今回のミッションはもともと二人にクリアしてもらうように仕組まれていたのではないのかと。例えば、洗剤の濃度をあらかじめ薄めておいたり、あるいは垂らす洗剤の量を少なめにしたりなどすることで、表面張力をそれほど低下させないようにすることができる。もしくは、そもそも今回の実験は今回のためだけに準備されたものであり、今まで一度も実施されたことがなかったから成功率ゼロ%だという可能性だ。まあ、いずれにせよ、二人の仲を上手く近づけることができただろうし、科学館側もショーが盛り上がって何よりだろう。これがいわゆるウィンーウィンな関係というものだろうか。
 とにかく、これで俺たちの科学館での役目は終了だな。
 しかし、この後のことを考えると憂鬱だ――山登りだぞ、山登り。体力は小学生の女子にも劣る自信がある俺が山登りだと! いや、小学生女子に失礼だな。
 山登りにおける水分補給は大切だという言葉を思い出し、近くの自販機で俺はペットボトルに入った水を購入した。

 ――――着いた――――。
 ようやく、到着。
 麓から頂上に着くまで約一時間半――しんどかった。登山道には、《クマ出没 注意》と書かれた看板があったり、実際に蛇がいたりして、かなり心臓に悪かった。何度、俺はここで死んでしまうのではないだろうかと感じたことか――。クラス単位で登るため、話しかけてくる奴は、秋月と風間隼人――学年のアイドル的存在――の二名ぐらいだった。秋月は登山開始の数分後に女子のクラスメンバーから声を掛けられていたため、序盤少しだけ話をした。風間は、中腹あたりで後ろから追い越されるときに《古川じゃないか。頑張ろうな》と言って、颯爽と山を登っていった。
 そんな感じで、概ね会話をすることなく、ひたすら足を前へ前へと一歩一歩動かし続けた――学校行事でもなければ、俺が自分から山に登ろうなどとは決して考えないだろうなと、何度感じたことか。
 そんな苦行に耐え、ようやく山頂に到着したわけだ。
 この後は睡眠時間――疲れ切った体を休めるのにはもってこいだ。願わくば、風呂に入りたかったが、それは欲が過ぎるだろう。そもそも山頂に風呂の施設があるなど――。
「各自、風呂に入ったのち、十分な休息をとるように――以上!」
 ……な、に? 風呂が、ある、だと。
 他のクラスメンバーは、担任が発したその言葉に舞い上がっていた。中にはダッシュで風呂場へと向かう者もいた。
 俺はできるだけ平然を装いながら――俺のことを見ている奴などはいないことは分かっているが――できる限りゆっくりとした動作を心がけながら、風呂へと向かう集団の最後尾の後へついていった。

 風呂と睡眠の時間をコテージにて満喫した俺たち新入生は、そこから少し離れた場所で星空を眺めていた。天体に想いを馳せる(?)他の新入生を横目に、俺は田辺と田口さんについて考えていた。
 この後、田辺と田口さんを、俺たちが睡眠をしたコテージの裏庭に呼び出している。田辺はもちろん田口さんが来ることを知っているが、田辺さんはもちろん知らない。コテージの裏庭に来てくれとしか伝えていない。友達と一緒に来てくれても構わないと言ってあるから、来てくれるとは思うのだが――。果たして田辺の告白に田口さんはどう返事をするのか。
 えーい、どうして田辺のことなのに、俺がうじうじと考えているんだ。とにかく、俺たち相談部はできる限りのサポートはした。後は、結果を見届けるだけだ。
 そんな自分勝手な責任感を抱き、俺は他の新入生に気づかれないように、コテージの裏庭へと向かった。

 コテージの陰に隠れようとすると、そこには晴人と秋月と冬川の三人がいた。
「やあ、春樹。田口さんはまだ来てないよ」
 裏庭に目をやると、そこには田辺が直立不動の姿勢で立っていた。
「……本人、めっちゃ緊張してるんじゃないか。ずっとあんな感じなのか」
 まるでロボットのようだ。
「まあね、僕も肩の力を抜くようにアドバイスしたんだけど、どうにもね」
 告白してフラれても、命までは取られないというのに――というのは、告白をしたことのない者だから、思ってしまうのかもしれない。
 そのまま田辺と俺たちは、田口さんが現れるのを待ち続けたが、約束の時間を三十分過ぎても、田口さんは現れなかった。

 これ以上待っても田口さんは来る可能性は低いと思い、田辺に声を掛けようとしたところへ、人が近づいてくる足音がした。その足音から、彼もしくは彼女が相当急いでいるのが窺える――もしや――。
 現れたのは、田口さんではない女子生徒だった。一体彼女は――。
「理恵ちゃん!」
 秋月が押し殺したような声でつぶやく。理恵――だれだ? 秋月に聞こうと口を開いたが、その理恵という女子生徒の声の方が早かった。
「あなたが、紗江と、待ち合わせしてた、人?」
 息を切らしながら、彼女は田辺に問いかけた。……田口紗江だったか、確か。
「そう、だけど」
 突然の来訪者に戸惑いながらも答えた田辺は、そのまま言葉を繋げる。
「……田口さんは、どこに」
 ――病院よ。

 田口さんは天体観測が始まる前に体調を崩してしまったらしい。もともと体が弱く、担当医は彼女が校外学習に行くのをあまり良しとはしていなかったらしい。それでも田口さんがどうしても行きたいと言い張るので、許可を出したそうだ――少しでも体調がすぐれなくなったら、病院に行くことを条件に。
 理恵さんは、田口さんから今回の約束について聞いたらしく、私はいけないから、できれば代わりに行ってきてほしいと頼まれたらしい。田口さんが病院に搬送される直前まで、理恵さんは田口さんのそばで見守り、その後、約束の場所にやってきたそうだ。
「……そんな……田口さんが、病院だなんて」
 茫然自失の田辺へと、理恵さんが言葉を掛ける。
「……大丈夫だと思うよ。少し無理しただけだって本人も言ってたし」
 ――後、確認なんだけど、
「あなたは、田辺くん、でいいのかな」
 どうしてそんなことを聞くのか分からないといった風ではあったが、田辺は首を縦に振った。
 ――これ、紗江から君に渡すように言われたから。
 彼女は懐から、『田辺君へ』と書かれた一枚の便箋を取り出した。

 田辺くんへ

 同じクラスの田口です。
 これを読んでいるということは、私を待っていてくれたのは田辺くんだったということですね。
 本当だったら、直接会ってお話したかったのですが、体調を崩してしまい、それが叶わなくなってしまったので、手紙という形でお伝えします。

 実は、田辺くんのことは、入学式の日から知っていました。
 その日、私はハンカチを学校のどこかに落としてしまい、歩いてきた廊下や階段を探していました。どれだけ念入りに探しても見つからないので、もうあきらめてしまおうかと思ったところへ――田辺くん、あなたがハンカチを持ってきてくれました。
「これ、あそこの廊下に落ちてたんだけど、もしかして、君が探してるのって、これ?」
 そのハンカチは、誕生日プレゼントに母から貰ったもので、とても大切にしていたハンカチだったので、田辺くんには今でも感謝の気持ちでいっぱいです。
 そのときに上手くお礼が言えたらよかったのですが、私がもじもじしていたせいで、田辺くんは、じゃあ、気を付けて、と言って去ってしまいました。田辺くんは覚えていないかもしれませんが。

 改めて、あのときはありがとうございました。

 今回の待ち合わせの相手が田辺くんかもしれないと感じたのは、校外学習で田辺くんと一緒になる機会が多かったからです。待ち合わせも田辺くんなのではないか――言葉ではうまく言えないのですが、不思議とそんな感じがしていました。

 すみません、私が一方的に伝えたかったことを言ってしまいましたね。
 また、改めて直接お礼を言いたいと思っているので、そのときに、田辺くんのお話も聞かせてください。

 学校でお会いできるのを楽しみにしています。

 田口紗江

「まさか、田口さんの方が、先に田辺くんを知っていたとはね。意外だったよ」
 校外学習から帰ってきた俺たち四人は、今回の相談部の活動について部室で話をしていた。
晴人の言う通りだ。俺も意外だった。
 結局、田辺は田口さんに告白をするのはもう少し先にすることにしたらしい。現状を維持したいとのことだった――まあ、それも悪くはないだろう。少なくともあと一年ほどは同じクラスなのだから。変化を起こさないというのも一つの選択だ。
 何はともあれ、今回俺たち相談部がサポートしたことは、それほど大きな影響を及ぼさなかったのかもしれない。田口さんは、いずれ田辺に直接お礼を言うつもりだっただろうし、もしかしたら、今回田口さんが校外学習に行きたいと強く主張したのも、頃合いを見計らって田辺にお礼をしたかったからなのかもしれない。
「……俺たちがしたことは、いわゆる余計なお世話というやつだったのかもしれないな」
 俺の小さなつぶやきは、窓の外から吹き込んでくる風とともに掻き消える。
 その声が他の三人に聞こえていたのかはわからない。
「私たちのサポートで、二人の仲が近くなったと思いたいよね……だって、もし田口さんをあの場所に呼び出していなかったら、田口さんの手紙が書かれることもなかっただろうし、もしかしたら、お互いがお互いに遠慮してしまって、卒業まで何も言えないまま終わってしまっていたのかもしれないから」
 秋月の言葉は窓の外から吹き込んでくる風とともに部屋の空気を満たしていった。

小説の一部です ©nobel_no_bell

執筆の狙い

現在書いている小説の一部です。
テンポがよく読みやすいけれど、読者の心にずっしりと居座るような小説を目指しています。

何かアドバイスなどいただければ幸いです。

nobel_no_bell

121.80.146.63

感想と意見

いけだうし

 緑坂高校の校外学習は、他校と比べて風変わりであることで有名だそうだ――情報源は晴人だ。

 一文目ですが、少し読みづらさを覚えます。

(改善案)
1
 緑坂高校の校外学習は、他校と比べて風変わりであることで有名だ――と晴人が言っていた。
2
 緑坂高校の校外学習は、他校と比べて風変わりであることで有名だ、と晴人が言っていた。
3
 緑坂高校の校外学習は、他校と比べて風変わりらしい。晴人がそう言っていた。



 長々と引き延ばしたが――校外学習に乗り気でない俺が現実逃避しているわけでは決してないことをここに明言しておこう。
ずばり、緑坂高校の校外学習は――

 ダッシュを説明の意図で用いたのかも知れませんが、間には二文もあって長い上に、改行までしている。しかも改行したら一文字分スペースを開けるという基本も忘れてしまっています。
 説明の意図でなく、なんとなくダッシュを入れたのなら尚更のこと、読みづらいです。
 また、既にこの時点でダッシュを三つも使っている。
 ダッシュ、もしくは三点リーダの多用は、読みづらさを与えます。注意しましょう。
 そして、そんなに「長々と」引き伸ばされた感はありませんね。もしそういう風に書きたいのであれば、もう少し愚痴でも書いてみましょう。
 このままだと、全くこの文章の必然性が感じられません。



 しかも、午前中は地元の科学館で天体について学習した後に、午後から山に登り、夜まで宿泊施設で睡眠時間を設け、夜通し星空を眺めるといった内容らしく、これは途中に休憩を挟むとしても、なかなかハードなスケジュールなのではと思われる。

 テンポ良い文章を志しているとは思えない文ですね。文は一文一文を短くした方が読みやすいんです。そして、ここで「しかも」が使われているのに違和感を覚えます。

(改善案)

 そのスケジュールを説明しよう。

 午前中は科学館で天体について学習する。
 午後に山へと登る。
 その後、宿泊施設にて夜まで寝る。
 夜になったら観測場まで移動する。
 そこで夜通し星空を眺める。

 なかなかハードそうだ。




 文字数もあるので取り敢えずここまでで投稿。

2017-08-12 14:13

153.178.5.36

いけだうし

「春樹は、シスコン、だからね」

 テンポよくしたいのなら、ここは、

「春樹はシスコンだからね」

 とするほうが良い。
 または、シスコンを強調したいのならば、

「春樹は、シ、ス、コ、ン、だからね」

「春樹は、シ ス コ ン、だからね」

 などと工夫をして欲しい。


  これ以上、夏希のことを褒められたりしたら、お兄ちゃん、感涙にむせんじゃう。
 ――やっぱり、シスコンだな、俺。

(改善案)

 これ以上夏希のことを褒められたりしたら、お兄ちゃん、感涙にむせんじゃう!


 ………………。


 やっぱりシスコンだな、俺。



 読点が多い。
 そして、それ以前の文章からシスコンという印象を全く受けないので不自然に感じる。これ以前の場面でシスコンが強調される場面があったとしても、もう少しシスコンを前に押し出しても良いのではないだろうか。

2017-08-12 14:25

153.178.5.36

いけだうし

 集合場所の日生中央駅、到着!

 ここの「到着!」に違和感を覚える。それ以前の、校外学習を嫌がる主人公のテンションとの違いからである。

 そして読み終わったが、ダッシュと三点リーダが多い。多用しすぎである。読んでいて疲れる。気をつけた方がいい。特にダッシュ。減らす努力をすべきである。







 そして、一言だけ言わせて欲しい。
 これを言うと完璧ななまでのnovel no bellさんもといこの作品の否定になってしまうので言いたくなかったのだが
 読み終わってから、むしろ言った方がいいのではないかと、今、思っている。

 この話は「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」に非常に似ている。
 もし読んだことがあるのならばあなたは顕著な影響を受けている。
 設定もそうだし、「テンポがよく読みやすいけれど読者の心にずっしりと居座る小説」とは、僕の俺ガイルを読んだ感想とほぼ同じである。

 読んだこと

2017-08-12 14:38

153.178.5.36

いけだうし

(↑間違って投稿ボタンを押してしまったので続きを)

がないのなら、あなたはこの小説を書くのを諦めた方がいいと思う。

 書き上げたとしても、パクリの謗りしか受けないだろうから。

2017-08-12 14:39

153.178.5.36

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です(テクニカルサポート)。

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3,000字以内