作家でごはん!鍛練場

『【プロローグ】この世界に飽きたので』

則竹直樹著

以前に投稿した第1話の訂正版です。
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 ――退屈だ。

 俺はそんなことを思いながら、教室の窓側最後方でぼーっと外を眺める。
 居眠りをするのに向いている席だが、ぼーっとすることはあっても、俺は決して寝ないだろう。そういう癖というか、習慣が付いてしまったのかもしれない。

 俺がそんな習慣になったのは、二年前の高校受験の時だった。
 中学三年生だった俺は、剣道の強い公立高校に入学して、全国大会に出場し、あわよくば優勝するという未来を描いていた。
 県内有数の剣道の強豪校に本気で入学したくて、俺は毎日毎日、夜遅くまで必死に勉強した。
 学校が終わった放課後に、図書室にこもったり、塾へ行ったりした。
 そんな努力の甲斐あってか、偏差値は合格ラインまで到達した。
 その時は達成感に満ちて、俺はきっと合格できるのだと思い込んでいた。

 だが、現実は厳しかった。

 当日の試験、最初の科目は苦手な分野の出題数が多かった。
 俺の解答用紙は真っ白で、時間だけが過ぎていった。
 顔が青くなり、気分が悪くなり、俺は途中退席を願い出た。
 トイレへ駆け込み、個室に入ってひとしきり吐くと、気分の悪さは消えていった。
 だが、俺は戻ろうとしなかった。

「戻りたくねぇな」

 そんなわがままが、戻らなければならないという義務感よりも勝っていた。
 努力はしているが、結果に繋がらない。
 正念場では緊張が極まってしまい、決まって体調を崩してしまう。
 受験本番という場面で、悪いことばかりがいつもと変わらない。
 わがままが勝るには、十分すぎる状況だった。

 結局、俺は最初の科目の試験時間が終わるくらいまで、個室にこもり続けた。
 次の科目の試験が始まる前に試験室へ戻ると、友人らが心配してくれた。
 心配してくれることへの嬉しさ、わがままに任せてしまった自分への罪悪感、もう取り返しがつかなくなっているだろうという悲しみ。
 感情が混ざり合って吐き気を催したが、吐くものはすでに無く、気持ち悪さだけが残った。
 その後の教科は、どれも解けた気がほとんどしなかった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 合格発表の当日は、桜が満開だった。

 その美しさで心が落ち着き、もしかしたら合格しているんじゃないかと、そんな希望さえ感じていた。
 しかし、結果はやはり不合格だった。
 友人たちが合格を喜んでいる中、俺だけが喜べるものを持っていなかった。
 人生の大きな試練に、俺は負けた。

 俺は、滑り止めの私立高校に入学した。
 必死に勉強をして偏差値を上げた俺にとって、学力的に見ればレベルの低い学校だった。
 剣道のレベルも、弱くはないが、強くもない。
 全国大会に出場した年もあるようだが、まったく勝ち上がれていない。
 なにもかもが、俺の未来予想と違っていた。

 試験で苦手な分野ばかりを固めて出題されたりしなければ、こんな高校に入ることもなかった。
 そんな事を思いながら他人と接して、新たな友情が芽生えるはずがなかった。
 人を見下す態度が染みついていった。
 なにもかもがどうでもよくなっていった。
 授業中に居眠りをしなかろうと、勉強をしていないのだから、意味は無い。

「早く帰りたい」

 授業中の俺の頭には、そんな思考だけがぼんやりと浮かび続けていた。

 今日は今までで一番気分が乗らないから、部活をサボろうか。
 部活を無断でサボるのはよくないって?
 いやいや、一日くらいサボってもいいだろ。
 今日は一年で一日だけの特別な日なんだから。

 今日は七月七日、つまり七夕だ。

 別に七夕だから特別という訳じゃない。
 俺の誕生日でもあるんだ。
 ロマンチックだと言われることがあるが、悪い気はしない。
 ラッキーセブンだし、おしゃれだし、自分でもけっこう気に入っている。
 そして、今日は七夕祭りの日でもある。
 夜になれば花火が打ち上げられるが、俺は毎年それを一人で見ることにしている。 
 俺だけの聖地で。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 聖地は家から歩いて五分。山の頂上にある神社だ。
 いつでも行けるところだが、俺は“七夕にしか行かない”という掟を作っている。
 掟を作ってからもう四年目になるが、一度も破ったことはない。
 破ったら、きっと花火を楽しめなくなるからだ。
 神主は俺のおじいちゃんだが、境内で姿を見かけたことがない。
 おそらくだが、おじいちゃんは俺の掟のことを知っているんだろう。
 もしそれで七夕の日に来ないようにしているのだとしたら、ありがたいとは思う。

 聖地までは長く急な階段を登らなければならない。
 だが、登りきれば素晴らしいものが見られると分かっているから、多少つらくても仕方がないと思える。

「やっとついた……」

 階段を登り終えて、思わず呟いた。
 目の前には赤い鳥居があり、その向こうに社殿がある。
 ゆっくりと鳥居をくぐり、社殿の脇を抜けて奥へ進むと、目的地の大木が見えてきた。
 大木の周囲には土肌が綺麗な円を描いていて、大木の存在感を際立たせている。
 俺は大木にもたれかかった。
 見上げると、枝葉が成す緑の円に夜空が縁取られていた。

 綺麗だ。
 素直にそう思えた。

 花火が始まるまでぼんやりと眺めていようかと思っていたが、気づかないくらいゆっくりとまぶたが重くなっていった。

 ドカンと鳴った大きな爆発音で、俺は思わず飛び上がってしまった。

「あぁ……寝ちゃってたのか……」

 目覚ましにしては大きすぎる、花火の爆発音。
 いつの間にか周りが暗くなっている。
 そして、見上げた先では、花火が星空を鮮やかに彩っていた。

 なんて幻想的な風景だろう。
 次々に色と形を変えてゆく花火。
 体に重く響く爆発音。
 花火の鮮やかさを飲み込もうとしているような、星空の闇。
 こんな素晴らしい時間が一生続けばいいのにと思った。
 だが、花火はそろそろ終わってしまうということを、俺は忘れていない。

 ふと、七夕らしく願い事でもしてみようかと考えた。
 何を願おうか少し迷ったが、本当に叶うわけではないと思って、冗談っぽいものに決めた。
 俺は目を閉じて、祭りの最後を飾る花火の爆発音を聴きながら、願った。

「この世界に飽きたので、世界を変えてください」

 言葉にしたのか、思ったのか、それすらもはっきりとはしなかった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


「……んちゃん……あんちゃん!」

 誰かが俺を起こそうとしている。
 ということは、あれからまた眠ってしまったのか。
 そんなことをぼんやりと考えていると、いきなり頭を強烈な打撃が襲った。

「いっ!?」

 一気に眠気が飛んだ。
 とっさに犯人を予想して口走る。

「おじいちゃん……なわけないか」
「誰がジジイだガキが」

 思考がはっきりするにつれて、暗い視界も次第に明るくなってきた。
 日差しが眩しい。明らかに日が高い。
 そんな時間になるまでよく眠っていられたな、俺。

「こんな所で寝てんじゃねぇ。バチがあたるぞ」

 それにしても聞き覚えのない声だな……って誰だこいつ?
 粗末な服を着た男が、俺の目の前に立っていた。
 というか、そびえ立っていた。
 とんでもない巨体だ。二メートルはあるんじゃないか?
 見ためは四十代と言ったところか。
 筋骨隆々で、聞かずとも職業はガテン系だと予想がつく。

「まさかおじいちゃんはこんな人を雇ったのか? 素直にガテン系でもさせてやればいいのに」

「あん? なにがいいてぇ」

「まぁいいや、どうでも。神社の人事なんて俺が首を突っ込むことじゃねぇし」

「なんか気に障るガキだな」

 そういや、こいつは大男。俺は非力な小男なんだったな。
 ……態度を改めるか。

「すいません、今何時ですか?」

「今か? 今は……」

 まだ朝だろうとは思うが、念のためだ。

「だいたい14時だな」

「えぇ! 本当ですか!?」

 予想を突き抜けてきやがった。

「人生初の遅刻かよ! はやく学校行かないと……」

「あん? 学校ってなんだよ」

 冗談のセンスは無いみたいだ。
 とりあえず笑っておいてやるか。

「まあとりあえず、おじいちゃんにごめんって言っておいてください」

 ごめんと言ってほしいのは俺のほうだ。

「そうだ、名前はなんて言うんですか?」

「あん? ああ名前か。俺はシトロンだ」

 聞きなれない響きの名前に驚く。

「シトロンって本名ですか?」

「あぁ、本名だ。そんなに珍しくもない名前だろう?」

「いやぁ……珍しいと思いますよ」

 そろそろ愛想笑いにも疲れてきた。学校じゃ表情なんて変えないしな。

「そりゃあ、あれだ。あんちゃんは巨人族じゃねえからな」

「……はい?」

 巨人族?

 ……なるほど、この男は自分の巨体にコンプレックスがあるんだな。

「とっ、とにかく俺はこれで……」

 そう言って立ち去ろうとした俺は、すぐに立ち止まった。
 周りの景色と空気に、異質さを感じ取ったからだ。
 景色は明らかに神社だ。
 大木も、社殿もある。
 じゃあ、この違和感はいったい……

『この世界に飽きたので、世界を変えてください』

 唐突に脳裏をよぎった、願い事。

「いや……えっ? いやいや……」

 全身から冷や汗が溢れ出る。
 いやいや、と何回言ったらこんなバカげた妄想を止められるんだ?
 何をこんなに慌てている?
 だが……もしその妄想が現実なのだとしたら?
 そんな願望が、俺の口にこう言わせた。

「異世界……召喚……?」

【プロローグ】この世界に飽きたので ©則竹直樹

執筆の狙い

以前に投稿した第1話の訂正版です。
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則竹直樹

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感想と意見

山口 夕

『その後の教科は、どれも解けた気がほとんどしなかった。』
とあるのに
『その美しさで心が落ち着き、もしかしたら合格しているんじゃないかと、そんな希望さえ感じていた。』
は少々違和感が残ります。実際の中学生ならそんな人がいるのかもしれませんが、できなかった事実があるのに希望を持つには付け加える必要があります。それでも、なかなか上手く補正するのは難しいものがあります。この歪みは読者が共感しにくくなる要因になります。

前半、勉強に関する描写ばかりで、剣道に取り組む描写がほとんどありません。さらに剣道になぜこだわりがあるのかが不明です。

『この世界に飽きたので、世界を変えてください』
ではじめに思いつくのは「異世界召喚」より「世界改変」です。
『この世界に飽きたので、世界を替えてください』
ならば問題なかったかもしれません。
わかりやすさを優先するならば、
『この世界にはもう飽きてしまったので、どうかもっとおもしろい世界に連れてってください』
と主人公自身の転移を含めた表現になると思います。



私の意見が参考になれば幸いです。

2017-08-11 19:07

124.240.230.118

則竹直樹

山田 夕様へ

ご指摘ありがとうございます!
テストの所は、手応えが感じられなかったに変えておきます。

世界を変えるを世界を替えるに変更しときます。

中学校から剣道をしていたので、取りあえず剣道部があり、出来るだけ強い高校を……といった考えなだけです。訂正しときます。

2017-08-11 19:32

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カジ・りん坊

 もっと入りからガンガンテンポよく進めないものかと思う。何でも無い様なことがただダラダラと続いているだけのような気がする。

 感情の起伏もあまり無く、いつになったら何が始まるのだろうと思う。こんなプロローグでは先を読もうとは思わないだろうと思う。

2017-08-11 22:58

112.137.227.226

則竹直樹

ガジ・りん坊様へ

過去の描写はいりませんでしたか……

わかりました。気をつけます。

2017-08-12 12:03

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