作家でごはん!鍛練場

『『無題(構想段階)』:ボツ案』

山口 夕著

私がこの小説を書いたかと言えば小説に内に書いた通り、感想・意見を書いておきながら、自分の小説を書いていないということから、一作は書いておこうというものです。それ以上のものはありません。設定を考えずに書けるということで、今回のスタイルを取りました。



「もっと設定凝れたような気がするな」
「そうですよね、まったくもってこんな小説を書く気がしれません」
 彼女の手は強く握りしめられ、その手中には汗が滲んでいた。
「いくらなんでも、こんな雑な状態なんて…」
 彼女には怒りと悲しみのあまり、言葉を続けることができなかった。下を向いたまま立ち尽くすことが彼女にできるすべてのことであった。この世界はなんと理不尽であろうか、自分勝手な思想により生み出され、ろくな設定や活躍もさせず、消えていく。
「地の文もヒロインももうやめよう、ここまで来てやりたかったことはそれじゃないはずだろ」
 その通りであった。やはり主人公は主人公であったのだった。ヒロインも顔を上げ、主人公を見た。そして、主人公の胸に飛び込んだ。主人公は彼女に慈しむように手を回し彼女を強く抱いた。こうして二人は消えゆく運命を受け入れた。

・登場人物等
主人公
名前:未定
メモ:バトルものか学園ものにしようか思案中、そもそも性別も悩ましい。

ヒロイン(またはそれに類する存在:主人公が女性になるかもしれないので)
名前:決めてない
メモ:名前というのは大変だ。容姿や性格にも繋がってくる。

・ストーリー
なぜ書こうと思ったのか、自分でも分からない。なんとなく書いてみようと思ったに過ぎない。自分は今まで感想や意見ばかりで文章をあまり書かない。そのような立場にありながらおめおめと人の作品に感想を書いてきた。さらに厚かましくも意見や修正まで書く始末だ。幸いにも、「鍛練場」という名であるので、多少の未熟さがあっても投稿することには問題なかろう。一度書いて投稿すれば私は「迷惑な批評家気取りのマヌケ」から「仲間」や「同志」になれるかもしれない。彼らの環に加わることを許されるのかもしれない。とは言ったものの、私は主人公の名前すら考えつかない。正直なところ、ファンタジー作品を書いている方は本心からすごいと思う。自分自身の驚嘆を「すごい」という簡単な一言で済ませる段階で私は書くべきではないのかもしれない。横文字の名前など想像もつかない。私の手には余る。


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 なんだコイツ、俺というか私というか、主人公はそう思った。ぽっと生み出しておいて放置されるというのはなかなかに寂しいものだ。せめて性別でも決めてくれればよかったものだが、それも難しかったらしい。今の地の文は我が創造主様の文を参考して構築した。しかしながら、このまま第一人称が決められないのは辛い。英語であれば"I"の一つで済むものだが、残念ながら日本語には様々な第一人称が存在する。都合が悪いと思うから、ここは「俺」としておくことにした。根拠は薄いがある。まず、この創造主は「ヒロイン」を設定している、これは主人公を第一目標として男性にしようとしている。バトルものを考えているのなら勝ち気な女性も想定され、その場合でも「俺」は問題ない。しかし、バトルものはどうなのだろう。この創造主は慎重というか臆病だ。「迷惑な批評家気取りのマヌケ」としていることから自己評価も低めらしい。そんな人間では物理法則をときに大きく捻じ曲げるようなバトルものは危険だ。おそらくはやらないことだろう。現実世界とここは同様で物理法則が成り立つ世界であった方が創造主としてはやりやすいだろう。学園ものは高等学校が無難だろう。
 世界観の案が整理できたところで話し相手が欲しくなった。「ヒロイン」に登場してもらうこととしようか。
「ヒロインです。主人公さん、よろしくお願いします」
 清純派といったところか、安定していて、思考も読みやすい、書き手だけでなく、読み手も安心して進められるタイプだ。
「話し相手ということでしたが、このままでは地の文を主人公さんが占めていて私が話に入りにくいです」
 仕方がない、と俺は彼女に俺の一人称から三人称(神の視点)への切り替えを提案した。彼女はハイと俺には眩しいくらいの笑顔とともに答えてくれた。
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「転換が完了したのでしょうか」
 表現の方法が変化したことを確認するようにヒロインはあたりを見渡した。しかしながら、この世界に景色はまだなかった。
「完了している」
 主人公が目を閉じたまま軽く口にして、ヒロインに向き直った。
「地の文を確認してみろ」
 ヒロインが地の文を見てみると、なんということだろうか、三人称(神の視点)へ変化している。彼女は驚きあまりその場にへたり込んだ。
「か、変わっていますね」
「そうだろう」
 主人公は笑った、その笑顔は爽やかと言える範疇であった。やや気に障るように見えるのは自分が表現方法にいち早く気づき、ヒロインに教えたという自らの功を誇る気持ちが少しばかり彼の顔から漏れ出したからである。彼はこの地の文に対して苛立ちを露わにしてなじろうと口を開いたが、ヒロインが先に言葉を発した。
「私ってそもそも立っていましたっけ?」
 「へたり込んだ」ことに対する疑問だろう、確かにヒロインが「立っていた」ことは主人公の一人称の文でも今回の地の文には書かれていなかった。登場時にもついてもまったく触れられてはいなかった。そうではあるのだが、地の文があのように「へたり込んだ」と書いた時点でそれ以前では「立っていた」ことになるのが自然である、その旨を主人公はヒロインに話した。
「えっ、俺がヒロインに話したことになるの!?」
 話したことになってくれないと困るのが、この世界のあるべき姿である。ただ、このようなセオリー無視のやり方もありなのかもしれない。はじめはどうなることかと思われたこの小説も終わりを迎えられるのかもしれない。
「この野郎、強引に幕引きしようとしているぞ」
「まあまあ、いいじゃないですか。私も飽きてきましたし」
 哀れな主人公はこの地の文に対して不満をぶつけてきたが、すぐさまヒロインにたしなめられた。そういった彼女はちゃぶ台を前に座ってお茶をすすっていた。
「はっ、私、いつの間にかお茶飲んでる!せんべいもセットで!でも座布団がない!」
 地の文としては座布団も用意したつもりで必要ならば後で補足する予定だったのだが、うまくいかなかったようだ。この物語は早いこと処理してしまった方がよい。もし、これが創造主の目に触れたのならば、創造主は諦めて正解だったと思うことだろう。最初の学園設定は結局のところ回収できなかったが、ここでこの話を終えることにする。ここの創造主はストーリーの案に愚痴を書くような残念な方である。彼らがもっと真っ当な創造主のもとに生まれたならば、きっと華々しく活躍できたに違いないだけに悔しさが残る。
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「終わったね」
「終わってしまったな」
「地の文はもう出てこないつもりらしいわね」
「仕事は終わっているからな」
「私たちは別に構わないけど、放っておくには惜しいプロットやアイディアがそのままになっているわね」
「そう言うなって、きっと気づいてくれるさ」
「私の悲しみはこの会話文だけじゃ表現できない」
「じゃあ、そっちの一人称で進める?」
 主人公のやさしさに触れ、私は目から熱いものを…
「やっぱり、やめておく、この話はここで終わりでいいよ」
「そうか、そうだよな」
 二人はどこか寂しげながら、やや誇らしげに消え行く世界を見つめていた。
「地の文さん!?」
「地の文!?」
 一悶着はあったものの、とりあえずこの話は終幕を迎える。彼らのような悲しき存在たちがこれ以上生まれぬことをただただ祈るばかりである。














「私の飲んでたお茶って緑茶?昆布茶?」
「さあ、どうだろう?」

『無題(構想段階)』:ボツ案 ©山口 夕

執筆の狙い

私がこの小説を書いたかと言えば小説に内に書いた通り、感想・意見を書いておきながら、自分の小説を書いていないということから、一作は書いておこうというものです。それ以上のものはありません。設定を考えずに書けるということで、今回のスタイルを取りました。



「もっと設定凝れたような気がするな」
「そうですよね、まったくもってこんな小説を書く気がしれません」
 彼女の手は強く握りしめられ、その手中には汗が滲んでいた。
「いくらなんでも、こんな雑な状態なんて…」
 彼女には怒りと悲しみのあまり、言葉を続けることができなかった。下を向いたまま立ち尽くすことが彼女にできるすべてのことであった。この世界はなんと理不尽であろうか、自分勝手な思想により生み出され、ろくな設定や活躍もさせず、消えていく。
「地の文もヒロインももうやめよう、ここまで来てやりたかったことはそれじゃないはずだろ」
 その通りであった。やはり主人公は主人公であったのだった。ヒロインも顔を上げ、主人公を見た。そして、主人公の胸に飛び込んだ。主人公は彼女に慈しむように手を回し彼女を強く抱いた。こうして二人は消えゆく運命を受け入れた。

山口 夕

124.240.230.118

感想と意見

山口 夕

私としてはどうして最後にお茶についておちゃらけたことを言っていたのに、「執筆の狙い」ではシリアスな場面から始めたのがわからないところです。パラレルワールドなのでしょうか。あの場面で主人公がやろうとしていたことは一体何だったのでしょうか。

教えてくだされば幸いです。

2017-08-11 15:23

124.240.230.118

いけだうし

「自分の小説を書いていないということから、一作は書いておこうというものです。」

 は、果たしてこれが小説と呼べるのでしょうか……
 正直そう思いました。

2017-08-11 15:36

49.98.47.156

山口 夕

いけだうしさま

感想・ご意見、ありがとうございました。「完全な真空」という本もあることですし、小説の範疇にあるのではと思っただけです。

2017-08-11 15:39

124.240.230.118

蠟燭

拝読しました。

人のこと言えないのですが、まぁこれも小説なのかな。
ちなみにひとつ下の小説と似てますね。小説を書くとゆう苦悶とゆうかそんな心象風景が書かれた小説なのかなと思いました。

いやしかし、僕以上にぶっ飛んでて焦りました汗。

2017-08-11 20:36

180.31.202.32

山口 夕

蠟燭さま

感想・ご意見ありがとうございました。これはある種の実験でした。うまくいったのかどうかは自分でもわかりませんが、「こういった書き方もある」と示せたのならよかったと思います。

2017-08-11 20:57

124.240.230.118

お久しぶりです。

面白かったです。
最後の質問……本当にわかんなかった!

2017-08-12 03:13

49.96.6.113

山口 夕

お久しぶりです。さま

感想・ご意見ありがとうございました。わかるようには書いてはいないのは事実ですが、よろしければ、どのようにわからなかったのか教えていただけませんか。

2017-08-12 12:04

124.240.230.118

お久しぶりです。

山口 夕 さま

返信ありがとうございます。
お茶についての質問があって、どっちだったろう? と真剣に悩んでしまいました。
改めて読ませていただくと答えはなかった!?
そんな感じです。
言葉足らずで申し訳ありません!

2017-08-12 15:16

49.96.6.113

山口 夕

お久しぶりです。さま

ヒロインが飲んでいたのものは「お茶」、それ以上はわからないのです。彼らは自分たちの行為であるにも関わらず、分かっていないのです。「ヒロインの味覚がない」という裏設定があるのかもしれないと思った方はそれでよいと思います。それとも地の文に書いていないため確定されていないという考えでもよいでしょう。不必要な情報は排除される小説の表現の限界を表現したといえばそれまでですが、そこからさらに想像してくださるのでしたら、嬉しい限りです。落ち着いた様子の表現としてお茶をすする行為をさせたと思ったら、ヒロインの本心としては落ち着いて時間を過ごす方法はそれではなかったことを示しています。彼女がしたかったことは本を読むことだったのかもしれませんし、散歩かもしれません。分からないのです。地の文と会話文は一致するものですが、あえてそれに挑戦した形を取っています。他の方の小説を読んでいて私の想像したキャラクターの言動が違ったという体験から来ているかもしれません。
長々と書きましたが、私としましては、答えはあなたの中にあると思います。読む方々によって違った世界があると私には思います。


ちなみにここにいる「山口 夕」は筆者ですが、はじめの感想を書いた「山口 夕」はこの小説を書いていない「山口 夕」です。さらに小説内には書くのを諦めた「山口 夕」がいます。


ご意見、ありがとうございました。

2017-08-12 16:13

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