作家でごはん!鍛練場

『炎天下』

きさと著

半年ほど前に書いて部誌に載せた、「消えること」をテーマとする小説です(部の規約上、転載に関しては作者の判断に委ねられているそうです)。
作者としては、企みが過ぎた気がするのと、詩的に書き過ぎたのが心残りではあります。
ご感想、ご批評など、宜しくお願いします。

 音がして、でも窓を見たらなにもなかった。家がちらちら灯って、ときどきすうと揺れたり、いなくなったりするけど、うれしいことはなくて、もうおしまいなのつまんないと背を向けたとたんに大きな花火の音が、からだを突き抜けて、部屋が青色に光って。ちと川に近すぎたねと思ったのは、内緒の話です。
 悟志が寝室で缶コーヒーを飲んでいた。ベッドに横たわって、顔に枕をかぶせて。私は明かりを消して、悟志の肩をひねった。悟志はいよいよ枕をはなさなくて、手から空き缶が転がった。缶はベッドを少しだけ滑った。私はいざ見よとカーテンを開けた。夜が差しこんだ。悟志は缶をくずかごへ投げた。夜はおとなしかった。


 家を決めたのは悟志だった。ほんとうは海辺がよかった。海を泳げばすぐ、地球のどこにだって行けちゃうから。私はせまっくるしい日本が嫌いだった。でも悟志は海が嫌いだった。
「海って、いいじゃん」
 ネットで物件を探す悟志を私は諭した。悟志はうつむいた。
「ほら、ラーメンとか、まずいし」
「ごはんは私の仕事」
 納戸に眠っている水着は二回しか着ていない。お店で試着したときと、悟志に見せたとき。ビニールプールをこっそり庭に置いたけど、悟志が空気入れを隠しちゃった。
「玲は、水が好きなんだね」
 悟志はエンターキーをぽんと押して、川辺の家が映ったページを見せてくれた。屋根が水色の、小さな家だった。
「うん。とくに、海が好き」
 川だって海につながっている。私はそう思った。
「川だって海につながっている。ここでいいね」
 悟志はそう言った。私はさりげなくウィンドウをとじた。悟志はウィンドウをひらいた。
 悟志は今でも海が嫌いなままだ。私は悟志を何度も海に誘った。でも悟志は布団の方が好きみたいだった。日が沈んでも、私は海に行けなかった。夜の海もいいよと言ったけど、悟志は寒がって起きてくれなかった。寝室の壁に海の写真を貼っても、次の朝には私の写真に変わっていた。

 
 ずぶぬれのミニチュアダックスフントを、悟志が連れて帰ってきた。
 茶色くて、細いしっぽがひらひらしていた。
「どうしたの」
「川で」
「川に、行ったんだ」
 悟志はダックスをバスタオルで拭く。
「川は、行ける」
 悟志はダックスに向かって言った。
 ダックスは垂れた耳を前に向けて、微かに首をかしげた。
 私も首をかしげた。
「おぼれてたの」
 悟志は首を横に振る。
「泳いでた。というより、浮いてた。ダックスはもともと、細長い巣穴に棲むアナグマを狩る目的で、足が短く改良された種なんだ。だから浅瀬に入っただけで、浮くんだよ」
「ふうん、どうでもいいや」
 私は手を伸ばし、ベッドに倒れこんだ。ダックスの首がのびた。


 会館近くにコンビニあるって、スマホの地図には書いてあったのに、行ってみたらなかった。せっかく上り坂、たくさん歩いたのに、くつずれが悪化しただけじゃない。悟志におにゅうのくつ、買ってもらおうっと。
 見たことのない木。見たことのない道。
 知らない壁が続いていて、私はどうにもいかなかった。
 スマホは電源が点かない。かかとは痛い。星がちょっとだけいる。かかとは痛い。
 とりあえず低い方へ、低い方へ進んで、平らなとこに出ちゃって、かかとが痛い。
 川があったら、沿って歩いていけば、きっと、なあんて、悟志が手を振ってるじゃん!


 ダックスは水を飲んでいるう。
 悟志が青いビニール袋から小さいサッカーボールを出した。
 悟志がボールを指で押すと、ボールはへこんでぴいぴい鳴く。
 ダックスはしっぽを上げて、悟志の手に走った。
 悟志がボールを床に転がす。ダックスがボールを追いかける。私はボールを止める。ダックスがボールにわんわん言う。香ばしいにおい。クッキーって名前にしよう! 私はボールを悟志にぶつける。悟志はボールを素早くキャッチして(くそう)、ボールがぴいぴい鳴く。クッキーが悟志に走る。悟志はボールを転がす。クッキーが追う。私は構える。クッキーは前足でボールを押さえる。かじる。かじる。ボールがぴいぴい、ぴいぴい、ぴいぴい。
 正常位で突かれてる気分。


 ベッドと枕とカーテンと机とくずかごと壁と床と天井を青色に塗った。
 悟志は?
「まるで、空みたいだね」
 言う。
「空なら、お日さまがいるでしょ」
 私はカーテンをはがす。窓ガラスも空色。空色? 青色!
「海なら、カモメがいるよね」
 悟志はカモメをけしかけた。


 クッキーは台所でチキンライスを炒めていた。カモメが描かれたエプロンをしたたかに巻き、肩と首をるんるん揺らしてしゃもじを動かす後ろ姿がかわいい。私は後ろからそっと近づいて、わんわん言ってみる。クッキーは火を止めて、ゆらゆらする私のしっぽに微笑んで、りんごをひとかけらあげてみる。私はとても喜んでくれて、私は、りんごをあげてよかった、と思った。


 犬用キャリーバッグのふたを開ける。クッキーがクリーム色の砂浜に飛び出す。茶色の毛が後ろになびいて、あしあとがてんてんてんと残る。クッキーはほんの少しジャンプをして、カモメをつかまえようとした?
 ずっと後ろの車のそばに小さく悟志が立っている。悟志の「リードをつけないとダメだよ」とか「肉球をやけどするよ」が聞こえるけど、聞こえないことにして、私は砂に浮かんだあしあとをサンダルでなぞりながら走った。
 クッキーがたったったったったったったったった私がたったったったったったったったったクッキーがたったったったったったったったった私がたったったったったったったったったクッキーがたったったったったざばあと海から悟志が登場した。髪はぺちゃんこ、服はびしょびしょ、時計はぎんぴか。おっかしい。だから私はこれ見よがしに、
「ほうら、やっぱりクッキー、水が好きだったでしょ」
 クッキーは恥ずかしそうにおしりを丸めてうんちをしていた。


 砂だらけになったクッキーを海の水で洗って(おしりもだよ!)、ぶるぶるふるえて逃げ回るクッキーをなんとか抱きしめて、車まで戻ったのに、悟志は運転席でシートベルトをしめている。
 私は面と向かって「クッキーがかわいそうでしょ」をぶつけたけど、フロントガラスは厚かった。
 クッキーがじたばたして、水しぶきが顔について、でもいいにおいだったけど、やっぱり下ろしてあげた。クッキーはもう車の後ろに走って、私だって車の後ろに走る。クッキーは車のぶおぶお煙が出るパイプみたいなやつに突き出た鼻を(口を?)入れて、体ごとするするパイプに吸い込まれていった。車のタイヤはどれもこれも茶色いダックスの足になって、毛がふわふわ柔らかそう。私は悟志が車にいることに気づいて、そばまで行ったら、ラジエーターグリル(っていうんだよ! 悟志の受け売り)からクッキーの顔が出ていた。頭がダックス、胴が車、足がダックスの新型生物が完成した。
 悟志はギアをローに入れた。                                                                                  た

                           
                                                                                               っ


 猛然と波打ち際を駆け巡る新型生物の動向を私はあたたかく見守る。波の純白な縁辺がそっと打ち寄せて、新型生物のあしあとが黒く消え去った。砂が巻き上がる。砂が散る。私は右手を開いて    
指の間に映る新型生物があっけなく転んだ。新型生物はだけど起きて走る、走る、砂浜が凹んで中心から巨大な麺が伸びる。空高く天高く伸び上がって、あああそこの砂浜も凹んで麺が高々と青々       が
な空に。私はふぐうと呼吸をして左を見た、木が低かった。                                                                   
 麺はまた砂浜に突き刺さる。新型生物の顔はすなわちクッキーの顔は落ちて来る麺を口でつかまえて吸い込む吸い込む。すっかり足が長くなる。後部座席の窓からシロサイが覗く。クッキーはま   
だお食事をやめないであれこっちに来た。新型生物の図体がどんどん大きくなって私の視界は車ばかりボンネットに乗っかって海のすぐそばの風を感じるのがこんなにきらきらしている。ボンネッ     上
トはエンターキーの形をしているしたがって私は右手の小指でボンネットを叩きのめした。新型生物は速度を増し私はますますエンターキーを小指で叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩   
く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く新型生物は私の果敢な猛攻を物ともせぬ豪傑ぶりで炎天へ飛 び
                       





 けれど青の光はみんなみんなはかなかった。
 青くなくなった部屋の中は、花火が鳴る前よりもずっと冷たかった。なにもかもないみたいだった。私はまた窓を見て、夜の空のやさしいところが来るのを、どこまでも待った。
 寝室の扉は重くて、腕が少しだけ痛んで、でも痛みだってすぐどっかへ飛んでいっちゃう。寝室の暗みがまぶしい。誰もいないベッドに敷かれたシーツのちょっぴりのたわみが、歯がゆかった。枕を持ち上げて、下からのぞきこむと、枕の裏が見えた。
 くずかごは相も変わらずからっぽをしている。
 腕を掲げて電灯のヒモの先を、








 見つからなかった。
 いたたまれなくて、私は引き出しを開ける。
 窓際の黄色いヒヤシンスが、ひらいたり、とじたり。

炎天下 ©きさと

執筆の狙い

半年ほど前に書いて部誌に載せた、「消えること」をテーマとする小説です(部の規約上、転載に関しては作者の判断に委ねられているそうです)。
作者としては、企みが過ぎた気がするのと、詩的に書き過ぎたのが心残りではあります。
ご感想、ご批評など、宜しくお願いします。

きさと

180.235.43.31

感想と意見

地獄極楽丸

何これ?
リズムネタ?
暑いからなあ

2017-08-06 21:19

223.223.86.182

迫太郎

すみません。
全部読んでないので最後につながるのなら申し訳ないのですが
冒頭の、音がして〜夜はおとなしかった。までの文章の意味が全く理解できませんでした。

2017-08-06 22:31

49.98.79.237

なにこれ?

中学生が書いたの?
人様に見せるようなシロモノではありませんね。
まずは日本語の勉強と、小説を500冊読んでから来ようね。

2017-08-07 05:56

1.72.5.48

水野

拝読しました。

全体を読んだ感想としては、非常に炎天下だったと言いますか、陽炎のゆらめきがどこまでもどこまでも伸びているそんな感覚です。「私」という語り手は、誰よりもずっと遠くまで見えているのですが、遠くまで見え過ぎてしまっている、そしてその景色と云うのが、「どこまでもどこまでも」押し展べられた、均一的で平面的な景色、みたいに思えます。幻影とはちょっと違う気もする。幻影は自分の記憶をフォーマットとして、自分に最も心地良いものとして生み出されますが、「私」の見ている景色には、そのような心地良さなどまるでなく、ただただありのままの、裸の、グロテスクな陽炎です。この異常とも呼べる空間に、読書を通して身を置いてみるというのは、非常にスリリングで特別な経験でした。

場面の唐突な転換にしても、この文体であればむしろ当然のように起こり得ることですし、さまざまな要素が無根拠に繋がる様子(サッカーボールと正常位、クッキーと車、ボンネットとエンターキーなど)もそのまま楽しめると云ったところですが、現実との接触点がけっこう少ないため、そこは意識して書き込んでいった方が良かったのではないかとは思います。かかとが痛いと何度も言う様子やエンターキーを叩く叩くしていたところは、そこに現実感=人間の生きている感覚があって良いと思います。が、新型生物の観察シーンは、あまりに超現実的と言いますか、陽炎とはちょっと違う気もしますし、クッキーの台所の場面も、唐突に挟まれたという印象が強いです。前者に関しては、犬らしさ(車らしさ)を詳しく描写しても良かったのかもしれませんし、後者に関しては、直前の青色の部屋のこともありますし、たとえば台所も青色なのかだとか、その辺が気になってしまいます。象徴的イメージがこれによって崩されかねませんが、読者のついていける範囲とついていけない範囲の境界線を目聡く狙うのがこの文章の面白さでもあると思いますので、そこのところを戦略的に、しかしあざとくならないよう巧妙に、目指してみるのもスリリングではあります。良い意味での表層感、冒険心を見ることができました。ありがとうございました。

2017-08-07 08:18

223.219.1.176

夜の雨

『炎天下』拝読しました。

この作品は二部形式になっていて、一部は普通に読めるように書いてあります。
後半の二部に、視点などを変えて、文学性を高くし、作品を高みへともっていっています。


>「消えること」をテーマとする小説です<
ということで、一部は消える前です。
二部に入り、意識の存在が消える(炎天下なので普段意識していることが、意味を無くしてしまう)という展開になっているのだろうと思います。

「炎天下」というタイトルが、内容をあらわしています。
炎天下では、「陽炎も起きる」し、「脳内も沸騰する」のではないでしょうか。


>作者としては、企みが過ぎた気がするのと、詩的に書き過ぎたのが心残りではあります。<

作者としても、わかっているようですね、話を飛躍させ過ぎて、普通に読むと、わかりにくいということを。
わかりにくい内容だと、わかっていながら、こういった作品を投稿する作者様のお気持ちが面白いです。

2017-08-07 19:39

58.94.229.120

偏差値55

>正常位で突かれてる気分

ここが特にいいと思いました。

2017-08-07 21:58

1.66.104.95

きさと

地獄極楽丸さん、ありがとうございます。

リズムネタとしても読めます。というか、私が何かを書くと大体リズムネタになります。

2017-08-07 23:41

180.235.43.31

きさと

迫太郎さん、ありがとうございます。

意味不明なものを読ませようとしてしまい申し訳ありませんでした。最初の場面は一応最後の場面につながっているというのが作者の意図ではありますが。

2017-08-07 23:44

180.235.43.31

きさと

なにこれ?さん、ありがとうございます。

私は読むのが滅法苦手な性格なので、500冊読むのはかなりの苦痛となりそうですが、がんばってみます。

2017-08-07 23:49

180.235.43.31

きさと

水野さん、ありがとうございます。

作者の意図としては、「私」の見る景色を構成しているものとしては、現実を直視した際に生じるやりきれなさ、もどかしさと、頭の中でそれを無理矢理払拭しようと意識的に介入される、解放感、達成感を生み出しうる非現実的要素が主です(これは実際の現実では無論起こりえないので、「私」が見ているものはそもそも現実ですらないことになります)。クッキーの料理の場面や新型生物の場面もそういうものの結果として起こったことではありますが、そこまで読み込んで、そういう事態になる必然的な根拠を見出だしてほしくない気持ちも少なからずあります。

読みやすさを高めるために現実との接点をより書き込むべきだというご意見に関しては、その通りだと思います。私も自分の書きたいことを書き尽くしつつ読みやすい小説を書き上げるのが理想であり夢ではありますが、どうしても作品世界(それも語り手の意識としてあらわれるものだけ)を赤裸々に、無神経に書く方を優先してしまい、こういうモノが出来上がるのだと思います。

2017-08-08 00:21

180.235.43.31

きさと

夜の雨さん、ありがとうございます。

語り手の意識の消失(というより現実からの逃避)は、私はもう少し早い段階で起こったように書いたつもりではありましたが、夜の雨さんの仰るような読み方もできると思います。炎天下により脳内が沸騰するというご解釈もその通りで、それゆえ「私」自身の意識の無理矢理なねじ曲げというものがありえたのだと思います。

2017-08-08 00:40

180.235.43.31

きさと

偏差値55さん、ありがとうございます。

ご指摘の一文はある意味この作の小さなピークではありますが、作者としては一番嫌いな文です(何で書いたのかわからない)。

2017-08-08 00:43

180.235.43.31

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です(テクニカルサポート)。

:
:
:
3,000字以内