作家でごはん!鍛練場

『夢、墜つ』

松居深鈴著

昔から本を読むことが好きで(児童文学と大衆文学を特に多く読んでいた)、いつか自分でも物語を作って見たいと思い、初めて執筆したものです。郷愁、懐かしさ、ノスタルジーな雰囲気を意識しました。
稚拙な文章だとは自分でも分かっているのですが、この先物語を書き続けたいという思いが強いです。厳しいものでもいいので、ご感想やご意見を頂きたいと思ってきます。学生ですので、まだまだ知識や語彙力が足りないことも承知して臨んでいます。未熟ではありますがよろしくお願いします。

 私は祖母と、とある家具屋に来ていた。ここには毎月第二日曜日に、車で小一時間かけ通っている。家具といってもアンティークもの、誰かのおさがりである。電車のつり革をつかむことが不快に感じる程度に神経質な私は、古家具があまり好きではない。他人のものであったからという他にも、据えたような、またなぜか懐かしいようなにおいに満ちていて、使い古しのくせに好かれる家具たちに、ある種の妬ましさのようなものまで感じていた。
とはいえ、この場所にも好ましい部分はある。年老いてはいるが白髪が上品で、物腰の柔らかなマスター(この店の店主のことで、常連客からはこう呼ばれているらしい)。また、林の中にぽつんと建つ和洋折衷の一軒家になっている店構え、その立地のおかげで、都会の喧騒から離れた静かな空間となっていること。
マスターはただの付き添いの私にさえ、とても親切にしてくれた。毎回違う国や地域の珈琲を淹れてくれ、私は縁側に面した来客用のふかふかしたソファに腰かけてそれを飲む。そしてときどきは首だけで後ろを振り返り、祖母が熱心に家具を見て周るのをぼんやりと眺める。私がここにいるときの、いつもの過ごし方だ。
私は祖母が商品を買うところを、通い始めてから三年の中で二度しか見たことがない。それもソファのような大きな家具ではなく、二度とも玄関やトイレに飾る用の、小さくかわいらしい陶器の置物だった。毎回の珈琲のことを考えると、間違いなく赤字である。店にとって私たちは厄介な客この上ないはずだが、マスターはいつも、そんな私たちのことをにこやかに歓迎してくれるものだった。
祖母は何か家具を買う以外の、ほかの目的があってここに来ているのだろう。それがここの雰囲気にせよ、マスターにせよ、珈琲にせよ、祖母の曲がった背中から感じる喜びは、私にまで幸せを運んでくれるのであった。それだから私は、たまの休みだと腰が重い他の家族に代わって、この役目を快く引き受けるのである。
そうしてソファでまどろんでいると、私はなんとなしに昔の記憶の中に誘い込まれた。なぜその記憶だったのかは知る由もない。それは私の中で、そよ風にふわりと揺れるたんぽぽのような、ちいさな初恋の記憶であった。


良く晴れた、蒸し暑い夏の日である。私は自宅から徒歩十分圏内の、人であふれ返っているデパートにいた。周りの人間が気にも留めないことは分かるのだが、家族で買い物に来るのが恥ずかしい歳になってきた私は、ふてくされたような顔をして少し離れて歩いていた。
日曜のこの場所には、様々な色の感情が混在している。子どもたちのはしゃぐ鮮やかな橙色、親たちは穏やかな藤色と、疲れているような藍色が半々。若い恋人たちは往々にして淡い桃色に見えていた。私のような半端な歳の子どもは何色に見えるのだろう。
そんなことを考えつつぼんやりしていると、つい今しがたまで前方に見えていた母親たちの姿がないことに気がついた。一瞬でも目を離すとすぐこれだ。日曜日の買い物客の足は私には速すぎる。じきに買い物を終えるだろうと踏んだ私は、デパートの裏手にポツンと置いてあるベンチに腰掛けて時間をつぶすことにした。遠くで車のエンジン音や人の話し声がする以外は、自然の作り出す蝉や風の音色が聞こえるだけのとても静かな場所だった。周りは住宅に囲まれていて人通りもほとんどない。
私には、デパートに来て疲れた時にはいつも、このベンチで一時の静けさを楽しむ、という小学生にしては妙な習性があった。そのことを家族は知っていたから、私がいなくなったときの買い物の最後には母親がここを覗きに来ることを、私も分かっていた。それだから私は、ここを安息の地とすることが出来ていたのだった。
と、私の郷愁に動きがあった。
「君、一人?」
声の主は、本来あるべきはずの頭頂部の毛が見事に禿げ上がってしまっている、ひげ面の中年の男だった。体の方は黒いTシャツに、白のハーフパンツの上にはでっぷりとした腹が乗っている、といういでたちであった。見たところどこにでもいる休日のサラリーマンのようであったが、なんとなくこの男には違和感のようなものを感じた。ということで私は「返事をしない」を選択した。
「お母さんとはぐれちゃったの?」
だんまりを決め込む私に、男はなおも猫撫で声で話しかけてくる。
「おじさん、君のお母さんがどこにいるか知ってるよ。一緒に行こう。ね?」
この文句の誘拐事件が多いことは、特別授業で学校に来た警察官の人が話していたから知っている。子供をさらった後は、お金を要求してくるということも。うちにそんなお金を出す余裕があるとは思えないし、こんなところで気色の悪い男に捕まるのももちろん嫌だった。私はベンチから腰を上げ、五十メートルほど離れたデパートの出入り口まで逃げるイメージをした。
男の手が私に迫る。私はそれをかいくぐり、男の不潔なわきの下をくぐり抜け、素早く走り出す。逃走は見事成功。男は逮捕され、家族は警察に囲まれた私の元へ、安堵の泣き笑いを浮かべて駆け寄ってくる。完璧だ。
 が、幼き私は、自身の腕がつかまれる瞬間を見る間もなく、悪しき男の手により簡単に捕らえられてしまった。これは予想外だ。
私は男に掴まれた右手を解放する方法について、必死で頭を巡らせつつ、体を突っ張らせて少しでも引きずられまいと孤軍奮闘していた。多少の時間稼ぎは出来たものの、男のものであろうと思われる黒いワゴン車までの距離はじわりじわりと縮んでいく。あの車に乗せられてしまったら終わりだ。と、私の本能が叫んでいた。
「…っ!」
ふいに男に掴まれた右手越しに、何か硬いものにぶつかったかのような鈍い衝撃が、音にならない不思議な声、そしてドンッという鈍い音と一緒になって伝わってきた。そして同時に、右手は解放され、私は晴れて自由の身となった。男を見ると、その場で急所を抑えてうずくまりながらうめき声をあげている。背後には男に一撃を食らわしたと思われる人物が、恐怖とともに、どこか誇らしげという、なんとも名状しがたい表情で立ちすくんでいた。
「早く!!走って!!!」
男に掴まれていたのとは逆の手をひかれ、私されるがままに駆け抜けた。
右、左、左、そして右。どうやら男が追ってこないようデタラメに角を曲がっているようだ。私はこんな状況であるにも関わらず、自分がまるで夏の風になり世界を駆け抜けているという疾走感に、心ときめかせずにはいられなかった。

まもなく私たちは息を切らし停止した。そこは、デパートに来る時に自転車を止めている、いつもの駐輪場だった。私の隣には、私とほぼ変わらない歳であろう子どもがいた。身長はやや私の方が高いが、目鼻立ちがはっきりして整った顔立ちのせいで、いくらか大人びて見える。服装はTシャツにジーンズというごく普通の格好だが、汚れやシワのない洋服から、きちんとした環境で育てられているということが垣間見られた。
しばらく息を整えるためにその場に立ち止まっていたが、ふと私の手が握られたままだという事実を思い出した。繋いだ手は汗ばんでいて、それが妙にリアルに感じられ照れ臭くなった私は、ぱっ、と手を離してしまった。私は今まで運動会のフォークダンス以外で、異性と手を繋いだことがなかったのだから。
「君…危なかったよ?なんで大声を出したり暴れたりしなかったの?」
半ば呆れ、半ば不思議そうな様子で私に聞く救世主は、まだ肩で息をしていた。もちろん普段は本ばかり読んでいて、運動など体育の授業でしかしない私ほど荒い息ではなかったが。
「助けてくれてありがとう」
簡単な感謝の言葉のみで、私は質問には答えず、踵を返しデパート内へ向かおうとした。救世主とはいえ、これ以上見ず知らずの人と関わることに面倒に感じた。それに、そろそろ母親たちの買い物も終わる頃だ。
「待って!!今うちのおばあちゃんが買い物してて一人でヒマなんだ。良かったら少し話さない?」
救世主がなぜ自身の危険を冒してまで私を助け、話し相手に選んだのかは分からない。そして今しがたまで億劫に感じていたにも関わらず、私が頷いてしまった理由もまた、分からない。しかし、救世主が私を呼び止めた際に初めてみせたその目は、薄く透き通った鳶色だった。私が分かっていたのはそれだけだ。
それから私たちは、駐輪場の一角で色々なことを話した。と言っても私は聞き役に徹し、話にへぇとかうんとか、適当な相槌を打っていたことがほとんどだった。救世主の話は、昨日見たテレビのこと、家で飼っている猫の“まる”のこと、好きな天気のことなど、ありきたりで、だけど同じ年のほどの私たちが打ち解けるのには、申し分のない話題ばかりだった。不思議なことに、話の中には救世主とおばあちゃん以外の家族や友達などは登場しなかった。それにも関わらず、話は全て明るい色で満ちていて、別の話題に移る度にその色は絶えず変化した。私もそれにつられ、私たちは二人、鮮やかで様々な色に心を染めていた。
「あ、おばあちゃん!」
救世主の目線の先には、腰が大きく湾曲し、元の身長の三分の二程になってしまったと思われる、こじんまりした老女がいた。顔は長い年月をかけて刻まれたシワでいっぱいだったが、目尻の笑い皺がその微笑みに華を添え、にじみ出る柔らかい桜色の雰囲気は、全ての人を包み込むようなものであった。
おばあちゃんは両手に、何日かぶんと思われる量の食品が入ったビニール袋を下げていた。
「持つよ!」
「持ちます」
私は救世主とほぼ同時に、おばあちゃんの手からビニール袋を取った。普段なら頼まれたときに嫌々やるだけの行動を私は無意識でしていた。おばあちゃんは優しい笑顔で私たちの顔を見比べていた。

それから私は、救世主とおばあちゃんと共に、二人の家までの道を歩き出した。自分がここに家族と来ていたことが頭をよぎったが、それはほんの一瞬のうちに私の意識の中から消えていった。
 ゆったりした長い坂道を、薄い雲間から差す夕日が茜色に染めている。まるで夢の中にいるように、私たちの周りの時だけが、緩やかに流れているかのようだった。言葉は無くとも、きっと私たちは三人とも同じ種類の気持ちを持っていたはずで、私はこの坂道の終わりが来ないようにと、強く願うのであった。
 私の願いが何かに届いたのか、坂道はいつまでもその頂を見せようとする気配はなく、むしろだんだんと勾配が増しているかのように感じられた。初めは坂道とも思えないような、なだらかだった道が、今や身体中から汗を流し、一歩一歩踏みしめるようにして歩かなければ進めない角度にまでなっていた。これはとても不思議なことなのだが、救世主はまだしも、おばあちゃんまでもが、こともなげに、先ほどと全く変わらない様子で歩みを進めていた。私は並んで歩くことが難しくなり、徐々に遅れを取っていく。二人との距離と坂道の角度はじわりじわりと大きくなる。
 私はついに歩くことが出来なくなり、足を止めてから前方のビニール袋を持つ背中に向かって叫んだ。
「また、会ってくれるよね?」
 私が自分から救世主に向けて話しかけたのは初めてだった。もちろん、イエスの答えと笑顔が返ってくると予想しての言葉である。
 振り返った顔は思いがけず、悲しみの色で満ちていた。眉間にはしわが寄り、口はへの字に、そして何より、夕暮れの下で見るとより一層美しい二つの瞳がそれを物語っていた。
 彼が口を開きかけた刹那、私は角度に耐え切れなくなったのか、坂道を真っ逆さまに、正確には頭から空へと落ちていった。手からビニール袋は離れ、どこへ行くかわからないままに。
 二つの背中はみるみる遠ざかっていった。まるで私など存在していなかったかのように、歩みを続けている。私はもう二度と、二人が振り返ることはないと、なぜだが分かった。
 先ほどまで豆粒ほどの大きさに見えていた姿は、もう見えない。ここで初めて、空へ落ちることへの恐怖を感じた私は、そっと目を閉じた。音は何も聞こえない。
私の体は黄昏に染まる空に向け、ゆっくりと落ちていく。
落ちて、落ちて、墜ちて―

 目を開けると私は家具屋のソファに体を預けていた。
 
私のささやかな初恋の思い出は、不思議な夢のおかげでおとぎ話になり、はっきりとしたことは分からなくなってしまった。でもいつか、私の、まだ四足で歩けぬ子に伝えよう。私はそう決意した。ただの夢だと、笑われてもいい。証はいつでもここにある。
鳶色の目をした、愛しい我が子に。

夢、墜つ ©松居深鈴

執筆の狙い

昔から本を読むことが好きで(児童文学と大衆文学を特に多く読んでいた)、いつか自分でも物語を作って見たいと思い、初めて執筆したものです。郷愁、懐かしさ、ノスタルジーな雰囲気を意識しました。
稚拙な文章だとは自分でも分かっているのですが、この先物語を書き続けたいという思いが強いです。厳しいものでもいいので、ご感想やご意見を頂きたいと思ってきます。学生ですので、まだまだ知識や語彙力が足りないことも承知して臨んでいます。未熟ではありますがよろしくお願いします。

松居深鈴

110.132.116.135

感想と意見

松居深鈴

申し訳ありません、パソコンとスマートフォンの文章形式が違ったようで、段落のはじめのひとマスが空いているところと空いていないところがありました。
読みにくいのですが、興味がございましたらよろしくお願いします。

2017-05-20 00:51

110.132.116.135

五月雨をあつめて早し最上川

タイトルからして、嫌な予感はしていたんですけども、「夢オチ」な話の、ややこしい変形??

ラスト、意味が分からなかった。
話の筋があるようでいて、何かもう唐突かつ取って付けで……ひたすら釈然としない。


始めの方の、珈琲サービスなレトロ家具屋で、ばあちゃんが置物購入すたエピは、全然全く機能してない、捨てエピなの??

幼少期の記憶再現場面で、助けてくれた少年に「救世主」とか、その年代の子供には似つかわしくない表現。

で、少年と祖母はエイリアン?? 
祖母と家具屋に来ていて、ソファで居眠っていた「私」は、19〜22歳ぐらいの設定なのか? と思ってたら、ラストで唐突に「経産婦」になってて、乳児同伴だったみたいだし。

なにもかもが吃驚で奇異。どう繋がって、何の伏線がいかに機能していたのか……サッパリだわ。



語彙とかそんなのは、さしあたってはどうでもいい。書いているうちに「ついてくる」ものだから。
それよりまず、「普通に起承転結のある、シンプルで分かりやすい話」を1本しっかり書き切ってみて??
「読者がついて来れるように」。

2017-05-20 01:38

219.100.84.126

五月雨をあつめて早し最上川

あ、あと、筆名の読みが・・

面白いセンで「まつい みりん」さん、なのかな?? それとも、普通なセンで「みれい」さん??


(私自身が、投稿用の筆名、漢字表記は平易なんだけど、普通はまず絶対読めない珍名さんなので……投稿時にはフリガナ必須)

2017-05-20 01:44

219.100.84.126

松居深鈴

五月雨をあつめて早し最上川様、感想ありがとうございます。

元々作家志望ではないため、読者にむけてという意識がないということに気づかされました。

名前のほうはミレイの読みです。そのようなところまで教えて頂いてありがとうございます。

作品の内容については、至らないところが多すぎて補足しきれないので書きませんが、次はご指摘の通り、もっと分かりやすくお話を書きたいと思います。
その際には是非また、ご感想をいただけたら嬉しいです。

貴重なご意見を頂きありがとうございます。

2017-05-20 08:22

110.132.116.135

童子繭

どうなんでしょう これだけひゃ ちんぷんかんぷんですかね なんでいきなり悲しみにゆがんでフェードアウトしていくんですか?
不通に仲良くなっていけばいいのに

夢おちですかね? まあ でも書いてけばだんだんこなれていくんではないでしょうか。。

がんばってください

2017-05-20 17:56

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