作家でごはん!鍛練場

『小舟』

ぴゃ著

受験勉強の息抜きに書きました。初めての投稿で勝手がよく分かっていないので何かおかしい所があれば教えて頂けたら幸いです。

プラスチック製のコップに水を注ぎながら、僕は向かいの壁に掛かったオレンジ色のカーテンを見つめていた(電球色の照明に照らされたそれは、どこか実家の窓から見る夕焼けに似ているようで僕はこれをとても気に入っていた)。金曜日の夜。マンションの外で誰かが何か話しているのが聞こえる。夕飯は食べていなかったが、食欲もなく、また外に出て蟻のように群がる人の波に飲まれるのも億劫だった。ここに来てからはずっとそうだ、と僕は思った。大学と自室と図書館とをひとり行き来する日々から抜け出したいと心の底では思っていながらも、それ以外のことをしようという気持ちは到底起きない。遠く離れた母と妹のことを思い返すたびに、自分の部屋がどんどん狭くなっていくように感じた。そんなふうにもやもやとした考えを巡らせているうちに、コップに注がれた水はいつのまにか溢れ出して灰色のテーブルに小さな水溜りを作っていた。僕はそれを数枚のテッシュで拭き取るとごみ箱に放り投げた。放物線を描いたそれはゴミ箱の縁にぶつかり埃をかぶった床にへばりついたが、僕は蹙めた顔でそれを無視して部屋の電気を消した。
まだ開けていないダンボールに囲まれているしわしわの布団に、汗の臭いがするシャツを着たままの体を押し込みながら目を瞑った。僕の体を押し返すぐにぐにとした壁の中、浮き雲のような倦怠感が全身を包んでいるようで煩わしかった。僕は今どこにいるのだろう…

********

僕は舟を漕いでいた。ここがどこであるのかは分からないが、周囲の見える範囲に陸地はなかった。黒いカーテンのような夜空にぽつんと光る月の光が、水面で曲線状の模様を揺らしていた。手にしっかりと掴まれた櫂は僕が動かしているというよりも櫂そのものが勝手に舟を漕いでいるようであった。自分が突然見ず知らずの湖の上で舟を漕いでいることに関して言えば、惰性に埋もれた日々を過ごしている僕にとってあまりに突飛な出来事であったが、不思議と居心地の悪さは感じていなかった。どこに向かうのかも分からない舟の上で、僕は静かに水がぴちゃぴちゃと音を立てるのを聞いていた。何も無いこの空間に自分が溶け込んでいくようであった。舟は公園にあるような小さなもので、僕が座るだけでも十分なほどの狭さだった。舟はたまに向きを変え、不規則な方角へと流浪していたが、同じ場所へ戻ろうとすることは無かった。僕にはそれがとても心地良かった。このまま黙ってこの舟に揺られていれば、何もかも静止したままのこの場所で、ずっとこのまますべてを塞いでいられるのかもしれないな、と僕はなんとなく思った。
水は驚くほどに澄んでいた。僕は舟から身を乗り出すと、水の底を覗き込んだ。水深は存外浅かった。目を凝らすと、底の方で木々や家々が揺らめいているのがうっすらと見て取れた。僕はその景色に見覚えがあった。

○○○○○○○○

僕の家は母親と今年中学三年生になる妹、そして僕の三人で暮らしていた。母親はいつも僕に対して口うるさく言ってきたが、僕が珍しく定期試験で良い点を取ることができた時等は優しく褒めてくれた。僕は母親が笑うときにできる皺が好きだった。妹は普段僕の事を気にも留めていないようであったが、僕が東京の大学を受験すると聞いた時には「寂しくなるね」と一言零したのに、僕は苦笑いで返したことを覚えている。
荷造りを終えた日、母親は何度も僕に「ちゃんと連絡しなさいよ」と繰り返した。僕は曖昧に笑って返事をした。東京へ向かう電車の中で、窓を覗き込んで少しづつビルが増えて行くのと、自分の顔がそこに映っているのを交互に眺めていた。

○○○○○○○○

舟に掴まりながら、僕は自分の心がやわらかく溶けていくのを感じた。そのまま暗い水の中へ飛び込んでいきたいくらいだった。水に沈む故郷を見つめて、それから僕は、水面に映る自分の姿に少し困惑した。

○○○○○○○○

何も嫌な事など言われなかった。嫌な事などされなかった。それなのに、僕は水槽に一滴黒い絵の具を垂らしたように、不快な気持ちが心の中に広がっていくのをどこかで感じていた。地に足がつかないような不安が常に僕に纏わりついていた。数える程しかいない友達も、僕自身のことを何処まで理解してくれているのか不安になることがあった。このまま自分がここにいることに対する理由のない焦燥感、訳のない緊迫感からずっと僕は逃げ出したかった。この土地の何処にも自分がいないような気がして嫌だった。この地を離れる理由は無かったが、それでも僕はここにずっと居るつもりもなかった。僕はこの頃、よく一人「何処かに行きたい」と言っていた。

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僕は気がつくとコップの中の水を飲み干していた。時刻はよく分からなかったが、外から何の音も聞こえないことから、深夜を回っていることは理解できた。明滅する記憶の前後関係など気にも留めず、ただ自分が今見ていたものに、そして、自分の身にこれから何が起こるのかということに対する明瞭な恐怖を感じた。それからふと手を止めて、コップに水を注ぎ入れ、僕はそれをそのままにして部屋の電気を消した。

小舟 ©ぴゃ

執筆の狙い

受験勉強の息抜きに書きました。初めての投稿で勝手がよく分かっていないので何かおかしい所があれば教えて頂けたら幸いです。

ぴゃ

111.100.97.164

感想と意見

弥言

拝読しました。

一人暮らしを始めて間もない大学生の話ですね。受験勉強の息抜きということは、大学進学目指している高校生の方かな・・

作品全体にどうもすっきりしない陰鬱な雰囲気が漂っていて、そしてそれは、作者が表現したい気持ちなのだと思うのでその点上手くいっていると思います。
文章も書けていると思いました。
もし作者が、私が思っているような大学受験前の高校生なのだとしたら、経験したこともないはずのことを、よく想像して書いているなと思います。
(別に何歳ですとか答える必要はないです)


気になるのは後半、特に最後の段落ですかね。この段落が、正直意味がわからなかったのです。きっと次のどれかだとは思いますが、どれなのかよくわからない。

[1]一人称語りの主人公は夢と現実の合間にいるから、わけわからなくなって当然、敢えてそうしている
[2]実は筆者自身、最後どうまとめあげるか?整理できないまま手探りな感じで書いてしまっている
[3]書きたい思いや世界観は明確に決まっているが、うまく言葉で表現しきれていない
[4]単純に私の読解力が足りていない

「気付くと水を飲み干していた」というのは、飲みながら寝てたってことですかね?夢の中で魔王を殴ったら、実は授業中に寝落ちしてて、目の前の先生を殴っていた。なんてのは使い古されたシーンですが。本作では夢の中で水を飲んでいるようなシーンは無いですよね、完全オートで体が動いてる?
最初のシーンが夕焼けで、このシーンが深夜となると、結構長い時間寝ていたということで、一度布団に入るシーンがあるので、寝ている間にふらふら起き上がり水を飲み終わったところで目覚めた?

「自分の身にこれから何が起こるのかということに対する明瞭な恐怖を感じた」が、ちょっと何に恐怖しているのかがわからなかったです。この文に出会うまでは、一人暮らしを始めた大学生が、刺激もなくもんもんとした日々を送り、懐かしい故郷に想いを馳せる。その思いが夢になって、でてきたのだと思っていたのですが。これ、実家が洪水に襲われる予知夢とかそういうことなのかな。。それとも言葉が少し違っていて「これからの日々に対する漠然とした恐怖」とかなのですかね?何が起こるかに恐怖するというより、何も起こらず今の悶々とした日々が続くことに恐怖するような?

「それからふと手を止めて」が、今まで何をしていた手を止めたのかちょっとわからなかったです。

「コップに水を注ぎ入れ、僕はそれをそのままにして部屋の電気を消した」が、すんません。なぜそうしたのかわからない。これ、読者はみんなわかってるのかな・・・わからないの私だけ? 最初に戻ってエンドレスループするっていう言う意味ですかね。

何かそれまでは結構わかったんですが、この最後の段落が???となったんですよね。独特の世界観があることはわかったので、頑張ってもらいたい気持ちはあるのですが、受験生と言うことで勉強を頑張ってもらいたいと思います。

2017-05-20 13:01

124.84.83.158

ぴゃ

弥言さん、感想ありがとうございます。

まず、「コップに水を注いだ」の部分ですが、コップそのものが主人公の心を表していて、水面に映る故郷を見る場面では自分の居場所を見出すことのできない「僕」が、水に沈む心の底(コップの底)にある故郷を見て思いを馳せているということを表したかったんです(めちゃくちゃなこと書いているようで申し訳ありません)
文中の小舟の動きは自分の居場所を求めて彷徨っておりもとの場所に戻ることは決してない「僕」によるもので、結果として何も考えることなく動き回りながら思考停止している状況にあります。(「僕にはそれがとても心地良かった」とあるのはそのためです)
初めは故郷の姿を想起し郷愁の念に駆られる「僕」でしたが、「何も嫌な事など言われなかった〜」の部分から、本当は自分は故郷にいても自分の居場所を見つけられていなかったことを思い返し、自分は結局何処に居たとしても「自分の場所はここじゃない」「何処かに行きたい」という切迫感を受けながら一生生きていかなければいかないということを自覚し、「自分の身にこれから何が起こるのかということに対する明瞭な恐怖を感じた」。最後の場面で、コップに水を注ぐことで、「このまま黙ってこの舟に揺られていれば、何もかも静止したままのこの場所で、ずっとこのまますべてを塞いでいられるのかもしれないな、と僕はなんとなく思った。」とあるように何もかも塞ぎ込んでしまいたいという思いから水を注いで終了という感じです。

「気付くと水を飲み干していた」の部分に関しては「僕」が錯乱している状況を表現したくて、「明滅する記憶の前後関係など気にも留めず」の部分で主人公も対して気にしてないから読者の人も気にしなくていいですよ〜みたいな感じを出したかったんですけどこれが文章を分かりづらくさせてしまったみたいですね、申し訳ないです…

比喩的に表現したかったことを曖昧に書くことで読んでる人がしっかり読み込んで色々な解釈をしてくれたらいいな〜という感じで書いていたのですが、単純に分かりづらくなってしまったでしょうか…
勉強頑張ります。読んでいただきありがとうございました。

2017-05-20 14:10

106.171.5.14

弥言

わかりました。説明ありがとうございました。
(返信いらないです)

2017-05-20 15:04

124.84.83.158

童子繭

しっとりとした文ですね 大正の白樺派か。。。。暗夜行路とか しぶい文だけどね エンタメじゃあないんだね 残念 受験がんばってください

2017-05-20 21:32

27.120.134.1

ぴゃ

童子繭さん
ありがとうございます!頑張ります!

2017-05-20 23:19

111.100.97.164

蠟燭

初めまして、恐れながらコメントします。
僕は鍛錬中なので、難しいことは言えませんが、
場面転換の区切り
◯と*の記号の使い方と、使い分けが興味深かったです。
では、失礼しました。

2017-05-22 00:35

153.175.221.76

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