作家でごはん!鍛練場

『恋の始まり、恋の終わり。』

直哉著

恋を知らない少女が、恋を知ったことで陥る苦悩を、淡々と表現しようと考えました。

 あたしを産んだとき、母には男が二人いた。
 一人め、あたしに遺伝子を残した男。
 二人め、あたしを知って逃げだした男。
 結局、母とあたしは二人きりで過ごした。
 母は頭の悪い女だった。努力という言葉が大好きで、要領の悪さを顧みたりしない。朝から晩まで掛け持ちした仕事で、いつも疲れ果てて笑顔がない。そんな女だった。
 三人めの男が現れた。あたしが小学四年生になってすぐのことだった。母の働いているコンビニの、オーナーだった。とっくに禁止されていた廃棄品の持ち帰りを、許してくれた。それだけのことで母はほだされてしまったらしい。男はあたしの住むアパートに、頻繁に来るようになった。
 あたしは男のことが嫌いだった。お小遣いをくれたし、食べたこともない綺麗なケーキや、コンビニには売っていない肉なんか持ってきてくれたけど、あたしは男が大嫌いだった。初めて会った時から、男があたしだけを見ていることに気づいていたからだった。
 母は全く気づいていなかった。入浴中、リビングに残されたあたしが、男から愛撫されていたこと。舐め取るように、唇にキスをされたこと。下着の中に何度も何度も手を入れられたこと。母は気づいてくれなかった。
 あたしは黙って耐えることにした。この男に依存することで、あたしたち親子の生活が維持できていることが分かっていたから。男は母がいない時間にも来るようになっていった。むしろ母の留守をめがけて訪れてきた。
 あたしは無抵抗になっていった。嫌がるほど男はあたしを征服しようと、顔色を変えて迫ってくることを知ったから。あたしは黙って、男に抱かれた。激痛を知ったのは、男が母と初めて家に来てから、二ヶ月後のことだった。
 ある日、母と二人でいたとき、母から告げられた。あの人と結婚しようと思っていると。私は初めて、母に抵抗した。今まで母子家庭で心配させたくなくて、迷惑をかけたくなくて、感情を押し殺してきた。その私が、急に泣き叫んだことに、母は本当に驚いていたみたいだった。あたしは構わず、家を飛び出した。
 夜になっていた。友達もいないあたしは公園で警官に保護され、母を呼ばれた。迎えにきた母は泣きながらあたしを抱きしめた。交番の男の人たちは、母の結婚の話を聞かされ、あたしの家出の理由を分かったような顔をしていた。母に抱きしめられたあたしを、微笑みながら見ていた警官たち。あたしは全てぶちまけて楽になりたいと、その時はじめて思った。けれどあたしは、ただ黙って、母の胸に顔をうずめた。演じ切ろう。そう思った。

 母にとって、初めての結婚だった。妊娠中に二人の男に逃げられた母は、やっと掴んだ幸せに溺れているようだった。あたしはそれからも、父親になった男に抱かれ続けた。
 中学に上がったころ、数少なかった友達はついにいなくなった。周りがひどく幼く見え、あたしの態度は逆に周囲から敬遠された。授業中だけが、あたしの安息の時間だった。休み時間が来るたびに、あたしは空気が擦り切れるようなクラスメイトたちの悪口を背中に浴びていた。夏ごろになると、あたしは図書館に逃げ場を求めた。図書館は静かだった。悪口が充満している教室には戻りたくない、いつもそう思っていた。
 父からの性的虐待は、小学校の頃に比べエスカレートしていった。あたしは精液だけでなく、尿を飲まされ、性器には異物を挿入されることが多くなっていった。母は結婚後しばらくして、父があたしにしていることに気づいたらしかった。一度だけ母に言われたことがある。今の生活、これからの生活のことを考えて生きなさい、と。あたしは抱かれ続けるしかなかった。それでもやはり、プラスチック製の硬く無機質な異物を体に受け入れることは、激しく辛かった。
 いつしかあたしは、父に媚びるようになっていった。母の目を盗んでは、しなだれかかったり、自らキスを求めたりした。父は最初は喜んだが、二人きりになったときは、却って下劣な行為に傾倒していった。あたしは異物を肛門に挿入されながら、動画で撮影された。撮影されながら、父のものを欲するような台詞を言わされた。そして硬くなった父のものを咥え、唾液まみれにしたそれを自らまたがり膣に迎え入れた。あたしが淫らに演じるほど、父のくぼんだどす黒い目には、ぎらつく光が射していった。
 中学二年の春、あたしは妊娠した。
 父にだけそれを告げ、中絶手術を受けた。
 あたしは自分で思っていた以上の喪失感を覚えた。自分の意思と反する行為を、ただ受け入れたことで、あたしに宿った生命が消えた。そのことは、思考停止していたあたしにきっかけを与えた。
 あたしは父の性行為を拒絶するようになった。父は最初、戸惑い、やがて優しくなり、そして殴った。あたしは身体じゅうにあざを作りながらも耐えた。体育の着替えのときが一番困った。教室の隅で、普段よりさらにクラスメイトを遠ざけるようにして、あたしは着替えた。やがて父の暴力は日常のものとなり、顔へも容赦なく拳を浴びた。そうして初めて、あたしは学校で虐待の疑いをかけられるようになったのだった。
 学校による聞き取り調査が行われ、父母は口裏を合わせたように平穏を装った。だがあたしの様子を、外部調査機関の女性が初めて見たとき、すぐに異変に気づかれてしまったようだった。あたしは即日、父母から引き離されて、保護施設に入ることになった。
 あたしは学校でも、保護施設でも孤立していた。保護施設で友達なんて絶対作りたくない、そう思っていた。馴れ合いに感じていたからだった。話しかけてくれる子はいたけれど、あたしは冷たくあしらった。そうやって自分で居場所をなくし、学校では図書館にこもり、放課後は自転車で市立図書館に通うようになっていた。できるだけ遅く帰るためだった。
 その市立図書館で、あたしは男の人に声をかけられた。そこで働く司書の男性だった。よく来るね、本が好きなの?そんな他愛ない言葉だったが、あたしは拒絶するのも忘れ、頷いていた。その人は眼鏡の奥の細い目で優しく笑ってくれた。おそらく十歳以上も上の彼の笑顔が忘れられなくて、あたしはその人の姿を見るために市立図書館に通うようになった。

 あたしは毎日門限破りをするようになっていった。施設長に怒られても、あたしは構わなかった。市立図書館が閉館する時間までずっと、あたしはそこにいたかった。彼と目が合うだけで嬉しかったし、時折そばに来ては声をかけてくれる彼に、あたしは心から安らぎを感じていた。
 その気持ちが恋だと気づいた頃、施設長が閉館前の市立図書館にやってきた。日々のあたしの行動を監視していたらしかった。無理やり連れ戻され、あたしは放課後の外出禁止を言い渡された。
 翌日あたしは午前中の授業が終わり、昼休みになった途端、中学を飛び出した。自転車で、市立図書館に向かった。平日の昼間に突然荒い息で現れたあたしに、彼はとても驚いていた。
 あたしは生まれて初めて、好きという気持ちを言葉にした。あなたのことが好きです。言葉にしてから、ぞっとした。小学生の頃の記憶がよみがえってきた。父から性的虐待を受け続けていた頃のおぞましい記憶。あたしは父に抱かれながら、父の陰茎を舐めながら、その「好き」という言葉を何度も言わされていた。忘れていた記憶が身体じゅうを渦巻くように駆け巡る。あたしは自分が汚れきっていることを、思い出した。
 彼は戸惑いながらも、ありがとうと答えてくれた。そして、胸ポケットから名刺を取り出すと、あたしに差し出した。頭が真っ白になっていたあたしに手渡した彼は、もう一度あたしの手から名刺を取りあげ、ボールペンで書き込んだ。再び手にしたその名刺には、彼の携帯電話の番号が記されていた。あたしはお辞儀して、駐輪場に向かった。
 自転車にまたがり、彼の顔を思い浮かべた。驚きと嬉しさが混ざり合ったような、彼の笑顔。その理由は、無垢で一途な中学生からの告白。あたしには分かっていた。彼があたしに投影している中学生の姿は、あたしの中にないことを。それを演じることなど絶対にできないこともあたしには分かっていた。
 中学に戻る道をあたしは自転車で進む。彼に会いに向かっていたときに、ぐんぐん進んだものと同じ乗り物とは思えないほど重いペダル。国道に出たあたしは、自転車を捨て、歩道橋にふらふらと登っていった。
 人を好きになって初めて気がついた。あたしはあたしが大嫌いだ。その汚れた自分を彼には絶対知られたくない。あたしはあたしを守るため、歩道橋の真ん中から躊躇なく飛び降りた。午後一時半、激しく行き交う自動車が、あたしを迎えてくれた。あたしの恋は、そうやって終わった。

恋の始まり、恋の終わり。 ©直哉

執筆の狙い

恋を知らない少女が、恋を知ったことで陥る苦悩を、淡々と表現しようと考えました。

直哉

110.233.104.49

感想と意見

五月雨をあつめて早し最上川

ただただ趣味が悪い。そして「書けてない」。


センセーショナル(だと作者が思っている)キワモノを、とにかく詰め込んで紙幅埋めて、「物語を書いた気になっている」ところが、どうにもイタイですし、
「読者の関心を惹こう」としてるのが見え見えで、白ける。


事柄を羅列して、「リアリティーを出しました」なつもりなのは分かるが、
このネタもう「こういうジャンルの漫画や、小説」で既に書かれていて、読者は読んだ事がある。もっと悲劇的で臨場感あるプロのお仕事で。
ド素人がどんなにがんばっても「それ以上のもの」にはならない。ひたすら陳腐で下世話でB級なだけ。


ならどうすればいいか? と言えば、まず「筆者の下世話な欲」を全廃する。
2段落目「母にとって初めての結婚だった」云々から先をばっさりカットして無駄描写ガンガンに詰める。
余計なものを刈り込んで、「少女の内面、感情の動き」を描き出す。


全体に趣味の悪いだけの陳腐作なんだが、最大の問題は、
この不幸少女に、下世話作者が設定した「恋の相手」。

完全に失敗だよなーって。


この手のハナシを、執筆素人中年男が書くと、まず100%こういうオチに持って行ってしまい・・失敗する。

「少女の不幸を埋め合わせてあげられるだけの、素敵な恋のエピソード」を描く能力がないのが原因なんだが、
世の普通の読者は、その「不幸を埋め合わせる、恋の刹那」をこそ見たいのだ。

2017-05-15 00:19

106.185.185.3

童子繭

勃起しました。。。よく欠けているんじゃないだしょうか でもファザーファッカーとかに内田春菊さんのに似てるね

でも、これからどうなるかでファザーファッカーとの違いをだせれば意義はあるけど 現時点だとファザーファッカーに似たものですね

2017-05-15 07:59

27.120.134.1

クリキントン

文章はテンポ良く読みやすいけど、あまり趣味のいい話ではないですね
私自身同様の感想をいただいた経験があるのですが、一人称小説でラストに主人公が死ぬというのは、構成が破綻していませんか?
この物語の語り部は、いつどうやって話してるのでしょうか?

2017-05-15 12:30

153.217.116.29

直哉

最上川さま

厳しいご指摘ありがとうございます。
衝動的に書いてしまった結果、題材が不快かつ筆力不足によって気持ち悪いものになってしまい反省します。
少女の恋の相手が、少女にとっての本当に恋だったのかどうかは、よくわかりません。
しかし少女が自分自身を見つめ直した結果、あのような選択をせざるを得なかった。
少女の立場で考えた時に、そのような気持ちになりました。

2017-05-15 15:47

126.236.12.190

直哉

童子繭さま

お読みいただきありがとうございます。
その方の作品を読んだことはありませんが、今度読んでみようと思います。

2017-05-15 15:48

126.236.12.190

直哉

クリキントンさま

ありがとうございます。
確かに題材が著しく読者を選ぶ内容で、不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。
カギカッコのセリフを一切排した中で、少女が最後の瞬間まで自分自身を振り返るという描き方をしてみました。

2017-05-15 15:51

126.236.12.190

カジ・りん坊

 これはこれで鋭い目で世の中を切っているとは思いますが、最初の振り『あたしを産んだとき、母には男が二人いた。一人め、あたしに遺伝子を残した男。二人め、あたしを知って逃げだした男。結局、母とあたしは二人きりで過ごした。母は頭の悪い女だった。努力という言葉が大好きで、要領の悪さを顧みたりしない』の部分が生きていない感じでした。このことで『男』という物をどう見ていたのか?とか『母が大好きだった努力』をどう感じていたのか?そこから物語へと転換していかないと、振ってはみたものの風の話の構成で、それがすべてを物語っている作品の出来。みたいな感じでした。

 判り難かったらすいません。

 切り口はいいと思うしトゲも毒もあるとは思うのですが、人物が書けてない感じでした。

2017-05-15 17:53

124.110.104.4

直哉

カジ・りん坊さま

感想ありがとうございます。
確かに母の描写が後の言動との脈絡がなく、描き切れていませんでした。
そこから少女自身の人生観や行動原則に反映されていくように進めるべきでした。
もっと血の通った人物造形を心がけます。

2017-05-15 19:51

110.233.104.49

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