作家でごはん!鍛練場

『ゆみといぬ』

なかがわ著

よろしくお願いします。

 家から会社へ向かう途中、バスを待つ園児達の母親の会話が耳に入る。猪が街に下りてきて畑やゴミ捨て場を荒らしているという話。嫌だとか怖いとか、自警団がとか。日常がどうしたとか非日常がどうしたとか。この人達に非日常が解るものかと思う。
 通り過ぎて赤信号に立ち止まった時、目の前を桜の花びらが落ちていった。
 仰いで、もう四月だとはっきり意識する。四月は忌まわしい。夏と秋と冬だけで回ればいいのに春は必ず来てしまう。突き詰めれば私が生まれた四月も美空[みそら]が生まれた四月も無ければ良かったのかもしれないが、直近かつ分かりやすく呪われた春は、一昨年だった。
 私が美空の妹に成り下がってから、つまり二年がもう経つわけだ。
 二年で慣れるものではとうていない。ついこの間まで私に従順でそうするしかなかった美空が、入れ替わった途端に恥ずかしげもなく姉面をしてあれをしろこれはするなと命令する。しかしもはや妹である私は従わざるを得ない、悔しさ、憎らしさは強くなる一方だ。
 優海[ゆみ]は姉で、美空は妹だということ。自明だと考える余地さえない程に自明だと、考えていたから、覆されたショックは今もまだ折りに触れ私を襲う。
 入れ替わりはきっかり百八十度で確固なものだった。もとに戻る方法は分からず、方法があっても並大抵ではないに違いない。
 それでも私は美空の姉に戻ることを諦めきれず、憎悪を燃料にして日々を過ごしている。

 おはよう。美空姉さんは元気かい
 これ、美空姉さんに渡しといてくれる
 先週のエスニック美味しかったね、美空姉ちゃんもああいうのは好きかな、妊娠中は刺激強いのはだめかな
 元気です、はい預かります、好きですよ食べるんじゃないですか。
 ひとつずつ丁寧に答えていく。求められているものが分かりやすいので簡単な仕事だ。皆が皆、妹の優海との会話ではなく姉の美空について話そうと望んでいるから、それを差し出すだけ。
 数日前に生理が来て頭痛がひどかったため溜まってしまったメールを片付けるほうがよほど頭を使う。特に四日前に着いていたメールはクレームの雰囲気を帯びていて、これは神経を使わなければいけないと憂鬱になる。
 私はいまだに常識的なメールの文章というのが良く分からない。その手の本も何冊か読んだが難しい。
 クレームメールへの返信を書き上げたものの、やはり不安が拭えず、隣に座っている竜二君にチェックしてもらうことにした。竜二君は身を乗り出して私のパソコンを覗き込みながら、小さいけれど聞えよがしな唸り声を出したり首を傾げたりする。そして、これは相手の神経を逆撫でする系だと評価だけを下し自分の仕事に戻ってしまった。
 そう言われても、どこをどう直せばいいのか教えられないことには私はどうすることも出来ない。
 カタカタとキーボードを叩く横顔をしばらく見詰めていたが、このままでは私の存在を思い出すことがなさそうなのでしかたなく、代わりに書いて欲しいとこちらから願い出た。竜二君はカタカタいう横顔のまま転送しといてくれと答えてくれた。

 退社しようと玄関に向かっていると、喫煙室に入っていく竜二君の後ろ姿が見えた。
 件のメールは、しばらく経ってから巧く書かれた文面が送られてきたので私はそれをコピー&ペーストして先方に送信した。その後は竜二君がほとんどデスクを離れていたせいで会話出来ていない。
 何かお礼をしておくべきだ。芸がないと思いながら私は自販機でコーラを買い喫煙室に近づく。ドアが細く開いていて隙間から煙が流れ出している。私は煙草が苦手だ。服に臭いが移るのが嫌だと一瞬思って身を引いた。隙間からは煙だけでなく会話も流れてくる。
「それで書いてやったんだ? なんだかんだいって親切だよな」
「美空の手前ね。つわりだなんだって、ただでさえあんまりやらせてもらってないんだよ。そのうえ変な告げ口されたらまじでありつけなくなる」
「ああ? のろけかよ、うぜえな。だったら妹とやってりゃいい」
「あれはだめ、全然良くない。顔も性格もいまいちでセックスだめ、いいとこなし」
「おまえ鬼か」
「感度最悪だろ。フェラすりゃ歯立てやがるまんこは締りねえ。そのくせなんか必死に腰振るのが余計に気持ち悪くて萎えるんだわ」
「へえ、そういう系なんだ。楽でいいんじゃね」
「ならおまえも一回やってみりゃいいんじゃね」
「遠慮しとくわまじで」
「体位の問題じゃねえんだよ。やっぱり妹はだめなんだよ。美空は姉だけあって上だろうが下だろうがめちゃくちゃ気持ちいいし何度もイッてくれるからこっちもがぜん孕ませてやるぜって気になるし妹とは全然違うんだぜイヒヒヒヒヒと鼠男に似た声で竜二君は笑っていた。
 さすがにその場に乗り込んでコーラを渡すのも気が引けてしまい、私はお礼を言うのを諦めてそのまま会社を後にした。

 皆、姉の美空を褒め讃える。
 美空の高校は偏差値が四十九で、私の高校は五十五だったのに。
 夏休みの絵画の課題で、美空は何も賞をもらわなかったが私は銅賞をもらったことがある。
 校内ボランティアをして貯めるスタンプは、美空が二個で私は八個も集めた。
 無能な美空がこの会社に就職出来たのだって、既に勤務していた私のコネに違いない。
 竜二君に言うとすれば、初潮を迎えたのは美空が十三歳でようやくだったのに私は九歳。そのうえ、高校生の時に美空がいやらしい漫画を見ながら自分の股間に触れていたことなども私は知っている。
 だから私達は、本来通りならバランスが取れていたのだ。それなのに、姉と妹が入れ替わってしまったためにそんな美空が賞賛されるというちぐはぐな状況に陥ってしまった。
 こんなのはおかしい。やはり早く手を打って元に戻らなければならない。

 しかしこれまでの間、ただ手をこまねいていたわけではない。
 入れ替わったその日から、私は思いつく限りの手段を講じてきた。突然ぶつかってみて様子の変化を期待したこともある。服装や化粧を真似たり、後ろについて言動の模写も試してみたが、無駄だった。そもそもこの方向性は私自身も半信半疑だった。入れ替わり前、美空はそのような行為をしていなかったからだ。
 頭を使い、語るに落ちよと巧妙な罠を仕掛けつつの会話も展開したが、美空はこういうことにだけは狡猾らしく尻尾を掴ませない。笑って誤魔化すと思えば逆ギレをしてみせ、いよいよとなると完全に無視をしたりあからさまに避けたりという子供じみた抵抗に出る。
 簡単に思いつくような方法では、とりあえずないらしい。
 なにか隠された秘密があるに違いない、チャンスを見つけては探りを入れていたが美空が嫁いで家を出たため中途半端のまま打ち切らざるを得なかった。憎悪をふつふつと泡立てたまま、ずいぶん長い時間が過ぎた。
 一ヶ月前。美空は出産準備で実家に戻ってきた。実家と新居は歩いて十五分足らずの距離だが、身の回りの荷物をまとめてわざわざ引っ越しに似た真似をした。わがままにも程があると私は思ったが、隠し事を暴くチャンスの再来でもあった。
 美空の外出中に点検した荷物の中に、一冊の本を見つけた。
 書店のカバーが掛けられ見ただけでは何の本か判らない。どうせ漫画だろうと思いながら何の気なしに開いてみると、おまじないの本だった。
 気持ち悪いほど大きい目をきらきらさせた少女のイラストがふんだんにあり、小学生以下向けらしい。項目も、とある男子が好きな女子を知るおまじない、好きな男子と隣の席になれるおまじない、喧嘩した友達と仲直りするおまじない、他愛ないを通り越して下らないものばかり並んでいる。付録についている専用の星型シールを男子の机の隅に貼り付けるとか、黄色の紙に青いペンで友達の名前を書きランドセルの底に入れるとか、確かに小学生の女子がこそこそ遊んでいそうではある。
 最後の項目は『願いごとを叶えるおまじない』となっていた。他の項目に比べて目的があいまいだ。巨大な目の少女がもっともらしく人差し指を立てて「 悪い願いごとはしちゃダメだよ 」というセリフを吹き出しており、吹き出しの横に危険を知らせる標識が描かれている。
 異様なページだった。
 心なしか、開き癖がついているように思えた。

 そのページは自室のスキャナで読み取り保存してある。
 祈祷師である著者が民間信仰を改良したものだとコメントされている。詳細は見開きに渡る文章で紹介されており、子供向けながら改行がないせいで読み難い。しかし繰り返し目を通したおかげでほとんど暗記してしまっている。

どうしても、どうしてもかなえたい願いがあるのに、なかなかかなわない。そんな時にはこのおまじないをしてみて下さいね。これは神様の力をほんとうにたくさん分けていただくおまじないです。あなたの願いがホンモノだったら、きっと神様は力を与えてくれでしょう。やり方は簡単です。101日間、1日も休まず神社にお詣りをするのです。100日と書いてある本もありますが、それでは1日足りないことが最近の研究で分かりました。数えまちがえないでね。(※1日で100回お詣りすればOKなんていう人もいるけどありえません! そんな手抜きは神様がゆるしません!)お詣りにはいくつかの決まりがあります。神社はおうちから見て東か南にあるところに行って下さい。北と西はぜったいにだめです。お寺もだめです。そして大切なのは、清浄と静寂……難しいかな? 簡単に言うと、まずきれいであること。お詣りのまえに歯を磨きお風呂に入って下さい。お風呂が無理だったらシャワーだけでもだいじょうぶ。きれいであることを証明するために、白い服を着ましょう。白い着物を持っている人はそれを着ましょう。靴はとても汚いものですので、神社の鳥居より内側では裸足になりましょう。それからしずかであること。人間や動物がうるさい昼間はだめです。時間は細かく決まっていませんが、太陽が空に出ている時は効果がありません。また、お詣りのあいだは声を出してはいけません。でも、お洋服や時間も大切なことだけど、もっともっと大切なのは『心』の清浄と静寂です。お詣りのさいちゅうはお願いごと以外を考えてはいけません。そういうものを雑念といい、雑念があるとぜったいにだめなのです。頭の中は100%お願いごとだけに集中してね。きれいにすることとしずかにすることをちゃんと守って、101日間神様の前で両手を合わせてお祈りをして下さい。たったこれだけ! でももし途中で失敗したら(他のことを考えてしまったり)効果がリセットされてしまうので、1日目からやり直してください。1回失敗するごとに神様へのお詫びとして1年分の命をささげてなくてはならないので、気をつけて。がんばって、ぜひあなたの願いを叶えてね!

 これだけのルールを遵守して百一日間お詣りをするのは、大人であっても現実的ではない。子供ならなおさらで、実行を前提にしているとは考えられない。白い着物などは到底まじめに受け取れず、著者や編集者のちょっとした遊び心なのだろうとはじめは思った。
 しかし、遊びというには不気味に過ぎる。心臓が疼くようで落ち着かない。藁人形の呪いが脳裏をよぎったせいもあるが、それだけではなかった。他のおまじないはいっそ清々しいまでに子供だましだが、これだけは本物だと信じさせる圧力を、滾っている願いと反応する引力を、どうしても感じてしまう。
 ――いや。真実、そうなのだろう。美空はこれによって私の姉になったに違いない。

 私が今日まで仕返しを実行出来ずにいたのは、腰が引けていたからに他ならない。
 しかしぐずぐずしている時間もない。美空はすでに妊娠六ヶ月を過ぎている。出産によって新たに築かれる親子という関係は、私と美空の姉妹関係に決定的な影響力を持ちはしないだろうか。美空が人の親になってしまったら取り返しがつかなくなりそうな予感がある。
 焦りが日々募るのを自覚していたが、さきほどの喫煙室における竜二君の中傷が背中を押した。
 帰宅すると私はまず手帳の月間ページを開き、升目を数えながら、十日目、二十日目……とマイルストーンを書き込んだ。スマホの羅針盤アプリを起ち上げて方角のあたりをつけ、地図を開いて恰好の神社を探す。
 クローゼットを開けば、白いニットと白いチノパンが目に飛び込んだ。

 ほぼ普段通りの時間に風呂に入り、一旦はパジャマを着た。両親と美空が自室に引き上げてからもしばらくは様子を窺う。三時を回った頃にはすっかり物音が止み、時折父親のいびきが細く響くだけになった。部屋のドアをすり抜けて足音を忍ばせながら玄関に行き、外へ出た。春とはいえ、この時間の空気はまだ冷たい。ニットにウールコートという冬の出で立ちだが、ちょうどいいくらいだ。
 家を出てしまうと気が楽になった。ほとんどスキップに近い足取りで目当ての神社に向かう。神社までの二十分間の道のりで誰ともすれ違わなかった。猪に出くわしたらどうしようと思ったが、そんな漫画じみた出来事はさすがになかった。
 神社が隣接している公園には街灯が立っていた。念のためと懐中電灯を持ってきたのだが必要なさそうなのでコートのポケットに仕舞い込む。
 ダークグレーのウールコートを脱ぎ鳥居の横にある切り株に置いた。スニーカーはその横に並べ、脱いだ靴下を突っ込む。敷石は思った以上に冷たく、細かい砂利が刺さって痛い。お詣りの途中で「痛い」と思ってしまわないよう、その場で十分ほど足踏みを繰り返した。慣れるというより冷たさで感覚が麻痺した具合に、痛みは鈍くなった。
 鳥居の正面に立ち、深呼吸をしながら、美空の顔を思い浮かべる。美空の顔は泡立つようにひとつふたつと増えていく。私はあの女の姉に戻りたい。美空の顔は加速度をつけて増殖し、姉たる私の顔もそれを追いかけて同じように増えていく。雑念を捨てるのは難しいかもしれないと不安だったはずだが、そんなものが入り込む隙間もないほどに頭の中があるべき姉妹の顔で埋め尽くされる。
 私は鳥居の内側へ一歩を踏み出した。
 気がつくとその場所に戻っていた。
 あっけないと言えるほどだった。それでいて終えてみると、心の一角に満足感と愉しい感覚が芽生えていた。
 一日目。
 紅潮した頬に夜気を心地よく感じながら、無事に終えて私は帰路につく。

 二日目は、懐中電灯を持たないぶんだけ身軽にあとはほぼ同様にやり遂げた。
 三日目、そして私たちは出逢う。

 脱いだウールコートを畳みながら、たった三回目だというのに動作も心持ちもすっかり物慣れた風情の自分が可笑しく、知らずウフフと笑いを漏らしていた。両腕を広げて夜空を仰ぎ大きく息を吸い込む。肺の中から指先までが冷たく暗く澄んだ空気に満たされていくようで、ものすごく心地良い。夜との一体感を全身で味わいながら目を閉じて、何度も何度も深呼吸を繰り返していた。
 気が済んで、さてと鳥居に向き直った時、少年と目が合った。
 少年は鳥居のやや内側に立ち竦んでいる。両手は拳を握っていて関節が骨ばり尖っている。眼鏡のレンズ越しに私をじっと見ている視線はほとんど睨むような挑戦的な強さがある。私は気付かなかったが、しばらく前からそうやって立っていたのかもしれない。
 私は子供の年齢がよく判らないが、小学生であることは間違いないだろう。
 夜中の神社で少年と鉢合わせをするのは異常なことだ。その少年が素足でいたら本来それは異常の上乗せになるはずだが、今ばかりは逆だ。少年は薄汚れているものの上下ともに、白い服を着ている。
「きみ、もしかして」
「おまえも『 願いごとを叶えるおまじない』かよ」
 私たちは同時に口を開き、同時に口を継ぐむ。
 願いを叶えるおまじない。それはすでに一般的な言葉の連なりではなく、私にとってはたったひとつを指す固有名詞だった。それを口にした少年にとっても同じなのだと、確認しなくても理解できた。
「ちっ」
 舌打ちを少年はした。見様見真似なのだろうか、その字を実際発音したふうにくっきりした舌打ちだ。
「ふざけんなよ。邪魔しやがって」
 少年が何を怒っているのか分からずに戸惑う。私はむしろ同志を発見したような、喜びとはいかないまでも決して悪い気持ちではなかったからだ。少年が仏頂面のまま近くに脱ぎ散らかしたあったハイソックスを履くのをぼんやり眺めているうちに、ようやく納得がいった。
 少年は鳥居の内側にいたのに、私に話しかけてしまった。いや、声を出すより前にも、深呼吸に没頭している大人の姿を認めて雑念に襲われただろう。しずかに行われるべきお詣りに失敗したのだ。しかし、だからと言って私が責任を問われるべきとも思わない。私が邪魔をしたと言うのは少年の勝手な都合だ。謝るつもりもないが、言いがかりだと腹を立てるのはさすがに大人気ないと私は思った。
 だから天気の話をするような口調を意識しつつ私は言う。
「きみは何日目だったの」
 少年は黙ったままスニーカーに足を入れ紐を結んでいる。
「私はまだ三日目だよ。昨日と一昨日は会わなかったけど、いつもはもっと早い時間に来てるのかな。それともきみ、今日が初めてだったとか?」
 答えない少年に対し、苛立ちと面白さを半々に感じた。何を言えば返事をするだろうとゲームの答えを探すように頭を悩ませるが、小学生の男子が食い付きそうな話題などなかなか思いつかない。
「ねえってば」
 不意に少年は跳んだ。立木の、三メートルもありそうな高さの枝に掛けてあったパーカーに指が届き、その時少年の身体は弓なりにしなっていた。水色のパーカーが空気を孕んでふわりと膨らむ。わずか遅れて少年の爪先がトスッと静かな音を立て、身体の中で力の在り処が垂直落下するように、着地した。跳躍に私はしばし見とれていた。学校のクラブでバスケか何かをやっているのだろうかと思った。
 そのままパーカーを羽織って歩き出そうとするので、私は慌てる。
「ねえちょっと。きみ、大事なことをひとつ忘れてるんじゃないの。それじゃあ願いごとを叶えるおまじないにならないよ」
 やっと少年はこちらを振り向いて、私は内心でしめたと思う。なにも子供らしい話題を無理やり見つけなくとも、私たちには共通項があった。
「……途中でしゃべったって? 言われなくても分かってるよ」
「それももちろんあるけど。その前に、きみのその服」
「色かよ。パーカーは脱いでやってる。おまえだってそこにある黒いコート着て来てんだろ」
「じゃなくてTシャツとハーフパンツ。白っていえば白だけど、かなり汚れてるじゃない。それ、きれいって言えるのかなあ。言えないんじゃないかなあ。それだと何日お詣りしたって無効かもよ」
 あえて得意げな雰囲気を出すため、私は少年を指差しながらゆっくりと言う。
 洋服だけでなく、少年は全体的にどことなく清潔感に欠けていた。肌は、日焼けなのか垢じみているの分からないが黒いことは確かだ。髪は目を隠すほどに伸びていてボサボサとほうぼうに散っている。靴下も爪先に穴が開いていたし、眼鏡の左側のフレームをセロハンテープで継いであるのは、決定的に見た目が悪い。
 しかし、暗がりでもはっきりと少年の顔が赤く染まっていくのを見て、私は指差す腕をゆるゆると降ろしていった。後悔をする。子供相手に、威厳を保つべくこんな指摘をして私はなんて意地が悪いのだろう。きっと少年は私を嫌ったに違いない。すぐに走り出して後ろを振り返らず、二度と夜の神社に足を運ぶことはないだろう。
 しかし少年は走り出さず、しばらく私を睨みつけていた。
 謝るのを待っているのだろうかと思い私が言葉を探し始めた頃、すっと顔の赤みが引いたように見え、緊張が解けたふうにおもむろに両腕で自分の身体を掻き抱く。
「さみぃ」
 ニットにコートを着ても決して暑くはない夜に、少年は半袖のTシャツと薄いナイロンパーカーを羽織っているだけだ。子供はそんなものかと私は勝手に思うともなく思っていたが、言うからには寒いのだろう。そしてまた、今こう言うからには、私は何か反応を求められているのだと思う。
「きみ薄着だもんね。なんかあったかいものでも飲む? なんならお姉さんが買ってあげるよ」
「じゃあ買って」
「なにがいい」
「なんでもいい。ていうかふたつ買って。そしたら選ぶから」
 少年は私のコートを投げて寄越し、空いた切り株に座る。私はいったんコートを着直して靴を履いた。お詣りをどうしようと一瞬頭を過ぎったが、今は少年が逃げなかったことへの安堵のほうが大きい。少年が帰ってから心を落ち着けて取り組めばいいだろう。
 隣の公園の自販機で私は迷い、できるだけタイプの違う飲み物をふたつ買って鳥居に戻った。切り株の下の地面にあぐらをかいているのは気遣いなのかもしれない。私は遠慮せずに切り株に腰を下ろした。少年はコーヒーを選び、コーンポタージュを私に押し付ける。プルタブを開ける音がぷしゅ、ぷしゅとふたつ仄暗い境内に響く。
 缶入りのコーンポタージュを飲むのは私は初めてだ。ずるずると流れ込んでくる液体があまり気持ちよくないが、味は確かにポタージュだし温かいのは有り難い。少年はときどき白い息を吐きながら少しずつコーヒーを飲んでいる。
「四十九日目」
「え?」
「何日目かって訊いただろ。さっき」
「ああ。え、けっこう長かったんだ」
「おまえのせいでやり直しだ」
「四十九日って意味ありげな数字」
「なんか葬式関係だろ。縁起悪いことがほんとに起こった。くそ」
「やり直しすると寿命縮むんだっけ。残念だったね」
「はあ? おまえ大人のくせに寿命とか信じるんだ。あほくせえ」
「信じてるっていうか。信じるとかってほどの問題じゃなくない? 一年くらい縮んだってあんまり変わんない気がする」
「それは同感」
「まあでもきみの四十九日間が無駄になっちゃったのは確かね」
「いまさら言っても意味ねえよ。しかたないことってのはどうしてもあるだろ」
 少年はコーヒーを呷る。もう飲み終わってしまう。私のポタージュもぬるいと言える温度ととっくに通り越している。
「あっ。そうだ」
「なに」
「えっと……」
 うまく先が続かない。
「えっと、名前なんていうの」
「ケンタ」
「最近の子供にしてはふつうの名前だね。キラキラとかっていうやつじゃないんだ。どういう字?」
「俺の名前の漢字訊いて意味あんの」
「別に意味なんかないよ。意味あることしか話ちゃいけないって法律なんかないでしょ」
「犬に太い」
「え?」
「犬に太い。犬太」
「……ふつうじゃないね」
「俺はふつう。点の位置が面白いとかって親の頭が狂ってんだろ。生まれた時から人間扱いされてない」
「あの、私は優海。優しい海って字。優しいってもう学校で習った? 学校、何年生なの」
 このまま学校の話題に移れば盛り上がるかもしれないと勢い込んだが、少年は――犬太は答えないまますくりと立ち上がってしまい、パーカーのジッパーを上げた。
「優海さん。も、やり直しだからな」
「えっ? え、願いごとを叶えるおまじないが? 私別に違反してないけど」
「コーンスープなんか飲んで、歯を磨かないでお詣りしたら無効だろ」
 憎たらしいようなくすぐったいような心持ちで、離れていく背中を見送る。
 家に帰って歯を磨き出直そうかと考えたが、東の空に暁の気配が漂ってきているので、犬太の策略通り私もふりだしに戻らざるを得なかった。帰宅後、私は手帳に記していた日数を修正液で消し、改めて書き直す。

 先日石井さんが美空にと手渡してきた京都土産の八ツ橋を、ゴミ箱に捨てたことがばれていた。ばれていたことをどうして知ったかと言えば、石井さんとその仲間たちが目の前でそれなりに大きな声で内緒話をしていたからだ。
 皆あまり私と接したくないらしく、担当の仕事以外の雑事がいっさい回されてこない。私はむしろありがたいくらいだ。小学校や中学校ならば陰湿ないじめに発展するのかもしれないが。
 学校という単語につられて犬太のことが頭に浮かんだ。
 あれから一週間、私は犬太と会っていない。神社に着くとまず、いるかもしれない先客の衣服や気配の有無を探るようにしていたが、いつも期待はずれだ。私を避けて時間帯を変えたのだろうか。それとも、小学生には困難すぎると諦めることにしたのだろうか。
 がっかりする反面、願いごとを叶えるおまじないに集中しやすいとも思った。これでいいのかもしれない。

 私は勤務時間を持て余していたので、頭が痛いから早退すると上長に告げ会社を後にする。寝不足が続いているから頭痛は事実だ。 頭は痛いが気分も晴れず、電車に乗り込んで近くのターミナル駅まで買い物に行く。目当てがあるでもなく、スタバでフラペチーノを飲み明るいファッションフロアをふらふらと歩く。
 ストッキングを買い足そうと立ち寄ったユニクロで、私は子供用の洋服も購入していた。

 夜。風呂に入り歯を磨く。家族が寝静まる。白いニットとチノパンに着替え家を出る。神社に着くと無人だ。つつがなく七日目のお詣りを終える。そろそろコートは暑いなと思いながら羽織っていると背後で砂利が鳴る。振り向くと犬太が立っている。口元に痣ができている。
「……久しぶり」
「終わるまで待っててやったんだけど。俺って親切だから」
「そ。ありがと」
 一週間のブランクが三秒で埋まる。
「俺がやってる間に飲み物買ってきてくんない? 今度はもっと気の利いたやつ」
 気の利いたものを探すために、また犬太のお詣りが完了するまで少し時間を稼ごうと、私は公園の自販機を通り過ぎ少し離れたコンビニに向かった。
 まさかねと内心で思いながら半分冗談で買っていった缶ビールを、犬太は無言のまま喉を鳴らして飲んでいる。私は飲むゼリーをすすりながらチラチラと横目で犬太を観察する。私の手前無理をして大人ぶっている雰囲気は感じられない。口調こそタメ口だが、見た目も雰囲気もまるで子供の犬太がアルコールに慣れているらしいのは、不自然を通り越して超自然的だ。
 開封したポテトチップスを貪るように食べはじめると犬太は年相応に戻り、私は少なからず安堵する。
「最近会わなかったけど、来てたの? 今日から再開?」
「次の日からすぐ来てたよ」
「いつもどのくらいの時間? 決めてないの?」
「親父の早漏ぐあいによる」
「え?」
「なんでもない。ていうか、それなに」
 切り株の横に置いておいたユニクロの袋を犬太は顎で指し、私の心臓がひとつ大きく鳴った。袋を引き寄せ、服を取り出す。タグは既に切り取ってすぐにでも着られるようにしてある。
「気になってたんだってば。犬太の服。もうちょっときれいなほうが効果あるから、絶対」
 スウェットとトレーニング風のパンツを広げて見せ、服の陰から犬太の顔を窺う。黙ってもぐもぐと咀嚼しながら服を眺め、ビールでチップスを流し込んでから、犬太はプハと息を吐く。
「毎日きちんと洗ってんだけど。古いから少し汚れて見えるかもしんないけどさ」
「見た目は大事よ。九割よ」
「わかんね。とりあえずサンクス」
 驚きも怒りもないようだ。と言って喜ぶ様子も見せず、服をぐちゃぐちゃと丸めユニクロの袋に突っ込み腕に抱えた。
 私は自分の行動が良いのか悪いのか分からずにいて、犬太の反応を見ても判断できなかった。しかし翌日から犬太がユニクロを着てくるようになったので、悪くはなかったと合格点を出す。
 願いごとを叶えるおまじないと、運良く会えば小さな宴を、私たちは夜な夜な繰り返していく。

 美空が家に戻ってきてからというもの、休日も竜二君と顔を合わせなければならないのが億劫だ。
 休日は妻のもとに来るのが夫の役目だと、それらしいことを言っていた。しかし一番の目的は母が作るまともな食事なのだろう。ふだんは毎日コンビニ弁当か吉牛で済ませているらしい。ひとくち食べるごとにウマイウマイお義母さん料理の天才っすねとわざとらしい賞賛をしている。さすがに母もうんざりした表情を隠しきれていない。
 そもそも平日は出会い系の女をとっかえひっかえ遊んでいるのだから、休日に美空に会いにくることはむしろ、絶えない浮気の息抜きなのかもしれない。
 美空は今日機嫌が悪いらしく部屋を出てこない。竜二君と私、両親で囲む食卓は不自然な会話に終始して早々に終了した。
 竜二君はDVDを観ていいかといちおう断りを入れてから、リビングのソファの真ん中にどっかりと座り込む。父は風呂に入り、母はキッチンに籠もる。
 DVDは洋画で、アクションものらしい。好きな俳優が映ったので私は興味を惹かれた。コーヒーを片手にソファの端に座ると、竜二くんは眉を顰めたようだった。
 いつだったか両親も美空も留守だった日、今の場所に今のように座った竜二君に私はまたがり交わった。誘われたから私は乗った。竜二君の要求どおりに腰を振り、笑い合い、感じ合った。
 幼馴染で、子供の頃はお互いの家に上がり遊ぶことも少なくなかったが、成長するにつれ距離が遠くなっていった。社会人になった頃から再び、竜二君は時折訪ねてくるようになった。子供時代にレゴで遊んでいたリビングで激しく愛を交わす日が来るなんて、思いもしなかった。カーテン越しの太陽を明るく浴びて突き上げられながら、私は快楽以上に幸せを感じていた。効きすぎた暖房で汗だくになったのを覚えている。冬だった。美空が姉の座を奪うより少し前の出来事だった。
 どうして幸せな時間は長く続かないのだろう。美空の妹になってしまうというわけのわからない状況に押しやられ、誰にも理解されないまま息をひそめている。理解されないどころかもう疎まれていることを知っている。幸せになりたいのがわがままだと言うのならふつうで構わない。ふつうの日常を続けることがなぜ私には許されていないのだろう。過ぎた望みではないはずだ。私は正しい世界を取り戻し、そして、ふつうに過ごしていきたい。
 目に映る画面では、好きな俳優が敵に向かって銃を撃ちまくり、手榴弾に気付いてコンテナの陰に素早く身を隠したが、味方の一人は爆破された。画面と音を私はばらばらにしか把握できず、ただぼんやりと眺める。気がつくと竜二君はいなくなっていた。美空の部屋に行ったのかかもしれない。
 早く夜になりますようにと願いながら、冷めたコーヒーを飲み干す。

 目を覚まし、壁の時計を確認すると一時を回っていた。DVDはとっくに終わっていてテレビも消えている。
 ソファから身を起こしリビングを出る。他の場所は明かりが消えており、家族はもう寝たようだ。玄関を覗くと竜二君の靴はなくなっている。
 あまり大きな音を立てないよう忍び足で洗面所に入る。歯を磨いてから、洗顔料でぞんざいに顔を撫で、流した。骨の中に鉛が詰まっているのかと思うほど身体が重く、だるい。ふだんであれば風呂を諦めてそのまま寝てしまうところだが、神社に行かなくてはならないのでそうもいかない。
 のそのそと衣服を脱ぐと、下着に赤い点がついていた。私は生理周期が不規則で予想が立たないから、いつも唐突にはじまり下着を汚してしまう。身体がだるいのは生理のせいもあったようだ。
 下着は中で洗おうと、脱いだ形のまま放置して私は風呂場に入った。シャワーを壁のホルダーに掛けたまま下に立って修行のように湯を浴びる。ソファで寝たせいで凝り固まっていた筋肉がほぐれていくのが心地良い。
 血が赤い筋になって太ももを伝っていくのを見た時、ふと、不浄ではないだろうかと不安を覚えた。願いごとを叶えるおまじないを初めてから生理になるのは二度めだ。一度めはなにも考えなかったと思うのだが、今回は気になった。さきほど竜二君との過去を思い返したせいもあるのか、自分が汚い気がして仕方ない。
 長期間に渡るおまじないの中で女性が生理になるのは当然だから、この汚らわしさが理由で無効となることもないだろうが。
 シャワーの温度を上げる。ボディソープを泡立てたスポンジでいつも以上に力強く全身を擦る。肌は赤みを帯びて、熱い湯がかかるとひりひりと痛む。このくらい洗えば大丈夫だろうか、きれいになっただろうか。まだ足りないだろうか。
 無心で擦っていた。磨りガラスの向こうの人影に気付いた瞬間は、驚いてスポンジを取り落とした。
 父親よりも母親よりも背が低い。そしてなにより膨らんだ腹のシルエット。うつむいて立っている。
 しまったと私は慌てた。誰かが来ることを予想せず、汚れた下着をそのまま晒してある。美空はそれを見下ろしているに違いない。恥ずかしさと悔しさに知らず歯ぎしりをしていた。悔しい? そうだ、美空はここしばらく生理とは無縁なのだ。のみならず、胎内に命を宿したからまるで自分は聖母だとでもいうように、穏やかに軽薄に生きているのだ。
 もう少しでも怒りのレベルが低かったら、私は磨りガラスに拳を叩きつけていたかもしれない。しかしあまりに血が上りすぎてぼうっとなり、ただ歯ぎしりをしてシャワーの下に立ち尽くしていた。美空はやがて部屋に戻った。

 今夜は早く来ていたらしい犬太は、切り株の上にあぐらをかいて船を漕いでいた。私の足音に気がつき目を開ける。
「なんだよ優海、そのかっこう。風邪ひくって」
 私はなんとか笑ってみせる。
 どのくらいの時間、熱いシャワーを浴びていたのだろうか。ほとんど朦朧とした状態からは覚めたものの、思考力がどこか遠くにいってしまったようで、とにかくナプキンと下着と白い服を身につけて家を飛び出した。身体も髪もまともに拭いていなかったから、服は肌に張り付き、今も髪からの水が肩を濡らしている。靴を履いてくるのも忘れた。
「大丈夫よ」
「なんかあったのか。無理するなよ、邪念だらけでお詣りしても意味がない」
 邪念という犬太の言い方がおかしくて、今度は本当に笑う。
「大丈夫。だって私は姉なんだから、負けないし」
 犬太の手を振りほどき、鳥居の前に仁王立ちになる。もう条件反射の回路が出来上がっていて、その瞬時に頭の中は妹の美空と姉の私で埋め尽くされ、大量の姉妹が燃えさかる炎めいてゆらめく。今日は羞恥や嫉妬のブーストでなおさら勢いがある。充実感が込み上げてくる。
 満たされたままお詣りをして鳥居に戻る。張りつめていたものが解け、猛烈に疲労が襲ってくる。
 ゆっくりと呼吸を取り戻しながら待っていると、コンビニの袋を提げた犬太が帰ってきた。袋から温かい缶入りポタージュを取り出す。私は受け取り音を立てて啜る。次に犬太はタオルを取り出し、開封した。タオルを広げて私の頭を包みわしゃわしゃとかき回す。乱暴な動作が楽しくて、私は声を上げて笑う。
「ちょっとちょっとやめて、ポタージュこぼれるから」
「ったくなんなんだよほんと。あとは自分でふけ」
 ポタージュ缶をいったん地面に置き、私はていねいにタオルで髪を挟み水分を吸わせていく。犬太は切り株の横に座り、自分用に買ってきた缶ビールを開けた。ちらりと上目遣いに私を見て、乾杯に似た動作をしてから口をつける。
「大丈夫だったかよ、お詣り。邪念」
「それを言うなら雑念でしょ? 邪念とかってなんか変なファンタジーみたい」
「同じようなもんだろ」
「大丈夫だったよ。きれいもきれいに願いごとしか考えなかった。もうプロみたいなもんじゃない、私たち」
「残念ながら金は稼げてない」
「じゃあセミプロとか。玄人はだしとか」
「なんだそれ。唐揚げ食う?」
「食べる。寒いな」
「あたりめーだろ、ばっかじゃねえの。なんか事情あったのかよ」
「事情はないね。ただお風呂上がってそのまま来ただけ」
「意味わかんねえ。なんだよ、妹とけんかでもしたのかよ」
 私が姉と口走ったことを犬太はそのまま受け取ったらしい。本当は美空の存在を知られたくはなかったが、いまさら取り消すわけにもいかない。せめて姉妹の関係について訂正を入れるのは止めようと、そして美空の影に二度と触れないようにしようと、決意する。
犬太はどうなんだろうと思う。
「犬太の願いごとってなに」
「訊きたい?」
「別に」
「俺は犬になりたい」
「え?」
「俺は犬になりたい」
「犬に、ねえ」
 唐揚げを噛みしめると冷めた油が滲み出した。
 犬太の言葉の意味を考える。私が抱く犬のイメージは、良い方向ならば元気で悩みがなさそうだ。悪い方向なら奴隷的な、リードに繋がれている画が浮かぶ。それとも愛玩動物ではなく狼に近い生き物を犬太は指したのか。名前との繋がりで自分らしさという含意もあり得るだろうか。
 しかし一番可能性が高そうなのは、はぐらかしだ。私が美空を犬太に隠したいと思うように、犬太も願いごとの核は話したくないのかもしれない。だとすれば、これ以上問いただすのはルール違反に近い振る舞いだ。
 こんな真似をしてまで叶えたい願いごとは、人に話したい欲求からかけ離れていて当然だと思う。分かち合わないことに不満や寂しさは湧かない。割り切りという以上に、おそらくそれほどまでに私たちの絆は強い。皆がこぞってするらしい軽やかなシェアとはまったく違う、濃厚な共犯関係がここにある。
 パキパキと音を立てて犬太がビールの空き缶を握りつぶした。缶をビニール袋に突っ込もうとして一旦手を止める。
「あ、そうだ。これも買ってきてた」
 差し出された靴下を私は履いた。帰り道は素足で歩かなくとも良くなった。

 日々は代わり映えなく決められたペースで過ぎていき、 101日目の夜が来る。
 最後のお詣りに感慨はあまりなかった。100回繰り返してきたことをもう一度するだけ。
 私は切り株で犬太を待つ。

 これまでに約束をしたことはなかったが、今日だけはさすがに、必ず待っていると前夜に伝えていた。しかし犬太はなかなか現れず、もう夜が明けてしまうと不安になり始めた頃ようやくやって来た。
「遅かったね」
「あー。疲れてる。優海はもう終わったんだな」
「とっくに。終わるとあっけないや。犬太も早く行っておいで」
「うん」
 犬太はスニーカーを脱ぎ捨てて鳥居の正面に立った。深呼吸こそしないがすっと背筋が伸びるので、犬太の集中が見て取れる。颯爽とした一歩を犬太は踏み出す。公園の街灯が届く領域を抜け出し、白い後ろ姿が杜の暗がりに吸い込まれていく。
 気温が高くなるにつれ私の服装は薄着になっていったが、犬太は毎日必ずあのユニクロを着ていた。含む意味があるとは思わないが、私はくすぐったいような嬉しさを誤魔化せない。このくすぐったさも今日が最後だなと思った時、はじめてしんみりと湿っぽい心地を味わった。
 目を閉じて考える。もしこれが美しい物語なら、と。
 私は犬太の肩甲骨から翼を生やそう。その身体よりよほど大きな、空気を含んで柔らかに軽い、純白の翼。犬太は羽ばたく。髪を整えていなくても壊れた眼鏡をかけたままでも、犬太は美しい。秘めた願いごとはきっと美しいと私は信じているから。それに向かってどこまでも高く翔んでいけばいい。
 その時唐突に、境内が騒がしくなった。
 うわっという叫びは犬太だろう。ぶつかり合うような鈍い音、人間ではないなにかの声。がさがさと草を掻き分ける音が続く。駆ける足音が近づいて、犬太が暗がりから飛び出してきた。
 思わず立ち上がった私の目の前で、犬太は膝と両手を地面につき肩で大きな息をしている。背中の右半分が泥だらけになっているが、見える限りでは出血はしていなさそうだ。
「ちょっと、どうしたの」
「……イノシシが……」
「イノシシ?」
「……いたんだよ。突然出てきた」
「襲われたの? 怪我は?」
「いや。俺がびびって勝手に転んだだけ。イノシシもびびってた。賽銭箱とか柱とかいろんなとこにぶつかりながら逃げてったよ。あっちこそ怪我したんじゃねえかな」
 犬太の息が整うまで、私は黙ってじっと見下ろしていた。
 ようやく落ち着いたらしい犬太がようやく顔を上げ、窺う表情で上目遣いに私を見上げる。
 我慢が限界に達し、私は吹き出した。
「ねえ、ねえ犬太、なんなのこのオチ? ありえなくない? 最後の最後で、イノシシと鉢合わせて雑念とか!」
「っせーな、笑うんじゃねえよ!」
「無理、笑うなとか無理無理。どーいう運の悪さなの。気の毒通り越して尊敬しちゃう」
「笑いごとじゃねえよ、俺の今までの苦労はどうしてくれんだよ!」
 言いながら、犬太のくちびるも歪むように緩んでいく。
 私たちは近所の住人を起こさないよう必死で笑い声を抑え、それも可笑しくてお腹を抱えひーひーと声を潜めて笑い合う。目尻に溜まった涙がこぼれて頬に筋を描き、腹筋や喉が痛みを覚え始めても、笑い止むことはなかなか出来なかった。
「ねえさあ、ビール、無事終了おつかれって乾杯しようと思って買ってきたんだよ。違っちゃったね。明日からの犬太の再挑戦に景気づけかあ。よっ。あと101日、がんばれ!」
「っとなんなんだよあのイノシシ。自棄酒だな」
「あれなんじゃないかなー、神様の試練。最後に試されたんだよ。たとえイノシシに会っても動じないほど強い心で願っているかってね。犬太まんまと失格」
「だったらなんで優海には無いわけ」
「あったんだってば、きっと。でも私はイノシシが登場しても気付かないほどノー雑念で取り組んでたわけよ」
「優海の場合はただボケっとしてただけだろ。あーイノシシまじムカつく。今度会ったら鍋にしてやる」
 数日前から、私は悩んでいた。
 私たちは強く不思議な繋がり方をした。友人とも同志とも違って、強いて言うなら、優海と犬太。他の言葉で表すのは難しい私たちの関係だった。おそらく二度と犬太とは会わないだろうという諦めに似た予感がある。優海と犬太は終わる。その別れに際し、犬太にどんな言葉を伝えようか悩んでいたのだ。何を言っても的外れになりそうな気がして、いっそ憂鬱だった。それが猪登場で吹き飛んでしまった。
 私たちは愛すべき下らなさを肴に酒を飲み、間もなく東の空が白み始める。名残惜しいのは101日間に対してでもありこの幸せな宴に対してでもあった。しかし私たちは行かなくてはならない。
 ごみをビニール袋に集め、立ち上がる。
 別れの言葉はごく自然に口をついていた。
「じゃね。犬太。諦めないで必ず願いごとを叶えてね」
「うん。ありがとな。優海も元気で」
「ありがとう」
 芝居がかった握手をしてまた笑ってからそれぞれの帰路につき、私は振り返らなかった。

 後日談。

 私は元気に生きている。
 願いごとは叶った――のだろうか。
 美空は育児ノイローゼに罹り鬱になった。薬を飲んで死んだ。周囲は美空に厚い同情を寄せ、私は不謹慎と知りながら、こんなはずではなかったと思わずにいられなかった。しかし、竜二君がろくに育てようとしない子供の母親代わりを努める私の献身は、少しずつ美談として浸透していった。人々が私を褒めそやすごとに、死んだ美空が身勝手へと変化していく様を見た。
 私を美空の妹と見下す人は誰もいなくなった。成就というには回り道をしすぎたかもしれないが、望んだものを奪還したはずだった。
 それなのにうやむやになってしまった感覚が拭えないまま、私は姪に愛を注ぐ。
 竜二君と結婚し名実ともに母親となることに、私は抵抗がない。しかし竜二君本人は承知しないだろう。あれから二度セックスをしたが愛情は微塵も感じなかった。そして、口に出しこそしないが美空の死の原因を夫に見ている私の両親も、許しはしないだろう。
 竜二君がどこかに消えれば私は子供を養子にすることも出来るのだが、鈍感すぎる彼は平気な顔でうちに出入りする。美空が身籠っていたかつてに週末ごとやって来たように、預けっぱなしの子供と遊ぶため休日だけ父親面をさげ会いに来る。事実父親である以上、両親も竜二君を拒み切ることが出来ない。
 私は仕事を辞めて育児に専念し、忙しいが充実した日々を送っている。
 この家族はどうなっていくのだろう――
 答えの分からない問いを頭に巡らせながら、私はうとうとしている。 暖かい日だ。開け放した窓から柔らかい風が入ってくる。桟に数枚、舞い込んできた桜の花びらが張り付いている。
 窓際の日向で姪を寝かしつけているうちに、自分も眠りかけていた。外出していた竜二君が戻ってきた物音に、まぶたを開ける。
「……またパチンコ行ってたの?」
「窓、閉めろよ。虫が入る」
「機嫌悪いね、負けたんだ」
「おまえに関係ないだろ」
「それとも出会い系の女にすっぽかされたかな」
「死ねよ。おい、ほら。言ってるじゃねえかよ」
 言われて庭に目を遣ると、開きすぎたチューリップの隙間からこちらを覗いている犬と目が合った。
 薄汚れた白い子犬。
 一目見て、犬太が会いにきてくれたのだと解った。
 私がサンダルを突っかけて庭に降りると、犬も弾むような足取りで近づいてくる。 しゃがみ込んで手を伸ばし、子犬に触れる。毛は所々汚れが固まってごわごわている。子犬はしばらく撫でられるまま大人しくしていた。
「何やってんだよ。早く閉めろよ。子供に怪我させたらどうすんだ」
 子犬が私の手を嗅ぎ回り始め、くすぐったくて私はくすくすと笑った。
 何度も何度もやり直しているんじゃないかって、心配をしていたよ。でも良かった。願いごと、叶ったんだね?
 犬は静かな問いかけに耳を貸さず、私の足に身体をすり寄せている。もう、この子が私を優海と呼んでくれることはない。
「おい、汚ねえ犬を触るなよ。変な病気持ってたら」
 私は声に出さず子犬に語った。
 犬太と会うまでの日々、犬太と過ごした日々、犬太と別れてからの日々。願いが希望ではなく怨嗟にしかなりえなかった人生を、すべて偽りなく語った。長い物語を終えると同時に、私の中で何かが終わる音がコトンと響いた。
 犬はくーんと鼻をならして応える。
 あの日切り株で待ちながら想像した天使の犬太は、美しかった。犬太の願いは希望の形をしていて欲しかった。もし私が純粋な希望を抱いたことがあるとしたら、唯一がそれだったろう。
「おい! 聞いてんのか」
「うるさいわね。いいじゃない、ちょっとくらい」
「なんかあったらおまえ責任取れよ」
「あなたに責任とか言われたくないなあ」
 竜二君は子供を抱き上げて奥のソファに移動している。子供は目を覚まし、下手な抱き方をされてぐずり始めた。
 犬は不思議そうな顔で、私や家の中の諸々をつぶさに眺めている。美空はもういないから隠すものはない。これが私の生きている世界。犬太の目にはどう映っているのだろう。
「おなか空いてるかな。ちょっと待ってて。なんかあげる」
 私は家に上がってキッチンに行き、冷蔵庫を開ける。まっさきに缶ビールが目に入って思わず微笑んでしまう。でもやめておこう。無難に牛乳を取り出した。棚から深すぎないグラタン皿を取り出して、なみなみと牛乳を注ぐ。
「やめろよ。懐いたらめんどくせえ」
「飼えばいいじゃない。この子の情操教育にもなるでしょ」
 背伸びをして吊り戸棚の上段に置かれた保存容器を取り出す。両親も竜二君も決してコーヒーを飲まない。
「情操教育……? ああ。そういうのもあるか。動物ねえ」
「そうよ。口先ばっかりで心配してるふりしないで、子供の将来のこともきちんと考えなさいよ。父親なんだから」
「ふうん。でもまだ早いんじゃないか、小学生くらいになったらいいかもな」
 コーヒーの容器から、美空の薬の余りを取り出して牛乳に溶かし込む。
「そうね。命とか、生きるとか死ぬとか、解るようになってからのほうがいいかもね」
 庭に戻り皿を目の前に置いてやると、犬は尻尾を振って牛乳を舐め始めた。
 私は犬の頭にそっと手をのせる。この温もりを繋がりと感じるのは錯覚だろうか、分からないがそれでも犬太を感じていたかった。
 私たちの周りを桜の花がひらひらひらひら舞っている。
 願いごとは、叶ったの?

ゆみといぬ ©なかがわ

執筆の狙い

よろしくお願いします。

なかがわ

42.148.142.111

感想と意見

ドリーマー

こんにちは。作品、拝読しました。

何気なく読み始めたら続きが気になって、最後まで一気に読んでしまいました。
ケンタとの出会いや、その後の願掛けのエピソードも面白かったです。ケンタの飲み物の嗜好から彼の荒れた生活(虐待?)も想像できて、こういったところも上手いな、と思いました。

ただ読み終えた後で、もしかしたら私は読み違えているのでは、という疑問も残りました。
この作品、姉妹の入れ替わりが本当にあったのではなく、入れ替わったと優海が妄想した、という解釈でいいのでしょうか。学生時代は美空に見下されるだけだったのが、就職を機に同僚にまで見下されるようになり、そのうえ竜二に二股を掛けられた挙句に捨てられて、思い詰めて妄想が始まったのかも、と思ったのです。
そうであれば、この結末も納得できるのですが。
実際のところ、私はなかがわさんの意図通りに読めているのでしょうか。

もう一つ、首を捻ったのは、

>コーヒーの容器から、美空の薬の余りを取り出して牛乳に溶かし込む。

美空は『薬を飲んで死んだ』んですよね。子犬がケンタとは限りませんが、なぜ飲めば死ぬかもしれない薬を入れたのでしょう。
この薬が鬱の薬ならともかく、致死性の薬なら優海が薬をすり替えた可能性もでてきます。仮に鬱の薬だったとしても、子犬に飲ませて安全な薬ではありません。
ラストの四行からは不穏な空気を読み取れなかったので、ここはどう解釈をしたらいいのか分かりませんでした。

感想一番乗りというのは、的外れなことを書いたら、自分の読解力の無さを露呈することになるので、送信するのにちょっと勇気がいります。
それでも、少しでも参考になればいいのですが。では失礼しました。

2017-04-23 19:43

116.67.216.94

卯月

拝読。

「妹が姉と入れ替わった」冒頭のこの設定に吊られどうなるのでしょうと最後まで引っ張られました。
私もドリーマー様と同意見なのですが、やはり最後が謎? これってどう解釈して良いのか? 私のまっとうな意見としては過去の自分を健太に託し抹殺してしまえ? この部分作者様の解説が馬鹿な私としては必要かと。読解力全くない私をどついてください。

全体を通してケンタとの出会いとか上手くは書けているのですけれど、お百度の部分がかなりながいかなあとは思うわけで、この部分もっと濃密にすれば。ナカダレ防止になっていたかも。

あと作者さん女性だと思うのですが女性特有の「いやらしさ、エゲツサ」などが出ていてこれはこれで良かったかなあ。

益なき事しか申し上げられませんが、御寛恕下さい。
御健筆を心より祈念申し上げます。ってか

2017-04-23 20:19

183.176.74.78

なかがわ

ドリーマーさん

こんにちは。
感想、ありがとうございました。

どういうつもりで書いたのかについて、きっちり読み取ってもらうことを目標としていなかったという大前提が、まずあります。解らなくてつまらなかった、ではなくて、なんだかよく解らなかったけどなんとなく良かった、というものにしたいと思っていました。
という上で、でもこういった特殊な場なので、私の意図を書きます。

入れ替わりは優海の妄想ですが、経過はドリーマーさんの思ったものとは違いました。
優海が姉、美空は妹というのが現実です。優海はずっと姉として美空の上に立ち、取るに足りない部分にも自身の優位性を見出してきた(そうせずにはいられない隠れた劣等感の裏返しでもあったか)。恋愛において敗北し、そのまま受け入れ難かった優海は、負けの分かりやすい理由を必要としたため入れ替わりを脳内設定した。
という流れでした。

ネックになるのは周囲の人々が美空を姉呼ばわりすることなんですが、これも優海の妄想の産物です。ここをどう表現したものか四苦八苦して今の形になっているのですが、あくまでも優海世界からの語りなので限界はあってしかたないかという気もしています。これ以上やると世界観が壊れる。逃げと言われれば返す言葉がないのですが……

そしてラストについては、自分でもきちんと説明するのが難しい……
ざっくりと、当初から私の頭の中にあったのは、犬太の願いごとは突き詰めれば死であってそれを優海は無自覚的にであっても理解し、実行した。ということでした。
ただ書いているとそれだけじゃないなーと感じ始めました。天使云々はもともと考えていたのではなく気付いたらこういう文章を書いていた類なのですが、この流れになると、希望にけりをつけるみたいな意味合いをも含んでしまったと思ったりとか。
私、迷いが生じていましたね。
しかし少なくとも、優海が犬太の願いごとをどう思っていたかとそこから繋がるラストは、逃げが許されない部分でした。妄想に生きる人であるうえに自覚的やら無自覚的やらってハードル高いですが。
なんか愚痴っぽくなるのですが、最後の一文……というか数文字をどう〆たものかで長時間めちゃくちゃ悩んだんです……優海的には叶えてあげた感があるけど、彼女自身100%の自信があるわけでもなし、書く私としてはあんまり押し付けがましくなるのも嫌だったし。
この懊悩箇所はたぶん、ドリーマーさんのもやもやと直結しているんだと思います。
でも、
>ラストの四行からは不穏な空気を読み取れなかったので、
というのは大きなヒントです。ありがとうございます。

書いたことと読んでいただいたことについて、なるほどと思うことが多かったです。
一番めの感想を書く心持ち、わかります……感謝します。
ありがとうございました。

2017-04-24 14:43

42.148.142.111

なかがわ

卯月さん

こんにちは。
感想、ありがとうございます。

>この設定に吊られどうなるのでしょうと最後まで引っ張られました。

これはちょっと不安要素でもありました。入れ替わったことに興味を持って読んだ方にとって、肩透かしみたいに感じられないかと……だいじょうぶでしたでしょうか??

>お百度の部分がかなりながいかなあとは思うわけで、この部分もっと濃密にすれば。

地味な行動を延々繰り返すってすごいやりにくいやつじゃないかと、呆れることに書き始めてから気付きました……
昼の世界と交互にしてめりはりとか、展開に必要な部分だけ抜粋する感じでがんばってみたのですが、中弛み感拭えてなかったんですね。うーん難。

入れ替わりは妄想として書きました。
ラスト、優海は美空を殺した薬を犬に与えるのですがその動機について、すいませんがドリーマーさんへの返信に書いたものをまずコピペいたします↓

>犬太の願いごとは突き詰めれば死であってそれを優海は無自覚的にであっても理解し、実行した。

というのがそもそも考えていた動機でした。
が、書いている最中に期せずして犬太の天使の希望がどうこうと出てきて、そのせいで違う一面が覗いたなと思います。
それが卯月さんが読んでくださった

>過去の自分を健太に託し抹殺してしまえ

に近いものでした。
優海が子犬に長い話を終えた時何かが終わったというのは希望のある世界への決別だと、この点は自分ではっきり理解していました。だから犬を殺すというのにもこの決別が大きな動機になっているはず。
それでいて、先に書いたような犬太の願いを叶えてやろうというのもしっかりあって、揺らぎが大きくなり、ここはやっぱり読者に強いる負担が重すぎたんだと思います。

今回、五行くらいのプロットとも言えないプロットを作り、自分がどうしてこの物語を作ったのかを探ることが執筆そのものという感じでした。そうして書いたものがどういう風になり、どういう感想をいただくか。と知ることができてとても勉強になりました。

あと、おっそろしい~女性を書くのが妙に好きなので、良かったと言っていただけて嬉しいです。

ありがとうございました。

2017-04-24 15:31

42.148.142.111

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