作家でごはん!鍛練場

『青春はミステリアス』

天星 空著

小説を読む側から書く側になりたいと感じ、自分なりに書いてみました。
こんな高校生活を送ってみたかったと感じてもらえるような小説を書いてみたいと考えて執筆しました。

初めて書き始めた作品なので荒削りの部分も多く見受けられるかとは思いますが、色々とご意見いただければ嬉しいです。

よろしくお願いします。

1 LINE

LINE 秋雨武美:そらー!

 そらー!
 久しぶりのLINEです
 元気にしてる?
 わたしはいまUCLAにいます。アメリカでの研究生活はとても刺激的、さすがは超大国ね。
 
 この前、高校の入学式だったのよね。連絡遅れたけど、高校合格おめでとう。緑坂高校はいいところよ。特に、生徒の自主性を大切にするところね。自分を見つめるいい機会になると思う。
ところで、入る部活決めた?
 そらのことだから、まだきめてないでしょ……というより入る気ないでしょ……当たり?(笑)
 だったら、姉アドバイス!

 文芸部を再開させなさい

 文芸部は、私の学年が卒業すると同時に廃部になっちゃったの。このまま文芸部が消えた状態なのは、OGとして忍びないわ。幸い、顧問の先生に話は通してあるから、スムーズに再開できると思う。
 文芸部の活動は、そらも気に入ると思う。
楽しい高校生活を送れることを願ってる。
 研究が一段落ついたら、また連絡するね。
 










2 再開

 青春。多くの高校生が楽しみにしているであろう青春。勉強、部活、恋愛など、人によって精の出し方は様々であるが、総じて脳エネルギーを消費する活動だ。ただでさえ、脳は安静状態でも、相当大きなエネルギーを消費する臓器である。どこから青春に費やす脳エネルギーが生じるのか……。これは、これから高校生活を送る俺たちにとって、解くべき最優先課題ではなかろうか。
 放課後の教室で、幼馴染の夏目尚人にそんな意味のことを話した。すると尚人は、微笑を浮かべながら肩をすくめた。
「ソラのそういう話、僕は大好きなんだけれどね。ただ、今回はその思考にエネルギーを使ってしまっているんじゃないかってこと、……それに、特にエネルギーの使いどころがはっきりしてなさそうなソラを見ると、賛同できないね」
 いかにも小説やアニメでイケメンスポーツキャラとして登場しそうな、こいつが俺の幼馴染である。実際は、スポーツはからきしダメなのだが。
「尚人、そういうお前は使いどころがはっきりしてるのか?」
「うーん、考えたこともないな」
 尚人との会話は毎度面白い。会話といっても、主に俺が話して、尚人が意見を言ってくれるというのがほとんどお決まりのパターンではある。脳エネルギーの点からいうと、この会話は、俺にとっての使いどころだ。
「ソラ……、ソラ!」
ああ……、尚人の存在に感謝!
「おーい! ソーラ!」
 肩をゆすられ、現実世界へ帰還。
「……ん、なんだって?」
「だーかーら、僕は部活に行くよって」
 ああ、そういえば尚人は料理研究部に入ってたな。こいつの料理を一度食べたことがあるが、なかなか美味かった……。俺のお嫁さんになってくれないかな……。
「おう、そうか。じゃあまたな」
「??? ソラは帰らないの?」
 すごい意外そうな目で見るな……。?が三つってどんだけ疑問感じちゃってるんだよ。
「ああ、俺も部活あるからな」
「……!!! 今なんて言った……」
 今度は!三つか。
「だから部活」
「ソラが! 部活は脳エネルギーを消費するとか言ってたソラが! この短時間に宇宙人に脳を乗っ取られでもしたのかい!」
 肩を掴んで、そんなに強く揺するな。脳震盪起こしたらどうするんだよ。脳エネルギーどころの話じゃなくなっちゃうでしょうが。それに、俺は別に脳エネルギーを使うことを忌避しているわけではない。ただ、脳エネルギーの使いどころを考えておきたいと思うだけだ。それに、あの人の言葉には逆らえない。
「姉の命令だ」
 そう、俺は姉に逆らえないのだ。いや、もちろん逆らう権利はあるのだが、逆らうことができない状況であるということだ。
「ああ、武美さんね。……いまだに怖いの、あの人……」
 怖いなんてレベルじゃないぞ……あれを前にしたら、そんな感情が生まれることなく従ってしまう、そんな感じだ。……忠犬ソラ公か、俺は。
「まあ、そんなわけで部活をやることになった」
「そう、何部?」
「文芸部」
「え? 文芸部ってあったっけ?」
 知らないのは当然か……廃部だし。
「姉がいたころは活動していたみたいだ。今は廃部だが」
「廃部! 部活を再開しろってこと? ……それは大変そうだね」
「うーん、まあそのあたりは大丈夫だと思う」
 顧問の先生いるって言ってたし……何とかなるでしょ。
「そう、ソラがそう言うなら大丈夫かな。じゃ、またね。僕は部活に行く」
「おう、また明日」
 さて俺も部活に行くか。青春しに……、なんてな。

 緑坂高校は、普通教室棟と特別教室棟の二棟が主な建物だ。後は、体育館、武道館、プールなどがあり、まあごく普通の高校だ。職員室は普通教室の一階だったな。顧問の先生――いや元顧問か――がいるといいのだが。……そういえば先生の名前を知らない。まあ、何とかなるか。
 あれこれ考えている間に、職員室到着。
「――先生! 私はどうしても文芸部に入りたいんです! お願いします!」
 中から女子生徒の声がする。扉を透き通ってくる澄んだ声に、思わず聞き入ってしまう。
「秋月……すまんが、これはルールなんだ。……もう一人いないと文芸部は再開できないんだよ。だれか他の生徒を連れてきてもらうしか――」
「しかし、私には――」
「失礼します、文芸部に入りたいと考えているのですが、顧問の先生はいらっしゃいますか」
 扉を開け、職員室中に響くような発声を心がける。……先生の机は、ちょうど俺のいるところから最も離れている……遠い……何たる不幸だろうか。
「私が文芸部の顧問だ。いや、元顧問といった方がいいか。どうした、秋雨?」
 出雲先生だ。腰まで届きそうな黒髪ストレートが小柄な彼女の魅力を引き立てている、それに話し方がクールでかっこいいのも最高だ、などと俺にはよくわからんことを尚人が言ってたな。まあ、多くの男子生徒に人気があるみたいだから、あながち間違ってもいないんだろうが……。ちなみに俺のクラス担任だ。まさか出雲先生だったとは……。まあ、話が早くて助かるか。
「先生、文芸部に入りたいと思って伺い――」
「文芸部に入部されるのですか!」
 先ほど先生と話していたであろう女子生徒が、小動物のような素早い動きで近づいてきた。
 俺がとっさの出来事に反応できないでいると、どうやら彼女はそれを肯定と受け取ったようで、全身で喜びをこれでもかというほどに表現している。
「先生! 先生! 部員、もう一人いましたよ! これで部活できますよね!」
……目が輝くってこういう目を言うんだろうな。アニメや漫画でよく見る描写だが、まさか現実でお目にかかることができるとは。生き字引と言われた姉でも見たことがないのではないか……。家に帰ってきたら自慢してやろう。プロジェクトネームは――ソラ公の逆襲とでもしようか。
「――あの……、あーの!」
女子生徒の声が不意に脳内に響く。
「え?」
間抜けな声が出てしまう。
「お名前をお聞きしているのですが……」
ああ、また自分の世界に入ってしまっていたみたいだ。自制しないとな。
「ああ、ごめん。俺は秋雨空だ」
「空さん……。いいお名前ですね」
 彼女のはじけた笑顔に思わず一瞬見とれてしまう。それを取り繕うように話しかける。
「秋月っていう名もいいと思うけどな」
 お? 秋って漢字が共通だな。遠回しに自分の名字をほめているような気がしてしまい、少し気恥ずかしくなる。
「空さん、ありがとうございます」
 特にそのことには気づいていないようである。気を回しすぎたか。
「あれ?」
 突然、秋月が首を傾げた。
「どうした?」
「いえ、その……どうして空さんが私の名前を知っているのかが気になりまして。……どこかでお会いしたことありましたっけ?」
 ああ、そのことか。当然の疑問だな。
「さっき職員室に入る前に、先生が秋月の名前を呼んでいるのをたまたま聞いただけだ」
 秋月の声に聞き惚れて、しばらく聞いていたとは言えないな。
「なるほど、そういうことでしたか。納得です!」
 秋月が頷くたび、亜麻色のショートヘアが踊るようだ。
 そんなことを考えていると、彼女は先生の方に向き直り、礼をしていた。
「出雲先生、これからよろしくお願いします。文芸部員として精一杯活動したいと思います」
 つられて俺も礼をしてしまう。……俺は精一杯活動するとは言ってないからな。自分への免罪符を心の中で確保しておく。
「秋月もそれでいいか?」
 免罪符バーンアウト! さすがです、ティーチャー!

「秋月はどうして文芸部に入ろうと?」
 一度部室を見ておこうということになり、特別教室の三階――最上階――にある視聴覚室に俺と秋月は向かっている。
「その……どうしてもやりたいことがありまして……それで、その……」
 言いづらいことなんだろうか。まあ、それはそれで構わない。無理に言う必要もないし、聞く必要もあるまい。話を別の方向にする。
「そうか。そういえば気になっていたんだが、どうして俺に対して敬語なんだ? ……秋月は新入生だよな。俺もそうだし、敬語使わなくてもいいぞ。あと、俺のことは空と呼んでくれていい」
 秋月は少し困ったような顔をする。
「そうで……、そう、だね。そうする。……初めて会う人とどう話したらいいのか、いまいち距離感を掴めなくて。……空、よろしく」
「ああ」
 そういうものか……。まあ、確かに俺も幼馴染の尚人と比べると、他の人とは話しづらいかもな。ただ、普通の友達と――友達に普通も何もあるのかという気もするが、まあ尚人以外ということにしておこう――初対面の人とを比べると、初対面の人の方が話しやすい気もするが。……互いに相手のことを知らないからこそ話しやすいっていう感じかな。……ああ、そうか、「普通」の友達は、そいつのことを中途半端に知っている分、無意識のうちに気を使ってしまっているのかもしれないな。これはいい発見になった。いい脳エネルギーの使い方だ。
「着いたね」
 どうやらまた考えにふけってしまっていたようだ。
 俺は扉を開けようとする。……が、開かない。ああ、鍵は俺が持っていたな。鍵を鍵穴に差し込み回転させる。……ん、開かない。逆か。逆向きに鍵を回し、扉をスライドさせる。
「それにしても、どうして文芸部の部室が視聴覚室なんだろうな」
 秋月から返ってきた答えは、予想だにしないものであった。
「空、……中に人がいる」
 教室内に足を向けると、おっと、木の棒につまずく。誰だよ、こんなとこに木の棒置いたのは……。やっとのことで、教室内に目を向けると、そこには確かに人がいた。
 その人――女子生徒だろうか――は、こちらに目をやると、すたすたと歩いてくる。そのまま俺たちの隣を通り過ぎる。肩ほどまである黒髪をなびかせ、凛としたオーラをまといながら。俺はその美しさに目を奪われ、動けない。
「待ってください!」
 その声に振り返ると、秋月がその女子生徒の肩に手を置いている。
「……何ですか?」
 その女子生徒が、耳につけたイアホンを外しながらこちらを振り返る。色白で目鼻立ちの整った顔――美貌と言ってまず間違いないだろう。何より印象的なのが、すべてを見通すような澄んだ瞳であろう。自分の瞳とは大違いだ。
「えーと、その……一年A組の冬川美雪さんですよね?」 
 面識があるのか?
「そうですが、……どこかでお会いしたことがありましたか?」
 ないのか。
「冬川さんは新入生総代をされていましたよね? それで――」
 そういわれると、確かに見た覚えがあるな。新入生総代だったのか。確か成績トップの生徒が毎年担当するんだよな……すごいな。ここは、県内でも3本の指に入る進学校だぞ。……俺はちなみに、下から十番目だ。
「そうでしたか。……それで、どうかしましたか?」
 秋月は下を向き、胸の前で手を強く組み、一呼吸置いたかと思うと、彼女に向き直る。
「文芸部に入ってもらえませんか」

「まず、冬川が視聴覚室を訪ねたとき、鍵はかかっていなかったというのは確かか?」
「はい、確かです」
 冬川は、そんな当然ともいえる確認に丁寧に答えてくれる。さすが新入生総代。器が大きい。
「そんなの当り前じゃない? そうじゃなきゃ、鍵を持ってない美雪が入れるわけないじゃん」
 うん、器が小さい娘もいたね。秋月、お前さっき初対面の人との距離感掴むの苦手とか言ってなかったっけ。早速、冬川のこと名前で呼んでるし、俺にぐいぐい意見言ってくるし……。どこが、距離感掴むの苦手だよ~、だよ。むしろ順応速いじゃん。

そもそもどうして鍵の話なんかになっているのかと言えば、秋月のせいだ。
 秋月の文芸部勧誘に対して、冬川は、分かりました、の二つ返事で、あっという間に入部が決まった。そして、まあ今日は部室を見られたし帰宅しようという頃に、秋月が急に、あ! と声を響かせたのだ。
 どうしたと聞けば、俺たちが部室に来たとき、どうして鍵がかかっていたのか分からないと言い出したのだ。
 そんな秋月の疑問に、冬川も確かにと賛同し、その謎? を解明するために、俺たちは奮闘しているというわけである。

「それで、俺たちが来た時には確かに鍵が閉まっていた。……冬川は、俺たちが来るまでどのくらい部室にいたんだ?」
「だいたい十分ぐらいで、二人が来ました」
 十分か……。俺たちが部室に着いたのは十七時だから、十六時五十分ごろだな。
「スペアキーみたいなものは、この学校にあったりするのか」
「ないよ、ソラ」
扉の方から急に声がした。
「この学校にスペアキーはないね。昔は鍵を紛失したときのために作っていたみたいだけど、部室のスペアキーを返却しない部活動団体が増えてしまって、スペアキーは廃止したみたいだよ。」
 扉の方を振り返ると、尚人が立っていた。
「やあ、ソラ」
 どうして尚人が視聴覚室に来ているのか。
「いやー、ソラが美少女、あっ、そちらの亜麻色の髪をした女性だね。彼女と階段を二人で仲良く上るところを見かけたから。放っておけないよ。いったい何事だろうとね」
 尚人め、いけしゃあしゃあと。
「ところで尚人、スペアキーがないというのは本当か?」
 尚人は、甚だ心外だといわんばかりである。
「ソラ、僕はジョークを言うことはあるけれど、嘘は決してつかないよ。それが僕のモットーだからね」
 こいつの戯言に付き合っている暇はない。とにかく今は事件? の整理だ。
 まず、十六時五十分ごろ、冬川は部室を訪れた。そのとき鍵はかかっていなかった。
「冬川、部室に来る前に職員室に鍵を取りに行かなかったのか?」
「はい、普通教室棟と特別教室棟は渡り廊下でつながっています。なので、一度渡り廊下で視聴覚室を訪ねてみて、もし鍵がかかっていたら職員室に行こうと考えていました」
 なるほど。俺たち一年生は普通教室棟の三階にクラスルームがあるからな。そっちの方が確かに楽だな。
「十六時五十分ごろ、鍵が職員室に存在したのは間違いないから――」
「なんでそうなるの? 私たちが鍵を取るまでの間に、誰かが鍵を鍵箱に戻したってこともあり得るんじゃない?」
 それはないんだよ、秋月。
「俺たちは十六時五十分にどこにいた? それに鍵箱はどこにあった?」
 はっとした秋月は、スピーディーに話し始める。
「あっ、私たちは出雲先生と職員室で話していた! 鍵箱は出雲先生のデスクの近くにあった! もし誰かが鍵を返しに来たら、気づくはずだもんね」
「そもそも、冬川が部室に着いたとき、どうして部屋の鍵が開いていたんだ? 誰も中にはいなかったんだろう? 前に教室を使った人が鍵を閉め忘れたのか?」
 ……しまった、解くべき謎を増やしてしまった。
「それはないと思うよ。今日の授業で視聴覚室は使われていないしね。それに、毎日の放課後に先生たちが鍵の閉め忘れがないかを確認して回っているみたいだから」
 尚人はどうしてそんなことを知っているのか。冬川と秋月も疑問に思ったようで、俺に目で問うてくる。いや、俺に聞かれても……。分からんと目で答えると、尚人はそのやり取りの意図をくみ取ったのか、補足説明を始める。
「前者について、全クラスの授業時間割は職員室前の廊下に張り出されているからね。後者は、この前、見回っている先生に会ったからね」
 後者はともかく、前者はどうなんだ……。いくら全クラスの時間割が張り出されているからって、それを確認し覚えるなんて……。
 秋月と冬川も、いうべき言葉が見つからないようである。
「見ているだけじゃダメなんだよ。観察しないとね」
 尚人は、得意げにかく語りき。

その後、事実の確認をいくつか行った。時系列に沿ってまとめるとこうだ。
 十六時五十分 冬川が部室に到着。鍵はかかっていなかった。俺と秋月は職員室で出雲先生と会話中。
 十七時 鍵を持った俺と秋月が部室に到着。そのとき、鍵はかかっていなかった。冬川は、イアホンで音楽を聴いていたため、鍵を開ける音は聞こえなかった。
 その他に分かったことといえば、部室の鍵は内側から閉めることはできない――冬川が部室に入った後で鍵を閉めた可能性はないということだ。

 最大の問題は、どうやって部室の鍵を閉めたのかってことだよな。スペアキーはないわけだし……。ん? スペアキー……。
「マスターキーはどうなんだ? ないのか?」
「あるよ。放課後の教室見回りをしていた先生はマスターキーを使っていたし」
 だったら――。
「でもマスターキーは、その放課後の見回りのときか、非常時しか使えないことになっているみたいなんだよね」
「……何らかの方法で、マスターキーを使う方法はないのか?」
「難しいだろうね。マスターキーは厳重に保管されているって聞いたし。そうそう持ち出せるものじゃないと思う」
「怪盗ルパンだったらいけると思うけど」
 茶々を入れるな、秋月。怪盗が学校にいるわけないだろ。視聴覚室の鍵を盗む怪盗なんているわけ――。ん? 盗む――。
「……尚人、その見回りは毎日行われているんだよな?」
「うん。もちろん平日のみだけどね」
 ああ、そういうことか。
「ソラ、その顔は何かわかったね?」
「ああ、まあな。……冬川、お前が部室に着いたのは、十六時五十分だよな? その時刻は何を意味していると思う?」
「何かと言われても……。部活動をする時間、でしょうか」
 そう、部活動をする時間だ。
「部活動をする時間。つまり放課後だ。先生が部屋の鍵閉めを確認する時間帯でもある。そうすると、十六時五十分から、俺たちが来る十七時までの間に、その見回りの先生がやってきたと考えられるんじゃないか」
 俺は、誰かが部室の鍵やマスターキーを盗んだと思い込んでいたが、そうではなかったのではないか。単に、日常の出来事がたまたま事件につながったのではないか。
「空、そんな偶然ってある? その十分間に先生が部室の鍵を閉めるなんて偶然が起きるなんて……。あまり信じられないんだけど……」
 秋月の言うとおりだ。
「今日、見回りをした先生に確認すれば、真偽はある程度明らかになるだろうけど、現時点ですんなり納得できるかと言われれば確かに難しいかもな」
 俺自身も納得できていないしな……。
「秋雨くん、……その可能性はないと思います……」
 どうしてだ……。確かに可能性としては低いとは思うのだけれど、別に全くあり得ないというわけでもないと思うのだが。その理由を聞こうと口を開きかけると、冬川が部室の扉を指さした。
「お、まだ部室にいたのか。初日だからって、そんなに根を詰めないように。じゃ、鍵閉めよろしくー」
 そこには、マスターキーを片手にもった出雲先生が立っていた。先生は俺たちに背を向けると、そのまま立ち去ろうとする。
「先生、待ってください!」
「どうした?」
「……今日の見回りは、出雲先生が担当なんですか? この部室を見回るのは、これが初めてですか?」
 先生は、ああ、今日初めて来た、と言い残すと、そのまま他の部屋の見回りに戻っていった。
 一体どういうことなんだ? 放課後の見回りは行われていなかっただって……。ということは、マスターキーで鍵を閉めた可能性はゼロだといってもいいだろう。冬川が閉じこめられた(?)時間に、見回りの担当である出雲先生は俺たちと話していたのだから。……その間にマスターキーが使われたようなイベントも職員室では起きていなかった。マスターキーに可能性がないとすれば、もう一つの候補である部室の鍵そのものだが、これも俺たちが出雲先生と話している間に使われてはいなかった。
 鍵を使わずに鍵を閉めたということか? そんなことが可能だろうか? 訳が分からん……。
「ああ、分からん。何か気づいたことがあったら言ってくれ。手詰まりだ。俺の脳エネルギーは底をついた」
 もはや俺には解く気力は残されていなかった。
「気づいたことね……。出雲先生はとても美しかったね。女子目線でもそう思うだろう? 冬川さん、秋月さん?」
「尚人、この事件に関係のありそうなことを言え」
 尚人は、にんまり笑いながら肩をすくめる。……絶対楽しんでるよな、こいつ。後で、料理研究部の奴らに、尚人の嫌いな食べ物の一覧表を渡してやろう。感謝しろ、尚人。好き嫌いはダメなんだからな。
 そんな戯言思考をしていると、秋月が急に思い出したかのように声を響かせる。
「あ、出雲先生っていえば、どこかお淑やかさも兼ね備えている感じがいいよね――。私もあんな女性になりたいな――」
 ……お前も出雲先生の話か。確かにお淑やかでもあるな。さっきだって、足音が静かで、先生が近くに来るまで気づかなかったし。出雲先生への道は険しいぞ、秋月。お前は、どちらかと言えば、「元気溌剌な足音女子高生」だろうから。まあ、足音でお淑やかさが決まるのかと反駁されそうなので、本人には言わないが。……ん、ああそういうことか。
「分かったかもしれない。……絶対当っているとは言えないが」
「お! 私のおかげだね! いえーい!」
 ピースサインを俺の顔のところに持ってくる秋月。まあ、確かに秋月の言葉が手掛かりになったんだが、そうも得意がられると嫌味の一つでも言いたくなるな。さて何を言ってやろうか、と考えていると、秋月がピースをどんどんと俺の方に近づけてくる。褒めろ褒めろと言いたげである。そんなに近づけると目に刺さっちゃうでしょうが。何、もしや俺はかつて秋月から恨みを買っているなどという、よくアニメで見るような設定なのか……。と、そんなしょうもないことを考えていると、本当に秋月のピースが俺の眼球を貫かんばかりの距離まで来たので、しぶしぶ答える。
「ああ。……ありがとう、秋月。秋月の言葉がヒントになった」
 秋月はピースの矛先を冬川に変え、冬川に抱きつこうとする。それを視界の端にとらえながら、俺は話を進める。最後の確認をしておこう。
「冬川、部室に入るときに、イアホンはつけていたか」
 冬川は、抱きつこうとしてくる秋月を抑えながら返事する。
「はい、していました」
 了解。
「考え方の方向性自体は間違ってなかったんだ。つまり、誰かが部室の部屋の鍵を意図的に閉めたっていう点は、これまでの状況から考えにくい。マスターキーと部室の鍵は使える状況じゃなかったからな。……秋月、もうそろそろやめておけ。それより、聞きたいことがある。秋月、部室に入るとき、何か気づいたことはなかったか」
「うーん、そうだね。ドア開けるのに手間取ってるなとは思ったけど」
 ああ、ちゃんと見てるんだな。
「そうだ、俺は部室の部屋のドアを開けるときに手間取った。あのときは、鍵の回す向きを間違えたのかと思ったが、そうじゃなかったんだ。実際、鍵を回した二回とも手ごたえがあったからな」
「つまり、ソラは鍵を自分で閉めて、自分で開けたってことかな」
 尚人が自然に会話に入ってくる。
「でも、それだと、どうしてソラが一回目鍵を閉めることになったのかよくわからないよね。もちろん、鍵を鍵穴にさす前に、鍵がかかっていることは確認したんだろ?」
 さすが、尚人。察しがいい。
「その通りだ。俺は鍵がかかっていることを最初に確認した。……ただ、実際には閉まっていなかったんだ」
「空、ちょっと意味が分からないんだけど。鍵が閉まっていないのに、鍵が閉まっていたってどういうこと? 誰かが扉を押さえていたとでもいうつもり? 意味が分かるように説明して」
 確かに、遠回しな言い方だったか。気分が少しハイになってるみたいだな。脳エネルギー消費を削減していこう。
「つまりだな、俺は鍵が閉まっていると思い込んでしまったんだ。実際は、鍵が閉まっていたんじゃなく、扉が閉まっているような状態が作り出されていたんだよ。……あの木の棒によってな」
 俺は扉の近くに倒れている木の棒を指さした。
「おそらく、冬川が部室に入る前は、あの木の棒は扉がスライドするところに軽く立てかけてあったんだ。冬川が扉を開けたときに木の棒と扉が接触して、木の棒が倒れて扉がスライドするところに斜めに倒れて、突っかえる形になってしまったんだ」
 俺は扉に近づき、木の棒を手に取る。
「ほら、こんな感じに木の棒が倒れると、扉が開かなくなってしまう」
「でもそれだと、どうして鍵を二回目回したときに扉が開いたの? 木の棒がその状態だといつまでたっても扉は開けることができないんじゃ――」
 秋月の疑問はもっともだ。
「それは、こうなるんだ」
 俺は、扉を開けようと、スライドさせる。床に向かって木の棒が倒れていく。
「「「あ!」」」
 三人の声が部室に木霊する。
「そうか! 扉を開けようとした際に、棒に振動が伝わって、棒がスペースから外れるのか! ああ、そういうことだったのか」
 尚人はこの現象に興奮したようで、早口でまくし立てる。
「なるほど、そういうことか」
「そうだったのですね」
 女子の二人もしきりに頷いている。
「でも、木の棒が倒れたら、音で美雪が気づくんじゃないかな? それか、美雪が部室を訪ねたときとかも、気づく機会はあっただろうし。……美雪は今初めて木の棒のこと知ったんでしょ?」
 秋月はうんうん言いながら、美雪に話しかける。
「それは、たぶん私が音楽を聴いていたから。……私、音楽を聴いているとき、他のことに対する注意がおろそかになるので」
 冬川は少し恥ずかしそうにしながらつぶやいた。
 俺がそのかわいさに見とれていると、尚人が話を進める。
「冬川さんは、それで木の棒に気づかなかったのはいいとして、どうして扉の向こう側にいたソラと秋月さんは、棒が倒れる音に気が付かなかったんだい? 扉を隔てているといってもすぐ近くの音だし、気づいてもよさそうなものだけど」
「ああ、それに関しては、俺もずっと引っかかっていたんだが、秋月の言葉がヒントになって分かったんだ。……視聴覚室は防音なんだよ」
 出雲先生にあのときすぐに気が付けなかったのは、もちろん出雲先生のお淑やかさによるものもあっただろうが、この部屋が防音だった影響もあったのだろう。それにしても、この木の棒は一体何に使うのだろうか。
 棒をまじまじと見ていると、冬川が教えてくれる。
「出雲先生が使われるみたいですよ。そこのボタンを押すために」
 冬川が斜め上を指さす。そこには、エアコンのスイッチと思われるボタンがあった。
 なるほど、今はオフか。道理で暑いわけだ。

 その後、俺たちは鍵を職員室に返し、家路についた。
「楽しい一日だったね――。美雪もそう思うでしょ」
 秋月はまたもや冬川に抱き着こうとする。なに、もしかして冬川って、体がひんやりとして気持ちいいのか、名前みたいに。……どっかのラノベでで見た設定だな。
「あ! そうだ。夏目くんも文芸部入る? 人多い方が楽しいだろうし」
「そうだね、入ろうかな。料理研究部の活動もあるから、ときどきしか来れないかもしれないけどね」
 あー、これはまた面倒くさいことに。そんなことを考えながら、三人の後ろを歩いていると、秋月がこっちにやってくる。
「空も楽しかった?」
 秋月の声が、夕暮れの町の空気を震わせる。
「……ああ、楽しかった」
 そうも無邪気な笑顔を向けられると、ジョークで返そうという気がそがれる。
「それはよかった!」
 そう言うと、秋月は前の二人のところへ駆け出していく。
「ねえねえ、部長はどうしようか?」
「そうだね、僕やソラはそういうの向いてないからねー」
「私も生徒会の仕事の方で、それほど参加できないと思いますし――」
 秋月には、つい楽しいと答えてしまったかと思っていたが、実際は、確かに楽しい時間を過ごせたかなと感じる。この部活でしばらく活動してみるのも悪くはないか。部長はごめんだが……。そんなことを考えていると、ふいに疑問が生まれる。ああ、そういえば、今回部室の扉が閉まることは説明できたが、部屋の鍵が開いていたのはなぜだったんだろう……。まあ、考えなくてもいいだろう。可能性はいろいろと考えられる。いくら楽しいといっても、今日の分の脳エネルギー残量はもうない。……それに、すべて明らかになってしまえば、今日という時間が味気ないようなものに変わってしまう気もする。素敵な何かが残っている方が、魅力的に感じるというものだ。
「空、歩くの遅いってば――」
 秋月を含む三人が、こちらを振り返る。
「ちょっと待てって」
 俺は駆け出す。少しばかりの青春を肌に感じながら。

青春はミステリアス ©天星 空

執筆の狙い

小説を読む側から書く側になりたいと感じ、自分なりに書いてみました。
こんな高校生活を送ってみたかったと感じてもらえるような小説を書いてみたいと考えて執筆しました。

初めて書き始めた作品なので荒削りの部分も多く見受けられるかとは思いますが、色々とご意見いただければ嬉しいです。

よろしくお願いします。

天星 空

60.56.59.83

感想と意見

岩作栄輔

拝読いたしました。全部は読めていないのですが、セリフのやり取りがわざとらしく感じました。今の朝ドラのように理想的な嘘臭い会話だと思いました。

主人公はソラとい名前だと思うのですが、よくその名を入れて会話がなされています。僕の周りでそんな気色悪い人間関係は見たことがありません。

ソラは文芸部に入ろうと職員室の前で立ち聞きしますが、最も離れた机でされていた会話が、扉の外に事細かに聞けていたのは不思議なことです。

リアルでない描写が多すぎるのではないか? というのが感想でした。

2017-04-17 18:10

118.241.242.109

佐藤

読ませていただきました。

印象としては「エロゲーの導入かな?」です。
逆に言えば、その方向性で進めるのであれば、アリではないかな、とも思えます。
この「物語の冒頭」を読むうえではどのようなドラマが展開するかは窺い知れませんが、
上で岩作栄輔さんが仰る嘘くさい会話、と言うのは使いようによってはギミックになるとも思います。

一例を挙げると「空さん……。いいお名前ですね」と言うセリフ。
エロゲ―以外で、初対面の人間からこの言葉が飛び出てくるシーンは、
おそらくキャバクラになると思います。

と言うわけで、現状感じる「送ってみたかった」高校生活と言うのが、
いわゆるハーレムものになるのかな、と言う印象です。
仮にそうでないとしたら、この表現だと読者は早々に離脱すると思います。

書き始め、とのことですし、いろいろ挑戦してみてください。
一回でも書かれたら、例えば天星 空さんが描きたいような物語を展開している小説を読むときに、
得られる情報が格段に増えるのを実感できると思います。

2017-04-18 17:56

126.36.64.124

岩作栄輔

追記

冒頭のラインは読んでて、その時点で違和感を覚えます。こんなメールを書く人はいないと思えました。

・・・わたしはいまUCLAにいます。アメリカでの研究生活はとても刺激的、さすがは超大国ね。
→何が刺激的なのか?たぶん本当だったら、ひとつくらいは刺激的の中味を述べてると思う。
 
・・・この前、高校の入学式だったのよね。連絡遅れたけど、高校合格おめでとう。
→たぶん入学式だったのよね?などと聞かず、遅くなったけどオメデトー!となると思われる。知っていることをわざわざ相手に確認するような、まだるっこしいことをするのはドラマの中だけだと思われる。多かれ少なかれメールというものは贅肉そいだ直接的なものだから。

・・・このまま文芸部が消えた状態なのは、OGとして忍びないわ。幸い、顧問の先生に話は通してあるから、スムーズに再開できると思う。 
→なんでしのびないのかがわからない。また幸い、の使い方が間違っている。


客観的に考えることが大事だと思います。

2017-04-20 23:49

118.241.242.109

天星 空

岩作栄輔様

ご意見ありがとうございます。

ご指摘を受け、確かに現実的でない描写が多いなと感じました。今後気を付けて執筆します。

また、読者がスムーズに物語に入れるような客観的描写も意識します。

今後もよろしくお願いいたします。

2017-04-22 16:32

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天星 空

佐藤様

ご意見ありがとうございます。

自分の書いたものを読み返すと、ご指摘の通り、物語を通じて何を伝えようとしたいのかがはっきりしないなと感じました。

今後は書きたいテーマを活かせるような描写や表現を心がけていきたいと思います。

今後ともよろしくお願いします。

2017-04-22 16:36

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