作家でごはん!鍛練場

『虎』

藤光著

私はエンタメ小説しか読んでこなかったので、純文学がなんなのか、どういった点でエンタメと異なるのか、興味も関心もありませんでした。
「私は純文学作家です」という人のインタビュー記事を読み、ネットで「純文学」を検索してみた私が、文学とか小説の暗くて深い洞穴を覗き込んでみた、その試みがこのお話です。

短いですが、書いていて疲れました。
犯人取り逃がした刑事の話です。

人物と距離を置きたくて「〜た」という表現を今までになく多く使いました。慣れないため、文章が荒れているかも知れません。

よろしくお願いします。

 ある日、虎がいることに気づいた。自分の妻と子供を殺した犯人を目の前で取り逃がしたあの日のことだ。
 左胸の内ポケットに逮捕状。前夜から張り込みをしていた車内。冷たい雨の降りしきる中、私はずっと見ていた。西の空に月が残る夜明け前、マンションのエントランスからバッグを持って出てきた男が背を丸めて歩いていくのを見ていた。
 ドアグリップを握って車を出ようとしたその時に、反対側の歩道をこちらへやってくる男の持つ黄色いバッグの柄が虎の肩口に盛り上がる筋肉のようにうねって見えた。吸い込まれるように視線をバッグに向けたその拍子に、バッグの模様が虎の肩口から首へ、首から頭へと次々に変わってゆき、きらきらひかる虎の金色の目が、車の中にいる私を覗き込んだ。確かに私を見ていた。
「藤光さん!」
 左腕を掴まれて我にかえると、私は右手の関節が白く浮き上がるほど強くドアグリップを握りしめていて、男は街灯のある角を曲がって姿が見えなくなるところだった。あわてて車を降りて後を追い、街灯の下から曲がっていった通りを見透かしたが、ゴミ袋を漁るカラスと空を映した白い水溜りがいくつか見えただけで男の姿はすでになかった。相棒の田中が真っ青な顔をのまま、通りをカモシカのように駆けていった。ぱっとカラスが飛び退るが飛び立たない――。虎が通ったのならカラスは飛び去ってもういないだろう。あの男は見つからないだろう。途端に行き場を失った左胸の逮捕状が重く感じられた。

 部屋にはすえた匂いがこもっていた。ほとんど窓を開ける者がないからだ。その南向きの窓には常にブラインドが下されている。部屋の一角を照らしている電極の黒ずんだ蛍光灯は間断なく明滅していてなんとなく気ぜわしい。
 刑事課長の席はそんな部屋の窓際にある。私は皆より一回りは大きい課長の机の上に、お返ししますと言って逮捕状を差出した。そのときの刑事課は、人がほとんど出払っていてがらんとしていた。私が取り逃がした犯人の行方を追っていたのだ。
「どうして逮捕しなかった」
 差し出した逮捕状を机に収めながら、課長は声を震わせてそう言ったが、この人はなぜ私が男を逮捕しなかったのか訊いているのではなかった。犯人を取り逃がした私の弁解や謝罪を聞きたいのだ。馬鹿馬鹿しい。そうであれば「謝罪しろ」と言えばいい。
「どうした。なにも言えないのか」
 別になにもありませんと答えると課長の顔色が変わった。おおかた私が平身低頭、犯人を逮捕できなかったことを謝罪すると思っていたのだろう。くだらない。
「馬鹿にするな!」
 そうだ。人は自分が他人からどう評価されているか、そればかりが気になる存在だ。
「犯人を目の前にして逮捕しないとはどういうことだ! お前は殺人事件の犯人を取り逃がしたんだぞ」
 確認されるまでもない。課長のいうとおりだ。
「刑事として失格だ!」
 欠員が出たため刑事課にいるだけだ。好きで刑事をしているわけではない。気の進まない私を刑事課に引っ張ったのは当の課長ではないか、なんと滑稽な人だろう。このとき部屋の匂いが急に強く感じられた、鼻が曲がりそうなほどに。
「なんとか言ったらどうだ」
 言いたいことはあった。ただこの人の聞きたいのは、私の言い分ではなく、この人が「聞きたい」と思っていることだ。それは私が失態を認め、謝罪するということなのだろう。しかし、私の失態とは何を指していうのか。
「お前は殺人犯を逃したんだ!」
 顔を歪めて課長が言った。
「殊勝におとなしくしているつもりか知らんが、お前のだんまりは薄気味悪いだけだ。きちんと話せ。
 おれだけじゃないぞ、刑事課のみんながお前のことを気味悪がっている。何を考えているか分からないってな。その挙句に今朝の犯人の取り逃がしだ。変人だとは思っていたが、役立たずだったとはな。お前はクズだ。失格だ!」
 課長は手を上げ、立てた人差し指を私に突きつけた。結局、この人はこれが言いたかっただけだ。怒りに任せて、私がだめなクズ人間だとぶちまけたかったのだ。なんのために?
「お前のために言っておいてやる。もっとほかの刑事が何を考え、どう動いているのかよく見て勉強しろ。自分に足りないものがわかるだろう。
 そしてもっとみんなと協力しろ。刑事としての資質に欠けるお前は、一人では何もできないんだからな」
 こう言うことで私だけでなく、自分自身も欺こうとした。この人は。
 私の人格をクズとまでこき下ろした後に月並みな教訓を垂れたところで、聞いている私がどう思うのか。誠意のない助言を吐くことが免罪符となり得るのか。この人には決定的に想像力が欠けていた。
 さらに匂いが強くなってきた。
 なんだこの匂いは。獣……。そう、子供の頃見物に行った動物園の匂いだ。動物の体臭と糞尿の匂いだ。
 ――臭い。
「なんだと!」
 突然、課長が怒り出した。事務机を激しく叩いて腰を浮かせた。いまにも私に掴みかかろうとするような勢いだった。
「やっと口を開いたかと思えば臭いだと。人を馬鹿にするのもたいがいにしろ!」
 何を言っているのか分からなかった。顔を真っ赤にして口汚く私を罵るが、私は何も言っていない。馬鹿にされていると思い込んでいれば、ありもしない声が聞こえるのだろう。そんなことよりも匂いだった。獣の臭気に私は閉口していた。
 ――我慢しなくていいぜ。
 ひときわ臭気が強くなった。思わず口と鼻を押さえる私を見て、課長はあっけにとられていたが、そんなことを気にしてはいられなかった。私は失礼しますと言い置いて部屋を出た。
 部屋を出ると臭気は幾分か収まったが、私はそのまま便所に駆け込んで激しく嘔吐した。そのとき何かが私のそばにいた。獣の気配。
 ――すっきりしたろ。
 どろりと赤茶けた吐物と共に私を苛んでいた不快感が少しずつ便器の排水口へ流れ込んでゆく。涙を流しながら嘔吐し続ける私の視界の端を金と黒の縞模様がよぎっていった。

 違和感があった。
 本当に刑事になりたいわけではなかった。警察に就職したのも、生活していくためのお金を得ることと、なにより無職でぶらぶらしていることの体裁が悪かったのが理由だった。
 それまで交番で勤務してきた私が一年前、刑事課に配属となった。それは警察官となってから一番恐れていたことだった。私は刑事に向いていない。
 刑事は人の自由を奪う装置だ。
 ずっとそう思ってきた。
 犯罪を犯した者を探し出し、逮捕する役割を与えられた職業であり、この世界をきれいにしたいと考える人たちによって設置された、穢れた人たちを捕獲するための装置。
 自分は穢れていないと考えられるほど、私は傲慢でなく鈍感でもない。しかし、世界には私と異なる考えの人がたくさんいると刑事になってみて初めて知った。刑事は自分が穢れているなど夢にも考えたこともない人たちばかりだった。不思議だった。
 自らの権威の源泉に疑問を持つ者に、その権威をふりかざす資格や能力はない。私は間違いなく刑事として失格だ。
 今朝の男は三日前、自宅で妻と小学生の娘を殺していた。4LDKのマンション。妻は玄関で、娘は寝室で殺されているのを発見された。刃物による刺殺。傷つけられながらも妻は夫から逃れようとしたのだろう、食器がぶちまけられ家具が引き倒されていた室内は至る所に血痕が飛び散り、血溜まりが形作られていた。凄惨な現場だった。
 竜巻が通り過ぎたかのように家具や衣服、食器が散乱した室内を呆然として歩き回るうちに、寝室の南側にあるベランダに奇妙なものが印象されていることに気づいた。窓を開けて見ると獣の足跡だ。猫の足跡? いや、並ぶ肉球は私の手のひらより大きい。なんだろう。
 しかし、コンクリートがわずかに濡れていただけのその足跡は見る間に形を失って消えてゆき、後で行われた鑑識活動でも発見されなかった。思えばこのとき、私の中に虎が棲んだのだろうか。
 現場から姿を消したこの家に住む男は、体調不良を理由に半年前から会社を休職していた。勤務態度などを捜査するために会社の同僚を訪ねると、事件の発生を驚きながらもどこか腑に落ちたような表情で男の話をしてくれた。
「……ええ。勤務態度は真面目でしたね。欠勤はないし、営業成績も普通でしたよ、よくもなく悪くもなく。ただね……」
 同僚は一段声のトーンを落として続けた。
「評判は良くなかったですよ。社内でも取引先からも。とにかく暗いんです。あまり話さないから何を考えているか分からないし。そうかと思うと、突然一方的に自分の考えをまくし立ててみたりしてね。
 一緒にいて気持ちのいい男じゃなかったですね。当然、付き合いも悪かったし、薄気味悪いってみんな言ってましたよ」
 今回の男に限ったことではない。犯人の周辺への聞き込みは、いつもこうした内容になりがちだ。ネガティヴな印象ばかりが芋づる式に関係者の口から次々と語られるのだ。他人の悪印象や性格の欠点を語るとき人は饒舌になる――このことを知ったのも刑事になってからだ。
「休職前の様子ですか……? 特に変わった様子は……そう、病院に通っているような話をしていました。なんの病気かはっきりしないのですが、確かそんなことを言ってましたね……」
 同僚のあいまいな記憶が男の潜伏先の発見につながった。自宅にあった診察券から突き止めた病院に聞き込みに入ると、男は一年前から妻とは別の女性と一緒にこの病院の心療内科に通っていた。病名はアルコール依存症。男はここの断酒セミナーで知り合った女性と不倫関係になっていたのだ。
「個別に患者さんのプライベートに関することをお話しするわけにはいかないのですけれど――」
 そう前置きしながら、病院職員は答えてくれた。
 アルコール依存症という共通の悩みを抱えた者同士が集まるセミナーでは、参加者の間に恋愛感情が芽生えるということは時折あることだという。本人の苦痛が、家族や友人との間で共有されないケースではその傾向が特に強くなるらしい。
「そうした方は、そのうちセミナーにも参加されなくなることが多いです。その男性はここ数ヶ月、参加されていませんでした」
 私たちも気にはなっていたのですがと、職員は表情を翳らせて口をつぐんだ。男の症状は時折怒りっぽくなる程度で断酒できていたという。
「ただ、ご本人がおっしゃる限りにおいて――です。こうした取り組みは患者さんに対する信頼なくして成り立ちませんから」
 そして、その信頼が裏切られたところで傷つくのは治療者ではなく、裏切った当の患者であるのだろうから。病院もセミナーも所詮は偽善者の自己満足に過ぎない。私は不倫相手の女性の住所と氏名をメモに控え、病院を後にした。
 聞き取った住所にあるマンションの前で張り込むこと六時間。買い物袋を抱えた犯人の男と若い女がマンションのエントランスを入ってゆくのを見届けて、私は本署の刑事課長に連絡を入れた――犯人の居場所を突き止めましたと。
 車の外では雨が降り出していた。

 部屋へ戻ると課長の姿はなかった。留守番の刑事に訊くと、犯人捜索のため現場へ出かけたという。不快な匂いは嘘のように消えていた。
 廊下へ出たところで胸の携帯電話が鳴った。相棒の田中だった。
「なにしてんスか、藤光さん」
 電話越しの声が鋭く尖っていた。まだ本署にいると答えると若い刑事は露骨に舌打ちしてこう言った。
「あんた自分の立場分かってます? あんたが逃した犯人だ。あんたが探さずにだれが探すっていうんです? どうしておれやほかの刑事たちがあんたの尻拭いをしなきゃならないんだ」
 私の立場? どういう立場だ。犯人を取り逃がした愚かな刑事という境遇のことか。そのことで部下の相棒に蔑まれる惨めな男という役回りのことを言っているのか。
「黙ってないで……んとか言ったらどうです。もっとも何か言……ことがあるとすればですけど……」
 電話の向こうは風が強いのか、時折雑音に声が途切れていた。ごおごおと鳴る音に声が聞き取りにくいが、おかげで田中の皮肉をすべて聞かされずに済んだ。
 どこにいるのかと訊くと、男を見失った現場近くのビルをしらみつぶしに捜索しているという。付近の道路は閉鎖され、大規模な検問も行われているらしかった。
「……猫の手でも借りたい……」
 田中がぬけぬけとそう言うの聞いていると、私は猫と同レベルということなのだろう。猫か。
 どこへ行けばいいか尋ねると田中は鼻を鳴らして笑いながら言った。風の音が強い。
「……んた、馬鹿か。部下に指示……乞う上司がどこにいるっていうんです。……たおれの上司でしょ……」
 馬鹿――。私はこれまでもずいぶんと馬鹿にされてきた。良い年をした中年の刑事が、一回り下の若い刑事でも知っている捜査の基本を知らないからだ。聞き込みのコツや犯人捜索の要点、報告書の書き方に至るまで、刑事課の仕事は今までの部署とはまるで違う。私が積み上げてきた経験や知識はここでは無意味だった。
『こんな基本的なことも知らないのか』
『捜査を知らない』
 そんな声が聞こえてくるたびに私は体を固くした。私の存在が皆の足を引っ張っていると思った。そして間違ったことをして迷惑をかけるくらいなら、できることから少しずつやっていこうと考えるようになった。
 すると聞こえてきた声はこうだ。
『あいつは何もしない』
 私は途方にくれた。
 そして自分の心が柔らかさを失って、硬く硬くなっていくことを自覚した。小さく凝り固まってゆく心を――。
「……てます?」
 携帯電話のスピーカーごしに、ごろごろと鳴る音が田中の声を遮って聞き取りにくかった。獣が喉を鳴らしているような太くくぐもった音だった。
 猛獣が喉を鳴らすような――?
「さっさと来て……探して……さいよ」
 ますます大きくなる雑音に若い刑事の声はほとんど聞き取れなかった。
「あんたが……逃したんだ」
 ぐあるるるるるぅ。
 ひときわ大きな獣の唸り声に声はかき消された。
 ――黙れ。
 電話の向こうから唸り声に混じって、田中が息を飲む気配が伝わってきた。
 ――いつまでこんな若僧に好きなことを言わせておくつもりだ。
「……藤光さん、……なにを……言ってるんです?」
 相棒の刑事の声は戸惑っていた。
 ――おれが食いちぎってきてやろうか。
「藤光さん……!」
 暗く長い洞穴の底から響いてくるような咆哮に田中の声は最後まで聞き取れなかった。私はその咆哮を耳にするとぞっとして、途端に見当識を失った。
 我にかえると携帯電話を握りしめたまま、薄暗い警察署の廊下に立ち尽くしていた。相棒からの通話は切れていた。

 田中の話していた現場に着いてみると、誰ひとり刑事の姿はなかった。道路を封鎖し、検問している制服警察官に尋ねても田中たち刑事がどこにいるのかは知らなかった。
「捜索範囲を広げたのではないですか」
 警察官の言うことがもっともに思われた。犯人逮捕のため、警察は付近を三ブロック四方にわたって封鎖していた。全体として九ブロックの封鎖だ。このエリアを捜索のための人数は圧倒的に不足している。
 ――猫の手も借りたいわけだ。
 相棒の言い草を思い出した。
 携帯電話で呼び出すが、刑事はだれも応答しない。犯人の捜索に入っているのなら当たり前だ。私は、田中が捜索していると言っていた雑居ビルに入った。あてもなく探し回るより、この建物を探す方が相棒に出会える可能性は高い。
 小さな古いビルだった。埃っぽいエレベーターホールを照らしている蛍光灯は一本きりで薄暗い。入居しているテナントを示すプレートは一階の飲食店と二、三階の消費者金融以外は真っ白だった。ろくでもない。
 時刻は十時前で、開店に向けて仕込みをしている飲食店のほか、ビルに人の気配はなかった。静かだった。歩くと靴が床を打つ音がコンクリートの壁に共鳴した。
 各階を見て回るため、エレベーターホール脇の狭くて更に暗い階段を上りはじめた。最初の踊り場で足が止まる。
 ――足跡だな。
 ぞっとして血の気が引いた。
 踊り場の床に手のひらほどの獣の足跡がべたりと印象されていた。あのベランダで見た足跡だ。階段を上へ向かっている。
 足跡を追って階段を上る。二階、三階、四階……。だんだん、ここで犯人の男を追っているのか、獣の足跡を追っているのかわからなくなってきていた。足跡は点々と階段を上へ続いている。
 ――屋上まで続いているのさ。お前は知っていたはずだろう。
 やはり、そうだろうか。
 今朝、女の住むマンションから姿を現した男に生きてゆく意思は感じられなかった。死ぬ覚悟といったような決然としたものではない、未来を絶望した空気を纏っているといったらいいだろうか。
 男は間もなく死ぬ。
 ――虎だな。
 そう。あのとき男の中に棲む猛獣が、張り込みの自動車から飛び出そうとした私の目を覗き込んできたときに、私は確信した。私も獣の目を通して男の深奥に繋がったと。
 男の内は空っぽだった。
 ――それはお前の思い込みではないのか。
 思い込みなどではない。私には分かっているのだ。なぜなら――。
 追ってきた足跡が扉の前で途切れていた。その大きな鉄の扉は階段を登りきったところにあり、階段室と屋上とを隔てていた。ノブを握るとひやりと冷たい。鍵はかかっていなかった。
 ぎっ。
 錆びついていて軋む。しかし開きそうだ。
 私はこの扉を開けてどうしようというのだろう。この向こうに何があるのか、何かが待っているのだろうか。待っているのは犯人の男か、相棒の田中か――足跡を残した獣だろうか。
 ぎい。
 扉を押しひらく。ぽかんと空に向かって開かれた空間に物影はなかった。ただ重く垂れ込めた灰色の雲が、林立する高層ビルの額縁に切り取られたように見えているだけだった。人はいない、獣もいない。
 体の緊張を解いて屋上へ足を踏み出した。やはり誰もいない。歩いていって屋上の縁から地上をのぞき込むと、道路の閉鎖がまだ続いているのだろう車の行き来は少なかったが、街はいつもの光景だった。もちろん飛び降りた犯人の死体が見えるなどということもない。ここには何もなかったのだ。
 私はほっとすると同時に、これからどうしようと考えよどんだ。連絡も取らずぐずぐずしているとまた課長から叱責されそうだった。そんなところで何をしているんだ、早く捜索に合流しろ――。
 携帯電話を取り出して課長の番号を呼び出しタップする。呼び出し音。出るな。電話を取るな無視してくれ。
「――もしもし」
 課長はでた。
 ――きたぞ。
「なに?」
 不審そうな課長の声を置き去りにして、顔を上げるてみると、いましも階段室からひとりの男が姿を見せるところだった。血の気の引いた顔で空をふり仰ぎながら目をすがめている。さっきの私と寸分と違わぬ様子で。
 途端に脳裏に蘇る家具が引き倒され衣服や食器が散乱したマンション。血溜まりに溺れたかのような姿勢で死んでいた女。涙でシーツを濡らしながら冷たくなっていた子供。
 やつだ。
 男は焦点の合わぬ目で屋上を見渡すと、私を認めて一瞬凍りついたように動きを止め、ゆっくりとこちらへ歩きはじめた。
 ――やつだ。やってきたぞ。
 そんなことは分かっている。なんだ? さっきから聞こえるこの声は。だれだ? 私に語りかけるのは。
 だらりと垂れた手に握った携帯電話からは、課長が私を呼ぶ声がかすかに聞こえる。藤光。どうした……なにがきたんだと。もう、どうでもいいことだが。
 まるで滑るようになめらかな歩調でやってくる男は口元に笑みを浮かべていた。最初はかすかに。そして次第に大きく笑み崩れて白い歯が露わになった。
「そう。きてやったよ。あんた、刑事だったんだな」
 青白い顔をした男はようやく聞き取れるほどの低い声でそう言った。だれに対して? 視線は私を貫き通してずっと彼方に向けられていた。何を見ている?
 ――知っていたはずだ。それに決めているんだろう? こいつをどうするかを。
「そう言って自分を誤魔化すのはやめろ」
 男は『声』に応えていた。どういうことだ。この『声』は何者だ。男に気圧されて私はよろよろと後退る。
「あのセミナーで会ったよな。話したじゃないか。自分を誤魔化すのはやめようって」
 親しげに私の肩に触れる男の目は焦点が合っておらず、私でないものを見つめていた。私の中に棲むものを見ていた。それを見抜かれることはとても恐ろしかった。
 ――その手をふりほどけ。
「あんたは虎を棲まわせちゃいけない」
 振り払おうともがいたが、力を入れているように見えない男の手は吸い付いたように肩から離れなかった。得体の知れない恐怖と焦燥感に私は頭を抱えてその場にうずくまった。
「自分の声で語らなくちゃいけない」
 震える背中に手が置かれるのを感じた。
 ――!
 そのとき獣のような声が長くながく私の喉から発せられるのを聞いた。この耳に確かに届いた。虎が咆哮するのに似た私自身のさけび声が。

 これで私の話は終わる。
 男はコンクリートの床にうずくまったままの私をそのままに、屋上の縁まで歩いてゆき、躊躇なく虚空にその身を躍らせる。そこには一瞬の逡巡もない。数秒をおかずに男は地面と激突するだろう――。

 彼にそうする自由があるべきだと私が思ったとおりに。
 
 

©藤光

執筆の狙い

私はエンタメ小説しか読んでこなかったので、純文学がなんなのか、どういった点でエンタメと異なるのか、興味も関心もありませんでした。
「私は純文学作家です」という人のインタビュー記事を読み、ネットで「純文学」を検索してみた私が、文学とか小説の暗くて深い洞穴を覗き込んでみた、その試みがこのお話です。

短いですが、書いていて疲れました。
犯人取り逃がした刑事の話です。

人物と距離を置きたくて「〜た」という表現を今までになく多く使いました。慣れないため、文章が荒れているかも知れません。

よろしくお願いします。

藤光

182.251.255.36

感想と意見

GM91

モチーフはいいと思います。ただ、うまく描き切れていない感じがしました。
本作の主軸が犯人取り逃がした刑事の話、だとするならば、主人公の胸の内だとか言動にもっと字数を費やしてもいいんじゃないかなと感じます。

あと、細かいところですが、

・主人公は見張りを解かずに電話できなかったのでしょうか? あるいは複数名で張り込みしないのでしょうか?

・俗にいう刑事さんも警官には違いなく、作中での「警察」「警察官」という言葉の使い方にやや違和感を感じました。

2017-04-15 09:27

202.215.168.236

岩作栄輔

拝読させて頂きました。
全部読めていないので内容について述べることは出来ないのですが、冒頭部分で表現におかしなところが気になりました。

『吸い込まれるように視線をバッグに向けたその拍子に、』
・・・という文は、吸い込まれたという受身のはずが、向けたという能動あるいは積極的な行動になっています。矛盾を感じます。
吸い付けられるように目が離せなくなった、とかいうべきではないでしょうか。

『我にかえると、私は右手の関節が白く浮き上がるほど強くドアグリップを握りしめていて』
・・・ドアを握る手元をまじまじ眺める暇な刑事はいないでしょう。犯人検挙に集中しているのだから、よけい目線は窓の外からはずせません。
夜明け前の車内なら暗くて、手元を見たとしても白く浮き上がっていることは確認出来ません。

2017-04-15 16:05

118.241.242.109

ラピス

文学というより、これはエンタメだと思います。いわゆる人間の深淵を今ひとつ覗き切れていないので。
何考えてるかわからないやつ、てのは内向的なイメージですが、ハードボイルド風なこの作品と意外と合っていました。
虎。上手くいけば心に残る話になりそうです。まだ推敲が必要な感じがします。

2017-04-15 18:42

49.104.35.180

藤光

GM91さま

感想ありがとうございます。
ご無沙汰しています。

モチーフはいい……そうですか、ありがとうございます。わたしもそう思います、モチーフはいい。でも、うまく料理できていないということですね。

>本作の主軸が犯人取り逃がした刑事の話、だとするならば、主人公の胸の内だとか言動にもっと字数を費やしてもいいんじゃないかなと感じます。

なるほど、そうかもしれません。
描写が足りていないと……。
書いているわたしとしては、かなりの熱を持って書いている小説なのですが、読み手との間にかなりの温度差があるのだと思います。
熱すぎて描写・説明をセーブしてしまったのかもしれません。もっと客観的に小説を見るようにします。

細かいところについて。
ひとつ目は、書き込み不足と思いますので書き込むようにします。
ふたつ目は、ご指摘のとおりですが、書き分けた方が一般にわかりやすいかと思いこうしました。

感想ありがとうございました。

2017-04-15 21:34

106.154.33.248

藤光

岩作栄輔さま

読んでいただきありがとうございます。

>『吸い込まれるように視線をバッグに向けたその拍子に、』

この箇所は、そうですね……。積極的に見ようとしたわけではないけれど、吸い寄せられるように見てしまい、結果、ガン見してしまったというような描写なのですが、まずかったですか。

>『我にかえると、私は右手の関節が白く浮き上がるほど強くドアグリップを握りしめていて』

この箇所は、虎の存在に引き込まれ、しばらくの間、我を忘れてバッグをガン見してしまった時間の経過と、虎を見つけた衝撃とを合わせて関節が白く浮き上がっている手に私が気づくことで描写しようとしたところです。
ご指摘の点はもっともです。文章は難しいです。

全部読んでいただけなかったようで、とても残念です。読んでいただけるような小説にしていきたいです。
ありがとうございました。

2017-04-16 06:13

106.154.21.13

藤光

ラピスさま

読んでいただきありがとうございます。

文学にあらず、エンタメだ――と。

私はこれを書くにあたって「純文学」を、「作品の内容よりむしろ文章表現や技術」「物語より文体」と捉えて――もちろん文学を違う視点で捉えることもあるのでしょうが――、物語ることに注力してきた今までの書き方を一旦リセットしようとしました。

文学的に書けているかは別にして、いままでの私の小説とは違ったものにはなったと思います。
ハードボイルドな文体になってるとは分かりませんでした。読んだことないんです、ハードボイルド。

推敲が必要とのこと。
GMさんの感想にも書きましたが、「足りていない」のだと思います。それが自分でもよくつかめていなくてもどかしいですね。

感想ありがとうございました。

2017-04-16 06:35

106.154.21.13

野足夏南

拝読しました。
私はある種のミステリーとしてこれを読みまして、なかなか面白く読ませていただきました。最後まで謎が残ってしまってお訊きしたいのですが、刑事はセミナーの参加者だったのでしょうか?
私が読めていないだけなら済みません。また謎が残ることが悪いこととも決して思いません。

文体には重さ、湿っぽさがある一方で虎がとりつくというある種ファンタジーな設定は中村文則の小説のようだなぁと思いました。
中村文則は純文学とは括りきれない色々な作品を書いていますね。その中村氏が確実に影響を受けていると思われるのが安部公房で、私が好きな作家です。彼もまた、純文学とエンタメ(というくくりがあると仮定して)の間を縦横無尽に駆け抜けてしまう天才作家ですね。
私個人としては純文学とエンタメ、という分け方自体に意味を感じないというか、とにかく面白いもの、というか興味深いものを書くことが一番なのではないかと思うのです。

どのように推敲するべきか私なりに考えたのですが、虎の声が口をついて出てしまうという演出は少し安っぽい気がしました。あくまで心の内での葛藤として虎が出てきて、それに対してどう思考し、動揺し、行動するのか。となると印象は違うのかなと思います。そういう意味でもっと主人公の内面を書くべきという意見に賛成です。

先に言ったことと矛盾しますが、純文学とはとても自由なものだと思います。物語性の濃いもの、薄いもの、何でもありです。少なくとも私の中ではそう思っています。

あまり本作の為のコメントにはなっていないかもしれません。ご容赦ください。

2017-04-16 16:19

222.148.106.33

GM91

刑事から見た 警察/警察官 という表現の件です。

>ふたつ目は、ご指摘のとおりですが、書き分けた方が一般にわかりやすいかと思いこうしました。

作者さん曰くの「一般」がどういう層を指すのかよくわかっていないのですが、僕思うに例えば刑事ドラマにでてくる「刑事さん」が警察の人だってことは、およそ小説を読むような歳であれば周知の事実だと思っています。
※僕の意見の単なる前提なので、そこがまず違っていればすみません。

その前提を是として補足させてもらえば、僕が指摘しているのは、区別をすべき/すべきではないという話なのではなくて、作品の語り手である主人公の立場からみて、例えば制服組の人を「自分とは違う集団の人」というニュアンスで「警察官」と呼ぶのは不自然ではないかな、ということです。

もちろん、主人公が例えば自分と同じ集団の人間として制服組を「警察官」と呼ぶのならそれはアリだと思います。

そういう意味で作者さんのご返信の文意が取れなかったので、可能であれば補足いただけるとありがたいです。

2017-04-16 23:09

175.131.61.2

藤光

野足夏南さま

読んでいただきありがとうございます。

>最後まで謎が残ってしまってお訊きしたいのですが、刑事はセミナーの参加者だったのでしょうか?

これは書いた本人の私もきちんと決めているわけではありません。
これはよくないことなのかもしれませんが、私が小説を書くときの癖に「読者に解釈を任せる部分を残しておく」というのがあって、セミナーはまさにその部分です。
刑事がセミナーに参加したのか、しなかったのかはどちらでもよかったのです。ただ、セミナーに参加していてもおかしくない状況にある人物のなのだなと読んでほしかった箇所です。
犯人がセミナーで刑事を見たのかもしれないし、そう思い込んだのは犯人がおかしくなっているせいかもしれません。それは読み取った人次第です。

こうした書き方はどう評価されるのでしょうか。

>虎の声が口をついて出てしまうという演出は少し安っぽい気がしました。

アイタ!
そうですか。反省します。
面白そうだと思ったら飛びついてしまう性格でして……。でも、読みにくい表現だと思うのですが、読み取っていただきありがとうございます。

感想の中で、中村文則さんに言及されていますが、今作、最近知った中村文則作品の影響を受けた私が書いた小説です。ご明察。ただ、似せようと思ってはいませんし、彼とは嗜好が違うと思うので小説が似るとは思ってもいませんでした。指摘されて非常に恥ずかしいです。

これからも色々考えながら書いてみたいと思います。ありがとうございました。

2017-04-17 06:52

106.154.37.243

藤光

GM91さま

>主人公が例えば自分と同じ集団の人間として制服組を「警察官」と呼ぶのならそれはアリだと思います。

まさにGMさんが書かれた通りの解釈で結構です。

以下、蛇足になります。
刑事の話を書いておきながらなんですが「刑事」ってなんでしょうね。自明のようでいてよく分からない言葉です。警察組織にそうした職名はないです。警察署刑事課の警察官以外にも私服の捜査員、いわゆる刑事はたくさんいますからね。
共通することは、犯罪を捜査し、犯人を逮捕する私服の警察官ということでしょうか。それをなぜ「刑事」と呼ぶんでしょう。よく分かりません。

2017-04-17 07:43

182.251.255.39

GM91

すみません、ちょっと混乱しているのですが、作者さんの意図としては、
主人公からみて制服組は「自分とは違うやつら」として描いているように見えるのですが、違うのですか?

2017-04-17 08:28

27.85.206.159

野足夏南

補足というか返信です。

読者に解釈を任せるというやり方、まったく問題ないと思いますよ!私なんていつもそんな風です。そもそも小説というものは多くの場合読み手の解釈によって成り立つものですから(持論です)。この間コンビニ人間の村田沙耶香さんのトークイベントで、彼女もあまり考えすぎずに書いて、解釈は読者に任せるというようなことを言っていてちょっと安心しました。まぁレベルは全然違いますが、とにかく私も好きに書くようにしています。
余計なことを書きました。返信不要です!

2017-04-17 08:35

222.148.106.33

藤光

GM91さま

GMさんの質問のニュアンスが掴めません。「自分とは違うやつら」とはずいぶん否定的なニュアンスを含むように感じますが……。

GMさんとしては、主人公が刑事に対して持っている印象と「お巡りさん」に対して持ってる印象との間にどのような違いがあるように感じられますか?

2017-04-17 12:24

182.251.255.34

藤光

野足夏南さま


返信ありがとうございます。
村田沙耶香さんの話
私もちょっと安心しました。がんばります。

2017-04-17 12:36

182.251.255.34

GM91

すみません
御質問が何を示しておられるのか文意が取れないので補足お願いします。

とりあえず現状で回答しますと
個人的には
違う ということと
否定か肯定かということは
別の概念だと思いますので、否定的なニュアンスかどうかは文脈による、と思います。

2017-04-17 12:39

27.85.206.159

藤光

GM91さま

GMさんが

「作中のどこの箇所」

に違和感を感じているのか判然としません。

刑事と制服の警察官の関係が、「その箇所を読むことで、どう感じられる」のでしょう。

そこが分かれば、GMさんの疑問に思っていることに答えられるかもしれません。

2017-04-17 13:44

182.251.255.49

GM91

お手数かけます。
僕が気になったのはここです。

>警察官の言うことがもっともに思われた。犯人逮捕のため、警察は付近を三ブロック四方にわたって封鎖していた。

主人公からみて、警察/警察官というのが何か他人行儀にとれ、違和感がありました。
という話です。
たとえばここで「警察官」ではなくて、制服だとか所轄とかに置き換えるとしっくりくるのかな、と思いました。
ただ、先にも申し上げたとおり細かいところかなと思いますので、あーなるほどとか、うーんそーかなあちょっと考えてみますくらいの応答を予想していた次第です。

ただ、作者さんとしてここはあえてこう書いたとのことだったので、どうしてそうお考えになったのかは少し興味があり、ご意見伺いたいなというのがこちらの質問の意図です。

2017-04-18 23:05

175.131.61.2

藤光

GM91さま

なるほど。そういうことですね。

私の感覚では、刑事と制服の警察官との間には心理的距離があると思っていました。

私の感覚が「一般的」かどうかは実際、怪しいですから強弁しませんが、「仲間」として認識しながらも「彼らとは別の仕事をしている」と思っているだろうと。

主人公が彼らを「どう呼ぶか」については、書いた当時少し考えました。
制服の警察官は、交通課で働いているか、でなければ地域課(交番勤務する人は地域課です)で働いている警察官が多いので、私はそうした書きぶりにしようかと考えたのですが、そうすると読者に分かりにくいだろうと「制服警察官」という表現にしました。

なので、他人行儀とGMさんが感じられたのも無理はなく、「制服警察官」には私が感じる刑事課の警察官と交通や地域課の警察官の心理的距離が表れているのだと思います。

正直なところ、GMさんが書かれているように「制服だとか所轄とかに置き換える」ことは思いつかず、なるほど、警察官同士が、もっと近しい関係にあると考える人もいるのだと気づかされました。ありがとうございました。

2017-04-19 07:14

182.251.255.44

GM91

あ、いえ、近いとか遠いとかそういうことよりもただ単に「警察」というのは警察という組織外の人が使う言葉じゃないのかな、と。

御作の主人公は警察という組織内にあって疎外感を持っている、という解釈なので表現としてやや違和感がある、というのが元々の僕の意見です。
もちろん、主人公が半ば皮肉で「警察」「警察官」とセリフで発してみたり、傍らの同僚に「アンタも警察の人でしょ」「なんか他人事みたいですね」的に突っ込まれてみたりするのなら、それはそれで表現としてアリかなと思いますので、一概に言葉選びそのものがNGとは言い切れないと思います。
そういう意図で「使い方」という言い方をしました。

2017-04-19 12:46

106.139.0.150

ハイボール

藤光 様

こんにちは。

御作、読ませていただきました。

印象としては、力作だとは感じたけれども、「純文学」っぽくはないよね、というのが正直なところでした。

一度さらっと読んだだけで、そもそも内容が把握できているのかもあやしいのですが、それでもとにかく気になったのは、「殺人犯」「刑事」「ミステリー風の展開」「内に潜む虎」「犯人最後に飛び降り」などの、御作を構成している要素や道具立てみたいなものが、どれもコテコテのエンタメなんじゃないのかなということでした。

もちろん、刑事ものの純文学だって世の中にはあるのでしょうし、悩める青年の私小説が純文学だなどと言うつもりはさらさらありません。そもそも純文学って何? ってこっちが聞きたいくらいのものなのですが、それでもやはり上記の道具立てには、どうしてもエンタメとしての既視感みたいなものが色濃くつきまとっていて、作者様がやりたかったこととミスマッチだったんじやないのかなと、そんな印象が強かったです。
好き勝手な感想、すみませんでした。

2017-04-29 07:00

126.233.10.152

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