作家でごはん!鍛練場

『革命(原稿用紙換算112枚)』

STK-ART著

日常から非日常への飛躍。ここに投稿するには長いですがなんらかの感想をいただけたら、、と思います。

   いつだって不謹慎、という言葉がぽっと降ってきたので、メモっておこうとおもったときにはもう下北沢に着いていた。緑色のうす暗い駅に降りてスマホを取り出すと、弟からLINEがきていた。何時に家に帰るのか、ということなので、たぶん7時くらい、と返事してから、夕飯はさきたべてていいよ、ともう一度送信した。母から送るよう頼まれたのだろう。
 12月の冷えた街並みを歩くのは心地いいのに、ショーウィンドウに映る顔は不機嫌だった。マフラーに顎をうずめてくすんだ目を向ける自分の顔が好きではないのに見飽きなかった。駅にむかうひとどおりのほうが多いので、すこし歩きにくかったというのが理由なわけではないけれど、途中にある本屋に寄って適当な雑誌をめくり、つまらないのでまた外に出てきた。隣で雑誌を読んでいた中年男は、ときどき鼻をスンスン鳴らしていた。三々七拍子だった。雑誌のにおいでも嗅いでいるのかとおもったが、視界から去ったあとも鳴り続けていたからちがうだろう。去り際、男は、「そろそろ革命の時間だ……」とつぶやいた。
 本屋に入る前には意識しなかったが商店街には音楽が流れている。コマーシャルでもよく耳にする、生まれる前にはやった外国の音楽だった。メロディーは記憶の中であいまいなままだったし、歌詞などもちろんわからなかったが、小さく口ずさみながらポケットに手をつっこんで歩いた。マフラーを鼻の少し下の位置までひっぱり上げた。ほこりっぽいマフラーのにおいと吐く息のぬくさがまとわりついてくるのを感じながら、スイッチの切れた顔をさらして歩みをすすめていく人々の雑踏のなかにまじっていった。ここでこうやってあるいている、無個性な自分はいったい何者なのか、なんていう問いはもう発する気はなかった。横を通りすぎていった女の子二人組のひとりが、陽気な笑い声をあげるのが耳に残った。腕時計を今日は忘れたから、ポケットに手をいれてスマホで時間を確認した。弟から、了解、とだけ来ていた。あかりさんからは連絡はなかった。
 一昨日、深夜の11時くらいにバイトから帰宅して、自分の部屋で、無意識のうちにパンツのなかに手をつっこみながらスマホをいじっていたら、廊下を通りかかった弟と開いたドア越しに目があった。弟は気まずそうに目をそらした。そのときはなにも思わなかったが、オナニーしていると勘違いされた気がして焦った。ただネットサーフィンしていただけなのだ。
 それにぼくには彼女がいた。これから会おうとするのもその福室あかりだ。
 いつも閉店セールをしているゼンモールの角をまがって、約束の時間よりすこし早かったけれど喫茶店に行った。前に一度だけ、あかりさんと映画を見た帰り道に寄ったことがあるのだった。知らなければ素通りしてしまいそうな小さな店だ。Gatt Nero、と看板に掲げられていた。扉をあけて、ほの暗い店内にはいって後からひとり来ることを告げると、地下階へと案内された。
 昨日は数週間ぶりにあかりさんのほうから連絡がきたのだった。ほんとうはバイト中に電話がかかってきていて、そのことに帰りの電車内で気がついた。ごめんバイトだった、どうしたの、とLINEすると、明日話したいことあるから、とだけ返ってきた。電車から降り、すぐに通話しようとしたが切られて、いまは話したくない、明日の夕方まで待って、とのLINEがきた。もう一度電話した。何度目かのコールでやっと応答したあかりさんは、しずかな声で、知也とはすこし距離をおこうとおもう、というのだった。
 そろそろ夕食がちかい時間なのに店内はわりとすいていて、丸テーブルをかこう男女4人組以外は、コーヒー一杯であとは書類やらノートパソコンをひろげて作業に没頭するひとり客が何人かいるくらいだった。銀ぶちの眼鏡をかけた清潔なかんじのする男がなにかいうと、集団はどっとわらったが、なにをいったのかまではきこえてこなかった。
    結局15分おくれてやってきたあかりさんは、ひとり客のちらばる店内の様子にすこし惑ったようで、ちいさく手を上げるぼくの姿をみとめてようやく安心したように笑った。顔中にじわっとひろがる笑顔はいつもと変わらないのだった。けれどブルーのハイネックの、みたことない服を着ていた。黒髪をアップで纏めた、華奢で背の高いあかりさんには、そういう大人っぽい服が似合うのだった。荷物いれのかごが横にあったので、手をのばすとあかりさんはバッグを差し出しながらごめんね、といった。それが何に対してのごめんなのか一瞬わからなくて返事がかすれると、おくれてごめん、ともう一度いった。
   コーヒーをふたり分注文して、ウェイトレスの後ろ姿から視線を戻すと、メニューを元の所に差し込む彼女と目がかちあった。沈黙がよどんだ。そういえば前この店来たときもこの席だったよね、といってみると、そうだっけ、とあいまいな発声でかえってきた。あれいつのことだっけ? とつづけようとするぼくの声と、あんまりおぼえてないけど、の声がぶつかった。店内の音楽は最初来たときとちがう、女の人の声になっていた。集団がまた笑った。盛り上がるために盛り上がる、みたいな笑い声が不快で気に障った。
   いくつか話題を並べては流して、共通の友達の話ですこしテンポを持ち直したけれど、いつもどおりの笑顔のむこうに冷たい決意が揺らがずにあるのはなんとなくわかっていた。さっきとちがう、計算したような沈黙がたち現れて、どうしても考えはかわらないの、ときいた。しずかにうなずかれた。そっか、といい、受け入れるようなそぶりを見せようとしながら、結局は昨日電話でしたような説得をするのだった。あかりさんは、目を伏せ、ときどきかすれた涙声になりながら、すでにしっているこたえを繰り返した。もう、東京で就職しないことは決めてるから。知也とも、恋人としては、もうこれ以上はむずかしい、とおもう。人間関係は、終わりを認識したときにはもうすでにとっくに終わっているものと知っているつもりだったけれど、それを表面的にすら受容できない凡庸な自分を発見するだけだった。そのまま喫茶店には予定より一時間半以上長くいて、三度めの動かしがたい沈黙が横たわったとき、あかりさんのほうから、帰ろうか、と切り出され無言で駅まで歩いた。
下北沢の駅前では、さっき本屋で見かけた男が、反復横とびみたいなうごきをしながら、「壁が高い! 壁が高い! 壁が高くて、越えられない!」と叫んでいた。道行くひとびとはたまに彼のことをちらりとみながらも、足をとめることなく素通りしていった。彼が跳ぶ長さを直径とする見えない円があるみたいにそこだけを避けて流れができあがっていて、ぼくたちもその流れに逆らわなかった。男が視界から消えてから、顔を見あわせると彼女は「ヘンなひといたね」と笑った。
 あかりさんは小田急線、ぼくは井の頭線だったから駅前でそのままわかれて、渋谷についた時点でLINEした。今日はありがとう。まだ完全に納得できたわけではないけど、あかりさんの気持ちがもう固まってるなら、いま、ここで完全に終わらせてほしいです。送ってすぐに電池を切り、画面が真っ暗になったのを確認してポケットに入れた。改札を抜けようとして、PASMOのチャージが足りてなかった。改札は感傷に浸る人間も平等に遮断するのだった。
   帰宅すると赤い四角形が怒っている。メールで伝えた時間より大幅におくれて連絡をよこさなかったことに、腹をたてた母がだんだんとペースをはやめながら責め立ててくるのだった。酒でも飲んですこし酔っているようだ。ごめんごめん、といいながら階段をのぼって自分の部屋に行く途中でバッグを振り回してわざと壁にぶつけるようにすると、予想より大きい音がなったので焦った。部屋着の薄汚れたパーカーに着替えて下に降りて行くと、塾から帰ってきたばかりだという弟が夕飯をたべていて、台所にいる母の態度はいくぶんマイルドになっていた。ごはんはいるのね、ときいてくるからうなづいてラップのかかったしょうが焼をそのままレンジにいれた。「あんたキャベツもチンしてるの!?」うるさいのでテレビをつけ、適当にまわしていると、ブラマヨの吉田がブサイクなりにどう合コンを制覇するかを語る番組で弟が「あっ」といった。
「おまえこれ見たいの?」「いや別にどっちでもいいけど」弟はけっこう顔が崩れていた。「あ、そう」そういえばこないだこいつにオナニー見られたことになってるんだったな、と思い出したが弟がそれを意識しているかはわからない。いつもこんな調子のやりとりだ。兄弟のように仲がいい、という比喩がだいぶ以前から謎だった。
 一周してもピンとくるのがなかったから、結局希望に沿ってその番組を見ることにした。だが決めたときにはもう吉田の番は終わっていて、ケンドーコバヤシが望まれるとおりの変態な話をしているのだった。弟は、もっと笑えばいいのになぜか我慢しているようで、ぼくが笑うと一緒に笑った。
「ちょっとあんたたちニュース見なさいニュース、そんな、くだらない」母がリモコンを勝手に取ってNHKに替えた。過激な下ネタで硬直しかけた食卓の空気がゆるんだ。番茶の入った湯呑を片手に席についた母が、どこまでを察知して番組を変えたのかはわからない。たぶん何も考えていないだろう。政治不正献金をめぐるニュースがやっている。母は、ぼくたち息子をたしなめるときとまるっきり同じトーンで政治家をののしるのだった。「ごちそうさま」母のコメントに律儀に反応する弟をしり目に立ちあがった。スマホが振動した気がして、ポケットに手を突っ込んでから電池をあらかじめ切っておいたことを思い出した。「皿くらい自分で洗いなさいよ!」「ん」洗う、というよりスポンジでなでる作業を終えてから二階に上がった。
 鼻歌を歌いながらベッドにダイブする。だれに見せるでもなく陽気にふるまっていた。ポケットからスマホを取り出し、くしゃくしゃの布団の下に投げ入れ、本棚から漫画を手に取った。アイアムアヒーロー第三巻。タクシーの運転手がゾンビになって暴走車両と化している。閉じて枕の横に置き、スマホを発掘して電源をいれた。既読はついてなかった。「ヘンなひといたね」と笑うあかりさんの笑顔を思い出して、そこにすがるような気持ちでもう一度布団のなかに埋め、パソコンで徳永英明のRainy Blueを検索して聴いた、返事はもう予想できたうえで聴いていた。
「で、なんていってフラれたの?」「地元で就職するつもりだから遠距離つづける自信がないって、最初」「あ、そういうあれかぁ、東北とかそっち出身なんだっけ?」「いや、そんで、もうすこしいろいろきいてみたら、いざってときに頼れない、甘えられないって、なんか性格のこととかもいろいろ言われて」「うわー、、」「人生にイザなんてあります!? イザって何!?」叫ぶと河野さんは笑った。バイトが終わって、たまに開催される飲み会に参加した帰り道だった。帰る電車の方向が一緒で、車内にはまだ仕事帰りのサラリーマンたちがたくさんいたがあまり気にならなかった。
 飲み会の間、河野さんはずっと最近入ったばかりの子ふたりに話しかけていて、その様子を見ていた。くどくなよー、と赤ら顔の伊藤がちゃちゃをいれ、彼氏いるの、と尋ねて返事を聞くと、退散!!と叫んだ。はしゃいでいる。忘年会シーズンだからか、店内は学生や仕事終わりのサラリーマンたちであふれていた。昼飯もろくにとらずバイトにのぞんだせいで二杯めでもう酔いがまわりはじめていて、抗いもせず壁に体をあずけて目を瞑った。浮遊感みたいなものと重たい感覚が支配する頭でぼんやりと、客たちの笑い声、皿とジョッキが重なりぶつかる音、店員たちの威勢のいい掛け声たちの、輪郭もあいまいに溶けあう雑音の群れが鼓膜ちかくでふくらんでは弾けるのをきいていた。
「こちら生ビールになります」薄く目を開けると、神経質そうなやせ気味の店員がジョッキをみっつ、手にしているが騒音にまぎれて誰も気づかない。「生になります!」伊藤がふり向いて受け取った。その店員は、隣のテーブルで空いたジョッキを片づけようとして手を滑らせた。割れる高い音が騒音を裂いた。店内に満ちていた騒音が一瞬ボリュームを下げ、すぐに元通りになった。「はい生来たよ生―!」誰かが注文したはずなのにだれも受け取ろうとせず、結局テーブルの空いたスペースに放置されている。泡も消えかけたころに手を伸ばすと、隣で退屈そうにしていた宮田がふり向いた。「坂口さんけっこうお酒つよいんですか?」「いや、おれまだ三杯めだよ」「いいなあ私めっちゃ弱いんですよお」赤くなった丸顔で笑う。その向こうで歓声があがった。周囲にはやしたてられた伊藤がビールを一気飲みしていて、吐く真似をするとまたどこからか違う酒が調達されてきた。「いやもうマジでむりだから! マジでむり!」一応笑っておいた。まだバイトは残り日数あるけど、今日は忘年会ってことで思いきり騒いでスッキリしましょう! という河野さんの最初の挨拶どおり、ちゃんとハメをはずして騒いでいるのだった。真面目だ。スマホがふるえて、来ていた一通を開いた。歌倶楽部会員様へ、とあった。読んでからあかりさんからのLINEを期待していることに気付いて嫌気がした。
「LINEでフラれるのはきっついなあ」「や、まあそのまえに話し合いはあったんですけどね、なんかそれ以前から就職で悩んでたし、ヘンにそっけないときあったし」まあ、、元気だして、と河野さんは答えづらそうにいった。「まだ大学生だし、これからぜんぜん新しい出会いもいっぱいあるっしょ。まだ18でしょ?」「19っす。おれ一浪してるんで」「まあ、新しい恋でも探すしかないよな。さっき新人の海藤さんて子、坂口のことカッコイイってほめてたぞ」「どっち?」「どっちって、髪染めてるほう」「ああ、可愛くないほう」「だね」「じゃあいいや(笑)」いわなくてもいいようなことをあえていってぜんぜん面白くないが笑った、電車の窓に映る顔はかなり自然に笑えていた。「河野さんいま彼女とどのくらいでしたっけ」「おれ?は、いま三年めかな、今年で」「なげー、、どうやったらそんな続くんですか?」「なんだろうね、あんまり束縛とかしないからじゃん? ぷち喧嘩とかはまあたまにあるけど、あんまり根に持たないし、すぐ元に戻るよね」うらやましいですわー、といい、おれいっつも半年もたないんですよね、と言った。「もたないっていうか、もたせるだけの根気が続かない? みたいな、結局恋愛とかちょっと面倒臭くなってきちゃうんですよね、おれ。まあフラれといてなんですけど、そこまでひとりでいることに苦を感じないっていうか、三日しかたってないわりには冷めてるなって自分で感じるかんじはありますよ、なんか最初就職とか口実に一方的に別れを告げられたのは結構ショックっていうか、もうちょいコミュニケーションの方法あったでしょって思ってムカつきますけどね。ふだんはサバサバしてるようで、実は肝心なとこであんまり煮え切らないかんじのひとだったんで、まあそもそもおれとあんまり性格合わなかった気しますわ」
しゃべりすぎた。まあ元気だして、と河野さんはもう一度いって新宿駅でおりていって、次は代々木、と告げる平坦な音声の流れる、揺れる車内で、窓のむこうの急に無表情になった自分から目を背けて扉に体を預けた。まだ酔いは体内の深くに残っているようだった。目を閉じ、うなだれるとさっきまでの饒舌な自分が思い出されきて、ふと周囲の客の目が気になりはじめていた。代々木駅で降りて車両を乗り換えた。
飲み会に行くことを伝え忘れていた。帰ると家族はみんな寝ていて、リビングの電気をつけるとテーブルの上に小さなメモ紙が貼られていた。夕飯はごはんと豚汁にシャケ、冷蔵庫からチンしてたべるように。居酒屋のフードメニューでお腹はもう足りていたけれど、食べられないほどでもないから食べることにした。ごはんを小さく盛り、指示通りシャケを温めている間にテレビをつけると、今年おきた出来ごとを振り返る番組がやっていた。しばらく地震と津波の映像が続きます、という注意書きが下のほうに流れて、画面のなかで地面が大きく揺れ、しずかに割れ、ひとびとが逃げ惑い叫んでいた。ぶれるハンドカメラのむこうから聞こえてくる声は、はじめ、みな一様に興奮し、事態の進行について口ぐちにさわぎたてていたけれど、やがて眼下の町並みが濁った水に飲み込まれる段になるにつれて沈黙がちになるのだった。あとにはもう家屋の破壊される音と、水の轟音だけがひびいていた。その映像の断片たちがいくつもつづいた。リモコンのOFFボタンを押すと黒い画面に吸い込まれて消えた。
 2011年が終わる。シンとしてしまったリビングで、あれからもう9カ月か、とぽつりとつぶやいてみてもそれほど感情は波立たなかった。食器を洗浄機に荒くつっこんで二階へ上がった。
 うす汚れた部屋着に着替えて、来週提出のレポートにとりかかろうとするがはかどらない。予想できていた。頭はぼおっとして瞼は重かったが、電気をけして布団にもぐり、五感が単調な情報しか受け取れない状態で否応なく内面に向き合わなければならなくなるのを避けたかった。YOUTUBEをひらき、「311 津波」で検索した。あの日から数カ月、むさぼるように見続けた動画の群れが、まだ同じように並んでいた。3月11日のあのときは、いつものようにパソコンの前にいて、もはや思い出せないようなどうでもいいサイトを見てだらだらした時を過ごしていたのだった。正午すぎくらいにのろのろ起きだして、そのまま部屋のなかでまた弛緩した一日をすごすつもりだった。特にどこかに行く予定もなく、やるべきことも失っていた。ところが部屋全体が大きく揺れた。とりあえずパソコンを押さえ、机の下にもぐるかどうか思案しながら本棚の揺れを見ていたら、いきなり大きくなって、本が一斉に降ってきていた。もぐった。修学旅行のときに買ったシーサーの置物が目のまえに落ちてきて、耳がかけるのを見た。階下からガラスの割れるような甲高い音と母のなにか叫ぶ声が聞こえた。
 降りていくと母が割れたグラスと皿の破片を片付けている。「あ、ちょっとあぶないあんたそこ、破片落ちてるよ。すごかったねびっくりしちゃった」「孝介は?」「学校おわるころだね、わかんない。ちょっと電話してみて」つながらなかった。二階の寝室で昼寝していた父も降りてきて、「でかいぞ、震源どこだ。ニュースつけてみろニュース、ニュース」と冷静な口調ながら同じ単語を三回繰り返した。どこの局も地震関連のことを報道し、津波警報を発していて、その間も余震が続くのだった。一時間くらいしてから、期末テストの最終日だったという弟が新宿から自力で歩いて帰ってきて、その顛末を両親に話しているのを横目に聞きながらチャンネルをNHKに替えた。画面いっぱいに、黒い波に街が飲み込まれていく様子が映った。ヘリコプターで上空から撮ったものだ。なにこれ信じらんない、映画みたい、と母がつぶやくようにいったが、じわじわ街が浸食され、車が逃げ惑う映像には奇妙な静けさがただよっていて、映画とかドラマのような劇性は感じられないのだった。けれど現実のようにも見えなかった。
「何人死ぬんだこれ、数千じゃきかないぞ」「やば、おいにげろにげろ」「やだーなにこれ、、、」「うわ、すご、これまじかよ」「あっまた揺れてる」「これ、絶対ちかいうち東京もくるでしょ。でかいのが」映像にコメントしつづける家族をよそに、ぼくは、観念したように停止した車が波に追い詰められるのを見て、あ、終わった、とつぶやいたとき以外、テレビ画面をひたすら見続けていたのだった。言葉を失う、というより、最初から語る言葉なんて持っていないような気がしていた。胸の中にはわけのわからない、妙な高揚感みたいなものが渦を巻いていた。その妙にハイなかんじは、それから何カ月も波うちながら続いた。
 あかりさんと付き合ったのも、それに身体を突きうごかされた結果のようなものだ。あの頃、開始の遅れたキャンパスにはいつもよりいちゃつくカップルで溢れていて、知人と話す話題は震災のことばかりになっていた。レストランで、電車でたまたま隣になった客とかからも、震災、という言葉が自然と飛び出していた。みんな愉しそうにみえた。ぼくはといえば勢いだけで行った写真サークルの新歓コンパであかりさんと知り合って、6月には交際を始めていた。
検索結果で一番上に来た動画を再生する。最初、土煙が遠方で立っているだけなのが、やがて建物や車たちを軒並み灰色の波が押し流し、瓦礫を抱えて田畑を這い、終盤は小高い丘にいる撮影者たちの足元まで迫ってくる。5分程度の、震災直後にも何度も見た動画だ。逃げ遅れたひとを助け出そうとする人々の姿も映っていた。瓦礫を多量に含んだ水が轟音をあげて迫ってくるなか、協力して車いすをひっぱりあげようとして、最後は協力者のひとりが飲み込まれるのだった。黒い服を着たおそらく男性、ということ以外、年齢も、体格も不鮮明でよくわからない。どんなひとでどんな人生を歩んできたかなんて知るよしもない。自然災害の前では単なる物体でしかなかった。舐められるように身体を持っていかれ、すぐに見えなくなった。
 時刻は午前2時だ。まだ眠たくなかった。いや眠かったが、この眠気が布団に入ってすぐ自分をひきづりこんでくれるほどの強度をもつものか、自信がなかった。YOUTUBEを消し、新しいタブを開き、いつもつかうアダルトサイトを検索するとエロ関連のサイトが一面に羅列された。一瞬だ。クリックひとつで未曾有の大災害の記録は消えて裸の女たちがくねくねする。ティッシュが切れていたので新しいのを洗面所からとってきて、もはやルーティーンと化したオナニーをはじめた。いくつか候補を選んで、あまり吟味することなく盛り上がるシーンだけ抜粋して股間をこする、頭は冷えたままなのに、下半身だけ淡い快感にのまれてせりあがる熱いものを感じる。射精する。虚脱感。ただの排出作業でしかなかった。
 精液を包んだティッシュを握ったまま、しばらく再生されたエロ動画をぼおっと見続けた。行為前と行為後の、同じ動画に対するテンションの落差が面白かった。画面のなかで相変わらず男は腰を振り続け、女はおっぱいを揺らし続けている。「ああっ、ああっ、ああっ、ああっ、ああっ、ああっ、ああっ、いやあぁっ、」「どこいいの、ほら、いってみて、、、ハァ、ハァ」「ひやぁっ、やだぁ、いく、いく、いっちゃう、んんっ、んんっ」パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン「ああっ、ああっ、あぁっ、ああああああんいっちゃういっちゃういっちゃういっちゃう」パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン「、、、イクッ」
バカなんじゃないかこいつらは。数分前まで前のめりに見ていた自分は棚に上げた。単調な映像に視界がぼやけ、体がふっと落ちていくような感覚に見舞われはじめた。ティッシュを捨て、パソコンごとスイッチを切って寝た。
 寝坊した。遅刻のついでにコンビニでリプトンのピーチティーを買ってから、教授のマイク音のひびく講義室に入ると後方の席はほとんど埋まっていて、仕方なく前から2列目、一番端に腰かける男子学生に一声かけて、真ん中近くの席に座った。周囲を見るとレジュメをおのおのもっていて、教壇の前にまだ束になってそれが置いてあることに気付いたけれど面倒だった。終わったらもらえばいい、と思ってルーズリーフとペンだけ用意し、聞いた。国際政治論講義。ぜんぜん面白くない、何言っているかわからない。目をつむっていても教授の話は聞こえる、と自分にへんな言い訳をして突っ伏した。単調な専門用語の羅列は遠のいて、ここ数日聞き続けているRainy Blueが頭の中で流れはじめた。サビ部分の無限ループする頭の向こう側では、2000年代にはいって国際情勢が悪化している、みたいな意味のことがらが相変わらず発せられ続けていたが、この自分が一個の女に去られたことのほうが余程おおごとに感じられてならないのだった。
 あかりさんからはあれ以来連絡はなかった。当然だ。まだ一週間も経っていなかった。自分からも何もしてないしする気もない。ひじがいたい、と思って眠る態勢を何度かたてなおそうとして、結局それほど眠くないことに気付いてあきらめた。ぼやけた視界のなかでは白髪を長くのばした教授が数分前とおなじかっこうでしゃべっている。痩せていて首が長く、落ち武者のようだ。パワーポイントの操作のために移動すると、動く身体からワンテンポ遅れて顔がついていくみたいな、奇妙な運動をみせていた。
あれは、たしか夏、箱根まで一緒に出かけた夜、愛情についての小競り合いをした後セックスして、お酒を飲んでいるときにあかりさんが一度だけ泣いた。せっかく敷いたのに、結局ぐちゃぐちゃになった布団のうえであぐらをかいて、ぼくはビール、あかりさんはマッコリを飲みながら、たまたまやっていた映画を見ていた。点けたときにはもう中盤くらいだったけれど、どうやら自殺で兄を亡くした少女と、兄の親友の物語のようだった。自殺の理由を知るらしい男と、そのふたりが対峙しているところで、哀しげな音楽がなりはじめた。男が興奮したように立ち去ろうとし、少女がその背中に諭すように語りかけるシーンで、あかりさんが急に体ごとこちらにむけて、「ねえ」といった。「え?」「ねえこっちむいて」重要な告白シーンのながれるテレビはそのままに、あかりさんと向き合った。温泉からあがったばかりの肌と髪はまだ蛍光灯の光の下でつやめいていた。もっとこっちきて、といわれたから、意図もわからないまま尻をひきずってさらに接近すると、「おんなじようにしてみて」上半身を突きだし、缶をもつ右腕をぼくの首へと回した。真似をすると、抱き合うような格好になっていた。韓国の飲み会の飲み方だという。ずっとこれやってみたかったんだ、と言われ、ふうん、といってそのまま缶を口に運び、光るテレビ画面をぼおっと眺めて鈍い疲れの余韻にアルコールの浸みる感覚に酔っていたら、今度は抱きしめる体から震えが伝わってきた。「え、、、泣いてる?」びっくりしたが返事はなく、鼻のすする音だけが耳の真横から聞こえた。「???」ところが飲み干し、腕を解くころにはもう泣き止んでいて、すこしまつ毛が濡れているだけなのだった。そのまつ毛も手の甲でこすり、ちょっとトイレ行く、といって背を向けてしまった。戻ってきたときにはもう理由を追及するのもはばかられて、その日は軽くキスして手をつないで寝た。
 初めての旅行、小競り合いの後のセックスの記憶もまだ濃厚に渦を巻いていて、なぜ思い出したのか、不思議でもなかった。あかりさんはもう次の人がいるのか、もう違うだれかに抱かれているのか、とあえて明確に言語化しても意外と響かなかったが、だれかのをしゃぶっているのか、と問いかけると強烈に胸が重くなった。その行為が象徴する女性の能動性が厭だった。ほかに好きな人でもできたの、とLINEしたくなってきていた。
「あー死にたい」「病みすぎだろ(笑)」「いやー、こないだ授業中やばかった、なんか思い出して、想像しちゃって」「何を?」「旅行のときのこととか、あと、いまごろ誰かに抱かれてたりして、とか」「ああ、結局セックスか」「いやそうは言ってねえだろ」「違うの?」「まあそうですけど」ほら、といって谷本はからから笑った。
 谷本の口から出た煙が顔の前までただよってくる。よけるとああ、ごめんといって窓を開けて、ベランダのほうを向いて煙草を吸いだした。「さむっ」「いや文句多いな」「あー」「つか写メみせてよ、写メ」「前も見せただろ、でお前おれふられたんだぞ、デリカシー気をつけろよ」でも見せた。「やっぱかわいいな」「うん」「うらやましいわ」「まあフラれたんですけど」
 いやー御苦労さんです、と言って灰皿でもみ消し、吸殻をすでに灰まみれのグラスにつっこんだ。その手に当たって空のペットボトルがテーブルから落ちて、表紙の折れたマンガの上に転がった。配線の複雑に絡み合い、汗臭いまま放置された洋服がうず高く積まれ、空き缶やコンビニの袋が散らばる底の見えない床だ。開けた窓の向こうのベランダにはぱんぱんに膨らんだゴミ袋が連なっている。ゴミ屋敷のようだ。「ゴミ屋敷のようだな」「何を今更」「震災直後のようだな」「それは不謹慎」
 酒でも飲みに行こう、ということになって午前0時過ぎの街に出た。谷本の荒れきった部屋は煙草の匂いで満ち、暖房の熱風で乾ききっていて、それに馴染みはじめた身体を真冬の夜の張りつめた空気が刺すのだった。寒すぎだろ、と白い息を吐きながらも不快ではなかった。今日はコンタクトを入れ忘れて裸眼だったから、ぼやけた視界のなかでは、街路樹たちにほどこされたイルミネーションが街を全体として青く浮かびあがらせていた。言葉少なに歩き、通る車も人影もないのに静かに点滅をつづける信号を眺めていた。しばらくして、若者たちの乗るオープンカーが背後から猛スピードで通過していった。何かを叫ばれた気がした。おのおのサンタの格好をし、こちらに向かって上機嫌に手を振っていたから、メリークリスマスとでも叫んだのだろう。吉野家のオレンジの看板が遠くで光っている。飲む前にすこし食べよう、となって牛丼を腹に入れた。冷えた店内では、一人客たちが地味な色のジャンパーを着込んだまま、どんぶりをかきこみ、ごちそうさまも告げずにつぎつぎ去って行った。その隙間をジングルベルの陽気な音楽が流れていたけれど、そんな華やいだ気分でいるひとはここにはいないはずだった。結局めあてのバーにたどり着く頃には午前1時になろうとしていた。古ぼけたビルの階段をひとつおり、ちいさな扉をくぐった。
 木目を模したテーブル席に座る。クリスマスとはいえこの時間になれば空いていて、店の中は丸テーブルに腰かけた30くらいのカップルと、店主に親しげに話しかけるカウンターの一人客だけなのだった。「ていうかさ、」コートを背もたれにかけ、ふり向いた谷本がぜんぜんバツがわるそうじゃなく笑う。「おれあんまり金ないんだよね」「え、おれもあんま持ってないぞ、千円くらいしか無理だわ」「千で十分だよ、あざっす」「返せよ」「うん」いざってときでも頼れるじゃん、と谷本はぼそりとつぶやき、小さくにらむとああ、すまん、と謝ったが、確信犯に違いなかった。千円はおそらく現金では返ってこないだろう。谷本は英世や諭吉が描かれた紙に何の価値も見出していないような節があった。返せ、といっても返さないが、貸した分だけ奢ってくれ、というとほいほい奢った。
「まあでも、あかり? だっけ? 付き合いはじめたとき結構びっくりしたわ、なんか新歓の飲み会で知り合ったんでしょ?」「そうそう」「意外だわ、お前ああいうの絶対苦手だと思ってた」「いや今でも得意じゃないよ、ただまあ当時はね、なんか、ふっきれてたし」「おれは無理だわー、あれは、地獄であった」飲み会のノリのつまらなさについてひとしきり語り合う。谷本は授業と飲み会のつまらなさで、もう大学に行っていないのだった。
「まあ予備校の一年が無駄に終わってがむしゃらだっただけだわ、おれの場合」「いまだにそういうのあるの? 学歴コンプレックスみたいな」「あんまない、というか全然ない、一度入っちゃえばね」なるほどねー、といって来た泡の細かいビールを飲み、うまー、とつぶやいた。「うまいな」「ね」「この値段でこのおいしさならかなりいいわ、この時間までやってるし」谷本が鼻をふくらませて満足さを表現する。「お前幸せそうすぎるだろ(笑)」「いやあ、いいわ、この値段でこういう充実感みたいなの味わえるならかなりよくない? おれこれでもういいと思うんだよね、他人みたいな不確定なものに軸を預けるんじゃなくてさ、」「いまその言葉は身に沁みすぎるわあ」
谷本の飲んでいたビールをもうひとつ注文して、ついでにすこし高かったけれどピザも頼んだ。タバスコをかけすぎたせいでひりひりする喉に冷えたビールを滑りこませる感覚がくせになって、すすむうちに当然のようにセックスの話になっていた。店内は酔いを加速させるようなぼやけた照明とジャズ音楽であふれていて、ぼくは、その流れにぜんぜん抗わずにあかりさんとのことを愚痴り、失恋を嘆きはじめるのだった。すこしそのフラれた男という役割に酔いしれすぎているような気もした。過剰に表現することで、シンとしたときに、ふと内面を尋ねるとそれほどでもないような、妙に乾いた心をとらえていた。
「酔ってんの?」谷本がにやにやして問う。「だいぶくらくら来てるわ」「なんか、らしくねえなあ」「おれ別にそんな酒強くなくね」「や、じゃなくてその、夏、箱根いったときの記憶とか、あかりさんとの最初のセックスがどーのこーのってさ、お前(笑)」「あぁ」「いや、別にいんだけどさあ、その、そもそもセックスってそんな情緒的に捉えんのおかしくね、と思ってだな」そこで谷本が何かを力説しはじめるのを、感傷と陶酔に埋没する頭でぼおっと聞いていた、セックスは生殖のための即物的な行為にすぎない、と彼は主張しているらしかった。
   なるほどたしかに、セックスは日本語でいえば性交、性を交えると書く。しかしよく考えれば、実際に交差しているのは肉体の総体積のうち、ほんの一部だけだ。これでひとがほんとうに相手と情緒的に「一体」となったのだとすれば、すなわちそれは、ひとの存在の本質が濡れ光るアレと、そそりたつコレに宿ることを意味する。あなたという存在は、あなたの顔や性格、人生観や思想に依るのではありません。あなたのチ○ポに依るのです。これではあまりに下品で哀しくないか。「だからさあ、セックスなんてのをそんな、過剰にドラマチックにとらえるのはおかしいんだよ。よく考えてみりゃ、てか、よく考えなくても、あれってハアハア言いながら腰振ってるだけの単純作業なんだから(笑)お前がいまブルーになってんのは、結局のとこ、自分のタネを存続させる可能性を一時的に失ったからにすぎなくて、自分そのものを否定されたと感じる必要はないわけ。わかるっしょ? それか、お前ってあれなの、チ○ポなの?」ジョッキにはもう二人ともに酒は残っていなくて、店員がいつ次の注文をとりにこないかと気にしながら聞いていた。谷本は呂律もふつうで、顔色にも変化がなかった。本気でこんなことを熱弁しているのだった。
「てか、ひょっとして今おれ慰められてんの?」「うん」「なぐさまらねえよ」なぐさまれよ、と谷本はつぶやき、ちょうど隣のカップルにワインをとどけにきた店員にハイボールをたのみ、もう一度こちらを向いた。「まあお前も今はそんな気分かもしれないけどさあ、1カ月もすればだんだん忘れてくるだろ、そんなもんよ」
 一か月以上経っても気分はすぐれないのだった。バイトから帰って目が覚めると昼間という毎日が続いた。一度はじまった昼夜逆転生活は改善される気配もなく、朝、たまたま目が覚めても重たい眠気にびっしょり濡れた身体はおきあがろうとせず、布団にくるまり冷たい部屋の空気、カーテンの隙から差す淡い朝日から逃げようとする。寝不足のけだるさの奥に失恋のむなしさが首をもたげているのを感じていた。この鈍く沈んで弛緩した日々が永遠につづく気がして、破局的なカタストロフとか、暴力的な革命が起きるのを待ち望むような心情になっていた。昼過ぎに限界がきてようやく起きると、家族はみんなでかけてリビングは静かで、そのなかで適当に冷蔵庫を探って食事をとり、うす暗くなるころにバイトの仕度をするのだった。大学はもう休みに入っていたけれど中学、高校はまだ3学期なかごろだから、塾講師の仕事はいつもどおりつづいた。塾長の古田は最近ふたりめの子が生まれたらしく、このごろ機嫌がよかった。「坂口ごめん、わるいんだけど中3の篠原仁くんの数学、かわりにみてくれる? 市原が今日のコマ欠勤になっちゃったから」
 その篠原仁くんが横でウトウトしている。手もとの引き継ぎ書には前学期の成績といまの教材のすすみ具合、そして「よく眠ってしまうので注意してあげてください! イチハラ」と丸っこい文字でメモされていた。さっきも机を軽くたたいて起こすと、スー、という溜息のような謝罪をされ、10分もたたないうちに再び眠りはじめたのだった。首をがくがく縦に振り、睡魔と闘った結果ただ白目をむいている。自分で持っていたペンを落とし、その音でびくっとして目を覚ました。「ねてた?」「いえ」なぜかごまかそうとするのだった。
 問題がわからないから思考停止して寝るのだろう、と判断し、ほとんど正解といえるところまで教え、ペンが動きはじめたのを確認して席を立つ。受付のところで保護者と電話している古田に目配せしてトイレに行った。トイレは教室をでたところすぐのエレベータ横にあり、個室はぜんぶ空いていた。用を足し、ひと息ついてから、古田はまだ当分電話を続けそうな雰囲気だったから気がゆるんで何気なく陰毛をさわった。陰毛のなかには傷んでちりちりになった毛がまじっていて、それを根元から抜くのに夢中になっていた。うなだれた頭の奥のほうで、不規則な生活からくる鈍いしびれが明滅していた。扉のむこうから、足音が近づいてくるのを聞いた。生徒だ、確証はないけれど直感でそう思った。足音の主は小便器のほうで立ち止まって自動で流れる音をひびかせてから、「せんせー?」「ん?」「古田せんせが呼んでる、あとさっきの問題おわった」すぐいく、次の問題はじめといて、と答えながらあえて陰毛いじりをやめなかった。篠原くんはまさか先生が壁の向こうで陰毛をいじってうなだれているなんて想像もしないはずだ、とおもうと何か面白いのだった。大学に入るよりも前、谷本からそれに近いようなトイレにまつわる奇妙な話をきいたことがあった。篠原くんの足音はトイレから出ていって、つづいてぼくも水洗ボタンをかかとで押した。
 谷本とは予備校時代、まだ生徒で込みあう四月最初の授業でたまたま隣になって、みずから話しかけて知り合った。その予備校は、現役時に成績のよかった学生に奨学金を大量に給付し、そうでない学生から授業料を徴収して、受験結果は前者の奨学生をカウントすることで延命していたが、授業開始から一か月もたてば両者は授業をさぼり、中間層だけが残るのだった。谷本はもちろん後者で、早々と教室から消えた。ぼくもいつしかいらない授業は切って、谷本のいる寮へ遊びに行くようになっていた。
   一緒にさぼるときはたいていパチンコかゲーセンあたりに行き、儲けると本屋で参考書を買うのが習慣だった。これ一冊で完全逆転合格、という書籍の煽り文句にあえて積極的に釣られる谷本は、これを贖罪と呼び自虐していたけれど、ある日谷本が参考書を物色する間にトイレに行き、用を足して出ようとしたときに、入る際は気づかなかったがトイレの扉のノブ部分、取手かつ鍵の機能を果たすアルミ製のあれにやけに達筆な文字で、犬、と書かれているのを発見した、全体のバランスも、トメ・ハネ・ハライまでも完璧だったけれど一体誰がなんの目的で、という話をしてみたら、トイレにまつわる奇妙な話が始まったのだ。おれは、もっとすごいトイレの落書きを目撃した、と対抗するようにいってきた。「トイレの個室ってさ、端的にいえばうんちするための場所だと思うわけじゃん、ひとは誰でも」「まあ実際そうだからね」「でもそれ読んで、おれはひっくり返ったよね。世界がひっくり返った。トイレが、現代社会において、最も偉大な癒し空間であることが壁一面に解説してあった」「うん、ちょっとぜんぜんわかんない」
   つまりこういう文章だった。トイレの個室、それは排泄を目的とする人工的空間であるのは間違いないけれど、その一点のみでこの場所を捉えるのは、本質を見誤ることにもなるだろう。食事、睡眠と並んでひとが生きていくため必要なこの行為が、なぜ周囲の視線からの隔絶を要求されるのか、あなたは考えたことがあるだろうか。外敵の襲来から身を守るための、生物的な本能? それとも、衛生上の理由? 見解はいろいろあるけれど、ほんとの答えはもっともっとシンプルに――うんちをしている人間の姿が、ものすごくかっこわるいから、ではないのだろうか。颯爽と知的なエリートサラリーマンも、スタイル抜群の人気モデルも、そのときばかりは地位も名誉もかなぐり捨ててお尻丸出し、老廃物を放出すべく原始的欲求に駆られた動物そのものの姿を晒すのだから、これをベールにつつんで見て見ぬ振りするのは、社会的動物として高度な文明を築いてきたわたしたち人間の、当然のなりゆきなのかもしれないね。 
   うんち。この「隠匿されるべき行為」は、既婚者たちの禁断の恋、権力者たちの贈収賄といった「反社会的であるがゆえ」「それをしていないかのように振る舞う」ものとは、根本的に違うものであることに、あなたならもうお気づきだろうか。結局、ここにおいて「隠匿されるべき」事柄とは、「うんちをしていること」そのものではなく、一体どんな体勢で、どんな声を漏らしながら、どんな形のうんちをしているのかという「態様」である、といっていい。トイレの個室という閉鎖空間にいったん足を踏み入れたあなたは、ここにおいてはじめて、いかなる「態様」であれ、うんちという「かっこわるい行為」をすることが社会的に容認される、というわけだ。
   ほら、そうとわかればあなたも早速、この空間に内在する動物的な自由を、実際に、存分に満喫してみるといい。ふつうのひとびとの日常において、うんち以上の「かっこわるい」「態様」の事柄は通常想定できないのだから、それが暗黙のうちに容認されるこの空間では、どんな「かっこわるい」行為だって許されてしまうはずなのだ。不可逆的に進展するグローバル化、これにともなう過酷な企業間競争によって、より「洗練され」「高度化された」能力や人格が求められる現代社会、せめてこの小さな箱のなかだけは、そんな時代の激流からお遊戯的に逸脱し、「原始的で」「お下劣な」自己を思う存分、露出してみてほしい。それはきっと、この複雑な現代社会を生き延びる、明日への活力にもつながっていくはず――なのだから。
   谷本の語り口にはふざけるとき特有のねじれた真剣さが漂っていて、それはいつもどおりのことではあるのだけれどそのエピソードだけはなぜか迫真で、頭の片隅に残り続けていたのだ。それで今、古田が待っているという事実に直面しておきながら、実際にやってみたくなってきていた。
実際にやってみた。いったん閉じた社会の窓を再び開放して、パンツの向こうからふやけた股間だけ取り出し、指のさきっぽで硬くした。折り目正しいスーツから唐突に屹立する股間、根元の毛の絡み合い、青筋立った見慣れたはずの自分のそれが、独立したひとつの生き物みたいな奇妙な未視感に囚われていた。その異物感が嫌ではなく、むしろ癖になりそうなのだった。そのまま仁王立ちするのも所在ないから、股間は剥き出しのまま、マイケル・ジャクソンのスリラーの動きを真似た。はらわたがふつふつするような笑いがこみあげたが、自由だ、という感じはまだなかった。ふと監視カメラの存在がぱっと頭に浮かんで青ざめ、天井を見上げ、そんなものあるはずない、プライバシーだ、と思い直すと、内在化された社会的規範の存在をむしろ実感していた。
閃きが走った。 
ベルトをゆるめて、股間はそのままに、右手の中指をお尻の割れ目、肛門を探り出して押し当てた。歯をくいしばり、ぐっと力任せに押し込めると、弾力ある抵抗が一瞬あって、ずぶりと沈む感触を受けた。いける、とおもった。内在化された監視カメラに見せつけるように、そのくせ監視カメラに気づいていないような面持ちを内に保つよじれた精神構造でそのまま肛門に指を沈め、第一関節にいかないくらいのところで、内側のざらついた部分を撫でた。ほあ、とわざとらしいうめき声もあげてみたが、肉体としての快楽はなかった。女から、ソフトに、冷徹に拒絶され傷ついた自分、自尊心から血を流す惨めな男が仕事の合間に快楽もないのに肛門をいじっている、その不毛で宙ぶらりんな醜態っぷりに奇妙な癒しを覚えていた。もっとみろ、もっとみろ、と監視カメラに挑発していた。確かにそうだ、壁の落書きのいうとおりだ。これは、お遊戯的な逸脱だ。新しい扉を開けそうになっていた。 
   坂口だいじょぶか、体調わるいか? という声とともにまた足音が入ってくる。古田だ、とわかった。口調はやさしいが牽制の響きも含まれていた。すいません、ちょっとお腹の調子が、と答えると、市原もインフルだっていうし、流行ってんのかなあ、気をつけろよ、と返ってきた。「ちょっと篠原くんの教材で注意点あるの忘れてたから、すぐこれる? まあ、無理はしないように」「いや大丈夫です、すぐいきます」紙で中指と爪の中をよく拭いてもう一度水洗ボタンを蹴り、流れる音を鳴らした。指を鼻にあてたが、やはり汚物のにおいが染みているのだった。個室から出てせっけんを使い、重点的によく洗った。古田は教材片手にトイレをでたすぐのところで待っていた。
   月一回ある授業後の個別ミーティング、授業時の生徒の様子と今後の成績目標などの古田との話し合いが長引いて、帰る頃には23時を過ぎようとしていた。休憩時間につまんだウィンナーパンとグミでは限界があったから、帰り道、おにぎりでも買って小腹を満たそうとファミマにはいったら先に個別ミーティングを終えていた海藤がいたのだ。レジでおつりをちょうどよくしようとしたあげく諦めて、千円札を差し出しているところだった。通りすぎてしまえば気づかれないくらいの距離だがすこし迷ったあげく歩みを遅くし、会計を終えた海藤の視界に入った。「おつかれさまです」
「あ、おつかれさまです!」笑顔のまえに一瞬とまどいの色がみえ、選択を間違えたかなとおもう。しかしもう遅いのだった。運よくおにぎりのある棚はレジから近かったから、ぱっとツナマヨを手にとって会計を済ませた。海藤はなんとなく雑誌棚のほうをみていた。「これ、」「うん?」週刊誌の表紙を指差している。「この教授、」「あ、いま話題の」「そう! 女子生徒にワイセツ行為した!」「(笑)やばいね」「めっちゃやばいんですよ! うちの大学いま騒然となってて!」ニュースの真偽を詳しく聞こうとおもったが、とくに週刊誌以上の情報はないようだった。
   渋谷まで一緒に電車に乗る。階段をあがったときにはすでに山手線内回りの電車はホームに到着していて、ふだんなら見逃すところを駆け込んだが、なにか支障があったらしく電車はしばらくドアを開けたまま動こうとせず、走ったのが無駄骨になる微妙な徒労感をふたりで味わうことになった。金曜日の終電近い山手線はビジネスマンやOLたちのくたびれた空気で蒸していて、アルコールのにおいもいつもより明らかにつよいのだった。渋谷まで座りたかったが偶然空いていた席はひとつで、躊躇しているうちにあとから悠々はいってきた華奢なOLに座られた。ようやく電車が走りだしてその横の、スーツを着た男が青ざめた顔でしなだれかかると、隣で本を読みはじめていたその女は表情ひとつかえずにときどき肩で男を弾いた。やがて男は電車の動きにかかわらず、振り子のように大きく揺れた。
「てか、海藤さんてどこすんでるんだっけ?」「わたし武蔵小杉です!」「あれ、けっこう遠いじゃんこっから」「そうなんですよー!」面接のときには自宅近くの校舎を希望したのに結局いまのところに配属されたらしい。そんなことより語尾の全部にびっくりマークがついていることのほうが気がかりなのだった。いま何年生なんだっけ? ときくと一年生です! とかえってきた。以前聞いたような気もした。バイトは塾講師が初めてだという。大学は教育学部で、たしかではないけれど先生になろうかとも考えている、という話をきき、高1の中洲慶一郎くんから苦手な数列を質問されて、解答をそのまま読みあげることになってしまった、という話をきく。話題は深まらず、ただ切り替えのはやさだけが目立っていた。いちいち立ち現れるちょっとした沈黙のあいだに話題が降ってくるのを待ち、会話の流れをゆるくつなげながら、その通奏低音のようにしてこの子ぜんぜんかわいくないなという想念が消えかけても結局は浮かんできた。漢字で表現すると弓みたいな、奇天烈な顔つきをしていた。渋谷で降りて、じゃ、といって何事もなく別れた。海藤にはなんの罪もないが、いつもは慣れているはずの表層だけなぞるような会話を続けて、渋谷の人混みに混じっていたら、虚無がぽっかりぼくのほうを見つめて口を開けて待っていた。
夜をぶらつきたい気分に駆られていた。今夜は満月で、最寄り駅に降り立ったときにそのことに気づいた。電車からおりたばかりのひとびとの流れにのってカラオケや居酒屋の並ぶ通りを歩きながら、あかりさんと付き合ってすぐのころを思い出していた。休日のキャンパス内を散歩し、たわいもない話をするだけのデートが終わってその帰り、キャンパス近くで一人暮らしをするあかりさんを送ったあと満月の浮かぶ夜空をぼんやり見上げて歩いていたら、ちょうど彼女から写真付きのメールが来たのだ。
今日、満月すっごくきれいだよ!
ベランダに出て、夜空を見ているあかりさんを想像した。ふだんのあかりさんには凛としてどこか近寄りがたいような雰囲気もあったから、いま彼女と同じ月を眺めて、同じように感じているだろうことが単純にうれしかったのだった。電車に乗ってからもあかりさんの撮った月の写真を見ながら、充実した恋愛のはじまる感触を自分のなかでしずかに確かめていた。
自宅のリビングにはまだ灯りがついていたから、そのまま素通りして自販機で缶コーヒーを買い、熱い苦味を喉の奥に流した。白い息を吐き、缶を両てのひらで包むと、自分の身体がどれだけ冷えていたのか知るのだった。自販機の脇、電柱の足もとには三日ほど前に降った雪が寄せられて固まっていたけれど、土のせいで薄よごれた、単なる白の塊でしかなかった。飲み干した缶を捨て、そのまま歩いて家の裏手の駐車場を抜け、坂を下った。まだぽつぽつ灯りのともる家々の間を抜け、最近舗装されたばかりの並木道を通りながら、スマホとイヤホンを取り出し、一か月前にダウンロードしたRainy Blueをひさしぶりに再生した。以前あかりさんとよく行った公園、ずっと行くのを避けていたそこへ向かうつもりだった。
この2ヶ月の間、何をしていても、頭の隅でぼくから背を向けたままそこに佇む彼女の影が離れなかった。震災のあと、やっとはじまった大学生活のはじめに知り合って、ずっと一緒に日々を過ごしてきたはずのそのひとと、この背中がほんとうにおなじなのか、ずっとこころで理解できずにいた。それで自分もそのひとから背を向けて、目を逸らそうとしてもできないのだった。背中をにらむのをやめられなかった。公園に着いたが、がらんとして誰もいなかった。当然だ。新築マンション脇の、アスレチックといくつかのベンチが点々と並ぶだけの公園だった。歩くたびに鳴る衣擦れと、芝生をふむ音だけが聞こえていた。ベンチには腰掛けずに、ゆるやかに小高くなっている冷たい地面に座って月を眺めていた。秋になりかけの肌寒い日、この公園のあのベンチで、マフラーをしてきたあかりさんが、季節感を間違えたかっこうをしていたぼくにニット帽と手袋を貸してくれた。「これ、冬の三種の神器だから」と真面目な顔で表現する、そのギャップが好きだった。もう何月何日ともわからない、けれどたしかに存在した時間のきれはしが胸に去来していた。その感傷に素直に埋没するつもりだった。生まれるよりまえに流行った音楽が、脳を経由しないで感傷を刺激してきていた。いける、という妙に冷静な声があって、失恋してからはじめて、すこし嗚咽を漏らした。
あかりさんと出会ってから付き合うまでの間、だから5月の終わりころ、震災で壊滅的な被害を受けた地域を訪ねた。ボランティアとかではなかった。単に壊れた街を目撃したくて、金曜の夜、ひとりで夜行バスに乗ったのだった。谷本も誘おうかとおもったが、やめた。バスのなかはたぶん支援物資をもったひとたちで三分の一くらいは埋まっていて、一眼レフしか持っていない自分はあきらかに浮いている、とおもったけれど、横に腰掛けた中年の女性が声を掛けてきた。宮城に親戚がいて、家族はみんな無事だったけれど家が流されちゃってね、といってゴムで縛ったたくさんの冷えピタを見せられた。これから夏、くるでしょう? 食料なんかはきっといっぱい届いてるでしょうけど、高齢の方なんかはねえ、節電でクーラーも効きにくいだろうし、暑いとたいへんだから。
  自分はメディア系の学生団体に所属していて、取材して、それを雑誌記事にするために来た、とうそをついた。じっさいの生の声を聞いて、見て、それを東京の学生に伝えられたらとおもって。おばさんは、うん、うんと頷いて話を聞いていた。自分のおにぎりを渡してきて、たべる? お腹すくでしょう、といってきた。断ったが、再度勧めてくるからもらったのだった。結局食べなかった。会話はそれで終わり、浅く眠った。明け方、目的地到着よりすこし前に醒めて、窓の外の、まだなんら異変もない緑と淡い青の流れる風景を見ていた。
あかりさんは岩手の出身だったのだ。付き合ったあと、ひとりで被災地に行った話をし、そのときに撮った写真を見せた。嫌がられるかもしれないともおもったが、とくに反応に変化はなかった。壊れた街からは磯の匂いがした。津波によって捻じ曲げられた電柱、ひっくりかえった船、土によごれた家族の写真やぬいぐるみ。かつて住宅だった瓦礫の山にはでこぼこになった車が乗り上げ、そのふもとに津波の残りの水たまりができていて、そこに春の空が映る写真をみて、あかりさんは、すごい、きれい、とつぶやいた。わたし内陸のほう出身だし、友達から大丈夫だったか聞かれても内陸だから平気だよっていつも答えてたけど、ほんとは、高校のともだち一人死んでる。顔合わせたら立ち話するくらいの仲だったけど、震災のあと、ずっと連絡とれないみたいでね。そのときは西新宿の、壁のうすいビジネスホテルにぼくとあかりさんはいた。ふたりとも酔っていて、ふらふら散歩しながらそこに入った。言葉にされる死は、あかりさんの口にも、ぼくの耳にもよく馴染んでいるようだった。あかりさんの、女の甘い吐息と唾液をそこではじめてむさぼって、胸を触り、舐め、濡れてきたあそこに勃起したちんこを入れた。腰を振った。思考が弾け、空白に埋まる感覚があった。あかりさんには言わなかったが、被災地からまた夜行バスで帰ってきた早朝の新宿の街、まだ開いていない銀行や整然と並び立つオフィスビルたち、その間で点滅だけは続ける信号機、たまに通り過ぎる自動車たちの、ミニチュアめいた造りものの感じが実はいちばん奇妙だった。被災地の磯のにおいに馴染み、壊れた街が脳に焼き付いてからしばらくあと、そういう感覚がずっと続いていた。
「で、お前はそろそろ立ち直ったの?」「あ、もうだいじょぶ。なんかこないだやたら感傷的になったときがあってさあ、おもわずLINEしてしまったんだが、がっつり既読無視されて。そんで、なんか逆に、大丈夫になっちゃったわ」「LINEはしたんだ(笑)」「ええ(笑)」意外と長引いたねえ、と流し気味にいって、ソファに座っているぼくにどけという合図をし、その背もたれをぐっとまえに引き寄せて倒してベッドにする。枕を置き、横になる。谷本はいつもここで寝ていた。
「なんかこう、号泣導入剤として恋愛ソングを聞いて夜中に散歩してみたんだよね。いろいろ思い出しながら」「カラオケのPVで見たことあるわ、そういうひと」「で、泣いた。」「胸打たれたんだ(笑)」「そうね、なんかさ、けっこう失恋て激しい感情体験だとおもうんだけど、もう語り尽くされてるのかあえて言葉捻らなくてもそのへんに落ちてるポケットサイズな表現でこと足りるんだなっていう驚きはあったよ.。おれとあかりさんの関係は特別だ、とも思おうとしたけど、どうもそうでもないっぽい」「まあ、たぶん全員そう思って失恋嘆いてるしなあ、古典でもイトアハレナリとかいって自殺してるし、べた中のべたですよ」「なんか、でもさ、ぶっちゃけおまえもわかんない?」「ん? いやわかんない」「いや、おれ結構おもうんだけど、べつに恋愛に限ったことじゃなくてさあ、なんかふつうにふつうの人生歩んでると、最近たった20年足らずしか生きてないくせしてもう世の中に溢れてるいろんな言葉、啓発的な標語に自分の人生が回収されてくかんじ、するんだよね。難しく考えたいひとには残念な知らせかもしらんけど、案外紋切り型で語れる物事のほうが多かったりしてな。なんか年配の人ほどふつうのことしか言わねえじゃん」「あー、、?じじばばの感性が単に磨耗してるだけなんじゃね、それは」そこで唐突に黙る谷本。
「まあ、他のことに関しては知らんけど、ただ少なくとも失恋に限っていえばさ、これそんなうっとりするようなものじゃなくて、単なる自意識の問題なんだとおれはおもってるよ。なんか、相手を固有の存在として承認する、みたいな恋愛的な認識って付き合いがしらには実はよくわかんなくって、一緒にいた記憶が蓄積してってようやくじわじわ滲んでくるみたいなとこあるわけじゃん? ない?」
「ん、まあそうだね」
「そういう、相互承認の関係性みたいなもんをさ、いったん築いたあとでこのたびおまえは解除されたわけだけど、それで本当はおれって相手にとって代替可能な存在だったのか!! みたいな圧倒的現実を突きつけられて一時的にびっくりしてるだけ、だと思うんだよね。代替可能である、なんてのはまあほんとは相手だってそうなんだけど。固有性にまつわる記憶自体は解除のあともしばらくは残るからさ、そのギャップがね。なんか、ものすごく美しくてかけ替えない存在だったかのような記憶のされ方してるんでしょ。虚構だけどね。まあでもそんな記憶もしばらく経てば当然薄れていくし、そこに付着してた相手の固有性もどんどん剥がれ落ちてって、ナチュラルに元のゼロに戻ってくよ。自然とそうなるし、そうなるべきなんだよ。
で、これ、そんなうっとり歌いあげるものなんかな、なんか実存の問題ってか、多分に哲学的な話だと思うんだよね、しらんけど、おまえも結局そこで苦しんだんじゃないの?」
「んー、、、」「ちがうの?」「まぁ、しいていうなら、あれだな、リストラされたおっさんの気分に似てる気がする、リストラされたことないけど」「リストラもうっとり歌ってみたら、ほんなら」「首切られた会社が忘れられないの。失ってはじめてわかる労働の歓び」「お、いいなそれ」「おれCDデビューしよっかな」「解決したな。すっきりしたわ。つーわけで、おれは寝る。おやすみ」
数分後、横で谷本が寝息をたてている。ぼくはてきとうに2chのまとめスレを巡回したあと、買ったキリンの澄み切り350mlがまだ残っていたから無理に胃へ流して、開いたベッド兼ソファから立ち上がり谷本をまたいだ。「わり、そこの毛布もう一枚とってくんね。さみい」「これ?」「ん」見ずに谷本が返事する。床はいつも通り洋服やレジ袋などのゴミで荒れていたから、てきとうに足場をつくって、まるまっていた毛布を一枚拾い谷本に投げた。もう一枚も拾って、ふすまを開けて押し入れをよじのぼった。ドラえもんが寝ていることでおなじみのあの場所には来客用にすでに布団が敷いてあるのだった。暖房が近すぎること以外、案外快適な空間が出来上がっていた。ふすまを閉じ、横になって目をつむった。
   あれ、坂口くんじゃん、という声で目を覚ますと黒縁メガネをかけた男の顔が笑っている。ごめん、起こしちゃったわ、といいながらふすまは開けっ放しで床に降り、谷本のほうを見て、これいつから寝てんの? と聞いてきた。「3時くらい? てか、何時いま」「5時半」「夜勤明け?」「そうそう」しかし、相変わらずの汚部屋ですな、といいながら一ノ木は谷本の寝ているソファに腰掛け、煙草に火をつけた。しばらく黄昏ていてから部屋をがたがた出ていって、シャワーを浴びているらしかった。またうとうとしていると、戻ってきて上半身裸のままヘアドライヤーをかけている一ノ木の、飯いかね、という声が聞こえてきた。「焼肉くおうぜ」「おれ寝起きなんだけど」
谷本家から徒歩10分の妙々亭は24時間営業なのだった。午前6時前の焼肉屋はさすがに空いていたけれど、いる客はみな生ビール片手に、さかんに肉を焼いていて夜の雰囲気とかわらなかった。脂の染み込んだ煙のにおいが充満した。一ノ木はトングでカルビを次々七輪に乗せながら、コンビニの中国人同僚バイトの悪口をやめなかった。「ダメだあいつら。権利ばっか主張する。おれ将来総理大臣になって日中戦争勃発させることにしたわ」
肉の脂身の勝手に溶けていく感触、それにタレと辛みそが絡み合う味の濃さが極まってから、白米を一気に口にかきこむ。寝起きにこれだけがっつり焼肉を食べたのは初めてだった。案外いけるでしょ、と一ノ木は言った。「一ノ木さん的にはこの飯どういう扱いなの? 夕飯?」「気にしたことないが、しいていうならそうだな」一ノ木はかれこれ数年は昼夜の二転三転する生活を送っているらしかった。昼型と夜型で教育も労働も二分すればいい、が口癖だった。「日本のサラリーマンとか、飲み会もサビ残も事実上強制されてて、朝の遅刻も許されないんだろ。なんなんだろうな。睡眠権侵害だろ完全に。寝たいときに寝る自由。人格的生存に関わるだろ」「あんのそんな権利」「ない。けど憲法上保障されてもよくね? 嫌煙権やら環境権なんかよりよっぽど議論されるべきと思うが」
一ノ木は谷本の二つ上の高校の先輩で、バイトに明け暮れたあげく留年、中退し、今は司法試験予備試験の勉強をしていた。中退してからしばらくは谷本の家で居候しながらバイトを続けていて、高校から付き合っていた彼女が就職で上京してきたのを機に同棲を開始したが、まだときどき谷本家を訪ねてくるのだった。同じ大学だったらしいが、谷本家で知り合った。
間に合わなかったカルビが金網の隅っこで黒ずんでいる。トングでそれをつまんで余っている皿に乗せると、それまでぼおっとレジ上に備え付けられた小型テレビで朝のニュースを眺めていた一ノ木が、思い出したみたいにメニューを手に取った。「なんか頼みたいもんある?」断った。ボタンを押すとアジア系のカタコトの店員が来て、一ノ木が豚トロを追加するのにあわせて水を頼む。調子に乗って最初に生ビールを頼んだからまた眠くなってきていた。斜め前の韓国語をしゃべっていた4人客がばらばらと席を立ち、暇そうにしていたさっきの店員がすぐ皿を片付けにきたところで、その客たちと何か早口でしゃべり、笑っていた。メニューを戻した一ノ木はまたテレビに退屈そうに視線を放りながら、あいつん家ひさびさに来たけど相変わらず荒れてんなあ、と呟いた。
「一ノ木さんどんくらいぶり? 谷本家」「今年初、、いや、一回きたか。2回め」「あ、じゃあおれと一緒」「あいつはバイトとかもまだなんもしないのかね」「気配ないなあ(笑)」「焦りとかはないんかね? すごいな」「さあ、、ときどき口にしてはいるけどそれっぽいことは、ただどこまで本気かわかんないね」「ああ。もう完全にアラームぶっ壊れてるなそれは」「アラーム、、」あ、ごめん一本だけタバコ吸っていい? といいながらもう火をつけている。くわえ、煙を吐き、灰皿に一定のリズムを刻みながら新規ではいってきた女性客をたぶん無意識に目で追っていた。マスクをしていて美人らしい雰囲気はあったけれど、明るい茶髪の乱雑にからまるジャージ姿がどこか不潔なのだった。
「たとえば締め切り直前とかさ、ルールを期せずして破っちゃったときって、まともに育ってきたら鳴るんだよ、これはそろそろまずいっていう、アラームが。自分の中で」「あー」「でもそれを案外スルーしてもべつにぜんぜん生命の危機は訪れないから、だんだん弛緩してくんだよね社会的動物として。アラーム鳴らなくなってくんの。あいつは完全にぶっ壊れてる状態だとおもう(笑)」「経験者?(笑)」「そーだね」「それ修復できたの? 一ノ木さんは」「まあ完全に修復できたわけではないけど。でも案外充実してるんだよな意外と。こっちのほうが。当たり前か」「世間的には大学生から、夢追い中退フリーターへの転落だけどね」「まーね。まあでももう外れる気はないよおれはね、社会から。社会の、ふつうの、経済的成功とか類型的な幸福のルートから。もう一回ちゃんと乗って、がんばって乗り続けるよ。法律やってておもうけど制度ってのはもう厳然としてそこにあるからね。退屈な現実と同じくらい厳然とそこにあるよ。その外縁から自我や理想を叫ぶ人間はもはやギャグにしか見えないよ。その中核にどう食い込むか考えたほうが絶対に賢いね。革命より自己啓発のほうが正しいってもう大半のやつは気づいてるからね。胡散臭いから口にしないけどね」「あ、自己啓発とか読むんだ、一ノ木さんて」「いや読んだことはないけど(笑)自分に自信を持とう! とかそんな感じだろたぶん。周囲に感謝しよう!」「馬鹿にしてますね」
これ吸い終わったら行くか、といって火を消し、席を立った。4200円(税込)。「やっぱ安いな」坂口くん1500でいいよ、おれのほうが食ったし、と壁に掛けられたレシートを手に取って一ノ木がいう。「500円あります?」2000円渡した。「あ、ない」じゃらじゃらやっている。300円渡された。「200は今度返すわ、たぶん」「いやもういーよ(笑)」  
会計を終えて外に出る。店にはいるときにはまだ2月半ばの夜明け前の、淡い日の出の気配が漂いはじめているだけだったけれど、7時を過ぎるともうすっかり平日の都会の朝が来ていた。高田馬場駅前のロータリーにはオール明けの大学生がひとり横たわり、肩を軸にして悶えながら喉を掻き鳴らしてゲロにもなりきらない胃液の残滓を花壇に吐いている。仲間らしき男が駆け寄ってきて、ペットボトル水を開けて飲ませていた。その脇のゴミ箱、酔っ払いかカラスかにぶちまけられたそれにカラスたちが群がる。やたら派手だが鈍い音を鳴らしてまた新たな一羽が低空飛行し、ソフトに着地し、ぬめりけのある黒色の羽を朝日に光らせながら突きはじめた。「あいつら都会の覇者感出しすぎだよな。すこしは遠慮しろよ」その脇を通り過ぎるサラリーマンや中高生たちの姿も格段に増えてきていて、大通りのシャッターの次々開かれていく様子を眺めていたら、まるで都市という巨大な生き物がのろのろと目覚めたみたいだ、という言葉が浮かんだが、ほんとうにそう感じたわけでもなかった。ただそういう言葉がうかんだだけだった。真向かいから来る、駅へ向かう制服やスーツたちはとくにぼくや一ノ木に注意を払う様子もなかったけれど、バッグを持たず身体一個だけで街にいることに唐突な違和感を覚えはじめるのだった。朝の健全な光を浴びると2、3時間しか寝ていないわりに活力のある気もしたが、また布団にはいれば惰眠を貪れるはずだった。世間の新しい1日が始まろうとする動きに文字通り逆行して谷本家まで歩いていた。
息継ぎする間もなく眠りの底に潜っていたようだ。起きると谷本家のベランダを隔ている磨りガラスからは冬の夕陽が漏れていて、そのなかで谷本が電気もつけずサッカーゲームに興じている背後が見えた。襖の中で伸びをして、多少おおげさにあくびを漏らした。谷本の背中に変化はなかった。「あれ、一ノ木さんもう帰った?」「ん?」「一ノ木さん来てたよ。焼肉くった」「まじ? どこで寝たの?」「たぶんおまえがいるとこらへん、テレビの前、ゴミよけて、毛布敷いて」「すげえなあのひと」
時計を見ると18時を回ろうとしていた。「おまえ飯食った?」「ん、食ってない」「いかね?」「いく」
30分が経過した。
「腹減らないの?」「減った」「いこうぜおい」「うん」「まずゲームを止めろ(笑)」「いや、やめたいんだけどさあ。やめたいんだけどさあぁ」「www」「おれも飽きたしすっごいやめたいんだけど、わかる? このかんじ。ゲーム作ったやつって天才だとおもうわ」帰ることにした。
帰宅してリビングに入ると弟はもう夕飯を終えていて、カレーのルーで汚れた皿もそのままにテレビから目を離さないでいた。おかえり、と一応つぶやく弟の声に痰がからんだ。ダイニングテーブルの上には「火元から絶対に離れないように! 皿は各自で洗うこと!」との注意書きがされていて、それで母親が弟のママ友達と小旅行に出掛けていることを思い出したのだった。ソファに座ってスマホを取り出すと、数分前に同内容のLINEが送られていることにも気がついた。うさぎのキャラクターの目がメラメラ燃えているスタンプが二連続で貼られていたけれど、使用場面はたぶん間違えていた。母親は最近スマホに買い替えたばかりで、スタンプを見境なく使用するのだった。
「つか、珍しいじゃん。ニュース見てるとか」「推薦狙うかもしんないから、たまにはNHK見とけって、担任が」「ああ」弟は学校でそこそこ成績優秀らしいのだった。
てか、なに原発また結局やばいんだ、とつぶやいた。テレビには遠目からの福島第一原発の様子が映し出されていて、画面左上には、”温度計が異常な値 配線トラブルによる故障か”との文字が表示されている。
福島第一原発2号機の原子炉圧力容器底部の温度計が、80度の記録上限を大幅に上回る400度を振り切れて異常な数値を示している、らしい。作業着を着た東電の役員が、報道陣の前で事態を説明する見慣れた光景があった。「異常値の原因は、えー現在、蒸気や塩分に長期間晒されたことによる、温度計の回路の劣化によるものとみられており、ほぼ確実に故障しているものと、えー考えて、おります」実際には、圧力容器底部の温度は上がっていないと、えー、温度上昇は温度計の故障によるものであり、圧力容器底部自体の温度に変化はないと、いうことはほぼ確実であると、えーそう判断したということです。
「温度計の故障だからへーき、だって」「ほんとなんかね?」「さあ、、」「これさ、仮に故障じゃなくてまじなんだったら、いよいよ原発大爆発で終わるよね、日本」「お偉いさん方もう逃げてたりしてな」「よし、、うちも避難準備でもするか」実際避難とかいってもどうしようもないけどね、といいながら弟はトレイにカレーの皿と1リットル牛乳パック、それからグラスをのせて、流しへと運び始めた。あ、牛乳おれも飲むからそこ置いといて、というと、パックを振って「もうない」と答えた。「え、冷蔵庫ん中も?」ないっぽい、と冷蔵庫を開けながら弟が答えた。まじかよ、とつぶやく声に不満の色が混ざったが弟に届いたかはわからない。さき風呂はいるわ、といって弟はさっさとリビングを出ていった。ニュースはもう、復興庁設置に関するものに切り替わっていた。席を立ち、カレーのはいった鍋に火をかけた。中には辛うじて一杯分のルーしか残っていないのだった。
食べるというより飲み込むようにして食べた。思えば朝に焼肉を軽く食べてからずっと寝ていて、半日以上なにも胃にいれていない状態だから足りるはずもなかった。冷蔵庫を探索してみても食べ飽きた納豆とキムチくらいしか残ってなかったから、諦めてコンビニに行くことに決めた。食器を片付けようと洗い場まで持っていくと、弟はバケツにためた水に皿をつけただけで洗っていないようだった。2人分の皿を洗って、風呂場に向かった。扉越しに頭か身体を洗っているらしい弟の気配がする。
「孝介」「ん?」「お前、皿洗ってない」「あ、でたら洗う」「いや、おれの方でもうふたつとも洗っといたから、お前鍋のほう洗っといて」「ハッ!?」
「いや、ハじゃねえよ」「いや、おれ出たら洗うっつってんじゃん、てか鍋洗うのと負担ちがいすぎんだろ」「じゃあ鍋、どっちが洗うんだよ」「最後片付けたほうでしょ、ふつう」「いやいや、お前だいたいおれの分一杯分しか残さないでさあ、自分だけカレーめっちゃ食っただろ、それで鍋もおれ洗うとかおかしくね? 牛乳もひとりで飲んでるし」「どんだけおかわりしたかったんだよ(笑)」
めんどくさいので風呂場の扉を蹴り、雑の極みで鍋を洗ってから二階に上がった。帰宅した母親から鍋の汚さについて文句を言われる図が浮かび、舌打ちして枕を床に叩きつけてから、ベッドにダイブした。思いきりのびをして、永いため息みたいなおならをした。コンビニに行くつもりだったのを思い出し、次いで、さっき食事中にスマホが震えたのを思い出だした。母親からのLINE、ではなかった。あかりさんから来ていた。送ってからもう5日経つのだった。
「久しぶりだね。就活は慣れないこともたくさんあって大変だけど、私は元気にやってるよ。知也も残りの大学生活、楽しんでね。」ボタンを押すと画面はすぐに暗転した。
れいにぃ〜ぶる〜もぉおお〜。おわぁったはーずなのにぃい〜〜。れいにぃぶるっなっぜお〜ひかけるーのほぉ〜。ぜんぜん似ていないがベッドの上に立ち、左手を腹に添えて徳永英明の歌い方で熱唱していた。あーなたのまぼろしぃ〜〜けすーよーほにぃ。わたしもきょうはそっと、あっめ……。私は今日もそっと雨、だったような気もして左手を腹から離し、スマホを拾い、検索した。私も、で正しかった。スマホを布団の上に投げ出し、左手はふたたび下腹部にあてた。弟のいる隣の部屋とを隔てる壁が、力任せに叩かれる音がした。そのまま騒音に対する抗議のため部屋に入ってくれば、失恋ソングの名曲を熱唱しながら、肛門を弄っている兄の姿を目撃できるのに、と残念がってみせた。右手は今、お尻、ずり下ろしたチノパンとボクサーパンツによりむき出しになったそれにそっと添えてあるのだった。人差し指と薬指で尻たぶを両脇に押し拡げ、うんちをするときの感覚で、括約筋を開いて中指を挿入させていた。塾のトイレでその違和感の虜になって、もう何度か、思いついたときに、自宅でも試みているのだった。Cメロに突入しながら、指を出し入れしてみていた。以前よりいくぶんスムーズになっている気もしたが、排出のための器官に専門外の現象が発生したことで、身体のほうはやはり異常を感知しているようだった。猛烈におならをしたくなってきていた。でも実際ガスは溜まってなくて、括約筋に力を込めてみても指に圧迫があるだけなのだった。指の出し入れをしやすくするため軽く前屈みになり、粘膜を傷つけないよう、ゆっくり出し入れを繰り返しながらCメロからの山場のレイニーブルー連呼を絶叫した。
IT’S A RAINYBLUE LONELIIIIIIIINESS!!!
扉の開く音がした。隣の部屋からだった。くるか、と思い身を固くしたが、足音はそのまま階下へと下って行った。おしい、とおもい、安堵し、はらわたの底から、くっくと笑いが込み上げていた。今日一ノ木と歩いた朝の街は、もう見慣れたいつもの街だった。浮いているのは自分のほうだった。退屈が、小々波みたいに押し寄せてきていた。考えてみると失恋してからの、非日常的なセンチメンタルな気分すら愉しかったようにも感じられていた。
   昼夜の逆転はあいかわらずのまま、だいたい15時から始まる塾の仕事だけは寝すごさないようにして、大学のゼミやクラスで飲みに誘われれば顔を出すか、ときどき谷本家に遊びにいくような日々の過ごし方をしていた。膨大な時間に頭を抱え、たまに本屋に立ち寄って、学術書のコーナーに行き、あかりさんと別れたことでできたこの宙ぶらりんの空白を学問にあてるべきではないか、それこそ成長ではないかなどと考えたりしたが、アカデミックの目覚めはついになかった。紙面いっぱいの難解な言語たちがこの自分に具体的に語りかけてくることはないのだった。
2月の終わりころには浪人時代に何度か友達と遊んで以来行っていなかったソープランドに、ひとりで行ってみたりもしたのだ。ネットで幾つか調べて、評判のいいところにふらりと入ったら、パネルとぜんぜんちがう女のひとが出てきた。ひどく痩せていて、顔立ちは整っていたが、作り物めいていて整形だろうと推測していた。服を脱がしたり、ローションを用意したりするちょっとした間、つまり身体を密着させない時間には虚ろな笑い方でそれを埋めようとしていた。こんにちはー。こういう店はじめて? まだ若そうだね。社会人? 学生? 今日さむいね。ふふ。そうなんだー。ふふ。ふふふ。ふふ。ソープ専用の桶に座り所在ない時間を過ごしながら、風呂場に響くその声を聞いていた。軽くフェラチオをして勃たせてから、ローションを全身に塗りたくるとやっと時空間に安定感が増した。ぬるぬるになった女の身体と、自分の身体をマットの上でがむしゃらに擦りあわせていたら、ローションで全身粘膜にかえられた2個の物理的な肉体が、内面を語らうことなく純粋に絡まりあう快楽があるのだった。その単純明快さに心を打たれていた。ちんこを、女のへそのあたりに擦りつけたときに、1度目の射精をした。
挿入して、なかば意地になって2度目の射精を終えて着替えていると、女は急に敬語になっていた。でも、すごいですよね、大学、優秀で。靴下の片方がみつからなかったから、探しながらあいまいに返事した。制限時間はまだあったものの、急激にはやく帰りたくなっていたが、女はプレイの始まる前とまるで違う、急き立てるような跳ねた声でしゃべり続けるのだった。「わたしこないだ、精神科医やってるっていうお客さんが来てね、帰り際に、君、30になったら死ぬって思ってない? って急に言われたんです。なんかそういうのわかるらしくて、わたし、ほんとにむかしから、30才になったら死のう死のうと思ってて。別に、辛いこととかあるわけじゃないんですけど、なんとなくずーと、30になったら死ぬんだろうなって。自然に。だから、すごくびっくりしました、そういうことってあるんですね。惚れそうになりました」「へぇーすごいね」
2月が終わり、3月に突入すると中高生たちは学期末テストに向けて焦ったりそうでもなかったりした。学習塾としてはそこで結果を示せなければ当然経営にも影響することになるのだから、バイトの大学生たちを焚きつけたり生徒たちを懸命に励ましたりしていたけれど、結局のところ試験勉強にも勘の良さみたいなものは作用するしティーンエイジャーになればその限界を下手に理解してしまう頭を持ってしまっていて、古田がひとりで空回っているようなのだった。バイトたちのもっぱらの関心は定期試験終了後の、春季講習にどれだけ自分のコマをいれるかという点に向いていた。朝の10時から夜8時まで、連続一週間続く特別期間だった。稼ぎどきではあるが疲労はけっこうなものなのだった。ぼくはといえば入れる限りのコマは全部埋めてしまう気でいた。定期授業の最終出勤日、つまり春季講習の希望日を提出する日に、駅から塾校舎へ向かう道すがら春季講習のことを思い出して、ぼんやりとそう予定を立てた。
鶯谷駅、JR山手線のなかで明らかに一番規模が小さいその駅前にはほとんど面前にレンガブロック状のラブホテルが林立していて、その脇の、商店街を抜け橋を渡ったところに塾はあるのだった。たまにプライベートの生徒とその保護者に遭遇することもあり、はじめに生徒にひと声かけ、こちらを講師と認識していない保護者に頭をさげる一連のプロセスがめんどうだったが、今日のところそれはなかった。一階がスープカレー屋の古びたテナントビルにはいっていき、エレベーターで行きさき階ボタンを押した。扉が開くと、フロアは真っ暗で、男が目の前に立っていた。いくぶんくたびれた、スーツを着た中年の男が泣きそうな顔でこちらを見ていた。「え?」
「おれは、、、!」「はい?」「おれは、、、誰よりも前髪にこだわっている!!」たしかにきれいに七三分けになっていた。「おれは、、誰よりも前髪にこだわっている!!」閉。
動悸がして一階に下った。エレベーター前の、階ごとの案内板を確認してから、念のため3階まで階段で上った。受付には古田が生徒のひとりと話し込んでいて、頭だけ下げて講師控え室まで入った。教材のある棚の前でテキストを読んでいる海藤が弾かれたバネみたいな動きで振り返った。「おつかれさまです!」「あ、おつかれさまです、」「? だいじょぶですか?」「いや、だいじょぶじゃない、なんだあれ、パラレルワールド?」「え?」「めっちゃ前髪気にしてた、、」押す階のボタンを間違えた、そういうことにした。とりあえずの教材だけ揃え、ボールペンを胸ポケットに挿し、生徒名と教科の確認をして席へ向かう。柿内麻理絵ちゃん(中学2年生、英語)はもうちんまり席に着いていた。
「センセ」わかりやすく不機嫌な雰囲気を醸していた。「ん?」「今日授業めんどくさい」「まあ、おれも多少めんどくさい」「うわ、教師がそんなこといっていいのかよ」うれしそうだ。「宿題やってきたの?」
リュックから取り出したプリントをばささ、と乱雑に机に広げた。「もうさぁ、英語とか、どうせうちバカだからしゃべんないし。なんでやんないといけないの?」「まぁ欧米人がいまんとこ最強だからね」「はー?」宿題の丸つけを終えて返却する。「よく出来てると思うよ、たぶんこのへんテストにもまんまでるからがんばってね」あとは総復習、ということで柿内麻理絵ちゃんが苦手とする分野の問題を抜粋し解かせるだけ、新しい分野を教えないぶん楽だった。隣で生徒がペンを走らせている間、壁に掛けられた時計を眺め、10分過ぎるごとにチャリンチャリン、と頭の中で音を鳴らしていた。100円玉が2枚ずつ落ちてくるのだった。
計4800円貯まった。21時になっていた。事務所で保護者に連絡中の古田にかわってバイト歴のいちばん長い河野さんがみんなの前に立ち、試験に向けての精神論含むもろもろの激励を送ってお開きとなるのだった。講習に参加する日にとりあえずありったけの丸をつけ、古田に提出すると、戻り掛けにすれちがった海藤に声をかけられた。
「あ、坂口せんせ、」「ん?」「あの、今日みんなと飲みますか? 伊藤くんとか、宮田さんとかくるんですけど!」「あ、いいよ」「やった!」まあいいか、とおもっていた。どうやら河野さんや市原さんなどの古株組は古株組で今日は飲みにいくようだった。
自分以外の三人、伊藤と宮田、海藤はけっこう距離が近いのかとおもっていたがそうでもなかったようだ。駅前の、いつも飲み会をしている居酒屋の席についてビールが置かれるころにはすぐ共通の話題がないがゆえの無難な恋愛の話題に移行していた。なんとなく相槌を打っていたら話を振られた。「坂口くんは彼女いるんだよね?」「いや最近別れたよ」「え! そうなんだ」「理由は?」「まぁ向こうの就活とかあって、なんかだんだん合わなくなっちゃったな、価値観とか」「年上だったんだ! 意外!」意外なのはむしろ伊藤に彼女がいたことがないという点だった。宮田が「ちゃらそうなのに!」といったときだけ伊藤が「いやちゃらいとかねーよ」とトーンを下げたのは面白かったが、あとは奇跡のように低調な会話が展開されていて、行くと言ったことを後悔しはじめていた。
「てか、古田さん最近機嫌よすぎて不気味じゃない?(笑)」「子どもできたんだってねー、てか結婚してたことすら最近知った、完全独身かとおもってた」「そう? わりとかっこよくない?」「いや顔じゃなくって、なんか、目こわくない? ぜんぜん笑ってない」「社会人ですから、、いろいろあんだよ」社会でんのこえー! と伊藤が叫ぶ。騒然としていた居酒屋のなかでもひときわでかく、ツッコミ役らしい宮田が「声でっか、、」とあきれ顔を向けた。「おれは面白くないから声をでかくしてんだよ」「あ、自覚あるんだ」弾け切らない笑いがあり、間があいて古田の話に戻る。市原への対応が露骨らしい。「かわいいし、しゃーない」「かわいいけどさあ、、あれはセクハラ親父手前までいってるとおもうわ」「宮田さんもかわいいじゃん!」びみょうに空気の読めていない海藤の合いの手が入り、「てか、伊藤くん宮田さんのことかわいいっていってたよね!」ギョッとする伊藤、しかし持ち直し「かわいい、おれ咲ちゃんなみのハイスペック彼女ほしいわ」下手に否定に回らない対応力の高さを見せていた。「どうして伊藤くんは彼女つくんないの?」海藤のジャーナリズム精神が冴え渡る。「おれはピュアラブとエロの狭間でつねに揺らいでるんだよ」「意味不明(笑)」ハハハハ、と笑い、笑い声の余韻を背後に残しながらトイレに立った。
立ち上がると酔いが回っていることに気づくのだった。厨房の脇、客席からすこし離れたところにあるトイレの場所がわからなくて、店員に聞いた。大ではなく小のほうだったが、空いている小便器は使わずに埋まっているひとつしかない個室が開くのを待っていた。会話の低調さはあの場の全員の心にズンと自覚されている、間違いない、とおもった。個々に逸脱する部分は持ち合わせていてもそれは多様で平穏な日常に分断されねじれの位置にあって永遠に交わらない可能性があるから、まずは全人類に共通する、ち○ことま○この話をするしかない。しかしち○ことま○こに直接言及してはならない。ち○ことま○こにまつわる話をしながら、ち○ことま○こなどという低次元な話は慎まなければならない。つまりち○ことま○この存在を常に意識しながらまるでち○ことま○こなどこの世に存在しないかのように振る舞い続けなければならない。その存在を過剰に意識して深淵に呑み込まれてはならないが、ち○ことま○こなど実在しないと盲信することは赦されていない。個室に入り、おちんちんからおしっこを放出した。
席に戻りしな、着席せず、バッグを持った。「ごめ、ちょっと明日までの課題あんの思い出したから帰るわ、すまん!」えー、まじか、と宮田と伊藤が声を出す。お酒、飲みすぎちゃってない? だいじょうぶ? という海藤に3000円渡し、清算して足らなかったら言って! と声を掛けて店を出た。
人びとの吐き出すアルコール臭い二酸化炭素に蒸した店内から一気に外に出ると、春になりかけの夜はまだ寒いのだった。バッグをいったん地面に置き、腕にかけていたコートをまとった。この時期に課題という理由は無理があったかもな、と思い返したがそれ以上の感想はなかった。伊藤たちの会話の内容ももうぼやけてほとんど思い出せないでいた。改札を抜けて、ちょうど来た電車に乗り、いつものように、渋谷で降りた。人身事故で予定時刻より28分遅れていたらしく、ひどく混雑していた。自殺でもしたのだろう。死は平坦な声で伝えられるニュースでしかなくなっていた。渋谷駅はまたJR改札から井の頭線へとむかう人々の流れとその逆の流れ、ハチ公口から合流し、または突き抜けてそれ以外の路線へ向かう流れでごった返し、ひとつの巨大なざわめきをつくりだしていた。足音と、アナウンスと、会話の群れのなかに岡本太郎の絵があり、駅の外には、ネオンサインに夜の底を染める渋谷の街と、スクランブル交差点のさらに巨大な人の流れがあるのだった。
井の頭線へ向かう流れに乗って、歩いていた。あかりさん、という文字列がまず浮かび、それからあのひとのイメージがパパッとフラッシュバックして、それですぐ消えた。
それ絶対んrgだわ!!
断片的にしか聴き取れないはしゃぐ声が唐突に横を過ぎ去っていった。前方の、ゆらゆら歩く男女のうち男が、顔を突き出すように女に笑いかけ、肩を傾け、手がふらふら空を掴む。女はたぶん意図に気づいているが手を握ろうとしない。バッグを肩にかけ直した。たとえば、いまここで、スマホ画面を注視しながら、あるいは横に誰か友人がいたとしてこの騒音に足されるだけのたわいもない会話をしながら、当たり前のような動作で、社会の窓からおちんちんを丸出しにしてみたら、向かいから来るひとは、あるいは通り過ぎていく人びとはそれに気づくのか、考えていた。
スマホを取り出し、Googleの検索窓に駅 露出狂、と無意味に打ち込みながら、左手で股間をまさぐり、チャックを下ろし、しなびたちんこを取り出しそのまま歩いていく。誰にも注意されない。悲鳴があがる様子もない。スマホから顔を上げる。距離感からして友人だろう2人の男が、ポケットに手を突っ込んで、沈黙のうちに、くすんだ顔を虚空に放ったままで向かってくる。柱に寄りかかり、誰かを待っているらしい女の視界に入る。目立った反応はなく、焦点は股間には当てられていない。すぐ違う方向を向いてしまう。カップルはいちゃつきの熱気を帯びた言葉のやり取りを加速させて通過する。誰も気付かない。誰もぼくに関心を向けていない。だがおちんちんを丸出しにするだけで、見慣れたはずの雑踏が、その景色を構成するひとりひとりの挙動が、緊張感を孕んでぼくに観察される。そのまま改札を抜ける。ホームの端までずんずん進む。速度を落としてはいってきた電車にむかって、そのまま線路に飛び込んでいく。身体がホームを離れるとき、斜め後ろでスマホをいじっていた男が不審な動きにぴくっと反応して顔を上げるのを視界の隅で捉える。急ブレーキに金属の擦れ合う甲高い音が鳴り、急接近する鉄の塊、そのライトに視界が白く濁る。車体も、身体も、接触の直前の瞬間に静止して硬直し、駅構内を満たすざわめきもそのときだけは途絶えて、やがて肉体がゴム毬のように跳ねる。脚を揃えた直立不動の体勢で、空中を斜めに飛んでいく。駅を突き抜け、その向こうの、オフィスビルの3階の窓に斜め下から突っ込み、刺さったまま動かない。がらんとした社内で、ひとり作業していた中年女性と視線がかちあう。あら、こんばんは! 脳が透けて、光ってる!! あなた、脳が透けて光ってますよ! お疲れ様! 残業、お疲れ様!! 119。救急車の赤ランプの回転とピーポーピーポーとが渋谷の喧騒にまた色と音とを付け加える。
翌日、午前11時に起床する。ひさびさに午前に起きた気がした。昨日は結局、10時半には帰宅していたのだった。YOUTUBEでゴッドタンをみながら、コンビニで買ったエビスビール一本だけ飲んで、まだ眠くなかったがベッドに入った。案の定寝られなかった。廊下からの光だけ差し込む暗くした部屋のなかで、目が冴えわたっていた。最後に時間を確認したときは4時半をすぎていて、それからやっと眠りに入ったようだった。母親が唐突にアメリカ国籍を取得する夢を見ていた。「お父さんとよく相談して決めたの、知也と孝介は日本人のままでいいのよ、お母さんだけアメリカ人になれればそれで十分なのよ」
降りていくとリビングには誰もいない。母親は、茨城の実家まで祖母に会いに行っているらしい。夕飯までには帰る、とのことだった。弟もいなかった。弟も高校の期末テストの最中なのだった。私立高校なのですこし早めに開始していて、いつまでなのか正確にはわからないが、明日明後日には終わるのだろう。たぶん午前中には起きて、図書館かカフェかで勉強しているはずだった。ぼくはといえばバイトもいったん終了し、春季講習の日程が始まるまでさらに何もない弛緩した日々となることは明らかだったから、とりあえずテレビをつけ、ああ、そっか今日か、とおもってすぐにスイッチを切り、静かにあたためたレトルトの中華丼を、食べていた。自然と目が覚めたのにまだ頭の冴えなさにもやがかかっていたから、これ食べたらまた寝ようかな、とも思った。だが足りなかった。昨日はかなり早い段階で飲み会を抜けたせいで、ほとんど食べていなかったことに気づいた。かけうどんを作ろうとし、ゆで時間を確認するため時計をみて、そこでハッとした。
火を止めた。
自室に戻り、パソコンからエロDVDを取り出してパッケージに入れ、TSUTAYAの袋を持って外へと跳ねた。一週間レンタルで借りたAVの期限が、あと10分に迫っているのだった。返却日は10日までとされていたが、翌日正午まで返却すれば延滞金は取られない。深夜、家を出てポストに投函するつもりだったのを忘れていたのだ。昨夜は、暗闇のなかでらんらんと目が冴えていたのに。脳内の赤いランプが、けたたましい音を鳴らしながら高速回転していた。まだ胃液に消化されきらない中華丼が体内で揺れ、わき腹を痛めつけはじめていたが、3月半ばの陽光に照らされたアスファルトに、足裏を叩き付けた。
 近所のTSUTAYAは駅の方向と逆方面、女子短期大学と洋服の青山の間にあるのだった。一階には本屋とスターバックスが提携していて、コーヒーを買えば本を持ち込めるシステムになっていたから、時間を問わず繁盛していた。汚すのが嫌で利用したことはなかったが、その上階のCD・DVDコーナーとゲームセンターは中学生の頃から頻繁に利用していた。仮にコーヒーで商品を汚した場合、購入しなければならないとの規約があったが、どこまで実効性があるのかはわからないから、そこで本を買うときには全ページを確認しないといけないのだった。
優雅にコーヒーをすすり文庫本を開く彼らを横目に、エスカレーターでCDコーナーに到着し、自動ドアを左手でこじ開けるような仕草で店内に立ち入る。祈る気持ちで腕時計を見る。もうだめだ、とあきらめた。12時まであと22秒。だめだ、と明確に言葉に浮かべて負の余裕を自分の中で立ち上げようとするのに、レジ待ちの最後尾に並びに行く足取りはまだ急いていた。
 対応する店員2名のうち、ひとりは女性なのだった。最近寝るとき用に格下げされたシャツのまま飛び出してきていたが、そのよれよれの襟首の隙間から、久々に全力疾走した身体の蒸気がむわりと立ち上がり、顎をあたためた。今日というこの日に、息切れし、発汗し、時計を気にして深刻な失望に浸りながら、エロDVDを手に提げている自分を、世界一くだらない存在だと認めた。返却ポストを深夜帯にのみ開けるシステムを採用した店側にも、やがて毒づきはじめていた。だいたい、期限を徒過したことはこちらの落ち度としても、この肉体に縛られる限り逃れられない生理現象を、なぜそんなに恥じらわねばならないのか、わからなかった。これが、「硫黄島からの手紙」なら、恥じる必要はないのか? いや、戦争の悲惨さに想いを巡らせておきながら、DVDの返却期限にすら間に合わないことのほうが、真に恥ずべき怠慢とはいえないか!?
列には前から順にCDを大量に抱えた帽子の男、小さい娘と手をつなぐ母親となっていて、親子は男性のレジへ行ったから順当にいけば男の店員に行けるはずなのだった。この時点で12時を1分すぎていて、数分オーバーぐらいは許容されないか、との考えがよぎったが、それを交渉する胆力は持ち合わせていないし、そもそも店員に裁量の余地はなく、機械的処理がなされるのだろう。迫りくる返却期限への焦燥感の残り香と、返却の店舗を間違えたかで店員ともめているらしい親子への苛立ちで、頭を沸騰させていた。それで結局、女性店員に行く羽目になるのだった。ああ、悪運は連なる、南無三、と解脱した無我の境地で黒い前髪の切り揃った、まつげの長い馬顔の店員に袋を渡した。店員は無表情に、無駄のない動きで袋からDVD入りパッケージを出し、機械にかけて、
「あ」
時間がとまった。
あぁ、これ、パッケージと中身、逆になっちゃってますね、と指摘された。急いでいたから間違えたのだった。走ったせいで滲んでいた汗、それがようやく乾きはじめたところなのにまた脇や額から粘っこい汗が吹き出すのがわかった。おれはいま、犯されている、とおもったが、店員は、笑うか照れるかしてくれればいいのに、極めて事務的に、なんでもないことのように、骨ばった指先でエロDVDを入れ替えていくのだった。惨めだった。ゴミのように扱われた、とおもっていた。腹の底から、やけくそのような、捻れた反骨精神が湧いてでていた。チャンスは一瞬だった。
「ああ、」と店員に向けて、謝罪しようとした。顔はまだ火照っていたが、思いのほかクールな声が出た。「ああ、どうもすいません、『夏だ!水着だ!セックスだ!真夏日の海岸でナンパを敢行したら、開放的になった発情期の女の子たちをラクラクGET!!健康的にこんがり焼けた小麦色の肌をたっぷり堪能させてもらい、おまけにコッソリ撮影させていただいちゃいました。IN江ノ島』と、『「最近セックスレスで……もうダメ、我慢できないの」いつもゴミ出しする姿を通勤前に覗き見ていた隣の巨乳若奥様は実はド淫乱だった!?旦那の出張中に誘惑してみると、アッサリ部屋に招き入れられてアソコはもう濡れ濡れ、それ以来会うたびに肉体関係を求められて今では完全な性玩具です。PART.6』を入れ間違えてましたね、でも、わざとではないんです、返却期限にさっき気付いて、急いでいたものですから。しかし、結果として手間をお掛けしている以上、これも言い訳にすぎませんね。だから、今度から『夏だ!水着だ!セックスだ!真夏日の海岸でナンパを敢行したら、開放的になった発情期の女の子たちをラクラクGET!!健康的にこんがり焼けた小麦色の肌をたっぷり堪能させてもらい、おまけにコッソリ撮影させていただいちゃいました。IN江ノ島』と『「最近セックスレスで……もうダメ、我慢できないの」いつもゴミ出しする姿を通勤前に覗き見ていた隣の巨乳若奥様は実はド淫乱だった!?旦那の出張中に誘惑してみると、アッサリ部屋に招き入れられてアソコはもう濡れ濡れ、それ以来会うたびに肉体関係を求められて今では完全な性玩具です。PART.6』を間違えないよう気をつけます、今後はきちんと確認の上エロDVDを返却することを、ここに誓います!」不祥事を起こした企業の謝罪会見に倣って、45度の角度で5秒、頭を下げた。
勝った、勝った。いや勝ってはいないのだが、勝ったと勝手に思っていた。延滞料を支払い、店の外に出て近くの公園を歩きながら、おれはいまなにかに完全勝利した、と思い込み、舞い上がっていた。あのマニュアルに沿って極めてクールな装いをしていた仕事のデキる店員の顔が、いっしゅん個人の顔を剥き出しにし、その先の、真空にまで突き抜けていった。あれは間違いなく、無重力空間に一瞬放り出されていた。全身がげらげらし、それから、いま自分のやるべきことを、完全に了解してしまった。王様も、おれも、おまえも、全員裸だ、と少年のように叫んでいた。高揚感が、毛穴という毛穴から噴きこぼれてきた。革命だ、とおもった。おれはいま、革命を起こそうとしている、とおもっていた。
いったん帰宅し、ゆでるつもりだったうどんを片付けて、一ノ木に電話し、でないとわかると弟にLINEした。「おまえ何時に帰ってくんの?」冷蔵庫の野菜室を探っていたらスマホが震えた。「たぶん15時とかそんくらい。夕飯はふつうにいる」時間はまだ充分にあるのだった。手頃なキュウリを見つけ、手に取った。どうしようか迷ったが、とりあえず自分の部屋に戻り、それをベッドの上に放って、また手ぶらのまま外へ出た。駅前の薬局に行くのだった。自力で見つけ出そうとしたが、わからなかったから丸いフレームメガネをかけた男性店員に熱いまなざしを向けて聞いた。「すいません、ぼく浣腸したいんですけど」無敵状態なので聞けた。
スポイトがたくさん入っていた。箱の裏面をよく読むと、開封前に容器をお湯に浸して40度前後、つまり体温程度に温めておくといいらしい。実践した。生温くなったそれを開封し、トイレに行き、まずウォシュレットで肛門を洗ってから、こうするのが適切なのかわからないが指先で揉み解した。スポイトを肛門にぐぐっと差し込み、このへんかなという感覚よりもう一段階深く食い込ませて、上向きのまま薬液を注入した。「うぉ、、!」便器に腰掛けようとしたら、強烈な便意が大腸を突き抜けた。薬液が少し垂れて右脚を伝っていったから、肛門を絞って直立した。そのまま五分、待つらしいがスマホをリビングに置きっぱなしにしていて腕時計もないから、時間がわからなくなっていた。この状態のまま取りに行くという選択肢が頭をかすめたが、大惨事につながるリスクを考慮し、やめた。どうせやることもないのだから数を数えればいいのだった。300数えた。便器に腰掛け、踏ん張った、いや、踏ん張るまでもなかった。肛門に、瀧が発生した。轟音を立てて汚物の激流がほとばしった。あの小さな穴からこれだけのものが一気にでるのか、と己の肉体のポテンシャルに感激すらしていた。流し、隣のシャワー室にいき、30度くらいのお湯で肛門を洗った。それからしゃがんで、うんちするときのように軽くいきんでそこにシャワーを直接あてがい、位置と、水の勢いを調節していると、ぬるま湯が体内になだれ込むのがわかった。「ひゅおぉ、、!」立ち上がり、そのまま一歩一歩着実にトイレに戻った。大惨事も想定したが、シャワー室を汚物のにおいで充満させるのは賢明ではないと判断したのだった。また便器に腰掛け、今度は思い切りいきんだ。汚れたぬるま湯が、ちょろちょろと流れ出た。爽快、としか言いようのない気分になっていた。なにかひとつの精神修行を終えたような、清らかな気分に満ち満ちていた。
リビングに戻ると一ノ木から折り返しの着信が来ている。「あ、もしもし」「あ、坂口くん。どうした」「いや、ちょっと聞きたいことあって、公然わいせつ罪ってどんなの?」「へ?」「公然、わいせつ」「え、、いや、あんま勉強したことないけど、基本的に公然てのは、なんだろ、不特定多数人に向けて、みたいな意味だよね」「あー。なるほど」「路上でみだらなことするとか、あとなんだ、ネットで公開とかもそうなんかな。なんで? なんかやらかした?」「いやいや(笑)なんか面白いネットニュースみつけて、ちょっと気になっただけ。さんきゅ」「あぁ。はいよ。ではでは」「ではでは」犯罪として意味づけられてもいないようだ。一ノ木は訝しんでいる様子だったが通話を切った。
14時になっていた。予定より早く弟が帰ってきてもおかしくない、とおもったが、さっきのキュウリを部屋に取りに行き、シャワー室にて、ズボンとボクサーパンツをずり下ろしてお尻だけ剥き出しにして、キュウリを肛門に突っ込んだ。鏡に背を向けて四つん這いになり、まず指先を入れて馴染ませてから、キュウリの先端を押し付けて角度を調節し、ゆっくりかつ大胆に、肛門に挿入していったのだった。振り返ると哀しげな顔が四つん這いの身体からはみ出ていて、その尻からは、緑色の野菜が生えていた。農家のみなさんごめんなさい、という言葉が浮かんだ。雨の日も風の日も丹精込めて育てた作物を、こんなふうにしてごめんなさい。笑いが沸騰した。いったん顔を伏せ、涙腺が氾濫し、呼吸困難になりそうなくらい笑った。その余韻の残る顔でもう一度鏡を振り返って、体勢はそのままに、右手でそっとキュウリを動かし徐々に律動を早めていった。うんこが巻き戻されているみたいな不快感が肛門付近を席巻したが、絵面は完璧だった。おれ、センスある、と陶酔した。完璧だ。すごい、すごい、すばらしい。この醜悪で、お下劣な、どこにも辿り付かない感じこそアートだ、と感じた。この姿を彫刻してほしい、とおもっていた。
すぐ脱ぐ、とわかっていたがズボンと下着を着直して弟の部屋に直行する。引き扉を開けると、思春期の男特有のすえたにおいがむっと鼻につくが、それは自分の部屋も同じはずだった。正面にはブラインドの閉じられた大きな窓があり、その壁に沿ってベッドが配置されている。右側には雑然と教科書の積まれた机とまだ2月のままになっているカレンダー、左には洋服箪笥と本棚、本棚の上には修学旅行のお土産としてあげたシーサーの置物が割れずに残っている。扉を後ろ手に閉じてそのまままっすぐ歩いていき、ベッドに乗り、窓側に顔を向けて、つまり扉側に背を向けて案の定またズボンとボクサーパンツをずり下ろした。洗練された身のこなしで今日、これまでの人生でいちばん持ち主に活用されて悦んでいるであろうお尻を剥き出しにした。ポジションを微調整し、この角度だな、と確信していったん落ち着くと、帰宅した弟の青ざめた顔を思い浮かべ、すこし血の気がひいた。この数時間自分のやってきたことが脳内を駆け巡って、急に鳥肌が立つような、自分が自分でなくなるような感覚に囚われはじめていた。尻を剥き出しにし、キュウリを片手に部屋の位置関係を確認する自分を俯瞰で眺めて、猛烈に張り倒したくなってきていた。どうする、やめるか、とおもった。弱腰になる、というより、もはや中止が既定路線であるかのような急激な冷え方だった。心臓がトクンと跳ねていた。弟から生涯軽蔑されるかもしれない、家族に報告され、最悪の場合、精神科につれていかれるかもしれない、そんなことを恐れているわけではなかった。そういう性癖もないのに、弟の前で、アナルオナニーを公開する。意味がわからなすぎていた。TSUTAYAでの興奮はもはや冷め、自分のこれからやろうとしていることの意味が、急速に、もうぜんぜんわからなくなってきていた。無意味業界に燦然と輝くキラ星のごとくだった。おれは今、存在そのものが無意味すぎる、死んだほうがいい、いや、むしろ死ね、いま死ねすぐ死ねさっさと死ね、と悪罵した。言葉が欲しくなっていた。論理、論理だ、おれに今必要なのは論理だ、とおもった。あかりさん、とおもった。そう、あかりさん、あのひとに別れを告げられておれは絶望の奈落に突き落とされていた、おれは彼女をあんなにも深く、マリアナ海溝よりも深く愛していたというのに! なぜだ! なぜなんだ! ずっと一緒にいるって誓ったのに! 泣いたあの後そう誓わせたのは君なのに! どうして遠くへ行ってしまったんだ! あぁ、苦しい、おれは今とても苦しい! 君がいなくなって、おれはこれからどうすればいいんだ! どうやったら、この苦しみから逃れられるんだ! この窒息しそうな苦しみの正体は、一体なんなんだ! なんだというのだ! そう脳内で絶叫してみていた。だが結局、それは自意識のせいに違いないのだった、もう結論は出していたはずだった。――そう、そうだ自意識、いつか谷本もこれと似たようなことをいっていた、おれはいつだっておれにとって圧倒的に唯一のおれであり続けているのに、世界は、おれを唯一のおれとは認めてくれない、おれの思惑や行動と究極には無関係な立ち位置で漫然と平穏に存在し続ける、あらゆる苦しみの根源がこの自意識とのギャップに由来するものなのだとすれば、おれはもう愛の刹那的麻薬による逃避なんてしたくない、いっそがむしゃらに積極的に、この無慈悲に存続し続ける現実と一体化したい、そこに埋没してしまいたい! だが、どうすればそんなことが可能なのか? 簡単だった。自意識そのものを消滅させればよかった。肉体に幽閉された魂の解放。眠りの世界への永遠の埋没。すなわち死だ。おれは死ぬ。世界にとって唯一無二のおれは今日死ぬ。どんな社会的意味付けも拒絶するお下劣な醜態を人前に晒し侮蔑されることで、おれはおれの高貴なる自意識を今ここで徹底的に抹殺してやるのだ。
そして蘇生する。
そうして愛の幻想から醒めて空っぽになったおれのこの肉体は、お下劣な自己イメージに殺害された自意識の死骸の上で、世界と手を結び陽気な踊りを踊りはじめることだろう――そういう言葉たちを脳内で空転させていた。弟の部屋で、キュウリを片手にお尻を丸出しにするこの肉体に安定感が宿る気もしたが、気休めだった。ほんとうは、ただ内なる衝動の目覚めに突き動かされていた。ふつふつする笑いの予感があった。それが欲しかった。からから、空っぽだった。はじめから、空っぽなのだった。それを認めた。やるしかない、とおもった。時計を見た。弟は、あと30分もすれば帰ってくるはずだった。
 
                             *
 
そして15時よりすこし前、ついに弟が帰宅する。一階から鍵をあけるガチャガチャした音のあとに、「ただいまー」の声がする。家には誰もいないかもしれないが一応のところ形式的に、儀礼的にした、そんなトーンの声だ。弟はいま自分の部屋で革命が起きていることを知らない。当然だ。革命はいつだって唐突に、嵐のように発生して破壊を尽くす、だからこその革命だ。そのまま階段をのぼってくる音がする。肛門につっこんだキュウリの速度が自然とはやくなる、男根の怒張はないが、精神が、頭が、血の泡立つほどに興奮している。きこえる足音が大きくなる。興奮と緊張で荒くなった息が目のまえのシーツを温くする。顔のにやけをとめることができない、やがて階段の音は止み、数秒後、扉が開いて弟の形をした気配が部屋に入るのを背中に感じる。息をのむ音がする。こみ上げる笑いを抑えて真剣な顔で振り返り、ヤァ孝介、おかえりなさい! これが、お兄ちゃんの出した答えだ。どうだ? そう問いかけて弟のひきつった顔を凝視する。硬直し、瞳孔が開き、絶句している。意味わかんねえ、気持ち悪、との言葉が、カサカサの唇からやがて漏れる。
はらわたから、哄笑が弾けた。それが2012年3月11日のことだった。
                                  〈了〉

革命(原稿用紙換算112枚) ©STK-ART

執筆の狙い

日常から非日常への飛躍。ここに投稿するには長いですがなんらかの感想をいただけたら、、と思います。

STK-ART

36.12.68.153

感想と意見

hir

 ほとんど読めていませんが、いろいろな人物が出てくるけどみんな通り過ぎるだけで、物語を引っ張っていく人物がいない印象です。
 道しるべなしでは、飛躍する前に歩くのがつらくなります。

2017-04-11 19:59

210.148.62.125

さかあ

“非日常への飛躍”と狙いにあり、冒頭の中年男の謎めいた言動も相俟って、てっきりシュールレアリスムの方向にいくのかなと思ったらひたすら日常が続いていくので、それには正直肩すかしを食らいました。

日常のディテールはユーモアなども含んでいておもしろい所もあるのですが、ちょっとくどいかなと。人多過ぎ、寄り道し過ぎ、ところでこのお話そんな分量必要だったの? というところです。

読後にはっきり思い出せる登場人物たちが少ない点も気になりました(人多過ぎということも影響しているかと)。あかりさん、谷本、一ノ木くらいでしょうか。それでも印象に残りづらいです。特に男性陣の個性が一辺倒じゃないかと。

このお話の本筋ってなんだろうと考えると「あかりさんとの失恋を克服するため、自意識の消滅を図る坂口」ということになるのかなと思いますが(かなり乱暴な纏め方で申し訳ないです)、どうも「あかりさん〜」と「自意識〜」両者の筋が話全体としてうまく絡まっていなくて分断してしまっている気がします。(これは寄り道多過ぎというのとは別だと思います)私の考えなのですが、作者さんはそれを自覚しているからこそ、ラストで緊急縫合に入ったのではないかなと。しかしちょっと時遅しというか、無理矢理じゃないかなと思いました。

いろいろと勝手なことを書きましたが、話に引き込まれて最後まで読んだことはたしかです。ではでは

2017-04-11 21:37

49.97.109.99

STK-ART

hir様

お読みいただきありがとうございました。

>いろいろな人物が出てくるけどみんな通り過ぎるだけで、物語を引っ張っていく人物がいない
>道しるべなしでは、飛躍する前に歩くのがつらくなります。

なるほど、、、
自分としては、谷本とあかりさん(の思い出)を軸として展開していくつもりだったんですが、どうも人物をうまく印象付けることができなかったようで、完全に力不足ですね。
また、飛躍する前の、もやもやした退屈な日常をなんとかユーモアでカバーしながら描こうとしてみたんですが、これもカバー仕切れなかったとのことで、反省、、。

有意義な感想をありがとうございました。

2017-04-11 22:54

60.73.208.120

STK-ART

さかあ様

お読みいただきありがとうございました。

>男性陣の個性が一辺倒

言われてみるとほんとにそうですね。自分と同じような男しか描けてない笑。

>「あかりさん〜」と「自意識〜」両者の筋が話全体としてうまく絡まっていなくて分断

これもおっしゃる通りで、「辛い目にあった人間が人前であえて恥ずかしいことして社会的自殺をする」というコンセプトで書いたものの、書きながら別の裏テーマも浮かんでしまって、それらが有機的に絡まないままラストに突入してしまったという形です。小説書くのってめっちゃ難しいですね。

とても有意義な感想でした。ありがとうございました。

2017-04-11 23:09

60.73.208.120

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