作家でごはん!鍛練場

『冒 頭』

ものをかくひと著

 冒頭としては、どうでしょう。

         冒   頭

                  ものをかくひと

 腕時計を見ると夜の九時を過ぎていた。会社構内にトレーラーを止める。田崎敬一郎は運転席から降りると、缶のコーラを飲みながら近寄ってきたのは、弟の誠だった。夏のせいか汗の酸っぱい匂いがする。喉を上下させながら一気飲みしていた。目もとにくまができて瞼が半分さがっている。頬骨が目立っている。
「おい、途中、仮眠とってるか、目が死んでるぞ」
「疲れすぎて眠れん、暑いしよぉ」そう言いながら誠が、兄貴、これ飲め、と缶コーラを差しだしてくれた。「冷たいぞ」
「おう、すまんな」
 コーラの缶に滴が浮いている。指先が痛いくらい冷たい。炭酸が喉を通るとき、こめかみが痛いくらいだ。
「兄貴、最近、疲れて」
 タオルで汗を拭いながら誠が言った。オイルで黒く汚れた白いつなぎ服を着ている。
「会社に言って、休ませてもらえ」
「そうだな」痩せて頬が窪んだ誠が頷く。散髪にいく金がないと言って頭を坊主にしていた。
「金、貯まったら、運転手なんてやめて楽な仕事に転職しようや、また同じところで働こう、誠」そう言ったとき、誠の顔が歪んでいるのが見てとれた。誠の手から缶コーラが落ちた。震えながら胸を両手で押さえている。両膝をつき顔を地面に擦りつけ前屈みに倒れている。痛みに堪えるような苦しいうめき声が聞こえる。
「おい、どうした。誠」地面に仰向けになって胸を掻き毟り眉間に皺を寄せて唸る姿に、どぎまぎした。いったい、どうしたんだ、誠。顔は石膏みたいに白くなっている。誠の両手があれだけ掻き毟っていた胸から離れ、大の字になり動かなくなった。静かになった。「おい、誠」両手を地面につき顔の近くで呼ぶ。汗の苦い匂いが鼻につんとくる。誠の額に汗の粒が浮いている。それが大粒になり流れた。
「田崎」背中から声をかけられた。一瞬呼吸がとまる。振り向くと同じドライバーの佐々木だった。肉の塊みたいな太った男だった。ふくれた丸い顔。誠の顔をしゃがんで覗き込み凝視している。「おい、誠、こりゃあ、まずい。心臓だ心臓」佐々木が太い声で叫ぶ。「息ができねえみたいだ」
 佐々木と顔を見合わせる。
 気持ち以上に身体が動いてくれない。左胸ポケットから携帯電話を取り出し、救急車を呼ぶ。
「AEDだ」何とかしないと。「ここにいてくれ俺とってくるから」
「おお、急げ」佐々木が震えながら二度頷いた。
 敬一郎は走って休憩室へと向かう。AEDはドライバー休憩室入り口ドアの横に、縦に長い白い郵便ポストみたいに設置されていた。その上部にあるガラスの扉をひらき、AEDの青い箱を取り出した。腋にそれを抱えて誠のところへ急ぐ。
荷物を積んだトレーラーが八台並んでいた。構内には照明が東と西、南と三台ついているが薄暗い。足がもつれてつまずきそうになった。うろたえているのか、脚がもつれる。
 佐々木が誠のつなぎ服を脱がし、上半身を裸にしている。はやくしないと、危ない。AEDはノートパソコンくらいの大きさだ。箱をあけると自動的に電源が入った。青、黄、赤の四角い小さなボタンがある。
「電極パットはどこにつけるんだっけ」敬一郎は聞く。細い電気コードの先に四角いパットがついている。
「右肩と左わき腹でねえか」佐々木が荒い息でこたえる。
 解析中と、音声が聞こる。何をのんびりしてんだ、この機械は。
「おい、ショックが必要っていったぞ」佐々木が言うと同時に敬一郎はショックボタンを親指で押す。今度はショックが不要とAEDが言い出した。視界がぼやけて頭がゆらゆらした。この機械に不安を抱いた。
「心臓マッサージだ」
 敬一郎が言うと、佐々木が誠の胸に両手のひらを合わせて体重をのせて、何度も押している。佐々木の額から誠の胸に汗が落ちた。
「おい、息してんのか」
 そう言われて敬一郎は、誠の口に耳を近づけてみる。「かすかに、しているような」気持ちばかり急いでよくわからなかった。
 動かぬ誠を見ていると、切ない気持ちで胸が苦しくなった。救急車のサイレンが聞こえる。音が大きくなり鼓膜に刺さる。
 赤色灯を光らせ白い救急車が見えた。佐々木が立ち上がり、大きく両手を振り回し場所を教えている。ゆっくりと目の前に止まった。赤色灯の光が痩せて頬骨が目立つ誠の顔を赤く染める。白いヘルメットと白衣の救急隊員四人が無表情でストレッチャーに誠を乗せて運んでいる。赤色灯の光が暗闇を裂いて会社の壁を赤く染めた。額からの汗が目にはいる。暑い夜のせいばかりではない。白く丸い月の前を黒い雲がゆっくりと泳いでいる。
 連絡先を書いたメモを背の高い救急隊員に渡した。もちろん、敬一郎の携帯番号だ。自宅にいる母に電話をかけられたら、万が一のことを告げられたら、母に心配をかけたくない。自宅だけは避けたかった。胸の前で腕を組んでいる佐々木が深く息を吹いた。救急車は見えなくなった。サイレンの音が小さくなる。蒸気みたいな湿って熱い夏の空気が首に巻きついてくる。

冒 頭 ©ものをかくひと

執筆の狙い

 冒頭としては、どうでしょう。

ものをかくひと

220.156.95.115

感想と意見

青山りか子

 読みました。随分と迫力のある冒頭でしたね!--これから、どうなるのだろう!? と思いました。いいんじゃないですか。いいと思います。ふと思ったのですが、(蛇足かも知れませんが)、文章の最初らへんで、同じ文章があったと思うのですが、余り、近くで、同じ熟語? を、続けない方がいいかとも思いました。以上です。頑張って下さい!

2017-03-19 10:25

124.96.80.102

ものをかくひと

青山りか子さま

お読みいただきありがとうございました。


>余り、近くで、同じ熟語?

どの部分なのか、お教えいただければ幸いです。勉強したいと思います。
読む人のために、書くのが小説ですから。

97枚あります作品の冒頭部分です。

文章を読んで、イメージできたならうれしいです。

ありがとうございました。

読んでくれたことが、何よりうれしいです。

              ものをかくひと

2017-03-19 13:29

220.156.95.115

青山りか子

ものをかくひと様へ
 うーん、すみません。また、御作品をスラーと読んでみたのですが、述語が重なって、不快になるところは、見つかりませんでした。多分、2回目に読んでいるからだと思います。例えば~・・・と触った。・・・と触った。のように、同じ述語が続くと、文章の透明性が、汚されると思うのです、私は。本当に、すみません。97枚も、よく書けますね! 凄くないと言われれば、それまでですが、私は、エッセイストになる夢を、現在諦め中です。では、応援していますね!

2017-03-19 13:48

124.96.80.102

カジ・りん坊

 この冒頭では、ぼくはこの続きを読もうとは思わないと思います。
 なぜなら、ここに書かれているのは『書かれなければならない文章ではなく、ただの回りくどい内容となっている』からです。

『赤色灯を光らせ白い救急車が見えた』が代表的な表現ですが、だいたい救急車って白いと思います。

 この冒頭では何が必要なのか?という所で、例えば『AED』の場面ですが、何ゆえ『AED』の文章を書こうと思ったのでしょうか?
『縦に長い白い郵便ポストみたいに設置されていた』『ガラスの扉をひらき』『AEDはノートパソコンくらいの大きさだ』←こんな事がここで必要だろうか?

 それよりも、初めての『AED』もし間違った使い方をしたら助けるどころか逆に苦しめてしまうような悪い方向に行かないだろうか?という不安になるなどの精神的な追い詰められた感じのほうが必要ではないだろうか?それが文章としてスピード感や緊迫感、先行きの不安要素などにつながるのではないかと思います。

 さらにそういう文章は『AED』の解説よりも、登場人物のキャラ立て(救助についてAEDを使うなどの機転は利くものの、気が小さいというか怖気づきやすいなど)のような物語において必要となりえる文章であると言えるのではないでしょうか?

 今のままだと、この『AED』のくだりは必要性をまったく感じません。感じないどころか、この物書きは『こういう文章を書いているので、97枚なんてあっという間だろうな』と思うだけです。

  赤色灯を光らせ白い救急車が見えた。佐々木が立ち上がり、大きく両手を振り回し場所を教えている。ゆっくりと目の前に止まった。赤色灯の光が痩せて頬骨が目立つ誠の顔を赤く染める。白いヘルメットと白衣の救急隊員四人が無表情でストレッチャーに誠を乗せて運んでいる。赤色灯の光が暗闇を裂いて会社の壁を赤く染めた。額からの汗が目にはいる。暑い夜のせいばかりではない。白く丸い月の前を黒い雲がゆっくりと泳いでいる。←この『赤色灯の光が暗闇を裂いて会社の壁を赤く染めた』もここに必要かどうか?赤色灯が〇〇を染めたでお腹いっぱいになりそうです。

2017-03-19 15:42

112.137.227.226

アフリカ

拝読しました。

>冒頭としては、どうでしょう。

●ハードボイルドな端的で簡素な文章と台詞。その辺嫌いじゃないし、どちらと言うと好きなんですよね。その分、スピード感と勢いは出しやすいと思うし、乗り込ませてしまった後の自由度は透明感を求める文章と比べると格段に書きやすい(誘導しやすい)と思うんです。
ただ……御作の語りにイマイチ乗りきれなかったのは多分。視点が少し、なんだか僅かに、いや、間違いとは言い切れないのですが僕にはなんだか不思議な感覚にさせられたのです。カメラで追い掛けているシーンに違和感と言うか……多分、「俺」とか「私」の視点の方がシックリ来たような気がするです。
ハードボイルドな物語って、俺が追い詰められて追い詰められて窮鼠猫噛みたいな展開がヒリヒリとして手に汗握る感覚になるのかな?って僕は勝手に感じたりするから……
だからと言って、三人称が間違いか?と問われると一人称で正解となる筈も無くて完全に僕の勝手な感覚ですけど……

それと、もう1つだけ……
引きとしては弱い気がしました。一瞬眺めただけで興味を惹かれるのはやっぱり本能的な部分に訴える必要があるのかな?なんて……
例えばですが、共感や優しさ温かさは染み込むような渓流の風景のようにゆったりしたテンポの方がより良く浸透する筈だし、恐怖や驚愕なら勢いのある激流の落差が必要だと勝手に感じてるんですよね。そして、御作の場合は先に出したようにハードボイルドな勢いのある文体を利用しているのですから読み手の想像を少しでも越える勢いが必要なのかな?と……

冒頭の引きか……
僕も冒頭とか結末の練習しなければ!と感じさせられました。

あっ、それとゴハンでは100枚程度だったらペロッと読んで感想をくれる方が沢山いらっしゃるので遠慮なく出された方が鍛練になると思います。

ありがとうございました

2017-03-20 11:04

49.104.16.254

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