作家でごはん!鍛練場

『侵入者』

サカモト著

見た夢を題材にして書いてみました。

忌憚なきご意見をお待ちしております。

 真夜中、人の話し声で目がさめた。声は学生寮の僕の部屋の外の駐車場からだった。夏の涼しい日で全開にしていた窓からはよく声が通った。薄いカーテン一枚であまり中をのぞかれないようにしてはいたが、学生寮の駐車場からは表に抜ける道が一本あるだけで、したがってほとんど男子学生しか通らないために特に気にしたことはなかった。同じ学校の男たちに部屋の中を覗かれたところで、どうということもない。別に変なポスターを貼っているわけでもひどく汚れているわけでもない。夜中ずっとクーラーをつけていると電気代が大変なことになってしまうためで、そうしている学生はおおかった。特別暑い日には誰かの部屋に集まって、クーラーで涼しくした部屋で雑魚寝をすることもあった。
 比較的涼しいとはいえ、夏の夜であり、びっしょりと寝汗をかいて、汗は冷えてきていたが体は熱をもっていた。暗い中、勝手知ったる6畳間を這い、冷蔵庫から水を取り出し、ペットボトルのままごくごく飲むと、のどと体全体が喜びを感じたような気持ちになった。もう一度布団に戻って眠ろうとするが、うまく寝付けない。外の声はどうやら近づいているようだった。
 話し声は女2人で、学生寮の住人の安眠を進んで支えようという気持ちはまったくないようだ。時計を見ると、時間は3時15分とある。もう一眠りといきたいところだ。明日(というか今日)の1限目には必修科目がある。僕は睡眠欲を呼び起こすために虚無になろうと勤める。虚無とは具体的になんだろうとは考えない。考えてしまえばせっかくつかみつつある眠気を手放してしまうこととなる。恋人がいるから浮気をしないのと同じように。睡眠を愛し、ほかのものは無視すること。そうすることにより、睡眠は少しづつこちら側に近づいてくる。お堅い女の子が心を開いていくみたいに。そして僕は彼女に飛び込み中へ入りたい。眠りの中へ。彼女の内側の世界へ。
 しかし外の声はどんどん近づいてくる。想像の彼女とは違い実体があり、物理的影響力がある。女たちは学生寮の窓ガラスを全部叩き割って廻ってもいいのだ。でも、目的があるからそれをしない。声は僕の部屋のすぐ外にまで迫ってきた。ここに来て女たちはようやく声を抑え、ひそひそしゃべるようになった。実際の僕との距離は2、3メートルほどなので、この暗く静かな世界ではひそひそしゃべってもあまり意味はない。
 「ねえ、本当に大丈夫なの?」「平気よ、いつもやってるの。あのバス停からだと、この学生寮を通り抜けたほうがずっと早いんだから。」そしてそっと僕の部屋の網戸を空ける。(確かにこの部屋の窓には鉄柵がついていたり、囲いやベランダがあるわけではない、入ろうと思えば窓から入るのは難しくない。腰くらいの高さの窓を乗り越えればいいだけだ)。網戸はまるで氷の上をすべるようにして開き、ほとんど音を立てなかった。僕は布団の上に横たわり、薄目で様子をうかがう。駐車場に照明はなく、月明かりと、こんな時間にも起きている住人の部屋から漏れている光がたよりで、ぼんやりとしか女たちの姿を捉えることができなかった。一人は暗い色のスーツ、もう一人は白いブラウスにベージュか何かのチノパン。たぶん二人とも20代だろう。スーツの女は忍者のようにするりと部屋の中にはいり、チノパンの女に入ってくるように促した。いったい誰がいつ僕の部屋に入る許可を与えたのか問いただしたかったが、寝たふりを続けた。別に部屋を通りぬけられるくらいかまわない。
 チノパンの女もスーツの女ほどスムーズではないにせよ、すばやく窓を越え、水中にいるみたいに静かに着地した。まさかとは思うけど、二人は本当に忍者なのかとも思ったけれど、すぐにそうでないことがわかった。入ってすぐに出て行って、目的を果たそうとしないし、部屋を見回して例のひそひそ声で話をしているのだけど、もちろん内容は僕にもすべてはっきり聞き取れた。そして床につんである本の山を崩した音が聞こえた。チノパンの女が本を元に戻している間に、スーツの女は僕が寝ているすぐそばまで来て、何も言わずにたっていた。僕は必死になって、よく眠っているふりをした。
 スーツはチノパンに、どうしたの?と声をかけられるまで、そのままだった。「よく眠ってる」スーツの女が言う。僕は早く立ち去ってほしいと願い続けているのだが、そうはならない。チノパンも近寄ってきて僕の顔を覗き込む。閉じた目に窓から差し込むわずかな月光もさえぎられ、真っ暗になる。「幸せそうな顔、うらやましい。いや、憎たらしいのかな」スーツはかすかな笑い声をあげる。「まあ、これからが大変じゃない?最近就職も厳しいらしいし。」「私たちの時はまだよかったほうなのよね、これでも。」「学生時代に戻りたいって思うこともあるな。もう少し勉強すればよかったとも思うし。戻りたくないと思うときもあるんだけど。」「過去に戻ってもあんまり変わらないんじゃないかって気がする。また同じ人生を繰り返すのは勘弁だなぁ。」少しの間、沈黙が流れる。風が吹き、涼しい風が入り込む。その間僕たちの誰も、少しも動かなかった。
 二人は静かに布団のそばに屈み、手探りで僕の股間を探り当てる。「こうしてやろう。」なにか行動を起こす気配がした。その瞬間、僕の睾丸は強く握られ、爪が食い込んできた。痛みで声も出ず、息が止まった。目からは涙がしぶきのように飛び出した。女たちは部屋のドアを開けて立ち去ろうとしている。僕はなんとか肺に入れた一息で「ふざけるな」と怒りの声をあげた。女たちはすでに部屋をでて、ばたばたと走り去っていた。開け放たれたままのドア枠にしがみつくようになんとか倒れ掛かる。僕は逃げる女たちの背中に向けて怒鳴った。「お前たちの目は節穴なんだからな。」。

侵入者 ©サカモト

執筆の狙い

見た夢を題材にして書いてみました。

忌憚なきご意見をお待ちしております。

サカモト

202.220.239.133

感想と意見

日乃万里永

 拝読いたしました。

 夢はいつも不思議ですね。

 御作の場合は、女たちが霊の存在にも思え、夢か現実か、どちらにも捉えらえて面白かったです。

 本当は心霊現象だったり……。
 それはちょっと怖いですね。
 でも所詮生きている人間のほうが強いといいますし、御作も「ふざけるな」のひと言で追い払っているので、強気でいるのが一番ですね。

 と、ほぼ心霊現象と断定してしまってすみません。

 興味深いお話でした。
 読ませていただきまして、ありがとうございました。

 
 

2017-03-17 08:43

220.211.135.58

サカモト

日乃万里永様

感想ありがとうございます。

自分ではこの作品を心霊現象ととらえたことがなかったので、別の視点から作品を見直すきっかけになりました。
やはり人に作品を読んでもらうことは良い作品を生み出すためにはいい方法ですね。

また投稿した際には是非ご一読ください。手厳しいご意見でも歓迎します。

2017-03-20 12:37

27.93.160.222

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です(テクニカルサポート)。

:
:
:
3,000字以内