作家でごはん!鍛練場

『静寂の滸(性的描写があります)』

はにわ著

初の性的描写を含む恋愛小説です。
エロス以外に何かを感じて頂けたら幸いです。

久美子が蒲郡の海に物足りなさを感じたのは、波がないせいだった。
湖の様な穏やかな水面は霧に覆われ、薄曇りの空と一体になっていた。
オレンジ色の太陽は夕陽に変わり始め、水墨画の様な風景を柔らかく照らしていた。

その夜泊まる宿の女将は二人を部屋まで案内しながらビアードの瓢箪の様な形の荷物を見て、私は大正琴を弾くのだが、お天気で音色が変わるのだと話し始めた。弦は湿度に影響されるのですね、明日は名古屋でお仕事ですか、と訊ねたが、彼がええまあ、とだけしか答えなかったので、そうですか、とだけ返しバルコニーに有る露天風呂の使い方の説明をした。
二人で一泊するには十分な広さの和室は南面が壁もドアも透明なガラスがはめられており、部屋の中からも海や空が臨めた。
一通りの説明が終わると女将は煎茶を淹れ菓子を出した。
そして夕食の前に大浴場で温泉に浸かることを薦め、部屋から出て行った。

二人は暫らくテレビや館内の案内が書かれたファイルを見ながらお茶を飲んだ。
「6時になったら食事に行って、夜中にお腹が空いたらラーメンを食べに行こう」
ビアードはそう言うと長い巻き毛を纏め、浴衣に着替え始めた。
久美子は二人だけの秘め事が増える様で真夜中のラーメンが楽しみになった。
そして彼の着替えを手伝い、自分も浴衣に着替えた。

久美子はバルコニーに出て異空間の様に静かな海を眺めた後、丸い湯船の底に栓をしてお湯を張り始めた。
ビアードもバルコニーに出て海を眺めた。そして湯船を見て「金魚鉢の様だ」と笑った。
久美子もなるほどその通りだと思いつられて笑った。そして彼は大きい方の風呂に行ってくるね、と言って部屋を出て行った。

金魚鉢にお湯が溜まるまでは暫く時間がかかりそうだった。
久美子は部屋に戻り冷蔵庫から瓶ビールを一本取り出した。
まだどこか緊張している自分を解放させようとグラスにビールを注ぐと早いピッチで飲み干し、そしてまた注いでは飲み干し、直ぐに一本空けた。

お湯が十分に溜まったのを確認して、久美子は帯を解き浴衣と下着を脱ぐと再びバルコニーに出た。
冷たい外気に急かされささっと掛け湯をして早々に湯船に浸かり、雲を眺めた。
鹿威しの様な竹筒から流れるお湯の音だけが心地良く耳に届いた。

バルコニーには目隠しの為の垣根が付いていたが、景色が楽しめるように目線の高さに隙間が造られていた。
久美子はその隙間から遠くに見える伊良湖岬や幾つかの島を覗いたり、立ち上がって灯台や知多半島を眺めてはまた湯に浸かったりと独り占めの露天風呂を満喫した。

「あなたと一緒にお風呂に入りたい」
旅の始まりは久美子の一言からだった。
「温泉とか、一緒に行ってみたい」
ビアードは二つ返事で「良いねえ。今度行こうか」と言ってくれた。
その数ヶ月後、仕事で三河に訪れる予定が彼にあった為、計画は殊の外早く現実になったのだった。

間も無くビアードが大浴場から戻ってきた。
テレビを観たり、ケータイをチェックしていたが、なかなか湯から上がろうとしない久美子に痺れを切らし、ビアードは様子を見にバルコニーへ出て来た。
「ねぇ入ってるところを写真に撮って」
久美子は部屋にある鏡の前に置いたスマホを指差した。
彼が角度を変えながら3枚撮ったところで湯から上がり画像を見た。
久美子はsnsにアップしようと考えていたが、どれも陰部がうっすらと写っていたので誰にも見せられない秘密の画像となった。

久美子はバスタオルで体を拭き浴衣だけ着ると座椅子に座った。
ビアードは館内案内に大浴場は千人風呂とあったが千人はムリ、と言って笑った。
それから揃いの丹前を羽織ると夕食のために部屋を出た。

本館のフロアには至る所に鎧が飾られていた。
中居が案内した席は壁で仕切られ、隣席とは顔が合わない様になっていた。上座の後ろはガラス張りで三河湾が一望できた。掘り炬燵の上には海鮮中心の会席料理が並んでいた。二人はビールや日本酒を飲みながら、久美子の観たい映画は小さな映画館でしか上映されないようだからDVDが先に出るんじゃないか、とか、彼が仕事で会った北欧人はワサビが大好きで、鷲掴みしながら大量のワサビを食べていた話はどれも久美子を楽しませた。
食事の途中、この地の領主だった松平家信に扮した「部長」が鎧を付けた姿で挨拶に来て、この後ロビーで余興がある旨を伝えた。
2本目の徳利が空いたところで早々に浅蜊の炊き込みご飯とデザートを食べ終えた。
窓から見える海はすっかり闇に消え、沖に浮かぶ漁船の灯りだけが見えた。

部屋に戻ると座卓は部屋の隅に寄せられ、布団が二組敷かれていた。
掛け布団には葵の御紋が大きく染め抜かれ立派に見えた。
「こっちも入ろうかな」
ビアードが窓際から金魚鉢の湯船を見て言った。
久美子はバルコニーに出ると湯船の栓を抜き、ぬるくなったお湯を捨てながら熱いお湯を足し、湯加減を調節した。
程良い温度になったところでビアードは浴衣を脱ぐと湯船に浸かった。
久美子も浴衣を脱いで後を追い、ビアードの脚の上に座る様に中へ入った。
右手を彼の肩に掛け、左手でもう一方の肩に湯をかけながら、ぬるくはないかと尋ねた。
ビアードは大丈夫、と言って久美子の唇に唇を重ねた。
久美子の舌は無意識のうちに彼の舌を求め、絡め合うに連れ力が抜け、全身が溶けていく様な感覚に包まれた。
ビアードは右手で久美子の陰部をなでた。
指が恥部に滑り込み、久美子は意識が遠退いてゆく様だった。
久美子は少し腰を浮かせ、ビアードの陰部に手を伸ばした。硬くなった彼の陰茎を握ったり撫でたりしながら甘い接吻を愉しんだ。
指は久美子の体の深く敏感なところで動き続けた。久美子の息は次第に荒くなり、恥部は溢れる蜜壺の様になった。
「布団に行こう」
ビアードの一言で目を開くと久美子は少しフラつきながら部屋に戻り体を拭いた。

今夜の二人には十分に時間があった。
ビアードが全裸のまま布団にうつ伏せたので、久美子はマッサージを始めた。
彼の足の先から徐々に上へと指を這わせた。
ビアードが仰向けになると、久美子は愛しい人にようやく逢えたかの様に彼の陰茎を両手で包み唇を寄せた。
口淫を堪能すると久美子は彼に跨った。

二人でひとしきり快感を貪り、一度目の射精をするとビアードはゆっくりと体を離し横たわったまま腕枕で久美子を抱いて眠りに落ちた。

露天風呂付きの温泉宿に恋人と泊まるのが久美子の夢だった。
それを叶えてくれたのがずっと前から憧れ、常に一段高いところにいる人だった。
もしも人生の終わりを自分で自由に決められるのならば、今この瞬間がいい。
ビアードの腕の中に身を委ね、無に近い意識の中で久美子はそう感じていた。

ー続くー

静寂の滸(性的描写があります) ©はにわ

執筆の狙い

初の性的描写を含む恋愛小説です。
エロス以外に何かを感じて頂けたら幸いです。

はにわ

153.193.78.222

感想と意見

明日香

読ませていただきました。

温泉宿の風情が細かく描写されており、とてもリアルです。

文末がほぼ、『~た。』なので気になりました。
現状ではなく、過去形による所感に思えてしまいます。
が、あえての文末なのか、私には判断できません。

エロスは自分比ですが、軽めでした。
呼吸や筋肉の動き、汗や視線、感情、快楽の描写を含むとエロスが増すのでおススメです。
誰かが言ってました。性的描写はプ○レスだそうです。
この作品は、女性向けかな?と思いました。

>>食事の途中、この地の領主だった松平家信に扮した「部長」が鎧を付けた姿で挨拶に来て、この後ロビーで余興がある旨を伝えた。
この一文に『あれ?社員旅行だったっけ?』と勘違いしました。
旅館の部長なのか、他の客人なのか分かりません。

読ませていただき、ありがとうございました。

2017-03-15 17:00

153.186.14.60

はにわ

明日香様

拙作にご意見頂き、感謝いたします。
大変参考になりました。
もっとエロスを感じて頂けるよう、次回は描写等をもっと考えます。
「部長」の部分は自分でも如何なものかと思っていた箇所でした。
ご一読頂き、本当にありがとうございました。

2017-03-15 23:32

153.193.78.222

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