作家でごはん!鍛練場

『Have and Have-nuts』

なかよし著

歳をとることへの恐怖

貧困は僕にとって必ずしも忌むべきものではなかった。なぜなら、太陽と海とは決して金では買えなかったから。
類い希な才能を持ちながらも認められることのない人々。彼ら、彼女らは人類の進歩と発展に寄与しながらも誰からの賛辞も与えられることはない。その才能が光を輝き始め、公器の存在になったとたん獣たちは餌に群がり始める。餌を食い散らかした後、砂浜に残るのはだらしなく口を開けた貝殻だけだ。旅行鞄に詰め込んだ荷物が役に立つかどうかわかるのは帰った時だけだ。その街の匂いが僕の皮膚に染みつき、街の空気に僕の体熱が溶けていく。僕を覆っていた垢が街と混ざり合い、僕は透明人間になる。いなくなった僕は、違う僕を探して旅に出てくれるだろうか。深夜の工場で働き出してから、太陽も金で買えるんだということを教わった。きっと海もそうだろう。金では買えない物を求め続けた僕に残った物は手のひらに僅かに残る程度の傲慢な心しかなかった。酔狂な人がそれに値を付け、僕は応えた。ふと見るとその人は周囲の人々から次々に買い上げていた。停泊する船に乗り込んだ男が袋をぶちまけるとゆっくりと船は動き出した。僕らの羨望に男は哄笑で応えた。自業自得だという声が聞こえた。船は水面に映った月を切り裂くように進む。齢を重ねた記憶は不確かでおぼろげな霧に包まれている。どこまでが記憶でどこからが夢なのか、あるいは全てが想像力のまやかしなのか。疑うことと信じ続けることのどちらを選択すべきか迷っていた。あるいは迷うことを楽しんでいたのかもしれない。それであるなら、私の人生は楽しいものだったといえるのかもしれない。

Have and Have-nuts ©なかよし

執筆の狙い

歳をとることへの恐怖

なかよし

106.139.1.133

感想と意見

アフリカ

拝読しました


【旅行鞄に詰め込んだ荷物が役に立つかどうかわかるのは帰った時だけだ。】等、とても興味を惹かれる表現が多数出ていて唸りました。
ただ、卓越したセンスであるが故に。と、言うか完全な僻みなのですが、この言い回しはどこかで見たことがある。みたいな勝手な思い込みで楽しんでいるクセに全く逆の事を出してみたくなってしまいました。
短いのに考えさせられる内容も好きでした。
真似たくなる語り口。
色々参考になりました。

ありがとうございました

2017-03-16 17:39

49.104.43.202

なかよし

アフリカさんは優しいね

2017-03-17 23:46

106.139.15.215

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