・一人称と三人称

にゅう

 三人称で小説を書きたいのですが、うまく表現できません。
 初めは一人称で書いていたのですが、話の展開上どうしても主人公以外の視点で書かなくてはいけなくなり、三人称で書き直しているところです。
 夢枕獏さんのように一人称と三人称を場面ごとに使い分けて書ければいいのですが、自分の技量ではとてもとてもできません。
 どのようにすれば三人称をうまく使うことができるでしょうか?


皐月

 私も最初は一人称が得意だったのですが、ある程度書いているうちに三人称を書くこともある程度出来るようになってきました。
 三人称は基本的に物語や登場人物を客観視する「語り手」という人物を創造することが必要になってくるわけです。つまり、物語を筆記して記録する名もない登場人物を創造するわけです。
 もしくは単純に作者が主人公たちの側で物語を見ているように、物語をつづるような感覚で書いても良いかも知れません。
 ただ、一人称っぽい三人称もありだと思います。
 にゅうさんは一人称が得意ということなので、今まで一人称で書いていた「私」や「僕」を登場人物の名前に変えるだけで、三人称になります。では、どこで視点をチェンジさせていくかというと、節や章のように物語の切れ目……つまり、キリの良いところで別の登場人物に変えてしまって、また一人称のように書いていくわけです。
 この手法なら、一人称の感覚で三人称を書けますし、登場人物の視点で物語世界を見ていることもできます。ただ文体はある程度統一させる必要はありますが。
 自分を客観的に見るために三人称的な一人称もありますし、読者を登場人物に感情移入させるために一人称的な三人称もありますし、それは作者の好みや自分の作品が要求する人称に合わせて書けばよろしいかと思います。


八重樫

人称って、作品のデザイン、全体の雰囲気を鮮明にイメージしてから決めると間違いないというか、効果的に選択できると思います。
語り手の体温とか、語り口のリズムを活かしたいなら一人称。
クールで、ハードボイルドふうなら三人称とか。
でも、人称とは別に、主人公と作者との距離の取り方も大切。
一人称の場合は、むしろ「私」と作者との距離を大きくとると成功しやすいと思います。
描きたいのは私ではなく、他の登場人物とか。
この問題は深いので、書いている以上は常につきまとう問題です、きっと。


川中 涼

 質問には、「主人公以外の視点」と書いてあるだけなので、これが「主人公以外の人物の視点」なのか、「いわゆる神の視点」なのかは分かりません。
 ただ、自分も3人称よりも1人称の方が得意な方なので、「3人称が難しい」という意見はとてもよく分かります。なので、そういう時に自分がやっている対策手法をちょっと紹介していきます。

 それは、その「主人公以外の視点」を書きたい所の前後を工夫して、そこを独立した1場面にし、そこだけ一時的に視点を変えちゃうという手法です。プロの方の例では過去、あるミステリー小説で読者に心理トリックを仕掛けるために、それを利用している作家さんを見たことがあります。

 やりすぎるとややっこしくなって読みづらくなりますが、1回、2回でしかも飛ぶ人物が同じ場合なら大丈夫です。また、同じ要領で3人称に飛ばすのもありです。自分は、プロローグとエピローグだけ、人称を変えたりする事はよくやります。各章の冒頭だけを飛ばして、主人公と作中の重要人物との心理描写を書き分けたりして同時に物語を進めていくのも、結構いけるんじゃないか、と個人的には思ったりもしてます。

 要は、きちんとメリハリのついた文章であればいいってことじゃないでしょうか?僕はそう考えていますが。


黒猫

 一人称と三人称を混ぜるという手法もあるでしょうけど、どちらかと言うと少数派になる特殊な手法であり、それを採用することで小説の出来が良くなる可能性よりも大した効果が期待できない可能性が高いだけに、なにかよほどの狙いや自信があるのでない限り使わない方が良いと思います。
 特に、一人称なら一人称、三人称なら三人称で、作品を一本どんな場面でもきっちり統一して書き上げるぐらいのコントロールが効かない間は、決して良い結果は残せないだろうと考えられます。

 今回は、一人称で統一できないまま迷っているご様子なので、もちろん一人称と三人称を混ぜる手法は避けたほうが良いだろうと予想できます。

 ではどうするかということになりますが、可能ならば一人称のまま統一することを目標に、がんばって構成を見直したり場面展開を調整したりといった工夫をして自力で解決すれば、かなりの力がつくだろうと思います。

 ですが、三人称に変更するのならば、とても楽です。
「私は**した」という記述を、ぜんぶ片端から「彼は**した」に書き換えていけば良いのです。
 ほかに主語を省略して「**と思った」のような部分もあるでしょうけど、それは「彼は」という主語をつけるか、あるいは「彼は」という主語を省略した部分だと解釈してそのまま変更をくわ
えないことで、解決します。
 もちろん、それでオッケーということはなく、もともと一人称で書いてきたものを修正しただけなので、表現として不自然なものや視点の位置が明らかにわかりにくくなっている部分を、直して
ゆく推敲作業が最後に必要になります。

 前者の方法のほうが実力につながると思います。後者のほうが楽ではありますから、締め切りが迫っているとか、とにかく形にしたいアイデアがあるとか、そういった状況ならばおすすめできます。


フジツカ

アドバイスというか、忠告なんですけど。
三人称をやり始たばかりって、
よく、誰を見せてるのか? どこを見せてるのか?
が混乱することが多いと思うんですよね。
友達のとか自分のとか読み返してみると、
ほんとにそういうことが多くて自分でも笑っちゃいます。
三人称って、視点の切り替えが楽ですけど、その分、読み手側が混乱しやすいんですよね。
小説にだってカメラアングルはあるんですから、どこを見せているのか、どう視点が移り変わっているのか、をよく考えて書かないと、後で読み返してみて大変なことになっていた、なんてことになるかもしれませんよ。


八重樫

ある推理作家から聞いた話。
三人称の二人の視点で構成。1章ごと、交互に二人の視点を入れ替えながら展開するのが、現在のエンタテイメントの主流らしいです。
単視点ですと、どうしても飽きられやすい傾向があるとか。
推理の場合、長いですからねえ。
それと、一人称小説は、初心の場合は、語り口に酔いしれたり、筆が滑ってしまう傾向が強いのではないでしょうか。
それが、自分って書けるなあと勘違いする原因になったりして。
もちろん、最初から一人称の語りで成功する人もいるでしょうが。
それと、一人称にすると、自分を客観視しにくいという欠点もあります。
できるかぎり、自分から離れる方が、作品の完成度は上がりやすいのではないでしょうか。
多くの優れた作家は、一人称でも、三人称でも、巧いです。
いろいろ、チャレンジされた方がいいと思います。
トライ・アンド・エラーでいい。それと大切なことは、よきアドバイザーを持つことです。


一砂

三人称。
これを聞いて、ずっと前に学校で出たテストを思い出します。
小説を読んで問いに答えるものだったのですが、そのなかで「この語りはどのような視点で書いているか」というような問題があったんです。

選択問題だったんですけど、
1、主人公とともに動き、主人公の行動に同意している。
2、主人公とともに動き、主人公の行動に否定的である。
3、主人公とは別に動いている。
4、語りが独自の意思を持っている。
と確かこんな感じだったと思います(何で覚えていたかというと、この問いを間違ったから)。

――で、何をいいたいのかというと。
語りがどんなポジションにいるかをはっきりさせるということでしょう。
私の場合、よく語りが登場人物の動きに突っ込みをいれてたりします(笑)
まずは書いてみることですね、きっと。


黒猫

 ふと思ったのですが。

 一人称なら一人称、三人称なら三人称にするとき、その物語にその人称を選んだ理由というのが、あるはずです。

 怖いのは、一般に一人称のほうが良いと言われているから、とか、三人称のほうが書きやすいと紹介されたから、といった理由で選ぶ場合ではないでしょうか。一人称には一人称のメリットとデメリットがあり、三人称には三人称のメリットとデメリットがあります。
 書こうとしている物語にふさわしい人称を、よく考えて選んでほしいと思います。その人称を選んだことによって、どんな効果が期待できるのか。

 どの人称が一番良い、なんていう一般論みたいなものは存在しません。たぶん。
 だから、物語に合わせて、そのつど考えて、選んでください。

 思うに、その人称を選んだ理由がないから、書いている途中で別の人称に変更したくなるのではないでしょうか。

 たとえば、ツッコミではなく考え方の提案なのですが。

>三人称の二人の視点で構成。1章ごと、交互に二人の視点を入れ替えながら
>展開するのが、現在のエンタテイメントの主流らしいです。

これは、三人称を選ぶことで、二人の視点を交互に入れ替えながら展開するという現在のエンタテイメントの主流が可能になる、のではなくて。

二人の視点を交互に入れ替えるという「読者を飽きさせない工夫」が現在のエンタテイメントでは流行しているので、これを実行するために三人称を採用するのが一番効率的である、と考えるんです。

目的と手段を取り違えてはいけません。


近所一 一

 参考になるか分りませんが……
 自分もシナリオを書いていた時は一人称をよく用いていたのですが、章ごとにキャラ視点を変えるシナリオなんかも書いたことがありました。この場合は、『章をキッカケ』にしてキャラの視点が入れ替わっています。
 五行目まで一人称だったのに、六行目から三人称とかだとおかしくなります。例えばプロローグだけ一人称【ヒロイン】にして、一章に入ると同時に主人公視点に切り替えるか、または三人称にするのもありだと思うんです。

>三人称の使い方
 私的な見解なので何とも言えませんが、語り口調で淡白になりすぎないようにすること――そのためには、キャラ心情や情景をうまく伝えて体言止めの手法なんかも、用途に応じて使っていった方が読者は読みやすくなるんじゃないかと思います。
 巧みになるにつれ三人称だったら一人称に近く、一人称だったら三人称に近い表現。市販で売られてる小説は、そんな感じを受けます。


美晴

 私もどちらかといえば一人称の方が得意なのですが、なるべく三人称で書きます。私の書く話は舞台転換が多いので、一人称だと書きにくいところがあるからです。
 しかし、三人称で書いていても、ここは主人公の気持ちを強調したい、って思うときありますよね。
 そんな時、私はカッコでくくったり、会話の間に入れたりしています。
 こうすると読みにくいと思うかもしれませんが、意外にそうでもありません。会話の流れに沿っていれば、何の印もなくても自然に読めます。
 あるいは、キャラが一人しか出ていない場面、不安や葛藤をあらわすときなどに入れたりします。こうすると、よりリアルに感情を伝えることができます。
 でも、やりすぎは禁物です。あまり長すぎると、それが心の中で思っているのか、実際に話しているのかわからなくなります。
 そういう点に注意してすれば、別に混ぜても大丈夫だと思いますよ。



ナマズ

三人称で小説を書く際に地の文で人物の心中を明らかにしちゃうやり方は自由間接話法というらしいです。知らずに使っていましたけど。


ながみね

自由間接話法はちょっと難しいテクニックですね。
作者側の意図より、読者側のモチベーションを優先しないと上手く行きません。

読者が「こいつ何考えているんだろう?」と思った時に一人称に移行し、「そういえば他の連中は何してる?」と考えた時に三人称にするわけで、その判断が一致すると非常にリズム良く進むんですが、外すと悲惨です。

ただ、読者に読んで欲しい事ではなく、読者が読みたいと感じている事を綴りつつ、作者が書きたい事を書いて話を進める事ができれば効果は大です。


東 千鶴

 私の場合、三人称だと主人公とそれを取り巻くサイドキャラクターの境界線が曖昧になるのですが、一人称だとストーリーのテンポが悪くなるのでなんとか主人公を浮き彫り(?)にしてるんです。
 そういったふうに、自分の癖や個性に応じてつかいかたや微妙な視点の位置を変えていくのが良いと思います。

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