どんぶり先生の原稿作法


台詞


ごはんちゃん:「先生はきびしいなあ。」
どんぶり先生:「まだまだ教えることがあるぞ」

 あえて注意しないでおいたが、実はさっき
からごはんのセリフは、全部書き方が間違っ
ている。どこが間違っているかというと、句
点の打ち方だね。
 「人が悪いですね先生。早く注意してくれ
れば良かったのに。」
 それだ。その最後の句点は余計なんだ。か
ぎかっこの閉じる方には、句点が持っている
「ここが文の切れ目です」ということを示す
意味もあるんだ。だから、句点と繋げてしま
うと、区切りが二つも重なることになる。だ
から、かぎかっこが閉じる前には、句点はつ
けなくてもいい。
 「じゃあ、これでいいんですか」
 そうだ。そうなんだけど、まだ、ごはんは
間違っているな。
 「え、どこですか?」
 最初の一マスだ。セリフの場合には、新し
い行の頭だとしても、一マス空ける必要はな
いんだ。
「ここは詰めていいんですね」
 そういうこと。
「でも、昔の小説を読んだら、セリフのかぎ
かっこの前でも、一マス空けていましたよ」
 それはな、昔はそれが一般的だった、とい
うだけだ。逆に言うと、現在ではセリフのか
ぎかっこの前には一マス空けないのが一般的
だということだ。
「なるほど」
 ちなみに言うと、セリフは必ず新しい段落
から始めなければならない、という決まりは
ない。翻訳物の小説などにはよくあるのだが、
こういう使い方もある。
「それは違う」と彼は言った。「あの時、彼 女を連れていったのは僕じゃない」  俺にはそれが信じられなかった。だから俺 は彼にナイフを見せて、「嘘をつくとために ならないぜ」と言ってやった。彼は震え上が った。
 と、こんな具合だ。これは、こういう使い 方もあるというくらいに考えてほしい。別に これが高級な使い方だということではない。  原則的には、セリフは一つで一段落、と思 っている方がいいだろう。それに飽き足らな くなったら、また別の書き方を試すようにす ればいい。  あと、セリフで注意すべきなのは、誰がど のセリフを喋っているのかをわかりやすくす ることだ。二人しか人物がいないならまだし も、三人以上の人物が入り乱れてセリフだけ を延々と続けるのは、読者を混乱させるだけ だから避けなければいけない。 「それはぼくのバナナだよ」 「いや、違うよぼくのだよ」 「やめろよケンカは」 「君は黙っててくれ」 「これが君のバナナだっていう証拠はない」 「おいおい、君のだって証拠もないよ」 「バナナくらいで、ばかばかしいよ」 「たかがバナナ、されどバナナだ」 「よしてくれ、もう、うんざりだ」  こっちだってうんざりだ。

ごはんちゃん:「先生、オチてません」
どんぶり先生:「うるさいな、別にオチをつけようとしたんじゃない」
ごはんちゃん:「なんだ、そうなんですか」
どんぶり先生:「とにかく、セリフの書き方は分かったか、ごはん」
ごはんちゃん:「はい、もうばっちりです。でも……」
どんぶり先生:「なんだ、どうした」
ごはんちゃん:「どういうセリフを書けばいいのか分かりません」
どんぶり先生:「それは、原稿の書き方とは別問題だな」
ごはんちゃん:「教えてくださいよ、けち」
どんぶり先生:「……今、なんて言った?」
ごはんちゃん:「いえ、別に。それより先生、次は何を教えてくれるんですか?」
どんぶり先生:「調子の良いやつだ……」
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