どんぶり先生の原稿作法


原稿用紙

いつも『作家でごはん!』を見守っていてくれる、縁の下の力持ち“ごはんちゃん”。来てくれるみんなの頑張りを眺めているうちに、ごはんちゃんは、自分でも小説を書いてみよう、と思い立ちました。『作家でごはん!』にいるくせに、ごはんちゃんは今まで小説を書いたことがなかったのです。
「ようし、僕だって」
ごはんちゃんは、短くてもいいから、小説を書いてみようと頑張り始めました。出来上がったら、鍛練場に投稿しようかななんて考えています。
ところがぎっちょん。
原稿用紙を前にうんうん唸っても、パソコンのディスプレイとにらめっこしても、ぜんぜん書けません。それもそのはず、ごはんちゃんは、実は原稿の書き方なんて、何一つ知らなかったのです。何しろ、どこにタイトルを書けばいいのかとか、かぎかっこの使い方とかの、文章を書くためのルールも知らないのですから、書けるはずはなかったのです。
困ったごはんちゃんは、物知りの“どんぶり先生”に原稿の書き方を教えてもらいにいきました。


ごはんちゃん:「先生、原稿の書き方を教えてください。」
どんぶり先生:「なんだねごはんちゃん、いきなり」
ごはんちゃん:「僕、小説が書きたいんです。」
どんぶり先生:「ほほう、良い心がけだな。よろしい、それでは教えてあげよう。何が知りたい?」
ごはんちゃん:「というか、何も知りません。」
どんぶり先生:「……ま、まあいい。それなら、最も基本的なところから教えていくことにしよう……」

『最初にはタイトルを書こう』
               次に名前。

         何行か間を空けて

 段落の最初は一マス空けて書き始めなけれ
ばいけない。段落というのは、知っていると
思うが、行を変えてから改めて書き始めるま
での、一連の文章のことを言う。今のこの文
章は一段落目だ。
 ここからが二段落目になる。
 たった一行でも段落になる。だからここは
もう三段落目だ。
 原稿は普通、一行が二十文字で書かれる。
そして二十行で一枚と呼ぶ。これは、文房具
屋さんで売っている原稿用紙と同じだね。パ
ソコンやワープロで書いていても、原稿用紙
のレイアウトは、だいたいの場合、一般の原
稿用紙に準拠するんだ。
 さて、この行のおしまいを見てくれるかな。
どうだね、今までの行と違って、二十一文字
目まであるだろう。『。』は句点と言って、
一つの文章の切れ目を指すと言うことは知っ
ているだろう。これや『、』つまり読点が、
行の一番頭に来てしまう場合には、そうせず
に、前の行のおしりにぶら下げるんだ。これ
は「行頭禁則」といって、日本語で文章を書
く時の基本的なルールだよ。『行の頭に書い
てはいけない文字』というのが予め決まって
いて、それらの文字は行の頭に来ないように
するわけだ。こういう場合に限って、一行は
二十文字を越えてもいいことになっている。
 反対に、行のおしりに来てはいけない文字
も決まっているんだ。そういった場合にも
「行末禁則」といって、一行の文字数を調整
して、その文字がおしりに来ないようにする
んだ。この行から三行前を見てごらん。十九
文字しかないだろう。これは、次の行の頭に
ある『「』、かぎかっこの最初の方が、『行
のおしりに来てはいけない文字』になってい
るから、次の行の頭に追い出しているからな
んだ。
 代表的な『行頭禁則文字』は、句読点や、
かっこのたぐいの閉じる方(、。」』》”)
や、長音を示す記号だ。長音というのは「ワー
プロ」のように音を伸ばす際に使われる記号
(ー)のことだ。「オンビキ」と呼ぶことも
あるね。
 代表的な『行末禁則文字』は、かっこのた
ぐいの始まりの方(「『《“)だ。
 パソコンやワープロで書く場合には、使っ
ている機械やソフトの方で勝手に禁則処理を
してくれることが多いから、禁則処理にはあ
まり気を配らなくてもいいんだが、だからっ
て、知らなくてもいいということじゃない。
ちゃんと覚えておきなさい、ごはん。
 おっと、忘れるところだった。インターネ
ットで公開されている小説に、この行の頭の
ような「ッ」とか「ョ」とかの小さな文字つ
まり拗音とか促音の文字を、行頭禁則のよう
に扱ってしまっているのを見かけるな。これ
は実は間違いだ。拗音や促音は、行の頭に来
ても問題ない。
 出版された本の中には、これらを禁則処理
してあるものも見かけるんだが、それは出版
社が独自のルールとして行っているだけで、
日本語としてのルールではない。原稿として
書いている段階では、禁則処理をしないでお
く方がいいと私は思うね。
 禁則でもう一つ。「々」などの繰り返し記
号も行頭には来ない。この処理には二つあっ
て、行末にぶら下げてやるか、あるいは、日
日、といった具合に記号の使用をやめるかだ。
実例

○  今日のごはんは炊きたてのササニシキだよ。
× 今日のごはんは、炊きたてのササニシキだよ 。
○  お前の好きなものを作ったよ。ビーフシチ ューだよ。
×  お前の好きなものを作ったよ。ビーフシチュー だよ。
×  お前の好きなものを作ったよ。ビーフシ チューだよ。

ごはんちゃん:「難しいです、先生。」
どんぶり先生:「これは基本だぞ。中学生だって知ってることをおさらいしただけじゃないか」
ごはんちゃん:「僕はごはんですから学校に行きませんでした。」
どんぶり先生:「……まあいい。それじゃあ、ここで覚えなさい」
ごはんちゃん:「僕の頭は炊きたてごはんだから、ものを覚えるのは得意じゃないんです。」
どんぶり先生:「じゃあ冷えてから覚えなさい」
ごはんちゃん:「佃煮みたいに乗せておくことにします。そのうち染み込んでくれますから。」
どんぶり先生:「……それじゃあ次に進むぞ」
ごはんちゃん:「冗談ですよ先生、怒らないでください。」
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